半単純環(semisimple ring)とは、環 $R$ 自身が左 $R$ 加群として極小左イデアル(単純加群)の和、したがって直和になる環のことである。これは、すべての左 $R$ 加群が単純加群の直和に分かれること、すべての左イデアルが直和因子であること、$R$ が左 Artin環で Jacobson根基が $0$ であることのそれぞれと同値である。Wedderburn–Artin の定理により、半単純環は斜体上の行列環の有限個(0 個を含む)の直積と同型であり、可換な半単純環は有限個の体の直積である。有限群 $G$ の体 $k$ 上の群環 $k[G]$ は、$k$ の標数が $G$ の位数を割らないときに限り半単純である(Maschke の定理)。$k[x]/(x^2)$ や $\mathbb{Z}$ は半単純環でない。
前提知識: 環, 加群, 左イデアル, 直和, Jacobson根基, Artin環
本記事では、環は結合的で乗法の単位元 $1$ をもつが、可換とは限らないものとし、零環も許す。加群は単位元が恒等的に作用する左加群とする(加群 の記事の定義「左加群と右加群」)。環 $R$ 自身を左乗法によって左 $R$ 加群とみたものを ${}_RR$ と書く。${}_RR$ の部分加群は $R$ の左イデアルにほかならない。
単純な部分加群の和は、そのうちの一部の直和に書き直せる(lem-semisimple-ring-complement)。したがって、半単純加群は単純加群の直和と同型な加群であると言ってもよい。
環 $R$ が半単純環(semisimple ring)であるとは、左 $R$ 加群 ${}_RR$ が半単純であること、すなわち $R$ が、$0$ 以外に真の部分左イデアルをもたない $0$ でない左イデアル(極小左イデアル)の和であることをいう。
この定義は左加群を使っているが、右加群で同じ条件を課しても同じ環のクラスが得られる(rem-semisimple-ring-wedderburn)。そこで単に半単純環という。零環は空の和なので半単純環である。半単純環は半単純 Artin環(semisimple Artinian ring)とも呼ばれる。これは、半単純環が左 Artin環 で Jacobson根基 が $0$ の環と一致すること(thm-semisimple-ring-artinian)による。
Jacobson根基が $0$ の環(Artin 性を課さない)を Jacobson 半単純、または半原始的(semiprimitive)という。文献によってはこれを単に「半単純」と呼ぶので注意する(Lam01 Chapter 2, §4)。本記事の半単純環は Jacobson 半単純であるが、逆は成り立たない(ex-semisimple-ring-integers)。
半単純環は、線形代数がそのまま通用する環である。体 $K$ 上のベクトル空間では、どの部分空間にも補空間があり、どのベクトル空間も 1 次元の空間の直和に分かれる。半単純環上の加群も同じで、どの部分加群も直和因子であり、どの加群も単純加群の直和に分かれる(thm-semisimple-ring-characterization)。
半単純環そのものの形は完全に分かっている。斜体(可除環)$D$ 上の行列環 $M_n(D)$ の有限個の直積が半単純環のすべてである(thm-semisimple-ring-wedderburn)。可換な場合は、有限個の体の直積になる(prop-semisimple-ring-commutative)。
半単純でない環の典型は、$k[x]/(x^2)$ のように $0$ でない冪零元をもつ環である。$\bar x$ が生成する左イデアルは補うものがなく、直和因子にならない。環の「半単純でない部分」を測るのが Jacobson根基であり、左 Artin環では Jacobson根基で割ると半単純環が残る。有限群の群環では、係数体の標数が群の位数を割るかどうかで半単純性が決まる(thm-semisimple-ring-maschke)。これが有限群の表現論が標数 $0$ で特に扱いやすい理由である。
有限群 $G$ と体 $k$ について、群環 $k[G]$ は $k$ の標数が $G$ の群の位数を割らなければ半単純環である(thm-semisimple-ring-maschke)。たとえば $\mathbb{C}[G]$ や $\mathbb{Q}[G]$ はつねに半単純環である。$G$ が位数 $2$ の巡回群 $\{1,g\}$ なら、$\mathbb{C}[G]\to\mathbb{C}\times\mathbb{C}$、$a+bg\mapsto(a+b,a-b)$ は環の同型である(逆写像は $(u,v)\mapsto\tfrac{u+v}2+\tfrac{u-v}2g$)。
体 $k$ 上の $R=k[x]/(x^2)$ は半単純環でない。$R$ のイデアルは $k[x]$ の $(x^2)$ を含むイデアル $(1),(x),(x^2)$ に対応するので、$0$、$(\bar x)=k\bar x$、$R$ の 3 つだけである。$(\bar x)$ が直和因子なら $R=(\bar x)\oplus L$ となるイデアル $L$ があるが、$\dim_kL=1$ となるイデアルは $(\bar x)$ だけなので $L=(\bar x)$ となり、$(\bar x)\cap L=0$ に反する。$R$ は $k$ 上 $2$ 次元なので Artin環である(満たす性質)が、Jacobson根基は唯一の極大イデアル $(\bar x)$ で $0$ でない(満たさない性質)。この例は thm-semisimple-ring-artinian の仮定「Jacobson根基が $0$」が省けないことを示す。位数 $2$ の群 $G$ の $\mathbb{F}_2$ 上の群環 $\mathbb{F}_2[G]$ は、$g\mapsto1+\bar x$ によって $\mathbb{F}_2[x]/(x^2)$ と同型であり($(1+\bar x)^2=1$)、やはり半単純環でない。
$\mathbb{Z}$ の Jacobson根基は、すべての素数 $p$ についての $p\mathbb{Z}$ の共通部分なので $0$ である(満たす性質)。しかし $\mathbb{Z}$ は半単純環でない。$\mathbb{Z}$ の $0$ でないイデアル $n\mathbb{Z}$ は真の部分イデアル $2n\mathbb{Z}$ をもつので極小イデアルがなく、$\mathbb{Z}\neq0$ は極小イデアルの和にならない。$\mathbb{Z}$ はイデアルの減少列 $2\mathbb{Z}\supsetneq4\mathbb{Z}\supsetneq8\mathbb{Z}\supsetneq\cdots$ が止まらないので Artin環でない(満たさない性質)。この例は、thm-semisimple-ring-artinian の仮定「左 Artin」を外した含意「Jacobson根基が $0$ なら半単純」を破る。
$R=\prod_{i\in\mathbb{N}}\mathbb{F}_2$ とする。第 $i$ 成分への射影の核 $\mathfrak{m}_i$ は極大イデアルで、$\bigcap_i\mathfrak{m}_i=0$ なので $R$ の Jacobson根基は $0$ であり、$R$ は冪零元 $0$ しかもたない。しかし $R$ は半単純環でない。有限個の成分を除いて $0$ である元のなすイデアル $I=\bigoplus_{i\in\mathbb{N}}\mathbb{F}_2$ が直和因子なら、lem-semisimple-ring-idempotent により $I=Re$($e\in I$)と書けるが、$Re$ の元は $e$ の $0$ でない成分の外では $0$ なので、$0$ でない成分が $e$ より多い $I$ の元は $Re$ に入らず、矛盾する。$R$ は Artin環でもない($\mathfrak{m}_0\supsetneq\mathfrak{m}_0\cap\mathfrak{m}_1\supsetneq\cdots$)。この例は「有限個の体の直積」の「有限個」が外せないことを示す。
$p$ を素数、$G$ を位数が $p$ で割り切れる有限群、$k$ を標数 $p$ の体とすると、$k[G]$ は半単純環でない(thm-semisimple-ring-maschke の後半)。ex-semisimple-ring-dual-numbers の $\mathbb{F}_2[G]$ はその最小の例である。
部分加群の族 $(N_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の和 $\sum_\lambda N_\lambda$ が直和であるとは、和の各元が有限個の $N_\lambda$ の元の和としてただ一通りに書けること、すなわち $n_{\lambda_1}+\cdots+n_{\lambda_k}=0$($\lambda_j$ は相異なり $n_{\lambda_j}\in N_{\lambda_j}$)なら $n_{\lambda_1}=\cdots=n_{\lambda_k}=0$ となることをいい、$\bigoplus_\lambda N_\lambda$ と書く。部分加群 $N\subset M$ が直和因子であるとは、$M=N\oplus N'$ となる部分加群 $N'$ があることをいう。
左 $R$ 加群 $M$ が単純な部分加群の族 $(S_i)_{i\in I}$ の和であるとし、$N$ を $M$ の部分加群とする。
1:部分集合 $J\subset I$ で、和 $N+\sum_{j\in J}S_j$ が直和 $N\oplus\bigoplus_{j\in J}S_j$ となるもの全体を $\mathcal{F}$ とし、包含で順序を入れる。$\emptyset\in\mathcal{F}$ である。$\mathcal{F}$ の全順序部分集合の合併 $J_0$ も $\mathcal{F}$ に属する。実際、直和であることは有限個の元についての条件であり、$N$ と $S_j$($j\in J_0$)の元の自明でない関係式に現れる有限個の添字は、全順序部分集合のある 1 つの元に含まれてしまう。Zornの補題により $\mathcal{F}$ の極大元 $J$ がある。$M':=N\oplus\bigoplus_{j\in J}S_j$ とおく。$i\in I$ について、$S_i\cap M'$ は単純加群 $S_i$ の部分加群なので $0$ か $S_i$ である。$0$ なら、$M'+S_i$ は直和 $M'\oplus S_i$ であり($m'+s=0$、$m'\in M'$、$s\in S_i$ なら $s=-m'\in S_i\cap M'=0$)、$J\cup\{i\}\in\mathcal{F}$ となって $J$ の極大性に反する($i\notin J$ である。$i\in J$ なら $S_i\subset M'$)。よってすべての $i$ で $S_i\subset M'$ であり、$M=\sum_iS_i\subset M'$、すなわち $M=M'$ である。
2:全射準同型 $\pi\colon M\to Q$ について $Q=\sum_i\pi(S_i)$ であり、$\pi|_{S_i}$ の核は $S_i$ の部分加群なので $0$ か $S_i$ である。したがって $\pi(S_i)$ は $S_i$ と同型な単純加群か $0$ であり、$Q$ は単純な部分加群の和である。部分加群 $N$ については、1 により $M=N\oplus C$($C:=\bigoplus_{j\in J}S_j$)なので、射影 $M\to N$ は全射であり、$N$ は $M$ の商と同型である。よって $N$ も半単純である。$\square$
左 $R$ 加群 $M$ が $n$ 個の単純加群の直和 $M=S_1\oplus\cdots\oplus S_n$ であるとする。$M$ の部分加群の増加列 $N_0\subset N_1\subset\cdots\subset N_k$ において、包含 $N_{l-1}\subset N_l$ が真であるような $l$ の個数は $n$ 以下である。とくに、$M$ の部分加群の真の増加列と真の減少列の長さはどちらも $n$ 以下であり、$M$ は部分加群の昇鎖条件と降鎖条件を満たす。
$n$ についての帰納法で示す。$n=0$ なら $M=0$ で真の包含はない。$n\ge1$ とし、$M':=S_1\oplus\cdots\oplus S_{n-1}$、$\pi\colon M\to S_n$ を射影とする。$N_{l-1}\subsetneq N_l$ なら、$N_{l-1}\cap M'\subsetneq N_l\cap M'$ または $\pi(N_{l-1})\subsetneq\pi(N_l)$ である。実際、両方が等号なら、$y\in N_l$ について $\pi(y)=\pi(x)$ となる $x\in N_{l-1}$ があり、$y-x\in N_l\cap M'=N_{l-1}\cap M'$ なので $y\in N_{l-1}$ となる。帰納法の仮定により $N_{l-1}\cap M'\subsetneq N_l\cap M'$ となる $l$ は $n-1$ 個以下であり、$\pi(N_l)$ は単純加群 $S_n$ の部分加群なので $0$ か $S_n$ で、真に増えるのは高々 1 回である。よって真の包含は $n$ 個以下である。減少列は番号を逆にすれば増加列になる。$\square$
環 $R$ の左イデアル $I$ が ${}_RR$ の直和因子で、$R=I\oplus L$ とする。$1=e+f$($e\in I$、$f\in L$)と書くと、$e^2=e$ であり、$I=Re$ である。
$x\in I$ について $x=x\cdot1=xe+xf$ であり、$xe\in I$、$xf\in L$ である($I,L$ は左イデアル)。$x=x+0$ も $I\oplus L$ での分解なので、分解の一意性から $xe=x$、$xf=0$ である。とくに $x=e$ として $e^2=e$ であり、$I=\{xe\mid x\in I\}\subset Re\subset I$ なので $I=Re$ である。$\square$
環 $R$ について、次の 4 条件は同値である。
1 ⇒ 2:左 $R$ 加群 $M$ について、$M$ の元で添字づけた ${}_RR$ の直和 $F:=R^{(M)}$ から $M$ への準同型 $(r_m)_m\mapsto\sum_mr_mm$ は全射である。$R$ は極小左イデアルの和なので、$F$ はその各成分の極小左イデアルの和、すなわち単純な部分加群の和である。lem-semisimple-ring-complement の 2 により商 $M$ は半単純である。
2 ⇒ 3:lem-semisimple-ring-complement の 1 による。
3 ⇒ 4:$M={}_RR$ とすればよい。
4 ⇒ 1:$R$ のすべての極小左イデアルの和を $S$ とする。4 により $R=S\oplus L$ となる左イデアル $L$ がある。$L\neq0$ と仮定し、$0$ でない $x\in L$ をとる。$\operatorname{Ann}(x):=\{r\in R\mid rx=0\}$ は左イデアルで、$1\notin\operatorname{Ann}(x)$ である。$\operatorname{Ann}(x)$ を含む真の左イデアルの全順序部分集合の合併は $1$ を含まない左イデアルなので、Zornの補題により $\operatorname{Ann}(x)$ を含む極大左イデアル $\mathfrak{m}$ がある。$r\mapsto rx$ は同型 $R/\operatorname{Ann}(x)\cong Rx$ を与え、$N:=\mathfrak{m}x$ は $Rx$ の部分加群で $Rx/N\cong R/\mathfrak{m}$ は単純加群である(部分加群の対応による)。4 により $R=N\oplus N'$ となる左イデアル $N'$ がある。$y\in Rx$ を $y=n+n'$($n\in N$、$n'\in N'$)と分解すると、$N\subset Rx$ なので $n'=y-n\in Rx$ であり、$Rx=N\oplus(N'\cap Rx)$ となる。よって $N'\cap Rx\cong Rx/N$ は単純であり、$L$ に含まれる極小左イデアルである。これは $S\cap L=0$ に反する。したがって $L=0$、$R=S$ であり、$R$ は半単純環である。$\square$
3 は、すべての短完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ が分裂することと言い換えられる。したがって $R$ が半単純環であることは、すべての左 $R$ 加群が射影加群であること、またすべての左 $R$ 加群が入射加群であることとも同値である(Lam01 Chapter 1, §2)。
環 $R$ が左 Artin環であるとは、左イデアルの任意の減少列 $I_1\supset I_2\supset\cdots$ がいつか止まることをいう(可換環では Artin環 の記事の定義と一致する)。左 Noether環も左イデアルの増加列で同様に定める。環 $R$ のJacobson根基 $J(R)$ を、$R$ のすべての極大左イデアルの共通部分と定める($R=0$ なら極大左イデアルはなく、$J(R)=R=0$ である)。可換環では、これは Jacobson根基 の記事の $\operatorname{Jac}(R)$ と一致する。非可換環でも $J(R)$ は両側イデアルになり、極大右イデアルの共通部分とも一致する(Lam01 Chapter 2, §4)が、本記事ではこの事実を使わない。
$R$ を半単純環とする。
1:lem-semisimple-ring-complement の 1 により $R=\bigoplus_{i\in I}L_i$($L_i$ は極小左イデアル)と書ける。$1=\sum_{j\in I_0}e_j$($I_0\subset I$ は有限集合、$e_j\in L_j$)と書くと、任意の $r\in R$ について $r=r\cdot1=\sum_{j\in I_0}re_j\in\bigoplus_{j\in I_0}L_j$ である。$i\notin I_0$ なら $L_i\subset\bigoplus_{j\in I_0}L_j$ と直和であることから $L_i=0$ となるが、$L_i$ は単純なので $0$ でない。よって $I=I_0$ は有限である。
2:1 と lem-semisimple-ring-chain による。
3:$\mathfrak{m}_i:=\bigoplus_{j\neq i}L_j$ とおくと、$R/\mathfrak{m}_i\cong L_i$ は単純なので $\mathfrak{m}_i$ は極大左イデアルである。$\bigcap_{i=1}^n\mathfrak{m}_i=0$ なので $J(R)\subset\bigcap_i\mathfrak{m}_i=0$ である($n=0$ なら $R=0$ で $J(R)=0$)。$\square$
環 $R$ が半単純環であることと、$R$ が左 Artin環で $J(R)=0$ であることは同値である。
半単純環が左 Artin環で $J(R)=0$ であることは prop-semisimple-ring-finite である。逆に $R$ を左 Artin環で $J(R)=0$ とする。$R=0$ なら半単純である。$R\neq0$ とし、極大左イデアル $\mathfrak{m}_1$ をとる。$\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_k\neq0$ である限り、$J(R)=0$ なのでこの共通部分を含まない極大左イデアル $\mathfrak{m}_{k+1}$ があり、$\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_{k+1}\subsetneq\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_k$ となる。左 Artin環ではこの真の減少列は無限に続かないので、ある $k$ で $\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_k=0$ となる。左 $R$ 加群の準同型
$$
R\longrightarrow R/\mathfrak{m}_1\oplus\cdots\oplus R/\mathfrak{m}_k,\qquad r\longmapsto(r+\mathfrak{m}_1,\dots,r+\mathfrak{m}_k)
$$
の核は $\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_k=0$ なので、${}_RR$ は右辺の部分加群と同型である。右辺は単純加群 $R/\mathfrak{m}_i$ の直和なので半単純であり、lem-semisimple-ring-complement の 2 によりその部分加群も半単純である。よって $R$ は半単純環である。$\square$
左 Artin環 $R$ について $R/J(R)$ は半単純環であり、$J(R)$ は冪零イデアルである(Lam01 Chapter 2, §4)。可換な Artin環では、これは Artin環 の記事の命題「Jacobson根基は冪零」と、次の prop-semisimple-ring-commutative による $A/\operatorname{Jac}(A)$ の体の直積への分解にあたる。
環 $R$ が半単純環であることと、斜体 $D_1,\dots,D_r$ と正の整数 $n_1,\dots,n_r$($r\ge0$)によって
$$
R\cong M_{n_1}(D_1)\times\cdots\times M_{n_r}(D_r)
$$
と書けることは同値である。このとき $r$ と、順序を除いた組 $(n_i,D_i)$($D_i$ は環の同型を除いて)は $R$ によって一意に定まる。$r$ は単純左 $R$ 加群の同型類の個数に等しい。
「書ける ⇒ 半単純」は ex-semisimple-ring-product の 2 で示した。逆向きと一意性の証明は Lam01 Chapter 1, §3 に譲る(Artin–Wedderburnの定理)。筋は、$R=L_1\oplus\cdots\oplus L_n$ を同型な極小左イデアルごとにまとめ、$\operatorname{End}_R({}_RR)\cong R^{\mathrm{op}}$($R$ の反対環)と Schur の補題(単純加群の自己準同型環は斜体)から $R^{\mathrm{op}}$ を斜体上の行列環の直積として計算するものである。$M_n(D)$ の反対環は $M_n(D^{\mathrm{op}})$ と同型(転置による)で、$D^{\mathrm{op}}$ も斜体なので、この定理から、$R$ が左加群について半単純であることと右加群について半単純であることは同値になる。各因子 $M_{n_i}(D_i)$ は零でない真の両側イデアルをもたない単純環である。単純環であっても左 Artin環でなければ、prop-semisimple-ring-finite の 2 により半単純環でない。$D_i$ が体 $k$ 上有限次元で中心が $k$ のとき、$M_{n_i}(D_i)$ は $k$ 上の中心単純環である。
可換環 $A$ が半単純環であることと、有限個の体の直積 $K_1\times\cdots\times K_r$($r\ge0$)と同型であることは同値である。
体の有限直積が半単純環であることは ex-semisimple-ring-product の 2 である。逆に $A$ を可換な半単純環とする。thm-semisimple-ring-artinian により $A$ は Artin環で $\operatorname{Jac}(A)=0$ である。Artin環 の記事の命題「極大イデアルは有限個」により、$A$ の極大イデアルは有限個 $\mathfrak{m}_1,\dots,\mathfrak{m}_r$ であり、$\mathfrak{m}_1\cap\cdots\cap\mathfrak{m}_r=\operatorname{Jac}(A)=0$ である。相異なる極大イデアルは互いに素($\mathfrak{m}_i+\mathfrak{m}_j=A$)なので、中国剰余定理により $A\cong A/\mathfrak{m}_1\times\cdots\times A/\mathfrak{m}_r$ であり、各 $A/\mathfrak{m}_i$ は体である。$A=0$ なら $r=0$ で空の直積(零環)である。$\square$
体の直積 $K_1\times\cdots\times K_r$ は冪零元 $0$ しかもたない(成分ごとに冪零なら $0$)。したがって可換な半単純環は被約環である。
有限群 $G$ と体 $k$ に対し、群環 $k[G]$ を、$G$ の元を基底とする $k$ ベクトル空間 $\bigoplus_{g\in G}kg$ に、$G$ の積を双線形に延ばした積 $\bigl(\sum_ga_gg\bigr)\bigl(\sum_hb_hh\bigr):=\sum_{g,h}a_gb_h\,gh$ を入れた環とする。単位元は $G$ の単位元 $1$ である。左 $k[G]$ 加群は、$G$ が $k$ 線形に作用する $k$ ベクトル空間、すなわち $G$ の $k$ 上の群の表現と同じものである。
$G$ を有限群、$k$ を体とする。群環 $k[G]$ が半単純環であることと、$k$ の標数が $|G|$ を割らないこと(すなわち $k$ において $|G|\cdot1\neq0$ であること)は同値である。
$R:=k[G]$、$n:=|G|$ とする。
標数が $n$ を割らない場合:thm-semisimple-ring-characterization の 4 ⇒ 1 により、$R$ の任意の左イデアル $I$ が直和因子であることを示せばよい。$I$ は $R$ の $k$ 部分空間なので、$k$ 線形写像 $p\colon R\to I$ で $I$ 上で恒等写像になるものがある($I$ の基底を $R$ の基底に延長し、延ばした基底ベクトルを $0$ に送る。$R$ は有限次元)。$n$ は $k$ で可逆なので
$$
q(x):=\frac1n\sum_{g\in G}g\,p(g^{-1}x)\qquad(x\in R)
$$
とおける。$q$ は $k$ 線形で、$I$ は左イデアルなので $q(R)\subset I$ である。$x\in I$ なら $g^{-1}x\in I$ なので $p(g^{-1}x)=g^{-1}x$ となり、$q(x)=\frac1n\sum_gx=x$ である。$h\in G$ について、$g=hg'$ と置き換えると
$$
q(hx)=\frac1n\sum_{g\in G}g\,p(g^{-1}hx)=\frac1n\sum_{g'\in G}hg'\,p(g'^{-1}x)=h\,q(x)
$$
なので、$q$ は $k$ 線形性と合わせて左 $R$ 加群の準同型である。$L:=\ker q$ は左イデアルであり、$x=q(x)+(x-q(x))$、$q(x-q(x))=q(x)-q(x)=0$($q(x)\in I$ なので $q(q(x))=q(x)$)から $R=I+L$、$y\in I\cap L$ なら $y=q(y)=0$ から $I\cap L=0$ である。よって $R=I\oplus L$ である。
標数が $n$ を割る場合:$N:=\sum_{g\in G}g\in R$ とおく。$h\in G$ について $hN=N=Nh$ なので、$I:=kN$ は $R$ の両側イデアルで、$N\neq0$ なので $I\neq0$ である。$N^2=\sum_{h\in G}hN=nN=0$ なので、$I$ の任意の 2 元の積は $0$ である。$R$ が半単純環なら、thm-semisimple-ring-characterization の 4 と lem-semisimple-ring-idempotent により $I=Re$、$e^2=e\in I$ となる $e$ があるが、$e=e^2\in I\cdot I=0$ なので $I=R\cdot0=0$ となり矛盾する。よって $R$ は半単純環でない。$\square$
この定理と証明は Lam01 Chapter 3, §6 にある($k=\mathbb{C}$ の場合は Ser77 §1.3)。$|G|=1$ なら $k[G]=k$ であり、標数によらず半単純である($1$ はどの素数でも割り切れない)。標数 $0$ の体、とくに $\mathbb{C}$ の上では、有限群の表現はすべて既約表現の直和に分かれ、Wedderburn–Artin の定理により $\mathbb{C}[G]\cong M_{n_1}(\mathbb{C})\times\cdots\times M_{n_r}(\mathbb{C})$ となる($\mathbb{C}$ 上有限次元の斜体は $\mathbb{C}$ だけであることによる)。ここで $r$ は既約表現の同型類の個数、$n_i$ はその次元であり、次元を比べて $|G|=n_1^2+\cdots+n_r^2$ を得る(Ser77 §2.4、§6.2)。標数が $|G|$ を割る場合の群環の表現は、モジュラー表現論で扱われる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する