穴あきアフィン平面(punctured affine plane)とは、体 $k$ 上のアフィン平面 $\mathbb{A}^2_k$ から原点を除いた開部分スキーム $U$ であり、2 つの基本開集合 $D(x)$、$D(y)$ で覆われる。原点を除いても正則関数は増えず大域切断の環は $k[x,y]$ のままだが、$U$ はアフィンでない。Mayer–Vietoris 完全列による計算で、$H^1(U,\mathcal{O}_U)$ は $x^iy^j$($i,j<0$)の類を基底とする無限次元ベクトル空間になり、この非消滅もアフィンでない理由になる。準アフィンだがアフィンでないスキームの基本的な例である。
前提知識: アフィンスキーム, 開部分スキーム, 層コホモロジー, 準連接層, Laurent多項式
アフィン平面 $\mathbb{A}^2_k$ から原点を 1 点だけ除いたスキームを穴あきアフィン平面(punctured affine plane)という。原点を除いても正則関数は増えず、大域切断の環は多項式環 $k[x,y]$ のままである。それにもかかわらず、このスキームはアフィンではない。関数では見えない「穴」は、構造層の 1 次の層コホモロジーに現れ、$H^1$ は負の冪の単項式 $x^iy^j$($i,j<0$)が張る無限次元のベクトル空間になる。この記事では、2 つの基本開集合による被覆と Mayer–Vietoris完全列 を使ってこの計算を行い、アフィンでないことの 2 通りの理由と、1 点でなく曲線を除いた場合・直線から 1 点を除いた場合との違いを述べる。穴あきアフィン平面は、準アフィンだがアフィンでないスキームのもっとも基本的な例である。
この記事を通じて $k$ を任意の体(標数は問わない)とし、$A:=k[x,y]$、$X:=\mathbb{A}^2_k=\operatorname{Spec}A$ とおく。$\mathfrak{o}:=(x,y)$ は $A/\mathfrak{o}\cong k$ なので極大イデアルであり、$X$ の閉点(原点)である。
開集合 $U:=X\setminus\{\mathfrak{o}\}$ に $X$ の構造層を制限した開部分スキーム $(U,\mathcal{O}_X|_U)$ を、$k$ 上の穴あきアフィン平面(punctured affine plane)、または原点を除いたアフィン平面という。$\mathcal{O}_U:=\mathcal{O}_X|_U$ と書く。
$k$ が代数閉体なら、Hilbertの零点定理により $X$ の閉点は $k^2$ の点と対応し、$U$ の閉点は $k^2\setminus\{(0,0)\}$ の点に対応する。$U$ の点は原点以外の $X$ の点すべてであり、閉点のほかに、既約曲線の生成点(原点を通る曲線のものも含む)と $X$ の生成点がある。
$U=D(x)\cup D(y)$ であり、$D(x)\cap D(y)=D(xy)$ である。$D(x)$、$D(y)$、$D(xy)$ はそれぞれアフィンスキーム $\operatorname{Spec}A_x$、$\operatorname{Spec}A_y$、$\operatorname{Spec}A_{xy}$ に同型である。
素イデアル $\mathfrak{p}$ が $x$ と $y$ をともに含めば $\mathfrak{o}\subset\mathfrak{p}$ であり、$\mathfrak{o}$ は極大なので $\mathfrak{p}=\mathfrak{o}$ である。よって $\mathfrak{p}\ne\mathfrak{o}$ であることは、$x\notin\mathfrak{p}$ または $y\notin\mathfrak{p}$ であることと同値であり、$U=D(x)\cup D(y)$ である。素イデアルについて $xy\notin\mathfrak{p}$ は $x\notin\mathfrak{p}$ かつ $y\notin\mathfrak{p}$ と同値なので $D(x)\cap D(y)=D(xy)$ である。最後の主張は アフィンスキーム の記事の命題「基本開集合はアフィン」による。$\square$
$A$ は整域なので、局所化 $A_x$、$A_y$、$A_{xy}$ はすべて商体 $k(x,y)$ の部分環とみなせ、局所化の間の写像は包含になる。$A_{xy}=k[x^{\pm1},y^{\pm1}]$ はLaurent多項式環であり、Laurent 単項式 $x^iy^j$($i,j\in\mathbb{Z}$)を $k$ 上の基底にもつ。その中で
$$
A_x=k[x^{\pm1},y]=\bigoplus_{i\in\mathbb{Z},\ j\ge0}k\,x^iy^j,\qquad A_y=k[x,y^{\pm1}]=\bigoplus_{i\ge0,\ j\in\mathbb{Z}}k\,x^iy^j,\qquad A=\bigoplus_{i\ge0,\ j\ge0}k\,x^iy^j
$$
である。どれも同じ基底の部分集合が張る部分空間なので、和と共通部分は添字の集合の和と共通部分で計算できる。
$k$ を任意の体とし、$U\subset\mathbb{A}^2_k$ を穴あきアフィン平面とする。
prop-punctured-affine-plane-cover の被覆 $U=D(x)\cup D(y)$ に 層コホモロジー の記事の命題「Mayer–Vietoris完全列」を $\mathcal{F}=\mathcal{O}_U$ で使うと、完全列
$$
0\to\Gamma(U,\mathcal{O}_U)\xrightarrow{\ \rho\ }\Gamma(D(x),\mathcal{O})\oplus\Gamma(D(y),\mathcal{O})\xrightarrow{\ \sigma\ }\Gamma(D(xy),\mathcal{O})\to H^1(U,\mathcal{O}_U)\to H^1(D(x),\mathcal{O})\oplus H^1(D(y),\mathcal{O})
$$
が得られる。ここで $\rho(s)=(s|_{D(x)},s|_{D(y)})$、$\sigma(a,b)=b|_{D(xy)}-a|_{D(xy)}$ であり、完全列は $H^0=\Gamma$ から始まる。アフィンスキーム の記事の定理「基本開集合の上の切断」により $\Gamma(D(f),\mathcal{O})=A_f$ であり、制限写像は局所化の写像、すなわち $k(x,y)$ の中の包含である。$\mathcal{O}$ の $D(x)\cong\operatorname{Spec}A_x$ への制限はアフィンスキームの構造層なので準連接層であり、準連接層 の記事の系「アフィンスキーム上の 1 次コホモロジーの消滅」により $H^1(D(x),\mathcal{O})=H^1(D(y),\mathcal{O})=0$ である。したがって
$$
0\to\Gamma(U,\mathcal{O}_U)\xrightarrow{\ \rho\ }A_x\oplus A_y\xrightarrow{\ \sigma\ }A_{xy}\to H^1(U,\mathcal{O}_U)\to0,\qquad\sigma(a,b)=b-a
$$
は完全である。
2:$\sigma$ の像は $A_x+A_y$ なので $H^1(U,\mathcal{O}_U)\cong A_{xy}/(A_x+A_y)$ である。上の基底の記述により、$A_x+A_y$ は「$j\ge0$ または $i\ge0$」をみたす $x^iy^j$ で張られる。したがって商は、残りの $x^iy^j$($i\le-1$ かつ $j\le-1$)の類を基底にもつ。この添字の集合は無限集合である。
1:$\ker\sigma=\{(a,a)\mid a\in A_x\cap A_y\}$ であり、$A_x\cap A_y$ は「$j\ge0$ かつ $i\ge0$」をみたす $x^iy^j$ で張られるので $A$ に等しい。合成 $\rho\circ r\colon A\to A_x\oplus A_y$ は、制限の推移性により $a\mapsto(a,a)$ であり、$A$ から $\ker\sigma=\operatorname{im}\rho$ への全単射である。$\rho$ は単射なので、$r$ は全単射である。$r$ は制限写像なので環準同型であり、環の同型である。
3:完全列の続き
$$
H^{n-1}(D(xy),\mathcal{O})\to H^n(U,\mathcal{O}_U)\to H^n(D(x),\mathcal{O})\oplus H^n(D(y),\mathcal{O})
$$
において、$n\ge2$ なら両端は 準連接層 の記事の定理「アフィンスキーム上の消滅定理」(Har77 III 定理 3.5、p. 215。$A_x$、$A_y$、$A_{xy}$ は Noether 環であり、Noether 環のスペクトルの場合の証明は同記事にある)により $0$ なので、$H^n(U,\mathcal{O}_U)=0$ である。$\square$
1 と 2 は、アフィンスキームの上の $H^1$ の消滅(準連接層 の記事で証明されている)だけから得られる。3 だけが高次の消滅定理に依存する。2 は Har77 III 演習 4.3(p. 223)の主張である。
2 の基底の元 $x^{-1}y^{-1}$ を具体的に見ると、$D(xy)$ の上の関数 $1/(xy)$ は、$D(x)$ の上の正則関数($y$ の負冪を含まない)と $D(y)$ の上の正則関数($x$ の負冪を含まない)の差に書けない。この「書けなさ」が $H^1$ の 0 でない類であり、Čechコホモロジー の言葉では被覆 $\{D(x),D(y)\}$ の 1 コサイクル $1/(xy)$ がコバウンダリでないことにあたる。
$H^1(U,\mathcal{O}_U)=A_{xy}/(A_x+A_y)$ には $A$ が掛け算で作用する。$x\cdot[x^iy^j]=[x^{i+1}y^j]$ は $i=-1$ なら $0$ であり、$y$ についても同様である。したがって $H^1(U,\mathcal{O}_U)$ のどの元も $\mathfrak{o}$ のある冪で消え、$\mathfrak{o}$ で消える元の全体は $k\cdot[x^{-1}y^{-1}]$ である。
$A_x$ と $A_y$ は $A$ 部分加群なので、商は $A$ 加群である。$a\in A$ 倍は $\mathcal{O}_U$ の自己準同型であり、Mayer–Vietoris 完全列は脆弱分解(標準分解)の切断の短完全列から作られて層の射と可換なので、thm-punctured-affine-plane-cohomology の 2 の同型は $A$ 線形である。よって $H^1(U,\mathcal{O}_U)$ の $A$ 加群の構造($\Gamma(U,\mathcal{O}_U)=A$ による)は、この商の構造と一致する。$[x^iy^j]$($i,j\le-1$)に $x$ を掛けると $x^{i+1}y^j$ であり、$i+1=0$ なら $A_y$ に入るので類は $0$ である。よって元 $\sum c_{ij}[x^iy^j]$ は、$m$ を現れる $-i$、$-j$ の最大値より大きくとれば $\mathfrak{o}^{2m}$ で消える($\mathfrak{o}^{2m}$ は $x^ay^b$($a+b=2m$)で生成され、$a\ge m$ か $b\ge m$)。$\xi=\sum c_{ij}[x^iy^j]$ が $x\xi=y\xi=0$ をみたすとき、$x\xi=\sum c_{ij}[x^{i+1}y^j]$ の基底展開から $i\le-2$ の係数はすべて $0$、同様に $j\le-2$ の係数も $0$ なので、$\xi=c_{-1,-1}[x^{-1}y^{-1}]$ である。逆にこの元は $x$、$y$ で消える。$\square$
$Z=\operatorname{Spec}B$ をアフィンスキームとすると、任意の射 $h\colon U\to Z$ は、包含射 $j\colon U\to X$ を通って、射 $\tilde h\colon X\to Z$ にただ 1 通りに延びる($h=\tilde h\circ j$)。とくに $\Gamma(U,\mathcal{O}_U)^\times=A^\times=k^\times$ である。
スキーム の記事の命題「アフィンスキームへの射と大域切断」の自然な全単射 $\rho$ により、$\operatorname{Hom}(U,Z)\cong\operatorname{Hom}(B,\Gamma(U,\mathcal{O}_U))$、$\operatorname{Hom}(X,Z)\cong\operatorname{Hom}(B,A)$ であり、自然性から $\tilde h\mapsto\tilde h\circ j$ は $\varphi\mapsto r\circ\varphi$ に対応する。thm-punctured-affine-plane-cohomology の 1 により $r$ は同型なので、これは全単射である。単元については、$\Gamma(U,\mathcal{O}_U)^\times$ は $r$ により $A^\times$ と同一視され、多項式環 $k[x,y]$ の単元は $0$ でない定数だけである(次数を比べる)。$\square$
たとえば $U$ から乗法群 $\mathbb{G}_m=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ への $k$ 上の射は単元を与えることと同じなので、すべて定数である。
$U$ はアフィンスキームでない。一方、$U$ はアフィンスキーム $X$ の準コンパクトな開部分スキームなので、準アフィンスキーム である。
コホモロジーによる理由。 $U$ がアフィンなら、構造層 $\mathcal{O}_U$ は準連接層なので 準連接層 の記事の系「アフィンスキーム上の 1 次コホモロジーの消滅」により $H^1(U,\mathcal{O}_U)=0$ のはずだが、thm-punctured-affine-plane-cohomology の 2 により $H^1(U,\mathcal{O}_U)\ne0$ である。
大域切断による理由。 $U$ がアフィンなら、スキーム の記事の系「標準射とアフィン性の判定」により、標準射 $c\colon U\to\operatorname{Spec}\Gamma(U,\mathcal{O}_U)$ は同型である。thm-punctured-affine-plane-cohomology の 1 により $\Gamma(U,\mathcal{O}_U)=A$ であり、$c$ は大域切断の写像が $r$ である射、すなわち包含射 $U\to X$ と一致する(スキーム の記事の命題「アフィンスキームへの射と大域切断」の一意性)。包含射は原点を像にもたないので同型でなく、矛盾する(同じ議論は 開部分スキーム の記事の命題「原点を除いたアフィン空間」にある)。
準コンパクト性は、$U$ が 2 つの準コンパクトな開集合 $D(x)$、$D(y)$ の和であることによる。$\square$
コホモロジーによる理由は、準連接層 の記事の定理「Serre のアフィン性判定法」(準コンパクトなスキームがアフィンであることと、準連接層のコホモロジーがすべて消えることの同値)の易しい向きにあたり、$U$ では構造層そのものがこの判定に引っかかる。また、2 つのアフィン開集合 $D(x)$、$D(y)$ の共通部分 $D(xy)$ がアフィンであっても、和集合はアフィンとは限らないことも、この例から分かる。
代数閉体上の古典的な代数多様体としても同じことが成り立ち、準アフィン多様体 $\mathbb{A}^2\setminus\{(0,0)\}$ の正則関数の環は $k[x,y]$ で、この多様体はどのアフィン多様体とも同型でない(Har77 I 演習 3.6、p. 21。アフィン多様体 の記事の命題「原点を除いた平面はアフィンでない」)。$n\ge2$ について原点を除いたアフィン空間 $\mathbb{A}^n_k\setminus\{0\}$ でも、大域切断の環は $k[x_1,\dots,x_n]$ のままでアフィンでない(開部分スキーム の記事の命題「原点を除いたアフィン空間」)。
$\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ から原点 $(t)$ を除いた開集合は基本開集合 $D(t)\cong\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ なのでアフィンであり、大域切断の環は $k[t,t^{-1}]$ に増える。関数 $1/t$ が原点で極をもつ。
$\mathbb{A}^2_k$ から直線 $V(x)$ を除いた開集合は $D(x)\cong\operatorname{Spec}A_x$ でアフィンであり、大域切断の環は $A_x=k[x^{\pm1},y]$ に増える。一般に、1 つの元 $f\in A$ の零点集合 $V(f)$ を除いた開集合 $D(f)$ はつねにアフィンである。
除く閉集合が 1 つの方程式で定まる(余次元 1 の)とき、除いた場所に極をもつ関数が新しく現れ、開集合はアフィンのままである。平面から原点(余次元 2)を除いた $U$ では、新しい関数は現れない(thm-punctured-affine-plane-cohomology の 1)。これは、$2$ 変数以上の複素関数論で 1 点を除いた開集合の上の正則関数が全体に延びるという現象(Hartogsの拡張定理 の記事の系「1 点を除いた開集合からの延長」)の代数版である。関数が増えないのに空間が小さくなるので、$U$ は関数の環から復元できず、アフィンでなくなる。そのずれを測るのが $H^1(U,\mathcal{O}_U)$ である。
thm-punctured-affine-plane-cohomology の 2 の商 $A_{xy}/(A_x+A_y)$ は、列 $(x,y)$ の局所化 Čech複体 $A\to A_x\oplus A_y\to A_{xy}$ の 2 次のコホモロジーと同じものである(Čech複体 の記事の例「二変数と両方の負冪」)。同記事の定理「Noether環の局所コホモロジーとの比較」により、これは極大イデアル $\mathfrak{o}$ に台をもつ局所コホモロジー $H^2_{\mathfrak{o}}(A)$ でもある。
穴あきアフィン平面は、次の正しい主張の条件を 1 つだけ外すと結論が成り立たなくなることを示す。(a) アフィンスキームの基本開集合 $D(f)$ はアフィンである。(b) アフィンスキームの上の準連接層 $\mathcal{F}$ について $H^1=0$ である。逆向きに、穴あきアフィン平面が満たす性質として、(c) $\mathbb{A}^2_k$ から 1 点(原点)を除いた開集合の大域切断の環は $A$ のままであり、(d) $n\ge2$ のとき $\mathbb{A}^n_k\setminus\{0\}$ はアフィンでない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| (a) の「1 つの元 $f$ の非零点集合」(2 つの元 $x,y$ の非零点集合の和にする) | 穴あきアフィン平面 $U=D(x)\cup D(y)$ | アフィンであること |
| (b) の「アフィンスキーム」(準アフィンスキームにする) | $U$ と $\mathcal{F}=\mathcal{O}_U$ | $H^1(U,\mathcal{O}_U)=0$ |
| (c) の「除く閉集合が 1 点」(直線にする) | $\mathbb{A}^2_k\setminus V(x)=D(x)$ | 大域切断の環が $A$ のままであること($x^{-1}$ が増える) |
| (d) の「$n\ge2$」 | $\mathbb{A}^1_k\setminus\{0\}=D(t)$ | アフィンでないこと |
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