解析集合(複素解析)

同義語:解析的集合解析的部分集合complex analytic setanalytic subset

概要

解析集合(複素解析)(complex analytic set)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ の部分集合で、$\Omega$ の各点の近くで有限個の正則関数の共通零点集合として書けるもののことであり、とくに $\Omega$ の閉集合である。点での芽は正則関数の芽の環の根基イデアルで決まり、有限個の既約な芽に一意に分解され、既約な芽は素イデアルに対応する。連結な $\Omega$ の解析集合 $A\ne\Omega$ は内部が空で、補集合 $\Omega\setminus A$ は連結かつ稠密であり、$A$ の外で正則で局所有界な関数は $\Omega$ 全体へ正則に延びる。数理論理の解析集合(Borel 集合の連続像)とは別の概念である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正則関数, 一致の定理, Weierstrassの予備定理, 収束冪級数環, 素イデアル

解析集合(複素解析の意味)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ の部分集合 $A$ で、$\Omega$ の各点の近くで有限個の正則関数の共通零点集合として書けるもののことである。正則関数 $f$ の零点集合 $\{f=0\}$(超曲面)、座標部分空間、尖点 $\{w^2=z^3\}$ などが例である。解析集合は、正則関数の零点の集まりとして、複素多様体・複素解析空間・Stein空間 の理論のあらゆる所に現れる。
この記事の中心は次の 3 つである。

  • 点 $p$ での解析集合の芽は、正則関数の芽の環 $\mathbb{C}\{z\}$ の根基イデアルで決まり、有限個の既約な芽に一意に分解される(thm-as-irreducible)。
  • 連結な $\Omega$ の解析集合 $A\ne\Omega$ は内部が空で、補集合 $\Omega\setminus A$ は連結かつ稠密である(thm-as-connected)。実数の部分集合 $\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ が $\mathbb{C}$ を分けるのとは対照的に、複素の解析集合は開集合を分けない。
  • その帰結として、解析集合の外で正則で局所有界な関数は解析集合を越えて正則に延びる(cor-as-riemann)。
    「解析集合」という語は、数理論理(記述集合論)では Polish 空間の Borel 集合の連続像($\boldsymbol\Sigma^1_1$ 集合、射影階層)を指し、この記事の対象とは別のものである。実解析関数で定まる集合は 劣解析的集合 で扱う。

定義

$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とし、$\Omega$ の上の正則関数の全体を $\mathcal{O}(\Omega)$ と書く。$f_1,\dots,f_k\in\mathcal{O}(U)$ に対し $Z(f_1,\dots,f_k):=\{z\in U\mid f_1(z)=\dots=f_k(z)=0\}$ とおく。

解析集合

$A\subset\Omega$ が $\Omega$ の解析集合(analytic subset)であるとは、$\Omega$ の各点 $p$ に対し、$p$ の開近傍 $U\subset\Omega$ と有限個の $f_1,\dots,f_k\in\mathcal{O}(U)$ があって
$$ A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k) $$
となることをいう($k=0$ のときは $Z()=U$ とする)。$\emptyset\ne A\ne\Omega$ のとき真の解析集合という。

条件は $A$ の点だけでなく $\Omega$ のすべての点で課す。$p\notin\overline{A}$ なら $f_1=1$ をとればよいので、条件は $A$ が $\Omega$ の閉集合であることと、$A$ の各点の近くで有限個の正則関数の共通零点集合になることを合わせたものである(prop-as-basic の 1)。定義は局所的なので、$\Omega$ を複素多様体に置き換えても、局所座標を使って同じように定義できる。複素解析空間 の解析的部分集合は、これを局所模型の上で考えたものである。

無限個の関数を許す定義

Hor90 Definition 6.5.1(p. 167)は、各点の近くで正則関数の任意の族の共通零点集合となることを解析集合の定義としている。この定義でも族を有限個にとれることは Hor90 Theorem 6.5.2(p. 168)による(この記事では証明しない)。この記事では最初から有限個の関数で定義する。

解析集合の基本性質

$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とする。

  1. 解析集合は $\Omega$ の閉集合である。
  2. 2 つの解析集合の和集合と共通部分は解析集合である。
  3. $\Omega'\subset\Omega$ が開集合なら、$A\cap\Omega'$ は $\Omega'$ の解析集合である。
  4. $\Phi\colon\Omega_1\to\Omega$ が正則写像($\Omega_1\subset\mathbb{C}^m$ は開集合)なら、$\Phi^{-1}(A)$ は $\Omega_1$ の解析集合である。

要点:すべて局所的な主張なので、各点の近くの定義関数を組み合わせればよい。

詳しい証明を開く

1. $p\in\Omega\setminus A$ をとり、定義の $U$、$f_j$ をとる。$p\notin Z(f_1,\dots,f_k)$ なので $f_j(p)\ne0$ となる $j$ があり、連続性から $p$ の近傍で $f_j\ne0$、すなわちその近傍は $A$ と交わらない。よって $\Omega\setminus A$ は開集合である。2. 点 $p$ の近くで $A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k)$、$B\cap U'=Z(g_1,\dots,g_l)$ とすると、$U\cap U'$ の上で $A\cap B=Z(f_1,\dots,f_k,g_1,\dots,g_l)$、$A\cup B=Z(\{f_ig_j\}_{i,j})$ である($f_ig_j$ がすべて $0$ なら、ある $f_i\ne0$ のときすべての $g_j=0$)。3 は定義から明らか。4. $q\in\Omega_1$ について $\Phi(q)$ の近くで $A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k)$ とすると、$\Phi^{-1}(U)$ の上で $\Phi^{-1}(A)=Z(f_1\circ\Phi,\dots,f_k\circ\Phi)$ である。$\square$

芽とイデアル

点 $p\in\Omega$ を固定する。2 つの集合 $A,B$ が $p$ で同じ芽をもつとは、$p$ のある近傍 $W$ で $A\cap W=B\cap W$ となることをいい、その同値類を $(A,p)$ と書く。$A\cap W\subset B$ となる $W$ があるとき $(A,p)\subset(B,p)$ と書く。和集合と共通部分は芽の上でも定まる。$p$ の近傍の解析集合の芽を解析集合の芽という。座標を平行移動して $p=0$ とし、$p$ での正則関数の芽の環を $\mathcal{O}_p=\mathbb{C}\{z\}$ と書く(収束冪級数環)。

消滅イデアルと零点の芽
  1. 解析集合の芽 $X=(A,p)$ に対し、$p$ のある近傍 $W$ で $A\cap W$ の上で $0$ になる代表をもつ芽 $f\in\mathcal{O}_p$ の全体を $I_p(X)$ と書き、$X$ の消滅イデアルという。
  2. イデアル $I\subset\mathcal{O}_p$ に対し、生成元 $f_1,\dots,f_k$ をとって($\mathcal{O}_p$ は Noether 環なので有限個の生成元がある。Weierstrassの予備定理 の系「収束冪級数環は Noether 環」)、$V_p(I):=(Z(f_1,\dots,f_k),p)$ とおく。

$V_p(I)$ は生成元のとり方によらない。実際、$(g_1,\dots,g_l)=(f_1,\dots,f_k)$ なら $p$ の近くで $g_i=\sum_ja_{ij}f_j$ と書けるので $Z(f)\subset Z(g)$ であり、逆も同じである。同じ理由で、$I\subset J$ なら $V_p(J)\subset V_p(I)$ である。

芽とイデアルの対応

$X,Y$ を $p$ での解析集合の芽とする。

  1. $I_p(X)$ は根基イデアルである。
  2. $V_p(I_p(X))=X$ である。
  3. $X\subset Y$ であることと $I_p(Y)\subset I_p(X)$ は同値である。とくに $X=Y\iff I_p(X)=I_p(Y)$。
  4. 解析集合の芽の減少列 $X_1\supset X_2\supset\cdots$ は、ある番号から先で一定になる。
  1. $f^m\in I_p(X)$ なら $f^m$ の代表は $A\cap W$ で $0$ なので $f$ も $0$ である。
  2. $X=(A,p)$、$A\cap W=Z(f_1,\dots,f_k)$ とすると $f_j\in I_p(X)$ だから、$V_p(I_p(X))\subset V_p((f_1,\dots,f_k))=X$ である。逆に $I_p(X)=(g_1,\dots,g_l)$ とすると、有限個の $g_i$ は $p$ の共通の近傍で $A$ の上で $0$ になるので、$X\subset(Z(g_1,\dots,g_l),p)=V_p(I_p(X))$ である。
  3. $X\subset Y$ なら $Y$ の上で $0$ になる関数は $X$ の上でも $0$ になる。逆に $I_p(Y)\subset I_p(X)$ なら、2 により $X=V_p(I_p(X))\subset V_p(I_p(Y))=Y$ である。
  4. 3 によりイデアルの増加列 $I_p(X_1)\subset I_p(X_2)\subset\cdots$ が得られ、$\mathcal{O}_p$ は Noether 環なのである番号から先で一定である。3 により芽も一定である。$\square$

逆向きに、イデアル $I$ から作った $V_p(I)$ の消滅イデアルが $I$ の根基 $\sqrt I$ に一致することが Rückertの零点定理 である。これにより、$p$ での解析集合の芽と $\mathcal{O}_p$ の根基イデアルは $X\mapsto I_p(X)$、$I\mapsto V_p(I)$ で一対一に対応する。

既約な芽

空でない($p\in A$ となる)解析集合の芽 $X$ が既約であるとは、解析集合の芽 $X_1,X_2$ について $X=X_1\cup X_2$ なら $X=X_1$ または $X=X_2$ となることをいう。

既約分解

$X$ を $p$ での空でない解析集合の芽とする。

  1. $X$ が既約であることと、$I_p(X)$ が素イデアルであることは同値である。
  2. $X$ は有限個の既約な芽の和 $X=X_1\cup\dots\cup X_m$ で、$i\ne j$ なら $X_i\not\subset X_j$ となるものに表され、この表し方は順序を除いて一意である。このとき $I_p(X)=I_p(X_1)\cap\dots\cap I_p(X_m)$ である。
  1. $p\in A$ なので定数 $1$ は $I_p(X)$ に入らず、$I_p(X)\ne\mathcal{O}_p$ である。$I_p(X)$ が素イデアルで、$X=X_1\cup X_2$、$X\ne X_1$、$X\ne X_2$ とする。prop-as-germ の 3 により $f_i\in I_p(X_i)\setminus I_p(X)$($i=1,2$)がとれる。$f_1f_2$ は $X_1\cup X_2=X$ の上で $0$ なので $I_p(X)$ に入り、素イデアルであることに反する。逆に $X$ が既約で $fg\in I_p(X)$ とする。$X=(X\cap V_p((f)))\cup(X\cap V_p((g)))$ であり($X$ の各点で $f$ か $g$ が $0$)、どちらも解析集合の芽である(prop-as-basic の 2)。既約性から一方、たとえば $X=X\cap V_p((f))$ となり、$X\subset V_p((f))$、すなわち $f\in I_p(X)$ である。
  2. 存在:有限個の既約な芽の和に表せない空でない解析集合の芽があったとする。prop-as-germ の 4 により、そのような芽の中に包含について極小なもの $X$ がある(極小なものがなければ真の減少列が無限に続く)。$X$ は既約でないので $X=X_1\cup X_2$、$X_i\subsetneq X$ と書け、極小性から $X_1$、$X_2$ は既約な芽の有限和に表せるので、$X$ も表せて矛盾する。表した和から、ほかの項に含まれる項を除けば条件を満たす。一意性:$X=\bigcup_iX_i=\bigcup_jY_j$ を条件を満たす 2 つの表し方とする。$X_i=\bigcup_j(X_i\cap Y_j)$ と $X_i$ の既約性から $X_i\subset Y_j$ となる $j$ があり、同様に $Y_j\subset X_k$ となる $k$ がある。$X_i\subset X_k$ から $i=k$、よって $X_i=Y_j$ である。最後の等式は、$f$ が $X$ の上で $0$ になることと各 $X_i$ の上で $0$ になることが同値であることによる。$\square$

thm-as-irreducible の 2 の $X_i$ を $X$ の既約成分という。最後の等式は、消滅イデアルが有限個の素イデアルの共通部分であることを述べており、Hor90 Lemma 6.5.3(p. 168)にある。

主定理:真の解析集合は開集合を分けない

$\mathbb{C}^n$ の点を $z=(z',w)$、$z'\in\mathbb{C}^{n-1}$、$w\in\mathbb{C}$ と書き、$D(\rho):=\{|w|<\rho\}$、$\Delta'$ を $\mathbb{C}^{n-1}$ の原点を中心とする多重円板とする。

超曲面のまわりのよい多重円板

$h$ を原点の近傍で正則で、$h(0)=0$、$w$ について $b$ 次の正則($h(0,w)=w^be(w)$、$e(0)\ne0$、$b\ge1$)とする。このとき原点を中心とする多重円板 $P=\Delta'\times D(\rho)$ で次を満たすものが、原点のいくらでも小さい近傍の中にとれる:$h$ は $P$ の近傍で正則で、$Z:=Z(h)\cap P$ は $\Delta'\times D(\rho/2)$ に含まれ、各 $z'\in\Delta'$ について $Z\cap(\{z'\}\times D(\rho))$ は $b$ 個以下の点からなる。さらに $P\setminus Z$ は連結で、$P$ の中で稠密である。

Weierstrassの予備定理 の補題「根の個数は $z'$ によらない」により、$\rho>0$ と多重円板 $\Delta'_0$ を小さくとって、各 $z'\in\Delta'_0$ について $h(z',\cdot)$ が $D(\rho)$ にちょうど $b$ 個の零点を重複度こみでもつようにできる。同じ補題を半径 $\rho/2$ に使うと、多重円板 $\Delta'_1$ があって、$z'\in\Delta'_1$ なら $D(\rho/2)$ にもちょうど $b$ 個の零点がある。$\Delta'\subset\Delta'_0\cap\Delta'_1$ を原点中心の多重円板とすると、$z'\in\Delta'$ について $D(\rho)$ 内の $b$ 個の零点はすべて $D(\rho/2)$ に入るので、$Z\subset\Delta'\times D(\rho/2)$ で、各縦の円板の上の $Z$ の点は $b$ 個以下である。
連結性:$R:=\Delta'\times\{\rho/2<|w|<\rho\}$ は連結集合の直積なので連結で、$Z$ と交わらない。$(z',w)\in P\setminus Z$ をとると、$D(\rho)$ から有限個の点を除いた集合は弧状連結なので、$\{z'\}\times D(\rho)$ の中で $Z$ を避けて $(z',w)$ と $R$ の点を結べる。よって $P\setminus Z$ のすべての点は $P\setminus Z$ の中で連結集合 $R$ とつながり、$P\setminus Z$ は連結である。稠密性:各縦の円板から有限個の点を除いた集合はその円板で稠密なので、$P\setminus Z$ は $P$ で稠密である。$\square$

真の解析集合は疎で補集合は連結

$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を連結な開集合、$A\subset\Omega$ を解析集合で $A\ne\Omega$ とする。このとき

  1. $A$ の内部は空である。$A$ は閉集合なので、$A$ は $\Omega$ の中で疎(nowhere dense)であり、$\Omega\setminus A$ は $\Omega$ で稠密である。
  2. $\Omega\setminus A$ は連結である。
  1. $A$ の内部を $A^\circ$ とし、$A^\circ$ が $\Omega$ の中で閉じていることを示す。$x\in\Omega$ を $A^\circ$ の触点とすると、$A$ は閉集合なので $x\in A$ である。$x$ の連結な近傍 $U$(球)と $f_1,\dots,f_k\in\mathcal{O}(U)$ で $A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k)$ となるものをとる。$U\cap A^\circ$ は空でない開集合で、その上で各 $f_j$ は $0$ だから、一致の定理 により $f_j$ は $U$ 全体で $0$ であり、$U\subset A$、$x\in A^\circ$ である。$A^\circ$ は開かつ閉で、$\Omega$ は連結、$A^\circ\subset A\ne\Omega$ なので $A^\circ=\emptyset$ である。
  2. 段階 1:各点のよい近傍。 各 $x\in\Omega$ に、$x$ の開近傍 $P_x\subset\Omega$ で、$P_x\setminus A$ が空でなく連結で $P_x$ の中で稠密なものがあることを示す。$x\notin A$ なら $\Omega\setminus A$ に含まれる球をとればよい。$x\in A$ のとき、1 の $U$、$f_j$ をとる。1 により $A$ は $U$ を含まないので、ある $f_j$ は $U$ 上で恒等的に $0$ でなく、一致の定理により $x$ での芽も $0$ でない。$h:=f_j$ とおき、$x$ を原点に平行移動する。Weierstrassの予備定理 の補題「一般の関数を $w$ 正則にする座標変換」により、線形な座標変換で $h$ は $w$ について $b$ 次の正則になり、$h(x)=0$ だから $b\ge1$ である。lem-as-polydisc の $P\subset U$ をとると、$A\cap P\subset Z(h)\cap P$ だから
    $$ P\setminus Z(h)\subset P\setminus A\subset P $$
    である。$P\setminus Z(h)$ は連結で $P$ の中で稠密なので、$P\setminus A$ は $P$ で稠密で、連結集合 $P\setminus Z(h)$ とその閉包の間にあるから連結である。$P_x:=P$ とおけばよい。

段階 2:大域的な連結性。 $\Omega\setminus A=U_1\cup U_2$($U_1,U_2$ は交わらない開集合)とする。$i=1,2$ について、段階 1 の性質をもつ近傍 $P$ で $P\setminus A\subset U_i$ となるものがとれる点 $x\in\Omega$ の全体を $V_i$ とおく。

  • $V_1\cup V_2=\Omega$:$P_x\setminus A$ は連結なので $U_1$ か $U_2$ に含まれる。
  • $V_i$ は開集合:$P$ が $x$ に対して条件を満たせば、$P$ の各点 $y$ に対しても同じ $P$ が条件を満たす。
  • $V_1\cap V_2=\emptyset$:$x$ に対し $P\setminus A\subset U_1$、$P'\setminus A\subset U_2$ となる $P,P'$ があれば、$P\cap P'$ は空でない開集合なので、1 により $A$ に含まれない点をもち、その点は $U_1\cap U_2$ に入って矛盾する。
    $\Omega$ は連結なので、たとえば $V_2=\emptyset$ である。$U_2$ の各点 $y$ は $U_2$ に含まれる球を近傍としてもつので $y\in V_2$ であり、$U_2=\emptyset$ である。よって $\Omega\setminus A$ は連結である。$\square$

段階 2 は、局所的に連結な補集合が貼り合わさって大域的に連結になることを示す一般的な議論で、使ったのは「各点のよい近傍」と「$A$ の内部が空」の 2 つだけである。

解析集合を越える延長

$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$A\subset\Omega$ を内部が空の解析集合とする。$f$ が $\Omega\setminus A$ の上で正則で、$A$ の各点の近傍で有界なら、$\Omega$ 上の正則関数 $F$ で $F|_{\Omega\setminus A}=f$ となるものがただ一つ存在する。

$A$ は閉集合で内部が空なので $\Omega\setminus A$ は稠密であり、一意性はこれから従う。存在は局所的に示せばよく、局所的な延長は稠密な集合の上で $f$ と一致するので貼り合わさる。$x\in A$ をとり、prf-as-connected の段階 1 のように $x$ の連結な近傍 $U$ と $U$ 上で恒等的に $0$ でない $h\in\mathcal{O}(U)$ を、$A\cap U\subset Z(h)$ で $f$ が $U\setminus A$ で有界となるようにとる。$f$ を $U\setminus Z(h)$ に制限すると、有界な正則関数なので、零点集合を越える Riemann の拡張定理(Leb26t Theorem 1.6.1、p. 40。1 変数の Riemannの拡張定理 を縦の円板ごとに使う)により $F_U\in\mathcal{O}(U)$ で $U\setminus Z(h)$ の上で $f$ と一致するものがある。$U\setminus Z(h)$ は $U\setminus A$ で稠密で、$F_U$ と $f$ はともに $U\setminus A$ の上で連続なので、$U\setminus A$ の上で $F_U=f$ である。$\square$

次元

正則点と次元

解析集合 $A\subset\Omega$ の点 $p$ が正則点であるとは、座標の番号を付け替えると、$p$ の近傍 $U'\times U''\subset\mathbb{C}^k\times\mathbb{C}^{n-k}$ と正則写像 $\phi\colon U'\to\mathbb{C}^{n-k}$ があって、$A\cap(U'\times U'')$ が $\phi$ のグラフ $\{(x,\phi(x))\mid x\in U'\}$ に一致することをいう。このとき $k$ を $p$ での $A$ の次元、$n-k$ を余次元という。正則点でない点を特異点という。

正則点の全体は $A$ の中で稠密である(Leb26t Lemma 6.5.10、p. 187。この記事では証明しない)。そこで $A$ の次元を正則点での次元の最大値と定め、余次元を $n$ からそれを引いたものと定める。定義は Leb26t Definition 6.5.5(p. 185)・Definition 6.5.7(p. 186)による。連結な $\Omega$ の上で恒等的に $0$ でない正則関数の零点集合 $Z(f)$ では、座標の番号を付け替えて局所的に $z_n=\phi(z_1,\dots,z_{n-1})$ の形のグラフになる点の全体が、$Z(f)$ の中で開かつ稠密である(Leb26t Theorem 1.6.2、p. 42。この記事では証明しない)。$n\ge2$ のとき、開集合から 1 点を除いた集合の上の正則関数は、有界性の仮定なしにその点を越えて延長される(Hartogsの拡張定理 の系「1 点を除いた開集合からの延長」)。そのため、たとえば $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ は Stein 多様体ではない(Stein空間)。

例

代表的な解析集合
  1. 超曲面。 $f\in\mathcal{O}(\Omega)$ の零点集合 $Z(f)$ は解析集合である。$\Omega$ が連結で $f\not\equiv0$ なら真の解析集合で、thm-as-connected により $\Omega\setminus Z(f)$ は連結である。$n=1$ で $\Omega$ が連結なら、真の解析集合は孤立点だけからなる閉集合である(各点の近くで $0$ でない 1 変数正則関数の零点集合に含まれる)。
  2. 座標軸の和。 $A=\{z_1z_2=0\}\subset\mathbb{C}^2$ の原点での芽は、2 本の座標軸の芽 $X_1=\{z_1=0\}$、$X_2=\{z_2=0\}$ の和である。$f$ が $X_1$ の上で $0$ なら $f(0,z_2)\equiv0$ で、$f$ の Taylor 展開のどの項も $z_1$ を含むから $f\in(z_1)$、すなわち $I_0(X_1)=(z_1)$ は素イデアルで $X_1$ は既約である。$X_1\not\subset X_2$ なので、$X_1\cup X_2$ が原点での既約分解であり、$I_0(A)=(z_1)\cap(z_2)=(z_1z_2)$ である。
  3. 尖点。 $A=\{w^2=z^3\}\subset\mathbb{C}^2$ は原点以外の点で正則点で、次元は $1$ である。原点は特異点である:$z\ne0$ が小さいとき $A$ の点で第 1 座標が $z$ のものは $w=\pm z^{3/2}$ の 2 点あり、$w\ne0$ が小さいとき第 2 座標が $w$ のものは $z^3=w^2$ の 3 点あるので、原点の近くで $A$ はどちらの座標についてもグラフでなく、$\{0\}$ や近傍全体でもない。原点での芽は既約で、消滅イデアルは $(w^2-z^3)$ である(Rückertの零点定理 の例「尖点」)。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が正則関数の零点で書ける$A=\{\operatorname{Im}z_1=0\}\subset\mathbb{C}^n$$\Omega\setminus A$ が連結
$\Omega$ が連結$\Omega=D(0,1)\cup D(3,1)\subset\mathbb{C}$、$A=D(3,1)$$A$ の内部が空
$f$ が $A$ の近くで有界$\Omega=\mathbb{C}^2$、$A=\{z_1=0\}$、$f=1/z_1$$f$ の $\Omega$ への正則な延長

ここで $D(a,1)$ は $a$ を中心とする半径 $1$ の円板である。

反例の確かめ
  1. $\{\operatorname{Im}z_1=0\}$ は実解析関数 $\operatorname{Im}z_1$ の零点集合だが、補集合は $\operatorname{Im}z_1>0$ と $<0$ の 2 つの開集合に分かれる。thm-as-connected により、これは複素の解析集合ではない。
  2. $D(0,1)$ の点の近くでは $f_1=1$、$D(3,1)$ の点の近くでは $k=0$(関数なし)とすれば、$A=D(3,1)$ は $\Omega$ の解析集合で、$A\ne\Omega$ だが内部は $A$ 自身である。
  3. $1/z_1$ は $z_1\to0$ で有界でなく、$\Omega$ 上の正則関数(とくに連続関数)には延びない。
定義の条件の確かめ
  1. $E:=\{1/k\mid k\ge1\}$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ の解析集合である(各点の近くで $E$ は高々 1 点)。しかし $E\cup\{0\}$ は $\mathbb{C}$ の閉集合だが解析集合ではない:原点の近くの正則関数が $E$ の上で $0$ なら、一致の定理により恒等的に $0$ なので、原点の近くの共通零点集合は近傍全体になるが、$E\cup\{0\}$ は内部をもたない。
  2. $\{z_1=0,\ |z_2|<1\}$ は $\{|z_2|<1\}$ の解析集合だが、$\mathbb{C}^2$ の閉集合でないので $\mathbb{C}^2$ の解析集合ではない(Leb26t p. 183)。

補足

解析集合の定義と基本性質は Hor90 §6.5(pp. 167–176)と Leb26t §6.5(pp. 182–)にある。Hor90 Theorem 6.5.2(p. 168)は、解析集合の各点の近傍で有限個の正則関数が近傍のすべての点で消滅イデアルを生成すること(消滅イデアルの層の連接性)を示しており、複素解析空間 の構造層を解析集合の上に載せるときの基礎になる。GR79 第 A 章 §3.5(pp. 18–19)は複素解析空間の解析集合を連接イデアル層の台として述べ、既約成分への分解と零点定理の層の形を述べている。

関連項目

参考文献

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