解析集合(複素解析)(complex analytic set)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ の部分集合で、$\Omega$ の各点の近くで有限個の正則関数の共通零点集合として書けるもののことであり、とくに $\Omega$ の閉集合である。点での芽は正則関数の芽の環の根基イデアルで決まり、有限個の既約な芽に一意に分解され、既約な芽は素イデアルに対応する。連結な $\Omega$ の解析集合 $A\ne\Omega$ は内部が空で、補集合 $\Omega\setminus A$ は連結かつ稠密であり、$A$ の外で正則で局所有界な関数は $\Omega$ 全体へ正則に延びる。数理論理の解析集合(Borel 集合の連続像)とは別の概念である。
前提知識: 正則関数, 一致の定理, Weierstrassの予備定理, 収束冪級数環, 素イデアル
解析集合(複素解析の意味)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ の部分集合 $A$ で、$\Omega$ の各点の近くで有限個の正則関数の共通零点集合として書けるもののことである。正則関数 $f$ の零点集合 $\{f=0\}$(超曲面)、座標部分空間、尖点 $\{w^2=z^3\}$ などが例である。解析集合は、正則関数の零点の集まりとして、複素多様体・複素解析空間・Stein空間 の理論のあらゆる所に現れる。
この記事の中心は次の 3 つである。
$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とし、$\Omega$ の上の正則関数の全体を $\mathcal{O}(\Omega)$ と書く。$f_1,\dots,f_k\in\mathcal{O}(U)$ に対し $Z(f_1,\dots,f_k):=\{z\in U\mid f_1(z)=\dots=f_k(z)=0\}$ とおく。
$A\subset\Omega$ が $\Omega$ の解析集合(analytic subset)であるとは、$\Omega$ の各点 $p$ に対し、$p$ の開近傍 $U\subset\Omega$ と有限個の $f_1,\dots,f_k\in\mathcal{O}(U)$ があって
$$
A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k)
$$
となることをいう($k=0$ のときは $Z()=U$ とする)。$\emptyset\ne A\ne\Omega$ のとき真の解析集合という。
条件は $A$ の点だけでなく $\Omega$ のすべての点で課す。$p\notin\overline{A}$ なら $f_1=1$ をとればよいので、条件は $A$ が $\Omega$ の閉集合であることと、$A$ の各点の近くで有限個の正則関数の共通零点集合になることを合わせたものである(prop-as-basic の 1)。定義は局所的なので、$\Omega$ を複素多様体に置き換えても、局所座標を使って同じように定義できる。複素解析空間 の解析的部分集合は、これを局所模型の上で考えたものである。
$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とする。
要点:すべて局所的な主張なので、各点の近くの定義関数を組み合わせればよい。
1. $p\in\Omega\setminus A$ をとり、定義の $U$、$f_j$ をとる。$p\notin Z(f_1,\dots,f_k)$ なので $f_j(p)\ne0$ となる $j$ があり、連続性から $p$ の近傍で $f_j\ne0$、すなわちその近傍は $A$ と交わらない。よって $\Omega\setminus A$ は開集合である。2. 点 $p$ の近くで $A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k)$、$B\cap U'=Z(g_1,\dots,g_l)$ とすると、$U\cap U'$ の上で $A\cap B=Z(f_1,\dots,f_k,g_1,\dots,g_l)$、$A\cup B=Z(\{f_ig_j\}_{i,j})$ である($f_ig_j$ がすべて $0$ なら、ある $f_i\ne0$ のときすべての $g_j=0$)。3 は定義から明らか。4. $q\in\Omega_1$ について $\Phi(q)$ の近くで $A\cap U=Z(f_1,\dots,f_k)$ とすると、$\Phi^{-1}(U)$ の上で $\Phi^{-1}(A)=Z(f_1\circ\Phi,\dots,f_k\circ\Phi)$ である。$\square$
点 $p\in\Omega$ を固定する。2 つの集合 $A,B$ が $p$ で同じ芽をもつとは、$p$ のある近傍 $W$ で $A\cap W=B\cap W$ となることをいい、その同値類を $(A,p)$ と書く。$A\cap W\subset B$ となる $W$ があるとき $(A,p)\subset(B,p)$ と書く。和集合と共通部分は芽の上でも定まる。$p$ の近傍の解析集合の芽を解析集合の芽という。座標を平行移動して $p=0$ とし、$p$ での正則関数の芽の環を $\mathcal{O}_p=\mathbb{C}\{z\}$ と書く(収束冪級数環)。
$V_p(I)$ は生成元のとり方によらない。実際、$(g_1,\dots,g_l)=(f_1,\dots,f_k)$ なら $p$ の近くで $g_i=\sum_ja_{ij}f_j$ と書けるので $Z(f)\subset Z(g)$ であり、逆も同じである。同じ理由で、$I\subset J$ なら $V_p(J)\subset V_p(I)$ である。
$X,Y$ を $p$ での解析集合の芽とする。
逆向きに、イデアル $I$ から作った $V_p(I)$ の消滅イデアルが $I$ の根基 $\sqrt I$ に一致することが Rückertの零点定理 である。これにより、$p$ での解析集合の芽と $\mathcal{O}_p$ の根基イデアルは $X\mapsto I_p(X)$、$I\mapsto V_p(I)$ で一対一に対応する。
空でない($p\in A$ となる)解析集合の芽 $X$ が既約であるとは、解析集合の芽 $X_1,X_2$ について $X=X_1\cup X_2$ なら $X=X_1$ または $X=X_2$ となることをいう。
$X$ を $p$ での空でない解析集合の芽とする。
thm-as-irreducible の 2 の $X_i$ を $X$ の既約成分という。最後の等式は、消滅イデアルが有限個の素イデアルの共通部分であることを述べており、Hor90 Lemma 6.5.3(p. 168)にある。
$\mathbb{C}^n$ の点を $z=(z',w)$、$z'\in\mathbb{C}^{n-1}$、$w\in\mathbb{C}$ と書き、$D(\rho):=\{|w|<\rho\}$、$\Delta'$ を $\mathbb{C}^{n-1}$ の原点を中心とする多重円板とする。
$h$ を原点の近傍で正則で、$h(0)=0$、$w$ について $b$ 次の正則($h(0,w)=w^be(w)$、$e(0)\ne0$、$b\ge1$)とする。このとき原点を中心とする多重円板 $P=\Delta'\times D(\rho)$ で次を満たすものが、原点のいくらでも小さい近傍の中にとれる:$h$ は $P$ の近傍で正則で、$Z:=Z(h)\cap P$ は $\Delta'\times D(\rho/2)$ に含まれ、各 $z'\in\Delta'$ について $Z\cap(\{z'\}\times D(\rho))$ は $b$ 個以下の点からなる。さらに $P\setminus Z$ は連結で、$P$ の中で稠密である。
Weierstrassの予備定理 の補題「根の個数は $z'$ によらない」により、$\rho>0$ と多重円板 $\Delta'_0$ を小さくとって、各 $z'\in\Delta'_0$ について $h(z',\cdot)$ が $D(\rho)$ にちょうど $b$ 個の零点を重複度こみでもつようにできる。同じ補題を半径 $\rho/2$ に使うと、多重円板 $\Delta'_1$ があって、$z'\in\Delta'_1$ なら $D(\rho/2)$ にもちょうど $b$ 個の零点がある。$\Delta'\subset\Delta'_0\cap\Delta'_1$ を原点中心の多重円板とすると、$z'\in\Delta'$ について $D(\rho)$ 内の $b$ 個の零点はすべて $D(\rho/2)$ に入るので、$Z\subset\Delta'\times D(\rho/2)$ で、各縦の円板の上の $Z$ の点は $b$ 個以下である。
連結性:$R:=\Delta'\times\{\rho/2<|w|<\rho\}$ は連結集合の直積なので連結で、$Z$ と交わらない。$(z',w)\in P\setminus Z$ をとると、$D(\rho)$ から有限個の点を除いた集合は弧状連結なので、$\{z'\}\times D(\rho)$ の中で $Z$ を避けて $(z',w)$ と $R$ の点を結べる。よって $P\setminus Z$ のすべての点は $P\setminus Z$ の中で連結集合 $R$ とつながり、$P\setminus Z$ は連結である。稠密性:各縦の円板から有限個の点を除いた集合はその円板で稠密なので、$P\setminus Z$ は $P$ で稠密である。$\square$
$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を連結な開集合、$A\subset\Omega$ を解析集合で $A\ne\Omega$ とする。このとき
段階 2:大域的な連結性。 $\Omega\setminus A=U_1\cup U_2$($U_1,U_2$ は交わらない開集合)とする。$i=1,2$ について、段階 1 の性質をもつ近傍 $P$ で $P\setminus A\subset U_i$ となるものがとれる点 $x\in\Omega$ の全体を $V_i$ とおく。
段階 2 は、局所的に連結な補集合が貼り合わさって大域的に連結になることを示す一般的な議論で、使ったのは「各点のよい近傍」と「$A$ の内部が空」の 2 つだけである。
$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$A\subset\Omega$ を内部が空の解析集合とする。$f$ が $\Omega\setminus A$ の上で正則で、$A$ の各点の近傍で有界なら、$\Omega$ 上の正則関数 $F$ で $F|_{\Omega\setminus A}=f$ となるものがただ一つ存在する。
$A$ は閉集合で内部が空なので $\Omega\setminus A$ は稠密であり、一意性はこれから従う。存在は局所的に示せばよく、局所的な延長は稠密な集合の上で $f$ と一致するので貼り合わさる。$x\in A$ をとり、prf-as-connected の段階 1 のように $x$ の連結な近傍 $U$ と $U$ 上で恒等的に $0$ でない $h\in\mathcal{O}(U)$ を、$A\cap U\subset Z(h)$ で $f$ が $U\setminus A$ で有界となるようにとる。$f$ を $U\setminus Z(h)$ に制限すると、有界な正則関数なので、零点集合を越える Riemann の拡張定理(Leb26t Theorem 1.6.1、p. 40。1 変数の Riemannの拡張定理 を縦の円板ごとに使う)により $F_U\in\mathcal{O}(U)$ で $U\setminus Z(h)$ の上で $f$ と一致するものがある。$U\setminus Z(h)$ は $U\setminus A$ で稠密で、$F_U$ と $f$ はともに $U\setminus A$ の上で連続なので、$U\setminus A$ の上で $F_U=f$ である。$\square$
解析集合 $A\subset\Omega$ の点 $p$ が正則点であるとは、座標の番号を付け替えると、$p$ の近傍 $U'\times U''\subset\mathbb{C}^k\times\mathbb{C}^{n-k}$ と正則写像 $\phi\colon U'\to\mathbb{C}^{n-k}$ があって、$A\cap(U'\times U'')$ が $\phi$ のグラフ $\{(x,\phi(x))\mid x\in U'\}$ に一致することをいう。このとき $k$ を $p$ での $A$ の次元、$n-k$ を余次元という。正則点でない点を特異点という。
正則点の全体は $A$ の中で稠密である(Leb26t Lemma 6.5.10、p. 187。この記事では証明しない)。そこで $A$ の次元を正則点での次元の最大値と定め、余次元を $n$ からそれを引いたものと定める。定義は Leb26t Definition 6.5.5(p. 185)・Definition 6.5.7(p. 186)による。連結な $\Omega$ の上で恒等的に $0$ でない正則関数の零点集合 $Z(f)$ では、座標の番号を付け替えて局所的に $z_n=\phi(z_1,\dots,z_{n-1})$ の形のグラフになる点の全体が、$Z(f)$ の中で開かつ稠密である(Leb26t Theorem 1.6.2、p. 42。この記事では証明しない)。$n\ge2$ のとき、開集合から 1 点を除いた集合の上の正則関数は、有界性の仮定なしにその点を越えて延長される(Hartogsの拡張定理 の系「1 点を除いた開集合からの延長」)。そのため、たとえば $\mathbb{C}^2\setminus\{0\}$ は Stein 多様体ではない(Stein空間)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A$ が正則関数の零点で書ける | $A=\{\operatorname{Im}z_1=0\}\subset\mathbb{C}^n$ | $\Omega\setminus A$ が連結 |
| $\Omega$ が連結 | $\Omega=D(0,1)\cup D(3,1)\subset\mathbb{C}$、$A=D(3,1)$ | $A$ の内部が空 |
| $f$ が $A$ の近くで有界 | $\Omega=\mathbb{C}^2$、$A=\{z_1=0\}$、$f=1/z_1$ | $f$ の $\Omega$ への正則な延長 |
ここで $D(a,1)$ は $a$ を中心とする半径 $1$ の円板である。
解析集合の定義と基本性質は Hor90 §6.5(pp. 167–176)と Leb26t §6.5(pp. 182–)にある。Hor90 Theorem 6.5.2(p. 168)は、解析集合の各点の近傍で有限個の正則関数が近傍のすべての点で消滅イデアルを生成すること(消滅イデアルの層の連接性)を示しており、複素解析空間 の構造層を解析集合の上に載せるときの基礎になる。GR79 第 A 章 §3.5(pp. 18–19)は複素解析空間の解析集合を連接イデアル層の台として述べ、既約成分への分解と零点定理の層の形を述べている。
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