Koebeの1/4定理(Koebe one-quarter theorem)とは、単位開円板上の単葉関数(単射な正則関数)$f$ で $f(0)=0$、$f'(0)=1$ と正規化されたものの像が、必ず原点中心・半径 $1/4$ の開円板を含むという定理である。定数 $1/4$ は最良で、Koebe 関数 $z/(1-z)^2$ は円板を $\mathbb{C}\setminus(-\infty,-1/4]$ に写し $-1/4$ を像に含まない。証明は、$|z|>1$ 上の単葉関数の像の補集合の面積が非負であることから得られる面積定理と、そこから導かれる Bieberbach の不等式 $|a_2|\leq2$ を、像から抜けた点 $w$ による Möbius 変換との合成に適用して行う。単葉関数論の出発点であり、Poincaré 密度の評価にも使われる。
前提知識: 正則関数, 単葉関数, Taylor展開(複素解析), Greenの定理
$\mathbb{D}:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|<1\}$ を 単位円板(原点中心・半径 $1$ の 開円板)とする。$\mathbb{D}$ 上の正則関数 $f\colon\mathbb{D}\to\mathbb{C}$ が 単射 であるとき、$f$ を $\mathbb{D}$ 上の単葉関数(univalent function)という。単葉関数 $f$ が正規化されているとは
$$f(0)=0,\qquad f'(0)=1$$
を満たすことをいい、正規化された単葉関数全体の集合を $S$ と書く。$f\in S$ の $0$ を中心とする Taylor 展開は
$$f(z)=z+a_2z^2+a_3z^3+\cdots\qquad(|z|<1)$$
の形をしている。また
$$k(z):=\frac{z}{(1-z)^2}=\sum_{n=1}^{\infty}nz^n\qquad(|z|<1)$$
を Koebe 関数という。$k\in S$ である(ex-koebe-quarter-theorem-koebe-function)。
$f\in S$、すなわち $f$ を単位開円板 $\mathbb{D}$ 上の単葉関数で $f(0)=0$、$f'(0)=1$ を満たすものとする。このとき像 $f(\mathbb{D})$ は半径 $1/4$ の開円板を含む:
$$\Bigl\{w\in\mathbb{C}\ \Big|\ |w|<\frac14\Bigr\}\subset f(\mathbb{D}).$$
定数 $1/4$ は最良であり、Koebe 関数 $k$ の像は $-1/4$ を含まない。
$w\in\mathbb{C}\setminus f(\mathbb{D})$ を像に属さない任意の点とし、$|w|\geq1/4$ を示す。$f(0)=0$ より $w\neq0$ である。
$$F(z):=\frac{w\,f(z)}{w-f(z)}\qquad(z\in\mathbb{D})$$
とおく。$f(z)\neq w$ だから分母は $0$ にならず、$F$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数である。$F$ は $f$ と Möbius 変換(Möbius変換)$T(u):=wu/(w-u)$ の合成 $F=T\circ f$ であり、$T$ は $\mathbb{C}\setminus\{w\}$ 上で単射($T(u)=T(u')$ なら $wu(w-u')=wu'(w-u)$、すなわち $w^2(u-u')=0$)だから、$F$ は単葉関数である。$|u|<|w|$ で
$$T(u)=u\cdot\frac{1}{1-u/w}=u+\frac{u^2}{w}+\frac{u^3}{w^2}+\cdots$$
であり、$f(z)=z+a_2z^2+\cdots$ を代入して $z^2$ までの項を比べると
$$F(z)=z+\Bigl(a_2+\frac1w\Bigr)z^2+\cdots$$
である。ゆえに $F(0)=0$、$F'(0)=1$ であり $F\in S$ である。thm-koebe-quarter-theorem-bieberbach を $f$ と $F$ の両方に適用すると $|a_2|\leq2$、$|a_2+1/w|\leq2$ であり、
$$\frac{1}{|w|}=\Bigl|\Bigl(a_2+\frac1w\Bigr)-a_2\Bigr|\leq|a_2+1/w|+|a_2|\leq4$$
から $|w|\geq1/4$ を得る。したがって $|w|<1/4$ なる $w$ はすべて $f(\mathbb{D})$ に属する。最良性は ex-koebe-quarter-theorem-koebe-function による。
単位円板上の単葉関数は、単射であるというだけで像の形に強い制約を受ける。原点での微分係数を $1$ に正規化すると、像は原点の近くでは円板を「ほぼそのまま」写した形をしており、どれほど細長く伸びていても原点のまわりの半径 $1/4$ の円板だけは必ず覆う、というのが Koebe の 1/4 定理である。証明の核は Bieberbach の不等式 $|a_2|\leq2$ で、像から抜けた点 $w$ があると、Möbius 変換で合成した別の正規化単葉関数の第 2 係数が $a_2+1/w$ になり、その絶対値も $2$ 以下でなければならないことから $|w|\geq1/4$ が出る。Bieberbach の不等式自体は、単葉関数の像の補集合の 面積 が非負であるという面積定理から従う。Koebe 関数 $z/(1-z)^2$ は円板を負の実軸の半直線 $(-\infty,-1/4]$ を除いた平面に写し、$-1/4$ を像に含まないので、定数 $1/4$ はこれ以上大きくできない。この定理は単葉関数論の出発点であり、双曲計量(Poincaré 密度)の評価などにも使われる。
$k(z)=z/(1-z)^2$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数で、$k(0)=0$、$k'(z)=(1+z)/(1-z)^3$ より $k'(0)=1$ である。
$$k(z)=\frac14\Bigl[\Bigl(\frac{1+z}{1-z}\Bigr)^2-1\Bigr]$$
と書ける(右辺を通分すれば確かめられる)。Möbius 変換 $z\mapsto\zeta:=(1+z)/(1-z)$ は $\mathbb{D}$ を 右半平面 $\{\operatorname{Re}\zeta>0\}$ の上に単射に写し(逆写像は $\zeta\mapsto(\zeta-1)/(\zeta+1)$ で、$|\zeta-1|<|\zeta+1|$ は $\operatorname{Re}\zeta>0$ と同値)、$\zeta\mapsto\zeta^2$ は右半平面を $\mathbb{C}\setminus(-\infty,0]$ の上に単射に写す(偏角 が $(-\pi/2,\pi/2)$ の複素数の 2 乗は偏角が $(-\pi,\pi)$ の複素数を一意に表す)。したがって $k$ は単葉で、
$$k(\mathbb{D})=\mathbb{C}\setminus\Bigl(-\infty,-\frac14\Bigr]$$
である。特に $-1/4\notin k(\mathbb{D})$ であり、$k(\mathbb{D})$ は半径 $1/4$ の開円板を含むが、それより大きい半径の原点中心の円板は含まない。Taylor 展開は $k(z)=z\cdot\frac{d}{dz}\frac{1}{1-z}=\sum_{n\geq1}nz^n$ で、$a_2=2$ は thm-koebe-quarter-theorem-bieberbach の等号を与える。
$\theta\in\mathbb{R}$ に対し $k_\theta(z):=e^{-i\theta}k(e^{i\theta}z)$ とおくと、$k_\theta\in S$ であり、$k_\theta(\mathbb{D})=\mathbb{C}\setminus\{-te^{-i\theta}\mid t\geq1/4\}$ である。すべての $\theta$ についての像の共通部分は
$$\bigcap_{\theta}k_\theta(\mathbb{D})=\Bigl\{w\ \Big|\ |w|<\frac14\Bigr\}$$
となる。すなわち、$S$ のすべての関数の像に共通して含まれる集合(Koebe 領域)はちょうど半径 $1/4$ の開円板であり、thm-koebe-quarter-theorem-main はこの意味でも最良である。
$f(z)=z/(1-z)$ は Möbius 変換だから単葉で、$f(0)=0$、$f'(z)=1/(1-z)^2$ より $f'(0)=1$、したがって $f\in S$ である。$f(z)=-1+1/(1-z)$ であり、$z\mapsto1/(1-z)$ は $\mathbb{D}$ を半平面 $\{\operatorname{Re}u>1/2\}$ の上に写すから、$f(\mathbb{D})=\{\operatorname{Re}w>-1/2\}$ である。この像は半径 $1/2$ の開円板を含み、定理の $1/4$ より大きい円板を含む例である。Taylor 展開 $f(z)=z+z^2+z^3+\cdots$ より $a_2=1$ で、Bieberbach の不等式は等号にならない。
次の例は、定理のどの仮定を破ると結論が破れるかを示す。
$q$ を $\mathbb{D}$ 上の正則関数で $q(0)=1$ かつ $q(z)\neq0$($z\in\mathbb{D}$)を満たすものとする。このとき $\mathbb{D}$ 上の正則関数 $L$ で $L(0)=0$、$e^{L}=q$ となるものが存在し、$\phi:=e^{L/2}$ は $\phi(0)=1$、$\phi^2=q$ を満たす。
$q'/q$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数だから、$0$ を中心とする Taylor 展開 $q'(z)/q(z)=\sum_{n\geq0}c_nz^n$ は $\mathbb{D}$ 全体で収束する(正則関数の Taylor 展開が、中心を含み定義域に含まれる開円板全体で収束することは既知とする。出典 Ahl79 Chapter 4 §3)。これを項別に積分した冪級数 $L(z):=\sum_{n\geq0}\dfrac{c_n}{n+1}z^{n+1}$ は同じ収束半径を持ち($\limsup|c_n/(n+1)|^{1/n}=\limsup|c_n|^{1/n}$)、冪級数の項別微分(出典 Ahl79 Chapter 2 §2)により $\mathbb{D}$ 上で正則で $L'=q'/q$、$L(0)=0$ を満たす。すなわち $L$ は $q'/q$ の $\mathbb{D}$ 上の 原始関数 である。このとき$(qe^{-L})'=q'e^{-L}-qL'e^{-L}=(q'-q\cdot q'/q)e^{-L}=0$ だから、$qe^{-L}$ は連結な $\mathbb{D}$ 上で定数であり、その値は $q(0)e^{0}=1$ である。ゆえに $q=e^{L}$ であり、$\phi:=e^{L/2}$ は $\phi^2=e^{L}=q$、$\phi(0)=1$ を満たす。
$\Delta:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|>1\}$ とし、$g\colon\Delta\to\mathbb{C}$ を単射な正則関数で、$\Delta$ 上の Laurent展開 が
$$g(z)=z+b_0+\sum_{n=1}^{\infty}b_nz^{-n}\qquad(|z|>1)$$
の形をしているものとする。このとき
$$\sum_{n=1}^{\infty}n|b_n|^2\leq1$$
が成り立つ。
$r>1$ を固定し、$C_r$ を円周 $|z|=r$ を反時計回りに一周する閉曲線 $\theta\mapsto re^{i\theta}$($0\leq\theta\leq2\pi$)とする。$g$ は単射だから $g\circ C_r$ は 単純閉曲線 であり、開写像定理(複素解析) の記事の系(単射な正則写像の逆写像)により $g'\neq0$ なので $C^1$ 級の正則なパラメータ表示を持つ。Jordan曲線定理(本記事では証明しない。この設定での用い方は Dur83 §2.2 の面積定理の証明に従う)により $\mathbb{C}\setminus g(C_r)$ は有界な成分 $E_r$ と非有界な成分に分かれる。
$g\circ C_r$ の向きが $E_r$ に対して正であることを確かめる。$g(\{|z|>r\})$ は連結な集合で $g(C_r)$ と交わらず(単射性)、$|z|\to\infty$ で $|g(z)|\to\infty$ だから有界でなく、したがって非有界成分に含まれる。よって $w_0\in E_r$ に対し $w_0\notin g(\{|z|\geq r\})$ であり、$\rho\geq r$ について閉曲線 $g\circ C_\rho$ の $w_0$ に関する 回転数 $n(g\circ C_\rho,w_0)$ は $\rho$ によらない($\rho$ を動かすことは $\mathbb{C}\setminus\{w_0\}$ 内の閉曲線の ホモトピー であり、回転数がホモトピーで変わらないことは既知とする。出典 Ahl79 Chapter 4)。$g(z)/z\to1$($|z|\to\infty$)だから、$\rho$ が十分大きいとき $g(\rho e^{i\theta})=\rho e^{i\theta}(1+\varepsilon(\theta))$、$|\varepsilon(\theta)|<1/2$ かつ $\rho/2>|w_0|$ とできる。このとき $\rho e^{i\theta}$ と $g(\rho e^{i\theta})$ を結ぶ線分上の点は絶対値が $\rho(1-|\varepsilon(\theta)|)>\rho/2>|w_0|$ なので $w_0$ を通らず、2 つの閉曲線は $\mathbb{C}\setminus\{w_0\}$ 内でホモトピックであり、$n(g\circ C_\rho,w_0)=n(C_\rho,w_0)=1$ である。ゆえに $n(g\circ C_r,w_0)=1$ であり、$g\circ C_r$ は $E_r$ の 境界 を正の向きに一周する。
Greenの定理(本記事では証明しない。出典 Rud76 Chapter 10)により、$C^1$ 級の単純閉曲線 $\gamma$ が囲む有界領域 $E$ の面積は $\operatorname{Area}(E)=\dfrac{1}{2i}\displaystyle\oint_{\gamma}\bar w\,dw$($\gamma$ は正の向き)で与えられる。$w=g(z)$、$z=re^{i\theta}$ とおくと $dw=g'(z)\,dz=g'(re^{i\theta})\,ire^{i\theta}\,d\theta$ であり、
$$\operatorname{Area}(E_r)=\frac{1}{2i}\int_0^{2\pi}\overline{g(re^{i\theta})}\,g'(re^{i\theta})\,ire^{i\theta}\,d\theta.$$
$g(re^{i\theta})=re^{i\theta}+b_0+\sum_{n\geq1}b_nr^{-n}e^{-in\theta}$、$g'(re^{i\theta})=1-\sum_{n\geq1}nb_nr^{-n-1}e^{-i(n+1)\theta}$ であり、これらの級数は $|z|=r$ 上で 絶対一様収束 する(Laurent 展開が収束環状領域の内部のコンパクト集合上で絶対一様収束することは既知とする。出典 Ahl79 Chapter 5 §1)から、積を展開して項別に積分してよい。$\int_0^{2\pi}e^{im\theta}d\theta$ は $m=0$ のとき $2\pi$、$m\neq0$ のとき $0$ だから、$\theta$ に依存しない項だけが残る。$\overline{g}\cdot g'\cdot ire^{i\theta}$ において $\theta$ に依存しない項は、$re^{-i\theta}\cdot1\cdot ire^{i\theta}=ir^2$ と、各 $n\geq1$ について $\overline{b_n}r^{-n}e^{in\theta}\cdot(-nb_nr^{-n-1}e^{-i(n+1)\theta})\cdot ire^{i\theta}=-in|b_n|^2r^{-2n}$ である。したがって
$$\operatorname{Area}(E_r)=\frac{1}{2i}\cdot2\pi i\Bigl(r^2-\sum_{n\geq1}n|b_n|^2r^{-2n}\Bigr)=\pi\Bigl(r^2-\sum_{n\geq1}n|b_n|^2r^{-2n}\Bigr).$$
面積は非負だから $\sum_{n\geq1}n|b_n|^2r^{-2n}\leq r^2$ である。任意の $N$ について $\sum_{n=1}^{N}n|b_n|^2r^{-2n}\leq r^2$ であり、$r\to1^+$ とすれば $\sum_{n=1}^{N}n|b_n|^2\leq1$、さらに $N\to\infty$ とすれば主張を得る。
$f(z)=z+a_2z^2+a_3z^3+\cdots\in S$ に対し $|a_2|\leq2$ が成り立つ。
$q(z):=f(z)/z$($z\neq0$)、$q(0):=1$ とおくと、$q(z)=1+a_2z+a_3z^2+\cdots$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数である。$f$ は単射で $f(0)=0$ だから $z\neq0$ で $f(z)\neq0$、すなわち $q$ は $\mathbb{D}$ 上で $0$ をとらない。lem-koebe-quarter-theorem-log により正則関数 $\phi$ で $\phi^2=q$、$\phi(0)=1$ となるものがある。$\phi(u)=1+c_1u+\cdots$ とおくと $\phi(u)^2=1+2c_1u+\cdots=1+a_2u+\cdots$ だから $c_1=a_2/2$ である。
$h(z):=z\,\phi(z^2)$ とおく。$h$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数で、$h(z)^2=z^2q(z^2)=f(z^2)$ を満たし、奇関数 である。$h$ は単射である:$h(z_1)=h(z_2)$ なら $f(z_1^2)=f(z_2^2)$、$f$ の単射性から $z_1^2=z_2^2$、よって $z_1=\pm z_2$ である。$z_1=-z_2$ なら $h(z_1)=h(-z_2)=-h(z_2)=-h(z_1)$ より $h(z_1)=0$、$f(z_1^2)=0$、$f$ の単射性と $f(0)=0$ から $z_1=0=z_2$ である。いずれにせよ $z_1=z_2$ である。また
$$h(z)=z\Bigl(1+\frac{a_2}{2}z^2+\cdots\Bigr)=z+\frac{a_2}{2}z^3+\cdots$$
である。
$G(z):=1/h(1/z)$($|z|>1$)とおく。$h$ の零点は $0$ だけ($h(z)=0$ なら $f(z^2)=0$ で $z=0$)だから $G$ は $\Delta$ 上の正則関数で、単射写像 $z\mapsto1/z$、$h$、$u\mapsto1/u$ の合成として単射である。$1/\phi(u^2)$ は $\mathbb{D}$ 上の正則関数で Taylor 展開 $1-\dfrac{a_2}{2}u^2+\cdots$(偶関数)を持つから、
$$G(z)=\frac{z}{\phi(1/z^2)}=z\Bigl(1-\frac{a_2}{2}z^{-2}+\cdots\Bigr)=z-\frac{a_2}{2}z^{-1}+b_3z^{-3}+\cdots$$
であり、これは thm-koebe-quarter-theorem-area の形の Laurent 展開($b_0=0$、$b_1=-a_2/2$)である。面積定理により $|b_1|^2\leq\sum_{n\geq1}n|b_n|^2\leq1$、すなわち $|a_2|/2\leq1$ である。
$|a_2|=2$ となるのは $f$ が Koebe 関数の回転 $k_\theta$(ex-koebe-quarter-theorem-rotation)のときに限る。証明は Dur83 §2.2 に譲る。一般の係数について $|a_n|\leq n$($n\geq2$)が成り立つという Bieberbach 予想は de Branges により証明された(de Brangesの定理、Dur83 §2.2 および Chapter 3 に予想の背景がある)。
$f\in S$ と $z\in\mathbb{D}$ に対し
$$\frac{|z|}{(1+|z|)^2}\leq|f(z)|\leq\frac{|z|}{(1-|z|)^2},\qquad\frac{1-|z|}{(1+|z|)^3}\leq|f'(z)|\leq\frac{1+|z|}{(1-|z|)^3}$$
が成り立つ。いずれも Koebe 関数の回転で等号が実現される。
証明は thm-koebe-quarter-theorem-bieberbach を $f$ と円板の 自己同型 との合成に適用して $f''/f'$ の評価を得、積分することで行われる。Dur83 §2.3 に譲る。$|f(z)|$ の下からの評価で $|z|\to1$ とすると $\liminf|f(z)|\geq1/4$ となり、thm-koebe-quarter-theorem-main の別証明が得られる。
$\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ を単連結(単連結空間)な領域、$w_0\in\Omega$ とし、$F\colon\mathbb{D}\to\Omega$ を $F(0)=w_0$ を満たす単射な正則全射(Riemannの写像定理 による等角写像。本記事ではその存在を既知とする。出典 Ahl79 Chapter 6)とする。単位円板の Poincaré 密度を $\lambda_{\mathbb{D}}(z):=1/(1-|z|^2)$ と正規化し(文献によっては $2/(1-|z|^2)$ を採用する)、$\Omega$ の Poincaré 密度(双曲計量 の密度)を $\lambda_\Omega(w_0):=\lambda_{\mathbb{D}}(0)/|F'(0)|=1/|F'(0)|$ と定める。この値は $F$ の取り方によらない(prf-koebe-quarter-theorem-poincare-density で確かめる)。このとき
$$\lambda_\Omega(w_0)\geq\frac{1}{4\,\operatorname{dist}(w_0,\partial\Omega)}$$
が成り立つ。ここで $\operatorname{dist}(w_0,\partial\Omega)$ は $w_0$ から $\Omega$ の境界までの距離である。
まず $\lambda_\Omega(w_0)$ が $F$ によらないことを見る。$\tilde F$ を同じ条件を満たす別の写像とすると、$\psi:=F^{-1}\circ\tilde F$ は $\mathbb{D}$ から $\mathbb{D}$ への単射な正則全射($\mathbb{D}$ の自己同型)で $\psi(0)=0$ を満たす。$0$ を固定する $\mathbb{D}$ の自己同型は回転 $z\mapsto e^{i\theta}z$ に限る(Schwarz の補題による。本記事では証明しない。出典 Ahl79 Chapter 4 §3、Dur83 Chapter 1)から $|\psi'(0)|=1$ であり、$\tilde F=F\circ\psi$ より $|\tilde F'(0)|=|F'(0)|\,|\psi'(0)|=|F'(0)|$ である。
$F'(0)\neq0$ である(開写像定理(複素解析) の記事の系(単射な正則写像の逆写像))。$f(z):=(F(z)-w_0)/F'(0)$ とおくと $f\in S$ であり、thm-koebe-quarter-theorem-main により $f(\mathbb{D})\supset B(0,1/4)$、すなわち $\Omega=F(\mathbb{D})\supset B(w_0,|F'(0)|/4)$ である。ゆえに $\operatorname{dist}(w_0,\partial\Omega)\geq|F'(0)|/4=1/(4\lambda_\Omega(w_0))$ であり、これが主張である。
面積定理と Bieberbach の不等式を経由する上の証明は Dur83 §2.2 の標準的なものである。別の方法として、extremal length(曲線族 の extremal な長さ、極値的長さ)を用いる証明がある。方針は、像に属さない点 $w$ を持つ $f\in S$ に対し、Koebe 関数を Riemann球面 からそれ自身への 2 対 1 の 分岐被覆 とみなし、$f$ をこの被覆で持ち上げて 2 つの互いに素な像を持つ関数を作り、小さい円板 $|z|< r$ と単位円板の間の円環(環状領域)の像を extremal length の series law(直列則)で評価して、$r\to0$ の極限で $|f'(0)|$ に関する不等式を得るというものである。extremal length の一般論と series law は Ahl10 Chapter 4 にある。Koebe の 1/4 定理は Riemann の写像定理と組み合わせて cor-koebe-quarter-theorem-poincare-density のような双曲幾何の評価を与え、また単葉関数の族 $S$ が正規族(正規族)であることの出発点として、単葉関数論全体(Bieberbach予想・de Brangesの定理)の基礎になる。
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