エントロピー(entropy)とは、値が有限個または可算個の確率分布 $p$ に対して $H(p)=-\sum_x p(x)\log p(x)$ で定まる量で、分布の不確かさ、すなわち結果を知ったときに平均して得られる情報の量を表す。値が $n$ 個なら $0\le H\le\log n$ で最大は一様分布、独立な確率変数の組では足し算になり、これらは Kullback–Leibler 情報量が $0$ 以上であるという Gibbs の不等式から従う。同じ割合をもつ並びの個数や独立な試行の典型的な列の個数はおよそ $e^{nH}$ であり、接頭符号の 1 記号あたりの平均の長さは $H/\log 2$ ビット以上で、まとめて符号化すればいくらでもそれに近づけられる。情報の圧縮・通信・統計学・統計力学に共通する基本量である。
公平な硬貨を 1 回投げた結果を相手に伝えるには、0 か 1 の 1 文字が要る。公平なさいころなら 1 文字では足りず、8 面の公平なさいころなら 3 文字でちょうど足りる。では、表が出る確率が $0.9$ の硬貨の結果を何度も伝えるとき、1 回あたり平均して何文字あれば足りるか。答えは約 $0.469$ 文字であり、この数が硬貨の エントロピー である。エントロピーは、確率分布がどれだけ不確かか(結果を知ったときに平均してどれだけの情報が得られるか)を 1 つの数で測る量であり、情報の圧縮・通信・統計・統計力学に共通する基本量である。
この記事で扱うのは、確率分布について定める情報理論の(Shannon の)エントロピーである。熱力学・統計力学のエントロピーや、力学系の測度論的エントロピー・位相的エントロピーは、これと関係するが別に定義される量であり、この記事では扱わない(統計力学のエントロピーと力学系の測度論的エントロピーは補足で触れる)。この記事では、離散分布のエントロピーとその仲間(同時エントロピー・条件付きエントロピー・相互情報量・Kullback–Leibler 情報量)を定義し、計算の公式の表と手順を示す。中心の定理は Gibbs の不等式であり、これから「エントロピーは一様分布で最大」「独立なら足し算」などの基本性質が出る。後半では、エントロピーが「同じ割合をもつ並びの個数」と「典型的な列の個数」の指数の増え方を与えることと、圧縮の限界(平均の符号長はエントロピー以上で、エントロピー $+1$ 未満にできる)を証明する。
以下、$X$ は有限集合または可算集合 $\mathcal X$ に値をとる確率変数で、$p(x):=P(X=x)$ とする。$\log$ は自然対数とし、$0\log0:=0$ と約束する($t\log t\to0$($t\to+0$)なので、この約束で $t\log t$ は $[0,1]$ 上で連続になる)。
$X$ の エントロピー(entropy)を
$$
H(X):=-\sum_{x\in\mathcal X}p(x)\log p(x)=E\bigl[-\log p(X)\bigr]\in[0,\infty]
$$
で定める(各項は $0$ 以上なので和は $[0,\infty]$ の値として定まる)。$H(X)$ は $X$ の分布 $p=(p(x))_x$ だけで決まるので $H(p)$ とも書く。自然対数を使うときの単位を nat、$\log_2$ を使うときの単位を bit といい、$H_2(X):=H(X)/\log2$ と書く。
$-\log p(x)$ は「結果 $x$ を知ったときの驚きの大きさ」で、起こりにくい結果ほど大きい。エントロピーはその期待値である(bit による定義と基本性質は Mac03 §2.4(pp. 32–33))。
$X,Y$ を有限集合に値をとる確率変数とし、$p(x,y):=P(X=x,Y=y)$、$p(y\mid x):=p(x,y)/p(x)$($p(x)>0$ のとき)とする。
$p,q$ を可算集合 $\mathcal X$ 上の確率分布とする。$p(x)>0$ かつ $q(x)=0$ となる $x$ があれば $D(p\|q):=\infty$ とし、なければ
$$
D(p\|q):=\sum_{x:\,p(x)>0}p(x)\log\frac{p(x)}{q(x)}
$$
とおく。これを $p$ の $q$ に対する Kullback–Leibler 情報量(相対エントロピー)という。
$\log t\ge1-\frac1t$($t>0$)により各項は $p(x)\log\frac{p(x)}{q(x)}\ge p(x)-q(x)$ を満たし、負の項の絶対値の和は $\sum_x|p(x)-q(x)|\le2$ 以下なので、$D(p\|q)$ は $(-\infty,\infty]$ の値として定まる。次の定理により実際には $D(p\|q)\ge0$ である。
使える条件:
| 分布 | $H$(nat) | 条件 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 点に集中($p(x_0)=1$) | $0$ | thm-ent-bounds | |
| $n$ 点の一様分布 | $\log n$ | $n\ge1$ | 定義から直接 |
| Bernoulli 分布(確率 $p$ で $1$) | $h(p):=-p\log p-(1-p)\log(1-p)$ | $0\le p\le1$ | 定義から直接 |
| 幾何分布 $P(X=k)=(1-p)^{k-1}p$($k\ge1$) | $h(p)/p$ | $0< p\le1$ | ex-ent-geometric |
| 独立な $X,Y$ の組 | $H(X)+H(Y)$ | 独立、値が有限個 | thm-ent-chain |
| 単射 $f$ による $f(X)$ | $H(X)$ | $f$ が単射 | 確率の値の並びが同じ |
| 一般の関数 $f$ による $f(X)$ | $H(f(X))\le H(X)$ | 値が有限個 | thm-ent-chain |
$0< p< 1$ とする。$-\log P(X=k)=-\log p-(k-1)\log(1-p)$ で、$E[X-1]=\frac{1-p}p$ なので、$H(X)=-\log p-\frac{1-p}p\log(1-p)=\frac{h(p)}p$ である($p=1$ なら $X=1$ に集中して $H=0=h(1)/1$)。たとえば $p=\frac12$ では $2\log2\approx1.386294$ nat $=2$ bit であり、これは「表が出るまでの回数」を伝えるのに平均 2 文字要ることに当たる。
可算集合上の確率分布 $p,q$ について $D(p\|q)\ge0$ であり、等号は $p=q$ のときに限る。
$g(t):=t-1-\log t$($t>0$)は $g'(t)=1-\frac1t$ により $t=1$ で最小値 $0$ をとり、$t\ne1$ では $g(t)>0$ である。すなわち $\log t\le t-1$ で、等号は $t=1$ のときに限る。
$D(p\|q)=\infty$ なら主張は明らかなので、$D(p\|q)< \infty$ とする(とくに $p(x)>0$ なら $q(x)>0$ である)。$S:=\{x\mid p(x)>0\}$ とおくと
$$
-D(p\|q)=\sum_{x\in S}p(x)\log\frac{q(x)}{p(x)}\le\sum_{x\in S}p(x)\Bigl(\frac{q(x)}{p(x)}-1\Bigr)=\sum_{x\in S}q(x)-1\le0
$$
である(項ごとの不等式を足した。両辺の和はどちらも収束する)。よって $D(p\|q)\ge0$ である。等号が成り立てば、上の 2 つの不等号がどちらも等号である。最初の等号から、すべての $x\in S$ で $q(x)/p(x)=1$ である。次の等号から $\sum_{x\in S}q(x)=1$ なので、$S$ の外では $q(x)=0=p(x)$ である。よって $p=q$ である。逆に $p=q$ なら各項が $0$ である。$\square$
$X$ が $n$ 個の元からなる集合 $\mathcal X$ に値をとるとき
$$
0\le H(X)\le\log n
$$
である。左の等号は $X$ がある 1 つの値をとる確率が $1$ のときに限り、右の等号は $X$ が一様分布(すべての $x$ で $p(x)=\frac1n$)のときに限る。
$0\le t\le1$ なら $-t\log t\ge0$ で、等号は $t\in\{0,1\}$ のときに限る。よって $H(X)\ge0$ で、等号はすべての $p(x)$ が $0$ か $1$ のとき、すなわちある $x_0$ で $p(x_0)=1$ のときに限る。右の不等式は、$u$ を一様分布として thm-ent-gibbs を使うと
$$
0\le D(p\|u)=\sum_{x:\,p(x)>0}p(x)\log\bigl(n\,p(x)\bigr)=\log n-H(X)
$$
から従い、等号は $p=u$ のときに限る。$\square$
右の不等式は、平均の大小関係 にあるとおり、重み付きの相加相乗平均の不等式からも得られる。Gibbs の不等式は Mac03 §2.6(p. 34)にあり、同書 p. 44 の演習 2.26 の解答は Jensen の不等式による証明を与えている。
$X,Y$ を有限集合に値をとる確率変数とする。
1。 $p(x,y)>0$ なら $p(x)>0$ で $p(x,y)=p(x)\,p(y\mid x)$ なので、$-\log p(x,y)=-\log p(x)-\log p(y\mid x)$ である。両辺に $p(x,y)$ を掛けて $p(x,y)>0$ となる $(x,y)$ について足すと、左辺は $H(X,Y)$、右辺の第 1 項は $\sum_xp(x)(-\log p(x))=H(X)$、第 2 項は $\sum_xp(x)\sum_yp(y\mid x)(-\log p(y\mid x))=H(Y\mid X)$ である。
2。 $p(x,y)>0$ なら $p(x)p(y)>0$ である。$H(X)=-\sum_{x,y}p(x,y)\log p(x)$、$H(Y)=-\sum_{x,y}p(x,y)\log p(y)$ と書き直すと
$$
I(X;Y)=\sum_{(x,y):\,p(x,y)>0}p(x,y)\log\frac{p(x,y)}{p(x)p(y)}=D\bigl(p_{XY}\,\|\,p_X\otimes p_Y\bigr)
$$
である。$p_X\otimes p_Y$ は確率分布なので、thm-ent-gibbs により $I(X;Y)\ge0$ で、等号はすべての $(x,y)$ で $p(x,y)=p(x)p(y)$、すなわち $X,Y$ が独立なときに限る。
3。 1 により $H(Y)-H(Y\mid X)=H(X)+H(Y)-H(X,Y)=I(X;Y)\ge0$ である。$Y=f(X)$ とすると $(X,f(X))$ の値は $X$ の値で決まり単射に対応するので $H(X,f(X))=H(X)$ であり、1 を $X$ と $f(X)$ の順を入れ替えて使うと $H(X)=H(f(X))+H(X\mid f(X))\ge H(f(X))$ である。$\square$
連鎖律は Mac03 §8.1 の式 (8.7)(p. 139)であり、独立なときの足し算は同書の式 (2.39)(p. 33)である。
エントロピーは「何通りあるか」の対数の増え方としても現れる。$m$ 種類の記号を合計 $n$ 個並べるとき、記号 $i$ をちょうど $k_i$ 個使う並びの個数は 多項係数 $\binom{n}{k_1,\dots,k_m}=\frac{n!}{k_1!\cdots k_m!}$ である。
$m,n\ge1$ とし、$0$ 以上の整数 $k_1,\dots,k_m$ が $k_1+\dots+k_m=n$ を満たすとする。割合の分布を $q:=(k_1/n,\dots,k_m/n)$ とすると
$$
\frac1{(n+1)^{m-1}}\,e^{nH(q)}\le\binom{n}{k_1,\dots,k_m}\le e^{nH(q)}
$$
である。ここで $e^{nH(q)}=\prod_{i:\,k_i>0}(n/k_i)^{k_i}$ である。
$\prod_iq_i^{k_i}=\exp\bigl(\sum_ik_i\log q_i\bigr)=\exp\bigl(n\sum_iq_i\log q_i\bigr)=e^{-nH(q)}$ である($k_i=0$ の因子は $q_i^0=1$)。
上からの評価。 多項定理により
$$
1=(q_1+\dots+q_m)^n=\sum_{k'}\binom{n}{k'_1,\dots,k'_m}\prod_iq_i^{k'_i}\ge\binom{n}{k_1,\dots,k_m}e^{-nH(q)}
$$
である。和は $k'_1+\dots+k'_m=n$ を満たす $0$ 以上の整数の組 $k'$ 全体にわたり、各項は $0$ 以上である。
下からの評価。 $T(k'):=\binom{n}{k'_1,\dots,k'_m}\prod_iq_i^{k'_i}$ とおく。すべての $k'$ について $T(k')\le T(k)$ であることを示す。ある $i$ で $k_i=0< k'_i$ なら $q_i=0$ なので $T(k')=0$ である。そうでないとき、整数 $a\ge1$、$b\ge0$ について $\frac{a!}{b!}\le a^{a-b}$ が成り立つ($b\le a$ なら左辺は $a$ 以下の $a-b$ 個の数の積、$b>a$ なら左辺は $a+1$ 以上の $b-a$ 個の数の積の逆数)。これを $a=k_i>0$、$b=k'_i$ に使うと
$$
\frac{T(k')}{T(k)}=\prod_{i:\,k_i>0}\frac{k_i!}{k'_i!}\Bigl(\frac{k_i}n\Bigr)^{k'_i-k_i}\le\prod_{i:\,k_i>0}k_i^{k_i-k'_i}\,k_i^{k'_i-k_i}\,n^{k_i-k'_i}=n^{\sum_i(k_i-k'_i)}=1
$$
である($k_i=0$ の $i$ では $k'_i=0$ で因子は $1$)。組 $k'$ は $k'_1,\dots,k'_{m-1}\in\{0,\dots,n\}$ で決まるので高々 $(n+1)^{m-1}$ 個あり、上の多項定理の式から $1=\sum_{k'}T(k')\le(n+1)^{m-1}T(k)$ である。$T(k)=\binom{n}{k_1,\dots,k_m}e^{-nH(q)}$ なので下からの評価が従う。$\square$
$\frac{(m-1)\log(n+1)}n\to0$ なので、割合 $q$ を保って $n$ を大きくすると $\frac1n\log\binom{n}{k_1,\dots,k_m}\to H(q)$ である。多項係数 の補足にある近似 $\log\binom{n}{k_1,\dots,k_m}\approx n\sum_i\frac{k_i}n\log\frac n{k_i}$ は、右辺がちょうど $nH(q)$ であることを述べている。
確率 $p$ の分布から独立に $n$ 回取り出した列のほとんどは、確率がおよそ $e^{-nH}$ の「典型的な列」であり、その個数はおよそ $e^{nH}$ である。
$X_1,X_2,\dots$ は互いに独立で、どれも有限集合 $\mathcal X$ 上の同じ分布 $p$ に従うとし、すべての $x\in\mathcal X$ で $p(x)>0$ とする。$H:=H(p)$、$\sigma^2:=\operatorname{Var}\bigl(-\log p(X_1)\bigr)$ とおく。列 $\mathbf x=(x_1,\dots,x_n)\in\mathcal X^n$ の確率を $p^n(\mathbf x):=\prod_{i=1}^np(x_i)$ とし、$\varepsilon>0$ について
$$
T_n^\varepsilon:=\Bigl\{\mathbf x\in\mathcal X^n\Bigm|\Bigl|-\frac1n\log p^n(\mathbf x)-H\Bigr|\le\varepsilon\Bigr\}
$$
とおく。このとき
$Z_i:=-\log p(X_i)$ は互いに独立で同じ分布に従い(独立な確率変数の関数)、有限個の値しかとらないので期待値 $E[Z_i]=H$ と分散 $\sigma^2$ をもつ。$-\frac1n\log p^n(X_1,\dots,X_n)=\frac1n\sum_{i=1}^nZ_i$ なので、大数の法則 の定理「大数の弱法則」により 1 が成り立つ。
$\mathbf x\in T_n^\varepsilon$ なら $e^{-n(H+\varepsilon)}\le p^n(\mathbf x)\le e^{-n(H-\varepsilon)}$ である。左の不等式を $T_n^\varepsilon$ の上で足すと $1\ge\sum_{\mathbf x\in T_n^\varepsilon}p^n(\mathbf x)\ge\#T_n^\varepsilon\,e^{-n(H+\varepsilon)}$ である。右の不等式を足すと $P\bigl((X_1,\dots,X_n)\in T_n^\varepsilon\bigr)\le\#T_n^\varepsilon\,e^{-n(H-\varepsilon)}$ であり、1 と合わせて 2 の左の不等式を得る。$\square$
列の全体の個数は $(\#\mathcal X)^n=e^{n\log\#\mathcal X}$ であり、$H< \log\#\mathcal X$(一様分布でないとき)なら典型的な列はその中のごく一部だが、確率のほとんどすべてを担う。$\frac1n\sum Z_i\to H$ はほとんど確実にも成り立つ(大数の強法則による。Dur19 Example 2.4.10(p. 80)、この記事では証明しない)。
0 と 1 の列からなる符号語の集合で、どの符号語もほかの符号語の先頭部分にならないものを 接頭符号 という。接頭符号は受け取った文字列を先頭から一意に区切って読める。符号語の長さ $d_1,\dots,d_m$ が与えられたとき、その長さをもつ接頭符号があることと $\sum_i2^{-d_i}\le1$ は同値である(二分木 の定理「葉の深さの不等式」。接頭符号は符号語を葉とする二分木と同じものである)。
$X$ は $m$ 個の値 $1,\dots,m$ を確率 $p_1,\dots,p_m>0$ でとるとする。
1。 $c:=\sum_i2^{-d_i}$ とおくと、二分木 の定理「葉の深さの不等式」により $0< c\le1$ である。$r_i:=2^{-d_i}/c$ は確率分布なので、thm-ent-gibbs を $\log2$ で割った形により
$$
0\le\sum_ip_i\log_2\frac{p_i}{r_i}=\sum_ip_i\log_2p_i+\sum_ip_id_i+\log_2c=-H_2(X)+L+\log_2c
$$
であり、$\log_2c\le0$ から $L\ge H_2(X)$ である。
2。 $d_i\ge\log_2(1/p_i)$ より $2^{-d_i}\le p_i$ なので $\sum_i2^{-d_i}\le1$ であり、二分木 の定理「葉の深さの不等式」の 2 によりこの長さの接頭符号がある。$d_i< \log_2(1/p_i)+1$ を $p_i$ を掛けて足すと $L< H_2(X)+1$ である。$\square$
thm-ent-coding の $X$ と同じ分布に従う互いに独立な $X_1,\dots,X_n$ の組を 1 つの記号とみて接頭符号で符号化すると、1 記号あたりの平均の長さ $L_n/n$ は $H_2(X)\le L_n/n< H_2(X)+\frac1n$ にでき、どの接頭符号でも $L_n/n\ge H_2(X)$ である。
組 $(X_1,\dots,X_n)$ は確率がすべて正の $m^n$ 個の値をとり、thm-ent-chain の 2(独立なら等号)を繰り返し使うと $H_2(X_1,\dots,X_n)=nH_2(X)$ である。thm-ent-coding を組に使い、$n$ で割ればよい。$\square$
thm-ent-coding の 1・2 は Mac03 §5.3–5.4(pp. 97–98)にあり、thm-ent-aep と同じ型の評価は同書 §4.4–4.5(pp. 80–82)にある。冒頭の問い(表の確率 $0.9$ の硬貨)では $H_2=h(0.9)/\log2\approx0.468996$ bit なので、長いブロックごとに符号化すれば 1 回あたり平均 $0.469$ 文字に近い長さで伝えられ、それより短くはできない。
使う公式:公式の表の一様分布の行。
答え:$H=\log6\approx1.791759$ nat $=\log_26\approx2.584963$ bit。1 回ずつ符号化すると thm-ent-coding の 2 により平均 $3.584963$ bit 未満、まとめて符号化すると 1 回あたり $2.584963$ bit に近づけられる。
使う公式:Bernoulli 分布の行、thm-ent-coding。
答え:$p=0.1$ で $h(0.1)\approx0.325083$ nat $\approx0.468996$ bit。値が 2 個なので記号ごとの接頭符号の平均長は $1$ 以上で(長さ $0$ の符号語は 1 個しか置けない)、$d_i=\lceil\log_2(1/p_i)\rceil$ は $(1,4)$、平均長 $0.9\cdot1+0.1\cdot4=1.3$ である。$H_2$ との差を詰めるには cor-ent-block のようにまとめて符号化する。
使う公式:定義、thm-ent-coding。
答え:$H_2=\frac12\cdot1+\frac14\cdot2+\frac14\cdot2=1.5$ bit。符号語 $0,10,11$ は接頭符号で平均長 $1.5$ となり、thm-ent-coding の 1 の下限に一致する。確率がすべて $2$ の冪の逆数なので $d_i=\log_2(1/p_i)$ が整数になり、等号が成り立つ。
使う公式:独立な組の行、thm-ent-chain の 3、手順 4。
答え:2 個の公平なさいころの目の組 $(X,Y)$ は $H_2(X,Y)=\log_236\approx5.169925$ bit。和 $S=X+Y$ は $H_2(S)\approx3.274402$ bit で、$H(f(X,Y))\le H(X,Y)$ のとおり小さい。$S=s$ のもとで組は $c(s)$ 通りに一様なので、$H_2(X,Y\mid S)=\sum_s\frac{c(s)}{36}\log_2c(s)\approx1.895523$ bit $=5.169925-3.274402$ である。
$c(s)=6-|s-7|$($s=2,\dots,12$)で、$\sum_sc(s)\log_2c(s)=2(0+2+3\log_23+8+5\log_25)+6\log_26$ である。$H_2(S)=\log_236-\frac1{36}\sum_sc(s)\log_2c(s)$ に代入して $3.274402$ を得る。
使う公式:thm-ent-types。
答え:$n=10$、$(k_1,k_2,k_3)=(5,3,2)$ では $\binom{10}{5,3,2}=2520$、$e^{10H(q)}=2^5(10/3)^3\cdot5^2\approx29629.63$、下限は $29629.63/11^2\approx244.87$ で、$244.87\le2520\le29629.63$ である。$n$ を大きくすると $\frac1n\log\binom{n}{k_1,k_2,k_3}$ は $n=10,100,1000,10000$ で $0.7832,\ 0.9827,\ 1.0227,\ 1.0287$ となり、$H(q)\approx1.029653$ nat に近づく。
使う公式:thm-ent-aep(bit で書き直したもの)。
答え:$p=0.1$ の Bernoulli 分布で $\varepsilon=0.1$ bit とする。$\sigma^2\approx0.904358$ bit$^2$ なので、典型的な列の確率は $n=1000$ で $1-0.0904\approx0.9096$ 以上と保証される(実際の値は約 $0.99906$)。このとき典型的な列は $2^{1000\times0.5690}$ 個以下であり、長さ $1000$ の列の全体 $2^{1000}$ 個に比べてごく一部である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 値が有限個(thm-ent-bounds) | $p_k:=\dfrac{c}{k(\log k)^2}$($k\ge2$、$c$ は和を $1$ にする定数) | $H=\infty$ で、上からの評価が意味を失う |
| $q$ が確率分布(thm-ent-gibbs) | $p=(\frac12,\frac12)$、$q=(1,1)$ | $D(p\Vert q)=-\log2< 0$ |
| 独立(thm-ent-chain の 2 の等号) | 公平な硬貨 $X$ と $Y:=X$ | $H(X,Y)=\log2< 2\log2=H(X)+H(Y)$ |
| 独立(thm-ent-aep) | 表の確率 $0.1$ の硬貨 $X_1$ と $X_i:=X_1$($i\ge2$) | $\varepsilon< 0.2$ ならすべての $n$ で $P\bigl((X_1,\dots,X_n)\in T_n^\varepsilon\bigr)=0$ で、$n>\sigma^2/\varepsilon^2$ では 1 が成り立たない |
| 離散分布(thm-ent-bounds の $H\ge0$) | $[0,\frac12]$ 上の一様分布の密度 $f=2$ で $-\int f\log f\,dx$ | 値は $-\log2< 0$ |
1 行目:$\int_2^\infty\frac{dx}{x(\log x)^2}=\frac1{\log2}< \infty$ なので和は収束し、$c>0$ がとれる。$-\log p_k=\log k+2\log\log k-\log c$ であり、$k\ge3$ では $\log\log k>0$ なので $-\log p_k\ge\log k-\log c$ である。各項 $-p_k\log p_k$ は $0$ 以上なので $H\ge\sum_{k\ge3}p_k(\log k-\log c)\ge\sum_{k\ge3}\frac{c}{k\log k}-|\log c|$ であり、$\int_2^\infty\frac{dx}{x\log x}=\infty$ により $H=\infty$ である。
2 行目:$D(p\|q)=\frac12\log\frac12+\frac12\log\frac12=-\log2$。prf-ent-gibbs では $\sum_{x\in S}q(x)\le1$ を使っており、ここでは和が $2$ である。
3 行目:$(X,Y)$ は $(0,0),(1,1)$ を確率 $\frac12$ ずつでとるので $H(X,Y)=\log2$ である。
4 行目:表を $1$、裏を $0$ とすると、$X_1,\dots,X_n$ はどれも分布 $p=(0.9,0.1)$ に従い $H=h(0.1)\approx0.325$ だが、$(X_1,\dots,X_n)$ は全部 $0$ か全部 $1$ なので、$-\frac1n\log p^n(X_1,\dots,X_n)=-\log p(X_1)$ は $\log\frac{10}9\approx0.105$ か $\log10\approx2.303$ であり、どちらも $H$ から $0.2$ 以上離れる。一方 $\sigma^2=0.09(\log9)^2\approx0.435$ は有限なので、1 の右辺 $1-\frac{\sigma^2}{n\varepsilon^2}$ は $n>\sigma^2/\varepsilon^2$ で正になる。公平な硬貨ではどの列でも $-\frac1n\log p^n=\log2=H$ となり、反例にならない。
5 行目:$-\int_0^{1/2}2\log2\,dx=-\log2$。連続分布では「密度の値」が $1$ を超えうるので $-\log f$ が負になる。$\square$
| 誤り | 正しくは | なぜ |
|---|---|---|
| bit と nat を混ぜて足す | 底を 1 つに決め、$H_2=H/\log2$ で換算する | 使える条件 (ii) |
| 独立な $X,Y$ について $H(X+Y)=H(X)+H(Y)$ とする | 足し算になるのは組 $(X,Y)$ のエントロピー。和は $H(X+Y)\le H(X,Y)$ | ex-ent-dice-sum |
| $D(p\Vert q)=D(q\Vert p)$ とする | 一般に対称でない。$p=(\frac12,\frac12)$、$q=(\frac14,\frac34)$ で $0.143841$ と $0.130812$ | def-ent-kl |
| $p(x)=0$ の項で $\log0$ を使って $-\infty$ とする | $0\log0=0$ と約束して項を除く | def-ent-main |
| 記号ごとの符号で平均長を $H_2$ まで下げられるとする | 記号ごとでは $H_2+1$ 未満までしか保証されない。まとめて符号化する | ex-ent-bernoulli, cor-ent-block |
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