調和関数(harmonic function)とは、$\mathbb{R}^n$ の開集合上の $C^2$ 級関数 $u$ で、Laplace 方程式 $\Delta u=\partial_1^2u+\dots+\partial_n^2u=0$ を満たすものである。中心での値が球面上や球上の平均値に等しいという平均値の性質をもち、連続関数についてはこの性質が調和性と同値になる。そこから、連結な領域の内部で最大値をとらないこと(最大値原理)、何回でも微分でき局所的に冪級数で表せること(実解析性)、全空間で有界なら定数であること(Liouville の定理)が導かれる。平面では正則関数の実部と局所的に同じものであり、Dirichlet 問題や Hodge 理論の出発点になる。
調和関数(harmonic function)とは、$\mathbb{R}^n$ の開集合上の 2 回連続微分可能な関数 $u$ で、Laplace 方程式
$$
\Delta u:=\frac{\partial^2u}{\partial x_1^2}+\dots+\frac{\partial^2u}{\partial x_n^2}=0
$$
を満たすものである。1 変数($n=1$)では $u''=0$ だから調和関数は 1 次関数 $ax+b$ にすぎないが、$n\ge2$ では豊富にあり、しかも強い剛性をもつ。定常な熱の分布、電荷のない所の静電ポテンシャル、渦も湧き出しもない流れの速度ポテンシャルは、いずれも調和関数である。
調和関数の性質の多くは、次の 平均値の性質 に集約される:調和関数の中心での値は、中心のまわりの球面上の値の平均に等しい。ここから、内部で最大値をとらないこと(最大値原理)、何回でも微分でき局所的に冪級数で表せること(実解析性)、全空間で有界なら定数であること(Liouville の定理)が順に導かれる。平面では、調和関数は正則関数の実部と局所的に同じものであり、複素関数論の多くの定理の実変数版になっている。
この記事は、複素 Hodge 理論の証明を追う一連の記事の最初の一つである。後の記事(劣調和関数、Dirichlet問題、Weyl の補題、楕円正則性、調和形式)は、この記事の定理を使う。以下では $\mathbb{R}^n$ の開集合の上だけで考え、Riemann面や多様体の上の調和関数には最後の節で触れるにとどめる。
以下、$n\ge2$ とし、$\Omega$ は $\mathbb{R}^n$ の空でない開集合とする。$|x|$ は Euclid ノルム、$x\cdot y$ は標準内積である。
$\Omega$ 上の実数値または複素数値の関数 $u$ が 調和 であるとは、$u$ が $\Omega$ 上 $C^2$ 級で、$\Omega$ の各点で $\Delta u=0$ となることをいう。作用素 $\Delta=\partial_1^2+\dots+\partial_n^2$ を Laplace 作用素(ラプラシアン)という。複素数値の $u$ が調和であることは、実部と虚部がともに調和であることと同じである。
$\Delta$ は線形なので、調和関数の和と定数倍は調和である。平行移動 $u(x-y)$、拡大 $u(rx)$($r>0$)、直交変換 $u(Tx)$ も調和関数を調和関数に移す。
平行移動では 2 階偏導関数が変わらない。拡大では $\Delta\bigl(u(rx)\bigr)=r^2(\Delta u)(rx)$ である。直交変換 $T=(t_{jk})$ については連鎖律から $\partial_m\bigl(u\circ T\bigr)=\sum_j t_{jm}(\partial_ju)\circ T$ なので $\Delta(u\circ T)=\sum_{j,k}\bigl(\sum_m t_{jm}t_{km}\bigr)(\partial_k\partial_ju)\circ T=(\Delta u)\circ T$ である。最後の等号は $T$ の行ベクトルが正規直交系をなすこと($\sum_m t_{jm}t_{km}=\delta_{jk}$)による(ABR20 第 1 章 Invariance Properties、pp. 2–4)。
次の 3 つを証明なしに使う。
1 次関数 $a_0+a_1x_1+\dots+a_nx_n$ は調和である。$x_1^2-x_2^2$、$x_1x_2$、$\mathbb{R}^3$ 上の $x_1^2+x_2^2-2x_3^2$ も調和である(2 階偏導関数を足すと $2-2=0$、$0$、$2+2-4=0$)。一方 $|x|^2=x_1^2+\dots+x_n^2$ は $\Delta|x|^2=2n\ne0$ なので調和でない。平面では $\operatorname{Re}(x_1+ix_2)^k=r^k\cos k\theta$、$\operatorname{Im}(x_1+ix_2)^k=r^k\sin k\theta$(極座標 $x_1+ix_2=re^{i\theta}$)が調和である(下の prop-hf-holomorphic-parts)。
$\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ 上で
$$
\Delta|x|^t=t(t+n-2)|x|^{t-2}\qquad(t\in\mathbb{R})
$$
が成り立つ。したがって $n\ge3$ なら $|x|^{2-n}$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ 上の調和関数である。$n=2$ では $\log|x|$ が $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ 上で調和である。これらを定数倍したものは Laplace 作用素の 基本解 と呼ばれ、後の記事 Green関数 で扱う。偏微分は調和関数を調和関数に移すので、$\partial_1|x|^{2-n}=(2-n)x_1|x|^{-n}$ から $x_1|x|^{-n}$ も $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ 上で調和である($n=2$ では $\partial_1\log|x|=x_1|x|^{-2}$)。
要点:$\partial_i^2|x|^t$ を計算して $i$ について足せばよい。
$\partial_i|x|^t=t|x|^{t-2}x_i$ であり、もう一度 $x_i$ で微分すると $t|x|^{t-2}+t(t-2)|x|^{t-4}x_i^2$ である。$i$ について足すと $nt|x|^{t-2}+t(t-2)|x|^{t-2}=t(t+n-2)|x|^{t-2}$。$t=2-n$ で $0$ になる。$n=2$ では $\partial_i\log|x|=x_i/|x|^2$、$\partial_i^2\log|x|=1/|x|^2-2x_i^2/|x|^4$ で、$i=1,2$ の和は $2/|x|^2-2/|x|^2=0$ である。$\square$
調和関数を並べると次のようになる。
| 関数 | 定義域 | 調和か | 理由 |
|---|---|---|---|
| $a_0+a\cdot x$ | $\mathbb{R}^n$ | 調和 | 2 階偏導関数が $0$ |
| $x_1^2-x_2^2$、$x_1x_2$ | $\mathbb{R}^n$ | 調和 | 2 階偏導関数の和が $0$ |
| $e^{x_1}\cos x_2$ | $\mathbb{R}^2$ | 調和 | $\operatorname{Re}e^{z}$ |
| $\lvert x\rvert^{2-n}$($n\ge3$) | $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ | 調和 | ex-hf-fundamental |
| $\log\lvert x\rvert$($n=2$) | $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ | 調和 | ex-hf-fundamental |
| $\lvert x\rvert^2$ | $\mathbb{R}^n$ | 調和でない | $\Delta\lvert x\rvert^2=2n$ |
| $\lvert x\rvert$ | $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ | 調和でない | $\Delta\lvert x\rvert=(n-1)/\lvert x\rvert$ |
平均値の性質は、球面平均が半径についてどう変わるかを表す次の公式から出る。
$u$ を $\Omega$ 上の $C^2$ 級関数、$\overline B(a,R)\subset\Omega$ とし、$0\le r\le R$ に対して
$$
\phi(r):=\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)
$$
とおく。このとき $\phi$ は $[0,R]$ 上で連続で $\phi(0)=u(a)$ であり、$0< r< R$ で微分可能で
$$
\phi'(r)=\frac rn\cdot\frac{1}{V(B)r^n}\int_{B(a,r)}\Delta u\,dV
$$
が成り立つ。つまり球面平均の増え方は、$\Delta u$ の球上の平均に $r/n$ を掛けたものである。
$u$ は $\overline B(a,R)$ の上で一様連続なので $\phi$ は連続であり、$\phi(0)=u(a)$ である。$u$ は $C^1$ 級で偏導関数は $\overline B(a,R)$ 上で有界だから、積分記号の下で微分できて
$$
\phi'(r)=\int_S\nabla u(a+r\zeta)\cdot\zeta\,d\sigma(\zeta)
$$
である。$x=a+r\zeta$ における外向き単位法線は $\nu(x)=\zeta$ なので、rem-hf-integration の 2 と 3($w=\nabla u$、$\sum_j\partial_jw_j=\Delta u$)から
$$
\phi'(r)=\frac{1}{nV(B)r^{n-1}}\int_{\partial B(a,r)}\nabla u\cdot\nu\,dS=\frac{1}{nV(B)r^{n-1}}\int_{B(a,r)}\Delta u\,dV
$$
となる。右辺は主張の式と同じである。$\square$
$u$ を $\Omega$ 上の調和関数とし、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とする。このとき
$$
u(a)=\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)=\frac{1}{V(B)r^n}\int_{B(a,r)}u\,dV
$$
が成り立つ。すなわち、中心での値は、球面上の平均値とも球上の平均値とも等しい。
複素数値なら実部と虚部に分ければよいので、$u$ は実数値としてよい。$\overline B(a,r)$ はコンパクトで $\Omega$ は開集合なので、$\overline B(a,R)\subset\Omega$ となる $R>r$ がある。lem-hf-spherical-mean の $\phi$ は $\Delta u=0$ より $(0,R)$ で $\phi'=0$ となり、$[0,R]$ で連続だから定数で、$\phi(r)=\phi(0)=u(a)$ である。これが第 1 の等式である。第 2 の等式は、rem-hf-integration の 1 に第 1 の等式を代入して
$$
\int_{B(a,r)}u\,dV=nV(B)\int_0^r\rho^{n-1}u(a)\,d\rho=V(B)r^n\,u(a)
$$
となることによる。$\square$
平均値の性質は、次の節で見るように調和関数を特徴づける。証明の方法は ABR20 Theorem 1.4(p. 5)の Green の公式による証明と異なるが(球上の平均の式は同書 Theorem 1.6、p. 6)、主張は同じである。
定義は $C^2$ 級しか要求しないが、平均値の性質を使うと、調和関数は自動的に何回でも微分できることがわかる。鍵は、平均値の性質をもつ連続関数は、回転対称な滑らかな関数との畳み込みで変わらないことである。
$u$ を $\Omega$ 上の連続関数(実数値または複素数値)とし、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ となるすべての $a,r$ について
$$
u(a)=\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)
$$
が成り立つとする。このとき $u$ は $\Omega$ 上 $C^\infty$ 級であり、調和である。
要点:回転対称で積分が $1$ の滑らかな関数 $\eta_\varepsilon$ との畳み込み $u*\eta_\varepsilon$ は、極座標で書くと球面平均の重み付き平均になるので、平均値の性質から $u$ 自身に等しい。畳み込みは滑らかなので $u$ は $C^\infty$ 級である。次に球面平均が半径によらないことから、lem-hf-spherical-mean により $\Delta u$ の球上の平均が $0$ になり、半径を $0$ に近づけて $\Delta u=0$ を得る。
段 1(滑らかさ).$\mathbb{R}^n$ 上の関数 $\eta$ を、$|x|<1$ で $\eta(x)=c\exp\bigl(1/(|x|^2-1)\bigr)$、$|x|\ge1$ で $\eta(x)=0$ と定める。定数 $c>0$ は $\int\eta\,dV=1$ となるように選ぶ。$\eta$ は $C^\infty$ 級で、$|x|$ だけで決まる。$\varepsilon>0$ に対し $\eta_\varepsilon(x):=\varepsilon^{-n}\eta(x/\varepsilon)$ とおくと、$\eta_\varepsilon$ も $C^\infty$ 級で回転対称、台は $\overline B(0,\varepsilon)$ に含まれ、$\int\eta_\varepsilon\,dV=1$ である。$\eta_\varepsilon(y)=g_\varepsilon(|y|)$ と書く。
$\Omega_\varepsilon:=\{x\in\Omega\mid\overline B(x,\varepsilon)\subset\Omega\}$ は開集合である。$x\in\Omega_\varepsilon$ に対して$$u_\varepsilon(x):=\int_{\Omega}u(z)\,\eta_\varepsilon(x-z)\,dV(z)$$とおく。$x$ を $\Omega_\varepsilon$ の中で少し動かしても被積分関数の台は $\Omega$ の一つのコンパクト集合に収まり、$\eta_\varepsilon$ の偏導関数はすべて有界なので、積分記号の下で何回でも微分できて $u_\varepsilon\in C^\infty(\Omega_\varepsilon)$ である。一方、$z=x+y$ と置き換え、rem-hf-integration の 1 と仮定を使うと$$u_\varepsilon(x)=\int_{B(0,\varepsilon)}u(x+y)\,g_\varepsilon(|y|)\,dV(y)=nV(B)\int_0^\varepsilon\rho^{n-1}g_\varepsilon(\rho)\Bigl(\int_Su(x+\rho\zeta)\,d\sigma(\zeta)\Bigr)d\rho=u(x)\,nV(B)\int_0^\varepsilon\rho^{n-1}g_\varepsilon(\rho)\,d\rho$$であり、最後の積分因子は同じ公式で $\int\eta_\varepsilon\,dV=1$ に等しい。よって $\Omega_\varepsilon$ 上で $u=u_\varepsilon$ であり、$u$ は $\Omega_\varepsilon$ 上 $C^\infty$ 級である。$\Omega=\bigcup_{\varepsilon>0}\Omega_\varepsilon$ だから $u\in C^\infty(\Omega)$ である。
段 2(調和性).実部と虚部に分けて $u$ は実数値としてよい。$a\in\Omega$ をとり、$\overline B(a,R)\subset\Omega$ とする。仮定から lem-hf-spherical-mean の $\phi$ は $[0,R]$ で定数 $u(a)$ なので $\phi'=0$、すなわち $0< r< R$ で $\int_{B(a,r)}\Delta u\,dV=0$ である。$\Delta u$ は連続だから、$r\to0$ として$$\Delta u(a)=\lim_{r\to0}\frac{1}{V(B)r^n}\int_{B(a,r)}\Delta u\,dV=0$$を得る。$\square$
$\Omega$ 上の調和関数は $C^\infty$ 級であり、その偏導関数 $D^\alpha u$ はすべて調和である。
thm-hf-mean-value により調和関数は仮定の平均値の性質をもつので、thm-hf-mean-value-converse により $C^\infty$ 級である。$C^\infty$ 級の関数では偏微分の順序を交換できるので $\Delta(D^\alpha u)=D^\alpha(\Delta u)=0$ である。$\square$
この 2 つの定理を合わせると、連続関数について「調和である」ことと「すべての球面で平均値の性質をもつ」ことは同値である。Laplace 方程式という微分の条件が、積分の条件に置き換わったことになる。この見方は、Laplace 方程式を超関数の意味で考える Weyl の補題(後の記事)につながる。
平均値の性質は、中心の値がまわりの値の平均であることを言っている。平均が最大値に等しいのは、まわりがすべて最大値のときに限る。これが最大値原理の考え方である。
$\Omega$ を連結な開集合、$u$ を $\Omega$ 上の実数値調和関数とする。$u$ が $\Omega$ のある点で $\Omega$ 全体での最大値(または最小値)をとるなら、$u$ は定数である。
$u$ が $a\in\Omega$ で最大値 $M$ をとるとし、$E:=\{x\in\Omega\mid u(x)=M\}$ とおく。$E$ は $a$ を含むので空でなく、$u$ の連続性から $\Omega$ の中で閉じている。$E$ が開集合であることを示す。$b\in E$ とし、$\overline B(b,r)\subset\Omega$ をとる。thm-hf-mean-value の球上の平均の式から
$$
\int_{B(b,r)}\bigl(M-u\bigr)\,dV=V(B)r^nM-V(B)r^nu(b)=0
$$
である。被積分関数 $M-u$ は連続で $0$ 以上だから、$B(b,r)$ 上で恒等的に $0$ である(ある点で正なら、その近くで正になり積分が正になる)。よって $B(b,r)\subset E$ である。$\Omega$ は連結なので $E=\Omega$、すなわち $u\equiv M$ である。最小値の場合は $-u$ に当てはめる。$\square$
$\Omega$ が有界なら、調和関数は内部で最大値をとれないので、最大値は「境界に近づくところ」で決まる。境界で連続でない場合も扱えるように、上極限で述べておく。
$\Omega$ を有界な開集合、$u$ を $\Omega$ 上の実数値調和関数、$M$ を実数とする。すべての境界点 $\xi\in\partial\Omega$ について
$$
\limsup_{x\to\xi,\ x\in\Omega}u(x)\le M
$$
なら、$\Omega$ 上で $u\le M$ である。特に $u$ が閉包 $\overline\Omega$ 上で連続なら、$\displaystyle\max_{\overline\Omega}u=\max_{\partial\Omega}u$ である。
要点:$u(x_k)\to\sup_\Omega u$ となる点列の集積点 $x^*$ をとる。$x^*$ が境界点なら仮定から $\sup u\le M$。内点なら thm-hf-maximum-principle により $x^*$ を含む連結成分で $u$ は定数で、その連結成分の境界点($\partial\Omega$ に属する)に近づけて $\sup u\le M$ を得る。
$M':=\sup_\Omega u$($+\infty$ も許す)とし、$u(x_k)\to M'$ となる点列 $x_k\in\Omega$ をとる。$\Omega$ は有界なので、部分列をとって $x_k\to x^*\in\overline\Omega$ としてよい。
$x^*\in\partial\Omega$ なら、仮定から $M'=\lim u(x_k)\le\limsup_{x\to x^*}u(x)\le M$ である。
$x^*\in\Omega$ なら、連続性から $u(x^*)=M'$ であり、$M'$ は有限で、$u$ は $x^*$ で最大値をとる。$x^*$ を含む $\Omega$ の連結成分 $W$ は連結な開集合なので、thm-hf-maximum-principle により $W$ 上で $u\equiv M'$ である。$W$ は有界で空でない開集合だから $\mathbb{R}^n$ 全体ではなく、境界点 $\xi\in\partial W$ がある($\mathbb{R}^n$ は連結なので、空でも全体でもない開集合は閉集合でない)。$\xi$ は $\Omega$ の点ではない:もし $\xi\in\Omega$ なら、$\xi$ を含む連結成分は $W$ と交わる開集合なので $W$ に等しく、$\xi\in W$ となるが、開集合 $W$ の境界点は $W$ に属さない。よって $\xi\in\partial\Omega$ であり、$W$ の中から $\xi$ に近づけると $u=M'$ なので $M'\le\limsup_{x\to\xi}u(x)\le M$ である。
どちらの場合も $M'\le M$ である。最後の主張は、$M:=\max_{\partial\Omega}u$ とすれば $u$ の連続性から仮定が成り立つことによる。$\square$
$\Omega$ を有界な開集合とし、$u,v$ を $\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で調和な関数(複素数値でもよい)とする。$\partial\Omega$ 上で $u=v$ なら、$\Omega$ 上で $u=v$ である。
$w:=u-v$ の実部と虚部をそれぞれ $h$ とおくと、$h$ と $-h$ は $\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で調和で、$\partial\Omega$ 上で $0$ である。thm-hf-weak-maximum-principle を $M=0$ で $h$ と $-h$ に当てはめて $h\le0$、$-h\le0$、すなわち $h=0$ である。$\square$
この系により、$\overline\Omega$ 上で連続で $\Omega$ 上で調和な関数は、境界 $\partial\Omega$ での値だけで決まる。境界値を与えてそのような関数を探す問題が Dirichlet問題 である。有界性の仮定は外せない(下の反例の表を参照)。
平均値の性質からは、零点についての次の事実も出る。
$u$ を $\Omega$ 上の実数値調和関数とし、$u(a)=0$ とする。このとき $a$ のどんな近くにも $a$ 以外の零点がある。
要点:球面上の平均が $0$ なので、$u$ は球面上で恒等的に $0$ か、正と負の値を両方とり、連結な球面の上で中間値の定理が使える。
$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とすると、thm-hf-mean-value により $\partial B(a,r)$ 上の $u$ の平均は $0$ である。したがって $u$ は $\partial B(a,r)$ 上で恒等的に $0$ であるか、正の値と負の値の両方をとる。後者の場合、球面 $\partial B(a,r)$ は連結なので($n\ge2$)、中間値の定理により $\partial B(a,r)$ 上に零点がある。いずれにせよ、十分小さいすべての $r>0$ について $\partial B(a,r)$ 上に零点がある。$\square$
実数値の仮定は外せない。$\mathbb{R}^n$ 上の複素数値調和関数 $(1-n)x_1^2+x_2^2+\dots+x_n^2+ix_1$ の零点は原点だけである(実部と虚部がともに $0$ となるのは $x_1=0$ かつ $x_2^2+\dots+x_n^2=0$ のとき)。ABR20 Corollary 1.7 とその後の注意(pp. 6–7)。
$u$ を $\Omega$ 上の調和関数とし、$B(a,R)\subset\Omega$、$M:=\sup_{B(a,R)}|u|<\infty$ とする。このとき、$|\alpha|=k\ge1$ となるすべての多重指数 $\alpha$ について
$$
|D^\alpha u(a)|\le M\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^k
$$
が成り立つ。
要点:$k=1$ では、$\partial_iu$ の球上の平均を発散定理で球面上の $u\nu_i$ の積分に直して評価する。一般の $k$ では、半径 $R$ を $k$ 等分し、1 階の評価を $k$ 回くり返す。
$k$ についての帰納法で示す。
$k=1$ のとき、$\alpha$ は $i$ 番目の座標の 1 階偏微分 $\partial_i$ である。cor-hf-smooth により $\partial_iu$ は調和なので、$0<\rho< R$ について thm-hf-mean-value の球上の平均の式と発散定理(rem-hf-integration の 3、$w=u\,e_i$)から$$\partial_iu(a)=\frac{1}{V(B)\rho^n}\int_{B(a,\rho)}\partial_iu\,dV=\frac{1}{V(B)\rho^n}\int_{\partial B(a,\rho)}u\,\nu_i\,dS$$である。$|u\,\nu_i|\le M$ と $\partial B(a,\rho)$ の面積 $nV(B)\rho^{n-1}$ から $|\partial_iu(a)|\le nM/\rho$ であり、$\rho\to R$ として $|\partial_iu(a)|\le nM/R$ を得る。
$k\ge2$ とし、$k-1$ まで主張が正しいとする。$\alpha=e_i+\beta$、$|\beta|=k-1$ と分け、$\rho:=R/k$ とおく。$y\in B(a,\rho)$ なら $B(y,R-\rho)\subset B(a,R)$ なので、帰納法の仮定を $y$ を中心とする半径 $R-\rho=R(k-1)/k$ の球に当てはめて$$|D^\beta u(y)|\le M\Bigl(\frac{n(k-1)}{R(k-1)/k}\Bigr)^{k-1}=M\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^{k-1}$$である。$D^\beta u$ は調和なので、$k=1$ の場合を $D^\beta u$ と球 $B(a,\rho)$ に当てはめると$$|D^\alpha u(a)|=|\partial_i(D^\beta u)(a)|\le\frac{n}{\rho}\cdot M\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^{k-1}=M\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^k$$となる。$\square$
この評価は、正則関数の Cauchy の評価 $|f^{(k)}(a)|\le k!M/R^k$ の類似である(ABR20 Theorem 2.4、p. 33 は Poisson 核を使って $|D^\alpha u(a)|\le C_\alpha M/R^{|\alpha|}$ の形で示している)。定数を具体的にしておくと、次の実解析性の証明にそのまま使える。
$\mathbb{R}^n$ 全体で調和で有界な関数は定数である。
$|u|\le M$ とする。任意の $a\in\mathbb{R}^n$ と $R>0$ について $B(a,R)\subset\mathbb{R}^n$ だから、thm-hf-derivative-estimate により $|\partial_iu(a)|\le nM/R$ である。$R\to\infty$ として $\partial_iu(a)=0$。1 階偏導関数がすべて $0$ なので $u$ は定数である。$\square$
ABR20 Theorem 2.1(p. 31)は球上の平均値の性質から直接示している。平面の場合は、有界な整関数は定数であるという Liouvilleの定理(複素解析) の実部版にあたる。同じ評価から、多項式程度の増大度しかもたない調和関数は多項式であることもわかる。
$u$ が $\mathbb{R}^n$ 上で調和で、定数 $A$ と $p\ge0$ について $|u(x)|\le A(1+|x|^p)$ なら、$u$ は次数 $p$ 以下の多項式である。
要点:$|\alpha|>p$ なら thm-hf-derivative-estimate の右辺が $R\to\infty$ で $0$ になるので、$p$ より大きい階数の偏導関数はすべて $0$ である。
$k$ を $p$ より大きい最小の整数とする。$|\alpha|=k$、$a\in\mathbb{R}^n$、$R>0$ について、$B(a,R)$ 上で $|u|\le A\bigl(1+(|a|+R)^p\bigr)$ だから、thm-hf-derivative-estimate より$$|D^\alpha u(a)|\le A\bigl(1+(|a|+R)^p\bigr)\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^k\longrightarrow0\qquad(R\to\infty)$$である($k>p$ による)。よって $k$ 階の偏導関数はすべて恒等的に $0$ である。$x$ を固定して $g(t):=u(tx)$ とおくと $g^{(k)}(t)=\sum_{|\alpha|=k}\frac{k!}{\alpha!}D^\alpha u(tx)\,x^\alpha=0$ なので、Taylorの定理により $u(x)=g(1)=\sum_{j< k}g^{(j)}(0)/j!=\sum_{|\alpha|< k}\frac{D^\alpha u(0)}{\alpha!}x^\alpha$ となり、$u$ は次数 $k-1$ 以下、すなわち $p$ 以下の多項式である。$\square$
$\Omega$ 上の調和関数の列 $(u_m)$ が、$\Omega$ の各コンパクト集合上で関数 $u$ に一様収束するとする。このとき $u$ は調和であり、各多重指数 $\alpha$ について $D^\alpha u_m$ も各コンパクト集合上で $D^\alpha u$ に一様収束する。
要点:極限関数は平均値の性質を受け継ぐので thm-hf-mean-value-converse により調和である。導関数の収束は thm-hf-derivative-estimate を $u_m-u$ に当てはめて得る。
$u$ はコンパクト集合上の一様収束極限なので連続である。$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とすると、球面 $a+rS$ 上で $u_m\to u$ は一様だから、thm-hf-mean-value の等式 $u_m(a)=\int_Su_m(a+r\zeta)\,d\sigma$ で極限をとって $u(a)=\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma$ である。thm-hf-mean-value-converse により $u$ は調和である。$K\subset\Omega$ をコンパクト集合とし、$3R:=\operatorname{dist}(K,\mathbb{R}^n\setminus\Omega)$($\Omega=\mathbb{R}^n$ なら $R=1$)とおくと、$K_R:=\{x\mid\operatorname{dist}(x,K)\le R\}$ はコンパクトで $\Omega$ に含まれる。$a\in K$ なら $B(a,R)\subset K_R$ なので、thm-hf-derivative-estimate を調和関数 $u_m-u$ に当てはめて $|D^\alpha(u_m-u)(a)|\le\sup_{K_R}|u_m-u|\,(n|\alpha|/R)^{|\alpha|}$ であり、右辺は $a\in K$ によらず $0$ に収束する。$\square$
多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ について $x^\alpha:=x_1^{\alpha_1}\cdots x_n^{\alpha_n}$、$\alpha!:=\alpha_1!\cdots\alpha_n!$、$|\alpha|:=\alpha_1+\dots+\alpha_n$ と書く。$\Omega$ 上の関数 $f$ が 実解析的 であるとは、各 $a\in\Omega$ について複素数 $c_\alpha$ と $\delta>0$ があり、$|h|<\delta$ で級数 $\sum_\alpha c_\alpha h^\alpha$ が絶対収束して $f(a+h)$ に等しいことをいう(ABR20 p. 19 の定義)。
$\Omega$ 上の調和関数は実解析的である。より詳しく、$\overline B(a,2R)\subset\Omega$、$M:=\max_{\overline B(a,2R)}|u|$ とすると、$|h|< R/(e\,n^{3/2})$ のとき
$$
u(a+h)=\sum_\alpha\frac{D^\alpha u(a)}{\alpha!}h^\alpha
$$
であり、右辺は絶対収束する。
要点:thm-hf-derivative-estimate により $|D^\alpha u|\le M(nk/R)^k$($|\alpha|=k$)が $a$ の近くで一様に成り立ち、$k^k/k!\le e^k$ と組み合わせると、Taylor 級数の $k$ 次の部分と Taylor の剰余項がともに $M\bigl(e\,n^{3/2}|h|/R\bigr)^k$ で押さえられる。
$y\in B(a,R)$ なら $B(y,R)\subset B(a,2R)$ なので、thm-hf-derivative-estimate から $|\alpha|=k$ のとき$$|D^\alpha u(y)|\le M\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^k\qquad(y\in B(a,R))$$である。また多項定理から $\sum_{|\alpha|=k}\frac{|h^\alpha|}{\alpha!}=\frac{(|h_1|+\dots+|h_n|)^k}{k!}\le\frac{(\sqrt n\,|h|)^k}{k!}$ であり、$e^k=\sum_j k^j/j!\ge k^k/k!$ から $k^k/k!\le e^k$ である。
絶対収束.上の 2 つの評価から$$\sum_{|\alpha|=k}\frac{|D^\alpha u(a)|}{\alpha!}|h^\alpha|\le M\Bigl(\frac{nk}{R}\Bigr)^k\frac{(\sqrt n|h|)^k}{k!}\le M\Bigl(\frac{e\,n^{3/2}|h|}{R}\Bigr)^k$$であり、$|h|< R/(e\,n^{3/2})$ なら右辺の $k$ についての和は収束する。
和が $u(a+h)$ に等しいこと.$|h|< R/(e\,n^{3/2})$ とし、$g(t):=u(a+th)$ とおく。$g$ は $C^\infty$ 級で $g^{(j)}(t)=\sum_{|\alpha|=j}\frac{j!}{\alpha!}D^\alpha u(a+th)h^\alpha$ である。1 変数の Lagrange 剰余つきの Taylorの定理 により、ある $\theta\in(0,1)$ について$$u(a+h)-\sum_{|\alpha|< k}\frac{D^\alpha u(a)}{\alpha!}h^\alpha=\frac{g^{(k)}(\theta)}{k!}=\sum_{|\alpha|=k}\frac{D^\alpha u(a+\theta h)}{\alpha!}h^\alpha$$である。$a+\theta h\in B(a,R)$ なので、右辺の絶対値は上と同じ計算で $M\bigl(e\,n^{3/2}|h|/R\bigr)^k$ 以下であり、$k\to\infty$ で $0$ に収束する。$\square$
ABR20 Theorem 1.28(p. 21)は同じ主張を Poisson 核の展開で示している。$C^\infty$ 級の関数は一般には実解析的でない(Taylorの定理 の記事の命題「何回でも微分できて導関数がすべて0になる関数」)ので、この定理は調和関数の剛性をよく表している。実解析的な関数の性質として、次の一致の定理が成り立つ。
$\Omega$ を連結な開集合、$u$ を $\Omega$ 上の調和関数とする。$u$ が $\Omega$ の空でない開部分集合の上で $0$ なら、$\Omega$ 上で $u\equiv0$ である。
すべての多重指数 $\alpha$ について $D^\alpha u(x)=0$ となる点 $x\in\Omega$ の集合を $Z$ とおく。$Z$ は仮定の開集合を含むので空でない。各 $D^\alpha u$ は連続なので $Z$ は閉集合の共通部分として $\Omega$ の中で閉じている。$x\in Z$ なら、thm-hf-real-analytic により $u$ は $x$ の近くで係数がすべて $0$ の級数に等しく、$x$ の近傍で $u\equiv0$ となるので、その近傍は $Z$ に含まれる。よって $Z$ は開集合でもある。$\Omega$ は連結なので $Z=\Omega$ である。$\square$
$\Omega$ を連結な開集合、$u$ を実数値調和関数とする。$u$ が $\Omega$ のある点で極大値(または極小値)をとるなら、$u$ は定数である。
$u$ が $a$ で極大値をとるなら、ある開球 $B(a,r)\subset\Omega$ の上で $u\le u(a)$ である。開球は連結なので、thm-hf-maximum-principle を $B(a,r)$ に当てはめて $B(a,r)$ 上で $u\equiv u(a)$ である。調和関数 $u-u(a)$ に thm-hf-identity を当てはめて、$\Omega$ 上で $u\equiv u(a)$ である。$\square$
ただし、係数の和 $\sum_\alpha c_\alpha h^\alpha$ が収束する範囲は、$u$ が調和である最大の球よりも狭いことがある。単位円板上の(複素数値の)調和関数 $\frac{1}{1-z}$($z=x_1+ix_2$)を原点で $x_1,x_2$ の冪級数に展開すると、その級数が絶対収束するのは $|x_1|+|x_2|<1$ のときに限る(ABR20 p. 22)。
$n=2$ とし、$\mathbb{R}^2$ を $\mathbb{C}$ と同一視して $z=x+iy$ と書く。
$\Omega\subset\mathbb{C}$ 上の正則関数 $f=u+iv$($u,v$ は実数値)について、$u$ と $v$ は調和である。したがって $f$ 自身も(複素数値の)調和関数である。
正則関数 の記事の定理「正則関数の冪級数展開」により $f'$ も正則なので、$f$ は何回でも複素微分でき、$u,v$ は $C^\infty$ 級である。同記事の「Cauchy–Riemann の方程式」$u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ を微分して $u_{xx}+u_{yy}=v_{yx}-v_{xy}=0$、同様に $v_{xx}+v_{yy}=-u_{yx}+u_{xy}=0$ を得る。$\square$
逆に、実数値調和関数は円板の上では正則関数の実部になる。$u+iv$ が正則になる実数値関数 $v$ を $u$ の 共役調和関数 という。
$D=B(a,R)\subset\mathbb{R}^2$ を開円板、$u$ を $D$ 上の実数値調和関数とする。このとき $D$ 上の実数値調和関数 $v$ で $u+iv$ が $D$ 上正則になるものがある。$v$ は定数の差を除いて一意である。
要点:中心を原点とし、$v(x,y):=\int_0^yu_x(x,t)\,dt-\int_0^xu_y(s,0)\,ds$ とおくと、$u_{xx}=-u_{yy}$ から Cauchy–Riemann の方程式 $v_y=u_x$、$v_x=-u_y$ が出る。
平行移動して $a=0$ とする。$(x,y)\in D$ について、原点と $(x,0)$ を結ぶ線分と、$(x,0)$ と $(x,y)$ を結ぶ線分は $D$ に含まれる(どちらの線分の点も原点からの距離が $|(x,y)|$ 以下)ので$$v(x,y):=\int_0^yu_x(x,t)\,dt-\int_0^xu_y(s,0)\,ds$$が定まる。$u$ は $C^2$ 級なので、積分記号の下で微分して$$v_y=u_x,\qquad v_x=\int_0^yu_{xx}(x,t)\,dt-u_y(x,0)=-\int_0^yu_{yy}(x,t)\,dt-u_y(x,0)=-u_y(x,y)$$である($u_{xx}=-u_{yy}$ を使った)。よって $u,v$ は $C^1$ 級で Cauchy–Riemann の方程式を満たし、正則関数 の記事の「Cauchy–Riemann の方程式」により $u+iv$ は正則である。$v$ の調和性は prop-hf-holomorphic-parts による。$v_1,v_2$ が両方とも共役調和関数なら、$i(v_1-v_2)=(u+iv_1)-(u+iv_2)$ は実部が $0$ の正則関数で、Cauchy–Riemann の方程式から $v_1-v_2$ の偏導関数は $0$ なので、連結な $D$ 上で定数である。$\square$
Leb26c Proposition 7.1.2(p. 166)は、単連結な領域で同じことが成り立つと述べている。円板を単連結でない領域に取り替えると、共役調和関数は一般には存在しない。
$u(z)=\log|z|$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上で調和である(ex-hf-fundamental)が、$\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 全体の上の共役調和関数をもたない。各円板 $B(a,|a|)$ の上では共役調和関数($\arg z$ の分枝)があるので、成り立たないのは領域全体での存在だけである。
要点:共役調和関数 $v$ があれば $f=u+iv$ は $1/z$ の原始関数になるが、単位円周に沿う $1/z$ の積分は $2\pi i\ne0$ である。
$f=u+iv$ が $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上で正則だとすると、Cauchy–Riemann の方程式から $f'=u_x+iv_x=u_x-iu_y=\dfrac{x-iy}{x^2+y^2}=\dfrac1z$ である。単位円周 $\gamma(t)=e^{it}$($0\le t\le2\pi$)に沿って積分すると、$f$ は $f'$ の原始関数なので $\oint_\gamma f'(z)\,dz=f(\gamma(2\pi))-f(\gamma(0))=0$ である。一方 $\oint_\gamma\frac{dz}{z}=\int_0^{2\pi}\frac{ie^{it}}{e^{it}}\,dt=2\pi i\ne0$ で、矛盾する。$\square$
定理の仮定を 1 つ外すと結論が崩れる例をまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\Omega$ の連結性(thm-hf-maximum-principle) | 交わらない 2 つの開球の和 $\Omega$ で、一方で $0$、他方で $1$ | 最大値をとる調和関数は定数 |
| $\Omega$ の有界性(thm-hf-weak-maximum-principle、cor-hf-uniqueness) | 上半空間 $\{x_n>0\}$ 上の $u=x_n$ と $v=0$ | 境界値が同じ調和関数は等しい |
| 有界性(thm-hf-liouville) | $\mathbb{R}^n$ 上の $u=x_1$ | 全空間の調和関数は定数 |
| 実数値(prop-hf-zeros) | $(1-n)x_1^2+x_2^2+\dots+x_n^2+ix_1$ | 零点は孤立しない |
| 円板(単連結性)(prop-hf-conjugate) | $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ 上の $\log\lvert z\rvert$ | 共役調和関数が存在する |
| 連続性(小さい球面だけの平均値の性質) | $x_n>0$ で $1$、$x_n=0$ で $0$、$x_n<0$ で $-1$ | 平均値の性質をもつ関数は調和 |
表の各行を確かめる。1 行目:$u$ は各開球の上で定数なので調和で、$\Omega$ 上で最大値 $1$ をとるが定数でない。2 行目:$u=x_n$ と $v=0$ はどちらも調和で、境界 $\{x_n=0\}$ 上で $0$ だが異なる(弱最大値原理の結論 $u\le0$ も崩れる。境界に近づく点列だけでなく $|x|\to\infty$ の方向も「境界」として扱わないと成り立たない。ABR20 pp. 7–8)。3 行目:$x_1$ は調和で定数でないので、有界性を外すと崩れる。4 行目:上で確かめた。5 行目:ex-hf-log-no-conjugate。6 行目:この関数 $u$ は、$x_n=0$ の点ではすべての球面で、$x_n\ne0$ の点では十分小さい球面で、平均値の性質を満たす(球面の対称性と、小さい球面は片側に入ることによる)が、連続でなく調和でない(ABR20 p. 18)。thm-hf-mean-value-converse は「$\overline B(a,r)\subset\Omega$ となるすべての半径」を仮定しているのでこの $u$ は反例にならないが、平均値の性質を小さい半径の列だけに弱めた形(連続性を仮定すれば成り立つ。ABR20 Theorem 1.24、p. 17。この記事では証明しない)では連続性が外せないことを示す。
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