総和記号(summation notation)とは、数列の第 $m$ 項から第 $n$ 項までの和を $\sum_{k=m}^{n}a_k$ と書く記号 $\sum$ であり、1 項ずつ足す帰納的な定義で定める。有限和について、和と $k$ によらない数の倍は $\sum$ の外に出せ、範囲の分割・添字のずらし・逆順への並べかえができ、隣どうしの差の和は $\sum_{k=1}^{n}(b_{k+1}-b_k)=b_{n+1}-b_1$ になる。2 重の和は長方形の範囲で順序を入れかえてよく、三角形の範囲では内側の範囲を付けかえて入れかえる。積の和は和の積にならず、無限個の項ではくくり方で値が変わるので、性質は有限個の項に限る。
$1+3+5+\dots+19$ のような長い和を、項を全部並べずに書く記号が $\sum$(シグマ)である。数学 B の数列では、この記号で和を書き、和の公式を組み合わせて計算する。まず書き方を 2 つの例で見る。
$1,3,5,\dots,19$ は第 $k$ 項が $2k-1$ の数列の第 $1$ 項から第 $10$ 項までなので、
$$
1+3+5+\dots+19=\sum_{k=1}^{10}(2k-1)
$$
と書く。実際に足すと $100=10^2$ になる。後で ex-sum-linear-use の方法で、一般に $\sum_{k=1}^{n}(2k-1)=n^2$ であることを確かめる。
$$
\sum_{k=1}^{4}k^2=1^2+2^2+3^2+4^2=30,\qquad \sum_{j=1}^{4}j^2=1^2+2^2+3^2+4^2=30
$$
である。$k$ や $j$ は「何番目の項か」を表すだけの文字で、どの文字を使っても和は変わらない。一方、$\sum_{k=1}^{4}k^2$ と $\sum_{k=2}^{5}k^2=4+9+16+25=54$ は違う。範囲が値を決める。
この記事では、$\sum$ の意味を定義し、次の問いに答える。
| 高校の計算 | 使う性質 | ボックス |
|---|---|---|
| $\sum(3k^2-k+2)=3\sum k^2-\sum k+2n$ | 和・定数倍を外に出す | thm-sum-linear |
| 逆順に並べて足す(Gauss の足し算) | 添字の反転 $k\mapsto n+1-k$ | prop-sum-index |
| $\sum\frac1{k(k+1)}=1-\frac1{n+1}$ | 隣どうしが打ち消し合う | prop-sum-telescoping |
| 行列の積の結合法則、分散の公式 | 2 重の和の順序交換 | thm-sum-double |
数列 $(a_k)$ と、$a_m,\dots,a_n$ が定まっている整数 $m\le n$ に対し、第 $m$ 項から第 $n$ 項までの和を
$$
\sum_{k=m}^{n}a_k=a_m+a_{m+1}+\dots+a_n
$$
と書く。正確には、$n$ についての帰納的な定義
$$
\sum_{k=m}^{m}a_k:=a_m,\qquad \sum_{k=m}^{n+1}a_k:=\left(\sum_{k=m}^{n}a_k\right)+a_{n+1}\quad(n\ge m)
$$
で定める。$\sum$ を総和記号、$k$ を添字、$m$ と $n$ を和の下端と上端という。和の項の個数は $n-m+1$ である。また $n=m-1$ のとき(項が 1 つもないとき)は $\sum_{k=m}^{m-1}a_k:=0$ と約束する。
定義の後半は、「第 $n+1$ 項までの和は、第 $n$ 項までの和に $a_{n+1}$ を足したもの」という当たり前のことを式にしたものである。この形にしておくと、$\sum$ についての性質を数学的帰納法で証明できる(Lev24 §4.1.3 も、数列の部分和を $\sum$ で書き、1 つ前の部分和に項を足す漸化式として表している)。添字 $k$ は和の外では意味をもたず(ex-sum-start-dummy)、項 $a_k$ が $k$ の式で書かれているときは、その式に $k=m,m+1,\dots,n$ を順に代入して足す。
数列 $(a_k)$、$(b_k)$ と、$k$ によらない数 $c$、整数 $n\ge1$ について次が成り立つ。
方針:def-sum-def の帰納的な定義を使い、$n$ についての数学的帰納法で示す。
1 の証明。$n=1$ では両辺とも $a_1+b_1$ である。$n$ で成り立つとすると、定義により
$$
\sum_{k=1}^{n+1}(a_k+b_k)=\sum_{k=1}^{n}(a_k+b_k)+(a_{n+1}+b_{n+1})=\left(\sum_{k=1}^{n}a_k+\sum_{k=1}^{n}b_k\right)+a_{n+1}+b_{n+1}
$$
である(2 つ目の等号で帰納法の仮定を使った)。足す順序を入れかえて $\left(\sum_{k=1}^{n}a_k+a_{n+1}\right)+\left(\sum_{k=1}^{n}b_k+b_{n+1}\right)$ とし、もう一度定義を使うと $\sum_{k=1}^{n+1}a_k+\sum_{k=1}^{n+1}b_k$ になる。よって $n+1$ でも成り立つ。
2 の証明。$n=1$ では両辺とも $ca_1$ である。$n$ で成り立つとすると
$$
\sum_{k=1}^{n+1}c\,a_k=\sum_{k=1}^{n}c\,a_k+c\,a_{n+1}=c\sum_{k=1}^{n}a_k+c\,a_{n+1}=c\left(\sum_{k=1}^{n}a_k+a_{n+1}\right)=c\sum_{k=1}^{n+1}a_k
$$
である(3 つ目の等号は分配法則)。
3 の証明。$n=1$ では両辺とも $c$ である。$n$ で成り立つとすると $\sum_{k=1}^{n+1}c=\sum_{k=1}^{n}c+c=nc+c=(n+1)c$ である。
下端が $m$ の場合は、上の証明の $1$ を $m$ に、$n$ を項の個数に読みかえれば同じである。$\square$
線形性と、次の基本の和の公式を組み合わせると、多くの和が計算できる。これらの公式の証明はそれぞれの記事にある。
| 和 | 値 | 証明のある記事 |
|---|---|---|
| $\sum_{k=1}^{n}k$ | $\frac{n(n+1)}2$ | 等差数列と等比数列 の定理「等差数列の和」 |
| $\sum_{k=1}^{n}k^2$ | $\frac{n(n+1)(2n+1)}6$ | 数列の和と差分 の定理「べき和の公式」 |
| $\sum_{k=1}^{n}k^3$ | $\left(\frac{n(n+1)}2\right)^2$ | 立方数の和と三角数 の定理「立方数の和」 |
| $\sum_{k=1}^{n}r^{k-1}$($r\ne1$) | $\frac{1-r^n}{1-r}$ | 等差数列と等比数列 の定理「等比数列の和」 |
線形性は「和」と「$k$ によらない数を掛けること」についての性質で、積については成り立たない。$a_k=b_k=k$、$n=2$ とすると
$$
\sum_{k=1}^{2}a_kb_k=1+4=5,\qquad \left(\sum_{k=1}^{2}a_k\right)\left(\sum_{k=1}^{2}b_k\right)=3\cdot3=9
$$
で、等しくない。同じように、$\sum_{k=1}^{n}k\,a_k$ の $k$ は添字とともに動くので、$\sum$ の外に出せない。
数列 $(a_k)$ と整数 $m\le n$ について次が成り立つ。
方針:どれも def-sum-def の「1 項ずつ足す」定義に戻り、上端 $n$ についての帰納法で示す。
1 の証明。$n=l+1$ のとき、右辺の第 2 の和は $a_{l+1}$ だけなので、右辺は $\sum_{k=m}^{l}a_k+a_{l+1}$ で、定義によりこれは左辺 $\sum_{k=m}^{l+1}a_k$ である。$n$ で成り立つとすると
$$
\sum_{k=m}^{n+1}a_k=\sum_{k=m}^{n}a_k+a_{n+1}=\sum_{k=m}^{l}a_k+\left(\sum_{k=l+1}^{n}a_k+a_{n+1}\right)=\sum_{k=m}^{l}a_k+\sum_{k=l+1}^{n+1}a_k
$$
であり、$n+1$ でも成り立つ。
2 の証明。$n=m$ のとき、両辺はどちらも $a_{m+p}$ である。$n$ で成り立つとすると、左辺に $a_{n+1+p}$ を足したものと右辺に $a_{n+1+p}$ を足したものが等しいので、定義により $\sum_{k=m}^{n+1}a_{k+p}=\sum_{j=m+p}^{n+1+p}a_j$ である。
3 の証明。$n=1$ では両辺とも $a_1$ である。$n$ 項のどんな数列についても成り立つとして、$n+1$ 項の場合を示す。1 の分割($l=1$)で最初の項を分け、2 のずらし($k=j+1$、$p=1$)で添字を付けかえると
$$
\sum_{k=1}^{n+1}a_{n+2-k}=a_{n+1}+\sum_{k=2}^{n+1}a_{n+2-k}=a_{n+1}+\sum_{j=1}^{n}a_{n+1-j}
$$
となる。最後の和は、$a_1,\dots,a_n$ を逆に並べた和なので、帰納法の仮定により $\sum_{j=1}^{n}a_j$ に等しい。よって全体は $a_{n+1}+\sum_{j=1}^{n}a_j=\sum_{k=1}^{n+1}a_k$ である。$\square$
数列 $(b_k)$ と整数 $n\ge1$ について
$$
\sum_{k=1}^{n}(b_{k+1}-b_k)=b_{n+1}-b_1
$$
である。
方針:差の和を 2 つの和の差に分け、片方の添字をずらして、共通の部分を消す。
段 1。$n=1$ では左辺が $b_2-b_1$ で、右辺と同じである。以下 $n\ge2$ とする。
段 2。thm-sum-linear の 1 と 2($c=-1$)により、左辺は $\sum_{k=1}^{n}b_{k+1}-\sum_{k=1}^{n}b_k$ である。prop-sum-index の 2($p=1$)と 1($l=n$ で最後の項を分ける)により
$$
\sum_{k=1}^{n}b_{k+1}=\sum_{j=2}^{n+1}b_j=\sum_{j=2}^{n}b_j+b_{n+1}
$$
であり、同じく 1($l=1$)により $\sum_{k=1}^{n}b_k=b_1+\sum_{k=2}^{n}b_k$ である。
段 3。2 つを引くと、共通の $\sum_{j=2}^{n}b_j$ が消えて $b_{n+1}-b_1$ が残る。$\square$
これは 数列の和と差分 の定理「和と差分の基本定理」の 1 と同じ内容で、階差数列の公式 $a_n=a_1+\sum_{k=1}^{n-1}(a_{k+1}-a_k)$ も、$n\ge2$ では上端を $n-1$ としたこの形であり、$n=1$ でも空の和の約束により成り立つ。和を計算するには、項 $a_k$ を「隣どうしの差」$b_{k+1}-b_k$ の形に書きかえればよい。
表のように 2 つの添字をもつ数 $a_{ij}$($i=1,\dots,m$、$j=1,\dots,n$)の合計は、「行ごとに足してから行の和を足す」ことも、「列ごとに足してから列の和を足す」こともできる。
$$
\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}:=\sum_{i=1}^{m}\left(\sum_{j=1}^{n}a_{ij}\right)
$$
と定める。内側の和を先に計算し、その結果を $i$ について足す。
$$ \sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=1}^{m}a_{ij} $$
方針:$m$ についての帰納法で示す。新しい行を足すところで thm-sum-linear の 1 を使う。
段 1($m=1$)。左辺は $\sum_{j=1}^{n}a_{1j}$、右辺は各 $j$ の内側の和が $a_{1j}$ だけなので同じく $\sum_{j=1}^{n}a_{1j}$ である。
段 2($m$ から $m+1$ へ)。$m$ で成り立つとする。定義と帰納法の仮定により
$$
\sum_{i=1}^{m+1}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_{ij}+\sum_{j=1}^{n}a_{m+1,j}=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=1}^{m}a_{ij}+\sum_{j=1}^{n}a_{m+1,j}
$$
である。右辺の 2 つの $j$ についての和を thm-sum-linear の 1 で 1 つにまとめると
$$
\sum_{j=1}^{n}\left(\sum_{i=1}^{m}a_{ij}+a_{m+1,j}\right)=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=1}^{m+1}a_{ij}
$$
となり、$m+1$ でも成り立つ。$\square$
$$ \left(\sum_{i=1}^{m}a_i\right)\left(\sum_{j=1}^{n}b_j\right)=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}a_ib_j $$
$B:=\sum_{j=1}^{n}b_j$ は $i$ によらない数なので、thm-sum-linear の 2 により左辺は $\sum_{i=1}^{m}a_iB$ である。各 $i$ について $a_i$ は $j$ によらないので、再び 2 により $a_iB=\sum_{j=1}^{n}a_ib_j$ である。$\square$
添字の範囲が長方形でなく、$j\le i$ のような三角形のときは、範囲を書きかえてから交換する。
$$ \sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{i}a_{ij}=\sum_{j=1}^{n}\sum_{i=j}^{n}a_{ij} $$
方針:$j>i$ の所に $0$ を置いて $n\times n$ の長方形の和にし、thm-sum-double を使う。
段 1。$c_{ij}:=a_{ij}$($j\le i$ のとき)、$c_{ij}:=0$($j>i$ のとき)と定める。
段 2。各 $i$ について、$\sum_{j=1}^{n}c_{ij}$ は prop-sum-index の 1 で $j\le i$ と $j>i$ に分けると $\sum_{j=1}^{i}a_{ij}+0$ である($i=n$ なら分ける必要はない)。同じく各 $j$ について、$i< j$ と $i\ge j$ に分けると $\sum_{i=1}^{n}c_{ij}=0+\sum_{i=j}^{n}a_{ij}$ である($j=1$ なら分ける必要はない)。
段 3。thm-sum-double を $c_{ij}$ に使うと、$\sum_i\sum_jc_{ij}=\sum_j\sum_ic_{ij}$ であり、段 2 によりこれは示したい等式である。$\square$
データ $x_1,\dots,x_n$ の平均を $\bar x=\frac1n\sum_{i=1}^{n}x_i$ とすると、$\sum_{i=1}^{n}x_i=n\bar x$ である。$(x_i-\bar x)^2=x_i^2-2\bar x\,x_i+\bar x^2$ を足して、$\bar x$ が $i$ によらないことから thm-sum-linear を使うと
$$
\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar x)^2=\sum_{i=1}^{n}x_i^2-2\bar x\sum_{i=1}^{n}x_i+n\bar x^2=\sum_{i=1}^{n}x_i^2-n\bar x^2
$$
となる。両辺を $n$ で割ったものが分散の公式(平均値と二乗誤差 の系「分散の公式」)である。データ $2,4,9$ では $\bar x=5$ で、左辺は $9+1+16=26$、右辺は $4+16+81-3\cdot25=26$ である。
ここまでの性質の条件を 1 つずつ外すと、次のように崩れる。
| 外した条件 | 崩れること | ボックス |
|---|---|---|
| thm-sum-linear の「$c$ は $k$ によらない」 | 積の和が和の積にならない | ex-sum-cx-product |
| prop-sum-index の 1 の「$l$ までと $l+1$ から」 | 分け目の項を 2 回数える | ex-sum-cx-list の 1 |
| prop-sum-index の 2 の「範囲も $p$ だけずらす」 | 別の項の和になる | ex-sum-cx-list の 2 |
| cor-sum-triangle の「内側の範囲を $i=j$ から $n$ に」 | 足す項の組が変わる | ex-sum-cx-list の 3 |
| 項が有限個であること | くくり方で値が変わる | ex-sum-cx-list の 4 |
thm-sum-double と prop-sum-index の 3 は、「有限個の数の和は、足す順序とくくり方によらない」という事実の特別な場合である。大学数学では、この事実を使って、有限集合 $S$ の上の和 $\sum_{s\in S}a_s$ を順序を決めずに定義する。たとえば cor-sum-triangle は、集合 $\{(i,j):1\le j\le i\le n\}$ の上の和を 2 通りに数えたものである。確率で使う $E(X)=\sum_{\omega}X(\omega)P(\{\omega\})$ もこの形の和である(確率変数の期待値と分散)。
掛け算についても同じ形の記号 $\prod_{k=1}^{n}a_k=a_1a_2\cdots a_n$ がある。項が無限個になると順序の入れかえは無条件にはできず、ex-sum-cx-list の 4 のようなことが起こる。
和 $\sum$ と積分 $\int$ はよく似ている。prop-sum-telescoping は微積分学の基本定理 $\int_a^bF'(x)\,dx=F(b)-F(a)$ の和の版であり、thm-sum-double は 2 重積分の順序交換の和の版である(和と積分の対応表)。
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