Picard–Fuchs方程式

同義語:Picard-Fuchs方程式Picard–Fuchs equationピカール・フックス方程式

概要

Picard–Fuchs方程式(Picard–Fuchs equation)とは、代数多様体の族の周期 $\int_{\gamma_\lambda}\omega$ がパラメータ $\lambda$ の関数としてみたす、$\lambda$ の有理関数を係数とする線形常微分方程式である。Gauss–Manin 接続が作用する有限次元のコホモロジーの中で $\omega$ の微分が一次従属になることから得られ、その関係式を与える階数最小のモニックな作用素が Picard–Fuchs 作用素である。超楕円型の族 $y^2=F(x,\lambda)$($x$ について次数 $d$ で分離的)では、形式を完全形式で割った空間の次元が $d-1$ 以下なので、階数は $d-1$ 以下になる。Legendre 族では Gauss の超幾何微分方程式になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Gauss–Manin接続, 周期(代数多様体), 線形常微分方程式, 楕円曲線

Picard–Fuchs 方程式(Picard–Fuchs equation)は、代数多様体の族の周期がパラメータの関数としてみたす線形常微分方程式である。Legendre 族 $y^2=x(x-1)(x-\lambda)$ の周期 $\rho(\lambda)=\int_\gamma dx/y$ は
$$ \lambda(1-\lambda)\rho''+(1-2\lambda)\rho'-\tfrac14\rho=0 $$
をみたす(Gauss–Manin接続 の例「Legendre 族と Picard–Fuchs 方程式」)。周期は超越的な関数なのに、それがみたす方程式の係数は $\lambda$ の有理関数である。理由は二つある。周期を $\lambda$ で微分すると、微分形式を $\lambda$ で微分したものの周期になる。そして完全形式の周期は $0$ なので、微分形式は「完全形式を法として」有限次元の空間に収まる。有限次元の空間の中で $\omega,\partial\omega,\partial^2\omega,\dots$ はいつか一次従属になり、その関係式が微分方程式である。
この記事では、まず一般の族について Picard–Fuchs 作用素を定義する。次に超楕円型の族 $y^2=F(x,\lambda)$ について、「微分形式を完全形式で割った空間」を具体的に作り、その次元が $\deg_xF-1$ 以下であることを証明する。これにより Picard–Fuchs 方程式の存在と階数の上界が得られ、周期がその方程式の解であることが従う。例として、階数が上界に届かない族 $y^2=x^3+\lambda$ の方程式を求める。

定義

一般の族の Picard–Fuchs 作用素

$K$ を標数 $0$ の体とし、導分 $a\mapsto a'$ をもつとする(典型は $K=\mathbb{C}(\lambda)$、$a'=da/d\lambda$)。$K$ 上の微分作用素環 $D=K\langle\partial\rangle$ は、$\sum_{j=0}^m a_j\partial^j$($a_j\in K$)の全体に、関係 $\partial a=a\partial+a'$ で積を入れた環である。$a_m\ne0$ のとき $m$ を階数、$a_m=1$ のときモニックという。

Picard–Fuchs 作用素

$M$ を $D$ 加群($K$ ベクトル空間と、$\partial(am)=a'm+a\partial m$ をみたす加法写像 $\partial\colon M\to M$ の組)とし、$m\in M$ とする。$Lm=0$ となる $L\in D$ の全体は $D$ の左イデアルである。これが $0$ でないとき、その中の階数最小のモニックな元を $m$ の Picard–Fuchs 作用素という(lem-pf-ideal によりただ一つ)。
$f\colon X\to S$ を $\mathbb{C}$ 上の固有で滑らかな族、$S$ を座標 $\lambda$ をもつ曲線とし、$M$ を相対 de Rham コホモロジー $\mathcal{H}^n_{dR}(X/S)$ の生成点での値($K=\mathbb{C}(S)$ 上の有限次元空間)に、Gauss–Manin 接続 $\nabla_{d/d\lambda}$ を $\partial$ として与えたものとする。このとき $\omega\in M$ の Picard–Fuchs 作用素 $L$ が定める方程式 $L\rho=0$ を $\omega$ の Picard–Fuchs 方程式という。

$M$ が $K$ 上 $N$ 次元なら、$m,\partial m,\dots,\partial^Nm$ は一次従属なので、イデアルは $0$ でなく、Picard–Fuchs 作用素の階数は $N$ 以下である。Gauss–Manin 接続については、ファイバーのサイクル $\gamma_\lambda$ を局所定数に動かすとき $\frac{d}{d\lambda}\int_{\gamma_\lambda}\omega=\int_{\gamma_\lambda}\nabla_{d/d\lambda}\omega$ が成り立つ(Gauss–Manin接続 の定理「解析的な記述」)。したがって周期 $\int_{\gamma_\lambda}\omega$ は Picard–Fuchs 方程式の解である。この方程式は古典的に Picard–Fuchs 方程式と呼ばれる(Kat70 (0.1))。

微分作用素環の左イデアルは単項

$I\ne0$ を $D$ の左イデアルとし、$L\in I$ を階数最小のモニックな元とする。このとき $I=DL$ であり、$L$ は $I$ によってただ一つに決まる。

要点:最高次の係数を消す割り算ができる。

証明を開く

$I$ の $0$ でない元の最高次の係数で割ればモニックな元が得られるので、階数最小のモニックな元 $L$(階数 $m$)がある。$A\in D$ の階数 $n$ についての帰納法で、$A=QL+R$、$R$ の階数 $< m$(または $R=0$)となる $Q,R\in D$ があることを示す。$n< m$ なら $Q=0$ でよい。$n\ge m$ で $A$ の最高次の係数を $a$ とすると、$\partial^{n-m}L$ は $\partial^n+$(階数 $< n$ の項)なので(関係 $\partial b=b\partial+b'$ を繰り返し使う)、$A-a\partial^{n-m}L$ の階数は $n$ 未満であり、帰納法の仮定が使える。$A\in I$ なら $R=A-QL\in I$ で、$L$ の最小性から $R=0$ である。よって $I=DL$。二つの階数最小のモニックな元の差は $I$ に属し階数が小さいので $0$ である。

超楕円型の族:形式を完全形式で割った空間

以下 $K=\mathbb{C}(\lambda)$ とし、$F\in K[x]$ を $x$ について次数 $d\ge1$ の多項式で、$F$ と $F_x:=\partial F/\partial x$ が $K[x]$ で互いに素なもの($K$ 上分離的)とする。$F$ は平方元でないので、$L_F:=K(x)[y]/(y^2-F)$ は体である。$K(x)$ 上の導分 $\partial_x$、$\partial_\lambda$ は分離的な拡大 $L_F$ へただ一通りに延び、$\partial_xy=F_x/(2y)$、$\partial_\lambda y=F_\lambda/(2y)$ である。二つの延長の交換子は $K(x)$ 上で $0$ になる導分なので、一意性から $L_F$ 上でも $0$、すなわち $\partial_x\partial_\lambda=\partial_\lambda\partial_x$ である。

形式の空間

$V_F:=y\,K[x,F^{-1}]\subset L_F$ とおく($y^{-1}=y/F$ なので $V_F=y^{-1}K[x,F^{-1}]$ でもある)。$h\in V_F$ を微分形式 $h\,dx$ と思い、$h=\partial_xg$($g\in V_F$)と書けるものを完全という。$\partial_x$ と $\partial_\lambda$ は $V_F$ を $V_F$ に写す。
$$ M_F:=V_F/\partial_xV_F $$
とおく。$\partial_x$ は $K$ 線形なので $M_F$ は $K$ ベクトル空間であり、$\partial_\lambda$ は $\partial_x$ と可換なので $M_F$ に作用し、$M_F$ は $D$ 加群になる。

$V_F$ の元は $P\,F^{-k}y^{-1}$($P\in K[x]$、$k\ge0$)の形に書ける。これは $P\,F^{-k-1/2}dx$ という形式であり、$\partial_\lambda$ は「$x$ を止めて $\lambda$ で微分する」操作、すなわち Gauss–Manin接続 の記事の「サイクルを定数として、コホモロジー類を微分する」操作をこの族で書いたものである。

主定理

形式の空間の次元

上の状況で、$M_F$ は $x^iy^{-1}$($0\le i\le d-2$)の類で張られる。とくに $\dim_KM_F\le d-1$ である($d=1$ なら $M_F=0$)。

極の位数と次数を下げる

段階 1($F$ の冪を下げる)。 $k\ge1$ とし、$h=P\,F^{-k}y^{-1}$ とする。$F$ と $F_x$ は互いに素なので、$P=AF+BF_x$ となる $A,B\in K[x]$ がある。$\partial_xy=F_x/(2y)$ と $y=Fy^{-1}$ を使って計算すると
$$ \partial_x\bigl(B\,F^{-k}y\bigr)=\bigl(B_xF-(k-\tfrac12)BF_x\bigr)F^{-k}y^{-1} $$
である。$k-\frac12\ne0$ なので、$\partial_xV_F$ を法として
$$ P\,F^{-k}y^{-1}=A\,F^{-(k-1)}y^{-1}+BF_x\,F^{-k}y^{-1}\equiv\Bigl(A+\frac{B_x}{k-\frac12}\Bigr)F^{-(k-1)}y^{-1} $$
となり、$F$ の冪が $1$ 下がる。これを繰り返すと、$V_F$ のすべての元は $P\,y^{-1}$($P\in K[x]$)と合同になる。
段階 2($x$ の次数を下げる)。 $F$ の $x$ についての最高次の係数を $c\ne0$ とする。$j\ge0$ に対し
$$ \partial_x\bigl(x^j y\bigr)=jx^{j-1}y+x^j\frac{F_x}{2y}=\Bigl(jx^{j-1}F+\tfrac12x^jF_x\Bigr)y^{-1} $$
であり、括弧の中は次数 $j+d-1$、最高次の係数 $c\,(j+\frac d2)\ne0$ の多項式である。$\deg P=n\ge d-1$ なら、$j=n-d+1$ としてこの式の適当な定数倍を引けば、$P\,y^{-1}$ は次数 $n$ 未満の $P_1$ による $P_1y^{-1}$ と合同になる。繰り返せば次数は $d-2$ 以下になる。

Picard–Fuchs 作用素の存在と周期

上の状況で $h\in V_F$ とする。

  1. $h$ の類 $[h]\in M_F$ の Picard–Fuchs 作用素 $L=\partial^m+a_{m-1}\partial^{m-1}+\cdots+a_0$($a_j\in K$)が存在し、$m\le d-1$ である。
  2. $\lambda_0\in\mathbb{C}$ で $F$ の係数と $h$ の係数($h=P\,F^{-k}y^{-1}$ と書いたときの $P$ の係数)が正則であり、$F(\lambda_0,x)$ が $x$ について次数 $d$ で相異なる $d$ 個の根をもつとする。$\gamma\colon[0,1]\to\mathbb{C}$ を $F(\lambda_0,x)$ の根を通らない区分的に $C^1$ な閉じた道とし、$\sqrt{F(\lambda_0,\gamma(t))}$ の連続な枝 $y_0(t)$ で $y_0(1)=y_0(0)$ をみたすものがあるとする。このとき $\lambda_0$ のある近傍 $U$ と、$U\times[0,1]$ 上の連続関数 $y(\lambda,t)$ で、$y(\lambda,t)^2=F(\lambda,\gamma(t))$、$y(\lambda_0,t)=y_0(t)$、$y(\lambda,1)=y(\lambda,0)$ をみたし $\lambda$ について正則なものがただ一つある。そして
    $$ \rho(\lambda):=\int_0^1 P(\lambda,\gamma(t))\,F(\lambda,\gamma(t))^{-k}\,y(\lambda,t)^{-1}\gamma'(t)\,dt $$
    は $U$ 上正則で、$U$ から有限個の点を除いたところで $\rho^{(m)}+a_{m-1}\rho^{(m-1)}+\cdots+a_0\rho=0$ をみたす。
一次従属性と完全形式の周期
  1. thm-pf-dimension により、$M_F$ の $d$ 個の元 $[h],\partial[h],\dots,\partial^{d-1}[h]$ は一次従属である。よって $[h]$ を消す $0$ でない作用素が階数 $d-1$ 以下にあり、lem-pf-ideal から Picard–Fuchs 作用素が存在して階数は $d-1$ 以下である。
  2. 枝 $y$ の存在は、$\gamma([0,1])$ がコンパクトで $F(\lambda_0,\gamma(t))\ne0$ であることから、$|F(\lambda,\gamma(t))|\ge\delta>0$ となる円板 $U$ をとって、各 $t$ の近くで正則な平方根を選び連続につなげばよい(詳細は折りたたみ)。$g=Q\,F^{-l}y\in V_F$ について、$G(t):=g(\lambda,\gamma(t))$ は区分的に $C^1$ で、連鎖律と $\frac{d}{dt}y(\lambda,t)=F_x(\lambda,\gamma(t))\gamma'(t)/(2y)$ から $G'(t)=(\partial_xg)(\lambda,\gamma(t))\gamma'(t)$ である。したがって
    $$ \int_0^1(\partial_xg)(\lambda,\gamma(t))\gamma'(t)\,dt=G(1)-G(0)=0 $$
    ($\gamma(1)=\gamma(0)$ と $y(\lambda,1)=y(\lambda,0)$ による)。すなわち完全な元の周期は $0$ である。また $\partial_\lambda y=F_\lambda/(2y)$ は $\lambda$ による実際の微分と一致するので、被積分関数を $\lambda$ で微分したものは $\partial_\lambda h$ の被積分関数であり、積分記号下の微分により $\rho'$ は $\partial_\lambda h$ の周期、$\rho^{(j)}$ は $\partial_\lambda^jh$ の周期である。$L[h]=0$ は $\sum_ja_j\partial_\lambda^jh=\partial_xg$ となる $g\in V_F$ があることを意味する。$a_j$ と $g$ の係数の極(有限個)を除いた $U$ の点で両辺の周期をとれば、$\sum_ja_j\rho^{(j)}=0$ を得る。
    枝の構成と積分記号下の微分の詳細

    $F$ の係数は $\lambda_0$ で正則なので、$(\lambda,t)\mapsto F(\lambda,\gamma(t))$ は $\overline{U}\times[0,1]$($U$ は $\lambda_0$ の小さな円板)で連続、$\lambda$ について正則である。コンパクト性から $U$ を小さくとれば $|F(\lambda,\gamma(t))|\ge\delta>0$ となる。各 $\lambda\in U$ について、$t\mapsto F(\lambda,\gamma(t))$ は $0$ を通らない連続関数なので、$t=0$ での値を指定すれば連続な平方根がただ一つ定まる。$t=0$ での値は $F(\lambda,\gamma(0))$ の $\lambda_0$ の近くでの正則な平方根で $y_0(0)$ を通るものとする。$U\times[0,1]$ は単連結で、$z\mapsto z^2$ は $\mathbb{C}^\times$ の被覆なので、連続写像 $(\lambda,t)\mapsto F(\lambda,\gamma(t))$ は $(\lambda_0,0)$ で値 $y_0(0)$ をとる連続な平方根 $y(\lambda,t)$ をただ一つもつ。持ち上げの一意性から、$y$ の $U\times\{0\}$ への制限は上の正則な平方根と一致し、$\lambda$ を止めた制限は上で選んだ平方根と一致する。各点 $(\lambda_1,t_1)$ の連結な近傍で $F(\lambda,\gamma(t))$ の値が $0$ を含まない小円板に入るようにとり、その円板上の平方根の枝 $s$ を $y(\lambda_1,t_1)$ を通るようにとると、$y$ と $s(F(\lambda,\gamma(t)))$ の比はこの近傍で $\pm1$ に値をとる連続関数で、$(\lambda_1,t_1)$ で $1$ なので、両者は一致する。よって $y$ は $\lambda$ について正則である。$y(\lambda,1)/y(\lambda,0)\in\{\pm1\}$ は $\lambda$ について連続で $\lambda_0$ で $1$ なので、連結な $U$ 上で $1$ である。被積分関数は $(\lambda,t)$ について連続で $\lambda$ について正則だから、Cauchy の積分公式と Fubini の定理により $\rho$ は正則で、微分と積分は交換する(正則関数)。

thm-pf-dimension の上界 $d-1$ に階数が届くかどうかは族による。次の 2 つの例は $d=3$ で、階数はそれぞれ $2$ と $1$ である。

例

Legendre 族

$F=x(x-1)(x-\lambda)$、$d=3$ とする。thm-pf-existence により $dx/y$ の Picard–Fuchs 作用素の階数は $2$ 以下である。実際には階数はちょうど $2$ で、方程式は冒頭に書いた $\lambda(1-\lambda)\rho''+(1-2\lambda)\rho'-\frac14\rho=0$、すなわち $a=b=\frac12$、$c=1$ の Gauss の超幾何微分方程式である(超幾何級数)。この方程式の導出と、$dx/y$ とその微分が一次独立であること($j$ 不変量が定数でないことによる)は、Gauss–Manin接続 の例「Legendre 族と Picard–Fuchs 方程式」で証明されている。
奇素数 $p$ について、Hasse 多項式 $H_p(\lambda)$ は同じ方程式(を $4$ 倍したもの)を $\mathbb{F}_p[\lambda]$ でみたす(Hasse不変量 の定理「Igusa の定理」)。$H_p$ は $\lambda=0$ で正則な解 ${}_2F_1(\frac12,\frac12;1;\lambda)$ の $\bmod p$ での切り詰めであり、Picard–Fuchs 方程式は標数 $p$ の楕円曲線が超特異になる条件とも結びついている。

階数が上界に届かない族

$F=x^3+\lambda$、$d=3$ とし、$h=y^{-1}$(形式 $dx/y$)を考える。$[h]$ の Picard–Fuchs 作用素は $\partial+\frac{1}{6\lambda}$ であり、周期は局所的に $C\lambda^{-1/6}$ の形をしている。

$\partial_\lambda(y^{-1})=-\frac{F_\lambda}{2F}y^{-1}=-\frac1{2F}y^{-1}$ なので、
$$ 6\lambda\,\partial_\lambda(y^{-1})+y^{-1}=\frac{F-3\lambda}{F}y^{-1}=(x^3-2\lambda)F^{-1}y^{-1} $$
である。一方 $\partial_x(x\,y^{-1})=y^{-1}-\frac{x\,F_x}{2F}y^{-1}=(F-\tfrac32x^3)F^{-1}y^{-1}=(\lambda-\tfrac12x^3)F^{-1}y^{-1}$ なので、上の右辺は $-2\,\partial_x(x\,y^{-1})$ に等しい。よって $(\partial+\frac1{6\lambda})[h]=0$ である。階数が $0$ でない、すなわち $[h]\ne0$ であることを示すには、周期が $0$ でない閉じた道が一つあればよい(thm-pf-existence の 2 により、$[h]=0$ ならすべての周期が $0$)。$\lambda_0=-1$ では根は $1,\zeta,\bar\zeta$($\zeta=e^{2\pi i/3}$)で、線分 $[\bar\zeta,\zeta]$ を細く囲む閉じた道は二つの根を囲むので、平方根は元の値に戻る。その周期は $\pm2J$ であり、
$$ J=\int_{-a}^{a}\frac{ds}{\sqrt{\frac32-is}\,\sqrt{a^2-s^2}}\qquad\bigl(a=\tfrac{\sqrt3}{2}\bigr) $$
の実部は正である(詳細は折りたたみ)。周期 $\rho$ は $\rho'=-\rho/(6\lambda)$ をみたすので、局所的に $\rho=C\lambda^{-1/6}$ となる。

周期 $\pm2J$ の計算

線分上で $x=-\frac12+is$($|s|\le a$)とおくと $x^2+x+1=a^2-s^2$、$x-1=-\frac32+is$ なので $F=x^3-1=(x-1)(a^2-s^2)$ である。$\sqrt{x-1}=i\sqrt{1-x}$($\sqrt{1-x}=\sqrt{\frac32-is}$ は右半平面での主値)は線分上で連続な平方根なので、$dx/y=i\,ds/(i\sqrt{\frac32-is}\sqrt{a^2-s^2})$ の線分上の積分は $J$ である。線分を幅 $\varepsilon$ で囲む道は、両端の半径 $\varepsilon$ の円弧と線分に平行な 2 辺からなる。被積分関数は根の近くで $O(|x-r|^{-1/2})$ なので円弧の寄与は $O(\varepsilon^{1/2})$ である。2 辺では向きが逆で、平方根の値は線分の両側で符号が逆なので(根を一つだけ回ると符号が変わる)、寄与はどちらも $\varepsilon\to0$ で $\pm J$ に近づき、合わせて $\pm2J$ になる。周期は道の連続変形で変わらない(Cauchyの積分定理)ので、どの幅でも $\pm2J$ である。最後に、$s$ と $-s$ の寄与の和は $\bigl(1/\sqrt{\frac32-is}+1/\sqrt{\frac32+is}\bigr)/\sqrt{a^2-s^2}=2\,\mathrm{Re}\bigl(1/\sqrt{\frac32-is}\bigr)/\sqrt{a^2-s^2}$ で、$\sqrt{\frac32-is}$ は右半平面にあるからその逆数の実部は正である。よって $\mathrm{Re}\,J>0$。

この族の曲線はすべて互いに同型である。実際 $(x,y)\mapsto(c^2x,c^3y)$ は $y^2=x^3+\lambda$ を $y^2=x^3+c^6\lambda$ に写す。$dx/y$ はこの写像で $c^{-1}dx/y$ になり、周期は $\lambda^{-1/6}$ に比例してしか変わらない。Legendre 族では曲線の同型類が $\lambda$ とともに動くので、周期の比が動き、階数 $1$ の方程式では足りなくなる。

反例

thm-pf-existence の 2 の結論(完全な元の周期が $0$ であること、したがって周期が方程式をみたすこと)は、道についての条件を外すと成り立たない。各行は 1 つの条件だけを外している。いずれも $F=x-\lambda$($d=1$)で、thm-pf-dimension により $M_F=0$、すなわち $h=y^{-1}$ は完全($y^{-1}=\partial_x(2y)$)であり、条件をみたす道では周期は $0$ になる。

外す条件反例成り立たなくなること
道が閉じている$x=1$ から $x=2$ への線分、$\lambda$ は $0$ の近く$\int dx/y=2\sqrt{2-\lambda}-2\sqrt{1-\lambda}\ne0$
平方根の枝が元の値に戻る根 $\lambda$ を囲む円 $\lvert x\rvert=R$($\lvert\lambda\rvert< R$)を 1 周$\int dx/y=\pm4\sqrt{R-\lambda}\ne0$

2 行目では、$x=R$ から出発して 1 周すると $y=\sqrt{x-\lambda}$ の値は $-1$ 倍になるので、$\int dx/y=[2y]$ の両端の差 $2(-\sqrt{R-\lambda})-2\sqrt{R-\lambda}$ が残る。どちらの例でも周期は $0$ でない関数で、階数 $0$ の方程式 $\rho=0$ をみたさない。

正則特異点とモノドロミー

固有で滑らかな族の Gauss–Manin 接続は、底の曲線のコンパクト化の境界点で正則特異点をもち、局所モノドロミーは擬冪単である(Gauss–Manin接続 の定理「正則特異点とモノドロミー定理」)。Katz は固有でない滑らかな族についても同じ結論を述べている(Kat70 Theorem (14.3)、pp. 230–231)。したがって Picard–Fuchs 方程式は Fuchs 型であり、特異点での指数は有理数である(Kat70 (0.3))。この記事ではこれらを証明しない。Legendre 族では特異点は $\lambda=0,1,\infty$ の 3 点で、$\lambda=0$ での指数は $0,0$ である(確定特異点)。ex-pf-isotrivial では $\lambda=0$ での指数は $-\frac16$ で、局所モノドロミーは位数 $6$ の 1 の冪根倍である。

関連項目

参考文献

[1]
Nicholas M. Katz, Nilpotent connections and the monodromy theorem: applications of a result of Turrittin, Publications Mathématiques de l'IHÉS, 1970, 175–232(Introduction (0.1)–(0.4)、pp. 175–176:Picard–Fuchs 方程式の名と正則特異点・モノドロミー定理の意味。Theorem (14.1)・(14.3)、pp. 230–231:固有な族と固有でない滑らかな族の Gauss–Manin 接続の正則特異点と擬冪単モノドロミー)

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