Hilbertの零点定理

同義語:Hilbert's NullstellensatzNullstellensatzヒルベルトの零点定理

概要

Hilbertの零点定理(Hilbert's Nullstellensatz)とは、代数閉体 $k$ 上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ のイデアル $I$ について、共通零点の集合 $V(I)\subset k^n$ の上で消える多項式の全体が $I$ の根基 $\sqrt{I}$ に一致するという定理である。とくに真のイデアルは必ず共通零点をもち(弱零点定理)、極大イデアルは点 $a\in k^n$ に対応するイデアル $(x_1-a_1,\dots,x_n-a_n)$ に限る。これにより $k^n$ のアフィン代数的集合と根基イデアルが一対一に対応する。核心は、体上有限生成な環である体は有限次拡大であるという Zariski の補題である。$\mathbb{R}$ のような代数閉でない体では成り立たないが、一般の体上でも根基を極大イデアルの共通部分で表す形が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多項式環, イデアル, 極大イデアル, 冪零根基, 代数閉体, アフィン代数的集合

動機

有限個の多項式 $f_1,\dots,f_r\in k[x_1,\dots,x_n]$ の共通の零点がいつ存在するか、そして共通零点の集合がどの多項式で記述されるかを問う。$1=g_1f_1+\cdots+g_rf_r$ と書ければ、どの点でも右辺は $0$ にならないので共通零点はない。これは解が存在しないことの「代数的な証拠」である。Hilbertの零点定理は、代数閉体の上ではこの逆が成り立つこと、すなわち代数的な証拠がなければ必ず解があることを主張する。さらに強い形は、共通零点の上で消える多項式の全体が、もとの多項式から「冪をとって入る元」を集めたもの(根基)でちょうど尽きることを述べる。この定理により、図形(共通零点の集合)と代数(イデアル)の辞書が完全なものになり、座標環やアフィンスキームによる代数幾何学の出発点となる。

仮定と定理

本記事で環とは単位元をもつ可換環を指す。$k$ を体とし、$A:=k[x_1,\dots,x_n]$ を $k$ 上 $n$ 変数の多項式環とする($n\ge1$ とするが、$n=0$ でも以下の主張は $A=k$ として成り立つ)。$a=(a_1,\dots,a_n)\in k^n$ と $f\in A$ に対し、$f$ の $a$ での値を $f(a)$ と書く。

零点集合と消滅イデアル
  1. 部分集合 $S\subset A$ に対し、$S$ の共通零点の集合を
    $$ V(S):=\{a\in k^n\mid \text{すべての }f\in S\text{ について }f(a)=0\} $$
    と定める。この形に書ける $k^n$ の部分集合を $k^n$ のアフィン代数的集合という。
  2. 部分集合 $X\subset k^n$ に対し、$X$ の消滅イデアルを
    $$ I(X):=\{f\in A\mid \text{すべての }a\in X\text{ について }f(a)=0\} $$
    と定める。
  3. $a\in k^n$ に対し $\mathfrak{m}_a:=(x_1-a_1,\dots,x_n-a_n)\subset A$ とおく。

$I(X)$ は $A$ のイデアルである($X$ 上で消える 2 つの多項式の和は $X$ 上で消え、$X$ 上で消える多項式に任意の多項式を掛けても $X$ 上で消える)。$S$ が生成するイデアルを $(S)$ とすると $V(S)=V((S))$ である。イデアル $I$ の根基を $\sqrt{I}:=\{f\in A\mid \text{ある }m\ge1\text{ について }f^m\in I\}$ と書く(冪零根基の記事の定義「イデアルの根基」)。極大イデアルの記事の例「多変数多項式環の点に対応する極大イデアル」により、$\mathfrak{m}_a$ は代入 $f\mapsto f(a)$ の核であって極大イデアルであり、$f\in\mathfrak{m}_a$ と $f(a)=0$ は同値である。
包含 $\sqrt{I}\subset I(V(I))$ はどの体でも成り立つ。実際 $f^m\in I$ なら、$a\in V(I)$ で $f(a)^m=0$ となり、体には $0$ 以外の冪零元がないので $f(a)=0$ である。零点定理はこの逆の包含を与える。その核心は、体上有限生成環である体についての次の定理である。

Zariskiの補題

$k$ を体とし、$K$ を $k$ を含む体で、$k$ 上の環として有限生成であるものとする(すなわち $K=k[b_1,\dots,b_m]$ となる $b_1,\dots,b_m\in K$ がある)。このとき $K$ は $k$ の有限次拡大である。

Zariskiの補題の出典と証明の筋

証明は AM69 Chapter 5(Proposition 5.23 と Corollary 5.24)・Chapter 7(Proposition 7.9)、Eis95 Chapter 4 に譲る。筋の 1 つは次のとおりである。$K$ の生成元のうち $k$ 上代数的独立な極大の部分集合 $t_1,\dots,t_d$ をとると、残りの生成元は $F:=k(t_1,\dots,t_d)$ 上代数的であり、それらの最小多項式の係数の分母をすべて掛けた多項式 $h\ne0$ について、$K$ は $R:=k[t_1,\dots,t_d][1/h]$ 上の有限生成加群になる。体 $K$ の部分環 $R$ で、$K$ が $R$ 上有限生成加群になるものは体である(行列式による議論)ので、$R$ は体である。ところが $d\ge1$ なら $k[t_1,\dots,t_d]$ には同伴でない既約多項式が無限個あるので $h$ を割らない既約多項式 $p$ がとれ、$p$ は $R$ の単元でない($pq=h^N$ なら、$k[t_1,\dots,t_d]$ は一意分解整域なので素元 $p$ が $h$ を割ることになる)。これは $R$ が体であることに反する。よって $d=0$ であり、$K$ は有限個の代数的な元で生成されるので $k$ 上有限次元である。Noether正規化定理を経由する証明もある(有限型射の記事の注意「Zariski の補題の出典と証明の筋」)。基礎体 $k$ が非可算集合である場合には、次元の数え上げによる短い証明を下の prop-nullstellensatz-uncountable で与える。

Hilbertの零点定理

$k$ を代数閉体とし、$A=k[x_1,\dots,x_n]$ とする。

  1. $A$ の極大イデアルは、ある $a\in k^n$ によって $\mathfrak{m}_a$ と書けるものに限る。写像 $a\mapsto\mathfrak{m}_a$ は $k^n$ から $A$ の極大イデアル全体への全単射である。
  2. (弱零点定理)$A$ のイデアル $I$ について、$V(I)=\emptyset$ であることと $I=A$ であることは同値である。とくに $f_1,\dots,f_r\in A$ が $k^n$ に共通零点をもたないことは、$1=g_1f_1+\cdots+g_rf_r$ となる $g_1,\dots,g_r\in A$ が存在することと同値である。
  3. (強零点定理)$A$ の任意のイデアル $I$ について $I(V(I))=\sqrt{I}$ である。

証明

剰余体の決定と新しい変数の追加

1:$\mathfrak{m}$ を $A$ の極大イデアルとし、$K:=A/\mathfrak{m}$ とおく。$K$ は体であり(極大イデアルの記事の命題「剰余環が体であることとの同値」)、$x_1,\dots,x_n$ の類で生成される $k$ 上の環である。合成 $k\to A\to K$ は体からの環準同型なので単射であり、$k$ を $K$ の部分体とみなせる。thm-nullstellensatz-zariski により $K$ は $k$ の有限次拡大、とくに $k$ 上代数的である。$\beta\in K$ の $k$ 上の最小多項式は既約であり、$k$ が代数閉なので 1 次式である(代数閉体の記事の命題「代数閉体の同値条件」)。よって $\beta\in k$ であり、$K=k$ である。したがって各 $i$ について $x_i\equiv a_i\pmod{\mathfrak{m}}$ となる $a_i\in k$ があり、$x_i-a_i\in\mathfrak{m}$、すなわち $\mathfrak{m}_a\subset\mathfrak{m}$($a=(a_1,\dots,a_n)$)である。$\mathfrak{m}_a$ は極大で $\mathfrak{m}\ne A$ なので $\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_a$ である。写像 $a\mapsto\mathfrak{m}_a$ は単射である。実際 $a\ne b$ なら $a_i\ne b_i$ となる $i$ があり、$x_i-a_i\in\mathfrak{m}_a$ は $b$ で値 $b_i-a_i\ne0$ をとるので $\mathfrak{m}_b$ に属さない。以上で 1 が示された。
2:$I=A$ なら $1\in I$ はどの点でも $0$ にならないので $V(I)=\emptyset$ である。$I\ne A$ とすると、$I$ を含む極大イデアル $\mathfrak{m}$ がある(極大イデアルの記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。1 により $\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_a$ となる $a$ があり、すべての $f\in I$ について $f\in\mathfrak{m}_a$、すなわち $f(a)=0$ である。よって $a\in V(I)$ である。後半は $I=(f_1,\dots,f_r)$ に適用すればよい。$V(I)=V(\{f_1,\dots,f_r\})$ であり、$I=A$ は $1\in I$、すなわち $1=\sum_ig_if_i$ と書けることと同値である。
3:$\sqrt{I}\subset I(V(I))$ は上で示した。逆に $g\in I(V(I))$ とする。$g=0$ なら $g\in\sqrt{I}$ なので、$g\ne0$ とする。新しい変数 $t$ を加えた多項式環 $A[t]=k[x_1,\dots,x_n,t]$ で、$I$ と $1-tg$ が生成するイデアル $J$ を考える。$(a,b)\in k^{n+1}$ が $J$ の共通零点なら、$a\in V(I)$ なので $g(a)=0$ であり、$1-bg(a)=1\ne0$ となって矛盾する。よって $V(J)=\emptyset$ であり、2 を $n+1$ 変数で用いると $J=A[t]$ である。したがって、有限個の $f_1,\dots,f_r\in I$ と $h_1,\dots,h_r,h\in A[t]$ によって
$$ 1=\sum_{i=1}^rh_i(x,t)f_i(x)+h(x,t)\bigl(1-tg(x)\bigr) $$
と書ける。これは $A[t]$ での等式なので、$t$ に有理関数体 $k(x_1,\dots,x_n)$ の元 $1/g$ を代入しても成り立ち、最後の項が消えて
$$ 1=\sum_{i=1}^rh_i(x,1/g)f_i(x) $$
を得る。$N$ を各 $h_i$ の $t$ についての次数の最大値(すべての $h_i$ が $0$ なら $N=0$)とし、両辺に $g^N$ を掛けると、$g^Nh_i(x,1/g)$ は $A$ の元であり、
$$ g^N=\sum_{i=1}^r\bigl(g^Nh_i(x,1/g)\bigr)f_i\in I $$
となる。$N\ge1$ ならこれは $g\in\sqrt{I}$ を意味する。$N=0$ なら $1\in I$ なので $I=A$ であり、やはり $g\in I\subset\sqrt{I}$ である。$\square$

3 の議論で、$t$ を $1/g$ の代わりとする新しい変数を加えるところは Rabinowitsch の技法と呼ばれる。これは「$g$ が $V(I)$ 上で消える」ことを「$V(I)$ と $g\ne0$ の共通部分が空である」ことに言い換え、弱い形に帰着させる操作である。

帰結・補足

代数的集合と根基イデアルの対応

イデアル $J$ が $\sqrt{J}=J$ を満たすとき、$J$ を根基イデアルという。どの部分集合 $X\subset k^n$ についても $I(X)$ は根基イデアルである。$f^m$ が $X$ 上で消えれば $f$ も $X$ 上で消えるからである。

根基イデアルとアフィン代数的集合の対応

$k$ を代数閉体とし、$A=k[x_1,\dots,x_n]$ とする。

  1. $X\mapsto I(X)$ と $J\mapsto V(J)$ は、$k^n$ のアフィン代数的集合全体と $A$ の根基イデアル全体の間の互いに逆な全単射であり、どちらも包含の向きを逆にする。
  2. この対応で、1 点 $\{a\}$ は極大イデアル $\mathfrak{m}_a$ に、空集合は $A$ に、$k^n$ は $(0)$ に対応する。
  3. $A$ のイデアル $I,J$ について、$V(I)=V(J)$ であることと $\sqrt{I}=\sqrt{J}$ であることは同値である。
定義から従う包含と強零点定理

包含の向きが逆になることは定義から明らかである($S\subset T$ なら $V(T)\subset V(S)$、$X\subset Y$ なら $I(Y)\subset I(X)$)。
1:アフィン代数的集合 $X=V(S)$ をとる。定義から $X\subset V(I(X))$ である。また $S\subset I(X)$ なので $V(I(X))\subset V(S)=X$ である。よって $V(I(X))=X$ である。根基イデアル $J$ については、thm-nullstellensatz の 3 により $I(V(J))=\sqrt{J}=J$ である。$I(X)$ は根基イデアルであり $V(J)$ はアフィン代数的集合なので、2 つの写像は互いに逆である。
2:$b\in V(\mathfrak{m}_a)$ はすべての $i$ で $b_i-a_i=0$ となることと同値なので $V(\mathfrak{m}_a)=\{a\}$ である。$f\in\mathfrak{m}_a$ と $f(a)=0$ は同値なので、$I(\{a\})=\mathfrak{m}_a$ である。$V(A)=\emptyset$ と $V((0))=k^n$ は定義から従う。$A$ は整域なので $(0)$ は根基イデアルであり、1 により $I(k^n)=I(V((0)))=(0)$ である。同様に $A$ は根基イデアルで $I(\emptyset)=A$ である。
3:$I\subset\sqrt{I}$ から $V(\sqrt{I})\subset V(I)$、thm-nullstellensatz の 3 の前に示した包含 $\sqrt{I}\subset I(V(I))$ から $V(I)\subset V(I(V(I)))\subset V(\sqrt{I})$ であり、$V(I)=V(\sqrt{I})$ である。したがって $\sqrt{I}=\sqrt{J}$ なら $V(I)=V(J)$ である。逆に $V(I)=V(J)$ なら、強零点定理により $\sqrt{I}=I(V(I))=I(V(J))=\sqrt{J}$ である。$\square$

この対応のもとで、既約なアフィン代数的集合(既約空間)は素イデアルに対応する。これは剰余環 $A/I(X)$、すなわち $X$ の座標環が整域であることと $X$ が既約であることの同値として、座標環の記事で扱う。また、アフィン代数的集合は $k^n$ の古典的な Zariski位相 の閉集合であり、1 により $k^n$ は $\operatorname{Spec}A$ の閉点全体と同一視される(Zariski位相の記事の命題「古典的Zariski位相と閉点の空間」)。

例

共通零点をもたない多項式

$k$ を体とする。$k[x,y]$ の $f_1=xy-1$、$f_2=x$ には共通零点がない。$x=0$ なら $xy-1=-1\ne0$ だからである。thm-nullstellensatz の 2 が予言する $1$ の表示は、この場合
$$ 1=y\cdot x-(xy-1)=(-1)\cdot f_1+y\cdot f_2 $$
として具体的に見つかる。$k$ が代数閉体なら、弱零点定理は、共通零点がないことの証明が必ず「$1$ をもとの多項式の結合で書く」という有限の計算で与えられることを保証する。代数閉でなければ、ex-nullstellensatz-real の 1 のようにこれは成り立たない。

一変数の場合

$k$ を代数閉体、$n=1$ とする。$k[x]$ は単項イデアル整域なので、イデアルは $(f)$ の形である。$f\ne0$ が定数でなければ $f=c\prod_{j=1}^s(x-\alpha_j)^{e_j}$($c\in k^\times$、$\alpha_j$ は相異なり $e_j\ge1$)と 1 次式の積に分解し、$V((f))=\{\alpha_1,\dots,\alpha_s\}$ である。$g$ がこれらの点ですべて $0$ になることは、因数定理(多項式環の記事の系「剰余定理と因数定理」)により $\prod_j(x-\alpha_j)$ が $g$ を割り切ることと同値である。このとき $e:=\max_je_j$ について $g^e$ は $\prod_j(x-\alpha_j)^{e}$ で、したがって $f$ で割り切れる。逆に $g^m\in(f)$ なら各 $\alpha_j$ で $g(\alpha_j)^m=0$ である。よって
$$ I(V((f)))=\Bigl(\prod_{j=1}^s(x-\alpha_j)\Bigr)=\sqrt{(f)} $$
であり、強零点定理が直接確かめられる。$f$ が $0$ でない定数なら $V=\emptyset$、$I(\emptyset)=k[x]=(f)$ である。$f=0$ なら $V=k$ であり、代数閉体は無限集合なので(代数閉体の記事の命題「有限体の非代数閉性」)、$k$ 全体で消える多項式は無限個の根をもって $0$ である(多項式環の記事の定理「根の個数」)。よって $I(k)=(0)=\sqrt{(0)}$ である。

根基が元のイデアルより大きい場合

$k$ を代数閉体とし、$k[x,y]$ のイデアル $I=(x^2+y^2-1,\ x-1)$ を考える。$x^2+y^2-1=(x-1)(x+1)+y^2$ なので $I=(x-1,\ y^2)$ であり、$V(I)=\{(1,0)\}$ である。cor-nullstellensatz-correspondence の 2 により $I(V(I))=\mathfrak{m}_{(1,0)}=(x-1,\ y)$ である。実際 $y^2\in I$ から $y\in\sqrt{I}$ であり、$(x-1,y)\subset\sqrt{I}$ である。逆に $I\subset\mathfrak{m}_{(1,0)}$ で $\mathfrak{m}_{(1,0)}$ は素イデアルなので $\sqrt{I}\subset\mathfrak{m}_{(1,0)}$ である。一方 $y\notin I$ である。$k[x,y]/(x-1)\cong k[y]$($x\mapsto1$)で $I$ の像は $(y^2)$ であり、$y\notin(y^2)$ だからである。幾何学的には、円 $x^2+y^2=1$ と直線 $x=1$ は点 $(1,0)$ で接しており、$I$ は接点を「重複度 2」で記録するが、零点集合 $V(I)$ と消滅イデアル $I(V(I))$ はこの重複を忘れる。

反例

反例:代数閉でない体

$k=\mathbb{R}$ とする。

  1. $\mathbb{R}[x]$ のイデアル $(x^2+1)$ は真のイデアルであり、極大イデアルでもある(既約多項式 $x^2+1$ で生成される。極大イデアルの記事の例「一変数多項式環の極大イデアル」)。しかし実数の零点をもたないので $V((x^2+1))=\emptyset$ である。これは thm-nullstellensatz の 2 の「$V(I)=\emptyset$ ならば $I=A$」を破り、$(x^2+1)$ が $\mathfrak{m}_a$ の形でないことは 1 を破る。剰余体 $\mathbb{R}[x]/(x^2+1)\cong\mathbb{C}$ は $\mathbb{R}$ の有限次拡大であり、thm-nullstellensatz-zariski とは矛盾しない。破れたのは「有限次拡大が基礎体に一致する」という代数閉性の段である。
  2. 零点がある場合でも強零点定理は破れる。$\mathbb{R}[x,y]$ のイデアル $I=(x^2+y^2)$ について $V(I)=\{(0,0)\}$ なので $I(V(I))=\mathfrak{m}_{(0,0)}=(x,y)$ である。一方 $x^2+y^2$ は既約である。実際、$\mathbb{R}[x,y]$ で 2 つの 1 次式の積 $\ell_1\ell_2$ に分解したとすると、$\ell_1=\alpha x+\beta y+\gamma$($(\alpha,\beta)\ne(0,0)$)は $\mathbb{R}^2$ の直線上の無限個の点で $0$ になるが、$x^2+y^2$ の実数の零点は原点だけである。$\mathbb{R}[x,y]$ は一意分解整域なので既約元は素元であり、$I$ は素イデアル、とくに根基イデアルである。よって $\sqrt{I}=I$ であり、$x\in I(V(I))$ だが $x\notin I$($I$ の $0$ でない元の全次数は $2$ 以上)なので $I(V(I))\ne\sqrt{I}$ である。
反例:有限生成でない代数と無限個の変数
  1. thm-nullstellensatz-zariski で「環として有限生成」は外せない。有理関数体 $k(t)$ は $k$ を含む体だが、$1,t,t^2,\dots$ が $k$ 上線形独立なので $k$ の有限次拡大でない。したがって thm-nullstellensatz-zariski により $k(t)$ は $k$ 上の環として有限生成でない(直接の証明は体上有限生成環の記事の定理「有理関数体は環としては有限生成でない」にある)。体としては $t$ 1 つで生成されることとの違いに注意する。
  2. 変数が無限個あると弱零点定理は成り立たないことがある。$k=\overline{\mathbb{Q}}$ を有理数体の代数閉包(代数閉体の記事の例「代数的数全体のなす体」)とする。$k$ は可算集合である(有理数係数の多項式は可算個で、それぞれの根は有限個)。したがって $K:=k(t)$ も可算集合であり、その元を変数の添字とする多項式環 $B:=k[x_c\mid c\in K]$(可算無限個の変数)と、$x_c\mapsto c$ で定まる全射な $k$ 上の環準同型 $\varphi\colon B\to K$ がある。$\mathfrak{m}:=\ker\varphi$ は $B/\mathfrak{m}\cong K$ が体なので極大イデアルであり、真のイデアルである。$\mathfrak{m}$ が共通零点 $a=(a_c)_{c\in K}\in k^K$ をもつとすると、$a$ での代入 $\mathrm{ev}_a\colon B\to k$ は全射で、その核は $\mathfrak{m}$ を含む真のイデアルなので、$\mathfrak{m}$ の極大性から $\ker\mathrm{ev}_a=\mathfrak{m}$ である。すると $k(t)\cong B/\mathfrak{m}\cong k$ が $k$ 上の環の同型として成り立つが、左辺は $k$ 上無限次元、右辺は $1$ 次元なので矛盾する。よって $V(\mathfrak{m})=\emptyset$ であり、「真のイデアルは共通零点をもつ」が破れる。破れている仮定は「変数が有限個」($B$ が $k$ 上有限生成であること)である。

一般の体上の零点定理

基礎体が代数閉でなくても、零点定理は「根基を極大イデアルで切り出す」という形で成り立つ。

有限生成代数の根基と極大イデアル

$k$ を体とし、$B$ を $k$ 上有限生成な可換環($k$ 上の環 $B$ で、有限個の元で生成されるもの)とする。

  1. $B$ の任意の極大イデアル $\mathfrak{m}$ について、剰余体 $B/\mathfrak{m}$ は $k$ の有限次拡大である。
  2. $B$ の任意のイデアル $J$ について、$\sqrt{J}$ は $J$ を含む極大イデアル全体の共通部分に等しい。とくに $B$ の冪零根基はJacobson根基に等しく、$B$ の素イデアルはすべて極大イデアルの共通部分である。
一元での局所化による証明

1:$B/\mathfrak{m}$ は体であり、$B$ の生成元の類で生成される $k$ 上の環である。$k\to B/\mathfrak{m}$ は体からの環準同型なので単射であり、thm-nullstellensatz-zariski により $B/\mathfrak{m}$ は $k$ の有限次拡大である。
2:極大イデアルは素イデアルなので(極大イデアルの記事の命題「極大イデアルは素イデアル」)、$f^m\in J\subset\mathfrak{m}$ なら $f\in\mathfrak{m}$ である。よって $\sqrt{J}$ は $J$ を含む極大イデアルの共通部分に含まれる。逆に $f\notin\sqrt{J}$ として、$J\subset\mathfrak{m}$ かつ $f\notin\mathfrak{m}$ となる極大イデアル $\mathfrak{m}$ を作る。$C:=B/J$ とし、$f$ の類を $\bar f$ と書くと、$\bar f$ は $C$ の冪零元でない。$\bar f$ による局所化 $C_{\bar f}$ で $1/1=0/1$ となるのは、ある $s\ge0$ について $\bar f^s\cdot1=0$ となるときに限る(局所化での分数の相等の定義)ので、$C_{\bar f}\ne0$ である。$C_{\bar f}\cong C[T]/(\bar fT-1)$(局所化の記事の注意「1 つの元による局所化の多項式表示」)なので $C_{\bar f}$ は $k$ 上有限生成であり、零環でないので極大イデアル $\mathfrak{n}$ をもつ。1 により $L:=C_{\bar f}/\mathfrak{n}$ は $k$ の有限次拡大である。
合成 $\psi\colon C\to C_{\bar f}\to L$ の核を $\mathfrak{q}$ とすると、$C/\mathfrak{q}$ は $L$ の部分環 $\psi(C)$ と同型であり、$k$ を含み、$k$ 上有限次元の整域である。有限次元の整域は体である。実際 $0\ne c\in C/\mathfrak{q}$ に対し、$c$ 倍写像は $k$ 上の線形写像として単射なので(整域)、有限次元性により全射でもあり、$cd=1$ となる $d$ がある。よって $\mathfrak{q}$ は $C$ の極大イデアルである。$\bar f/1$ は $C_{\bar f}$ の単元なので $\psi(\bar f)\ne0$、すなわち $\bar f\notin\mathfrak{q}$ である。$\mathfrak{q}$ の $B$ での逆像 $\mathfrak{m}$ は $J$ を含み、$B/\mathfrak{m}\cong C/\mathfrak{q}$ が体なので極大イデアルであり、$f\notin\mathfrak{m}$ である。
最後の主張のうち前半は $J=(0)$ の場合である($\sqrt{(0)}$ が冪零根基であり、極大イデアル全体の共通部分が Jacobson根基である)。後半は、素イデアル $\mathfrak{p}$ について $\sqrt{\mathfrak{p}}=\mathfrak{p}$ であることから従う。$\square$

すべての素イデアルが極大イデアルの共通部分であるような環を Jacobson環 という(Mat86 §5、AM69 Chapter 5 の演習)。prop-nullstellensatz-general-field は、体上有限生成な環が Jacobson環であることを述べている。$k$ が代数閉体で $B=A=k[x_1,\dots,x_n]$ のときは、thm-nullstellensatz の 1 により $I$ を含む極大イデアルはちょうど $a\in V(I)$ に対する $\mathfrak{m}_a$ であり、その共通部分は $I(V(I))$ である。したがって prop-nullstellensatz-general-field の 2 は、強零点定理の Rabinowitsch の技法によらない別証明を与える。スキームの言葉では、1 は体上有限型のスキームの閉点の剰余体が基礎体の有限次拡大であることにあたる(有限型射の記事の命題「体上局所有限型のスキームの閉点」)。

実数体上での一般形

$B=\mathbb{R}[x,y]$、$J=(x^2+y^2)$ とする。ex-nullstellensatz-real の 2 で見たように $J$ は素イデアルなので、prop-nullstellensatz-general-field により $J$ は $J$ を含む極大イデアルの共通部分である。そのうち剰余体が $\mathbb{R}$ のものは、$\mathbb{R}$ の点 $(a,b)$ で $a^2+b^2=0$ となるもの、すなわち $\mathfrak{m}_{(0,0)}=(x,y)$ だけであり、これだけでは $J$ を切り出せない。残りの極大イデアルは剰余体が $\mathbb{C}$ のものである。たとえば $\mathbb{R}$ 上の環準同型 $\mathbb{R}[x,y]\to\mathbb{C}$、$x\mapsto1$、$y\mapsto i$ の像は $\mathbb{C}$ の部分環で $\mathbb{R}$ を含み、$\mathbb{R}$ 上有限次元の整域なので体であり、核は極大イデアルで、$1^2+i^2=0$ により $J$ を含む。こうして「複素数の点」まで含めれば、一般の体上でも零点定理が成り立つ。

反例:有限生成でない局所環

$B:=k[x]_{(x)}=\{f/g\in k(x)\mid g(0)\ne0\}$(素イデアル $(x)$ における局所化)は、ただ 1 つの極大イデアル $xB$ をもつ局所環である(局所化の記事の系「素イデアルにおける局所化の局所性」)。$B$ は整域なので $\sqrt{(0)}=(0)$ であるが、極大イデアル全体の共通部分は $xB\ne(0)$ である。したがって prop-nullstellensatz-general-field の 2 は $B$ で成り立たず、素イデアル $(0)$ は極大イデアルの共通部分でない。1 の結論 $B/xB\cong k$ は成り立っているので、破れているのは 2 であり、破っている仮定は「$B$ が $k$ 上有限生成」である(この議論から、$B$ は $k$ 上有限生成でないことも分かる)。

非可算な体の上での Zariskiの補題

基礎体が非可算なら、thm-nullstellensatz-zariski は次元を数えるだけで示せる。$k=\mathbb{C}$ の場合の零点定理は、これで記事内で完結した証明をもつ。

基礎体が非可算な場合のZariskiの補題

$k$ を非可算な体とし、$K$ を $k$ を含む体で、$k$ 上のベクトル空間として可算個の元で張られるものとする。このとき $K$ のすべての元は $k$ 上代数的である。とくに、$K$ が $k$ 上の環として有限生成なら、$K$ は $k$ の有限次拡大である。

分数 $\frac{1}{\beta-c}$ の線形独立性

$\beta\in K$ が $k$ 上代数的でないと仮定する。代入 $k[t]\to K$、$t\mapsto\beta$ は単射であり、$\beta\notin k$ なので、各 $c\in k$ について $\beta-c\ne0$ は $K$ で可逆である。相異なる $c_1,\dots,c_s\in k$ と $\lambda_1,\dots,\lambda_s\in k$ が $\sum_j\lambda_j/(\beta-c_j)=0$ を満たすとする。両辺に $\prod_l(\beta-c_l)$ を掛けると $P(\beta)=0$、ただし
$$ P(t):=\sum_{j=1}^s\lambda_j\prod_{l\ne j}(t-c_l)\in k[t] $$
である。代入が単射なので $P=0$ であり、$t=c_j$ を代入すると $\lambda_j\prod_{l\ne j}(c_j-c_l)=0$、よって $\lambda_j=0$ である。したがって $\{1/(\beta-c)\mid c\in k\}$ は $K$ の中の非可算個の元からなる線形独立な族である。
一方、$K$ は可算個の元 $v_1,v_2,\dots$ で張られる。$K_N$ を $v_1,\dots,v_N$ が張る部分空間とすると $K=\bigcup_NK_N$ であり、上の非可算な族の元はそれぞれどれかの $K_N$ に属するので、ある $N$ について $K_N$ は族の元を無限個含む。これは $N$ 次元以下の空間の線形独立な族が $N$ 個以下の元しか含まないことに反する。よって $K$ の元はすべて $k$ 上代数的である。
$K=k[b_1,\dots,b_m]$ と環として有限生成なら、$K$ は単項式 $b_1^{e_1}\cdots b_m^{e_m}$($e_i\ge0$)で張られ、これは可算個なので前半が使える。各 $b_i$ は $k$ 上代数的であり、その最小多項式の次数を $d_i$ とすると、$b_i^{d_i}$ は $1,b_i,\dots,b_i^{d_i-1}$ の $k$ 係数の線形結合なので、$0\le e_i< d_i$ の単項式だけで $K$ が張られる。よって $K$ は $k$ 上有限次元である。$\square$

可算無限個の変数の場合

prop-nullstellensatz-uncountable は有限生成性ではなく「可算次元」しか使わない。したがって $k$ が非可算な代数閉体(たとえば $\mathbb{C}$)なら、可算無限個の変数の多項式環 $B=k[x_1,x_2,\dots]$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ についても $B/\mathfrak{m}$ は $k$ 上代数的な拡大体であって $k$ に一致し、prf-nullstellensatz の 1・2 と同じ議論で、$B$ の真のイデアルは $k^{\mathbb{N}}$ に共通零点をもつ。これは ex-nullstellensatz-infinitely-many の 2 の可算な体 $\overline{\mathbb{Q}}$ の場合と対照的であり、そこで破れたのは「可算次元の拡大体は代数的である」という段である。

名称とスキームの言葉での言い換え

Nullstellensatz はドイツ語で「零点の定理」を意味する。thm-nullstellensatz の 2 を弱零点定理、3 を強零点定理と呼ぶことが多いが、1 を弱形と呼ぶ流儀もある(Zariski位相の記事の定理「Hilbertの零点定理(弱形)」)。教科書での扱いは AM69 Chapter 7、Har77 Chapter I §1、Ful08 Chapter 1、Eis95 Chapter 4 にある。Har77 は定理を証明なしで述べ、証明は他の文献に委ねている。
アフィンスキームの言葉では、$k$ 上有限生成な環 $B$ について次のようになる(この段落に限り、$B$ のイデアル $J$ に対し $V(J)$ は $J$ を含む素イデアル全体のなす $\operatorname{Spec}B$ の閉集合を表す)。$\operatorname{Spec}B$ の閉点は極大イデアルであり、その剰余体は $k$ の有限次拡大である(prop-nullstellensatz-general-field の 1)。$k$ が代数閉で $B=A/I$ なら、閉点は $I$ の $k^n$ における共通零点と一対一に対応する。prop-nullstellensatz-general-field の 2 からは、$\operatorname{Spec}B$ のどの閉集合 $V(J)$ でも閉点が稠密であることが従う。$V(J)$ に含まれる閉点全体の閉包は、それらの極大イデアルの共通部分 $\sqrt{J}$ の零点集合 $V(\sqrt{J})=V(J)$ だからである(一般の体上局所有限型のスキームへの拡張は閉点の記事の定理「有限型スキームにおける閉点の稠密性」)。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley(Westview Press 版), 1969, Chapter 5(Zariski の補題と弱零点定理、Jacobson 環の演習)、Chapter 7(Zariski の補題、零点定理と演習 14)
[2]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, Chapter I §1(零点定理の言明、代数的集合と根基イデアルの対応)

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