固有基底変換定理

同義語:固有底変換定理固有基底変換固有射の基底変換定理proper base change theoremproper base change

概要

固有基底変換定理(proper base change theorem)とは、固有な射 $f\colon X\to Y$ の高次順像 $R^qf_*F$ の作り方が任意の基底変換と交換するという定理である。特に幾何的点 $\bar{y}$ での茎は、幾何的ファイバーのコホモロジー $H^q(X_{\bar{y}},F)$ に等しい。スキームのエタールコホモロジーでは $F$ が捩れ層であることが必要で、Artin による(SGA 4 第 XII 講)。位相空間では局所コンパクト Hausdorff 空間の固有写像と任意の層について成り立つ。固有でない射や、エタールコホモロジーの $\mathbb{Z}$ 係数では成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: エタールコホモロジー, 固有射, 底変換, 高次順像, 固有写像

固有基底変換定理(proper base change theorem)は、固有な射 $f\colon X\to Y$ の高次順像 $R^qf_*F$ の作り方が、任意の基底変換と交換するという定理である。特に、点での茎がファイバーのコホモロジーで計算される:
$$ (R^qf_*F)_{\bar y}\cong H^q(X_{\bar y},F|_{X_{\bar y}}). $$
位相空間では、局所コンパクト Hausdorff 空間の間の固有写像と任意の層についてこれが成り立ち、証明は「コンパクトなファイバーの近傍の上の切断は、ファイバーの上の切断と同じである」という位相的な補題に帰着する。スキームのエタールコホモロジーでは、$F$ が捩れ層であること(茎の元がすべて有限位数であること)が必要になり、Artin と Grothendieck による深い定理になる(SGA 4 第 XII 講)。エタールコホモロジーの有限性、Poincaré 双対性、比較定理、局所非輪状な射の特殊化の理論は、この定理を土台にしている。
この記事では、基底変換射を定義し、位相空間の固有基底変換を証明する。スキームの定理は引用とし、有限射の場合を直接証明したうえで、分離閉体の拡大に対する不変性、狭義 Hensel 局所環の上ではコホモロジーが閉ファイバーで計算されること、高次順像の消滅を導く。最後に、固有でない射と捩れでない係数で結論が成り立たなくなる例を反例の表にまとめる。

基底変換射

次のデカルト図式(ファイバー積の四角形)を考える。$X'=X\times_YY'$ で、$g'$ と $f'$ は射影である。
$$ \begin{CD} X' @>{g'}>> X\\ @V{f'}VV @VV{f}V\\ Y' @>{g}>> Y \end{CD} $$
図式が可換とは $f\circ g'=g\circ f'$ ということである。以下、層は位相空間の上の層、またはスキームの小エタール景の上の層(エタールコホモロジー)とする。どちらの場合も、逆像 $g^{-1}$ は順像 $g_*$ の左随伴であり、完全関手である。

基底変換射

$X$ 上の層 $F$ について、$F\to g'_*g'^{-1}F$ を随伴の単位とする。これに $f_*$ を施すと
$$ f_*F\longrightarrow f_*g'_*g'^{-1}F=g_*f'_*g'^{-1}F $$
が得られる。随伴 $g^{-1}\dashv g_*$ でこれに対応する射
$$ g^{-1}f_*F\longrightarrow f'_*g'^{-1}F $$
を基底変換射(base change morphism)という。下に有界な複体 $E$ についても、単位 $E\to Rg'_*g'^{-1}E$ に $Rf_*$ を施し、$Rf_*Rg'_*=R(f\circ g')_*=R(g\circ f')_*=Rg_*Rf'_*$ を使うと、同じ手順で
$$ g^{-1}Rf_*E\longrightarrow Rf'_*g'^{-1}E $$
が定まる。そのコホモロジーをとったものが $g^{-1}R^qf_*E\to R^qf'_*g'^{-1}E$ である。

エタールコホモロジーでの構成は SGA 4 第 XII 講の (4.1)・(4.2) による(SGA4 XII 5.1、p. 87 がこの射を使って定理を述べる)。位相空間(環付き空間)での構成は Stacks Tag 02N6 の節にある。
基底変換射が同型であるとき、「$R^qf_*$ の作り方は基底変換 $g$ と交換する」という。$g$ が開集合の包含なら、$g^{-1}$ は開集合への制限であり、$f'$ は $f$ の開集合 $f^{-1}(Y')$ への制限なので、基底変換射はいつでも同型である(入射的な層の制限は入射的で、順像は開集合への制限と交換する)。問題になるのは $g$ が点の包含のときである。

  • 位相空間で $Y'=\{y\}$ を 1 点とすると、$g^{-1}G$ は茎 $G_y$ であり、$X'=f^{-1}(y)$ はファイバーである。基底変換射は
    $$ (R^qf_*F)_y\longrightarrow H^q(f^{-1}(y),F|_{f^{-1}(y)}) $$
    になる。$q=0$ では、$y$ の開近傍 $V$ の上の切断 $s\in F(f^{-1}(V))$ の芽に、ファイバーの各点での芽の族を対応させる写像である。
  • スキームで $g\colon\bar y=\operatorname{Spec}\Omega\to Y$ を幾何的点($\Omega$ は分離閉体)とすると、$\operatorname{Spec}\Omega$ のエタール層は集合(加群)と同じであり、$g^{-1}G$ は茎 $G_{\bar y}$ である。基底変換射は $(R^qf_*F)_{\bar y}\to H^q(X_{\bar y},F|_{X_{\bar y}})$ になる。ここで $X_{\bar y}=X\times_Y\operatorname{Spec}\Omega$ は幾何的ファイバーである。
    したがって、基底変換射がすべての点で同型なら「茎はファイバーのコホモロジー」という公式が得られる。逆に、茎の公式が $f$ とその任意の基底変換 $f'$ で成り立てば、基底変換射は茎ごとに同型になり、同型である(層の射が同型であることは茎で判定できる)。

位相空間の固有基底変換

この節では、空間はすべて局所コンパクト Hausdorff 空間とする。連続写像が固有であるとは、コンパクト集合の逆像がコンパクトであることをいう(固有写像)。このとき固有写像は閉写像である(固有写像の系「固有写像は閉写像」)。
部分集合 $K\subset X$ への包含を $i$ とし、層 $F$ の制限を $F|_K:=i^{-1}F$ と書く。$F|_K$ の $K$ 上の切断は、各点 $x\in K$ の芽 $s_x\in F_x$ の族 $(s_x)_{x\in K}$ で、次の条件を満たすものである:各点 $x\in K$ に $X$ の開近傍 $U$ と $t\in F(U)$ があって、$K\cap U$ のすべての点 $z$ で $s_z=t_z$ となる。$K$ を含む開集合 $U$ の上の切断 $t$ には、芽の族 $(t_z)_{z\in K}$ が対応するので、自然な写像
$$ \rho\colon\varinjlim_{U\supset K}F(U)\longrightarrow\Gamma(K,F|_K) $$
がある。帰納極限は $K$ を含む開集合全体を包含の逆向きに動かしてとる。

コンパクト集合の近傍の上の切断

$X$ を Hausdorff 空間、$K\subset X$ をコンパクト集合、$F$ を $X$ 上の集合の層とする。写像 $\rho$ は全単射である。

単射:$K$ を含む開集合 $U,U'$ の上の切断 $t,t'$ が $K$ のすべての点で同じ芽をもつとする。$W:=\{x\in U\cap U'\mid t_x=t'_x\}$ は、芽の定義により開集合であり、$K$ を含む。$t|_W=t'|_W$ なので、$t$ と $t'$ は帰納極限で同じ元を定める。
全射:まず 2 つの断片を貼り合わせる主張を示す。
(★) $K_1,K_2\subset K$ をコンパクト集合とし、$K_1,K_2$ を含む開集合 $U_1,U_2$ の上の切断 $t_1\in F(U_1)$、$t_2\in F(U_2)$ が、それぞれ $K_1$、$K_2$ のすべての点 $z$ で $(t_i)_z=s_z$ を満たすとする。このとき、$K_1\cup K_2$ を含む開集合 $U$ と $t\in F(U)$ で、$K_1\cup K_2$ のすべての点 $z$ で $t_z=s_z$ となるものがある。
実際、$W:=\{x\in U_1\cap U_2\mid(t_1)_x=(t_2)_x\}$ は開集合で、$K_1\cap K_2$ を含む。$L_i:=K_i\setminus W$ は $K_i$ の閉集合なのでコンパクトであり、$L_1\cap L_2=(K_1\cap K_2)\setminus W=\emptyset$ である。$X$ は Hausdorff なので、交わらない 2 つのコンパクト集合 $L_1,L_2$ は交わらない開近傍 $V_1,V_2$ をもつ。$U'_i:=U_i\cap(V_i\cup W)$ とおく。$K_i\subset L_i\cup W\subset V_i\cup W$ かつ $K_i\subset U_i$ なので $K_i\subset U'_i$ である。また
$$ U'_1\cap U'_2\subset(V_1\cup W)\cap(V_2\cup W)=(V_1\cap V_2)\cup W=W $$
なので、$t_1|_{U'_1}$ と $t_2|_{U'_2}$ は共通部分の上で一致し、$U:=U'_1\cup U'_2$ の上の切断 $t$ に貼り合う。$z\in K_i$ なら $z\in U'_i$ なので $t_z=(t_i)_z=s_z$ である。
次に $s\in\Gamma(K,F|_K)$ をとる。各点 $x\in K$ に開近傍 $U_x$ と $t_x\in F(U_x)$ があり、$K\cap U_x$ の上で $s$ の芽と一致する。$K$ はコンパクト Hausdorff 空間なので、$x$ は $K$ の中で $K\cap U_x$ に含まれるコンパクトな近傍 $C_x$ をもつ。有限個の $C_{x_1},\dots,C_{x_m}$ が $K$ を覆う。$C_{x_j}$ は $X$ のコンパクト集合で、$t_{x_j}$ は $C_{x_j}$ の上で $s$ の芽と一致する。(★) を $K_1=C_{x_1}\cup\dots\cup C_{x_{j-1}}$、$K_2=C_{x_j}$ に $j=2,\dots,m$ の順に使うと、$K$ 全体を含む開集合の上の切断で、$K$ の上で $s$ の芽と一致するものが得られる。これが $s$ の $\rho$ による逆像である。$\square$

ファイバーの近傍の基本系

$f\colon X\to Y$ を閉写像、$y\in Y$ とする。$f^{-1}(y)$ を含む任意の開集合 $U$ に対して、$y$ の開近傍 $V$ で $f^{-1}(V)\subset U$ となるものがある。

$f$ は閉写像なので $f(X\setminus U)$ は $Y$ の閉集合であり、$f^{-1}(y)\subset U$ から $y\notin f(X\setminus U)$ である。$V:=Y\setminus f(X\setminus U)$ は $y$ の開近傍で、$x\in f^{-1}(V)$ なら $f(x)\notin f(X\setminus U)$ なので $x\notin X\setminus U$、すなわち $x\in U$ である。$\square$

位相空間の固有基底変換(集合の層)

$f\colon X\to Y$ を固有写像、$F$ を $X$ 上の集合の層とする。

  1. 各点 $y\in Y$ で、基底変換射 $(f_*F)_y\to\Gamma(f^{-1}(y),F|_{f^{-1}(y)})$ は全単射である。
  2. 任意の連続写像 $g\colon Y'\to Y$ について、$X'=X\times_YY'$ とすると、基底変換射 $g^{-1}f_*F\to f'_*g'^{-1}F$ は同型である。
  1. $K:=f^{-1}(y)$ は 1 点の逆像なのでコンパクトである。順像の茎は
    $$ (f_*F)_y=\varinjlim_{V\ni y}F(f^{-1}(V)) $$
    であり、基底変換射はこれを $\Gamma(K,F|_K)$ へ芽の族として送る写像である。固有写像は閉写像なので、lem-pbc-cofinal により、$y$ の開近傍 $V$ についての $f^{-1}(V)$ は、$K$ を含む開集合全体の中で共終である(どの $K$ の開近傍も、ある $f^{-1}(V)$ を含む)。共終な部分系の帰納極限は全体の帰納極限と一致するので、
    $$ (f_*F)_y=\varinjlim_{U\supset K}F(U) $$
    であり、基底変換射は lem-pbc-compact の写像 $\rho$ にほかならない。よって全単射である。
  2. $X'$ は $X\times Y'$ の閉部分空間 $\{(x,y')\mid f(x)=g(y')\}$ であり($Y$ が Hausdorff なので閉)、局所コンパクト Hausdorff 空間である。$f'$ は固有である。実際、$C\subset Y'$ がコンパクトなら $g(C)$ はコンパクトで、$f'^{-1}(C)$ はコンパクト集合 $f^{-1}(g(C))\times C$ の閉集合である。層の射が同型であることは茎で確かめればよい。$y'\in Y'$、$y:=g(y')$ とする。逆像の茎は $(g^{-1}f_*F)_{y'}=(f_*F)_y$ であり、(1) を $f'$ と $f$ に使うと
    $$ (f'_*g'^{-1}F)_{y'}=\Gamma(f'^{-1}(y'),g'^{-1}F|_{f'^{-1}(y')}),\qquad(f_*F)_y=\Gamma(f^{-1}(y),F|_{f^{-1}(y)}) $$
    である。$g'$ は $f'^{-1}(y')=f^{-1}(y)\times\{y'\}$ を $f^{-1}(y)$ へ同相に写し、この同相で $g'^{-1}F$ の制限は $F$ の制限に対応する。茎の上の基底変換射は、切断の芽を制限するという定め方から、この同一視と両立する。よって茎ごとに全単射であり、基底変換射は同型である。$\square$

アーベル群の層(加群の層)の導来関手についても同じことが成り立つ。

位相空間の固有基底変換(導来圏)

$f\colon X\to Y$ を固有写像、$E$ を $X$ 上のアーベル群の層の下に有界な複体とする。各点 $y\in Y$ で $(Rf_*E)_y\cong R\Gamma(f^{-1}(y),E|_{f^{-1}(y)})$ であり、特に層 $F$ について
$$ (R^qf_*F)_y\cong H^q(f^{-1}(y),F|_{f^{-1}(y)})\qquad(q\ge0) $$
である。任意の連続写像 $g\colon Y'\to Y$ について、基底変換射 $g^{-1}Rf_*E\to Rf'_*g'^{-1}E$ は同型である。

$E$ を入射的な層の下に有界な複体 $I^\bullet$ で表す。$K:=f^{-1}(y)$ とおく。茎をとる操作は完全なので、$(Rf_*E)_y$ は複体 $(f_*I^\bullet)_y$ で表され、各次数で thm-pbc-topological の (1) の議論を使うと $(f_*I^n)_y=\Gamma(K,I^n|_K)$ である。一方、制限 $i^{-1}$ は完全なので $I^\bullet|_K$ は $E|_K$ と擬同型であり、入射的な層 $I$ について $H^p(K,I|_K)=0$($p>0$)である(Stacks Tag 09V3 は、$K$ がコンパクトで $K$ の 2 点が $X$ の中で交わらない開近傍をもつとき $\varinjlim_{U\supset K}H^p(U,F)\to H^p(K,F|_K)$ が同型であることを示し、$I$ が入射的なら左辺は $0$ になる。この記事では証明しない)。よって $R\Gamma(K,E|_K)$ も複体 $\Gamma(K,I^\bullet|_K)$ で計算され、両者は一致する。基底変換は thm-pbc-topological の (2) と同じく茎で確かめればよい。$\square$

この形の定理は Stacks Tag 09V5(補題:$f$ が閉で分離的、ファイバーが準コンパクトなら茎はファイバーのコホモロジー)と Tag 09V6(定理:固有写像の基底変換。SGA 4 第 V bis 講の 4.1.1 を典拠に挙げる)にある。SGA 4 第 XII 講の序(SGA4 XII、p. 79)は、パラコンパクト空間の固有写像ではこの類似が「よく知られていて易しい」と述べ、スキームの場合の難しさと対比している。コンパクト台の順像 $Rf_!$ は、固有でない写像についても基底変換と交換する(コンパクト台の順像の節「導来関手とコンパクト台のコホモロジー」)。$f$ が固有なら $Rf_!=Rf_*$ なので、それは上の定理を含む。

放物線への射影

$f\colon[-1,1]\to[0,1]$、$f(x)=x^2$ とする。定義域がコンパクトなので $f$ は固有である(コンパクト集合の逆像は閉集合で、コンパクト空間の閉集合はコンパクト)。$f^{-1}(0)=\{0\}$、$y>0$ なら $f^{-1}(y)=\{\pm\sqrt y\}$ なので、thm-pbc-topological-derived により定数層 $A$ について
$$ (f_*A)_0\cong A,\qquad(f_*A)_y\cong A\oplus A\ (y>0),\qquad R^qf_*A=0\ (q\ge1) $$
である(有限個の点からなる空間の上の層は各点の茎の直積で、高次コホモロジーは消える)。茎の階数が $0$ で跳ぶので、$f_*A$ は局所定数層ではない。固有基底変換は茎をファイバーで計算するが、茎が点によらず同型であること(局所定数性)までは主張しない。局所定数性には、ファイバーが「滑らかに」変形するという条件が要る(局所非輪状の節「固有で局所非輪状な射」)。

スキームの固有基底変換定理

スキームの射 $f\colon X\to Y$ が固有であるとは、分離的で有限型で普遍閉であることをいう(固有射)。エタール層 $F$ が捩れ層であるとは、すべての幾何的点での茎がすべての元の位数が有限なアーベル群であることをいう。

固有基底変換定理

$f\colon X\to Y$ を固有射、$g\colon Y'\to Y$ を任意のスキームの射とし、$X'=X\times_YY'$ とする。

  1. $X$ 上の集合のエタール層 $F$ について、基底変換射 $g^{-1}f_*F\to f'_*g'^{-1}F$ は全単射である。
  2. $X$ 上の群のエタール層 $F$ について、$g^{-1}R^1f_*F\to R^1f'_*g'^{-1}F$ は単射である。
  3. $X$ 上の捩れアーベル層 $F$ について、すべての $q\ge0$ で $g^{-1}R^qf_*F\to R^qf'_*g'^{-1}F$ は同型である。
仮定の役割

3 は捩れ層に限った主張であり、捩れでない層について同じ同型は保証されない。1 と 2 は捩れの仮定を要しない代わりに、それぞれ集合の層・群の層について $q=0$ と $q=1$ の場合だけを述べている。定理は固有射の仮定のもとで、高次順像のファイバー(幾何的点での茎)が幾何的ファイバーのコホモロジーに等しいことを導くために使われる。

この定理は Artin による(SGA4 XII Théorème 5.1、pp. 87–88)。Stacks Project は 3 を Theorem 59.91.11(Stacks Tag 095T)として証明し、コホモロジー層が捩れである下に有界な複体 $E$ について $g^{-1}Rf_*E\cong Rf'_*g'^{-1}E$ を Tag 0DDE で導く。この記事では証明しない。SGA 4 の証明は、Noether 的な $Y$、相対次元 $1$ 以下、定数層の場合に帰着し、その場合を固有な射の基本群の特殊化定理(SGA4 XII 5.9)で扱う(同講の序、p. 79)。Stacks Project の証明は、射影直線 $\mathbb P^1_S\to S$ の場合に帰着し、狭義 Hensel 局所環 $S$ の上で $H^q(\mathbb P^1_S,F)=H^q(\mathbb P^1_s,F)$ を示す(Tag 095T の証明)。
幾何的点 $\bar y\to Y$ への基底変換をとると、次を得る。

茎とファイバーのコホモロジー

$f\colon X\to Y$ を固有射、$\bar y$ を $Y$ の幾何的点、$X_{\bar y}$ を幾何的ファイバーとする。捩れアーベル層 $F$ とすべての $q$ について
$$ (R^qf_*F)_{\bar y}\cong H^q(X_{\bar y},F|_{X_{\bar y}}) $$
である。集合の層 $F$ については $(f_*F)_{\bar y}\cong\Gamma(X_{\bar y},F|_{X_{\bar y}})$ である。

これは SGA4 XII Corollaire 5.2(pp. 88–89)であり、同書は定理 5.1 と本質的に同値だと述べる。Stacks Tag 0DDF・0A3T も同じ主張である。基底変換射の説明(節「基底変換射」)により、系は定理の $Y'=\bar y$ の場合にあたる。
位相空間との違いは、茎の計算に使う「点の近傍」にある。エタール位相では、$\bar y$ での茎は $X\times_Y\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,\bar y}$ のコホモロジーであり(Stacks Tag 03Q9。$\mathcal O^{\mathrm{sh}}$ は狭義Hensel局所環である狭義 Hensel 化)、定理の核心は、狭義 Hensel 局所環の上の固有なスキームのコホモロジーが閉ファイバーのコホモロジーと一致すること(下の cor-pbc-henselian)にある。位相空間では lem-pbc-compact がこれにあたるが、スキームでは $\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}$ の上の空間は閉ファイバーの「近傍」として振る舞う保証がなく、捩れ係数でしか成り立たない(節「反例」)。

有限射の場合

有限射は固有であり、その場合は定理を直接確かめられる。しかも捩れの仮定が要らない。次の事実を使う。

  • 有限射 $f\colon X\to Y$ と幾何的点 $\bar y\colon\operatorname{Spec}\Omega\to Y$ について、集合の層 $F$ の順像の茎は、$\bar y$ の上にある幾何的点($f\circ\bar x=\bar y$ となる $\bar x\colon\operatorname{Spec}\Omega\to X$)についての直積
    $$ (f_*F)_{\bar y}=\prod_{\bar x:\,f\circ\bar x=\bar y}F_{\bar x} $$
    であり、アーベル群の層 $F$ では $q\ge1$ で $R^qf_*F=0$ である(Stacks Tag 03QP。この記事では証明しない)。
  • 逆像の茎は $(g^{-1}G)_{\bar y'}=G_{g\circ\bar y'}$ である(Stacks Tag 03Q1)。
有限射の基底変換

$f\colon X\to Y$ を有限射、$g\colon Y'\to Y$ を任意の射とする。$X$ 上の集合の層 $F$ について、基底変換射 $g^{-1}f_*F\to f'_*g'^{-1}F$ は同型である。$F$ がアーベル群の層なら、捩れでなくても、すべての $q$ で $g^{-1}R^qf_*F\cong R^qf'_*g'^{-1}F$ である。

$f'$ は有限射の基底変換なので有限射である。幾何的点 $\bar y'\colon\operatorname{Spec}\Omega\to Y'$ での茎を比べる。上の 2 つの事実から
$$ (f'_*g'^{-1}F)_{\bar y'}=\prod_{\bar x':\,f'\circ\bar x'=\bar y'}(g'^{-1}F)_{\bar x'}=\prod_{\bar x':\,f'\circ\bar x'=\bar y'}F_{g'\circ\bar x'} $$
である。ファイバー積の普遍性により、$f'\circ\bar x'=\bar y'$ を満たす $\bar x'\colon\operatorname{Spec}\Omega\to X'$ と、$f\circ\bar x=g\circ\bar y'$ を満たす $\bar x\colon\operatorname{Spec}\Omega\to X$ は、$\bar x'\mapsto g'\circ\bar x'$ で 1 対 1 に対応する($\bar x'$ は組 $(\bar x,\bar y')$ で決まる)。よって右辺は
$$ \prod_{\bar x:\,f\circ\bar x=g\circ\bar y'}F_{\bar x}=(f_*F)_{g\circ\bar y'}=(g^{-1}f_*F)_{\bar y'} $$
に等しい。この一連の同一視は茎の上の基底変換射と一致するので、基底変換射は茎ごとに全単射であり、同型である(エタール層の射が同型であることは幾何的点の茎で判定できる。Stacks Tag 03PU)。アーベル群の層では、$q\ge1$ で $R^qf_*F=0$、$R^qf'_*g'^{-1}F=0$ なので、すべての次数で同型である。$\square$

この証明は Stacks Tag 0959 の証明と同じ筋である。有限射 $f$ では、$(f_*F)_{\bar y}$ が「ファイバーの上の切断」$\Gamma(X_{\bar y},F|_{X_{\bar y}})$ に一致する。幾何的ファイバー $X_{\bar y}$ は有限個の点からなり、その上の層の切断は各点の茎の直積だからである。

平方写像の順像

$k$ を標数が $2$ でない代数閉体、$\Lambda=\mathbb Z/n$ とし、$f\colon\mathbb A^1_k\to\mathbb A^1_k$ を $z\mapsto z^2$ で定まる有限射とする。幾何的点 $\bar y$ の上の幾何的点は、$\Omega$ の中の方程式 $z^2=y$ の解と対応する。$y=0$ なら解は $z=0$ だけであり、$y\neq0$ なら $z^2-y$ は分離的(微分 $2z$ は根で $0$ にならない)なので、分離閉体 $\Omega$ の中に 2 つの異なる解がある。幾何的生成点($\Omega\supset k(t)$)でも $z^2-t$ は分離的なので解は 2 つである。よって prop-pbc-finite の前の事実から
$$ (f_*\Lambda)_{\bar0}\cong\Lambda,\qquad(f_*\Lambda)_{\bar y}\cong\Lambda^2\ (y\neq0),\qquad(f_*\Lambda)_{\bar\eta}\cong\Lambda^2 $$
であり、$R^qf_*\Lambda=0$($q\ge1$)である。連結な $\mathbb A^1_k$ の上の局所定数層なら茎はすべて同型なので、$f_*\Lambda$ は局所定数層ではない。基底変換は成り立つが、$f$ は原点でエタールでなく、位相空間の ex-pbc-parabola と同じく茎の階数が跳ぶ。

固有基底変換定理の帰結

分離閉体の拡大に対する不変性

$k\subset K$ を分離閉体の拡大、$X$ を $k$ 上の固有スキーム、$F$ を $X$ 上の捩れアーベル層とし、$X_K:=X\times_{\operatorname{Spec}k}\operatorname{Spec}K$ への引き戻しを $F_K$ とする。すべての $q$ について、引き戻しの写像 $H^q(X,F)\to H^q(X_K,F_K)$ は同型である。

$f\colon X\to\operatorname{Spec}k$、$g\colon\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}k$ に thm-pbc-main の 3 を使う。$k$ は分離閉なので $\operatorname{Spec}k$ のエタール層はアーベル群と同じであり(層 $G$ に大域切断 $G(\operatorname{Spec}k)$ を対応させる)、$R^qf_*F$ は群 $H^q(X,F)$ に対応する。$K$ についても同じで、$R^qf'_*F_K$ は $H^q(X_K,F_K)$ に対応し、$g^{-1}$ は群を変えない。基底変換射はこれらの群の間の引き戻しの写像であり、定理によって同型である。$\square$

これは SGA4 XII Corollaire 5.4(pp. 89–90)と Stacks Tag 0DDG である。固有性は外せない:標数 $p>0$ のアフィン直線と $\mathbb Z/p$ 係数では、代数閉体を大きくすると $H^1$ が大きくなる(一般の基底変換定理の命題「$p$ 捩れ係数では一般の基底変換が成り立たない」)。

狭義 Hensel 局所環の上のコホモロジー

$A$ を狭義Hensel局所環、$S=\operatorname{Spec}A$、$s$ を閉点とし、$f\colon X\to S$ を固有射、$X_s$ を閉ファイバーとする。捩れアーベル層 $F$ とすべての $q$ について、制限の写像 $H^q(X,F)\to H^q(X_s,F|_{X_s})$ は同型である。

剰余体 $\kappa(s)$ は分離閉なので、$\bar s\colon\operatorname{Spec}\kappa(s)\to S$ は幾何的点であり、幾何的ファイバーは $X_s$ そのものである。$\bar s$ での順像の茎は $(R^qf_*F)_{\bar s}=H^q(X\times_S\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar s},F)$ である(Stacks Tag 03Q9)。$A$ はすでに狭義 Hensel 局所環で、剰余体も分離閉なので、その狭義 Hensel 化は $A$ 自身であり、$X\times_S\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{S,\bar s}=X$ となる。よって $(R^qf_*F)_{\bar s}=H^q(X,F)$ である。一方 cor-pbc-stalk により $(R^qf_*F)_{\bar s}\cong H^q(X_s,F|_{X_s})$ であり、この合成が制限の写像である。$\square$

SGA4 XII Corollaire 5.5(p. 90)は、$A$ が Hensel 局所環(狭義とは限らない)の場合にも同じ結論を述べる(狭義 Hensel 化の Galois 群の不変部分をとって帰着する)。この系が、局所非輪状な射の理論で特殊化射を作るときの基本の道具になる。
高次順像の消滅。$f\colon X\to Y$ が固有で、すべてのファイバーの次元が $n$ 以下なら、捩れアーベル層 $F$ について $q>2n$ で $R^qf_*F=0$ である(SGA4 XII Corollaire 5.3 bis、p. 89。Stacks Tag 095U)。cor-pbc-stalk により茎は $H^q(X_{\bar y},F)$ であり、分離閉体上の $n$ 次元以下の固有スキームの捩れ係数のコホモロジーが $2n$ より上で消えること(コホモロジー次元。SGA 4 は X 4.3 を引く)に帰着する。

反例

固有性と捩れの仮定はどちらも外せない。

反例:平面から原点を除いた空間の射影

$X=\mathbb R^2\setminus\{0\}$、$f\colon X\to\mathbb R$、$f(x_1,x_2)=x_1$、$A$ を定数層とする。$f$ は固有でない($[-1,1]$ の逆像 $([-1,1]\times\mathbb R)\setminus\{0\}$ はコンパクトでない)。原点での茎は
$$ (f_*A)_0=\varinjlim_{\varepsilon}\Gamma\bigl(((-\varepsilon,\varepsilon)\times\mathbb R)\setminus\{0\},A\bigr)=A $$
である。帯から 1 点を除いた集合は弧状連結なので、その上の定数層の切断は定数関数だけだからである。一方ファイバー $f^{-1}(0)=\{0\}\times(\mathbb R\setminus\{0\})$ は 2 つの連結成分をもつので $\Gamma(f^{-1}(0),A)=A\oplus A$ である。よって $(f_*A)_0\to\Gamma(f^{-1}(0),A)$(対角写像)は全射でなく、thm-pbc-topological の (1) の結論は成り立たない。原点以外の点 $y$ ではファイバーは直線で、茎は $A$ である。

反例:固有でない開埋め込み

$k$ を体、$Y=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$、$X=\mathbb G_m=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$、$j\colon X\to Y$ を包含とし、$\Lambda=\mathbb Z/n$ を定数層とする。原点の上の幾何的点 $\bar0$ でのファイバー $X_{\bar0}$ は空なので $\Gamma(X_{\bar0},\Lambda)=0$ である。一方、Stacks Tag 03Q9 により
$$ (j_*\Lambda)_{\bar0}=\Gamma\bigl(X\times_Y\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,\bar0},\Lambda\bigr)=\Gamma\bigl(\operatorname{Spec}\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,\bar0}[t^{-1}],\Lambda\bigr) $$
である。$\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,\bar0}$ は局所環 $k[t]_{(t)}$ 上の忠実平坦な環なので、$k[t]_{(t)}$ の零因子でない元 $t$ はその中でも冪零でなく、$\mathcal O^{\mathrm{sh}}_{Y,\bar0}[t^{-1}]\neq0$ である。空でないスキームの上の定数層は定数関数を切断にもつので $(j_*\Lambda)_{\bar0}\neq0$ であり、茎とファイバーのコホモロジーは一致しない。$j$ は固有でない(普遍閉でない)。

係数の捩れも外せない。非特異な曲面から非特異な曲線への固有射で、生成ファイバーが滑らかで、ある幾何的ファイバーが通常二重点を 1 つもつ既約な曲線であるものを考える。定数層 $\mathbb Z$ について、曲面が正規であることから $R^1f_*\mathbb Z=0$ となるが、特異ファイバーの $H^1$ は $\mathbb Z$ になり、茎の公式が成り立たない(SGA4 XII §2「Un exemple」、p. 80。この記事では計算しない)。

外す条件反例成り立たなくなること
写像が固有であること(位相空間)射影 $\mathbb R^2\setminus\{0\}\to\mathbb R$(ex-pbc-plane-projection)$(f_*A)_0\cong\Gamma(f^{-1}(0),A)$
射が固有であること(スキーム)開埋め込み $\mathbb G_m\to\mathbb A^1$(ex-pbc-open-immersion)茎が幾何的ファイバーのコホモロジーになること
係数が捩れであること通常二重点に退化する曲線の族と $\mathbb Z$(SGA 4 XII §2)$R^1f_*\mathbb Z$ の茎とファイバーの $H^1$ の一致
固有性(分離閉体の拡大)$p$ 捩れ係数のアフィン直線(一般の基底変換定理)$H^1(X,F)\cong H^1(X_K,F_K)$
局所定数性を結論に含めること平方写像 $z\mapsto z^2$(ex-pbc-square-map)固有でも $f_*\Lambda$ は局所定数とは限らない

最後の行は、固有基底変換定理が主張しないことを示す。茎はファイバーで計算されるが、ファイバーが点によって変わればそれに応じて茎も変わる。

ほかの基底変換定理との関係

  • 滑らかな基底変換。$g$ が滑らかな射、$f$ が準コンパクトかつ準分離な射で、$F$ の茎の位数が剰余標数と素なら、$g^{-1}R^qf_*F\cong R^qf'_*g'^{-1}F$ である(SGA4 XVI Corollaire 1.2、pp. 207–208。Stacks Tag 0EYU)。こちらは $f$ に条件を付けない代わりに、基底変換 $g$ と係数に条件を付ける。
  • 一般の基底変換。有限型の射 $f$ と構成可能層について、基底の稠密な開集合の上では $R^qf_*$ が任意の基底変換と交換する(一般の基底変換定理)。固有基底変換定理はこれを固有射について「基底全体の上で」主張する。
  • 特殊化の定理。$f$ が固有で局所非輪状(たとえば固有で滑らか)なら、局所定数な構成可能層 $F$ について $R^qf_*F$ は局所定数になる(SGA4 XVI Théorème 2.1、p. 213。局所非輪状)。固有基底変換で茎がファイバーのコホモロジーになり、局所非輪状性でファイバーのコホモロジーが特殊化で変わらなくなる。
  • コンパクト台の順像。分離的な有限型の射 $f$ を開埋め込み $j$ と固有射 $\bar f$ の合成に分解し(固有射の記事にある Nagata のコンパクト化)、$Rf_!:=R\bar f_*j_!$ と定めると、零拡張 $j_!$ はどんな基底変換とも交換するので、捩れ係数では固有基底変換定理から $Rf_!$ と基底変換の交換が従う。位相空間での対応物が コンパクト台の順像であり、複素代数多様体の構成可能層の導来圏では 六演算の定理「射影公式と固有基底変換」になる。

関連項目

参考文献

[1]
Michael Artin, Alexander Grothendieck, Jean-Louis Verdier, Théorie des topos et cohomologie étale des schémas, Tome 3 (SGA 4), Lecture Notes in Mathematics 305, Springer, 1973, 第 XII 講(Artin):序(p. 79)、§2 Un exemple(p. 80)、Théorème 5.1(pp. 87–88)、Corollaire 5.2(pp. 88–89)、Corollaire 5.3 bis(p. 89)、Corollaire 5.4(pp. 89–90)、Corollaire 5.5(p. 90)。第 XVI 講(Artin):Corollaire 1.2(pp. 207–208)、Théorème 2.1(p. 213)

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