劣調和関数

同義語:subharmonic function優調和関数superharmonic function

概要

劣調和関数(subharmonic function)とは、$\mathbb{R}^n$ の開集合上の上半連続関数 $u\colon\Omega\to[-\infty,\infty)$ で、各点の値がそのまわりの小さい球面上の平均値以下になるものである。符号を変えたものを優調和関数という。調和関数の平均値の等式を不等式に緩めたもので、1 変数の凸関数の類似にあたる。最大値原理を満たし、球の上では境界で自分以上の調和関数以下になり、$C^2$ 級なら $\Delta u\ge0$ と同値である。最大値や凸関数との合成で閉じているので、平面の $\log|f|$($f$ は正則関数)のような例を作ることができ、Dirichlet 問題の Perron の方法や多重劣調和関数の理論の基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 調和関数, 半連続性, Lebesgue積分, 凸関数

劣調和関数(subharmonic function)とは、調和関数の平均値の性質の等式を不等式に緩めたもの、すなわち各点での値がそのまわりの小さい球面上の平均値以下になる上半連続関数である。符号を逆にしたものを 優調和関数(superharmonic function)という。1 変数($n=1$)の類似は凸関数である:凸関数の値は、区間の両端の値を結ぶ 1 次関数(1 変数の調和関数)以下になる。劣調和関数も同じように、球の上では、球面上で自分以上の調和関数以下になる。
調和関数は剛性が強く、2 つを貼り合わせたり最大値をとったりすると調和でなくなる。劣調和関数はこれらの操作で閉じているので、調和関数を下から近似する道具として使える。この性質を使って境界値問題を解くのが Dirichlet問題 の Perron の方法である。平面では、正則関数 $f$ について $\log|f|$ が劣調和になり、零点の分布を調べる道具になる。多変数の複素解析では、複素直線への制限がすべて劣調和になる多重劣調和関数が中心的な役割を果たし、Kähler 多様体の理論にもつながる。
この記事は、複素 Hodge 理論の証明を追う一連の記事の 2 番目である。$\mathbb{R}^n$ の開集合の上だけで考える。

定義

以下、$n\ge2$ とし、$\Omega$ は $\mathbb{R}^n$ の空でない開集合とする。記号 $B(a,r)$、$\overline B(a,r)$、$S$、$\sigma$、$V(B)$ は 調和関数 の記事と同じである($\sigma$ は単位球面 $S$ 上の正規化された表面積測度)。

劣調和関数と優調和関数

関数 $u\colon\Omega\to[-\infty,\infty)$ が 劣調和 であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。

  1. $u$ は上半連続(半連続性)である:各実数 $c$ について $\{x\in\Omega\mid u(x)< c\}$ は開集合である。
  2. (局所的な劣平均値の性質)各 $a\in\Omega$ について $R_a>0$ があり、$\overline B(a,R_a)\subset\Omega$ かつ、$0< r< R_a$ のとき
    $$ u(a)\le\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta). $$
    $-u$ が劣調和であるとき、$u\colon\Omega\to(-\infty,\infty]$ を 優調和 という。

条件 2 の積分の意味を確認しておく。上半連続関数は Borel 可測であり、コンパクトな球面の上で上に有界である(半連続性 の記事の定理「コンパクト空間上の極値」)。したがって正の部分 $\max(u,0)$ は球面上で可積分で、Lebesgue積分 $\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)$ は $[-\infty,\infty)$ の値として定まる。値 $-\infty$ をとってよいのは、下の $\log|f|$ のような例を含めるためである。恒等的に $-\infty$ の関数も定義を満たす(この記事ではこれを除かない)。
ABR20 第 11 章(p. 224)は連続な劣調和関数だけを扱い、定義の条件 2(局所的な劣平均値の性質)を定義にしている。Leb26c Definition 7.4.1(pp. 187–188)は平面の場合に、下の thm-sh-characterization の条件 3(調和関数との比較)を定義にしている。3 つの定義が一致することを、この記事の thm-sh-characterization で示す。

例

連続な凸関数

$\Omega$ が凸な開集合で、$u\colon\Omega\to\mathbb{R}$ が連続な凸関数($u((1-t)x+ty)\le(1-t)u(x)+tu(y)$)なら、$u$ は劣調和である。たとえば $|x|^2$、$|x|$、$e^{x_1}$ は $\mathbb{R}^n$ 上で劣調和である。

$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とする。各 $\zeta\in S$ について $a$ は $a+r\zeta$ と $a-r\zeta$ の中点なので、凸性から $u(a)\le\frac12u(a+r\zeta)+\frac12u(a-r\zeta)$ である。$\sigma$ は $\zeta\mapsto-\zeta$ で不変なので、$\zeta$ について積分すると $u(a)\le\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)$ を得る。$u$ は連続なので上半連続である。$\square$

平面の $\log|f|$

$\Omega\subset\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ 上の正則関数 $f$ について、$\log|f|$($f=0$ の点では $-\infty$)は劣調和である。$f$ が零点をもたない所では調和であり、零点では値 $-\infty$ をとる。特に $\log|x|$ は $\mathbb{R}^2$ 全体で劣調和である。

$z\mapsto\log|z|$ は $[-\infty,\infty)$ への連続写像($z\to0$ で $-\infty$)なので、$\log|f|$ は $[-\infty,\infty)$ に値をとる連続関数であり、上半連続である。$f(a)=0$ なら $\log|f(a)|=-\infty$ で、劣平均値の不等式は自明に成り立つ。$f(a)\ne0$ なら、$f$ が零点をもたない円板 $D=B(a,R)$ の上で $\log|f|$ が調和であることを示せば、調和関数 の記事の「平均値の性質」から $0< r< R$ で等号が成り立つ。$\square$

詳細

$f'/f$ は $D$ 上で正則で、正則関数 の記事の定理「正則関数の冪級数展開」により $D$ 全体で収束する $a$ 中心の冪級数で表される。それを項別に積分した冪級数 $G$ は $D$ 上で正則で $G'=f'/f$ を満たす(同記事の定理「冪級数の正則性」)。$(fe^{-G})'=(f'-fG')e^{-G}=0$ なので $fe^{-G}$ は $D$ 上で $0$ でない定数 $C$ であり、$e^c=C$ となる $c$ をとれば $g:=G+c$ は $e^g=f$ を満たす正則関数である。よって $\log|f|=\operatorname{Re}g$ であり、調和関数 の記事の命題「正則関数の実部と虚部」により調和である。

基本解の符号を変えたもの

$n\ge3$ のとき、$u(x):=-|x|^{2-n}$($x\ne0$)、$u(0):=-\infty$ で定まる $u$ は $\mathbb{R}^n$ 上で劣調和である。$\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ では調和で、$x\to0$ で $u(x)\to-\infty$ だから上半連続であり、原点での不等式は自明である。さらに $\max\bigl(-|x|^{2-n},-1\bigr)$ は $\mathbb{R}^n$ 上で劣調和で、上に有界($\le0$)だが定数でない(下の prop-sh-operations を使う)。

例と、よく似た関数を並べる。

関数定義域劣調和か理由
実数値の調和関数$\Omega$劣調和(かつ優調和)平均値の性質の等号
$\lvert x\rvert^2$、$\lvert x\rvert$、$e^{x_1}$$\mathbb{R}^n$劣調和ex-sh-convex
$\lvert x\rvert^{1/2}$$\mathbb{R}^n$劣調和ex-sh-powers(凸ではない)
$\log\lvert f\rvert$($f$ 正則)$\Omega\subset\mathbb{C}$劣調和ex-sh-log-holomorphic
$-\lvert x\rvert^{2-n}$($n\ge3$)$\mathbb{R}^n$劣調和ex-sh-fundamental
$\lvert x\rvert^{-1/2}$($n=3$)$\mathbb{R}^3\setminus\{0\}$劣調和でない(優調和)ex-sh-powers
$-\lvert x_1\rvert$$\mathbb{R}^n$劣調和でない原点で不等式が崩れる

最後の行を確かめる。原点での値は $0$ で、球面上では $-|x_1|\le0$ かつ $x_1\ne0$ の点(正の測度をもつ)で負なので、球面平均は負になり、$0\le$(平均)が崩れる。

最大値原理と比較原理

劣調和関数は最小値原理を満たさない($|x|^2$ は原点で最小値をとる)が、最大値原理は調和関数と同じように成り立つ。

劣調和関数の最大値原理

$\Omega$ を連結な開集合、$u$ を $\Omega$ 上の劣調和関数とする。$u$ が $\Omega$ のある点で $\Omega$ 全体での最大値をとるなら、$u$ は定数である。

$u$ が $a$ で最大値 $M$ をとるとする。$M=-\infty$ なら $u\equiv-\infty$ で定数である。$M>-\infty$ とし、$E:=\{x\in\Omega\mid u(x)=M\}$ とおく。$E=\{x\mid u(x)\ge M\}$ は上半連続性から $\Omega$ の中で閉じており(半連続性 の記事の命題「開集合・閉集合による特徴づけ」)、$a$ を含むので空でない。
$E$ が開集合であることを示す。$b\in E$ とし、$R_b$ を定義の条件 2 の半径とする。$0< r< R_b$ について
$$ M=u(b)\le\int_Su(b+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)\le M $$
なので、$\int_S\bigl(M-u(b+r\zeta)\bigr)\,d\sigma(\zeta)=0$ であり、$0$ 以上の関数 $M-u(b+r\,\cdot)$ は $\sigma$ についてほとんどいたるところ $0$ である。一方、$c< M$ について $\{\zeta\in S\mid u(b+r\zeta)< c\}$ は上半連続性から $S$ の開集合で、測度 $0$ の開集合は空($\sigma$ は空でない開集合に正の測度を与える)なので、$S$ 上で $u(b+r\zeta)\ge c$ である。$c< M$ は任意だから $u=M$ が球面 $b+rS$ の上で成り立つ。$0< r< R_b$ は任意なので $B(b,R_b)\subset E$ である。$\Omega$ は連結だから $E=\Omega$ である。$\square$

$\Omega$ が有界なら、劣調和関数は調和関数と比べて「境界で下なら内部でも下」になる。これが「劣」調和の名の由来である。

劣調和関数の比較原理

$\Omega$ を有界な開集合、$u$ を $\Omega$ 上の劣調和関数、$h$ を $\Omega$ 上の実数値調和関数とする。すべての $\xi\in\partial\Omega$ について
$$ \limsup_{x\to\xi,\ x\in\Omega}\bigl(u(x)-h(x)\bigr)\le0 $$
なら、$\Omega$ 上で $u\le h$ である。

$w:=u-h$ は劣調和である:上半連続関数と連続関数の差は上半連続であり、$h$ は十分小さい球面で平均値の等式を満たす(調和関数 の記事の「平均値の性質」)ので、$u$ の劣平均値の不等式から $w$ の劣平均値の不等式が出る。
$M':=\sup_\Omega w$ とし、$M'>0$ と仮定して矛盾を導く。$w(x_k)\to M'$ となる点列 $x_k\in\Omega$ をとり、有界性から $x_k\to x^*\in\overline\Omega$ としてよい。$x^*\in\partial\Omega$ なら仮定から $M'\le0$ となり矛盾する。$x^*\in\Omega$ なら、上半連続性から $w(x^*)\ge\limsup_kw(x_k)=M'$ なので、$M'$ は有限で($w(x^*)<\infty$ だから)、$w$ は $x^*$ で最大値 $M'$ をとる。$x^*$ を含む連結成分 $W$ の上で、thm-sh-maximum-principle により $w\equiv M'$ である。$W$ は有界な開集合なので境界点 $\xi$ をもち、$\xi\in\partial\Omega$ である(調和関数 の記事の「弱最大値原理」の証明と同じ理由)。$W$ の中から $\xi$ に近づけると $\limsup(u-h)\ge M'>0$ となり、仮定に反する。よって $M'\le0$ である。$\square$

球での調和関数との比較

$u$ を $\Omega$ 上の劣調和関数とし、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とする。$h$ が $\overline B(a,r)$ 上で連続、$B(a,r)$ 上で調和な実数値関数で、球面 $\partial B(a,r)$ 上で $u\le h$ なら、$B(a,r)$ 上で $u\le h$ である。

$\xi\in\partial B(a,r)$ について、$u$ の $\xi$ での上半連続性と $h$ の連続性から $\limsup_{x\to\xi}\bigl(u(x)-h(x)\bigr)\le u(\xi)-h(\xi)\le0$ である。thm-sh-comparison を $B(a,r)$ に当てはめればよい。$\square$

劣平均値の性質と特徴づけ

定義の劣平均値の性質は小さい半径についてだけ仮定した。実際には、$\Omega$ に含まれるすべての閉球で成り立つ。証明には、球面上の連続関数を境界値とする調和関数の存在(Dirichlet問題 の記事の定理「Poisson積分による球のDirichlet問題の解」)を使う。その定理は劣調和関数を使わずに証明されている。

上半連続関数の連続関数による近似

$K$ をコンパクトな距離空間、$u\colon K\to[-\infty,\infty)$ を上半連続関数とする。このとき $K$ 上の実数値連続関数の列 $g_1\ge g_2\ge\cdots$ で、各点で $g_k\to u$ となるものがある。

要点:$g_k(x):=\sup_{y\in K}\bigl(\max(u(y),-k)-k\,d(x,y)\bigr)$ とおくと、$g_k$ は Lipschitz 連続で、$k$ について減少し、上半連続性から $u$ に収束する。

詳しい証明を開く

$u$ は $K$ 上で上に有界である(半連続性 の記事の定理「コンパクト空間上の極値」)。$u_k:=\max(u,-k)$ は実数値で上に有界、$u_k\ge u$ で、$k$ について減少し $u_k\to u$ である。$g_k(x):=\sup_y\bigl(u_k(y)-k\,d(x,y)\bigr)$ とおく。$y=x$ とおいて $g_k(x)\ge u_k(x)$、また $g_k\le\sup u_k<\infty$ である。$|g_k(x)-g_k(x')|\le k\,d(x,x')$(各 $y$ で $d(x,y)\le d(x',y)+d(x,x')$ による)なので $g_k$ は連続である。$u_{k+1}\le u_k$ かつ $k+1\ge k$ より $g_{k+1}\le g_k$ である。

各点 $x$ で $g_k(x)\to u(x)$ を示す。$c>u(x)$ を任意の実数とする。上半連続性から $\delta>0$ があり、$d(x,y)<\delta$ なら $u(y)< c$ である。$k$ を $k>-c$ かつ $\sup_Ku_1-k\delta< c$ となるほど大きくとる($\sup_Ku_k\le\sup_Ku_1$ に注意)。$d(x,y)<\delta$ の $y$ では $u_k(y)-k\,d(x,y)\le\max(u(y),-k)< c$、$d(x,y)\ge\delta$ の $y$ では $u_k(y)-k\,d(x,y)\le\sup u_1-k\delta< c$ なので $g_k(x)\le c$ である。よって $\limsup_kg_k(x)\le u(x)$ であり、$g_k\ge u_k\ge u$ と合わせて $g_k(x)\to u(x)$ である。

劣平均値の性質(すべての半径)

$u$ を $\Omega$ 上の劣調和関数とし、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とする。このとき
$$ u(a)\le\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta),\qquad u(a)\le\frac{1}{V(B)r^n}\int_{B(a,r)}u\,dV $$
が成り立つ。

lem-sh-approximation を球面 $K=\partial B(a,r)$ 上の $u$ に当てはめ、連続関数の減少列 $g_k\to u$ をとる。Dirichlet問題 の記事の定理「Poisson積分による球のDirichlet問題の解」により、$\overline B(a,r)$ 上で連続、$B(a,r)$ 上で調和で、球面上で $g_k$ に等しい関数 $h_k$ がある。球面上で $u\le g_k=h_k$ だから、cor-sh-ball-comparison により $B(a,r)$ 上で $u\le h_k$、特に $u(a)\le h_k(a)$ である。$h_k$ は $0<\rho< r$ の球面で平均値の等式を満たし(調和関数 の記事の「平均値の性質」)、$\overline B(a,r)$ 上で一様連続なので、$\rho\to r$ として
$$ u(a)\le h_k(a)=\int_Sh_k(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)=\int_Sg_k(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta) $$
を得る。$g_k$ は減少して $u$ に収束し、$g_1$ は可積分なので、単調収束定理(Lebesgue積分 の記事の定理「単調収束定理」を $g_1-g_k$ に当てはめる)により右辺は $\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma$ に収束する。これが第 1 の不等式である。
第 2 の不等式は、$0<\rho\le r$ で第 1 の不等式を $\rho$ に使い、調和関数 の記事の「この記事で使う積分の基本事項」の 1(極座標)で $\rho$ について積分して得る。

詳細

上に有界な可測関数について極座標の公式は $[-\infty,\infty)$ の値で成り立つ(正の部分と負の部分に分けて単調収束定理を使う)。$\int_{B(a,r)}u\,dV=nV(B)\int_0^r\rho^{n-1}\int_Su(a+\rho\zeta)\,d\sigma\,d\rho\ge nV(B)\int_0^r\rho^{n-1}u(a)\,d\rho=V(B)r^nu(a)$。$u(a)=-\infty$ のときは主張は自明である。$\square$

劣調和関数の特徴づけ

上半連続関数 $u\colon\Omega\to[-\infty,\infty)$ について、次は同値である。

  1. $u$ は劣調和である(局所的な劣平均値の性質)。
  2. $\overline B(a,r)\subset\Omega$ となるすべての $a,r$ について $u(a)\le\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)$。
  3. $\overline B(a,r)\subset\Omega$ となるすべての閉球と、$\overline B(a,r)$ 上で連続、$B(a,r)$ 上で調和な実数値関数 $h$ について、球面上で $u\le h$ なら $B(a,r)$ 上で $u\le h$。

1 ⇒ 3 は cor-sh-ball-comparison である。3 ⇒ 2 は thm-sh-sub-mean-value の証明そのものである(そこで使ったのは条件 3 だけである)。2 ⇒ 1 は定義から明らか($R_a$ として $\overline B(a,R_a)\subset\Omega$ となる任意の半径をとればよい)。$\square$

調和関数は劣調和かつ優調和な関数である

関数 $u\colon\Omega\to\mathbb{R}$ について、$u$ が調和であることと、$u$ が劣調和かつ優調和であることは同値である。

調和なら、連続で、平均値の等式から両方の不等式が出る。逆に $u$ と $-u$ が劣調和なら、$u$ は上半連続かつ下半連続なので連続(半連続性 の記事の命題「連続性との関係」)であり、thm-sh-sub-mean-value を $u$ と $-u$ に使うと、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ となるすべての球面で平均値の等式が成り立つ。調和関数 の記事の定理「平均値の性質の逆」により $u$ は調和である。$\square$

$C^2$ 級の関数の判定

1 変数の $C^2$ 級関数が凸であることと $f''\ge0$ は同値である(凸関数 の記事の系「2階導関数による判定」)。劣調和関数では $f''$ が Laplace 作用素に代わる。

$C^2$ 級関数の劣調和性の判定

$u$ を $\Omega$ 上の実数値 $C^2$ 級関数とする。$u$ が劣調和であることと、$\Omega$ 上で $\Delta u\ge0$ であることは同値である。

$a\in\Omega$ と $\overline B(a,R)\subset\Omega$ をとり、$\phi(r):=\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)$ とおく。調和関数 の記事の補題「球面平均の微分公式」により、$\phi$ は $[0,R]$ で連続、$\phi(0)=u(a)$ で
$$ \phi'(r)=\frac rn\cdot\frac{1}{V(B)r^n}\int_{B(a,r)}\Delta u\,dV\qquad(0< r< R) $$
である。
$\Delta u\ge0$ なら $\phi'\ge0$ なので $\phi$ は増加し、$0< r< R$ で $u(a)=\phi(0)\le\phi(r)$ となる。これが劣平均値の性質であり、$u$ は連続なので劣調和である。
逆に、ある $a$ で $\Delta u(a)<0$ とすると、連続性からある $R>0$ について $\overline B(a,R)$ 上で $\Delta u<0$ であり、$(0,R)$ で $\phi'<0$ となる。すると $0< r< R$ で $\phi(r)<\phi(0)=u(a)$ となり、どんな小さい $r$ でも劣平均値の性質が崩れる。よって $u$ は劣調和でない。$\square$

ABR20 第 11 章の演習 8(p. 236)は同じ主張を Taylor の定理で示すことを求めている。この判定で具体的な関数を調べられる。

動径の冪 $|x|^t$

調和関数 の記事の例「基本解の形の関数」の $\Delta|x|^t=t(t+n-2)|x|^{t-2}$ から、$\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ 上の $|x|^t$ は、$t\ge0$ または $t\le2-n$ のとき劣調和、$2-n\le t\le0$ のとき優調和である。$n=3$、$t=-1/2$ では $t(t+1)=-1/4<0$ なので $|x|^{-1/2}$ は劣調和でない。$t>0$ なら $|x|^t$(原点で $0$)は $\mathbb{R}^n$ 全体で劣調和である:原点以外では上の判定により、原点では値 $0$ が球面上の値(正)の平均以下だからである。特に $|x|^{1/2}$ は $\mathbb{R}^n$ で劣調和だが、1 本の直線に制限すると $|s|^{1/2}$ となり凸関数でない。$n\ge2$ では劣調和関数は凸関数よりずっと広い。

劣調和関数を作る操作

和・最大値・上限

$\Omega$ 上の劣調和関数について次が成り立つ。

  1. $u_1,u_2$ が劣調和で $c_1,c_2\ge0$ なら、$c_1u_1+c_2u_2$ は劣調和である($0\cdot(-\infty)=0$ と約束する)。
  2. $u_1,u_2$ が劣調和なら $\max(u_1,u_2)$ は劣調和である。
  3. 劣調和関数の族 $(u_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の上限 $v:=\sup_\lambda u_\lambda$ が $\Omega$ の各点で $+\infty$ でなく、上半連続なら、$v$ は劣調和である。

上半連続性は、1 では和、2 では $\{\max(u_1,u_2)< c\}=\{u_1< c\}\cap\{u_2< c\}$ から出る。劣平均値の性質は thm-sh-characterization の条件 2(すべての閉球で成り立つ形)で確かめる。1 は積分の線形性から出る。3(2 はその特別な場合)は、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ と各 $\lambda$ について
$$ u_\lambda(a)\le\int_Su_\lambda(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)\le\int_Sv(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta) $$
で、左辺の上限をとればよい($v$ は上半連続と仮定したので積分が意味をもつ)。$\square$

最小値は劣調和性を保たない。$x_1$ と $-x_1$ はどちらも調和だが、$\min(x_1,-x_1)=-|x_1|$ は劣調和でない(例の表の最後の行)。

凸関数との合成

$u$ を $\Omega$ 上の劣調和関数、$\varphi\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を単調増加な凸関数とし、$\varphi(-\infty):=\lim_{t\to-\infty}\varphi(t)\in[-\infty,\infty)$ と定める。このとき $\varphi\circ u$ は劣調和である。

要点:上半連続性は $\varphi$ の連続性と単調性から、劣平均値の性質は Jensen の不等式 $\varphi\bigl(\int u\,d\sigma\bigr)\le\int\varphi\circ u\,d\sigma$ から出る。

詳しい証明を開く

上半連続性:$\varphi$ は連続(凸関数 の記事の定理「開区間上の凸関数の連続性と片側微分」)で単調増加なので、$[-\infty,\infty)$ 上の連続な単調増加関数に延びる。実数 $c$ について $\{t\mid\varphi(t)< c\}$ は下に閉じた開集合なので、空集合、$[-\infty,\infty)$ 全体、ある $t_c$ についての $[-\infty,t_c)$ のいずれかである。よって $\{\varphi\circ u< c\}$ は空、全体、$\{u< t_c\}$ のいずれかで、開集合である。

劣平均値の性質:$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とし、$m:=\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma(\zeta)$ とおく。$u(a)=-\infty$ なら $\varphi(u(a))=\varphi(-\infty)$ はすべての $\varphi(t)$ 以下なので不等式は自明である。$u(a)>-\infty$ なら thm-sh-sub-mean-value より $m\ge u(a)>-\infty$ で、$u(a+r\,\cdot)$ は可積分(したがって $\sigma$ についてほとんどいたるところ有限)である。凸関数 の記事の定理「開区間上の凸関数の連続性と片側微分」の 2 から、$c:=\varphi'_+(m)\ge0$ についてすべての実数 $t$ で $\varphi(t)\ge\varphi(m)+c(t-m)$ が成り立つ(傾きを $s(x,y):=(\varphi(y)-\varphi(x))/(y-x)$ と書くと、$t>m$ なら $s(m,t)\ge c$、$t< m$ なら $s(t,m)\le\varphi'_-(m)\le c$ による。$c\ge0$ は単調増加性による)。$t=u(a+r\zeta)$ を代入して積分すると$$\int_S\varphi\bigl(u(a+r\zeta)\bigr)d\sigma(\zeta)\ge\varphi(m)+c\Bigl(\int_Su(a+r\zeta)\,d\sigma-m\Bigr)=\varphi(m)\ge\varphi(u(a))$$となる。最後は $\varphi$ の単調性と $m\ge u(a)$ による。

調和関数の絶対値の冪

$h$ が $\Omega$ 上の(実数値または複素数値の)調和関数で $p\ge1$ なら、$|h|^p$ は劣調和である。実際、$|h|$ は連続で、平均値の性質から $|h(a)|=\bigl|\int_Sh(a+r\zeta)\,d\sigma\bigr|\le\int_S|h(a+r\zeta)|\,d\sigma$ なので劣調和であり、$\varphi(t):=(\max(t,0))^p$ は単調増加な凸関数で $\varphi(|h|)=|h|^p$ だから、prop-sh-convex-composition が使える。同様に、劣調和関数 $u$ について $e^u$ と $\max(u,0)$ も劣調和である。平面の正則関数 $f$ については、$\log|f|$(ex-sh-log-holomorphic)に $\varphi(t)=e^{pt}$($p>0$)を合成して、$|f|^p$ が劣調和になる。

平面の Liouville の定理

調和関数 の記事の「Liouvilleの定理(調和関数)」は、全空間で有界な調和関数は定数であることを述べていた。劣調和関数では上から有界なだけで定数になるが、それは平面に限られる。

平面の劣調和関数のLiouvilleの定理

$\mathbb{R}^2$ 全体で劣調和で、上に有界な関数は定数である。

$u\le M$ とする。$r_1>0$ を固定し、$m:=\max_{|x|=r_1}u(x)$ とおく(上半連続関数はコンパクトな円周上で最大値をとる。半連続性 の記事の定理「コンパクト空間上の極値」)。$m\le M$ である。$m=-\infty$ のときは、下の議論の $m$ を任意の実数 $c\le M$ に替えると $u\le c$ が得られ、$u\equiv-\infty$ となる。以下 $m>-\infty$ とする。
$R>r_1$ について、円環 $A_R:=\{x\mid r_1<|x|< R\}$ 上の関数
$$ h_R(x):=m+(M-m)\,\frac{\log(|x|/r_1)}{\log(R/r_1)} $$
は調和であり(調和関数 の記事の例「基本解の形の関数」)、$\overline{A_R}$ 上で連続である。$|x|=r_1$ で $h_R=m\ge u$、$|x|=R$ で $h_R=M\ge u$ だから、境界点 $\xi$ で $\limsup_{x\to\xi}(u-h_R)\le u(\xi)-h_R(\xi)\le0$ となり、thm-sh-comparison により $A_R$ 上で $u\le h_R$ である。$x$ を固定して $R\to\infty$ とすると $h_R(x)\to m$ なので、$|x|>r_1$ で $u(x)\le m$ である。$|x|< r_1$ では、定数関数 $m$ と cor-sh-ball-comparison により $u(x)\le m$ である。$|x|=r_1$ では $m$ の定義から $u\le m$ である。
したがって $u$ は $\mathbb{R}^2$ 全体で $m$ 以下で、円周 $|x|=r_1$ 上で値 $m$ をとる。$\mathbb{R}^2$ は連結なので、thm-sh-maximum-principle により $u$ は定数である。$\square$

$n\ge3$ では成り立たない。ex-sh-fundamental の $\max\bigl(-|x|^{2-n},-1\bigr)$ は $\mathbb{R}^n$ で劣調和、上に有界で、定数でない(ABR20 第 11 章の演習 10、p. 237)。証明では、$|x|\to\infty$ で $+\infty$ に発散する調和関数 $\log|x|$ を比較に使った。$n\ge3$ の $|x|^{2-n}$ は $0$ に収束するので同じ議論はできず、実際 $n\ge3$ では $\mathbb{R}^n\setminus\overline B(0,1)$ 上の正の調和関数は無限遠で有限の極限をもつ(ABR20 p. 37 の注意と Theorem 4.10、p. 65。この記事では証明しない)。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
上半連続性(thm-sh-maximum-principle)$u(0)=-1$、$x\ne0$ で $u(x)=0$($\mathbb{R}^n$ 上)最大値をとれば定数
最大値(最小値にすると)$\lvert x\rvert^2$最小値をとれば定数(最小値原理)
最大値(最小値にすると)(prop-sh-operations)$\min(x_1,-x_1)=-\lvert x_1\rvert$劣調和関数の最小値は劣調和
上限の上半連続性(prop-sh-operations の 3)単位円板 $B(0,1)\subset\mathbb{R}^2$ 上の $u_k=\frac1k\log\lvert x\rvert$ の上限上限は劣調和
有界性(thm-sh-comparison)上半空間 $\{x_n>0\}$ の $u=x_n$、$h=0$境界で $u\le h$ なら内部でも
平面($n=2$)(thm-sh-liouville-plane)$\max\bigl(-\lvert x\rvert^{2-n},-1\bigr)$($n\ge3$)上に有界なら定数
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1 行目:$u$ は原点以外で $0$、原点で $-1$ なので、すべての点で劣平均値の不等式を満たす(原点を通る球面でも、1 点は測度 $0$ なので平均は $0$)。最大値 $0$ をとるが定数でない。原点で $\limsup_{x\to0}u(x)=0>u(0)$ なので上半連続でない。2 行目:$|x|^2$ は劣調和(ex-sh-convex)で原点で最小値をとるが定数でない。3 行目:例の表の最後の行で確かめた。4 行目:$u_k$ は劣調和(ex-sh-log-holomorphic)で、$0<|x|<1$ では $u_k(x)<0$ が $k$ について増加して $0$ に収束するので、上限は $x\ne0$ で $0$、原点で $-\infty$ である。原点での上極限は $0>-\infty$ なので上半連続でなく、劣調和でない。上限の上半連続化(上限を上半連続な関数で置き換えたもの)は恒等的に $0$ で劣調和である。5 行目:$x_n$ と $0$ は調和で境界 $\{x_n=0\}$ で等しいが、内部で $x_n>0$。6 行目:ex-sh-fundamental。

発展への案内

  • Perron の方法:境界値 $f$ 以下の劣調和関数全体の上限をとると、Dirichlet 問題の解の候補が得られる。そのために必要な「Poisson 修正」とあわせて Dirichlet問題 の記事で扱う。
  • 多重劣調和関数:$\mathbb{C}^m$ の開集合上の上半連続関数で、各複素直線への制限が(平面の)劣調和関数になるもの。$C^2$ 級の関数については、多重劣調和であることと、複素 Hessian 行列 $\bigl(\partial^2u/\partial\bar z_k\partial z_\ell\bigr)$ が各点で半正定値であることが同値である(Leb26t Proposition 2.4.9、p. 85。この記事では証明しない)。多重劣調和関数は後の記事で扱う。
  • ポテンシャル論:劣調和関数は、測度の対数ポテンシャルや Newton ポテンシャルの理論の基本的な道具である。

関連項目

参考文献

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