非標準モデル

同義語:nonstandard model

概要

非標準モデル(nonstandard model)とは、理論の意図された標準的な構造と同型でないモデルである。算術では、自然数で真な一階の文をすべて満たしながら、どの数項 $0,1,2,\ldots$ の値よりも大きい非標準元をもつモデルが、一階論理のコンパクト性定理から得られる。そのようなモデルでは標準元が先頭に並び、標準元全体は論理式で定義できない。可算な非標準モデルの順序は、$\mathbb{N}$ の後ろに $\mathbb{Z}$ の複製が $\mathbb{Q}$ の形に並んだものになる。二階の帰納法を使えば非標準モデルは現れず、一階論理に特有の現象である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, コンパクト性定理(一階論理), 自然数

非標準モデルとは

非標準モデル(nonstandard model)とは、ある理論について、意図された標準的な構造と同型でないモデルをいう。代表例は算術である。自然数 $\mathbb N$ で真な一階の文をすべて満たしながら、どの自然数 $0,1,2,\ldots$ を表す項の値よりも大きい元、いわば「無限大の自然数」をもつ構造が存在する。
非標準モデルの存在は、一階の文をいくら集めても $\mathbb N$ を同型を除いて特定できないことを意味する。その一方で、非標準モデルの中身はでたらめではない。標準的な自然数は必ず先頭に並び、その後ろに整数 $\mathbb Z$ の形の「ブロック」が稠密に並ぶ。この記事では算術の場合について、存在と、この並び方を証明する。

算術の言語と標準モデル

算術の言語を $L_A=\{0,S,+,\times,<\}$ とする($0$ は定数記号、$S$ は一変数関数記号で「次の数」、$+,\times$ は二変数関数記号、$<$ は二変数関係記号)。各記号を通常どおりに解釈した $L_A$ 構造 $\mathbb N=(\mathbb N,0,n\mapsto n+1,+,\times,<)$ を標準モデルという。
自然数 $n$ に対し、項 $\bar n:=S(S(\cdots S(0)\cdots))$($S$ を $n$ 回)を $n$ の数項という。どの $L_A$ 構造 $M$ でも、$\bar n$ は一つの元 $\bar n^M$ を指す。

標準元・非標準元・非標準モデル

$M$ を $L_A$ 構造とする。

  • ある $n\in\mathbb N$ について $a=\bar n^M$ となる元 $a\in\lvert M\rvert$ を標準元、そうでない元を非標準元という。
  • $M$ が標準モデル $\mathbb N$ と同型でないとき、$M$ を非標準な構造という。$T$ が $\mathbb N$ を意図したモデルとする理論のとき、$T$ の非標準な構造であるモデルを $T$ の非標準モデルという。
    一般の理論でも、意図された構造(標準モデル)を固定したうえで、それと同型でないモデルを非標準モデルと呼ぶ。

扱う理論は次の二つである。

  • 真の算術 $\mathrm{TA}:=\operatorname{Th}(\mathbb N)$。$\mathbb N$ で真な $L_A$ の文全体。任意の文 $\sigma$ について $\sigma\in\mathrm{TA}$ か $\lnot\sigma\in\mathrm{TA}$ の一方が成り立つ。
  • Peano 算術 $\mathrm{PA}$。次の 8 つの公理(それぞれ全称閉包をとる)と帰納法の公理図式からなる。
    $$ \begin{gathered} S(x)=S(y)\to x=y,\qquad 0\neq S(x),\qquad x=0\lor\exists y\,(x=S(y)),\\ x+0=x,\qquad x+S(y)=S(x+y),\qquad x\times0=0,\qquad x\times S(y)=(x\times y)+x,\\ x< y\leftrightarrow\exists z\,(S(z)+x=y). \end{gathered} $$
    帰納法の公理図式は、各論理式 $\varphi(x,\bar y)$ について $\forall\bar y\,\bigl((\varphi(0,\bar y)\land\forall x\,(\varphi(x,\bar y)\to\varphi(S(x),\bar y)))\to\forall x\,\varphi(x,\bar y)\bigr)$ である。最初の 8 つだけからなる理論を $\mathrm{Q}$(Robinson 算術)という(OLT26 Definition 33.5、p. 524)。
    $\mathbb N$ は PA のモデルなので $\mathrm{PA}\subseteq\mathrm{TA}$ であり、TA のモデルは PA のモデルでもある。以下の証明は TA のモデルについて行う。$\mathbb N$ で真な文を自由に使えるので、議論が短くなる。

標準元と標準モデルの埋め込み

標準モデルは初等的に埋め込まれる

$M\models\mathrm{TA}$ とする。写像 $e\colon\mathbb N\to\lvert M\rvert$、$e(n):=\bar n^M$ は初等埋め込みである。すなわち任意の論理式 $\varphi(x_1,\ldots,x_k)$ と $n_1,\ldots,n_k\in\mathbb N$ について $\mathbb N\models\varphi(n_1,\ldots,n_k)\iff M\models\varphi(e(n_1),\ldots,e(n_k))$。とくに $e$ は単射で、演算と順序を保つ。

標準モデルの埋め込みの証明

$\sigma:=\varphi(\bar n_1,\ldots,\bar n_k)$ は文である。$\mathbb N$ では $\bar n^{\mathbb N}=n$ だから、$\mathbb N\models\varphi(n_1,\ldots,n_k)$ は $\sigma\in\mathrm{TA}$ と同値である。$\sigma\in\mathrm{TA}$ なら $M\models\sigma$。$\sigma\notin\mathrm{TA}$ なら $\lnot\sigma\in\mathrm{TA}$ だから $M\not\models\sigma$。よって $\mathbb N\models\varphi(n_1,\ldots,n_k)\iff M\models\sigma$ であり、右辺は $M\models\varphi(e(n_1),\ldots,e(n_k))$ にほかならない。単射性は $\varphi$ を $x_1\neq x_2$ とした場合、演算と順序の保存は $x_1+x_2=x_3$ などの原子式の場合である。$\square$

非標準であることの判定

$M\models\mathrm{TA}$ について、$M$ が非標準であることと、$M$ が非標準元をもつことは同値である。

非標準であることの判定の証明

非標準元がなければ $e$ は全射で、prop-nonstandard-model-embedding により演算と順序を保つ全単射だから同型である。逆に同型 $g\colon\mathbb N\to M$ があれば、$g(0)=0^M$ と $g(n+1)=S^M(g(n))$ から帰納法で $g(n)=\bar n^M$ となる。$g$ は全射なので、すべての元が標準元である。$\square$

非標準モデルの存在

算術の非標準モデルの存在

TA は非標準モデルをもつ。さらに可算な非標準モデルをもつ。とくに PA も可算な非標準モデルをもつ。

非標準モデルの存在の証明

新しい定数記号 $c$ を加え、$T:=\mathrm{TA}\cup\{\bar n< c: n\in\mathbb N\}$ とおく。有限部分集合 $T_0\subseteq T$ に現れる $\bar n< c$ の $n$ の最大値を $N$ とし(なければ $N=0$)、$\mathbb N$ で $c$ を $N+1$ と解釈した構造を考える。これは TA を満たし、$T_0$ の $\bar n< c$ もすべて満たす。よって $T$ は有限充足可能であり、コンパクト性定理(一階論理)によりモデル $(M,c^M)$ をもつ。
$M$($c$ を忘れた構造)は TA のモデルである。各 $n$ について $\bar n^M<^M c^M$ であり、TA の文 $\forall x\,\lnot(x< x)$ から $c^M\neq\bar n^M$ なので、$c^M$ は非標準元である。cor-nonstandard-model-criterion により $M$ は非標準モデルである。
可算なモデルを得るには、初等部分モデルの記事の「下向き Löwenheim–Skolem の定理」を使う。言語 $L_A$ は有限なので、$c^M$ を含む可算な初等部分モデル $N\preccurlyeq M$ がある。$N$ は $M$ と同じ文を満たすので TA のモデルであり、$c^M\in N$ は $N$ でも非標準元である。$\square$

TA は $\mathbb N$ で真な一階の文をすべて含むので、この定理は「一階論理では $\mathbb N$ を同型を除いて特定できない」ことを示している。他方、PA には $\mathbb N$ と同じ文を満たさないモデルもある。PA の無矛盾性を表す文 $\mathrm{Con}_{\mathrm{PA}}$ について、Gödel の第二不完全性定理により $\mathrm{PA}\cup\{\lnot\mathrm{Con}_{\mathrm{PA}}\}$ はモデルをもち、そのモデルはすべて非標準である(OLT26 §26.1。この記事では証明しない)。
同じ方法は算術以外でも使える。順序体 $(\mathbb R,0,1,+,\times,<)$ で真な文全体に新しい定数 $c$ と文 $0< c$、$c\times\bar n<1$($n\geq1$、$\bar n$ は $1$ を $n$ 個足した項)を加えると、有限部分は $c$ を小さい正の実数と解釈して満たせる。得られるモデルでは $c$ が $0$ より大きく、どの $1/n$ よりも小さい。これが無限小をもつ実数の非標準モデルである。

非標準元の並び方

以下 $M$ を TA の非標準モデルとし、$\leq$ で「$<$ または $=$」を表す。$\mathbb N$ で真な文は $M$ でも真なので、$<^M$ は線形順序であり(OLT26 Proposition 26.10)、$a\leq b$ なら $a+d=b$ となる $d$ がただ一つある。この $d$ を $b-a$ と書く。

標準元は先頭に並ぶ

任意の標準元 $\bar n^M$ と非標準元 $a$ について $\bar n^M< a$ である。さらに $a\leq b$ で $b$ が標準元なら $a$ も標準元である。

標準元は先頭に並ぶことの証明

各 $n$ について、文 $\forall x\,\bigl(x<\bar n\to(x=\bar 0\lor x=\bar 1\lor\cdots\lor x=\overline{n-1})\bigr)$($n=0$ では $\forall x\,\lnot(x<\bar 0)$)は $\mathbb N$ で真なので $M$ でも真である。よって $\bar n^M$ より小さい元は標準元に限る。非標準元 $a$ は $a<\bar n^M$ を満たさず、$a\neq\bar n^M$ なので、線形性から $\bar n^M< a$ である。後半は前半の対偶である($b=\bar m^M$ のとき $a< b$ なら $a$ は標準元、$a=b$ でも標準元)。$\square$

標準元全体は定義できない

論理式 $\varphi(x,\bar y)$ と $\bar b\in\lvert M\rvert$ をどのように選んでも、$\{a\in\lvert M\rvert: M\models\varphi(a,\bar b)\}$ は標準元全体と一致しない。

標準元全体が定義できないことの証明

一致したと仮定する。$0^M=\bar 0^M$ は標準元なので $M\models\varphi(0,\bar b)$。$M\models\varphi(a,\bar b)$ なら $a=\bar n^M$ の形で、$S^M(a)=\overline{n+1}^M$ も標準元だから $M\models\varphi(S(a),\bar b)$。$\varphi$ についての帰納法の公理は $\mathbb N$ で真(通常の数学的帰納法)なので $M$ でも真であり、$M\models\forall x\,\varphi(x,\bar b)$ となる。すると $M$ のすべての元が標準元になり、$M$ が非標準であることに反する。$\square$

オーバースピル

$M\models\varphi(\bar n^M,\bar b)$ がすべての $n\in\mathbb N$ について成り立つなら、ある非標準元 $a$ についても $M\models\varphi(a,\bar b)$ が成り立つ。

オーバースピルの証明

成り立たなければ、$\varphi(x,\bar b)$ を満たす元はちょうど標準元全体になり、prop-nonstandard-model-undefinable に反する。$\square$

ブロックと順序型

元 $a,b$ の「差」が標準元であるとき $a\approx b$ と書く。すなわち $a\leq b$ かつ $b-a$ が標準元、または $b\leq a$ かつ $a-b$ が標準元のときである。

非標準モデルの順序型

$M$ を TA の非標準モデルとする。(1) $\approx$ は同値関係で、各同値類(ブロック)は区間になる。標準元全体は一つのブロックで、最小のブロックである。非標準元 $a$ のブロックは $\{\ldots,a-\bar 2,a-\bar 1,a,a+\bar 1,a+\bar 2,\ldots\}$ で、整数 $\mathbb Z$ と同じ順序をもつ。
(2) 非標準元のブロック全体は、ブロックの間の順序について、最大元も最小元ももたない稠密な線形順序をなす。
(3) $M$ が可算なら、$(\lvert M\rvert,<^M)$ は、$\mathbb N$ の後ろに $\mathbb Q\times\mathbb Z$(第 1 成分を優先する辞書式順序)を並べた順序と同型である。すなわち「$\mathbb N$ の後に、$\mathbb Q$ の形に並んだ $\mathbb Z$ の複製」である。

証明では、$\mathbb N$ で真な文が $M$ でも真であることだけを使う。$\delta(a,b)$ を「$a\leq b$ なら $b-a$、$b\leq a$ なら $a-b$」と定めると、$a\approx b$ は「$\delta(a,b)$ が標準元」と同じである。

非標準モデルの順序型の証明

(1) 反射律と対称律は定義から明らか。$\mathbb N$ で真な文 $\forall a\,\forall b\,\forall c\;\delta(a,c)\leq\delta(a,b)+\delta(b,c)$ と、標準元どうしの和 $\bar n^M+\bar m^M=\overline{n+m}^M$ が標準元であることから、$a\approx b$、$b\approx c$ なら $\delta(a,c)$ は標準元以下であり、prop-nonstandard-model-initial-segment の後半により標準元である。よって推移律が成り立つ。$a\leq x\leq b$ かつ $a\approx b$ なら $\delta(a,x)\leq\delta(a,b)$ から $x\approx a$ となるので、ブロックは区間である。$\delta(0,a)=a$ だから $0$ のブロックは標準元全体で、prop-nonstandard-model-initial-segment によりそれは最小のブロックである。
非標準元 $a$ について、$a\leq b$ かつ $b\approx a$ なら $b=a+\bar n^M$ の形である。$b\leq a$ かつ $b\approx a$ なら $a=b+\bar n^M$ で、$\bar n^M< a$ だから $b=a-\bar n^M$ である。$\mathbb N$ で真な文 $\forall x\,(x+\bar m< x+\bar n)$($m< n$)により、$k\mapsto a+\bar k^M$($k\geq0$)、$k\mapsto a-\overline{-k}^M$($k<0$)は $\mathbb Z$ からブロックへの順序同型である。
(2) ブロックは互いに交わらない区間なので、$a< b$ となる $a\in B$、$b\in B'$ があるとき $B< B'$ と定めると線形順序になる。$a$ を非標準元とする。

  • 最大のブロックはない:$\delta(a,a+a)=a$ は非標準元なので、$a+a$ は $a$ より大きい別のブロックにある。
  • 非標準元の最小のブロックはない:$\mathbb N$ で真な文 $\forall x\,\exists y\,(y+y=x\lor S(y+y)=x)$ により、$b+b=a$ または $S(b+b)=a$ となる $b$ がある。$b=\bar n^M$ なら $a\leq\overline{2n+1}^M$ となって $a$ が標準元になるので、$b$ は非標準元である。$b\leq a$ で $a-b\geq b$ は非標準元だから、$b$ は $a$ より小さい別の非標準ブロックにある。
  • 稠密:$a< b$ が別のブロックにあり、$d:=b-a$ は非標準元とする。$c+c=a+b$ または $S(c+c)=a+b$ となる $c$ をとる。$\mathbb N$ で真な文により $a\leq c\leq b$、$d\leq(c-a)+(c-a)+1$、$d\leq(b-c)+(b-c)$ が成り立つ。$c-a=\bar k^M$ なら $d\leq\overline{2k+1}^M$、$b-c=\bar k^M$ なら $d\leq\overline{2k}^M$ となり、どちらも $d$ が非標準であることに反する。よって $c$ は $a$ とも $b$ とも別のブロックにあり、両者の間にある。

(3) $M$ が可算なら非標準ブロック全体も可算で、(2) により最大元も最小元ももたない可算な稠密線形順序である($M$ は非標準なので空でない)。Cantor の稠密順序の定理(そのような順序はすべて $(\mathbb Q,<)$ と同型、OLT26 Theorem 25.26)により順序同型 $\beta$ が非標準ブロック全体から $\mathbb Q$ へある。各非標準ブロック $B$ から代表 $a_B$ を選び、$a_B+\bar k^M\mapsto(\beta(B),k)$、$a_B-\bar k^M\mapsto(\beta(B),-k)$ と定め、標準元 $\bar n^M$ は $\mathbb N$ の $n$ へ送る。(1) により各ブロック内でこれは $\mathbb Z$ との順序同型であり、ブロックの間の順序は $\beta$ が保つので、全体として求める順序同型になる。$\square$

この結果は OLT26 Propositions 26.12–26.19 に対応する。同書は (1)(2) を PA のモデルについて示している。PA のモデルでも成り立つが、この記事では TA のモデルに限って証明した(PA の場合はこの記事では証明しない)。

部分元順序の形
標準部分$\bar 0^M,\bar 1^M,\bar 2^M,\ldots$$\mathbb N$
各非標準ブロック$\ldots,a-\bar 1^M,a,a+\bar 1^M,\ldots$$\mathbb Z$
非標準ブロックの並びブロック全体端点のない稠密な線形順序(可算なら $\mathbb Q$)

非標準元は「無限大を一つ付け加えたもの」ではない。$a$ があれば $a+a$、$a\times a$、$a$ の半分など、算術の演算で作られる元がすべてあり、それらが別々のブロックを占める。

例

整数は算術の構造として非標準

$\mathbb Z$ に $0,S(x)=x+1,+,\times,<$ を通常どおり入れた $L_A$ 構造は、$-1$ がどの $\bar n$ の値でもないので非標準元をもち、$\mathbb N$ と同型でない(同型なら cor-nonstandard-model-criterion の証明と同じく全元が数項の値になる)。ただし $\forall x\,(S(x)\neq0)$ が偽なので TA のモデルではなく、TA の非標準モデルではない。非標準モデルを考えるときは、どの理論のモデルかを固定する必要がある。

非標準元が一つだけの Q のモデル

台集合 $\mathbb N\cup\{a\}$ 上で、$\mathbb N$ の上は通常どおり、$S(a)=a$、$a$ が関わる和は $a$、積は一方が $0$ なら $0$ でそれ以外で $a$ が関わるなら $a$、順序は $\mathbb N$ の上で通常どおりに加えてすべての $x$ について $x< a$ と定める。この構造 $K$ は Q の 8 つの公理を満たす(OLT26 Example 26.8。この記事では確かめない)。$K$ の非標準元は $a$ ただ一つで、$a< a$ なので $\forall x\,\lnot(x< x)$ が偽になる。したがって $K$ は PA や TA のモデルではなく、thm-nonstandard-model-order-type の結論も成り立たない。

無限小をもつ順序体

上で述べた実数の非標準モデル $R$ を考える(ここでの言語は $\{0,1,+,\times,<\}$ で、$\bar n:=1+\cdots+1$($n$ 個)とする)。$R$ では $0< c$ かつすべての $n\geq1$ について $c\times\bar n<1$、すなわち $c<1/\bar n^R$ が成り立つ。$R$ は $\mathbb R$ と同じ一階の文を満たすので順序体であり、$1/c$ はどの $\bar n$ よりも大きい。$\mathbb R$ では「上に有界な空でない集合は上限をもつ」が成り立つのに、$R$ の中の標準的な自然数の値の集合 $\{\bar n^R\}$ は $1/c$ で上に有界で上限をもたない(上限 $s$ があれば $s-1$ は上界でないので $s-1<\bar n^R$ となる $n$ があり、$\overline{n+1}^R>s$ となって矛盾する)。上限の存在は部分集合全体を量化する二階の性質なので、一階の文には現れない。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
一階の理論(二階の帰納法公理を使う)二階の Peano 公理非標準モデルが存在する
TA や PA のモデル(Q のモデルでよいとする)ex-nonstandard-model-q の $K$非標準ブロックが $\mathbb Z$ の形に並ぶ
$M$ が可算非可算な TA の非標準モデル順序が $\mathbb N$ の後に $\mathbb Q\times\mathbb Z$ を並べた形
同型(同じ一階の文を満たすこと=初等同値に弱める)TA の非標準モデル $M$$\mathbb N$ と初等同値なら $\mathbb N$ と同型
  • 二階の帰納法。 集合変数を量化する帰納法の公理を使う二階の Peano 公理は、全体意味論ではモデルがすべて $\mathbb N$ と同型になる(コンパクト性定理(一階論理)の記事の例「反例の確認」で証明している)。非標準モデルの存在は一階論理に特有の現象である。
  • 非可算の場合。 新しい定数 $c_r$($r\in\mathbb R$)と文 $c_r\neq c_s$($r\neq s$)を TA に加えると、有限部分は $\mathbb N$ で満たせるので、数理論理学の記事の命題「コンパクト性から導く大きなモデルの存在」と同じ議論により非可算な TA のモデル $M$ がある。$M$ は非標準である($\mathbb N$ は可算)。各ブロックは可算なので、非標準ブロックは非可算個あり、$\mathbb Q$ と順序同型にならない。
  • 初等同値と同型。 TA の非標準モデル $M$ は $\mathbb N$ と同じ文を満たすが、非標準元をもつので同型でない(cor-nonstandard-model-criterion)。

注意

  • 「非標準」は、意図された標準モデルを固定してはじめて意味をもつ語である。この記事の結論は算術(言語 $L_A$、標準モデル $\mathbb N$)についてのものである。
  • 非標準元は外から見て「どの自然数とも異なる」元であるが、$M$ の中では PA の公理に従う普通の「数」であり、偶奇や素因数分解などの一階の性質をすべてもつ。
  • prop-nonstandard-model-undefinable は「標準元全体」がモデルの外から見た集合であって、$M$ の論理式では切り出せないことを述べている。PA の帰納法は論理式で定義される集合にしか適用できない。
  • PA の非標準モデルは、演算まで計算可能に実現することはできない。これは Tennenbaum の定理と呼ばれる(OLT26 Theorem 26.22。この記事では証明しない)。

関連項目

参考文献

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