Minkowski空間(Minkowski space)とは、実ベクトル空間 $\mathbb{R}^{n+1}$ に符号数 $(n,1)$ の非退化な対称双線形形式を考えたもので、$n=3$ のとき特殊相対性理論の舞台になる。ベクトルは時間的・空間的・光的に分かれ、時間的なベクトルについては Cauchy–Schwarz の不等式と三角不等式の向きが逆になり、まっすぐな世界線が最も長い固有時間をもつ。形式を保つ Lorentz 群はコンパクトでなく、boost と回転の積に分解され、ちょうど 4 つの連結成分をもつ。$n\ge2$ では光錐を保つ線形同型は Lorentz 変換の正の定数倍に限られる。
Minkowski 空間(Minkowski space)とは、実ベクトル空間 $\mathbb{R}^{n+1}$ に、符号数 $(n,1)$ の非退化な対称双線形形式
$$
\langle x,y\rangle=x_1y_1+\dots+x_ny_n-x_{n+1}y_{n+1}
$$
を考えたものである。最後の座標を時間、最初の $n$ 個を空間とみると、$n=3$ のとき特殊相対性理論の舞台になる。$\langle x,x\rangle$ は正にも負にも $0$ にもなるので、ベクトルは時間的・空間的・光的の 3 種類に分かれ、光的なベクトルの全体が光錐をなす。
内積 $\langle\ ,\ \rangle$ を保つ線形変換の群が Lorentz 群である。Euclid 空間の直交群と比べると、時間的なベクトルについて Cauchy–Schwarz の不等式と三角不等式の向きが逆になり、Lorentz 群はコンパクトでなく 4 つの連結成分に分かれる。この記事では、逆 Cauchy–Schwarz 不等式と逆三角不等式、Lorentz 群の連結成分と回転・boost への分解、光錐への推移的な作用、光錐を保つ線形写像が Lorentz 変換の定数倍であることを証明する。曲がった時空の因果構造は 時空、4 次元の Lorentz 群と $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の関係は SL(2,C)とSO^+(1,3)、一般の符号数の多様体は 擬リーマン多様体 で扱う。
以下 $n\ge1$ とし、$x\in\mathbb{R}^{n+1}$ を $x=(\bar x,x_{n+1})$($\bar x\in\mathbb{R}^n$)と書き、$\mathbb{R}^n$ の Euclid 内積とノルムを $\bar x\cdot\bar y$、$|\bar x|$ と書く。$e_1,\dots,e_{n+1}$ を標準基底、$J:=\operatorname{diag}(1,\dots,1,-1)$ とすると $\langle x,y\rangle={}^txJy=\bar x\cdot\bar y-x_{n+1}y_{n+1}$ である。
$\mathbb{R}^{n+1}$ に対称双線形形式 $\langle x,y\rangle=\bar x\cdot\bar y-x_{n+1}y_{n+1}$ を考えたものを、$n+1$ 次元の Minkowski 空間 といい $\mathbb{R}^{n,1}$ と書く。より一般に、$n+1$ 次元の実ベクトル空間と符号数 $(n,1)$ の非退化な対称双線形形式の組も Minkowski 空間という。正規直交基底をとれば $\mathbb{R}^{n,1}$ と同型になる(2次形式 の定理「平方完成による対角化」と定理「実2次形式の係数の符号の不変性」)。
$\mathbb{R}^{n,1}$ を多様体とみて、各接空間に同じ形式を入れると平坦な Lorentz 多様体が得られる。これが 時空 の例「Minkowski時空」である。符号には流儀があり、全体に $-1$ を掛けた $x_{n+1}y_{n+1}-\bar x\cdot\bar y$(SL(2,C)とSO^+(1,3)、双線形形式 の例)や、時間座標を先に書く流儀(時空)もある。どの流儀でも保つ変換の群は同じなので、Lorentz 群を $\mathrm{O}(1,n)$ と書く文献も同じ群を指す。この記事の記号 $\mathbb{R}^{n,1}$、$\mathrm{O}(n,1)$、$\mathrm{O}^+(n,1)$ は Lee18(p. 43、p. 67)と同じである。
$0$ でない $v\in\mathbb{R}^{n,1}$ を、$\langle v,v\rangle<0$ のとき 時間的、$>0$ のとき 空間的、$=0$ のとき 光的(null)という(零ベクトルはどれにも入れない)。光的なベクトルの全体 $\mathcal{N}$ を 光錐(light cone)という。時間的なベクトルの全体は
$$
C^+:=\{v\mid v_{n+1}>|\bar v|\},\qquad C^-:=\{v\mid v_{n+1}<-|\bar v|\}
$$
に分かれ、$C^+$ を 未来錐、$C^-$ を 過去錐 という。$\mathcal{N}^\pm:=\mathcal{N}\cap\{\pm v_{n+1}>0\}$ を未来・過去の光錐という。時間的または光的なベクトル $v$ について $|v|:=\sqrt{-\langle v,v\rangle}$ とおく。
$C^\pm$ がともに空でない凸な開集合で、時間的なベクトル全体の連結成分がちょうどこの 2 つであること、時間的なベクトル $u,v$ が同じ時間錐に属することと $\langle u,v\rangle<0$ が同値であることは、時空 の命題「時間錐の性質」で示されている(接空間 1 つの上の主張なので、そのまま $\mathbb{R}^{n,1}$ に当てはまる)。また、時間的なベクトル $u$ の直交補空間 $u^\perp$ の上で $\langle\ ,\ \rangle$ は正定値である(時空 の命題「時間的ベクトルの直交補空間」)。
光錐は $\mathcal{N}=\{v\mid|\bar v|=|v_{n+1}|\ne0\}$ であり、$\bar v\mapsto(\bar v,|\bar v|)$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ から $\mathcal{N}^+$ への同相写像である。とくに $n\ge2$ なら $\mathcal{N}^+$ は連結で、$n=1$ なら $\mathcal{N}$ は原点から出る 4 本の半直線である。$n=1$ では、光錐に原点を加えた 2 本の直線 $v_1=\pm v_2$ を座標軸にとれる(光的座標 の例「Minkowski 計量の光的座標」)。物理では、未来向きの時間的な $v$ は質点の 4 元速度の向き、$|v|$ はその経過時間(固有時間)、光的なベクトルは光の進む向きを表す。
$u\in\mathbb{R}^{n,1}$ を時間的なベクトルとする。任意の $v\in\mathbb{R}^{n,1}$ について
$$
\langle u,v\rangle^2\ge\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle
$$
であり、等号が成り立つのは $v$ が $u$ の実数倍であるときに限る。
$\langle u,u\rangle<0$ なので $a:=\langle u,v\rangle/\langle u,u\rangle$ がとれ、$w:=v-au$ とおくと $\langle u,w\rangle=\langle u,v\rangle-a\langle u,u\rangle=0$ である。よって $w\in u^\perp$ で、$u^\perp$ の上で形式は正定値なので $\langle w,w\rangle\ge0$、等号は $w=0$ のときに限る。$v=au+w$ と $\langle u,w\rangle=0$ から
$$
\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle=\langle u,u\rangle\bigl(a^2\langle u,u\rangle+\langle w,w\rangle\bigr)=\langle u,v\rangle^2+\langle u,u\rangle\langle w,w\rangle
$$
である。$\langle u,u\rangle<0$、$\langle w,w\rangle\ge0$ なので最後の項は $0$ 以下で、不等式が従う。等号は $\langle w,w\rangle=0$、すなわち $w=0$、すなわち $v=au$ のときに限る。$\square$
Euclid 空間の Cauchy–Schwarz の不等式 $(x\cdot y)^2\le|x|^2|y|^2$ と不等号の向きが逆である。$u$ が時間的という仮定は外せない(ex-mink-counterexamples の 1 行目)。
$u,v$ が未来錐 $C^+$ の元なら $-\langle u,v\rangle\ge|u||v|$ であり、等号は $v$ が $u$ の正の数倍のときに限る。したがって
$$
-\langle u,v\rangle=|u||v|\cosh\varphi
$$
をみたす $\varphi\ge0$ がただ 1 つ定まる。これを $u$ と $v$ の 双曲角(rapidity)という。
$u,v$ は同じ時間錐に属するので $-\langle u,v\rangle>0$ である(時空 の命題「時間錐の性質」の 2)。thm-mink-reverse-cs から $\langle u,v\rangle^2\ge(-\langle u,u\rangle)(-\langle v,v\rangle)=|u|^2|v|^2$ で、正の平方根をとればよい。等号は $v=au$ のときで、$v\in C^+$ から $a>0$ である。$\cosh$ は $[0,\infty)$ から $[1,\infty)$ への全単射である。$\square$
$u,v\in C^+$ なら $u+v\in C^+$ であり、
$$
|u+v|\ge|u|+|v|
$$
が成り立つ。等号は $v$ が $u$ の正の数倍のときに限る。
$C^+$ は凸で、正の数倍で閉じているので $u+v=2\cdot\frac12(u+v)\in C^+$ である。cor-mink-rapidity から
$$
|u+v|^2=-\langle u+v,u+v\rangle=|u|^2+|v|^2-2\langle u,v\rangle\ge|u|^2+|v|^2+2|u||v|=(|u|+|v|)^2
$$
であり、両辺の正の平方根をとればよい。等号の条件は cor-mink-rapidity の等号の条件と同じである。$\square$
$T>0$、$0<\beta<1$ とする。原点から $2Te_{n+1}$ へ直接進む観測者の経過時間は $|2Te_{n+1}|=2T$ である。もう 1 人は速さ $\beta$ で $(\beta Te_1,T)$ まで進んでから戻るとすると、2 つの区間のベクトルは $(\pm\beta Te_1,T)$ で、どちらも $|\cdot|=T\sqrt{1-\beta^2}$ である。経過時間の和 $2T\sqrt{1-\beta^2}$ は $2T$ より小さく、thm-mink-reverse-triangle の不等号どおり、まっすぐ進んだ観測者がいちばん長い時間を経験する。Euclid 空間では直線が最短であるのに対し、Minkowski 空間の時間的な向きでは直線が最長になる。
$\mathbb{R}^{n,1}$ の線形変換 $\Lambda$ で $\langle\Lambda x,\Lambda y\rangle=\langle x,y\rangle$(すべての $x,y$)をみたすもの、すなわち ${}^t\Lambda J\Lambda=J$ をみたす実行列の全体を $\mathrm{O}(n,1)$ と書き、Lorentz 群 という(直交群 の定義「対称双線形形式の直交群」の場合)。その元を Lorentz 変換 という。$\mathrm{SO}(n,1):=\{\Lambda\in\mathrm{O}(n,1)\mid\det\Lambda=1\}$、$\mathrm{O}^+(n,1):=\{\Lambda\in\mathrm{O}(n,1)\mid\Lambda(C^+)=C^+\}$(順時 Lorentz 群)、$\mathrm{SO}^+(n,1):=\mathrm{SO}(n,1)\cap\mathrm{O}^+(n,1)$(固有順時 Lorentz 群)とおく。
$\Lambda\in\mathrm{O}(n,1)$ とし、$\Lambda$ の $(n+1,n+1)$ 成分を $\Lambda_{n+1,n+1}$ と書く。
要点:行列式は ${}^t\Lambda J\Lambda=J$ から、時間錐の入れ替えは連結成分の議論から、$(n+1,n+1)$ 成分は最後の列 $\Lambda e_{n+1}$ が $\langle w,w\rangle=-1$ をみたすことから分かる。
1.${}^t\Lambda J\Lambda=J$ の行列式をとると $(\det\Lambda)^2\det J=\det J$ で、$\det J=-1\ne0$ なので $\det\Lambda=\pm1$ である。$\mathrm{O}(n,1)$ は成分の多項式の等式 ${}^t\Lambda J\Lambda=J$ で定まるので閉集合で、積と逆元で閉じている。
2.$\Lambda$ は形式を保つ線形同型なので、時間的なベクトルの全体 $C^+\cup C^-$ をそれ自身に同相に移す。同相写像は連結成分を連結成分に移し、連結成分は $C^+$、$C^-$ の 2 つだけである(時空 の命題「時間錐の性質」の 1)。よって $\Lambda(C^+)$ は $C^+$ か $C^-$ である。
3.$w:=\Lambda e_{n+1}$ は $\Lambda$ の最後の列で、$\langle w,w\rangle=\langle e_{n+1},e_{n+1}\rangle=-1$ から $w_{n+1}^2=1+|\bar w|^2\ge1$ である。$w_{n+1}=\Lambda_{n+1,n+1}$ なので $|\Lambda_{n+1,n+1}|\ge1$ である。$e_{n+1}\in C^+$ なので、2 から $\Lambda(C^+)=C^+$ と $w\in C^+$、すなわち $w_{n+1}>0$ は同値であり、これは $w_{n+1}\ge1$ と同値である。
4.$\Lambda,\Lambda'$ について、$\Lambda'$ が $C^+$ と $C^-$ を入れ替えるかどうかと $\Lambda$ が入れ替えるかどうかを合成すれば $\Lambda\Lambda'$ が入れ替えるかどうかが決まるので、$\varepsilon(\Lambda\Lambda')=\varepsilon(\Lambda)\varepsilon(\Lambda')$ である。3 から $\varepsilon(\Lambda)$ は $\Lambda_{n+1,n+1}$ の符号に等しく、$\Lambda_{n+1,n+1}$ は $\Lambda$ の連続関数で $(-1,1)$ の値をとらないので $\varepsilon$ は連続である。$\mathrm{O}^+(n,1)$ は $\varepsilon$ の核で、$J$ が $\varepsilon(J)=-1$ をみたすので指数は $2$ である。$\square$
1 と閉部分群定理(Lie群 の定理「閉部分群定理(Cartan)」)から $\mathrm{O}(n,1)$ は Lie 群である。
$\mathbb{R}^n$ の単位ベクトル $s$ と $\varphi\in\mathbb{R}$ に対し、線形変換 $B^s_\varphi$ を
$$
B^s_\varphi s=\cosh\varphi\,s+\sinh\varphi\,e_{n+1},\qquad B^s_\varphi e_{n+1}=\sinh\varphi\,s+\cosh\varphi\,e_{n+1}
$$
とし、$\mathbb{R}^n$ の中で $s$ に直交するベクトルは動かさないものと定める($s$ は $(s,0)\in\mathbb{R}^{n+1}$ とみる)。$\langle B^s_\varphi s,B^s_\varphi s\rangle=\cosh^2\varphi-\sinh^2\varphi=1$、$\langle B^s_\varphi e_{n+1},B^s_\varphi e_{n+1}\rangle=\sinh^2\varphi-\cosh^2\varphi=-1$、$\langle B^s_\varphi s,B^s_\varphi e_{n+1}\rangle=\cosh\varphi\sinh\varphi-\sinh\varphi\cosh\varphi=0$ で、$s$ と $e_{n+1}$ に直交するベクトルとの値も保たれるので、$B^s_\varphi\in\mathrm{O}(n,1)$ である。行列式は $\cosh^2\varphi-\sinh^2\varphi=1$、$(n+1,n+1)$ 成分は $\cosh\varphi\ge1$ なので $B^s_\varphi\in\mathrm{SO}^+(n,1)$ である。これを $s$ 方向の boost という。
$\cosh$、$\sinh$ の加法定理から $B^s_\varphi B^s_\psi=B^s_{\varphi+\psi}$ である。静止した観測者の 4 元速度 $e_{n+1}$ は $B^s_\varphi e_{n+1}$ に移り、その空間成分と時間成分の比 $\beta=\tanh\varphi$ が速度である(光速を $1$ とする単位)。$\varphi$ が加法的なので、同じ向きの速度 $\beta_1=\tanh\varphi$、$\beta_2=\tanh\psi$ の合成は
$$
\tanh(\varphi+\psi)=\frac{\beta_1+\beta_2}{1+\beta_1\beta_2}
$$
となり、$|\beta_1|,|\beta_2|<1$ なら合成も $1$ を超えない。$-\langle e_{n+1},B^s_\varphi e_{n+1}\rangle=\cosh\varphi$ なので、$|\varphi|$ は cor-mink-rapidity の双曲角である。
$n\ge1$ とし、$\mathrm{SO}(n)$ を最初の $n$ 個の座標に作用させて $\mathrm{SO}(n,1)$ の部分群とみる。
1.$u:=\Lambda e_{n+1}$ とおくと、$\langle u,u\rangle=-1$ で、prop-mink-lorentz-basic の 3 から $u_{n+1}\ge1$ である。$\bar u=0$ なら $u=e_{n+1}$ で、$\varphi:=0$($s$ は任意)とする。$\bar u\ne0$ なら $s:=\bar u/|\bar u|$、$\varphi:=\operatorname{arcosh}u_{n+1}\ge0$ とおくと、$\sinh\varphi=\sqrt{u_{n+1}^2-1}=|\bar u|$ なので $B^s_\varphi e_{n+1}=|\bar u|s+u_{n+1}e_{n+1}=u$ である。いずれの場合も $B:=B^s_\varphi$ は $Be_{n+1}=u$ をみたし、 $R:=B^{-1}\Lambda\in\mathrm{SO}^+(n,1)$ は $Re_{n+1}=e_{n+1}$ をみたす。$R$ は形式を保つので $e_{n+1}^\perp=\mathbb{R}^n\times\{0\}$ をそれ自身に移し、その上で形式は Euclid 内積なので、$R$ の左上の $n\times n$ ブロック $\bar R$ は $\mathrm{O}(n)$ に属する。$Re_{n+1}=e_{n+1}$ とあわせて $R=\operatorname{diag}(\bar R,1)$ で、$\det\bar R=\det R=1$ から $\bar R\in\mathrm{SO}(n)$ である。
2.1 の分解で、$t\in[0,1]$ について $t\mapsto B^s_{t\varphi}$ は $I$ と $B^s_\varphi$ を $\mathrm{SO}^+(n,1)$ の中で結ぶ道である。$\mathrm{SO}(n)$ は弧状連結(直交群 の定理「直交群の位相」の 2。$n=1$ では $\mathrm{SO}(1)=\{1\}$)なので $\bar R$ と $I$ を結ぶ道 $\bar R_t$ がある。$t\mapsto B^s_{t\varphi}\operatorname{diag}(\bar R_t,1)$ は $\mathrm{SO}^+(n,1)$ の中の道で、$I$ と $\Lambda$ を結ぶ。
3.$\delta(\Lambda):=(\det\Lambda,\varepsilon(\Lambda))$ は $\mathrm{O}(n,1)$ から $\{\pm1\}\times\{\pm1\}$ への連続な準同型で(prop-mink-lorentz-basic の 4)、核は $\mathrm{SO}^+(n,1)$ である。$\delta(I)=(1,1)$、$\delta(P)=(-1,1)$、$\delta(T)=(-1,-1)$、$\delta(PT)=(1,-1)$ なので $\delta$ は全射で、各値の逆像は剰余類 $\Lambda_0\,\mathrm{SO}^+(n,1)$ である。これは $\mathrm{SO}^+(n,1)$ の左からの積による同相な像なので、2 から弧状連結である。$\delta$ は連続で値は離散的なので、異なる逆像の元を結ぶ道はない。よって弧状連結成分はちょうどこの 4 つである。$\square$
$n=1$ の場合は 直交群 の例「不定値の形式の直交群 $\mathrm{O}(1,1)$」で直接計算されている。$n=3$ では $\mathrm{SO}^+(3,1)$ は $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ で二重に被覆される(SL(2,C)とSO^+(1,3) の定理「二重被覆定理」)。boost の行列成分 $\cosh\varphi$ は有界でないので、Lorentz 群はコンパクトでない。
$\mathrm{O}^+(n,1)$ は未来の光錐 $\mathcal{N}^+$ に推移的に作用する。$n\ge2$ なら $\mathrm{SO}^+(n,1)$ も推移的に作用する。
$\ell:=e_n+e_{n+1}\in\mathcal{N}^+$ をどの $w\in\mathcal{N}^+$ にも移せることを示す。$w=(\bar w,|\bar w|)$、$\bar w\ne0$ と書ける。$\mathrm{O}(n)$ は $\mathbb{R}^n$ の単位球面に推移的に作用するので($n\ge2$ では 直交群 の定理「球面への推移的な作用」、$n=1$ では $\mathrm{O}(1)=\{\pm1\}$ から直接分かる)、$\bar Re_n=\bar w/|\bar w|$ となる $\bar R\in\mathrm{O}(n)$ がある。$n\ge2$ で $\det\bar R=-1$ なら、$e_1$ の符号だけを変える行列を右から掛けて $\bar R\in\mathrm{SO}(n)$ にできる($e_n$ の行き先は変わらない)。$\varphi:=\log|\bar w|$ とし、$e_n$ 方向の boost を $B:=B^{e_n}_\varphi$ とすると
$$
B\ell=(\cosh\varphi+\sinh\varphi)\,e_n+(\sinh\varphi+\cosh\varphi)\,e_{n+1}=e^\varphi\ell
$$
である。よって $\operatorname{diag}(\bar R,1)B\ell=|\bar w|\bigl(\bar Re_n+e_{n+1}\bigr)=(\bar w,|\bar w|)=w$ である。$\operatorname{diag}(\bar R,1)$ と $B$ は $\mathrm{O}^+(n,1)$ の元で、$n\ge2$ では $\mathrm{SO}^+(n,1)$ の元である。$\square$
boost が光的なベクトルを $e^\varphi$ 倍することは、動く光源の光の振動数が変わる Doppler 効果の式にあたる。
$n\ge2$ とし、$L\colon\mathbb{R}^{n,1}\to\mathbb{R}^{n,1}$ を線形同型で $L(\mathcal{N})\subset\mathcal{N}$ をみたすものとする。このとき $\lambda>0$ と $\Lambda\in\mathrm{O}(n,1)$ で $L=\lambda\Lambda$ となるものがある。
$B(x,y):=\langle Lx,Ly\rangle$ は対称双線形形式で、仮定から光的な $x$ について $B(x,x)=0$ である。$1\le i\le n$ について $e_{n+1}\pm e_i$ は光的なので
$$
0=B(e_{n+1}\pm e_i,e_{n+1}\pm e_i)=B(e_{n+1},e_{n+1})+B(e_i,e_i)\pm2B(e_{n+1},e_i)
$$
であり、2 式の和と差から $B(e_i,e_i)=-B(e_{n+1},e_{n+1})=:c$、$B(e_{n+1},e_i)=0$ である。$1\le i< j\le n$ について(ここで $n\ge2$ を使う)$x:=e_{n+1}+\frac1{\sqrt2}(e_i+e_j)$ は $\langle x,x\rangle=-1+\frac12+\frac12=0$ なので光的で、
$$
0=B(x,x)=B(e_{n+1},e_{n+1})+\tfrac12B(e_i,e_i)+\tfrac12B(e_j,e_j)+B(e_i,e_j)=-c+c+B(e_i,e_j)
$$
から $B(e_i,e_j)=0$ である。よって $B=c\langle\ ,\ \rangle$ である。$c=0$ なら $\langle Lx,Lx\rangle=0$ がすべての $x$ で成り立つが、$L$ は全射で $\langle e_{n+1},e_{n+1}\rangle\ne0$ なので矛盾する。$c<0$ なら、$L$ は $n$ 次元の部分空間 $\mathbb{R}^n\times\{0\}$ を、形式が負定値になる $n$ 次元の部分空間に移す。符号数 $(n,1)$ の形式で負定値になる部分空間の次元は $1$ 以下なので(擬リーマン多様体 の命題「部分空間と直交補空間」の 3)、$n\ge2$ に反する。よって $c>0$ で、$\lambda:=\sqrt c$、$\Lambda:=L/\lambda$ とおけば $\langle\Lambda x,\Lambda y\rangle=\langle x,y\rangle$ である。$\square$
光の進む向きを保つ線形な座標変換は、尺度を除いて Lorentz 変換に限られる、というのがこの定理の物理的な意味である。$n=1$ では成り立たない(ex-mink-counterexamples の 3 行目)。
未来錐の中の $\{v\mid\langle v,v\rangle=-1,\ v_{n+1}>0\}$ は 双曲空間 の双曲面モデル $H^n$ であり、$\mathrm{O}^+(n,1)$ は $H^n$ に等長的かつ推移的に作用する(双曲空間 の定理「等質性と等方性」)。thm-mink-components の 1 の証明は、$e_{n+1}$ を $H^n$ の任意の点に移す boost を作っているので、$\mathrm{SO}^+(n,1)$ も $H^n$ に推移的に作用し、同じ証明から点 $e_{n+1}$ の固定部分群は $\mathrm{SO}(n)$ である。したがって $H^n$ は $\mathrm{SO}^+(n,1)/\mathrm{SO}(n)$ と同変に微分同相である(等質空間 の定理「推移的な作用と剰余類多様体」)。
$\Lambda\in\mathrm{O}(n,1)$ と $a\in\mathbb{R}^{n+1}$ による写像 $x\mapsto\Lambda x+a$ は $\langle x-y,x-y\rangle$ を保ち、微分が $\Lambda$ なので Minkowski 時空の等長写像である。これらのなす群を Poincaré 群 という。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $u$ が時間的(逆 Cauchy–Schwarz 不等式) | $n\ge2$、$u=e_1$、$v=e_2$ | $\langle u,v\rangle^2\ge\langle u,u\rangle\langle v,v\rangle$ |
| $u,v$ が同じ時間錐に属する(逆三角不等式) | $u=2e_{n+1}$、$v=-e_{n+1}$ | $\lvert u+v\rvert\ge\lvert u\rvert+\lvert v\rvert$ |
| $n\ge2$(光錐を保つ写像) | $n=1$ の $S(x_1,x_2)=(x_2,x_1)$ | $L=\lambda\Lambda$($\lambda>0$、$\Lambda\in\mathrm{O}(n,1)$) |
| $\det\Lambda=1$(連結性) | $P=\operatorname{diag}(-1,1,\dots,1)\in\mathrm{O}^+(n,1)$ | 単位元と道で結べること |
各行を確かめる。
1 行目:$\langle u,v\rangle=0$、$\langle u,u\rangle=\langle v,v\rangle=1$ なので $0\ge1$ は成り立たない。空間的なベクトルどうしでは、Euclid 空間と同じ向きの Cauchy–Schwarz の不等式が成り立つこともある。
2 行目:$u\in C^+$、$v\in C^-$ で、$u+v=e_{n+1}$ について $|u+v|=1<3=|u|+|v|$ である。
3 行目:$\langle S(x),S(x)\rangle=x_2^2-x_1^2=-\langle x,x\rangle$ なので $S$ は光錐をそれ自身に移す線形同型である。$S=\lambda\Lambda$ と書けたとすると $\langle Sx,Sx\rangle=\lambda^2\langle x,x\rangle$ で $\lambda^2=-1$ となり、矛盾する。証明で $c<0$ を退けた段が $n=1$ では働かない。
4 行目:$P$ は $(n+1,n+1)$ 成分が $1$ なので $\mathrm{O}^+(n,1)$ に属するが、$\det P=-1$ である。$\det$ は連続で $\pm1$ の値しかとらないので、$P$ と $I$ を $\mathrm{O}(n,1)$ の中で結ぶ道はない。
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