Dirichlet問題(Dirichlet problem)とは、$\mathbb{R}^n$ の有界な開集合 $\Omega$ と境界 $\partial\Omega$ 上の連続関数 $f$ に対して、$\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で調和で、境界で $f$ に一致する関数を求める問題である。解は最大値原理により一意である。球では境界値を Poisson 核 $(1-|x|^2)/|x-\zeta|^n$ で平均した Poisson 積分が解を与える。一般の領域では、境界で $f$ 以下の劣調和関数の上限(Perron 関数)が内部で調和になり、それが解になるための必要十分条件は各境界点に障壁があることである。凸領域では解けるが、中心を除いた球では解けない。
前提知識: 調和関数, 劣調和関数, Lebesgue積分
Dirichlet 問題(Dirichlet problem)とは、$\mathbb{R}^n$ の有界な開集合 $\Omega$ と、境界 $\partial\Omega$ 上の連続関数 $f$ が与えられたとき、$\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で調和(調和関数)で、境界で $f$ に一致する関数 $u$ を求める問題である。金属の板の縁の温度を固定したときの定常な温度分布や、導体の表面の電位を与えたときの内部の電位を求める問題にあたる。
解はあれば一つしかない(調和関数 の記事の系「境界値による一意性」)。問題は存在である。球では、境界値を Poisson 核 という重みで平均した Poisson 積分 が解を与える。一般の有界な開集合では、境界値 $f$ 以下の劣調和関数全体の上限をとる Perron の方法 で解の候補を作り、その候補が境界で $f$ に近づくかどうかを、各境界点での 障壁 という局所的な条件で判定する。凸な領域や滑らかな境界をもつ領域では解があるが、穴のあいた球では解がない。
この記事は、複素 Hodge 理論の証明を追う一連の記事の 3 番目である。球の Poisson 積分の節は劣調和関数を使わずに書いてあり、劣調和関数 の記事はその節の定理を引いている。$\mathbb{R}^n$ の開集合の上だけで考え、Riemann面や多様体への一般化は最後に触れる。
以下、$n\ge2$ とする。記号 $B(a,r)$、$\overline B(a,r)$、$S$、$\sigma$、$V(B)$ は 調和関数 の記事と同じで、$B:=B(0,1)$ を単位球とする。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を有界な開集合、$f$ を $\partial\Omega$ 上の連続関数(実数値または複素数値)とする。$\overline\Omega$ 上で連続で、$\Omega$ 上で調和で、$\partial\Omega$ 上で $u=f$ となる関数 $u$ を、境界値 $f$ に対する Dirichlet 問題の解 という。$\partial\Omega$ 上のすべての連続関数 $f$ に対して解があるとき、$\Omega$ で Dirichlet 問題が解ける という。
解は一意である:2 つの解の差は $\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で調和で、境界で $0$ だから、調和関数 の記事の系「境界値による一意性」により $0$ である。複素数値の $f$ については実部と虚部に分けて解けばよいので、存在を調べるときは $f$ を実数値としてよい。
$x\in B$、$\zeta\in S$ について
$$
P(x,\zeta):=\frac{1-|x|^2}{|x-\zeta|^n}
$$
を単位球の Poisson 核 という。$S$ 上の有界な Borel 可測関数 $g$ に対して、$B$ 上の関数
$$
P[g](x):=\int_Sg(\zeta)\,P(x,\zeta)\,d\sigma(\zeta)\qquad(x\in B)
$$
を $g$ の Poisson 積分 という(ABR20 (1.15)・(1.16)、p. 12)。
平面($n=2$)で $x=re^{i\theta}$、$\zeta=e^{it}$ と書くと、$|x-\zeta|^2=1-2r\cos(\theta-t)+r^2$ なので
$$
P(x,\zeta)=\frac{1-r^2}{1-2r\cos(\theta-t)+r^2}=\sum_{k=-\infty}^{\infty}r^{|k|}e^{ik(\theta-t)}
$$
である(右の等式は、$\sum_{k\ge0}(re^{i(\theta-t)})^k$ とその共役の和から $1$ を引いて等比級数を計算すれば出る)。したがって $f$ のFourier級数を $\sum\hat f(k)e^{ikt}$ とすると、$P[f](re^{i\theta})=\sum_k\hat f(k)r^{|k|}e^{ik\theta}$ であり、Poisson 積分は Fourier 級数の各項に $r^{|k|}$ を掛けて円板の内部に延ばしたものである。
$0$ でない $x,y\in\mathbb{R}^n$ について $\Bigl|\dfrac{y}{|y|}-|y|\,x\Bigr|=\Bigl|\dfrac{x}{|x|}-|x|\,y\Bigr|$ である。特に $\zeta\in S$ と $x\ne0$ について $|x-\zeta|=\bigl||x|\zeta-x/|x|\bigr|$ である。
両辺の 2 乗はどちらも $1-2\,x\cdot y+|x|^2|y|^2$ に等しい。後半は $y=\zeta$($|\zeta|=1$)とおいたものである。$\square$
要点:1 は積の Laplace 作用素の公式による直接計算、2 は定義から明らか、3 は lem-dp-symmetry で $P(x,\zeta)$ を、単位閉球の近くで調和な関数の $\zeta$ での値に書き直し、平均値の性質を使う。4 は $\zeta$ が $\eta$ から離れていれば分母が下から押さえられ、分子 $1-|x|^2$ が $0$ に近づくことによる。
1.積の Laplace 作用素 $\Delta(vw)=w\Delta v+2\nabla v\cdot\nabla w+v\Delta w$ を $v=1-|x|^2$、$w=|x-\zeta|^{-n}$ に使う。$\Delta v=-2n$、$\nabla v=-2x$、$\nabla w=-n|x-\zeta|^{-n-2}(x-\zeta)$、$\Delta w=2n|x-\zeta|^{-n-2}$(調和関数 の記事の例「基本解の形の関数」の式で $t=-n$ とし、$\zeta$ だけ平行移動したもの)なので$$\Delta(vw)=2n|x-\zeta|^{-n-2}\Bigl(-|x-\zeta|^2+2x\cdot(x-\zeta)+1-|x|^2\Bigr)=2n|x-\zeta|^{-n-2}\bigl(1-|\zeta|^2\bigr)=0$$である(括弧の中を展開すると $x$ を含む項が消える)。
2 は $|x|<1$ から明らかである。
3.$x=0$ では $P(0,\zeta)=1$ である。$x\ne0$ とし、$\eta:=x/|x|\in S$ とおく。$\zeta\in S$ なら $1-|x|^2=1-\bigl||x|\zeta\bigr|^2$ であり、lem-dp-symmetry から $|x-\zeta|=\bigl||x|\zeta-\eta\bigr|$ なので$$P(x,\zeta)=Q(\zeta),\qquad Q(y):=\frac{1-\bigl||x|y\bigr|^2}{\bigl||x|y-\eta\bigr|^n}$$である。1 と拡大 $y\mapsto|x|y$ により $Q$ は $|x|y\ne\eta$ の範囲、特に $B(0,1/|x|)$ で調和であり、$\overline B(0,1)\subset B(0,1/|x|)$ である。調和関数 の記事の「平均値の性質」により $\int_SP(x,\zeta)\,d\sigma(\zeta)=\int_SQ\,d\sigma=Q(0)=1$ である(ABR20 Proposition 1.20 の証明、p. 14)。
4.$|x-\eta|<\delta/2$、$|\zeta-\eta|\ge\delta$ なら $|x-\zeta|>\delta/2$ なので、$P(x,\zeta)\le(1-|x|^2)(2/\delta)^n$ である。$x\to\eta$ のとき $|x|\to1$ なので右辺は $0$ に収束する。$\square$
$S$ 上の有界な Borel 可測関数 $g$ について、$P[g]$ は $B$ 上で調和である。さらに、$S$ 上の有界な Borel 可測関数の列 $g_k$ が一様に有界で各点で $g$ に収束するなら、$B$ の各点で $P[g_k]\to P[g]$ である。
要点:$|x|\le\rho<1$ では $P(x,\zeta)$ の偏導関数が一様に有界なので積分記号の下で微分でき、後半は優収束定理による。
$0<\rho<1$ とする。$|x|\le\rho$、$\zeta\in S$ では $|x-\zeta|\ge1-\rho>0$ なので、$P(x,\zeta)$ の $x$ についての 2 階までの偏導関数は $\{|x|\le\rho\}\times S$ 上で連続かつ有界である。したがって $|x|<\rho$ で積分記号の下で 2 回微分でき、$P[g]$ は $C^2$ 級で $\Delta P[g](x)=\int_Sg(\zeta)\,\Delta_xP(x,\zeta)\,d\sigma(\zeta)=0$ である(prop-dp-poisson-kernel の 1)。後半は、$x$ を固定すると $|g_k(\zeta)P(x,\zeta)|\le(\sup_k\sup|g_k|)\,P(x,\zeta)$ で右辺が可積分なので、Lebesgue積分 の記事の「優収束定理」による。$\square$
$f$ を単位球面 $S$ 上の連続関数とし、$\overline B$ 上の関数 $u$ を、$x\in B$ で $u(x):=P[f](x)$、$x\in S$ で $u(x):=f(x)$ と定める。このとき $u$ は $\overline B$ 上で連続で、$B$ 上で調和である。すなわち $u$ は単位球の境界値 $f$ に対する Dirichlet 問題の解である。
$B$ 上での調和性は lem-dp-poisson-harmonic である。$B$ の中での連続性は調和性から、$S$ の上での連続性は $f$ の連続性から出るので、$\eta\in S$ で $x\to\eta$($x\in B$)のとき $u(x)\to f(\eta)$ となることを示せばよい。
$\varepsilon>0$ をとる。$f$ の連続性から、$\delta>0$ があって $|\zeta-\eta|<\delta$ なら $|f(\zeta)-f(\eta)|<\varepsilon$ である。$\|f\|:=\max_S|f|$ とおく。prop-dp-poisson-kernel の 2・3 から $f(\eta)=\int_Sf(\eta)P(x,\zeta)\,d\sigma(\zeta)$ なので
$$
|u(x)-f(\eta)|\le\int_S|f(\zeta)-f(\eta)|\,P(x,\zeta)\,d\sigma(\zeta)\le\varepsilon\int_{|\zeta-\eta|<\delta}P(x,\zeta)\,d\sigma+2\|f\|\int_{|\zeta-\eta|\ge\delta}P(x,\zeta)\,d\sigma
$$
である。第 1 項は 3 より $\varepsilon$ 以下、第 2 項は 4 より $x\to\eta$ で $0$ に収束する。よって $\limsup_{x\to\eta}|u(x)-f(\eta)|\le\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意なので $u(x)\to f(\eta)$ である。$\square$
これは ABR20 Theorem 1.17(p. 13)である。平行移動と拡大により、一般の球 $B(a,r)$ でも Dirichlet 問題が解ける:$\partial B(a,r)$ 上の連続関数 $f$ に対し
$$
u(x):=\int_Sf(a+r\zeta)\,P\Bigl(\frac{x-a}{r},\zeta\Bigr)d\sigma(\zeta)=\int_Sf(a+r\zeta)\,\frac{r^{n-2}(r^2-|x-a|^2)}{|x-a-r\zeta|^n}\,d\sigma(\zeta)\qquad(x\in B(a,r))
$$
と球面上の $f$ を合わせたものが解である。これを $P_{a,r}[f]$ と書く。一意性と合わせて、次の表示が得られる。
$u$ が $\overline B(a,r)$ 上で連続で $B(a,r)$ 上で調和なら、$B(a,r)$ 上で $u=P_{a,r}[u|_{\partial B(a,r)}]$ である。特に $\overline B(a,r)$ を含む開集合上の調和関数は、球面上の値の Poisson 積分で表される。
$u$ と、thm-dp-ball で作った境界値 $u|_{\partial B(a,r)}$ の解は、どちらも $\overline B(a,r)$ 上で連続、$B(a,r)$ 上で調和で、境界で一致するので、調和関数 の記事の系「境界値による一意性」により等しい。$\square$
単位球面上の $f(\zeta)=\zeta_1^2$ に対する解は $u(x)=x_1^2+\dfrac{1-|x|^2}{n}$ である。実際 $\Delta u=2-\dfrac{2n}{n}=0$ で、$|x|=1$ では $u=x_1^2$ である。$n=2$ では $u=\frac12+\frac12(x_1^2-x_2^2)$ となり、Fourier 級数 $\cos^2t=\frac12+\frac12\cos2t$ の $\cos2t$ の項に $r^2$ を掛けたもの $\frac12+\frac12r^2\cos2\theta$ に一致する。原点での値 $u(0)=1/n$ は、調和関数 の記事の「平均値の性質」により $\zeta_1^2$ の球面平均 $\int_S\zeta_1^2\,d\sigma=1/n$ に等しい(対称性から $\int\zeta_j^2\,d\sigma$ はすべて等しく、和は $1$)。
以下、$\Omega$ を有界な開集合、$f$ を $\partial\Omega$ 上の実数値連続関数とする。解 $u$ があるとすると、劣調和関数 の記事の「劣調和関数の比較原理」により、境界で $f$ 以下の劣調和関数はすべて $u$ 以下である。$u$ 自身もその中に入るので、$u$ は「境界で $f$ 以下の劣調和関数」の上限である。Perron の方法は、解の存在がわからないうちからこの上限を考える。
$\overline\Omega$ 上の実数値連続関数 $v$ で、$\Omega$ 上で劣調和で、$\partial\Omega$ 上で $v\le f$ となるもの全体を $\mathcal{S}_f$ と書き、$f$ の Perron 族 という。$x\in\Omega$ に対して
$$
H_f(x):=\sup\{v(x)\mid v\in\mathcal{S}_f\}
$$
とおき、$H_f$ を $f$ の Perron 関数 という(ABR20 第 11 章 The Perron Construction、p. 226)。
$m:=\min_{\partial\Omega}f$、$M:=\max_{\partial\Omega}f$ とおく。定数関数 $m$ は $\mathcal{S}_f$ に属するので $H_f\ge m$ である。$v\in\mathcal{S}_f$ は境界で $M$ 以下なので、劣調和関数 の記事の「劣調和関数の比較原理」($h=M$)により $\Omega$ 上で $v\le M$ であり、$H_f\le M$ である。解 $u$ があれば $u\in\mathcal{S}_f$ で、各 $v\in\mathcal{S}_f$ は $v\le u$ を満たすので、$H_f=u$ である。
Perron 族は、次の「Poisson 修正」で閉じている。これは劣調和関数を、ある球の中だけ調和関数に取り替える操作である。
$v$ を $\overline\Omega$ 上で連続で $\Omega$ 上で劣調和な実数値関数とし、$\overline B(a,r)\subset\Omega$ とする。$\overline\Omega$ 上の関数 $\tilde v$ を、$B(a,r)$ の上では $\tilde v:=P_{a,r}[v|_{\partial B(a,r)}]$(境界値 $v|_{\partial B(a,r)}$ に対する球の Dirichlet 問題の解)、$\overline\Omega\setminus B(a,r)$ の上では $\tilde v:=v$ と定める。このとき
要点:球の中では境界値が同じ調和関数なので劣調和関数の比較から $v\le\tilde v$ となり、外の点での劣平均値の性質はこの不等式から出る。
2:$B(a,r)$ 上の不等式は 劣調和関数 の記事の系「球での調和関数との比較」であり、外では等号である。3:Poisson 核は正なので、球面上で $v\le v'$ なら $P_{a,r}[v]\le P_{a,r}[v']$ である。4:$\overline B(a,r)\subset\Omega$ なので $\partial\Omega$ 上では $\tilde v=v\le f$ である。
1:$\tilde v$ は閉集合 $\overline B(a,r)$ の上で連続(thm-dp-ball)、閉集合 $\overline\Omega\setminus B(a,r)$ の上で連続($v$ そのもの)で、共通部分 $\partial B(a,r)$ で値が一致するので、$\overline\Omega$ 上で連続である。$B(a,r)$ 上では調和なので劣平均値の性質を満たす。$b\in\Omega\setminus B(a,r)$ では、$v$ の劣平均値の性質と 2 から、十分小さい $\rho$ について$$\tilde v(b)=v(b)\le\int_Sv(b+\rho\zeta)\,d\sigma(\zeta)\le\int_S\tilde v(b+\rho\zeta)\,d\sigma(\zeta)$$である。よって $\tilde v$ は $\Omega$ 上で劣調和である。$\square$
$\Omega$ を有界な開集合、$f$ を $\partial\Omega$ 上の実数値連続関数とすると、Perron 関数 $H_f$ は $\Omega$ 上で調和である。
$\overline B(a,r)\subset\Omega$ を任意にとり、$H_f$ が $B(a,r)$ 上で調和であることを示す。
段 1($a$ で上限に近づく増加列).$v_k\in\mathcal{S}_f$ を $v_k(a)\to H_f(a)$ となるようにとる。$V_k:=\max(v_1,\dots,v_k)$ とおくと、$V_k$ は $\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で劣調和(劣調和関数 の記事の命題「和・最大値・上限」)、境界で $f$ 以下なので $V_k\in\mathcal{S}_f$ であり、$k$ について増加する。$V_k$ の $B(a,r)$ での Poisson 修正を $u_k$ とすると、lem-dp-poisson-modification により $u_k\in\mathcal{S}_f$、$u_k$ は増加列、$V_k\le u_k\le H_f$ である。特に $u_k(a)\to H_f(a)$ である。
段 2(極限は調和).球面 $\partial B(a,r)$ 上で $V_k$ は増加して、ある関数 $g$ に収束する($V_1\le V_k\le M$ で $V_1$ は球面上で連続なので、$V_k$ は一様に有界で、$g$ は有界な Borel 可測関数)。$B(a,r)$ 上で $u_k=P_{a,r}[V_k]$ なので、lem-dp-poisson-harmonic(を $B(a,r)$ に移したもの)により、$B(a,r)$ の各点で $u_k$ は $U:=P_{a,r}[g]$ に収束し、$U$ は $B(a,r)$ 上で調和である。$u_k\le H_f$ から $U\le H_f$、段 1 から $U(a)=H_f(a)$ である。
段 3($H_f\le U$).$v\in\mathcal{S}_f$ を任意にとる。$Y_k:=\max(V_k,v)\in\mathcal{S}_f$ の $B(a,r)$ での Poisson 修正を $Z_k$ とすると、段 1・段 2 と同じ理由で $Z_k$ は $\mathcal{S}_f$ の増加列で、$B(a,r)$ 上で調和関数 $Z:=P_{a,r}[\lim_kY_k]$ に各点収束し、$Z\le H_f$ である。$Y_k\ge V_k$ から $Z_k\ge u_k$ なので $Z\ge U$ である。すると $Z-U$ は $B(a,r)$ 上の $0$ 以上の調和関数で、$(Z-U)(a)\le H_f(a)-U(a)=0$ だから $a$ で最小値 $0$ をとる。調和関数 の記事の「最大値原理」(最小値の場合)により $B(a,r)$ 上で $Z=U$ である。したがって $B(a,r)$ 上で $v\le Y_k\le Z_k\le Z=U$ である。$v\in\mathcal{S}_f$ は任意なので $H_f\le U$ となる。
段 2 の $U\le H_f$ と合わせて、$B(a,r)$ 上で $H_f=U$ であり、$H_f$ は調和である。$\square$
ABR20 Theorem 11.6(p. 226)は段 2 の収束に Harnack の原理を使っている。ここでは Poisson 積分の優収束で置き換え、Harnack の不等式を使わずに証明した。
Perron 関数は内部で調和だが、境界値 $f$ に連続につながるとは限らない。つながるかどうかは、境界点の近くの $\Omega$ の形だけで決まる。
$\zeta\in\partial\Omega$ とする。$\overline\Omega$ 上の実数値連続関数 $w$ で、$\Omega$ 上で劣調和、$\overline\Omega\setminus\{\zeta\}$ 上で $w<0$、$w(\zeta)=0$ となるものを、$\zeta$ における $\Omega$ の 障壁(barrier)という(ABR20 p. 227)。
$\zeta\in\partial\Omega$ に障壁があれば、$\partial\Omega$ 上の任意の実数値連続関数 $f$ について、$x\to\zeta$($x\in\Omega$)のとき $H_f(x)\to f(\zeta)$ である。
$w$ を $\zeta$ における障壁とし、$\varepsilon>0$ をとる。$f$ の連続性から $\rho>0$ があって、$\partial\Omega\cap B(\zeta,\rho)$ の上で $|f-f(\zeta)|<\varepsilon$ である。$w$ はコンパクト集合 $\overline\Omega\setminus B(\zeta,\rho)$ の上で連続かつ負なので、ある $\delta>0$ について $w\le-\delta$ である。$C:=2\max_{\partial\Omega}|f|/\delta$ とおくと、$\partial\Omega$ 全体で
$$
f(\zeta)-\varepsilon+Cw\le f\le f(\zeta)+\varepsilon-Cw
$$
が成り立つ($B(\zeta,\rho)$ の中では $|f-f(\zeta)|<\varepsilon$ と $w\le0$ から、外では $Cw\le-2\max|f|$ から)。
左の関数 $f(\zeta)-\varepsilon+Cw$ は $\mathcal{S}_f$ に属するので、$\Omega$ 上で $H_f\ge f(\zeta)-\varepsilon+Cw$ である。一方 $v\in\mathcal{S}_f$ なら、$v+Cw$ は $\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で劣調和で、$\partial\Omega$ 上で $v+Cw\le f+Cw\le f(\zeta)+\varepsilon$ だから、劣調和関数 の記事の「劣調和関数の比較原理」($h$ は定数)により $\Omega$ 上で $v\le f(\zeta)+\varepsilon-Cw$ である。上限をとって $H_f\le f(\zeta)+\varepsilon-Cw$ である。
$x\to\zeta$ のとき $w(x)\to w(\zeta)=0$ なので、$\limsup_{x\to\zeta}|H_f(x)-f(\zeta)|\le\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意だから $H_f(x)\to f(\zeta)$ である。$\square$
有界な開集合 $\Omega$ で Dirichlet 問題が解けるための必要十分条件は、$\partial\Omega$ のすべての点に障壁があることである。このとき、実数値の境界値 $f$ に対する解は、$\Omega$ 上の Perron 関数 $H_f$ と $\partial\Omega$ 上の $f$ を合わせたものである。
十分性:各境界点に障壁があれば、$u:=H_f$($\Omega$ 上)、$u:=f$($\partial\Omega$ 上)は $\Omega$ 上で調和(thm-dp-perron-harmonic)で、$\zeta\in\partial\Omega$ に $\Omega$ の中から近づくと $f(\zeta)$ に収束し(thm-dp-barrier-continuity)、$\partial\Omega$ の中で近づくときは $f$ の連続性から $f(\zeta)$ に収束する。よって $u$ は解である。
必要性:Dirichlet 問題が解けるとし、$\zeta\in\partial\Omega$ について境界値 $f(x):=-|x-\zeta|$ の解を $w$ とする。$w$ は調和なので劣調和であり、$w(\zeta)=0$、$\partial\Omega\setminus\{\zeta\}$ 上で $w<0$、調和関数 の記事の「弱最大値原理」により $\Omega$ 上で $w\le0$ である。$\Omega$ のある点で $w=0$ となると仮定して矛盾を導けば、$w$ は障壁である。
$w(x_0)=0$、$x_0\in\Omega$ とし、$x_0$ を含む $\Omega$ の連結成分を $W$ とする。$w$ は $W$ 上で最大値 $0$ をとるので、調和関数 の記事の「最大値原理」により $W$ 上で $w\equiv0$ である。$W$ の境界点は $\partial\Omega$ に属し(同記事の「弱最大値原理」の証明)、$w$ の連続性からそこで $f=0$、すなわち $\partial W\subset\{\zeta\}$ である。$W$ は有界で空でないので $\partial W=\{\zeta\}$ となる。すると $\mathbb{R}^n\setminus\{\zeta\}$ は、交わらない 2 つの開集合 $W$ と $\mathbb{R}^n\setminus\overline W$ の和になり、どちらも空でない($W$ は有界)。$n\ge2$ では $\mathbb{R}^n\setminus\{\zeta\}$ は連結なので、これは矛盾である。
障壁は各境界点のまわりの局所的な形だけで作れることが多い。最も使いやすいのは次の条件である。
$\zeta\in\partial\Omega$ について、$\zeta$ を含む閉球 $\overline B(c,r)$ で $\Omega$ と交わらないものがあれば、$\zeta$ に障壁がある。
要点:外部の閉球を半分に縮めて $\overline\Omega$ と $\zeta$ だけで接するようにし、その中心 $c'$ についての基本解 $|x-c'|^{2-n}$($n=2$ では $-\log|x-c'|$)から定数を引く。
開球 $B(c,r)$ は $\Omega$ と交わらない開集合なので $\overline\Omega$ とも交わらず、$|\zeta-c|=r$ である。$c':=(c+\zeta)/2$ とおくと、$\overline B(c',r/2)\subset\overline B(c,r)$ で、$\overline B(c',r/2)$ と球面 $\partial B(c,r)$ の共通点は $\zeta$ だけである。$\overline\Omega\cap\overline B(c,r)\subset\partial B(c,r)$ なので、$\overline\Omega\cap\overline B(c',r/2)=\{\zeta\}$ となり、$\overline\Omega\setminus\{\zeta\}$ の点 $x$ は $|x-c'|>r/2$ を満たす。そこで$$w(x):=\begin{cases}|x-c'|^{2-n}-(r/2)^{2-n}&(n\ge3)\\ \log(r/2)-\log|x-c'|&(n=2)\end{cases}$$とおくと、$w$ は $\mathbb{R}^n\setminus\{c'\}\supset\overline\Omega$ で調和(調和関数 の記事の例「基本解の形の関数」)、特に $\Omega$ 上で劣調和で、$w(\zeta)=0$、$\overline\Omega\setminus\{\zeta\}$ で $w<0$ である。$\square$
有界で凸な開集合では Dirichlet 問題が解ける。
要点:分離超平面定理により、各境界点 $\zeta$ で $\Omega$ を片側に含む超平面がとれ、その反対側で $\zeta$ に接する閉球が外部球条件を与える。
$\zeta\in\partial\Omega$ は凸集合 $\Omega$ に属さないので、分離超平面定理(BV04 §2.5.1、p. 46)により、$0$ でないベクトル $a$ と実数 $b$ があって $\Omega$ 上で $a\cdot x\le b$、$a\cdot\zeta\ge b$ となる。$\Omega$ は開集合なので $\Omega$ 上では $a\cdot x< b$ である($a\cdot x=b$ となる点があれば、その点から $a$ の向きに少し動かすと $\Omega$ の中で $b$ を超える)。$e:=a/|a|$ とおくと、閉球 $\overline B(\zeta+e,1)$ の点 $y$ は $a\cdot y\ge a\cdot\zeta\ge b$ を満たす($a\cdot(y-\zeta-e)\ge-|a|$ による)ので $\Omega$ と交わらず、$\zeta$ を含む。prop-dp-exterior-ball と thm-dp-solvability による。$\square$
境界が $C^2$ 級の有界な開集合も外部球条件を満たし、Dirichlet 問題が解ける(ABR20 Corollary 11.13、p. 230。この記事では証明しない)。さらに弱い「外部錐条件」(境界点を頂点とする錐が外側にとれる)でも障壁が作れ、境界が $C^1$ 級の領域はこれを満たす(同書 Theorem 11.16、p. 232、第 11 章の演習 16、p. 237。この記事では証明しない)。
$\Omega:=B\setminus\{0\}$(単位球から中心を除いたもの)では Dirichlet 問題が解けない。$\partial\Omega=S\cup\{0\}$ 上の連続関数 $f$ を、$S$ 上で $0$、原点で $1$ と定めると、この境界値の解はない。障壁の言葉では、原点に障壁がない($S$ の各点には prop-dp-exterior-ball により障壁があるので、原点にも障壁があれば thm-dp-solvability により解けてしまう)。
解 $u$ があったとする。実部をとって $u$ は実数値としてよい。$n\ge3$ なら $\Phi(x):=|x|^{2-n}-1$、$n=2$ なら $\Phi(x):=\log(1/|x|)$ とおく。$\Phi$ は $\Omega$ 上で調和、正で、$S$ 上で $0$、$x\to0$ で $+\infty$ に発散する。$\varepsilon>0$ について $u-\varepsilon\Phi$ は $\Omega$ 上で調和で、$S$ の点に近づくと $u-\varepsilon\Phi\to0$、原点に近づくと $u$ は有界なので $u-\varepsilon\Phi\to-\infty$ である。調和関数 の記事の「弱最大値原理」により $\Omega$ 上で $u\le\varepsilon\Phi$ であり、$\varepsilon\to0$ として $u\le0$ を得る。すると $u$ の原点での連続性から $u(0)\le0$ となり、$u(0)=f(0)=1$ に反する。$\square$
原点のような孤立した境界点は「小さすぎて」調和関数から見えない。$n\ge3$ では、線分のような 1 次元の集合でも同じことが起こる:3 次元の単位球から $x_3$ 軸を除いた領域では Dirichlet 問題が解けない(ABR20 第 11 章の演習 13、p. 237。この記事では証明しない)。一方、平面では、境界点を一端とする線分が外側にとれれば障壁が作れる(同書の演習 14、p. 237。この記事では証明しない)。
定理の仮定を外した例を表にまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 各境界点の障壁(thm-dp-solvability) | $B\setminus\{0\}$、境界値は $S$ 上 $0$、原点で $1$ | 解の存在 |
| $\Omega$ の有界性(一意性) | 上半空間 $\{x_n>0\}$ の $u=x_n$ と $u=0$、境界値 $0$ | 解の一意性 |
| 境界値の連続性 | $S$ 上で $\zeta_1>0$ なら $1$、$\zeta_1\le0$ なら $0$ | $\overline B$ 上で連続な解の存在 |
| 障壁の負値性 $w<0$(thm-dp-barrier-continuity) | 恒等的に $0$ の関数 | 障壁から境界での連続性を導く |
1 行目は ex-dp-punctured-ball。2 行目:$x_n$ と $0$ はどちらも $\overline\Omega$ 上で連続、$\Omega$ 上で調和で、境界 $\{x_n=0\}$ で $0$ だが異なる。Dirichlet 問題の定義は有界な開集合に限ったが、非有界な領域では無限遠での条件(たとえば有界性)を加えないと一意性が崩れることを示す。3 行目:$\overline B$ 上で連続な関数の $S$ への制限は連続なので、不連続な境界値に対する連続な解はない。Poisson 積分 $P[g]$ 自体は lem-dp-poisson-harmonic により $B$ 上で調和である。4 行目:恒等的に $0$ の関数は、$w<0$ 以外の障壁の条件(連続、劣調和、$w(\zeta)=0$)を満たし、どの境界点についても存在する。ex-dp-punctured-ball の $\Omega$ と $f$ では、同じ証明($v-\varepsilon\Phi\le0$)により $\mathcal{S}_f$ の関数はすべて $\Omega$ 上で $0$ 以下で、$0\in\mathcal{S}_f$ だから $H_f\equiv0$ である。よって原点で $H_f(x)\to0\ne1=f(0)$ となり、境界での連続性は崩れる。
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