決定可能な理論

同義語:決定可能理論decidable theory

概要

決定可能な理論(decidable theory)とは、一階の文の集合 $T$ であって、文 $\sigma$ が $T$ の論理的帰結であるかどうかを判定する機械的な手順があるもの、すなわち帰結の全体 $\operatorname{Cn}(T)$ が Gödel 数の集合として決定可能なものである。決定可能な公理系をもつ完全な理論は決定可能で、端点のない稠密な全順序、標数を定めた代数閉体、実閉体の理論がその例である。有限個の公理を加えても決定可能性は保たれ、有限な言語の有限構造の理論や、1 項関係記号だけの言語の妥当な文の全体も決定可能である。一方、Robinson の算術 $\mathrm{Q}$、Peano 算術、真の算術、2 項関係記号を含む言語の一階述語論理は決定可能でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, 停止問題, 完全な理論

数学の理論について、「与えられた文がその理論から証明できるかどうかを、機械的な手順で必ず判定できるか」と問うことができる。判定の手順がある理論を 決定可能な理論(decidable theory)という。端点のない稠密な全順序の理論や、標数を定めた代数閉体の理論、実閉体の理論は決定可能である。一方、自然数の加法と乗法を含む算術の理論は、Peano 算術も真の算術も決定可能でなく、一階述語論理そのもの(妥当な文の全体)も、2 項関係記号を 1 つ含む言語ではもう決定可能でない。
この記事では、決定可能な理論を定義し、有限個の公理を加えても決定可能性が保たれること、有限構造の理論が決定可能であること、1 変数の関係記号だけからなる言語では妥当な文の全体が決定可能であることを証明する。後者は、文が成り立つかどうかを有限の大きさのモデルだけで調べればよいという「小さいモデルの性質」から従う。

設定

以下、$L$ は可算な一階言語とし、$L$ の記号と論理式に自然数の番号(Gödel 数)$\ulcorner\varphi\urcorner$ を付けておく。番号は、「番号が文を表すか」の判定や、否定 $\varphi\mapsto\lnot\varphi$、含意 $(\varphi,\psi)\mapsto\varphi\to\psi$ を作る操作が番号の上で計算できるように付ける。$L$ が無限個の記号をもつときは、「$n$ 番目の記号」が $n$ から計算できるように並べる。これは 完全な理論 の記事の節「完全性と決定可能性」と同じ約束である。
自然数の集合が 決定可能・半決定可能 であることは 停止問題 の記事の定義「決定可能と半決定可能」による。文の集合は、番号の集合が決定可能(半決定可能)であるときにそうよぶ。$L$ の文の集合 $T$ について、$T\models\sigma$ は「$T$ のすべてのモデルで $\sigma$ が真」を表し、$\operatorname{Cn}(T):=\{\sigma\mid T\models\sigma\}$ を $T$ の帰結の全体とする。Gödelの完全性定理 により、$T\models\sigma$ は $T$ から $\sigma$ が証明できることと同値である。

定義

決定可能な理論

$L$ の文の集合 $T$ について、

  1. $\operatorname{Cn}(T)$ が決定可能であるとき、$T$ は 決定可能 であるという。そうでないとき 決定不能 であるという。
  2. 決定可能な文の集合 $A$ で $\operatorname{Cn}(A)=\operatorname{Cn}(T)$ を満たすものがあるとき、$T$ は 公理化可能(computably axiomatizable)であるという。

$T=\emptyset$ のとき、$\operatorname{Cn}(\emptyset)$ は $L$ の妥当な文(すべての $L$ 構造で真な文)の全体である。その判定が可能かという問いは、Hilbert の 決定問題(Entscheidungsproblem)とよばれた。
決定可能性は公理の集合ではなく帰結の全体の性質なので、同じ帰結をもつ公理の集合はどれも同時に決定可能か決定不能である。構造 $\mathcal M$ の理論 $\operatorname{Th}(\mathcal M)$ については $\operatorname{Cn}(\operatorname{Th}(\mathcal M))=\operatorname{Th}(\mathcal M)$ なので、$\operatorname{Th}(\mathcal M)$ が決定可能であるとは、文が $\mathcal M$ で真かどうかを判定する手順があることである。
定義と既存の結果から、次の 3 つの関係がある。

  • 決定可能なら公理化可能である。$A:=\operatorname{Cn}(T)$ とすればよい。
  • 公理化可能なら $\operatorname{Cn}(T)$ は半決定可能である。公理から始まる証明を順に数え上げれば、$T\models\sigma$ のときは $\sigma$ の証明がいつか見つかるからである(OLT26 Lemma 36.7、p. 576)。
  • 公理化可能で完全なら決定可能である(完全な理論 の記事の定理「決定可能な公理系をもつ完全な理論は決定可能」)。
    2 つ目と、決定可能性は集合と補集合がともに半決定可能であることと同値であるという事実(停止問題 の記事の定理「決定可能性と半決定可能性」)を合わせると、公理化可能な $T$ が決定可能であることは、「$T\models\sigma$ でない」ことも数え上げで確かめられることと同じである。決定可能性の問題は、帰結しない側をどう確かめるかという問題になる。

直感

公理化可能な理論では、定理は証明を数え上げればいずれ見つかる。困るのは定理でない文で、いくら待っても証明は見つからないが、「まだ見つからない」と「存在しない」は区別できない。理論が完全なら、$\sigma$ の証明と $\lnot\sigma$ の証明を同時に探せば、どちらかが必ず見つかる。完全でない理論では、$\sigma$ を偽にするモデルを何らかの方法で探し当てる必要がある。後で扱う 1 変数の関係記号だけの言語では、そのモデルを大きさの上限つきで探せるので、有限の探索で済む。

決定可能性の基本性質

有限個の公理の追加

$T$ を $L$ の文の集合、$\sigma$ を $L$ の文とする。$T$ が決定可能なら、$T\cup\{\sigma\}$ も決定可能である。対偶をとると、$T\cup\{\sigma\}$ が決定不能なら $T$ も決定不能である。

段 1(意味の上の演繹定理). 文 $\varphi$ について、$T\cup\{\sigma\}\models\varphi\iff T\models\sigma\to\varphi$ である。実際、$T\cup\{\sigma\}\models\varphi$ とし、$\mathcal M$ を $T$ のモデルとする。$\mathcal M\models\sigma$ なら $\mathcal M$ は $T\cup\{\sigma\}$ のモデルなので $\mathcal M\models\varphi$ であり、どちらの場合も $\mathcal M\models\sigma\to\varphi$ である。逆に $T\models\sigma\to\varphi$ とし、$\mathcal M$ を $T\cup\{\sigma\}$ のモデルとすると、$\mathcal M\models\sigma\to\varphi$ と $\mathcal M\models\sigma$ から $\mathcal M\models\varphi$ である。
段 2(番号の上の計算). 文の番号の集合を $\mathrm{Sent}$ とする。関数 $g\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N}$ を、$n=\ulcorner\varphi\urcorner\in\mathrm{Sent}$ なら $g(n):=\ulcorner\sigma\to\varphi\urcorner$、$n\notin\mathrm{Sent}$ なら $g(n):=n$ と定める。$\mathrm{Sent}$ が決定可能で、含意を作る操作が番号の上で計算できるので、$g$ は計算可能な全域関数である。段 1 により、すべての $n$ について
$$ n\in\operatorname{Cn}(T\cup\{\sigma\})\iff g(n)\in\operatorname{Cn}(T) $$
である($n\notin\mathrm{Sent}$ のときは両辺とも偽)。$\operatorname{Cn}(T\cup\{\sigma\})$ の特性関数は、$\operatorname{Cn}(T)$ の特性関数と $g$ の合成なので計算可能である(計算可能な関数が合成で閉じていることは、停止問題 の記事の (A) で述べられている μ再帰関数との一致による)。$\square$

有限個の文 $\sigma_1,\dots,\sigma_k$ を加える場合は、1 つずつ加えればよい。とくに $T=\emptyset$ とすると、$L$ の妥当な文の全体が決定可能なら、有限個の公理からなるどの理論も決定可能である。この対偶から、決定問題の否定的な解決が 1 つ得られる。

算術の言語の妥当な文

算術の言語 $L_A=\{0,{}',+,\times,<\}$ の妥当な文の全体は決定可能でない。

Robinson の算術 Q は 8 個の文 $Q_1,\dots,Q_8$ を公理とする理論である(OLT26 Definition 33.5、p. 524)。Q は決定可能でない(同 Theorem 36.1、p. 573。この記事では証明しない)。$\sigma:=Q_1\land\cdots\land Q_8$ とおくと $\operatorname{Cn}(\{\sigma\})=\operatorname{Cn}(\{Q_1,\dots,Q_8\})$ なので、$\emptyset\cup\{\sigma\}$ は決定不能である。prop-dt-finite-extension の対偶により $\emptyset$、すなわち $L_A$ の妥当な文の全体は決定不能である。$\square$

OLT26 Corollary 36.12(p. 578)は、同じ結論を「Q と矛盾しない理論は決定不能」という強い定理(同 Theorem 36.11)から導いている。上の証明は Q の決定不能性だけから、prop-dt-finite-extension で同じ結論を得ている。言語を 2 項関係記号 1 つにまで小さくしても妥当な文の全体は決定不能である(同 Corollary 36.16、p. 579)。また、Turing 機械の動作を一階の文に書き移して停止問題に帰着させる方法でも、一階述語論理の妥当な文の全体が決定不能であることが示される(同 Theorem 32.16、p. 511)。
完全性と組み合わせると、公理化できない理論の例が得られる。

真の算術は公理化可能でない

真の算術 $\operatorname{Th}(\mathbb{N},0,{}',+,\times,<)$ は公理化可能でない。

構造の理論なので完全である。公理化可能なら、完全な理論 の記事の定理「決定可能な公理系をもつ完全な理論は決定可能」により決定可能になる。しかし真の算術は決定可能でない(OLT26 Corollary 36.6、p. 576。この記事では証明しない)。$\square$

量化記号消去による判定

$T$ を $L$ の文の集合とする。文 $\varphi$ ごとに量化記号のない文 $\varphi^\ast$ を対応させる計算可能な写像(番号の上の計算可能な関数)があって、$T\models\varphi\leftrightarrow\varphi^\ast$ がすべての文 $\varphi$ で成り立つとする。さらに、量化記号のない文 $\psi$ について $T\models\psi$ かどうかが判定できるとする。このとき $T$ は決定可能である。

$T\models\varphi\leftrightarrow\varphi^\ast$ なので、$T$ のどのモデルでも $\varphi$ と $\varphi^\ast$ の真偽は一致し、$T\models\varphi\iff T\models\varphi^\ast$ である。$\varphi$ が与えられたら $\varphi^\ast$ を計算し、量化記号のない文についての判定を当てはめればよい。2 つの計算可能な手順の合成なので計算可能である。$\square$

量化記号消去 の記事の定理「DLO の量化記号消去」の証明は、選言標準形への展開、否定の書き換え、等式の代入、不等式の連言からの $\exists y$ の除去という、記号列の書き換えだけでできている。この書き換えは機械的に実行でき、言語 $\{<\}$ の量化記号のない文は $\top,\bot$ から結合子で作った文なので、その真偽も計算できる。したがって prop-dt-qe により、端点のない稠密な全順序の理論 DLO は決定可能である。同じ結論は DLO の完全性からも得られる(完全な理論 の記事の系「決定可能な理論の例」)。量化記号消去による方法は、完全でない理論にも使える点と、判定の手順が具体的に書き下せる点に利点がある。

有限構造の理論

有限構造の理論は決定可能

$L$ を有限個の記号からなる言語、$\mathcal M$ を有限な $L$ 構造とする。このとき $\operatorname{Th}(\mathcal M)$ は決定可能である。

$M=\{a_1,\dots,a_m\}$ とする。$L$ は有限なので、$\mathcal M$ は有限の表で与えられる。各関係記号の解釈は $M^r$ の部分集合、各関数記号の解釈は $M^r\to M$ の写像、各定数記号の解釈は $M$ の元であり、どれも有限個のデータである。
論理式 $\varphi$ と、$\varphi$ の自由変数から $M$ への割り当て $s$ を入力として、$\mathcal M\models\varphi[s]$ の真偽を返す手順 $\operatorname{Sat}(\varphi,s)$ を、$\varphi$ の組み立てに沿って次のように定める。

  • 項の値は、変数なら $s$ の値、定数記号なら表の元、$f(t_1,\dots,t_r)$ なら $t_i$ の値を先に計算して $f$ の表を引く。
  • 原子論理式 $R(t_1,\dots,t_r)$、$t_1=t_2$ は、項の値を計算して $R$ の表を引くか、2 つの値を比べる。
  • $\lnot\psi$、$\psi\land\chi$ などは、$\operatorname{Sat}(\psi,s)$、$\operatorname{Sat}(\chi,s)$ の値を真理値表で組み合わせる。
  • $\exists x\,\psi$ は、$x$ に $a_1,\dots,a_m$ を順に割り当てて $\operatorname{Sat}(\psi,s[x\mapsto a_j])$ を $m$ 回計算し、どれかが真なら真とする。$\forall x\,\psi$ はすべてが真なら真とする。
    各段で呼び出す $\operatorname{Sat}$ は、より短い論理式についてのもので、呼び出しは有限回なので、論理式の長さに関する帰納法により手順は必ず止まる。返す値が $\mathcal M\models\varphi[s]$ の真偽と一致することは、各段が 一階述語論理 の記事の定義「項の値」「充足関係」の各項をそのままなぞっていることから、同じ帰納法で分かる($M$ が有限なので、$\exists$ の定義の「ある元」は $m$ 個の元を調べ尽くすことで確かめられる)。
    番号 $n$ が与えられたら、$n\in\mathrm{Sent}$ かを判定し、文 $\sigma$ なら空の割り当てで $\operatorname{Sat}(\sigma,\emptyset)$ を計算すればよい。これで $\operatorname{Th}(\mathcal M)$ の特性関数を計算する手順が得られた。$\square$

言語が有限であることは外せない(ex-dt-counterexamples の 1)。また構造が無限なら、言語が有限でも決定可能とは限らない。真の算術がその例である。

1 変数の関係記号だけの言語

1 変数の関係記号(1 項述語)だけからなる言語の一階論理を 単項述語論理 という。この節では、言語 $L$ は 1 項関係記号 $P_0,P_1,P_2,\dots$ だけからなり、定数記号・関数記号をもたないとする(等号は使ってよい)。
論理式 $\varphi$ の 量化記号の深さ $\operatorname{qr}(\varphi)$ を、原子論理式では $0$、$\operatorname{qr}(\lnot\psi)=\operatorname{qr}(\psi)$、$\operatorname{qr}(\psi\land\chi)=\max\{\operatorname{qr}(\psi),\operatorname{qr}(\chi)\}$(ほかの結合子も同様)、$\operatorname{qr}(\exists x\,\psi)=\operatorname{qr}(\forall x\,\psi)=\operatorname{qr}(\psi)+1$ で定める。量化記号の入れ子の深さである。
$L$ 構造 $\mathcal M$ と有限個の記号 $P_1,\dots,P_k$ について、元 $a\in M$ の 色 を
$$ c(a):=\bigl(\,[a\in P_1^{\mathcal M}],\ \dots,\ [a\in P_k^{\mathcal M}]\,\bigr)\in\{0,1\}^k $$
と定める($[\cdots]$ は条件が成り立てば $1$、そうでなければ $0$)。色は $2^k$ 種類ある。

縮小の補題

$L_0=\{P_1,\dots,P_k\}$ とし、$\mathcal M$ を $L_0$ 構造、$q\ge1$ とする。各色 $\gamma\in\{0,1\}^k$ について、その色の元の集合 $C_\gamma$ が $q$ 個以下の元をもてば $C_\gamma$ 全体を、$q$ 個より多くの元をもてばそのうち $q$ 個を選び、選んだ元の全体を $M'$ とする。$\mathcal M'$ を、$P_i$ の解釈を $M'$ に制限した部分構造とする。このとき $\lvert M'\rvert\le2^kq$ であり、自由変数が相異なる $x_1,\dots,x_l$ の中にあって $\operatorname{qr}(\varphi)+l\le q$ を満たす $L_0$ の論理式 $\varphi$ と、$a_1,\dots,a_l\in M'$ について
$$ \mathcal M'\models\varphi[a_1,\dots,a_l]\iff\mathcal M\models\varphi[a_1,\dots,a_l]. $$
とくに、$\operatorname{qr}(\sigma)\le q$ の文 $\sigma$ について $\mathcal M'\models\sigma\iff\mathcal M\models\sigma$ である。

$M$ は空でないので、ある色 $C_\gamma$ は空でなく、そこから $1$ 個以上の元が選ばれる。よって $M'$ は空でない。$\lvert M'\rvert\le2^kq$ は作り方から明らかである。主張を $\varphi$ の組み立てに関する帰納法で示す。論理式は $\lnot,\land,\exists$ から作られるとしてよい($\forall x\,\psi$ は $\lnot\exists x\,\lnot\psi$ と同値で、量化記号の深さも変わらない)。
原子論理式. $P_i(x_j)$ と $x_i=x_j$ の真偽は、$\mathcal M'$ が部分構造なので $\mathcal M'$ と $\mathcal M$ で一致する。
結合子. $\lnot\psi$、$\psi\land\chi$ では、$\psi,\chi$ の量化記号の深さは $\varphi$ 以下なので、帰納法の仮定がそのまま使える。
存在量化. $\varphi=\exists y\,\psi$ とし、束縛変数を付け替えて $y$ は $x_1,\dots,x_l$ と異なるとする(一階述語論理 の記事の系「束縛変数の付け替え」)。$\psi$ の自由変数は $x_1,\dots,x_l,y$ の $l+1$ 個の中にあり、$\operatorname{qr}(\psi)+(l+1)=\operatorname{qr}(\varphi)+l\le q$ なので、$\psi$ には帰納法の仮定が使える。
$\mathcal M'\models\varphi[\bar a]$ なら、ある $b\in M'$ で $\mathcal M'\models\psi[\bar a,b]$ であり、帰納法の仮定で $\mathcal M\models\psi[\bar a,b]$、よって $\mathcal M\models\varphi[\bar a]$ である。
逆に $\mathcal M\models\psi[\bar a,b]$ となる $b\in M$ があるとする。$b\in M'$ なら帰納法の仮定で $\mathcal M'\models\psi[\bar a,b]$ である。$b\notin M'$ とする。このとき $b$ の色 $\gamma$ の集合 $C_\gamma$ は $q$ 個より多くの元をもち、$M'\cap C_\gamma$ はちょうど $q$ 個の元をもつ。$\operatorname{qr}(\varphi)\ge1$ なので $l\le q-1$ であり、$M'\cap C_\gamma$ の元で $a_1,\dots,a_l$ のどれとも異なる $b'$ がある。
$b$ と $b'$ を入れ替え、ほかの元を動かさない写像 $\tau\colon M\to M$ は全単射で、$b,b'$ が同じ色なので各 $P_i$ の解釈を保つ。すなわち $\tau$ は $\mathcal M$ の自己同型である。$b\notin M'$ なので $b\ne a_i$ であり、$b'\ne a_i$ なので、$\tau(a_i)=a_i$ である。一階述語論理 の記事の定理「同型補題」により
$$ \mathcal M\models\psi[\bar a,b]\iff\mathcal M\models\psi[\tau(\bar a),\tau(b)]=\psi[\bar a,b'] $$
であり、$b'\in M'$ なので帰納法の仮定で $\mathcal M'\models\psi[\bar a,b']$、よって $\mathcal M'\models\varphi[\bar a]$ である。$\square$

証明の要点は、同じ色の元が $q$ 個より多くあっても、深さ $q$ の文はそれを「$q$ 個以上ある」としか見分けられないことである。量化記号を 1 つ外すたびに注目する元が 1 個増えるが、色ごとに $q$ 個を残しておけば、まだ使っていない同じ色の元がいつも見つかる。

単項述語論理の決定可能性

$L$ は 1 項関係記号だけからなる言語とする。

  1. (小さいモデルの性質)$L$ の文 $\sigma$ に現れる関係記号が $k$ 個で、$q:=\max\{\operatorname{qr}(\sigma),1\}$ とする。$\sigma$ がモデルをもつなら、$2^kq$ 個以下の元からなるモデルをもつ。
  2. $L$ の妥当な文の全体 $\operatorname{Cn}(\emptyset)$ は決定可能である。

1:$\sigma$ に現れる関係記号を $P_1,\dots,P_k$ とし、$L_0:=\{P_1,\dots,P_k\}$ とする。$\mathcal M\models\sigma$ とすると、$\sigma$ の真偽は $L_0$ の記号の解釈だけで決まるので(構造(モデル) の記事の定義「簡約と拡張」の後の段落)、$L_0$ への簡約 $\mathcal M|_{L_0}$ も $\sigma$ を満たす。lem-dt-shrink により、$2^kq$ 個以下の元からなる $L_0$ 構造 $\mathcal M'$ で $\mathcal M'\models\sigma$ となるものがある。$L\setminus L_0$ の記号を空集合と解釈して $\mathcal M'$ を $L$ 構造に拡張すれば、それが求めるモデルである。
2:文 $\sigma$ が妥当であることは、$\lnot\sigma$ がモデルをもたないことと同値である。$\lnot\sigma$ に現れる記号と量化記号の深さは $\sigma$ と同じなので、1 により、$\lnot\sigma$ がモデルをもつのは、台集合が $\{1,\dots,j\}$($1\le j\le2^kq$)で $P_1,\dots,P_k$ をその部分集合と解釈した $L_0$ 構造のどれかが $\lnot\sigma$ を満たすときに限る。そのような構造は有限個($j$ ごとに $2^{jk}$ 個)であり、すべて書き出せる。各構造で $\lnot\sigma$ が真かどうかは、thm-dt-finite-structure の証明の手順 $\operatorname{Sat}$ で計算できる。$\sigma$ の番号から $k$、$q$、$P_1,\dots,P_k$ は計算できるので、これらを順に調べ、どれも $\lnot\sigma$ を満たさなければ $\sigma$ は妥当、どれかが満たせば妥当でないと答える手順が得られる。$\square$

2 の手順は、prop-dt-finite-extension により、有限個の公理からなる単項述語論理の理論の決定にもそのまま使える。言語に 1 項関数記号を 1 つ加えても妥当な文の全体は決定可能のままだが(OLT26 §36.10 の末尾、p. 579。この記事では証明しない)、1 の小さいモデルの性質は成り立たなくなる(ex-dt-counterexamples の 4)。2 項関係記号を 1 つ加えると、妥当な文の全体は決定不能になる(cor-dt-church の後の段落)。

例

理論決定可能か根拠
端点のない稠密な全順序 DLO可能prop-dt-qe、完全な理論 の記事の系「決定可能な理論の例」
標数 $p$ の代数閉体 $\mathrm{ACF}_p$、実閉体 RCF可能完全な理論 の記事の系「決定可能な理論の例」
有限な言語の有限構造の理論可能thm-dt-finite-structure
単項述語論理の妥当な文可能thm-dt-monadic
Presburger 算術 $\operatorname{Th}(\mathbb{N},0,{}',+)$可能OLT26 §33.4、p. 531(証明しない)
Robinson の算術 Q、Peano 算術 PA不能OLT26 Theorem 36.1・36.5、pp. 573–575(証明しない)
真の算術 $\operatorname{Th}(\mathbb{N},0,{}',+,\times,<)$不能OLT26 Corollary 36.6、p. 576(証明しない)
算術の言語の妥当な文不能cor-dt-church
2 項関係記号を含む言語の妥当な文不能OLT26 Corollary 36.16、p. 579(証明しない)

PA は Q の公理に帰納法の公理図式を加えた理論で(OLT26 Definition 33.6、p. 525)、標準モデル $\mathbb{N}$ をモデルにもつので無矛盾である。Q を含む無矛盾な理論は決定不能なので(同 Theorem 36.5、p. 575)、PA は決定不能である。Presburger 算術と真の算術は、乗法を含むかどうかだけが違う。乗法を加えると、計算可能な関係がすべて Q の中で表現できるようになり(OLT26 §36.1 にまとめられた Theorem 35.29、p. 573)、これが決定不能性の源になる。

決定可能だが完全でない理論

1 項関係記号 $P$ 1 つの言語で、空集合 $\emptyset$(公理のない理論)を考える。thm-dt-monadic により $\emptyset$ は決定可能である。一方、文 $\exists x\,P(x)$ は、$P$ を空でない集合と解釈した構造では真、空集合と解釈した構造では偽なので、$\emptyset\models\exists x\,P(x)$ でも $\emptyset\models\lnot\exists x\,P(x)$ でもない。よって $\emptyset$ は完全でない。決定可能性に完全性は必要ない。
具体的に、文 $\sigma:=\forall x\,P(x)\to\exists x\,P(x)$ を判定してみる。$k=1$、$q=1$ なので、$2$ 個以下の元の構造を調べればよい。台集合が空でないので、$\forall x\,P(x)$ が真なら台集合のある元が $P$ を満たし、$\exists x\,P(x)$ も真である。よってどの構造でも $\lnot\sigma$ は偽で、$\sigma$ は妥当である。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
言語が有限(thm-dt-finite-structure)1 点の台集合で、計算可能でない集合 $X$ を使って $P_n$ を解釈した構造$\operatorname{Th}(\mathcal M)$ の決定可能性
構造が有限(thm-dt-finite-structure)標準モデル $(\mathbb{N},0,{}',+,\times,<)$$\operatorname{Th}(\mathcal M)$ の決定可能性
関係記号が 1 項(thm-dt-monadic の 1)2 項関係記号 $R$ で「推移的・非反射的で、どの元にもより大きい元がある」と述べる文小さいモデルの性質
関数記号がない(thm-dt-monadic の 1)1 項関数記号 $f$ で「$f$ は単射で全射でない」と述べる文小さいモデルの性質
反例の確かめ

1 行目:特性関数が計算可能でない集合 $X\subset\mathbb{N}$ がある。たとえば自己停止集合 $K$ である(停止問題 の記事の定理「停止問題の決定不能性」)。言語を $\{P_0,P_1,\dots\}$(1 項関係記号)とし、台集合 $\{0\}$ の構造 $\mathcal M$ で、$n\in X$ なら $P_n^{\mathcal M}=\{0\}$、そうでなければ $P_n^{\mathcal M}=\emptyset$ と解釈する。文 $\pi_n:=\exists x\,P_n(x)$ について $\mathcal M\models\pi_n\iff n\in X$ であり、$n\mapsto\ulcorner\pi_n\urcorner$ は計算可能である。$\operatorname{Th}(\mathcal M)$ が決定可能なら、$X$ の特性関数はその特性関数とこの関数の合成として計算可能になり、$X$ の選び方に反する。構造は有限で、崩れているのは言語の有限性だけである。
2 行目:言語 $L_A$ は有限だが、構造は無限である。真の算術は決定不能である(OLT26 Corollary 36.6、p. 576)。
3 行目:$\sigma:=\forall x\,\lnot R(x,x)\land\forall x\,\forall y\,\forall z\,(R(x,y)\land R(y,z)\to R(x,z))\land\forall x\,\exists y\,R(x,y)$ とする。$(\mathbb{N},<)$ がモデルである。$\mathcal M$ を任意のモデルとし、$b_0\in M$ から始めて $R(b_i,b_{i+1})$ となる $b_{i+1}$ を順に選ぶ。推移性により $i< j$ なら $R(b_i,b_j)$ であり、$b_i=b_j$ なら $R(b_i,b_i)$ となって非反射性に反する。よって $b_0,b_1,\dots$ は相異なり、$\sigma$ のモデルはすべて無限である。どんな上限 $N$ についても $N$ 個以下の元のモデルはない。
4 行目:$\sigma:=\forall x\,\forall y\,(f(x)=f(y)\to x=y)\land\exists y\,\forall x\,\lnot(f(x)=y)$ とする。$(\mathbb{N},n\mapsto n+1)$ がモデルである。有限集合からそれ自身への単射は全射なので、有限のモデルはない。この行では小さいモデルの性質は崩れるが、妥当な文の全体の決定可能性は保たれる(thm-dt-monadic の後の段落)。

補足

決定不能性の広がり

決定不能な理論 $T$ に公理を有限個加えると、prop-dt-finite-extension の対偶の向きには何も言えない。$T\cup\{\sigma\}$ は、$\sigma$ が $T$ と矛盾すれば矛盾した理論(すべての文を帰結とし、決定可能)になる。Q は、Q を含む無矛盾な理論がすべて決定不能であるという強い性質をもつ(OLT26 Theorem 36.5、p. 575)。この性質は、Q の言語を解釈できる理論の決定不能性を示す出発点になり、集合論 ZFC の無矛盾な拡大がどれも決定不能であることもここから従う(同 Theorem 36.13・Corollary 36.14、pp. 578–579。この記事では証明しない)。

計算の量

決定可能であることは、手順が止まることだけを保証し、速さは保証しない。thm-dt-monadic の手順が調べる構造は、$j\le2^kq$ 個の元の構造それぞれに $2^{jk}$ 個あるので、全部で $2^{k\cdot2^kq}$ 程度の個数になり、記号の個数 $k$ について 2 重に指数的に増える。Presburger 算術の判定の手順も、計算量の上では実用的でない(OLT26 §36.10 の末尾、p. 579)。

関連項目

参考文献

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