実コンパクト空間(realcompact space)とは、実数直線のある冪の閉部分空間と同相になるTychonoff空間である。閉部分空間と任意直積で保たれ、コンパクトHausdorff空間やLindelöfなTychonoff空間は実コンパクトだが、実コンパクトでもコンパクトとは限らない。評価埋め込みの閉包がHewitt実コンパクト化を与え、離散空間と一般の距離空間ではUlam可測濃度の例外が現れる。
前提知識: 位相空間, 完全正則空間, 直積位相, 閉集合, コンパクト空間
本記事では Tychonoff空間を完全正則Hausdorff空間の意味で用いる。$J$ を任意の集合とし、$\mathbb{R}^J$ には実数直線の直積位相を入れる。
Tychonoff空間 $X$ が 実コンパクト(realcompact)であるとは、ある集合 $J$ に対して、$X$ が $\mathbb{R}^J$ の閉部分空間と同相になることをいう。
「コンパクト」という名前をもつが、実コンパクト空間はコンパクトとは限らない。実数値連続関数をすべて同時に座標として使ったとき、極限として新しい点を付け加える必要がないことが本質である。
Tychonoff空間では実数値連続関数が点と閉集合を分離するので、点 $x$ を全関数値の列
$$
(f(x))_{f\in C(X,\mathbb{R})}
$$
で記録できる。この像が実数の冪の中で閉じていれば実コンパクトであり、閉じていなければ不足する極限点を加えたものがHewitt実コンパクト化である。通常のコンパクト化が有界連続関数を中心にするのに対し、ここでは非有界な実数値連続関数もすべて使う。
実コンパクト空間の閉部分空間は実コンパクトである。また、任意個の実コンパクト空間の直積も実コンパクトである。
$X$ が $\mathbb{R}^J$ の閉部分空間と同相で、$A\subset X$ が閉なら、$A$ は $\mathbb{R}^J$ でも閉である。したがって $A$ は実コンパクトである。
次に、各 $i\in I$ について $X_i$ が $\mathbb{R}^{J_i}$ の閉部分空間と同相であるとする。このとき
$$
\prod_{i\in I}X_i\subset
\prod_{i\in I}\mathbb{R}^{J_i}
\cong\mathbb{R}^{\coprod_{i\in I}J_i}
$$
であり、左辺は右辺の閉部分空間である。実際、その補集合は、少なくとも一つの座標 $i$ で $X_i$ の外に出る点全体の和であり開集合である。よって直積も実コンパクトである。
任意の集合 $J$ に対して $\mathbb{R}^J$ はそれ自身の閉部分空間なので実コンパクトである。特に $\mathbb{R}^n$、実数直線、任意個の実数直線の直積が例になる。$\mathbb{R}$ は実コンパクトだがコンパクトでないので、「実コンパクトならコンパクト」という含意は成り立たない。
任意のコンパクトHausdorff空間は実コンパクトである。
$X$ をコンパクトHausdorff空間とする。連続関数全体を使う評価写像
$$
e:X\longrightarrow[0,1]^{C(X,[0,1])},\qquad
e(x)=(f(x))_f
$$
は埋め込みである。これはコンパクトHausdorff空間がTychonoffで、$[0,1]$ 値連続関数が点と閉集合を分離することによる。
$e(X)$ はコンパクト空間からHausdorff空間への連続像なので、Hausdorff空間 $[0,1]^{C(X,[0,1])}$ の閉部分集合である。また $[0,1]$ は $\mathbb{R}$ で閉だから、その任意積 $[0,1]^{C(X,[0,1])}$ は $\mathbb{R}^{C(X,[0,1])}$ で閉である。従って $e(X)$ は実数の冪の閉部分空間であり、$X$ は実コンパクトである。
任意のLindelöfなTychonoff空間は実コンパクトである(Engelking89 Theorem 3.11.12、GJ60 Chapter 8)。
この定理の証明は、実数値連続関数の零集合と、可算交叉性をもつ実極大イデアルを用いるため標準文献に譲る。旧稿の「正則Lindelöf空間」という主張は、本記事の分離公理の規約ではこの定理に含まれる。
通常の位相をもつ $\mathbb{Q}$ は第2可算なのでLindelöfであり、Tychonoffでもある。従って実コンパクトである。一方、$\mathbb{Q}$ は可算で孤立点をもたないから、各一点集合は内部が空な閉集合であり、$\mathbb{Q}$ は自分自身の中で第1類である。完全距離化可能空間はBaire空間なので、$\mathbb{Q}$ は完全距離化可能でない。この例は「実コンパクトな距離空間なら完全距離化可能」という含意を破る。
$C(X)=C(X,\mathbb{R})$ と書く。Tychonoff空間 $X$ の 評価埋め込みを
$$
e_X:X\longrightarrow\mathbb{R}^{C(X)},\qquad
e_X(x)=(f(x))_{f\in C(X)}
$$
とする。
$e_X(X)$ の $\mathbb{R}^{C(X)}$ における閉包を $vX$ と書くと、$vX$ は実コンパクトで $X$ を稠密部分空間として含む。各 $f\in C(X)$ は座標射影により $vX$ 上へ一意に連続延長する。また、$X$ が実コンパクトであることと $e_X(X)$ が閉じていること、すなわち $vX=X$ であることは同値である(GJ60 Chapter 8、Engelking89 §3.11)。
$vX$ を Hewitt実コンパクト化(Hewitt realcompactification)という。より正確には、$X$ は $vX$ で $C$-埋め込みされ、実数値連続関数を保つ実コンパクト拡大として同相を除き一意である。閉包が実コンパクトであることは prop-realcompact-space-closed-product から従い、普遍性と $vX=X$ の特徴づけは上記文献に譲る。
Tychonoff空間 $X$ が 擬コンパクトであるとは、すべての実数値連続関数 $X\to\mathbb{R}$ が有界であることをいう。
実コンパクトな擬コンパクト空間はコンパクトである。
$X$ を $\mathbb{R}^J$ の閉部分空間とみなす。各座標射影 $\pi_j|_X:X\to\mathbb{R}$ は連続だから、擬コンパクト性によりある $M_j>0$ が存在して
$$
|\pi_j(x)|\leq M_j\qquad(x\in X)
$$
となる。従って
$$
X\subset K:=\prod_{j\in J}[-M_j,M_j].
$$
Tychonoffの定理により $K$ はコンパクトである。$X$ は $\mathbb{R}^J$ で閉だから $K$ でも閉であり、従って $X$ はコンパクトである。
順序位相をもつ $[0,\omega_1)$ はTychonoffかつ可算コンパクトなので擬コンパクトだが、コンパクトではない(Engelking89 の順序数空間の例)。従って prop-realcompact-space-pseudocompact により実コンパクトではない。
これは「Tychonoff空間なら実コンパクト」という含意を破る。完全正則Hausdorff性だけでは、実数の冪の中で像が閉じることを保証できない。
集合 $D$ 上に非単項で可算完全な超フィルターが存在するとき、$|D|$ を Ulam可測な濃度と呼ぶ。これは大きな基数の存在に関わる条件であり、ZFCだけからそのような濃度の存在は証明できない。
完全距離化可能な空間であっても、基数論的条件を無条件に落としてはいけない。Ulam可測濃度 $\kappa$ が存在すれば、濃度 $\kappa$ の離散空間は離散距離で完全距離化可能だが、上の定理により実コンパクトでない。これは「完全距離化可能なら実コンパクト」という無条件の含意を破る。
一方、可分距離空間の閉離散部分空間は高々可算なので、この例外は生じず実コンパクトである。一般の場合の正確な条件は、空間全体の濃度だけでなく閉離散部分空間の濃度で述べるのが安全である。
まず閉部分空間と直積での安定性を確認し、次にコンパクト空間・Lindelöf空間との関係を学ぶとよい。その後、評価埋め込みから $vX$ を構成すると、実コンパクト性が「実数値連続関数に関してすでに完備である」という意味をもつことが分かる。距離空間へ適用するときは、完備距離だけで判断せず、閉離散部分空間とUlam可測濃度の例外を確認する。
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