正多角形で円周率を挟む方法とは、単位円に内接・外接する正 $n$ 角形の周の長さの半分 $p_n=n\sin\frac\pi n$、$P_n=n\tan\frac\pi n$ で $p_n<\pi<P_n$($n\ge3$)と評価する方法である。これは $0<x<\frac\pi2$ での不等式 $x-\frac{x^3}6<\sin x<x<\tan x$ を $x=\frac\pi n$ に使って示せ、誤差は $\pi-p_n<\frac{\pi^3}{6n^2}$ である。辺の数を 2 倍にするには、$P_{2n}$ を $p_n$ と $P_n$ の調和平均、$p_{2n}$ を $p_n$ と $P_{2n}$ の相乗平均として求める。Archimedes はこの方法(正九十六角形)で $\frac{223}{71}<\pi<\frac{22}7$ を示した。
前提知識: 円周率, 三角関数, 弧度法, 導関数, 平均値の定理
円周率 $\pi$ は、半径 $1$ の円(単位円)の周の長さの半分である。$\pi=3.14159\ldots$ という値を知っていることと、「$3.14<\pi<3.15$ が正しい」ことを証明できることは別である。有理数や根号で書ける数 $a,b$ について $a<\pi< b$ を証明することを、$\pi$ を評価する、あるいは挟むという。
この記事では、円に内側と外側から正多角形をぴったり合わせ、その周の長さで $\pi$ を挟む方法を学ぶ。これは紀元前 3 世紀に Archimedes が使った方法である。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学での見方 |
|---|---|---|
| 微分して $\sin x< x$ を示す | 弦 $<$ 弧 $<$ 接線の折れ線 | 弧の長さは内接する折れ線の長さの上限 |
| 正六角形の周 $6$ | $p_n<\pi< P_n$ | 誤差 $\frac{\pi^3}{6n^2}$ の評価 |
| 半角の公式 | 辺の数を 2 倍にする漸化式 | 調和平均と相乗平均のくり返し |
中心角 $2x$($0< x<\frac\pi2$)の弧を考える。単位円では、弧の長さは弧度法の定義により $2x$ である。
単位円の中心を $\mathrm O$、弧の両端を $\mathrm A$、$\mathrm B$ とし、$\angle\mathrm{AOB}=2x$ とする(図 1)。
図1:中心角 2x の弧(長さ 2x)は、弦(長さ 2 sin x)より長く、接線の折れ線(長さ 2 tan x)より短い
図 1 を見ると、弦 $<$ 弧 $<$ 接線の折れ線、つまり $2\sin x<2x<2\tan x$ となりそうである。まず数で確かめる。
| $x$ | $x-\frac{x^3}6$ | $\sin x$ | $x$ | $\tan x$ |
|---|---|---|---|---|
| $\frac\pi6=0.5235\ldots$ | $0.49967\ldots$ | $0.5$ | $0.52359\ldots$ | $\frac1{\sqrt3}=0.57735\ldots$ |
| $\frac\pi4=0.7853\ldots$ | $0.70465\ldots$ | $\frac1{\sqrt2}=0.70710\ldots$ | $0.78539\ldots$ | $1$ |
どちらの行でも左から右へ大きくなっている。$x-\frac{x^3}6$ は $\sin x$ にかなり近い。
証明では、高校で習う次の事実を使う:$g$ が $[0,a]$ で連続で、$0< t< a$ で $g'(t)>0$ ならば、$g$ は $[0,a]$ で狭義に増加し、特に $g(a)>g(0)$ である(平均値の定理から従う)。
$0< x<\frac\pi2$ ならば
$$
x-\frac{x^3}6<\sin x< x<\tan x
$$
である。
方針:示したい不等式のそれぞれについて、「大きいほう − 小さいほう」を関数とみて、$0$ での値が $0$ で、導関数が正であることを示す。
段 1($\sin x< x$)。$h(t):=t-\sin t$ とおく。$h(0)=0$ であり、$h'(t)=1-\cos t$ である。$0< t<\frac\pi2$ では $0<\cos t<1$ なので $h'(t)>0$ である。よって $0< x<\frac\pi2$ で $h(x)>h(0)=0$、つまり $\sin x< x$ である。
段 2($x<\tan x$)。$k(t):=\tan t-t$ とおく。$k(0)=0$ であり、
$$
k'(t)=\frac1{\cos^2t}-1=\frac{1-\cos^2t}{\cos^2t}=\frac{\sin^2t}{\cos^2t}=\tan^2t
$$
である。$0< t<\frac\pi2$ では $\tan t>0$ なので $k'(t)>0$ である。よって $k(x)>0$、つまり $x<\tan x$ である。
段 3($x-\frac{x^3}6<\sin x$)。$g(t):=\sin t-t+\frac{t^3}6$ とおく。$g(0)=0$、$g'(t)=\cos t-1+\frac{t^2}2$、$g'(0)=0$、$g''(t)=-\sin t+t$ である。段 1 により $0< t<\frac\pi2$ で $g''(t)=t-\sin t>0$ なので、$g'$ は狭義に増加し、$0< t<\frac\pi2$ で $g'(t)>g'(0)=0$ である。すると $g$ も狭義に増加し、$g(x)>g(0)=0$、つまり $x-\frac{x^3}6<\sin x$ である。$\square$
弧の長さを使う単位円による三角関数の定義の問題点と、その扱い方は 三角関数はどう定義するか で扱う。
単位円に内接する正 $n$ 角形(頂点がすべて円周上にある)と、外接する正 $n$ 角形(各辺が円に接する)を考える($n\ge3$)。
$n\ge3$ について
$$
p_n:=n\sin\frac\pi n,\qquad P_n:=n\tan\frac\pi n
$$
とおく。$p_n$ は単位円に内接する正 $n$ 角形の周の長さの半分、$P_n$ は外接する正 $n$ 角形の周の長さの半分である。
実際、内接正 $n$ 角形の 1 辺は中心角 $\frac{2\pi}n$ の弦なので、rem-ppoly-lengths で $x=\frac\pi n$ として長さ $2\sin\frac\pi n$ であり、$n$ 辺の和の半分は $n\sin\frac\pi n=p_n$ である。外接正 $n$ 角形では、各辺が円に接する点(接点)が $n$ 個あり、隣り合う接点の間の中心角は $\frac{2\pi}n$ である。周は、各頂点 $\mathrm T$ から両隣の接点までの折れ線 $n$ 本に分けられ、rem-ppoly-lengths で $x=\frac\pi n$ とすると、その 1 本の長さは $2\tan\frac\pi n$ である。よって周は $2n\tan\frac\pi n$、その半分は $P_n$ である。
図2:単位円と内接・外接する正六角形。周の半分はそれぞれ 3 と 2√3 で、円の周の半分 π はその間にある
$n\ge3$ について
$$
p_n<\pi< P_n,\qquad \pi-p_n<\frac{\pi^3}{6n^2}
$$
である。
$n\ge3$ なので $x:=\frac\pi n$ は $0< x\le\frac\pi3<\frac\pi2$ を満たす。lem-ppoly-sin-tan を $x=\frac\pi n$ に使うと
$$
\frac\pi n-\frac{\pi^3}{6n^3}<\sin\frac\pi n<\frac\pi n<\tan\frac\pi n
$$
である。各辺に正の数 $n$ を掛けると
$$
\pi-\frac{\pi^3}{6n^2}< n\sin\frac\pi n<\pi< n\tan\frac\pi n
$$
つまり $\pi-\frac{\pi^3}{6n^2}< p_n<\pi< P_n$ である。左の不等式を移項すると $\pi-p_n<\frac{\pi^3}{6n^2}$ になる。$\square$
ex-ppoly-square-hexagon と prop-ppoly-bounds から、$2\sqrt2<\pi<4$、$3<\pi<2\sqrt3$ である。
$n=12$ では、$\frac\pi{12}=\frac\pi3-\frac\pi4$ と加法定理を使う。
$$
\sin\frac\pi{12}=\sin\frac\pi3\cos\frac\pi4-\cos\frac\pi3\sin\frac\pi4=\frac{\sqrt3}2\cdot\frac{\sqrt2}2-\frac12\cdot\frac{\sqrt2}2=\frac{\sqrt6-\sqrt2}4
$$
$$
\tan\frac\pi{12}=\frac{\tan\frac\pi3-\tan\frac\pi4}{1+\tan\frac\pi3\tan\frac\pi4}=\frac{\sqrt3-1}{1+\sqrt3}=\frac{(\sqrt3-1)^2}{(\sqrt3+1)(\sqrt3-1)}=\frac{4-2\sqrt3}2=2-\sqrt3
$$
よって $p_{12}=12\cdot\frac{\sqrt6-\sqrt2}4=3(\sqrt6-\sqrt2)=3.1058\ldots$、$P_{12}=12(2-\sqrt3)=3.2153\ldots$ であり、
$$
3(\sqrt6-\sqrt2)<\pi<12(2-\sqrt3)
$$
という根号だけの評価になる。
正十二角形の次は正二十四角形、正四十八角形、… と辺の数を 2 倍にしていけば、評価はよくなっていく。そのたびに加法定理で $\sin\frac\pi n$ を求め直すのは大変だが、次の漸化式を使うと、前の段の $p_n,P_n$ から四則演算と平方根だけで次の段が求まる。これは Archimedes が正九十六角形まで計算した方法を、現代の記号で書いたものである。
$n\ge3$ について
$$
P_{2n}=\frac{2p_nP_n}{p_n+P_n},\qquad p_{2n}=\sqrt{p_nP_{2n}}
$$
である。つまり $P_{2n}$ は $p_n$ と $P_n$ の調和平均、$p_{2n}$ は $p_n$ と $P_{2n}$ の相乗平均である。
方針:$x:=\frac\pi{2n}$ とおき、4 つの量をすべて $\sin x$、$\cos x$ で書いて比べる。
段 1(書き直す)。$\frac\pi n=2x$ なので
$$
p_n=n\sin2x,\qquad P_n=n\tan2x,\qquad p_{2n}=2n\sin x,\qquad P_{2n}=2n\tan x
$$
である。$0< x<\frac\pi4$ なので、$\sin x$、$\cos x$、$\sin2x$、$\tan2x$ はすべて正である。
段 2($P_{2n}$)。分子・分母を $n\tan2x$ で割り、$\frac{\sin2x}{\tan2x}=\cos2x$ を使うと
$$
\frac{2p_nP_n}{p_n+P_n}=\frac{2n^2\sin2x\tan2x}{n\sin2x+n\tan2x}=\frac{2n\sin2x}{\cos2x+1}
$$
である。2 倍角の公式 $\sin2x=2\sin x\cos x$、$\cos2x+1=2\cos^2x$ を代入すると
$$
\frac{2n\sin2x}{\cos2x+1}=\frac{2n\cdot2\sin x\cos x}{2\cos^2x}=\frac{2n\sin x}{\cos x}=2n\tan x=P_{2n}
$$
となる。
段 3($p_{2n}$)。$p_nP_{2n}=n\cdot2\sin x\cos x\cdot2n\cdot\frac{\sin x}{\cos x}=4n^2\sin^2x=(2n\sin x)^2$ である。$2n\sin x>0$ なので、両辺の正の平方根をとって $\sqrt{p_nP_{2n}}=2n\sin x=p_{2n}$ である。$\square$
$p_6=3$、$P_6=2\sqrt3$ から始める。
$$
P_{12}=\frac{2\cdot3\cdot2\sqrt3}{3+2\sqrt3}=\frac{12\sqrt3}{2\sqrt3+3}=\frac{12\sqrt3\,(2\sqrt3-3)}{(2\sqrt3)^2-3^2}=\frac{12\sqrt3\,(2\sqrt3-3)}3=4\sqrt3\,(2\sqrt3-3)=24-12\sqrt3
$$
であり、これは ex-ppoly-12 の $12(2-\sqrt3)$ と一致する。次に
$$
p_{12}=\sqrt{3\cdot(24-12\sqrt3)}=\sqrt{36(2-\sqrt3)}=6\sqrt{2-\sqrt3}
$$
である。$\bigl(3(\sqrt6-\sqrt2)\bigr)^2=9(6-2\sqrt{12}+2)=9(8-4\sqrt3)=36(2-\sqrt3)$ なので、これも ex-ppoly-12 の $3(\sqrt6-\sqrt2)$ と一致する。
prop-ppoly-doubling をくり返し使うと、次の表になる(数値計算)。
| $n$ | $p_n$ | $P_n$ | $\pi-p_n$ | $P_n-\pi$ |
|---|---|---|---|---|
| $6$ | $3$ | $3.4641\ldots$ | $0.1415\ldots$ | $0.3225\ldots$ |
| $12$ | $3.10582\ldots$ | $3.21539\ldots$ | $0.03576\ldots$ | $0.07379\ldots$ |
| $24$ | $3.13262\ldots$ | $3.15965\ldots$ | $0.008964\ldots$ | $0.01806\ldots$ |
| $48$ | $3.139350\ldots$ | $3.146086\ldots$ | $0.002242\ldots$ | $0.004493\ldots$ |
| $96$ | $3.1410319\ldots$ | $3.1427145\ldots$ | $0.0005607\ldots$ | $0.001121\ldots$ |
正九十六角形で $3.1410<\pi<3.1428$ となり(下の数は $p_{96}$ を切り捨て、上の数は $P_{96}$ を切り上げた)、小数第 2 位まで確定する。
Archimedes は正九十六角形を使い、途中の根号(たとえば $\sqrt3$)を有理数で注意深く下から・上から押さえて
$$
3\tfrac{10}{71}<\pi<3\tfrac17,\qquad\text{すなわち}\qquad\frac{223}{71}<\pi<\frac{22}7
$$
を示した(Hea97、『円の計測』命題 3)。$\frac{223}{71}=3.14084\ldots$、$\frac{22}7=3.14285\ldots$ であり、表の $p_{96}$、$P_{96}$ の少し外側にある。根号を有理数で置きかえるたびに少しずつ損をするからである。
ex-ppoly-table の $\pi-p_n$ の列を見ると、辺の数を 2 倍にするごとに、誤差はおよそ $\frac14$ になっている。次の例で比を確かめる。
辺の数を 2 倍にする前と後の誤差の比 $\dfrac{\pi-p_n}{\pi-p_{2n}}$ を計算すると、次のようになる(数値計算)。
| $n\to2n$ | $6\to12$ | $12\to24$ | $24\to48$ | $48\to96$ |
|---|---|---|---|---|
| 誤差の比 | $3.959\ldots$ | $3.989\ldots$ | $3.997\ldots$ | $3.999\ldots$ |
比はどれも $4$ に近く、$n$ が大きいほど $4$ に近づく。
これは prop-ppoly-bounds の $\pi-p_n<\frac{\pi^3}{6n^2}$ の形と合っている:$n$ を 2 倍にすると $\frac1{n^2}$ は $\frac14$ になる。
図3:誤差 π−p_n と P_n−π を両対数目盛でかくと、π−p_n は上界 π^3/(6n^2) の直線とほぼ重なり、P_n−π はそれと平行な直線に並ぶ
図 3 では、どちらの誤差も両対数目盛で傾きの同じ直線に並び、$\pi-p_n$ は上界 $\frac{\pi^3}{6n^2}$ のすぐ下にある。
prop-ppoly-bounds の上界 $\frac{\pi^3}{6n^2}$ には $\pi$ そのものが入っているので、このままでは「$\pi<$ 何か」という評価に使えない。そこで $n=4$ の場合の $\pi< P_4=4$ を使い、$\pi^3<4^3=64$ と置きかえると
$$
\pi-p_n<\frac{64}{6n^2}=\frac{32}{3n^2}
$$
となる。$n=96$ では $\frac{32}{3\cdot9216}=0.001157\ldots$ なので、$\pi< p_{96}+0.001158<3.14219$ が得られる。これは $P_{96}=3.14271\ldots$ よりもよい上界である。
誤差が $\frac1{n^2}$ 程度でしか減らないので、$\pi$ をもう 1 桁正確に求めるには辺の数を約 $\sqrt{10}\approx3.2$ 倍にしなければならない。この方法で何十桁も求めるのは現実的でない。もっと速い方法は 積分で円周率を評価する と Machinの公式 で扱う。
内接正 $n$ 角形の面積 $A_n$ も、単位円の面積 $\pi$ より小さい。中心と各辺を結ぶと、頂角 $\frac{2\pi}n$、2 辺の長さ $1$ の二等辺三角形が $n$ 個できるので、$A_n=n\cdot\frac12\sin\frac{2\pi}n=\frac n2\sin\frac{2\pi}n$ である。
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