ワルシャワ円

同義語:Warsaw circlequasi-circle

概要

ワルシャワ円(Warsaw circle)とは、位相幾何学者の正弦曲線 $S$ の両端 $(0,-1)$ と $(1,\sin1)$ を $S$ と端点でしか交わらない弧で結んだ平面のコンパクト集合 $W$ のことであり、弧の取り方によらず同相に定まる。$W$ は弧状連結ですべてのホモトピー群が自明だが可縮でなく、振動が積もる線分の各点で局所連結でない。円周への写像のホモトピー類は写像度により整数と一対一に対応して $[W,S^1]\cong\mathbb{Z}$ となり、標準の折れ線で作った $W$ では、平面の補集合がちょうど二つの領域に分かれる。持ち上げの判定法・Whitehead の定理・Alexander 双対定理などで、局所的な仮定や CW 複体という仮定が外せないことを示す標準的な例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相幾何学者の正弦曲線, 弧状連結空間, 局所連結空間, 被覆空間, ホモトピー

ワルシャワ円は、位相幾何学者の正弦曲線の両端を一本の弧でつないで得られる平面の有界閉集合(したがってコンパクト空間)である。見た目は円周に近いが、振動する部分を道で通り抜けることができないため、すべてのホモトピー群が自明になる。それでも一点には縮まず、円周への写像は円周と同じだけ(整数で数えられるだけ)存在し、平面を円周と同じく二つに分ける。ホモトピー群・特異ホモロジーでは見えないが、円周への写像や補集合では見える「穴」をもつ空間として、Whiteheadの定理・持ち上げの判定法・Alexander 双対定理などの仮定が外せないことを示す標準的な例になっている。
この記事では、ワルシャワ円が弧の取り方によらず同相に定まること(prop-warsaw-arc-choice)、局所連結性が壊れる点の決定(thm-warsaw-local)、円周への写像のホモトピー類が整数と一対一に対応すること(thm-warsaw-maps-to-circle)、平面をちょうど二つの領域に分けること(thm-warsaw-plane)を証明する。ホモトピー群が自明で可縮でないことの証明は位相幾何学者の正弦曲線の記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」にあり、ここでは繰り返さない。

定義

この記事を通して、位相幾何学者の正弦曲線の記事の記号を使う:
$$G:=\{(x,\sin(1/x))\mid 0< x\le1\},\qquad I:=\{0\}\times[-1,1],\qquad S:=G\cup I\subset\mathbb{R}^2 .$$
$S$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合で $G$ の閉包に等しい(同記事の命題「閉包による表示」)。

ワルシャワ円

$\mathbb{R}^2$ の折れ線
$$L:\ (0,-1)\to(0,-2)\to(2,-2)\to(2,\sin1)\to(1,\sin1)$$
(4 本の線分の和)をとり、
$$W:=S\cup L$$
に $\mathbb{R}^2$ からの相対位相を入れた空間をワルシャワ円(Warsaw circle)という。$L$ と $S$ は $L$ の二つの端点 $(0,-1)\in I$ と $(1,\sin1)\in G$ でだけ交わる。

$L$ の代わりに、$(0,-1)$ と $(1,\sin1)$ を結ぶ別の弧($[0,1]$ と同相な部分集合)$L'$ で $L'\cap S$ が二つの端点だけのものを使ってもよい。次の命題により、得られる空間は $W$ と同相である。Hat02 §1.3 Exercise 7(p. 79)はこの空間を quasi-circle と呼んでいる。

弧の取り方によらないこと

$L'\subset\mathbb{R}^2$ を $(0,-1)$ と $(1,\sin1)$ を端点とする弧で $L'\cap S=\{(0,-1),(1,\sin1)\}$ となるものとすると、$S\cup L'$ は $W$ と同相である。

$L$ と $L'$ はともに $[0,1]$ と同相で、端点どうしを対応させる同相写像 $\beta\colon L\to L'$($\beta(0,-1)=(0,-1)$、$\beta(1,\sin1)=(1,\sin1)$)がとれる。$\Phi\colon W\to S\cup L'$ を、$S$ 上では恒等写像、$L$ 上では $\beta$ で定める。$S\cap L$ の二点で両者は一致し、$S$ と $L$ は $W$ の閉集合なので、貼り合わせの補題により $\Phi$ は連続である。$\Phi$ は全単射で、$W$ はコンパクト(有界閉集合)、$S\cup L'$ は Hausdorff なので、$\Phi$ は同相写像である。$\square$

以下の証明で繰り返し使うのは、$W$ から $I$ を除いた部分が開区間に見えることである。

開いた弧としての表示

$\alpha\colon[\tfrac12,1]\to L$ を $\alpha(\tfrac12)=(1,\sin1)$、$\alpha(1)=(0,-1)$ となる同相写像とし、$h\colon W\setminus I\to(0,1)$ を、$G$ 上では $h(x,\sin(1/x)):=x/2$、$L\setminus\{(0,-1)\}$ 上では $h:=\alpha^{-1}$ で定める。

  1. $W\setminus I$ は $W$ の開集合で、$h$ は同相写像である。
  2. $W\setminus I$ は $W$ で稠密である。より詳しく、$I$ の各点は $G$ の点列の極限である。

1:$I$ はコンパクトなので $W$ の閉集合であり、$W\setminus I$ は開である。$(1,\sin1)$ ではどちらの式も $\tfrac12$ を与える。$G$ と $L\setminus\{(0,-1)\}$ は $W\setminus I$ の閉集合で、それぞれの上で $h$ は連続なので、貼り合わせの補題により $h$ は連続である。$h$ は $G$ を $(0,\tfrac12]$ へ、$L\setminus\{(0,-1)\}$ を $[\tfrac12,1)$ へ全単射に写す。逆写像は $(0,\tfrac12]$ 上で $t\mapsto(2t,\sin(1/(2t)))$、$[\tfrac12,1)$ 上で $\alpha$ であり、どちらも連続で $t=\tfrac12$ で一致するので連続である。
2:$(0,y)\in I$ をとり、$\theta:=\arcsin y\in[-\pi/2,\pi/2]$ とおく。$x_k:=1/(\theta+2\pi k)$($k\ge1$)は $0< x_k\le1$ を満たし、$\sin(1/x_k)=y$ なので、$(x_k,y)\in G$ は $k\to\infty$ で $(0,y)$ に収束する。$\square$

$W$ の連続写像を調べるときは、$W\setminus I$ 上の値を $h$ で $(0,1)$ 上の関数として扱い、$t=h(w)\to1$ の端($(0,-1)$ に近づく端)と $t\to0$ の端($I$ 全体に積もっていく端)を別々に見る。

直感

円周 $S^1$ は、開区間 $(0,1)$ の両端を一点で閉じたものである。lem-warsaw-open-arc によれば、ワルシャワ円も開区間 $(0,1)$ を閉じたものであるが、閉じ方が違う。$t\to1$ の端は点 $(0,-1)$ に収束するが、$t\to0$ の端は振動しながら線分 $I$ 全体に積もっていき、どの一点にも収束しない。
この違いは、道と写像とで見え方が変わる。$I$ に入った道は振動する部分 $G$ へ抜け出せない(位相幾何学者の正弦曲線の記事の定理「弧状連結でない」)ので、ループは「一周」できず、球面からの写像はいつも一本の弧の中に収まって縮む。こうしてホモトピー群はすべて自明になる。一方、$I$ を一点につぶすと $W$ は円周に巻き付き、この巻き付く写像 $q\colon W\to S^1$ は一点に変形できない。道でなく写像の言葉で測れば、$W$ は円周と同じ $\mathbb{Z}$ 個分の巻き付き方をもつ。

基本的な性質

性質の一覧
性質ワルシャワ円 $W$円周 $S^1$根拠($W$ について)
コンパクト・連結・距離化可能成り立つ成り立つ有界閉集合で、lem-warsaw-open-arc の稠密な連結部分を含む
弧状連結成り立つ成り立つ位相幾何学者の正弦曲線の記事の注意「ワルシャワ円との関係」
局所連結$I$ の点で成り立たない成り立つthm-warsaw-local
ホモトピー群 $\pi_n$($n\ge1$)すべて自明$\pi_1\cong\mathbb{Z}$同記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」
可縮可縮でない可縮でない同上、cor-warsaw-consequences
CW 複体とのホモトピー同値どれとも同値でない自身が CW 複体同上
特異ホモロジー一点と同じ$H_1\cong\mathbb{Z}$一点への写像が弱ホモトピー同値で、Hat02 Proposition 4.21(p. 356)
円周への写像のホモトピー類$\mathbb{Z}$$\mathbb{Z}$thm-warsaw-maps-to-circle
平面の補集合の連結成分2 個2 個thm-warsaw-plane($S^1$ は Jordanの曲線定理)
局所連結性が壊れる点

$W$ は $W\setminus I$ の各点で局所連結であり、$I$ の各点で局所連結でない。より強く、$p\in I$ ごとに $p$ の近傍 $U$ で、$U$ に含まれる $p$ の連結な近傍(開とは限らない)が存在しないものがある。

$W\setminus I$ は $W$ の開集合で開区間 $(0,1)$ と同相(lem-warsaw-open-arc の 1)であり、開区間は局所連結なので、$W$ は $W\setminus I$ の各点で局所連結である。
$p=(0,y_0)\in I$ とし、$B$ を $p$ を中心とする半径 $\tfrac12$ の開円板、$U:=W\cap B$ とおく。$y_0\le0$ なら $\sigma:=1$、$y_0>0$ なら $\sigma:=-1$ とおくと $|\sigma-y_0|\ge1$ である。$V\subset U$ を $p$ の連結な近傍として矛盾を導く。lem-warsaw-open-arc の 2 により $p$ は $G$ の点列の極限なので、$V$ は $G$ の点 $(a,\sin(1/a))$ を含み、$B$ に属することから $0< a<\tfrac12$ である。第 1 座標への射影 $\pi$ は連続なので $\pi(V)$ は $\mathbb{R}$ の連結集合、すなわち区間であり、$0$ と $a$ を含むので $[0,a]\subset\pi(V)$ である。$k$ を大きくとって $u:=1/(\sigma\pi/2+2\pi k)$ が $0< u< a$ を満たすようにすると $\sin(1/u)=\sigma$ であり、$u\in\pi(V)$ である。ところが $W$ の点で第 1 座標が $u\in(0,1)$ のものは $G$ の点 $(u,\sigma)$ と $L$ の点 $(u,-2)$ の二つだけで、$|\sigma-y_0|\ge1$、$|-2-y_0|\ge1$ なのでどちらも $B$ に属さず、$V$ に属さない。これが矛盾である。$\square$

局所的な性質の欠如

$W$ は局所弧状連結空間でなく、局所可縮空間でもなく、絶対近傍レトラクトでもない。とくに $W$ は位相多様体でも CW複体 でもなく、円周 $S^1$ と同相でない。

局所弧状連結な空間は局所連結なので、thm-warsaw-local により $W$ は局所弧状連結でない。局所可縮な空間は局所弧状連結である(可縮空間の記事の命題「局所可縮性と道」)ので、$W$ は局所可縮でない。絶対近傍レトラクトは局所可縮である(局所可縮空間の記事の系「絶対近傍レトラクトは局所可縮」)ので、$W$ は絶対近傍レトラクトでない。位相多様体と CW 複体と $S^1$ は局所可縮である(同記事の定理「凸集合と多様体」と注意「CW 複体」)。$\square$

局所弧状連結性の欠如が被覆空間の理論でどう効くか(持ち上げの判定法が成り立たなくなること、単連結なのに連結な 2 重被覆をもつこと)は、局所弧状連結空間の記事の例「ワルシャワ円と持ち上げの判定法」と普遍被覆の記事の反例の表で扱われている。

円周への写像

$S^1:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|=1\}$ とし、$e\colon\mathbb{R}\to S^1$、$e(r):=e^{2\pi ir}$ を指数写像による被覆空間の被覆写像とする。連続写像 $f\colon X\to S^1$ が $e$ に沿って持ち上がるとは、連続写像 $\varphi\colon X\to\mathbb{R}$ で $e\circ\varphi=f$ となるものがあることをいう。$S^1$ は積について群なので、写像 $f,g\colon X\to S^1$ の各点ごとの積 $fg$ と共役 $\bar f$ も連続写像である。

円周への写像のホモトピーと持ち上げ

$X$ を任意の位相空間とし、$f,g\colon X\to S^1$ を連続写像とする。

  1. $f$ と $g$ がホモトピック(ホモトピー)であることと、$f\bar g$ が $e$ に沿って持ち上がることは同値である。
  2. ホモトピー類全体 $[X,S^1]$ は、各点ごとの積 $[f][g]:=[fg]$ によりアーベル群になる。単位元は定値写像の類であり、その類に属する写像は一点に変形できる写像(零ホモトピックな写像)である。

1 の ⇒:$F\colon X\times[0,1]\to S^1$ を $F_0=f$、$F_1=g$ となるホモトピーとし、$H(x,s):=F(x,1-s)\overline{g(x)}$ とおく。$H_0=1$(定値写像)は定値写像 $0$ に持ち上がるので、ホモトピーの持ち上げ(被覆空間の記事の定理「ホモトピーの持ち上げ」。$X$ は任意の空間でよい)により $H$ は持ち上がり、その $s=1$ での制限が $H_1=f\bar g$ の持ち上げである。⇐:$e\circ\varphi=f\bar g$ なら、$K(x,s):=e(s\varphi(x))\,g(x)$ は $K_0=g$ から $K_1=f$ へのホモトピーである。
2:積が類の上で定まり、群の公理を満たすことを確かめる。

確かめ

$F$ が $f$ から $f'$ へ、$G$ が $g$ から $g'$ へのホモトピーなら、各点ごとの積 $FG$ は $fg$ から $f'g'$ へのホモトピーなので、積は類の上で定まる。結合法則・可換性は $S^1$ の性質から、逆元は $[\bar f]$ で与えられる。定値写像どうしは $S^1$ の道に沿ってホモトピックなので、単位元は定値写像の類である。$\square$

この群 $[X,S^1]$ を $X$ の Bruschlinsky 群という。ワルシャワ円では、この群を次の整数で決定できる。$t\in(0,\tfrac12]$ に対し
$$\gamma(t):=h^{-1}(t)=\bigl(2t,\sin(1/(2t))\bigr)\in G,\qquad\iota(t):=\bigl(0,\sin(1/(2t))\bigr)\in I$$
とおく($h$ は lem-warsaw-open-arc の同相写像)。$\gamma(t)$ と $\iota(t)$ は同じ高さにあり、距離は $2t$ である。

写像度

$f\colon W\to S^1$ を連続写像とする。区間 $(0,1)$ と $I$ は単連結かつ局所弧状連結なので、連続写像 $\varphi\colon(0,1)\to\mathbb{R}$、$\psi\colon I\to\mathbb{R}$ で
$$e\circ\varphi=f\circ h^{-1},\qquad e\circ\psi=f|_I$$
となるものがある(持ち上げの判定法、Hat02 Proposition 1.33, p. 61)。lem-warsaw-degree-defined で定まる整数
$$c_1:=\lim_{t\to1}\varphi(t)-\psi(0,-1),\qquad c_0:=\lim_{t\to0}\bigl(\varphi(t)-\psi(\iota(t))\bigr)$$
の差 $\deg f:=c_1-c_0$ を $f$ の写像度という。

$c_1$ は「$(0,-1)$ に収束する端」で、$c_0$ は「$I$ に積もる端」で、$W\setminus I$ 上の持ち上げと $I$ 上の持ち上げがいくつずれるかを数えている。円周の写像度と同じく、$\deg f$ は $f$ が $W$ を一周する間に $S^1$ を何回巻くかを表す。

写像度の定義の正当性

def-warsaw-degree の極限 $c_1,c_0$ は存在して整数であり、$\deg f$ は持ち上げ $\varphi,\psi$ の選び方によらない。

$c_1$:$f\circ\alpha\colon[\tfrac12,1]\to S^1$($\alpha$ は lem-warsaw-open-arc の同相写像)の持ち上げ $\tilde\beta$ をとる。$[\tfrac12,1)$ の上では $\varphi$ と $\tilde\beta$ はともに $f\circ\alpha$ の持ち上げなので、差は整数値の連続関数、すなわち定数 $m$ である。よって $t\to1$ で $\varphi(t)\to\tilde\beta(1)+m$ となり、この極限は $f(\alpha(1))=f(0,-1)$ の持ち上げである。$\psi(0,-1)$ も $f(0,-1)$ の持ち上げなので、$c_1\in\mathbb{Z}$ である。
$c_0$:$d(t):=\varphi(t)-\psi(\iota(t))$ は $(0,\tfrac12]$ 上の連続関数で、$e(d(t))=f(\gamma(t))\overline{f(\iota(t))}$ である。$W$ はコンパクトなので $f$ は一様連続である。$0<\varepsilon\le\tfrac16$ に対し、$|w-w'|<\delta$ なら $|f(w)-f(w')|<2\sin(\pi\varepsilon)$ となる $\delta>0$ をとる。$t<\delta/2$ なら $|\gamma(t)-\iota(t)|<\delta$ なので
$$2|\sin(\pi d(t))|=|e(d(t))-1|=|f(\gamma(t))-f(\iota(t))|<2\sin(\pi\varepsilon)$$
となり、$d(t)$ と最も近い整数との距離は $\varepsilon$ 未満である。$\varepsilon=\tfrac16$ のとき、連結な区間 $(0,\delta/2)$ の $d$ による像は互いに交わらない開区間 $(n-\tfrac16,n+\tfrac16)$($n\in\mathbb{Z}$)の和に含まれるので、そのうちの一つ $(c-\tfrac16,c+\tfrac16)$ に含まれる。より小さい $\varepsilon$ について、$d(t)$ に最も近い整数は $c$ のままなので、十分小さい $t$ で $|d(t)-c|<\varepsilon$ となる。よって $c_0=\lim_{t\to0}d(t)=c\in\mathbb{Z}$ である。
選び方:$(0,1)$ と $I$ は連結なので、持ち上げの一意性(被覆空間の記事の定理「持ち上げの一意性」)により、ほかの持ち上げは整数 $m,n$ について $\varphi+m$、$\psi+n$ の形である。このとき $c_1$ と $c_0$ はともに $m-n$ だけ変わるので、差 $\deg f$ は変わらない。$\square$

$q\colon W\to S^1$ を、$W\setminus I$ 上では $q:=e\circ h$、$I$ 上では $q:=1$ で定める。$q$ は $I$ を一点につぶして $W$ を円周に一周巻き付ける写像で、連続である(位相幾何学者の正弦曲線の記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」の証明の段 4)。

円周への写像の分類

連続写像 $f,g\colon W\to S^1$ について次が成り立つ。

  1. $\deg(fg)=\deg f+\deg g$ である。
  2. $f$ が $e$ に沿って持ち上がることと $\deg f=0$ は同値である。
  3. $f$ と $g$ がホモトピックであることと $\deg f=\deg g$ は同値である。
  4. $\deg q=1$ である。
    したがって $[f]\mapsto\deg f$ は群の同型 $[W,S^1]\cong\mathbb{Z}$ を与え、$[W,S^1]$ は $[q]$ で生成される。

1:$f,g$ の持ち上げ $\varphi_f,\psi_f$、$\varphi_g,\psi_g$ をとると、$\varphi_f+\varphi_g$、$\psi_f+\psi_g$ は $fg$ の持ち上げであり、極限は和をとるので $c_1,c_0$ はそれぞれ足し合わされる。
2 の ⇒:$F\colon W\to\mathbb{R}$ を $e\circ F=f$ となる連続写像とし、$\varphi:=F\circ h^{-1}$、$\psi:=F|_I$ とおく。$t\to1$ で $h^{-1}(t)=\alpha(t)\to(0,-1)$ なので $c_1=F(0,-1)-F(0,-1)=0$ である。$W$ はコンパクトなので $F$ は一様連続で、$|\gamma(t)-\iota(t)|=2t\to0$ から $c_0=\lim(F(\gamma(t))-F(\iota(t)))=0$ である。よって $\deg f=0$ である。
2 の ⇐:$\deg f=0$ なら $c_1=c_0=:c$ であり、$\varphi$ を $\varphi-c$ にとり替えて $c_1=c_0=0$ としてよい。$F\colon W\to\mathbb{R}$ を、$W\setminus I$ 上で $F:=\varphi\circ h$、$I$ 上で $F:=\psi$ と定めると $e\circ F=f$ である。$F$ が連続であることを示す。$W\setminus I$ は開集合なのでその点では連続である。$w\in I$ と、$w$ に収束する $W$ の点列 $(w_k)$ をとる。$W$ は距離空間なので、$(w_k)$ が $I$、$L\setminus\{(0,-1)\}$、$G$ のそれぞれに含まれる場合に $F(w_k)\to F(w)$ を示せばよい。

三つの場合の確かめ

$I$ に含まれる場合は $\psi$ の連続性による。$L\setminus\{(0,-1)\}$ に含まれる場合、$L$ は閉で $L\cap I=\{(0,-1)\}$ なので $w=(0,-1)$ であり、$h(w_k)\to1$ だから $F(w_k)=\varphi(h(w_k))\to\psi(0,-1)+c_1=F(w)$ である。$G$ に含まれる場合、$w_k=\gamma(t_k)$ と書くと $t_k$ は $w_k$ の第 1 座標の半分なので $t_k\to0$ であり、$\iota(t_k)$ は $w_k$ を $y$ 軸へ水平に移した点なので $\iota(t_k)\to w$ である。よって $F(w_k)=\bigl(\varphi(t_k)-\psi(\iota(t_k))\bigr)+\psi(\iota(t_k))\to c_0+\psi(w)=F(w)$ である。


3:lem-warsaw-bruschlinsky の 1 により、$f\simeq g$ は $f\bar g$ が持ち上がることと同値であり、2 によりそれは $\deg(f\bar g)=0$ と同値である。$g\bar g=1$ は持ち上がるので 1 と 2 から $\deg\bar g=-\deg g$ であり、$\deg(f\bar g)=\deg f-\deg g$ となる。
4:$q\circ h^{-1}(t)=e(t)$、$q|_I=1$ なので $\varphi(t):=t$、$\psi:=0$ ととれる。$c_1=1-0=1$、$c_0=\lim_{t\to0}t=0$ より $\deg q=1$ である。
最後の主張:1 と 3 により $\deg$ は $[W,S^1]$ から $\mathbb{Z}$ への単射な準同型であり、4 と 1 により $\deg(q^m)=m$ なので全射である。$\square$

写像度からわかること
  1. $q$ は零ホモトピックでない。とくに $W$ は可縮空間でない。
  2. $\deg f\neq0$ となる連続写像 $f\colon W\to S^1$ は全射である。
  3. $W$ の特異コホモロジー $H^1(W;\mathbb{Z})$ は $0$ であるが、$[W,S^1]\cong\mathbb{Z}$ である。

1:$\deg q=1\neq0$ と thm-warsaw-maps-to-circle の 3 による。$W$ が可縮なら $\mathrm{id}_W$ が定値写像とホモトピックになり、$q=q\circ\mathrm{id}_W$ も零ホモトピックになってしまう。
2:$f$ が点 $z_0=e(r_0)$ をとらないなら、$e$ は開区間 $(r_0,r_0+1)$ から $S^1\setminus\{z_0\}$ への同相写像なので、その逆写像と $f$ の合成が $f$ の持ち上げになり、$\deg f=0$ である。
3:$W$ は弧状連結ですべてのホモトピー群が自明なので(位相幾何学者の正弦曲線の記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」)、一点への写像は弱ホモトピー同値であり、特異コホモロジーの同型を誘導する(Hat02 Proposition 4.21, p. 356)。よって $H^1(W;\mathbb{Z})=0$ である。後半は thm-warsaw-maps-to-circle による。$\square$

3 は、CW複体 $X$ について基点つきの写像のホモトピー類 $\langle X,S^1\rangle$ が $H^1(X;\mathbb{Z})$ と一対一に対応するという定理(Hat02 Theorem 4.57, p. 393。$S^1$ は $K(\mathbb{Z},1)$ である)で、CW 複体という仮定が外せないことを示している。基点 $w_0\in I$ をとった基点つきのホモトピー類についても、$W$ では $\mathbb{Z}$ が得られる。

基点つきの場合の確かめ

$f(w_0)=g(w_0)=1$ とする。基点を止めたホモトピー $F$ から prf-warsaw-bruschlinsky のように作った $H$ は $H(w_0,s)=1$ を満たすので、持ち上げは $w_0$ で一定の整数値をとり、$f\bar g$ の持ち上げ $\varphi$ が得られる。逆に $f\bar g=e\circ\varphi$ なら $\varphi(w_0)\in\mathbb{Z}$ なので $\varphi-\varphi(w_0)$ に取り替えると $\varphi(w_0)=0$ となり、$K(x,s)=e(s\varphi(x))g(x)$ は基点を止めたホモトピーである。よって基点つきでも $f\simeq g$ と $\deg f=\deg g$ は同値で、$q(w_0)=1$ なので $q^m$ がすべての値を実現する。

平面の分割

円周を平面に埋め込むと平面はちょうど二つの領域に分かれる(Jordanの曲線定理)。ワルシャワ円は円周と同相でない(cor-warsaw-local-consequences)が、def-warsaw-main の折れ線で作った $W$ については、平面の分け方は同じである。
$g\colon(0,2)\to\mathbb{R}$ を、$0< x\le1$ では $g(x):=\sin(1/x)$、$1\le x<2$ では $g(x):=\sin1$ で定める。$g$ は連続で $-1\le g\le1$ である。

平面の二つの領域

$$U:=\{(x,y)\mid 0< x<2,\ -2< y< g(x)\},\qquad V:=\mathbb{R}^2\setminus(W\cup U)$$
とおく。

  1. $U$ と $V$ は空でない弧状連結な開集合で、$\mathbb{R}^2\setminus W=U\sqcup V$ である。$U$ は有界で、$V$ は有界でない。
  2. $W$ の各点は $U$ の点列の極限であり、$V$ の点列の極限でもある。すなわち $W$ は $U$ と $V$ の共通の境界である。
    したがって $\mathbb{R}^2\setminus W$ の連結成分はちょうど二つ($U$ と $V$)である。

$W\cap U=\emptyset$:$G$ の点と $L$ の上辺($(2,\sin1)$ から $(1,\sin1)$ への線分)の点は $y=g(x)$ を満たし、$I$ と $L$ の左辺の点は $x=0$、下辺の点は $y=-2$、右辺の点は $x=2$ を満たすので、どれも $U$ に属さない。よって $\mathbb{R}^2\setminus W=U\sqcup V$ である。
$U$ は開で弧状連結:$g$ が連続なので $U$ は開集合である。$(x,y)\in U$ から垂直に高さ $-\tfrac32$ まで動き、そこから直線 $y=-\tfrac32$ に沿って $(1,-\tfrac32)$ まで動く道は $U$ の中にある($-2<-\tfrac32<-1\le g$ による)。$U$ は $[0,2]\times[-2,1]$ に含まれ有界である。
$V$ は開:$K:=\{0\}\times[-2,1]\ \cup\ \{(x,y)\mid 0< x\le2,\ -2\le y\le g(x)\}$($g(2):=\sin1$ とおく)とおくと $K=W\cup U$ である。

$K=W\cup U$ と $K$ が閉であることの確かめ

$K$ の点のうち $x=0$ のものは $I$ か $L$ の左辺、$0< x<2$ のものは $y=-2$ なら $L$ の下辺、$-2< y< g(x)$ なら $U$、$y=g(x)$ なら $G$ か $L$ の上辺、$x=2$ のものは $L$ の右辺に属する。逆に $W\cup U\subset K$ は定義から分かる。$K$ が閉であること:$K$ の点列 $(x_k,y_k)$ が $(x,y)$ に収束するとする。$x>0$ なら $g$ は $x$ の近くで連続なので $-2\le y\le g(x)$、$0< x\le2$ である。$x=0$ なら、$-2\le y_k\le1$ から $-2\le y\le1$ である。どちらでも $(x,y)\in K$ である。


よって $V=\mathbb{R}^2\setminus K$ は開集合である。
$V$ は弧状連結で有界でない:$K\subset[0,2]\times[-2,1]$ なので、直線 $y=2$ と半平面 $x<0$、$x>2$、$y<-2$ は $V$ に含まれ、これらは互いにつながっている。残りの $V$ の点は $0\le x\le2$、$y>g(x)$($x=0$ なら $y>1$)を満たし、垂直な線分で直線 $y=2$ と結べる(線分上の点は $y>g(x)$ を満たし、$K$ にも $U$ にも属さないので $V$ にある)。
2:各点を少しずらした点で近づける。
近づけ方の確かめ

$V$ の点で近づけることは、左辺と $I$ の点 $(0,y)$ には $(-1/k,y)$、そのほかの点にはその点を少し上または外側にずらした点で分かる。$U$ の点で近づけること:$G$ と上辺の点 $(x,g(x))$($0< x<2$)には $(x,g(x)-1/k)$ で近づける。$I$ の点 $(0,y)$ には、$\sin(1/x_k)=1$ となる $x_k\to0$ をとって $(x_k,y-1/k)\in U$ で近づける。左辺の点 $(0,y)$($-2\le y\le-1$)には、$0< s<1$ について $(s,(1-s)y-\tfrac32s)\in U$ が $s\to0$ で近づく(第 2 座標は $-2$ と $-1$ の間の値の内分で、$(-2,-1)$ に入る)。下辺と右辺の点にはその点を少し内側にずらした点で近づける。$\square$

Alexander 双対定理との関係

$\mathbb{R}^2$ に無限遠点を加えて $W\subset S^2$ とみなすと、thm-warsaw-plane により $S^2\setminus W$ は二つの弧状連結成分をもち、$\tilde H_0(S^2\setminus W;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ である。一方、特異コホモロジーでは $\tilde H^1(W;\mathbb{Z})=0$(cor-warsaw-consequences の 3)である。コンパクトで局所可縮な $K\subset S^n$ に対する Alexander 双対 $\tilde H_i(S^n\setminus K;\mathbb{Z})\cong\tilde H^{n-i-1}(K;\mathbb{Z})$ は、局所可縮でない $W$ では特異コホモロジーの形のままでは成り立たない(Hat02 §3.3, p. 256、局所可縮空間の記事の注意「定理の扱い」)。補集合の成分の数 $2$ は、特異コホモロジーとは合わないが、thm-warsaw-maps-to-circle の $[W,S^1]\cong\mathbb{Z}$ の階数に $1$ を足した数とは一致している(平面のコンパクト集合について一般にこの一致が成り立つかどうかは、この記事では扱わない)。円周との比較を扱う枠組みとしてのシェイプ理論には、位相幾何学者の正弦曲線の記事の注意「ワルシャワ円との関係」が触れている。

条件を外した反例

ワルシャワ円は、次の定理の仮定がどれも外せないことを示す。各行は一つの仮定だけを破る。

外す条件反例成り立たなくなること
写像の定義域が局所弧状連結であること(持ち上げの判定法)$q\colon W\to S^1$ と被覆 $e\colon\mathbb{R}\to S^1$基本群の条件 $q_*\pi_1(W)=\{1\}$ から持ち上げが存在すること
空間が CW 複体であること(Whiteheadの定理)一点への写像 $W\to\{\ast\}$弱ホモトピー同値がホモトピー同値であること
空間が CW 複体であること($\langle X,S^1\rangle\cong H^1(X;\mathbb{Z})$)$W$円周への写像の類が特異コホモロジーで決まること
$K$ が局所可縮であること(Alexander 双対定理)$W\subset S^2$$\tilde H_0(S^2\setminus K)\cong\tilde H^1(K)$

表の各行の確かめ:

確かめを開く

1 行目:$W$ は弧状連結で $\pi_1(W)$ は自明である一方、$\deg q=1$ なので $q$ は持ち上がらない(thm-warsaw-maps-to-circle の 2 と 4)。$W$ は局所弧状連結でない(cor-warsaw-local-consequences)。同じ例は局所弧状連結空間の記事の例「ワルシャワ円と持ち上げの判定法」にもある。

2 行目:一点への写像はホモトピー群の同型を誘導する(位相幾何学者の正弦曲線の記事の命題「ワルシャワ円のホモトピー群と可縮性」)が、$W$ は可縮でない(cor-warsaw-consequences の 1)。

3 行目:cor-warsaw-consequences の 3 と、基点つきの場合の確かめによる。

4 行目:rem-warsaw-alexander による。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.3 Proposition 1.33(持ち上げの判定法、p. 61)、§1.3 Exercise 7(quasi-circle、p. 79)、§3.3 p. 256(quasi-circle での Alexander 双対の破れ)、Proposition 4.21(弱ホモトピー同値とホモロジー・コホモロジー、p. 356)、Theorem 4.57($\langle X,K(G,n)\rangle$ と $H^n(X;G)$ の対応、p. 393)

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