連続双対空間(continuous dual space)とは、実または複素ノルム空間上の連続な線形汎関数をすべて集めた空間である。双対ノルムを入れると元の空間が不完備でも Banach 空間になり、Hahn–Banach の定理によって元の点とノルムを汎関数の値から復元できる。有限次元では代数的双対と一致するが、無限次元では一般に真に小さい。二重双対への評価写像、弱位相と弱スター位相の区別にもつながる。
ノルム空間 $X$ のベクトルを数へ写す線形汎関数のうち、連続なものを集めた空間を連続双対空間という。各汎関数は $X$ の点に数値を割り当てる「観測」であり、連続性は近い点の観測値も近いという条件である。重要なのは、汎関数を個別に見るだけでなく、汎関数全体にノルムを入れて一つの完備な空間として扱えることだ。こうすると元の空間を連続双対の中の値から調べたり、さらに二重双対へ写したりできる(Cla20 の「Linear Functionals and Dual Spaces」「Reflexivity」)。
線形代数の双対空間(線形代数)では、線形汎関数に連続性を課さない。有限次元のノルム空間ではこの差は消えるが、無限次元では同じ記号 $X^*$ をどちらの意味で使うかが結論を左右する。本記事では、実数体または複素数体上のノルム空間の連続双対を $X^*$ と記す。別に明示しない限り、$X$ 自身の完備性は仮定しない。
以下、スカラー体を $\mathbb K=\mathbb R$ または $\mathbb C$ とし、$X$ を $\mathbb K$ 上のノルム空間とする。線形汎関数とは $f(ax+by)=af(x)+bf(y)$ を満たす写像 $f\colon X\to\mathbb K$ のことである。連続性を課さない全体を代数的双対 $X^{\mathrm{alg}*}$ と書けば、$X^*$ はその線形部分空間になる。ノルムは点 $x=0$ で自動的に連続性を判定できるので、定義で「全ての点で連続」と言っても「$0$ で連続」と言っても同じである。
$X$ の連続線形汎関数全体を $X^*$ とする。$f\in X^*$ の双対ノルムを
$$
\|f\|_{X^*}:=\sup_{\|x\|_X\leq1}|f(x)|
$$
で定める。$X^*$ では汎関数の和とスカラー倍を各点で計算する。
この上限は $f$ の連続性から有限である。逆に、任意の線形汎関数 $f$ についてこの上限が有限なら、任意の $x$ で $|f(x)|\leq\|f\|_{X^*}\|x\|_X$ が成立し、$f$ は連続となる。この判定を証明しておくと、後の例が単なる記号操作ではなくなる。
線形汎関数 $f\colon X\to\mathbb K$ について、次は同値である。
(i) $f$ は連続である。
(ii) ある $C\geq0$ が存在して、全ての $x\in X$ で $|f(x)|\leq C\|x\|_X$ となる。
(iii) 単位球上の $|f(x)|$ は有界である。
これらが成り立つとき、$\|f\|_{X^*}$ は (ii) で使える最小の $C$ である。
(i) なら $0$ での連続性から、ある $\delta>0$ があり $\|x\|_X<\delta$ のとき $|f(x)|<1$ となる。$x\ne0$ に $\delta x/(2\|x\|_X)$ を代入すると $|f(x)|<2\|x\|_X/\delta$ であり、(ii) を得る。(ii) は単位球上で $|f(x)|\leq C$ を与えるから (iii) を含意する。(iii) の上限を $M$ とする。$x\ne0$ なら $x/\|x\|_X$ は単位球にあるので、線形性から $|f(x)|\leq M\|x\|_X$ である。$x=0$ でも同じ不等式が成り立ち、連続性も従う。各 $C$ は単位球上の上限以上であり、逆にこの上限自身が (ii) を満たすから最小値の主張も分かる。
ここで $X=\{0\}$ でも定義は成り立ち、唯一の汎関数の双対ノルムは $0$ である。一般に $\|f\|_{X^*}=0$ なら単位球上で $f=0$、線形性から $X$ 全体で $f=0$ となる。三角不等式と斉次性も各 $x$ での絶対値の不等式から従うため、この式は本当に $X^*$ のノルムである。
単に「双対空間」や $X'$ と書いて連続双対を意味する文献もある。一方、純粋な線形代数では $X^*$ が代数的双対を表す。$X$ に位相やノルムが入っていない場面で「連続」とは言えない。複素数上では線形汎関数と共役線形汎関数も異なり、ここでは $f(\lambda x)=\lambda f(x)$ という線形性を採用する。
最初に $X=\mathbb K^d$ を考える。各 $f$ は係数 $a_1,\ldots,a_d$ によって $f(x)=\sum_{j=1}^d a_jx_j$ と一意に書ける。有限次元のノルムは互いに同値なので、この式はどのノルムに対しても連続である。ただし双対ノルムの値は元の空間に入れたノルムに依存する。例えば $\mathbb K^d$ に $\|x\|_1=\sum_j|x_j|$ を入れると $\|f\|_{X^*}=\max_j|a_j|$ となり、$\|x\|_\infty=\max_j|x_j|$ を入れると $\|f\|_{X^*}=\sum_j|a_j|$ となる。後者の等号は複素数の場合も $x_j$ の位相を選んで各 $a_jx_j$ が非負実数になるようにすれば得られる。
$X$ が有限次元のノルム空間なら、全ての線形汎関数が連続であり、集合および線形空間として $X^*=X^{\mathrm{alg}*}$ である。$\dim X=d$ なら $\dim X^*=d$ である。
基底 $e_1,\ldots,e_d$ を選び、$x=\sum_jx_je_j$ と書く。座標写像 $\mathbb K^d\to X$ は有限次元空間のノルム同値性により逆も連続である。任意の線形汎関数は $f(x)=\sum_jx_jf(e_j)$ と表せるので、座標と有限個の係数について連続である。したがって代数的双対の全ての元は $X^*$ に入る。各基底の値を任意に指定できるため、$X^*$ の次元は $d$ である。$d=0$ では両者は零空間であり、同じ結論である。
無限次元では「全ての線形汎関数が連続」は成り立たない。これを具体的に見るため、有限個の成分だけが非零の数列の空間 $c_{00}$ に $\|x\|_1=\sum_{n\geq1}|x_n|$ を入れる。和は常に有限和である。標準基底を $e_n$ とすれば、任意の数列 $a=(a_n)$ が $f_a(x)=\sum_n a_nx_n$ という代数的線形汎関数を定める。無限和の収束問題はないが、$a$ が有界でなければ $f_a$ は連続ではない。
$c_{00}$ に $\ell^1$ ノルムを入れたとき、$f_a(x)=\sum_n a_nx_n$ は $a\in\ell^\infty$ のとき、またそのときに限り連続であり、$\|f_a\|=\sup_n|a_n|$ である。従って連続双対は等長同型として $\ell^\infty$ と同一視できる。他方 $a_n=n$ を取ると $f_a$ は代数的双対には入るが連続双対には入らない。実際 $\|e_n\|_1=1$ なのに $|f_a(e_n)|=n$ は有界でない。
この例では、$c_{00}$ 自身は完備でない。たとえば $x^{(m)}=\sum_{n=1}^{m}2^{-n}e_n$ は $\ell^1$ ノルムで Cauchy 列だが、極限の全ての座標は非零で、$c_{00}$ には入らない。それでも連続双対 $\ell^\infty$ は完備である。元の空間の完備性と双対の完備性を混同してはならない。
| 空間とノルム | 線形汎関数の形 | 連続となる条件 | 双対ノルム |
|---|---|---|---|
| $\mathbb K^d$, $\ell^1$ ノルム | $\sum_j a_jx_j$ | 全ての係数列 | $\max_j\lvert a_j\rvert$ |
| $\mathbb K^d$, $\ell^\infty$ ノルム | $\sum_j a_jx_j$ | 全ての係数列 | $\sum_j\lvert a_j\rvert$ |
| $c_{00}$, $\ell^1$ ノルム | $\sum_n a_nx_n$ | $(a_n)$ が有界 | $\sup_n\lvert a_n\rvert$ |
表の最後の行で「任意の数列 $a$」が代数的双対の元を与えるのは、入力 $x$ の台が有限だからである。無限列全体で定義された $\ell^1$ 上の汎関数と同じ式を扱うときは、$a$ の有界性が絶対収束と連続性をともに保証する。
各汎関数の連続性から得られる双対ノルムは、汎関数同士の距離 $\|f-g\|_{X^*}$ を与える。つまり、二つの観測が $X$ の単位球上でどれだけ違うかを一様に測る。この距離で Cauchy 列を取ると、各点での数値は Cauchy 列になる。点ごとの極限が再び連続となる理由には、Cauchy 性から得られる一様な評価が必要である。
任意のノルム空間 $X$ に対し、双対ノルムを備えた $X^*$ は Banach 空間である。$X$ 自身が Banach 空間である必要はない。
$X^*$ の Cauchy 列 $(f_m)$ を取る。任意の $x\in X$ について
$$
|f_m(x)-f_n(x)|\leq\|f_m-f_n\|_{X^*}\|x\|_X
$$
だから、$(f_m(x))$ は完備なスカラー体 $\mathbb K$ の Cauchy 列である。$f(x):=\lim_m f_m(x)$ と定めると、極限と有限個の和・スカラー倍を交換できるので $f$ は線形である。$(f_m)$ はノルム Cauchy だからノルム有界であり、ある $M$ があって $\|f_m\|_{X^*}\leq M$ となる。各 $x$ で極限を取ると $|f(x)|\leq M\|x\|_X$ であり、$f\in X^*$ である。最後に $\varepsilon>0$ に対し、十分大きい $m,n$ で $\|f_m-f_n\|_{X^*}<\varepsilon$ とし、$n\to\infty$ とすれば各 $\|x\|_X\leq1$ で $|f_m(x)-f(x)|\leq\varepsilon$ となる。上限を取って $\|f_m-f\|_{X^*}\leq\varepsilon$。従って $f_m\to f$ は双対ノルムでの収束である。
証明では $X$ の元の極限を取っていない。必要なのは各 $f_m(x)$ の極限が存在すること、すなわち $\mathbb K$ の完備性である。この点が $c_{00}$ のような不完備な例にも定理が適用できる理由である。また、点ごとの収束だけでは一般に双対ノルムの収束は出ない。証明の最後で使ったのは $\|f_m-f_n\|$ が一様に小さいという強い仮定であり、単なる点ごとの Cauchy 性ではない。
連続双対が多数の汎関数を持つことは自明ではない。極端な場合 $X^*=\{0\}$ なら、この空間の元を観測しても何も区別できない。しかし実または複素ノルム空間では、Hahn–Banach の延長定理が各非零ベクトルを見分ける汎関数を作る(Cla20「The Hahn–Banach Theorem」、pp. 71–82)。
$x_0\in X$ が非零なら、$\|f\|_{X^*}=1$ かつ $f(x_0)=\|x_0\|_X$ を満たす $f\in X^*$ が存在する。従って、$x\ne y$ なら $f(x)\ne f(y)$ となる連続線形汎関数がある。
一次元部分空間 $M=\mathbb Kx_0$ 上で $g(\lambda x_0)=\lambda\|x_0\|_X$ と定める。$g$ は線形で、$|g(\lambda x_0)|=\|\lambda x_0\|_X$ だから $\|g\|=1$ である。Hahn–Banach の定理をこの $M$ と $g$ に適用すると、ノルムを変えずに $X$ 全体へ延長した $f$ が得られる。延長なので $f(x_0)=g(x_0)=\|x_0\|_X$ である。後半は $x_0=x-y$ にこの結果を用いればよい。
この証明で使う結果は Hahn–Banach の延長定理(Cla20「The Hahn–Banach Theorem」、pp. 71–82。この記事では証明しない)だけである。一次元上の $g$ は複素数の場合も線形であり、共役を入れずに構成できる。定理は全てのノルム空間に適用でき、$X$ の可分性や完備性も不要である。$X=\{0\}$ では「非零の $x_0$」がないため、主張は空虚に真である。
全ての $x\in X$ について
$$
\|x\|_X=\sup_{\|f\|_{X^*}\leq1}|f(x)|
$$
が成り立つ。
任意の $\|f\|_{X^*}\leq1$ で $|f(x)|\leq\|x\|_X$ だから右辺は左辺以下である。$x\ne0$ なら直前の定理で $\|f\|=1$、$f(x)=\|x\|_X$ となる $f$ を選べるので逆向きの不等式も成り立つ。$x=0$ では両辺が $0$ である。
この式は、一つの汎関数で常に全ての元のノルムが測れる、という意味ではない。各 $x$ ごとに適切な $f$ を選ぶか、全ての単位ノルム以下の汎関数の値の上限を取る。双対は $X$ の点を分離するだけでなく、そのノルムも回復する。これは次の二重双対への写像が等長になる理由である。
$X^*$ は Banach 空間なので、さらにその連続双対 $(X^*)^*$ を取れる。これを連続二重双対 $X^{**}$ と書く。$x\in X$ を固定すると、「汎関数 $f$ を $f(x)$ に写す」という評価自体が $X^*$ 上の線形汎関数になる。評価する側と評価される側が入れ替わるが、複素数上でも $f$ に関して線形である。
$J_X\colon X\to X^{**}$ を $J_X(x)(f):=f(x)$($x\in X$、$f\in X^*$)で定める。この写像を自然な評価写像という。$J_X$ が全射であるとき、$X$ を反射的という。
まず $|J_X(x)(f)|=|f(x)|\leq\|x\|_X\|f\|_{X^*}$ なので、各 $J_X(x)$ は連続であり、この定義は $X^{**}$ の元を確かに与える。また $J_X(ax+by)(f)=f(ax+by)=aJ_X(x)(f)+bJ_X(y)(f)$ だから、$J_X$ は線形写像である。ここまでには Hahn–Banach の定理は不要で、どのノルム空間でも成立する。
実または複素ノルム空間 $X$ の評価写像 $J_X\colon X\to X^{**}$ は、$\|J_X(x)\|_{X^{**}}=\|x\|_X$ を全ての $x\in X$ で満たす。特に単射である。
二重双対のノルムの定義に $J_X(x)(f)=f(x)$ を代入すると、$\|J_X(x)\|_{X^{**}}=\sup_{\|f\|_{X^*}\leq1}|f(x)|$ となる。前節で証明したノルム復元の式により、これは $\|x\|_X$ に等しい。ゆえに $J_X(x)=0$ なら $x=0$ であり、$J_X$ は単射である。
「埋め込み」と「全射」を分けることが重要である。有限次元では代数的二重双対と同様、次元の一致から $J_X$ は全射となる。一方、一般の無限次元ノルム空間では全射は別の性質であり、等長性だけからは従わない。例えば $c_{00}$ は不完備なので反射的でない。実際 $X^{**}$ は双対の双対として Banach 空間であり、もし $J_X$ が全射なら $X$ もそれに等長同型な Banach 空間になるはずだからである。なお、この論法だけで全ての無限次元 Banach 空間が非反射的だとは言えない。Hilbert 空間など、反射的な無限次元空間もある(Cla20「Reflexivity」、pp. 93–97)。
代数的双対 $X^{\mathrm{alg}*}$ のさらに代数的双対へ写す評価写像も線形代数で定義される。しかし $X^{**}=(X^*)^*$ は、最初と二回目の両方で連続性を課した空間である。この違いを無視して、有限次元の二重双対への全射性を無限次元の連続二重双対へ移してはならない。$J_X$ の等長性は Hahn–Banach の定理を用いたノルム復元から得られる。
双対の元を「観測」と見ると、全ての観測値が近づくような収束を考えられる。ノルム収束 $x_\alpha\to x$ なら各 $f\in X^*$ について $f(x_\alpha)\to f(x)$ だが、その逆を常に要求する必要はない。後者だけを収束の基準にする弱位相 $\sigma(X,X^*)$ は、全ての $f\in X^*$ を連続にする最も粗い位相である(Cla20「Weak Convergence」、pp. 99–108)。ネットでの弱収束は各 $f$ の値の収束と同値であり、列についても同じ特徴づけが使える。
双対 $X^*$ 自身には別の観測方法が二つある。一つは $X^{**}$ の各元で観測する弱位相 $\sigma(X^*,X^{**})$、もう一つは元の $X$ の各点で評価する弱スター位相 $\sigma(X^*,X)$ である。弱スター収束 $f_\alpha\to f$ は、全ての $x\in X$ について $f_\alpha(x)\to f(x)$ という意味になる。$J_X(X)\subset X^{**}$ だから弱位相は弱スター位相以上に細かい。反射的な場合は二つの位相が一致するが、一般には区別が必要である。
$X=c_{00}$ に $\ell^1$ ノルムを入れ、$X^*=\ell^\infty$ と同一視する。$f_n(x)=x_n$ と置くと $\|f_n\|_{X^*}=1$ が全ての $n$ で成り立つ。一方、$x\in c_{00}$ は非零成分が有限個なので、十分大きい $n$ で $f_n(x)=0$ となる。従って $f_n$ は弱スター位相 $\sigma(X^*,X)$ で $0$ に収束するが、双対ノルムでは $0$ に収束しない。これは点ごとの観測値の収束と一様なノルム収束の違いを示す。
$X=\ell^2$ とし、$e_n$ を標準単位ベクトルとする。各 $\|e_n\|_2=1$ だからノルムでは $0$ に収束しない。一方、Hilbert 空間の Riesz 表現定理によれば、任意の $f\in(\ell^2)^*$ はある $y\in\ell^2$ との内積で表される。$y_n\to0$ なので $f(e_n)\to0$。よって $e_n$ は弱位相で $0$ に収束する。複素内積のどちらの変数を線形に取るかで表示には共役が現れ得るが、収束の結論は変わらない。
弱位相も弱スター位相も、ノルム位相と同じものを単に言い換えたものではない。Banach–Alaogluの定理は $X^*$ の閉単位球が弱スター位相でコンパクトであると述べる。これを「弱位相で常にコンパクト」と言い換えると誤りになる。弱位相での閉単位球のコンパクト性は、Banach 空間では反射性と結びつく別の主張である(Cla20「Reflexivity」「Weak Convergence」)。
prop-continuous-dual-space-finite、thm-continuous-dual-space-complete、thm-continuous-dual-space-isometry の仮定を外すと結論が崩れることを、$c_{00}$($\ell^1$ ノルム)などで確かめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有限次元 | $c_{00}$ 上の $f_a$、$a_n=n$ | 全ての線形汎関数が連続(ex-continuous-dual-space-c00) |
| 双対ノルムでの Cauchy 性(点ごとの Cauchy 性に弱める) | $c_{00}$ 上の $g_m(x)=\sum_{n\le m}nx_n$ | 極限が $X^*$ に入ること |
| スカラー体の完備性 | $\mathbb Q$ 上のノルム空間 $X=\mathbb Q$ | $X^*$ の完備性 |
| 評価写像の等長性から全射性へ | $c_{00}$ | 反射的であること |
$X=c_{00}$ に $\ell^1$ ノルムを入れ、$g_m(x)=\sum_{n=1}^{m}nx_n$ とおく。各 $g_m$ は有限個の座標の一次結合なので連続で、$\|g_m\|_{X^*}=m$ である(ex-continuous-dual-space-c00 の $\sup_n\lvert a_n\rvert$ の式で $a=(1,2,\ldots,m,0,\ldots)$)。$x\in c_{00}$ の非零成分が第 $N$ 座標までにあれば、$m\ge N$ で $g_m(x)=\sum_nnx_n$ は一定である。したがって各 $x$ で $(g_m(x))$ は Cauchy 列で、極限は $f_a(x)=\sum_nnx_n$($a_n=n$)である。しかし $f_a$ は連続でない。$(g_m)$ は $\|g_m-g_k\|_{X^*}=\max\{m,k\}$($m\ne k$)なので双対ノルムでは Cauchy 列でなく、thm-continuous-dual-space-complete の仮定を満たさない。破るのは「双対ノルムで一様に Cauchy」という仮定であり、証明の「ノルム有界 $\|f_m\|\le M$」の段が崩れる。
スカラー体を有理数体 $\mathbb Q$(通常の絶対値)に取り替え、$X=\mathbb Q$ を $\mathbb Q$ 上のノルム空間とみる。$\mathbb Q$ 線形な $f\colon\mathbb Q\to\mathbb Q$ は $f(x)=f(1)x$ と書け、$\|f\|=\lvert f(1)\rvert$ である。したがって $f\mapsto f(1)$ は $X^*$ から $\mathbb Q$ への等長同型であり、$X^*$ は完備でない($\sqrt2$ の小数近似の列は $\mathbb Q$ の Cauchy 列で、$\mathbb Q$ に極限をもたない)。thm-continuous-dual-space-complete の証明で使った「$(f_m(x))$ は完備なスカラー体の Cauchy 列だから収束する」がここで崩れる。本記事の $\mathbb K=\mathbb R,\mathbb C$ という仮定が効いていることを示す。
最後の行は「二重双対への自然な評価写像」の節で確かめた。$c_{00}$ では $J_X$ は等長だが、$X^{**}$ は Banach 空間で $c_{00}$ は完備でないので全射にならない。
連続双対空間の「連続」は、単に良い振る舞いを期待するための飾りではない。線形汎関数全体を代数的に集めただけでは、その値が元のノルムに対してどれほど変化するかを測れない。連続性を課すと双対ノルムが有限となり、汎関数全体が完備なノルム空間になる。また Hahn–Banach の定理によって、元の点とノルムをこの双対の評価値から復元できる。
有限次元では代数的双対と連続双対の元は一致する。それでもノルムを入れれば、どのノルムを $X$ に選ぶかで双対ノルムは変わる。無限次元では集合としても違い、$c_{00}$ の例では有界な係数列だけが連続双対に入る。二重双対への評価はいつも等長埋め込みであるが、全射かどうかは反射性という追加の問題である。そして双対で観測する位相を考える際には、$X$ 上の弱位相と $X^*$ 上の弱スター位相を区別する。この順に条件を確かめれば、「双対」という同じ語から異なる主張を誤って引き出すことを避けられる。
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