2次超曲面(quadric hypersurface)とは、射影空間 $\mathbb{P}^n$ の中で $0$ でない 2 次形式 $q$ の零点として定まる超曲面のことで、$n=2$ の円錐曲線と $n=3$ の 2 次曲面を一般の次元に広げたものである。標数が $2$ でない代数閉体の上では、$q$ の対称行列の階数 $r$ だけで射影同値の類が決まり、特異点の集合は行列の核を射影化した次元 $n-r$ の線型部分空間になる($r=n+1$ なら空)。$q$ は $r\ge3$ のときに限り既約であり、$2\le r\le n$ なら 2 次超曲面は特異点の集合を軸とし、非特異な 2 次超曲面を底とする錐である。
2 次超曲面(quadric hypersurface)とは、射影空間 $\mathbb{P}^n$ の中で 1 つの 2 次形式の零点として定まる超曲面である。$n=2$ が平面の円錐曲線、$n=3$ が2次曲面であり、2 次超曲面はこれらを任意の次元へ広げたものである。
標数が $2$ でない代数閉体の上では、2 次超曲面は 2 次形式の対称行列の階数 $r$ だけで分類される。階数から幾何がすべて読める:特異点の集合は行列の核を射影化した線型部分空間で、$r=n+1$ のときに限り空である(thm-qh-normal-form)。2 次形式は $r\ge3$ のときに限り既約である(thm-qh-irreducible)。$2\le r\le n$ なら、2 次超曲面は特異点の集合を軸とし、非特異な 2 次超曲面を底とする錐である(thm-qh-cone)。
非特異な 2 次超曲面に含まれる線型部分空間の次元の上限は、対称双線型形式の等方部分空間の次元の評価で決まる(prop-qh-linear)。最後に、因子類群が階数 $3$・$4$・$5$ 以上で $\mathbb{Z}$・$\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}$・$\mathbb{Z}$ と変わること、階数 $5$ 以上では余次元 $1$ の既約な閉部分多様体がすべて超曲面との完全交叉になること(Klein の定理)を、反例とともに述べる。
$k$ を標数が $2$ でない体とし、$\mathbb{P}^n$ の斉次座標を $x=(x_0,\dots,x_n)$ とする。
$0$ でない 2 次形式
$$
q(x)=\sum_{0\le i\le j\le n}c_{ij}x_ix_j\qquad(c_{ij}\in k)
$$
を、$0$ でない定数倍の違いを同一視して考えたものを、$\mathbb{P}^n$ の 2 次超曲面といい、$Q=V_+(q)$ と書く。$q(x)=x^{\mathsf T}Ax$ となる対称行列 $A$(2次形式 の命題「2次形式と対称行列の対応」)の階数 $r$($1\le r\le n+1$)を $Q$ の階数という。$r=n+1$ のとき $Q$ は非退化であるという。$\beta(x,y):=x^{\mathsf T}Ay$ を $q$ の対称双線型形式とよぶ。
2 つの 2 次超曲面 $V_+(q)$、$V_+(q')$ は、$q'(x)=c\,q(Px)$ となる $P\in GL_{n+1}(k)$ と $c\in k^\times$ があるとき射影同値であるという。このとき $q'$ の行列は $cP^{\mathsf T}AP$ なので、階数は射影同値で変わらない。
$\bar k$ を代数閉包とする。$Q(\bar k)$ の点 $[p]$ で偏微分 $\partial q/\partial x_i$ がすべて $p$ で $0$ になるものを $Q$ の特異点といい、特異点の集合を $\operatorname{Sing}Q$ と書く。特異点のない $Q$ を非特異という。これは 2次曲面 の定義「2 次曲面」と節「特異点と接平面」の $n=3$ の場合を一般の $n$ にしたものである。
$k$ を標数が $2$ でない代数閉体とし、$Q=V_+(q)\subset\mathbb{P}^n$ を階数 $r$ の 2 次超曲面とする。
1:2次形式 の定理「平方完成による対角化」により、正則行列 $P$ で $q(Py)=d_0y_0^2+\cdots+d_ny_n^2$ となるものがある。$P^{\mathsf T}AP$ の階数は $r$ なので、変数を並べ替えて $d_0,\dots,d_{r-1}\ne0$、$d_r=\cdots=d_n=0$ としてよい。$k$ は代数閉体なので $e_i^2=d_i$ となる $e_i\in k^\times$ があり、$y_i=x_i/e_i$($i< r$)と取り替えると $q$ は $x_0^2+\cdots+x_{r-1}^2$ になる。階数は射影同値で変わらないので、$r$ は $Q$ だけで決まる。
2:$\frac{\partial q}{\partial x_i}(x)=2(Ax)_i$ であり、標数が $2$ でないので、すべての偏微分が $p$ で $0$ になることは $Ap=0$ と同値である。$Ap=0$ なら $q(p)=p^{\mathsf T}Ap=0$ だから、$[p]$ は自動的に $Q$ の点である。よって $\operatorname{Sing}Q=\mathbb{P}(\ker A)$ であり、$\dim_k\ker A=n+1-r$ なので、これは次元 $n-r$ の線型部分空間である($r=n+1$ のときは空)。標準形では $A$ は対角成分が $1$($r$ 個)と $0$ の対角行列で、$\ker A=\{x_0=\cdots=x_{r-1}=0\}$ である。$\square$
2 は「特異点の集合は次元 $n-r$ の線型部分空間」と述べているが、$r=n+1$ では次元 $-1$、すなわち空集合である。空でない線型部分空間になるのは $r\le n$ のときに限る。Har77 I Exercise 5.12 は標準形を $x_0^2+\cdots+x_r^2$ と書くので、そこでの $r$ はこの記事の $r-1$ に当たる。
$k$ を標数が $2$ でない体とし、$q$ を階数 $r$ の 2 次形式とする。
3:$q=\ell m$ と $\bar k$ 係数の 1 次形式 $\ell(x)=a^{\mathsf T}x$、$m(x)=b^{\mathsf T}x$ の積に分解したとする。$\ell m=x^{\mathsf T}ab^{\mathsf T}x=x^{\mathsf T}\tfrac12(ab^{\mathsf T}+ba^{\mathsf T})x$ で、$\tfrac12(ab^{\mathsf T}+ba^{\mathsf T})$ は対称行列である。標数が $2$ でないので 2 次形式を表す対称行列は一意であり、$A=\tfrac12(ab^{\mathsf T}+ba^{\mathsf T})$ となる。この行列の像は $a,b$ の張る空間に含まれるので、階数は $2$ 以下である。$r\ge3$ ならこれは矛盾で、$q$ は既約である。
1 と 2:2次形式 の定理「平方完成による対角化」により $k$ 上の座標で $q=d_0y_0^2$($r=1$)または $q=d_0y_0^2+d_1y_1^2$($r=2$、$d_0d_1\ne0$)となる。前者は 1 である。後者では $\gamma\in\bar k$ を $\gamma^2=-d_1/d_0$ ととると $q=d_0(y_0-\gamma y_1)(y_0+\gamma y_1)$ であり、$\gamma\ne0$ と標数が $2$ でないことから $\gamma\ne-\gamma$ なので、2 つの 1 次形式は比例しない。$\square$
$k$ が代数閉体で $r\ge3$ なら、$Q$ は次元 $n-1$ の射影多様体で、次数は $2$ である(射影多様体の次数 の命題「射影空間・線型部分空間・超曲面・Veronese 多様体」)。$r=2$ では $Q$ は相異なる 2 つの超平面の和、$r=1$ では 1 つの超平面(2 重の超平面)である。
$1\le r\le n$ のとき、標準形 $q=x_0^2+\cdots+x_{r-1}^2$ で座標を $x=(u,v)$、$u=(x_0,\dots,x_{r-1})$、$v=(x_r,\dots,x_n)$ と分ける。$Z:=\operatorname{Sing}Q=\{u=0\}\cong\mathbb{P}^{n-r}$ と、それに交わらない線型部分空間 $\Lambda:=\{v=0\}\cong\mathbb{P}^{r-1}$ をとり、$Q':=Q\cap\Lambda$ とおく。$Q'$ は $\Lambda$ の中で $u_0^2+\cdots+u_{r-1}^2=0$ が定める 2 次超曲面で、その階数 $r$ は $\Lambda$ の座標の個数に等しい。
$k$ を標数が $2$ でない代数閉体とし、$2\le r\le n$ とする。上の記号で、$Q'$ は $\Lambda$ の空でない非特異な 2 次超曲面であり、$Q$ は $Q'$ の点と $Z$ の点を結ぶ直線すべての和集合に等しい。すなわち $Q$ は $Z$ を軸とし $Q'$ を底とする錐である。
$Q'$ は階数が $\Lambda$ の次元より $1$ 大きいので、thm-qh-normal-form の 2 により非特異である。$r\ge2$ なので $[1:i:0:\cdots:0]$($i^2=-1$)が $Q'$ の点であり、$Q'$ は空でない。
$[a:0]\in Q'$、$[0:b]\in Z$ を結ぶ直線の点は $[sa:tb]$($[s:t]\in\mathbb{P}^1$)であり、$q(sa,tb)=s^2(a_0^2+\cdots+a_{r-1}^2)=0$ なので、直線は $Q$ に含まれる。逆に $[u:v]\in Q$ とする。$u=0$ なら点は $Z$ にある。$u\ne0$ なら $\sum u_i^2=0$ だから $[u:0]\in Q'$ であり、$v=0$ なら点は $Q'$ そのもの、$v\ne0$ なら $(u,v)=(u,0)+(0,v)$ により点は $[u:0]$ と $[0:v]$ を結ぶ直線にのる。$\square$
$n=3$、$r=3$ はただ 1 つの頂点をもつ 2 次錐である(2次曲面 の定理「2 次曲面の射影的な分類」の 3)。$r=2$ では $Q'$ は $\mathbb{P}^1$ の 2 点で、$Q$ は $Z$ を共有する 2 つの超平面の和である。
$\mathbb{P}^n$ の線型部分空間は $k^{n+1}$ の部分空間 $W$ の射影化 $\mathbb{P}(W)$ である。
$k$ を標数が $2$ でない代数閉体とし、$Q=V_+(q)\subset\mathbb{P}^n$ を非特異な 2 次超曲面、$m:=\lfloor(n+1)/2\rfloor$ とする。
1:$\mathbb{P}(W)\subset Q$ なら $W$ のすべての元で $q=0$ である。$w,w'\in W$ について $\beta(w,w')=\tfrac12\bigl(q(w+w')-q(w)-q(w')\bigr)=0$ なので、$W\subset W^\perp:=\{x\mid\beta(w,x)=0\ (w\in W)\}$ である。$Q$ は非特異なので $A$ は正則で、$W^\perp$ は $\dim W$ 個の独立な 1 次式で定まり、$\dim W^\perp=n+1-\dim W$ である。よって $\dim W\le n+1-\dim W$、すなわち $\dim W\le m$ である。
2:$n+1=2m$ なら $h:=x_0x_1+x_2x_3+\cdots+x_{2m-2}x_{2m-1}$、$n+1=2m+1$ なら $h:=x_0x_1+\cdots+x_{2m-2}x_{2m-1}+x_n^2$ とおく。$h$ の行列は $\frac12\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ を $m$ 個(と $n+1$ が奇数なら $1$ を 1 つ)対角に並べたもので正則だから、thm-qh-normal-form の 1 により $V_+(h)$ は $Q$ と射影同値である。$W:=\langle e_0,e_2,\dots,e_{2m-2}\rangle$ の上で $h$ の各項は $0$ なので $\mathbb{P}(W)\subset V_+(h)$ であり、射影同値で移せば $Q$ に含まれる $\mathbb{P}^{m-1}$ が得られる。$\square$
$n=2$(円錐曲線)は直線を含まず、$n=3$(2 次曲面)は直線を含むが平面を含まない(2次曲面 の定理「非特異な 2 次曲面の上の直線」)。$n=4$ でも含まれるのは直線までで、$n=5$ では平面を含む。$\mathbb{P}^3$ の直線全体の Grassmann 多様体は、Plücker 埋め込みで $\mathbb{P}^5$ の 2 次超曲面(Klein の 2 次曲面)になる(Grassmann多様体 の命題「$\operatorname{Gr}(2,4)$ と Klein の 2 次曲面」)。
$k$ を標数が $2$ でない代数閉体とし、$r\ge3$ とする。このとき $Q$ は正規な射影多様体であり(同じ 2 次形式が定めるアフィン錐 $\operatorname{Spec}k[x_0,\dots,x_n]/(q)$ の正規性が Har77 II Exercise 6.5 (a)、p. 147 にあり、$Q$ の正規性はそこから従う。この記事では証明しない)、Weil因子 の線型同値類の群 $\operatorname{Cl}Q$ が定まる。超平面 $H$ で切った因子 $Q\cdot H$ の類を $h$ と書く。
$Q\subset\mathbb{P}^n$ を階数 $r\ge3$ の 2 次超曲面とする($r\le n$ の錐でもよい)。
この記事では証明しない。主張は Har77 II Exercise 6.5 (c)(d)(p. 147)にあり、そこでは同じ 2 次形式が定めるアフィン錐 $\operatorname{Spec}k[x_0,\dots,x_n]/(q)$ の類群が $r=3,4,\ge5$ でそれぞれ $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}$、$0$ になることを経由する。$r\ge5$ ではアフィン錐の座標環が一意分解整域になり、これが 3 と 4 の理由である。$n=3$、$r=4$ の場合は Har77 II Example 6.6.1(p. 135)で、$\operatorname{Cl}Q\cong\operatorname{Cl}(\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1)$ の 2 つの成分は 2 つの直線族の類である(2次曲面 の節「2 つの直線族」)。
$n=2$、$r=3$ の 1 は直接わかる。非特異な円錐曲線 $C$ は $\mathbb{P}^1$ と同型なので(代数曲線 の定理「2 次曲線 $xz=y^2$ は射影直線と同型」)$\operatorname{Cl}C\cong\mathbb{Z}$ で、点の類が生成元であり、直線は $C$ と重複度込みで $2$ 点で交わる(Bézoutの定理)ので $h$ は点の類の $2$ 倍である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 代数閉体(thm-qh-normal-form の 1) | $k=\mathbb{R}$、$n=2$ の $x_0^2+x_1^2+x_2^2$ と $x_0^2+x_1^2-x_2^2$ | どちらも階数 $3$ だが射影同値でない |
| 標数が $2$ でない(thm-qh-normal-form の 2) | 標数 $2$ の $x_0^2+\cdots+x_n^2$ | 対角成分がすべて $0$ でないのに、すべての点が特異点 |
| $r\ge3$(thm-qh-irreducible) | $x_0x_1$($r=2$) | 2 つの超平面の積で既約でない |
| $r\ge2$(thm-qh-cone) | $x_0^2$($r=1$) | 底 $Q'$ が空で、$Q=Z$ は $Q'$ 上の錐でない |
| $r\le n$(thm-qh-normal-form の 2 の線型部分空間が空でないこと) | 非特異な $x_0^2+\cdots+x_n^2$ | $\operatorname{Sing}Q$ は空で、錐の軸がない |
| $r\ge5$(thm-qh-class-group の 4) | 非特異な 2 次曲面 $Q\subset\mathbb{P}^3$($r=4$)の直線 $L$ | どの曲面 $V$ も集合として $V\cap Q=L$ とならない |
| $r\ge5$(thm-qh-class-group の 4) | 2 次錐 $Q=V_+(x_0^2+x_1^2+x_2^2)\subset\mathbb{P}^3$($r=3$)の頂点を通る直線 $L$ | 平面で $2L$ と切れるが、重複度 $1$ で $L$ を切る曲面はない |
要点:実数では符号が不変量になり、標数 $2$ では平方和が 1 次式の平方になり、Klein の定理の 2 つの反例では、超曲面で切った因子の類がつねに $h$ の倍数であることが $L$ の類と合わない。
1 行目:前者は実点をもたず、後者は $[1:0:1]$ を含む。実点の有無は実数の範囲の射影同値で変わらない(円錐曲線 の定理「円錐曲線の射影的な分類」の 4)。
2 行目:$x_0^2+\cdots+x_n^2=(x_0+\cdots+x_n)^2$ で、偏微分 $2x_i$ はすべて $0$ である。零点集合は超平面 $x_0+\cdots+x_n=0$ で、標準形への変形も特異点の記述も成り立たない。
3・4 行目は thm-qh-irreducible の 2 と 1 による。4 行目では $Z=V_+(x_0)=Q$、$\Lambda=\{[1:0:\cdots:0]\}$ で $Q'=\emptyset$ である。5 行目は thm-qh-normal-form の 2 による。
6 行目:Har77 II Example 6.6.2・6.6.3(pp. 135–136)の議論である。$\operatorname{Cl}Q=\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}$ で $L$ の類は $(1,0)$ または $(0,1)$、次数 $d$ の曲面 $V$($Q$ を含まない)で切った因子 $V\cdot Q$ の類は $(d,d)$ である。$V\cap Q=L$ が集合として成り立てば $V\cdot Q=eL$($e\ge1$)で、類 $(e,0)$ と $(d,d)$ が一致して $d=0$ となり矛盾する。
7 行目:$q=(x_0+ix_1)(x_0-ix_1)+x_2^2$ なので、$L=V_+(x_0+ix_1,x_2)$ は $Q$ に含まれ、頂点 $[0:0:0:1]$ を通る。平面 $x_0+ix_1=0$ で切ると $x_2^2=0$ となり、$Q\cdot H=2L$ である。thm-qh-class-group の 1 により $\operatorname{Cl}Q\cong\mathbb{Z}$、$h=2g$($g$ は生成元)なので $2[L]=2g$、ねじれがないから $[L]=g$ である。次数 $d$ の曲面 $V$ で $V\cdot Q=L$ なら $[L]=dh=2dg$ となり、$g=2dg$ に反する。
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