有限位相空間

同義語:有限空間finite topological spacefinite space

概要

有限位相空間(finite topological space)とは、台集合が有限集合である位相空間である。各点を含む最小の開集合があり、特殊化の前順序 $x\preceq y\iff x\in\overline{\{y\}}$ が位相を完全に決め、連続写像は前順序を保つ写像と一致するので、有限位相空間は有限前順序集合と同じものとみなせ、$T_0$ なものは有限半順序集合にあたる。連結性は比べられる点をたどって結べることと同値で、値が点ごとに比べられる写像はホモトピックになる。4 点の擬円周が円周と弱ホモトピー同値になるように、有限単体複体と同じホモトピー群・ホモロジー群が有限位相空間に現れる(McCord の定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, 前順序, 閉包, 連続写像

有限位相空間(finite topological space)とは、点が有限個しかない位相空間のことである。有限集合の上の位相というと離散位相しか思い浮かばないかもしれないが、実際には $3$ 点集合の上だけでも $29$ 通りの位相があり、そのほとんどは $1$ 点集合が閉集合にならない、Hausdorff空間からほど遠い位相である。
有限位相空間を調べる鍵は、点どうしを「$x$ は $y$ の閉包に入る」という関係で比べることにある。有限集合の上では、この比べ方(特殊化の前順序)が位相を完全に決め、連続写像はこの前順序を保つ写像にほかならない。つまり有限位相空間は有限な前順序集合と同じものであり、位相の問いを順序の問いに翻訳できる。この翻訳を通すと、連結性は「比較できる点をたどって行き来できること」になり、写像のホモトピーは「写像どうしが前順序で比べられること」から作れる。さらに有限位相空間は、点が有限個しかないにもかかわらず、円周や球面と同じ弱ホモトピー型をもちうる。この記事では、定義と前順序による記述を確かめたあと、連結性とホモトピーについての基本定理を証明し、単体複体との関係を述べる。

定義

有限位相空間

台集合 $X$ が有限集合である位相空間 $(X,\tau)$ を 有限位相空間、または単に 有限空間 という。
有限空間 $X$ の点 $x$ について、$x$ を含む開集合全体の共通部分を
$$ U_x:=\bigcap\{U\in\tau\mid x\in U\} $$
と書く。また $X$ 上の関係 $\preceq$ を
$$ x\preceq y\ :\iff\ x\in\overline{\{y\}} $$
で定め、これを $X$ の 特殊化の前順序 という(前順序 の例「位相空間の特殊化の前順序」)。$x\preceq y$ かつ $x\neq y$ であることを $x\prec y$ と書く。

$\tau$ は有限集合 $X$ の部分集合の族なので有限であり、$U_x$ は有限個の開集合の共通部分として開集合である。$U_x$ は $x$ を含む最小の開集合であり、$x$ の 最小開近傍 とよばれる。閉包の定義から、$x\preceq y$ は「$x$ を含むどの開集合も $y$ を含む」こと、すなわち $y\in U_x$ と同値である。

順序の向きについての注意

この記事の向き $x\preceq y\iff x\in\overline{\{y\}}$ では、閉点($1$ 点集合が閉集合である点)は極小元になり、開集合は上に閉じた集合になる。これは閉点やSierpinski空間の記事と同じ向きで、代数幾何学で「$x$ は $y$ の特殊化である」と言うときの向きに合う。有限空間を扱う文献の多くは逆向きの $x\le y\iff x\in U_y$($\iff U_x\subset U_y$)を使い、そこでは開集合が下に閉じた集合になる(Sto66 p. 327、McC66 §4、p. 468)。順序を逆にすれば、どちらの流儀の結果も他方へ移せる。

前順序による記述

前順序 $\preceq$ について、$A\subset X$ が 上方集合 であるとは、$a\in A$ かつ $a\preceq b$ ならば $b\in A$ となることをいう。下方集合 も同様に定める。$\uparrow x:=\{y\mid x\preceq y\}$、$\downarrow x:=\{y\mid y\preceq x\}$ と書く。

最小開近傍と特殊化の前順序

$X$ を有限空間とする。

  1. 各 $x\in X$ について $U_x=\uparrow x$、$\overline{\{x\}}=\downarrow x$ である。
  2. $X$ の開集合は特殊化の前順序の上方集合全体に一致し、閉集合は下方集合全体に一致する。
  3. 有限空間の間の写像 $f\colon X\to Y$ が連続であることと、$f$ が特殊化の前順序を保つ($x\preceq x'\Rightarrow f(x)\preceq f(x')$)ことは同値である。
  4. 有限集合 $X$ の上の位相と前順序は、位相に特殊化の前順序を対応させることで一対一に対応する。この対応で $T_0$ である位相は半順序に対応し、T1空間である位相は等号だけの前順序、すなわち離散位相に対応する。

要点:開集合 $U$ は上方集合であり、逆に上方集合 $A$ は開集合 $U_x=\uparrow x$($x\in A$)の和なので開である。連続写像は閉包を保つので前順序を保ち、単調写像による上方集合の逆像は上方集合である。同じ内容は 前順序 の定理「有限集合上の前順序と位相の対応」と命題「連続写像と単調写像」にもある。

詳しい証明を開く

1:$y\in U_x$ と $x\preceq y$ の同値は定義のすぐ後で見たので $U_x=\uparrow x$ である。$y\in\overline{\{x\}}$ は定義から $y\preceq x$ のことなので $\overline{\{x\}}=\downarrow x$ である。

2:$U$ が開集合で $x\in U$、$x\preceq y$ ならば、$x$ を含む開集合 $U$ は $y$ を含むので、$U$ は上方集合である。逆に $A$ が上方集合なら、$x\in A$ について $U_x=\uparrow x\subset A$ なので $A=\bigcup_{x\in A}U_x$ は開集合の和として開である(ここで $U_x$ が開であることに有限性を使う)。補集合をとれば、閉集合は下方集合全体に一致する。

3:$f$ が連続で $x\in\overline{\{x'\}}$ なら、$f^{-1}\bigl(\overline{\{f(x')\}}\bigr)$ は $x'$ を含む閉集合なので $\overline{\{x'\}}$ を含み、$f(x)\in\overline{\{f(x')\}}$ である。逆に $f$ が単調で $V\subset Y$ が上方集合なら、$x\in f^{-1}(V)$、$x\preceq x'$ のとき $f(x)\preceq f(x')$ より $f(x')\in V$ なので $f^{-1}(V)$ は上方集合、すなわち 2 により開集合である。

4:前順序 $\lesssim$ に対し、上方集合全体は和と共通部分で閉じ $\emptyset,X$ を含むので位相 $\tau_{\lesssim}$ になる。$x$ を含む最小の上方集合は $\uparrow x$ なので、$\tau_{\lesssim}$ の特殊化の前順序で $x\preceq y\iff y\in\uparrow x\iff x\lesssim y$ である。逆に位相 $\tau$ から特殊化の前順序をとり、その上方集合全体をとると 2 により $\tau$ に戻る。よって 2 つの対応は互いに逆である。$x\preceq y\preceq x$ は「$x,y$ の一方だけを含む開集合がない」ことなので、反対称律は $T_0$ と同値である。前順序が等号だけであることは各点 $x$ で $\overline{\{x\}}=\{x\}$ であること、すなわち $T_1$ と同値であり(T1空間 の注意「特殊化の前順序と $T_0$・$T_1$」)、等号の上方集合はすべての部分集合なので対応する位相は離散位相である。$\square$

4 の対応により、有限空間の圏と有限前順序集合の圏は、台集合と写像をそのままにして同一視できる。以下では有限空間を前順序集合とみなし、Hasse図($x\prec y$ で間に他の点がないとき $x$ を下、$y$ を上に置いて線で結んだ図)で描く。$T_0$ な有限空間の Hasse 図では、閉点は極小元として、最小開近傍が $1$ 点である点(開点)は極大元として現れる。
とくに、有限な Hausdorff 空間は $T_1$ なので離散空間である。有限空間の位相が面白いのは、$T_0$ だが $T_1$ でない場合である。

部分空間と直積

$X,Y$ を有限空間とする。

  1. $A\subset X$ に部分空間位相を入れると、$A$ の特殊化の前順序は $X$ の前順序の $A$ への制限である。
  2. 直積空間 $X\times Y$(直積位相)の特殊化の前順序は成分ごとの前順序である:$(x,y)\preceq(x',y')\iff x\preceq x'$ かつ $y\preceq y'$。また $U_{(x,y)}=U_x\times U_y$ である。

要点:部分空間の開集合は $U\cap A$ の形なので特殊化の前順序はそのまま制限され、直積では $U_x\times U_y$ が $(x,y)$ を含む最小の開集合になる。

詳しい証明を開く

1:$A$ の開集合は $X$ の開集合 $U$ による $U\cap A$ の形である。$a,b\in A$ について、「$a$ を含む $A$ の開集合がすべて $b$ を含む」ことは「$a$ を含む $X$ の開集合 $U$ について、$U\cap A$ がすべて $b$ を含む」こと、すなわち「$a$ を含む $X$ の開集合がすべて $b$ を含む」ことと同値である。

2:$U_x\times U_y$ は $(x,y)$ を含む開集合である。逆に $(x,y)$ を含む開集合 $W$ は、直積位相の定義により $(x,y)\in U\times V\subset W$ となる開集合 $U\ni x$、$V\ni y$ を含み、$U_x\subset U$、$U_y\subset V$ なので $U_x\times U_y\subset W$ である。よって $U_{(x,y)}=U_x\times U_y$ である。$(x',y')\in U_x\times U_y$ は $x'\in U_x$ かつ $y'\in U_y$、すなわち $x\preceq x'$ かつ $y\preceq y'$ と同値である。$\square$

例

2 点集合の上の位相

$X=\{0,1\}$ の上の前順序は、等号だけのもの、$0\prec1$ だけを加えたもの、$1\prec0$ だけを加えたもの、$0\preceq1$ と $1\preceq0$ をともに加えたものの $4$ つである。prop-finite-space-order の 4 により、これに対応して $X$ の上の位相は次の $4$ つである。

前順序開集合名前$T_0$$T_1$
等号だけすべての部分集合離散位相はいはい
$0\prec1$$\emptyset,\{1\},X$Sierpinski空間はいいいえ
$1\prec0$$\emptyset,\{0\},X$Sierpinski 空間はいいいえ
$0\preceq1\preceq0$$\emptyset,X$密着位相いいえいいえ

2 行目の Sierpinski 空間では $1$ が開点、$0$ が閉点であり、$U_0=X=\uparrow0$、$U_1=\{1\}=\uparrow1$ である。

3 点集合の上の位相の数え上げ

$X=\{a,b,c\}$ の上の位相を、対応する前順序の形で分類して数える。$T_0$ な位相は $X$ 上の半順序に対応し、Hasse 図の形ごとに、点の名前の付け方の数だけある。

Hasse 図の形個数
どの 2 点も比べられない(離散)$1$
2 点だけが比べられ、残り 1 点は孤立$3\cdot2=6$
3 点が一列($x\prec y\prec z$)$3!=6$
1 点の上に 2 点($x\prec y$、$x\prec z$)$3$
2 点の上に 1 点($y\prec x$、$z\prec x$)$3$

よって $T_0$ な位相は $19$ 個ある。$T_0$ でない位相は、互いに $\preceq$ で比べて同値になる 2 点がある場合である。同値な 2 点の組が $1$ 組だけなら、組の選び方が $3$ 通り、同値類の $2$ 点集合の上の半順序が $3$ 通りで $9$ 個、3 点すべてが同値なら密着位相の $1$ 個である。合計 $19+9+1=29$ 個の位相がある。同じ数え方で、4 点集合の上には $355$ 個の位相があり、そのうち $T_0$ なものは $219$ 個である(全 $2^{12}$ 個の二項関係のうち反射律と推移律を満たすものを数え上げて確かめられる)。

擬円周

$S=\{a,b,c,d\}$ に、$a\prec c$、$a\prec d$、$b\prec c$、$b\prec d$ で生成される半順序を入れる。
$$ \xymatrix{ c \ar@{-}[d] \ar@{-}[dr] & d \ar@{-}[d] \ar@{-}[dl] \\ a & b } $$
開集合は上方集合
$$ \emptyset,\ \{c\},\ \{d\},\ \{c,d\},\ \{a,c,d\},\ \{b,c,d\},\ S $$
の $7$ つである。$a,b$ は閉点、$c,d$ は開点である。$S$ は 擬円周(pseudocircle)とよばれる。名前のとおり、単位円周 $S^1$ から $S$ への連続写像で、基本群やホモロジーを同型に写すものがある(ex-finite-space-pseudocircle-mccord)。

反例:有限空間は離散とは限らない

ex-finite-space-two-points の Sierpinski 空間と密着空間、ex-finite-space-pseudocircle の擬円周は、有限だが離散でない空間である。これらは「有限な位相空間は離散空間である」という含意を破る。破れるのは $T_1$ でない空間に限られる(prop-finite-space-order の 4)。「有限」と「$T_1$」がそろえば離散になる。

連結性

有限空間では、連結性を前順序だけで判定できる。点の列 $x=z_0,z_1,\dots,z_k=y$ で、隣り合う 2 点がどれも比べられる($z_{i-1}\preceq z_i$ または $z_i\preceq z_{i-1}$)ものを、$x$ と $y$ を結ぶ 柵 という。

比べられる 2 点を結ぶ道

位相空間 $X$ の 2 点が $x\preceq y$($x\in\overline{\{y\}}$)を満たすとき、
$$ \gamma(t)=\begin{cases} y & (0\le t<1)\\ x & (t=1)\end{cases} $$
で定まる $\gamma\colon[0,1]\to X$ は連続であり、$y$ と $x$ を結ぶ道(位相)である。

$V\subset X$ を開集合とする。$x\in V$ ならば、$x$ を含む開集合 $V$ は $y$ を含む($x\in\overline{\{y\}}$ だから)ので $\gamma^{-1}(V)=[0,1]$ である。$x\notin V$ かつ $y\in V$ ならば $\gamma^{-1}(V)=[0,1)$、$x,y\notin V$ ならば $\gamma^{-1}(V)=\emptyset$ である。いずれも $[0,1]$ の開集合なので $\gamma$ は連続である。$\square$

この補題は有限空間に限らず成り立つ。たとえば Sierpinski空間 $\{0,1\}$ では $0\preceq1$ なので、$0$ と $1$ を結ぶ道がある。

有限空間の連結性

有限空間 $X$ について、次の 3 条件は同値である。

  1. $X$ は連結空間である。
  2. $X$ は弧状連結空間である。
  3. $X$ の任意の 2 点は柵で結べる。
    さらに、一般の有限空間 $X$ において、$x$ と柵で結べる点全体を $C(x)$ とすると、$C(x)$ は $X$ の開かつ閉な部分集合であり、$x$ の連結成分かつ弧状連結成分に一致する。

3 ⇒ 2:$x=z_0,\dots,z_k=y$ を柵とする。隣り合う $z_{i-1},z_i$ は比べられるので、lem-finite-space-path により(必要なら道を逆にたどって)$z_{i-1}$ から $z_i$ への道がある。これらを順につなげば $x$ から $y$ への道が得られる。
2 ⇒ 1:弧状連結空間は連結である(弧状連結空間 の命題「弧状連結ならば連結」)。
1 ⇒ 3 と後半:$x\in X$ を固定する。$c\in C(x)$ かつ $c\preceq d$ ならば、$x$ から $c$ への柵に $d$ を付け加えたものは $x$ から $d$ への柵なので $d\in C(x)$ である。同様に $d\preceq c$ でも $d\in C(x)$ である。よって $C(x)$ は上方集合かつ下方集合であり、prop-finite-space-order の 2 により開かつ閉である。$x\in C(x)$ なので、$X$ が連結ならば $C(x)=X$ であり、3 が成り立つ。
一般の $X$ では、$C(x)$ は柵で結べる関係の同値類なので、$X$ は互いに交わらない開集合 $C(x)$ たちに分かれる。部分空間 $C(x)$ の 2 点を結ぶ柵は $C(x)$ の中にとれる(柵の各点は $x$ と柵で結べる)ので、3 ⇒ 2 を部分空間 $C(x)$ に当てはめると $C(x)$ は弧状連結である。$C(x)$ を含む連結な部分集合 $D$ があれば、$D\cap C(x)$ と $D\setminus C(x)$ は $D$ の交わらない開集合で前者は空でないから、$D\subset C(x)$ である。よって $C(x)$ は連結成分であり、弧状連結成分 $\subset$ 連結成分 $=C(x)\subset$ 弧状連結成分 なので弧状連結成分にも一致する。$\square$

とくに有限空間の連結成分は開集合であり、各最小開近傍 $U_x=\uparrow x$ は弧状連結である($U_x$ の任意の点 $y$ は $x\preceq y$ を満たすので、柵 $x,y$ で $x$ と結べる)。ex-finite-space-pseudocircle の擬円周は柵 $a,c,b,d$ で全点が結ばれるので弧状連結である。

ホモトピー

lem-finite-space-path は、比べられる 2 点が道で結べることを示した。同じ考え方で、値が点ごとに比べられる 2 つの写像はホモトピーで結べる。

比べられる写像はホモトピック

$Z,X$ を位相空間、$f,g\colon Z\to X$ を連続写像とし、すべての $z\in Z$ で $f(z)\preceq g(z)$($f(z)\in\overline{\{g(z)\}}$)とする。このとき
$$ H(z,t)=\begin{cases} g(z) & (0\le t<1)\\ f(z) & (t=1)\end{cases} $$
で定まる $H\colon Z\times[0,1]\to X$ は連続であり、$g$ から $f$ へのホモトピーである。$H$ は $f(z)=g(z)$ となる点 $z$ の上では $t$ によらず一定である。

$V\subset X$ を開集合とする。$f(z)\in V$ ならば、$f(z)\in\overline{\{g(z)\}}$ より $g(z)\in V$ である。よって $f^{-1}(V)\subset g^{-1}(V)$ であり、
$$ H^{-1}(V)=\bigl(g^{-1}(V)\times[0,1)\bigr)\cup\bigl(f^{-1}(V)\times[0,1]\bigr) $$
が成り立つ。実際、右辺の第 2 項の点 $(z,t)$ は、$t=1$ なら $H(z,1)=f(z)\in V$、$t<1$ なら $H(z,t)=g(z)\in V$ を満たす。逆に $H(z,t)\in V$ ならば、$t<1$ のとき $(z,t)$ は第 1 項に、$t=1$ のとき第 2 項に属する。$f,g$ は連続なので右辺は $Z\times[0,1]$ の開集合の和であり、$H$ は連続である。$H(z,0)=g(z)$、$H(z,1)=f(z)$ であり、$f(z)=g(z)$ なら $H(z,t)$ は一定である。$\square$

この補題で $X$ は有限でなくてよい。有限空間に当てはめると、次の帰結が得られる。

最大元か最小元をもつ有限空間は可縮

有限空間 $X$ が、すべての $x$ について $x\preceq m$ となる点 $m$(最大元)か、すべての $x$ について $m\preceq x$ となる点 $m$(最小元)をもつならば、$X$ は可縮空間である。とくに、各点の最小開近傍 $U_x=\uparrow x$ と閉包 $\overline{\{x\}}=\downarrow x$ は可縮である。

最大元 $m$ があるとき、恒等写像 $\mathrm{id}_X$ と値 $m$ の定値写像 $c_m$ はすべての点で $\mathrm{id}_X(x)=x\preceq m=c_m(x)$ を満たすので、lem-finite-space-comparable-homotopic によりホモトピックである。最小元のときは不等号の向きを入れ替えて同じ補題を使う。$U_x$ は部分空間として最小元 $x$ を、$\overline{\{x\}}$ は最大元 $x$ をもつ(prop-finite-space-subspace-product の 1)。$\square$

有限空間 $X$ で、$x\preceq y$ かつ $y\preceq x$ となる点を同一視した商空間(位相) $X_0$ を考える。開集合は上方集合なので、同一視される 2 点の一方を含む開集合は他方も含む。

$T_0$ 化はホモトピー同値

有限空間 $X$ と上の商写像 $q\colon X\to X_0$ について、$X_0$ は $T_0$ であり、$q$ はホモトピー同値である。

要点:開集合は同値類の和なので $q$ は開集合を一対一に対応させ、代表元を選ぶ切断 $s$ は連続で $s\circ q\preceq\mathrm{id}$ を満たすから、lem-finite-space-comparable-homotopic により $s\circ q$ は恒等写像とホモトピックである。

詳しい証明を開く

同値類を $[x]$ と書く。$X$ の開集合 $U$ は同値類の和集合なので $q^{-1}(q(U))=U$ であり、商位相の定義により $q(U)$ は開集合である。逆に $X_0$ の開集合はある $X$ の開集合 $U$ により $q(U)$ と書ける($q^{-1}$ で引き戻して $q$ で写す)。よって $X_0$ の開集合は $X$ の開集合の像とちょうど対応し、$[x]\preceq[y]\iff x\preceq y$ である。$[x]\preceq[y]\preceq[x]$ なら $x\preceq y\preceq x$ なので $[x]=[y]$ となり、$X_0$ は $T_0$ である(prop-finite-space-order の 4)。

各同値類から代表元を 1 つずつ選んで写像 $s\colon X_0\to X$ を作る。$X$ の開集合 $U$ について $s^{-1}(U)=q(U)$ は開集合なので($s([x])\in U\iff x\in U$)、$s$ は連続である。$q\circ s=\mathrm{id}_{X_0}$ であり、各 $x$ について $s(q(x))$ は $x$ と同値なので $s(q(x))\preceq x$ である。lem-finite-space-comparable-homotopic により $s\circ q$ は $\mathrm{id}_X$ とホモトピックである。$\square$

したがって、有限空間のホモトピー論は $T_0$ な有限空間、つまり有限半順序集合に帰着する。次に、$T_0$ な有限空間からホモトピー型を変えずに点を取り除く操作を述べる。

ビートポイント

$X$ を $T_0$ な有限空間とする。点 $x\in X$ が 上のビートポイント であるとは、$\{y\mid x\prec y\}$ が空でなく最小元をもつことをいう。下のビートポイント であるとは、$\{y\mid y\prec x\}$ が空でなく最大元をもつことをいう。どちらかであるとき、$x$ を ビートポイント(beat point)という。

Hasse 図でいえば、上のビートポイントとは上に出る線がちょうど 1 本の点、下のビートポイントとは下に出る線がちょうど 1 本の点である。

ビートポイントの除去

$X$ を $T_0$ な有限空間、$x$ をビートポイントとする。このとき $X\setminus\{x\}$ は $X$ の強変形レトラクトである。すなわち、レトラクト $r\colon X\to X\setminus\{x\}$ と、$X\setminus\{x\}$ の各点を動かさずに $\mathrm{id}_X$ と $i\circ r$($i$ は包含写像)を結ぶホモトピーがある。とくに $i$ はホモトピー同値である。

$x$ が上のビートポイントの場合を示す。$\{z\mid x\prec z\}$ の最小元を $y$ とし、$r(x)=y$、$z\neq x$ なら $r(z)=z$ と定める。
$r$ が前順序を保つことを確かめる。$u\preceq v$ とする。$u,v$ がともに $x$ でなければ $r(u)=u\preceq v=r(v)$ である。$u=v=x$ なら明らかである。$u=x\neq v$ なら $x\prec v$ なので、最小元の定義より $y\preceq v$、すなわち $r(u)\preceq r(v)$ である。$u\neq x=v$ なら $u\preceq x\prec y$ なので $r(u)=u\preceq y=r(v)$ である。prop-finite-space-order の 3 により $r$ は連続であり、$r\circ i=\mathrm{id}$ である。
すべての $z$ で $z\preceq r(z)$ である($z=x$ では $x\prec y$)。lem-finite-space-comparable-homotopic を $f=\mathrm{id}_X$、$g=i\circ r$ に当てはめると、$i\circ r$ と $\mathrm{id}_X$ を結ぶホモトピーが得られ、それは $f(z)=g(z)$ となる点、すなわち $X\setminus\{x\}$ の点を動かさない。下のビートポイントの場合は、$\{z\mid z\prec x\}$ の最大元を $y$ として同じ $r$ を作り、すべての不等号を逆にすればよい。$\square$

鎖と擬円周

$n$ 点の鎖 $x_1\prec x_2\prec\dots\prec x_n$ では $x_1$ が上のビートポイントなので、thm-finite-space-beat-point を繰り返し使うと $1$ 点まで縮み、鎖は可縮である(cor-finite-space-contractible からも分かる)。一方、ex-finite-space-pseudocircle の擬円周 $S$ にはビートポイントがない。実際、$\{z\mid a\prec z\}=\{c,d\}$ は最小元をもたず($c,d$ は比べられない)、$a$ の下には点がない。$b$ も同様で、$c,d$ については上に点がなく、下の集合 $\{a,b\}$ が最大元をもたない。

ビートポイントをもたない $T_0$ な有限空間を コア(core)という。$T_0$ な有限空間からビートポイントを取り除き続けるとコアに行き着き($T_0$ でない有限空間は先に prop-finite-space-t0-quotient の $X_0$ に移す)、2 つの有限空間がホモトピー同値であるための必要十分条件は、それぞれから得たコアが同相であることである(Stong の定理、Sto66 Theorem 2・Theorem 4、pp. 329–330。この記事では証明しない)。とくに有限空間が可縮であることと、コアが $1$ 点であることは同値である(Sto66 Corollary 4、p. 331)。擬円周はそれ自身がコアで $4$ 点からなるので、可縮でない。

単体複体との関係

$T_0$ な有限空間 $X$ に対し、$X$ の空でない鎖(どの 2 点も比べられる部分集合)を単体とする単体複体 $\mathcal{K}(X)$ を、$X$ の 順序複体 という(単体複体 の例「半順序集合の順序複体」)。逆に有限単体複体 $K$ に対し、その単体全体に包含の順序を入れた半順序集合を $\mathcal{X}(K)$ と書く。

McCord の定理
  1. $T_0$ な有限空間 $X$ に対し、弱ホモトピー同値 $\lvert\mathcal{K}(X)\rvert\to X$ が存在する。
  2. 有限単体複体 $K$ に対し、$\mathcal{X}(K)$ に「面をとる操作で閉じた単体の集合」(包含の順序の下方集合)を開集合とする位相を入れると、弱ホモトピー同値 $\lvert K\rvert\to\mathcal{X}(K)$ が存在する。この位相の特殊化の前順序は包含の逆順序である。
    とくに、有限空間の特異ホモロジー群とホモトピー群として現れるものは、有限単体複体のそれとちょうど同じである。
定理の出典

この記事では thm-finite-space-mccord を証明しない。主張は McC66 Theorem 1(p. 465)にあり、1 は Theorem 2(p. 466)、2 は Theorem 3(p. 466。$\mathcal{X}(K)$ の位相は §6、p. 471)として、より詳しい形で述べられている。証明は、部分空間の被覆ごとに弱ホモトピー同値であれば全体も弱ホモトピー同値であるという判定法(同論文 Theorem 6、p. 467)による。McC66 は特殊化の前順序を rem-finite-space-convention の逆向きで書いている。

擬円周と球面の有限モデル

擬円周 $S$ の鎖は、$1$ 点集合 $4$ つと、$\{a,c\},\{a,d\},\{b,c\},\{b,d\}$ の $4$ つである($a,b$ と $c,d$ はそれぞれ比べられない)。よって $\mathcal{K}(S)$ は $4$ 頂点 $4$ 辺の閉路 $a-c-b-d-a$ であり、$\lvert\mathcal{K}(S)\rvert$ は円周 $S^1$ と同相である。thm-finite-space-mccord の 1 により、$S$ の基本群は $\mathbb{Z}$ であり、特異ホモロジーも円周と同じである。
より一般に、$2$ 点の離散空間に「互いに比べられない新しい 2 点を、既存のすべての点の下に付け加える」操作を $n$ 回繰り返すと、$2n+2$ 点の $T_0$ 空間が得られ、それは $n$ 次元球面 $S^n$ と弱ホモトピー同値である(McC66 §8、pp. 472–473)。$n=1$ のときがちょうど擬円周である。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
台集合の有限性(prop-finite-space-order の 2)通常の位相の $\mathbb{R}$(特殊化の前順序は等号だけ)位相が特殊化の前順序の上方集合全体に一致すること(上方集合は全部の部分集合だが、$\{0\}$ は開でない)
台集合の有限性(thm-finite-space-connected)位相幾何学者の正弦曲線 $\{(x,\sin(1/x))\mid 0< x\le1\}\cup(\{0\}\times[-1,1])$連結ならば弧状連結であること
値が点ごとに比べられること(lem-finite-space-comparable-homotopic)$2$ 点の離散空間 $\{0,1\}$ への 2 つの定値写像 $c_0,c_1\colon\{\ast\}\to\{0,1\}$2 つの写像がホモトピックであること($0,1$ は異なる弧状連結成分にある)
ビートポイントであること(thm-finite-space-beat-point)擬円周 $S$ から閉点 $a$ を除いた $\{b,c,d\}$$S\setminus\{a\}$ が $S$ とホモトピー同値であること($\{b,c,d\}$ は最小元 $b$ をもち可縮だが、$S$ は可縮でない)

最後の行の「$S$ は可縮でない」は、ex-finite-space-pseudocircle-mccord により $S$ の基本群が $\mathbb{Z}$ であることから従う。

補足

  • Alexandrov 空間:任意個の開集合の共通部分が開集合になる位相空間を Alexandrov 空間という。有限空間はその典型であり、prop-finite-space-order・thm-finite-space-connected・thm-finite-space-beat-point の証明で有限性を使ったのは、最小開近傍 $U_x$ が開集合になるところだけである。したがってこれらは Alexandrov 空間でもそのまま成り立ち、前順序集合と Alexandrov 空間の対応(Alexandrov位相)が得られる。この対応は P. Alexandroff の 1937 年の論文に始まる(McC66 §1、§4)。
  • 代数幾何学との関係:可換環の素スペクトルは一般に $T_0$ だが $T_1$ でない。離散付値環のスペクトルは 2 点の Sierpinski 空間であり(Sierpinski空間 の例「離散付値環のスペクトル」)、素イデアルが有限個しかない環のスペクトルは $T_0$ な有限空間である。特殊化の前順序の向きを rem-finite-space-convention のように選ぶと、閉点(極大イデアル)が極小元になる。
  • 圏論の反例:有限空間の範囲で、正則エピ射の引き戻しが正則エピ射でない例が作れ、位相空間の圏が正則圏でないことを示す(正則圏 の記事の反例)。
  • Stong の分類:Sto66 は有限空間の同相類を整数行列で記述し(Theorem 1、p. 326)、ホモトピー型をコアの同相類で分類した。

関連項目

参考文献

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