部分空間のなす角(主角)

同義語:主角部分空間のなす角principal angles between subspacesprincipal angle

概要

部分空間のなす角(主角)(principal angles between subspaces)とは、Euclid 空間の同じ次元 $n$ の 2 つの部分空間 $X,Y$ の位置関係を表す $n$ 個の角 $0\le\theta_1\le\dots\le\theta_n\le\pi/2$ で、$X,Y$ への直交射影 $P,Q$ について $PQ$ を $X$ に制限した写像の固有値が $\cos^2\theta_i$ である。主ベクトルをとると全体は共有する直線、角 $\theta_i$ の平面、残りの直交和に分かれ、最大の主角の正弦は射影の差の作用素ノルムに等しい。最大の主角は Grassmann 多様体の距離になり、2 つの部分空間を入れ替える直交な対合もある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 直交射影, 正射影と射影行列, 対称行列, 特異値分解, Grassmann多様体

平面の 2 本の直線は 1 つの角で比べられ、空間の 2 枚の平面は二面角で比べられる。一般に $\mathbb{R}^d$ の 2 つの $n$ 次元部分空間 $X,Y$ を比べるには、$n$ 個の角 $0\le\theta_1\le\dots\le\theta_n\le\pi/2$ が要る。これが主角(principal angles)である。$X$ と $Y$ の正規直交基底をうまく選ぶと、$\mathbb{R}^d$ は「$X$ と $Y$ が共有する直線」「$X$ の直線と $Y$ の直線が角 $\theta_i$ で交わる平面」「どちらとも直交する部分」の直交和に分かれ、主角はこの分解に現れる角である。
主角のうち最大のもの $\theta_n$ は、$X,Y$ への直交射影 $P,Q$ の差の作用素ノルムと $\sin\theta_n=\|P-Q\|$ で結びつき、$\theta_n$ は Grassmann 多様体の上の距離になる。また、どの 2 つの $n$ 次元部分空間も、$\mathbb{R}^d$ の直交変換で「入れ替える」ことができる。

問い答え($X,Y$ は $\mathbb{R}^d$ の $n$ 次元部分空間)
主角の計算正規直交基底を並べた行列 $U,V$ について、$V^{\mathsf T}U$ の特異値が $\cos\theta_i$(def-pa-main)
射影の差のノルム$\|P-Q\|=\sin\theta_n$(thm-pa-gap)
入れ替え$R^2=I$、$RX=Y$、$RY=X$ となる直交行列 $R$ がある(thm-pa-swap)
距離$\theta_n$ は $\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ の距離で、通常の位相を定める(thm-pa-metric)

設定と記号

$\mathbb{R}^d$ に標準内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ を入れ、$1\le n\le d$ とする。$\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ は $\mathbb{R}^d$ の $n$ 次元部分空間の全体で、Grassmann多様体 の記事の位相をもつ。$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ への直交射影を $P,Q$ と書き、標準基底について行列と同一視する($P^2=P=P^{\mathsf T}$。正射影と射影行列 の定理「射影行列は対称で冪等な行列」)。行列 $L$ の作用素ノルムを $\|L\|:=\max_{|v|=1}|Lv|$ と書く。単位ベクトル $x,y$ のなす角を $\angle(x,y):=\arccos\langle x,y\rangle\in[0,\pi]$ と書く。

ベクトルと部分空間のなす角

$x$ を単位ベクトル、$Y\ne0$ を部分空間、$Q$ をその直交射影とする。$Y$ の単位ベクトル $y$ についての $\langle x,y\rangle$ の最大値は $|Qx|$ である。したがって $x$ と $Y$ の単位ベクトルのなす角の最小値は
$$ \theta(x,Y):=\arccos|Qx|\in[0,\pi/2] $$
で、$Qx\ne0$ なら $y=Qx/|Qx|$ で達成される。$Qx=0$ なら $x$ は $Y$ のすべての単位ベクトルと直交する。

$y\in Y$ なら $\langle x,y\rangle=\langle x,Qy\rangle=\langle Qx,y\rangle\le|Qx|\,|y|$(Cauchy–Schwarzの不等式)で、$Qx\ne0$ のとき $y=Qx/|Qx|$ で等号が成り立つ。$Qx=0$ なら $\langle x,y\rangle=\langle Qx,y\rangle=0$ である。$\arccos$ は減少関数なので、角の最小値は $\arccos|Qx|$ である。$\square$

定義

$Q$ を $X$ に制限した写像 $T:=Q|_X\colon X\to Y$ を考える。$x\in X$、$y\in Y$ について $\langle Tx,y\rangle=\langle x,y\rangle=\langle x,Py\rangle$ なので、$T$ の随伴は $P|_Y$ であり、$T^*T=PQ|_X$ は $X$ の上の自己随伴な線形写像で、$\langle T^*Tx,x\rangle=|Qx|^2\in[0,|x|^2]$ を満たす。

主角

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ とする。$X$ の上の自己随伴な線形写像 $PQ|_X$ の固有値(重複を込めて $n$ 個、$[0,1]$ に入る)を $c_1^2\ge c_2^2\ge\dots\ge c_n^2$($c_i\ge0$)と書き、
$$ \theta_i=\theta_i(X,Y):=\arccos c_i\qquad(0\le\theta_1\le\dots\le\theta_n\le\pi/2) $$
を $X$ と $Y$ の主角という。$s_i:=\sin\theta_i=\sqrt{1-c_i^2}$ と書く。$\theta_n$ を最大の主角という。

$c_1,\dots,c_n$ は $T=Q|_X$ の特異値である。計算には次の形が便利である:$X,Y$ の正規直交基底を列に並べた $d\times n$ 行列を $U,V$ とすると、$Q=VV^{\mathsf T}$ なので $PQ|_X$ の基底 $U$ についての行列は $U^{\mathsf T}QU=(V^{\mathsf T}U)^{\mathsf T}(V^{\mathsf T}U)$ であり、$c_1,\dots,c_n$ は $n$ 次正方行列 $V^{\mathsf T}U$ の特異値(特異値分解 の定義「特異値と特異値分解」)である。$U,V$ を $UG,VH$($G,H$ は $n$ 次の直交行列)に替えても $H^{\mathsf T}V^{\mathsf T}UG$ の特異値は変わらないので、この計算は基底の選び方によらない。

主ベクトルと標準形

主ベクトルによる標準形

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ の主角を $\theta_i$、$c_i=\cos\theta_i$、$s_i=\sin\theta_i$ とする。

  1. $X$ の正規直交基底 $x_1,\dots,x_n$ と $Y$ の正規直交基底 $y_1,\dots,y_n$ で、$\langle x_i,y_j\rangle=c_i\delta_{ij}$ となるものがある。
  2. $c_i=1$ なら $x_i=y_i$ である。$c_i<1$ なら $z_i:=(y_i-c_ix_i)/s_i$ は $X$ と直交する単位ベクトルで、$y_i=c_ix_i+s_iz_i$ であり、$z_i$ たちは互いに直交する。
  3. $\mathbb{R}^d$ は、直線 $\mathbb{R}x_i$($c_i=1$)、平面 $\Pi_i:=\operatorname{span}(x_i,z_i)$($c_i<1$)、$(X+Y)^\perp$ の直交和である。$c_i<1$ となる $i$ の個数は $\min\{n,d-n\}$ 以下である。

1:$PQ|_X$ は自己随伴なので、$X$ の正規直交基底 $x_1,\dots,x_n$ で $PQx_i=c_i^2x_i$ となるものがある($X$ の正規直交基底で表した対称行列に 対称行列 の定理「直交対角化できる実行列」を使う)。$x_j\in X$ なので
$$ \langle Qx_i,Qx_j\rangle=\langle x_i,Qx_j\rangle=\langle Px_i,Qx_j\rangle=\langle x_i,PQx_j\rangle=c_j^2\delta_{ij} $$
である。$c_i>0$ の $i$ について $y_i:=Qx_i/c_i$ とおくと、これらは $Y$ の正規直交系で、$\langle x_i,y_j\rangle=\langle x_i,Qx_j\rangle/c_j=c_j\delta_{ij}$ である。$c_i=0$ なら $Qx_i=0$、つまり $x_i\perp Y$ である。$X$ の単位ベクトル $x=\sum_ia_ix_i$ について $|Qx|^2=\sum_ic_i^2a_i^2$ なので、$Q(X)$ の次元は $c_i>0$ の個数で、$y_i$($c_i>0$)はその基底である。$\dim Y=n$ なので、$Y$ の中のその直交補空間の正規直交基底を $c_j=0$ の $j$ に割り当てて $y_j$ とすれば、$y_1,\dots,y_n$ は $Y$ の正規直交基底になる。$c_j=0$、$c_i>0$ なら $\langle x_i,y_j\rangle=\langle Qx_i,y_j\rangle=c_i\langle y_i,y_j\rangle=0$、$c_i=0$ なら $x_i\perp Y$ なので、すべての $i,j$ で $\langle x_i,y_j\rangle=c_i\delta_{ij}$ である。
2:$c_i=1$ なら $|Qx_i|=|x_i|$ なので、Pythagoras の定理 $|x_i|^2=|Qx_i|^2+|x_i-Qx_i|^2$ から $x_i=Qx_i=y_i$ である。$c_i<1$ のとき、1 の内積を代入すると $\langle z_i,x_j\rangle=(c_i\delta_{ij}-c_i\delta_{ij})/s_i=0$ なので $z_i\perp X$ であり、
$$ \langle z_i,z_j\rangle=\frac{\delta_{ij}-c_ic_j\delta_{ij}-c_ic_j\delta_{ij}+c_ic_j\delta_{ij}}{s_is_j}=\frac{(1-c_i^2)\delta_{ij}}{s_is_j}=\delta_{ij} $$
である。
3:$x_1,\dots,x_n$ と $z_i$($c_i<1$)は正規直交系で($z_i\perp X$)、2 によりその張る空間は $X+Y$ である。よって主張の直和分解を得る。$z_i$ は $X^\perp$($d-n$ 次元)の正規直交系なので、個数は $d-n$ 以下で、$n$ 以下でもある。$\square$

$x_i,y_i$ を主ベクトルという。主ベクトルは一意ではない(たとえば $X=Y$ なら $X$ の任意の正規直交基底がとれる)。$\theta_i$ は、主ベクトルの組 $x_i,y_i$ のなす角である。

最小と最大の主角

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ について、lem-pa-vector の記号で次が成り立つ。

  1. $\theta_1=\min\{\angle(x,y)\mid x\in X,\ y\in Y,\ |x|=|y|=1\}$。
  2. $\theta_n=\max\{\theta(x,Y)\mid x\in X,\ |x|=1\}$。

thm-pa-canonical の基底で $x=\sum_ia_ix_i$($\sum a_i^2=1$)と書くと、$|Qx|^2=\sum_ic_i^2a_i^2$ である($c_i>0$ なら $Qx_i=c_iy_i$、$c_i=0$ なら $Qx_i=0$ で、$y_i$ は正規直交)。よって $|Qx|$ の最大値は $c_1$、最小値は $c_n$ である。$\arccos$ は減少関数なので、lem-pa-vector により 2 と、1 の「$\min_x\theta(x,Y)=\theta_1$」が従い、1 の最小値は $x_1,y_1$ で達成される。$\square$

最大の主角と射影の差

thm-pa-canonical の分解の各成分は $P$ でも $Q$ でも保たれる。$\mathbb{R}x_i$($c_i=1$)の上では $P=Q=\mathrm{id}$、$(X+Y)^\perp$ の上では $P=Q=0$ である。平面 $\Pi_i$ の上では $Px_i=x_i$、$Pz_i=0$、$Qx_i=c_iy_i$、$Qz_i=Q(y_i-c_ix_i)/s_i=s_iy_i$ なので、基底 $(x_i,z_i)$ について
$$ P=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix},\qquad Q=\begin{pmatrix}c_i^2&c_is_i\\c_is_i&s_i^2\end{pmatrix},\qquad P-Q=\begin{pmatrix}s_i^2&-c_is_i\\-c_is_i&-s_i^2\end{pmatrix} $$
であり、$(P-Q)^2=s_i^2I$ である。

最大の主角と射影の差

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ とし、$\theta_n=\theta_n(X,Y)$ をその最大の主角とする。

  1. $\|P-Q\|=\sin\theta_n$ である。
  2. $\theta_n(X,Y)=\theta_n(Y,X)$ である。$n< d$ なら、直交補空間 $Y^\perp,X^\perp\in\operatorname{Gr}(d-n,\mathbb{R}^d)$ の最大の主角について $\theta_{d-n}(Y^\perp,X^\perp)=\theta_n(X,Y)$ である。
  3. $\theta_n=0$ と $X=Y$ は同値である。$\theta_n<\pi/2$($\|P-Q\|<1$)と $X\cap Y^\perp=0$ は同値である。

1:直交和の各成分の上で $P-Q$ は対称で、$\mathbb{R}x_i$ と $(X+Y)^\perp$ の上では $0$、$\Pi_i$ の上では 2 乗が $s_i^2I$ なので、作用素ノルムは $s_i$ である。直交和の上の作用素ノルムは成分のノルムの最大値なので、$\|P-Q\|=\max_is_i=s_n=\sin\theta_n$ である($c_i<1$ となる $i$ がなければ $P=Q$、$\theta_n=0$)。
2:$\|P-Q\|$ は $X,Y$ について対称で、$\sin$ は $[0,\pi/2]$ の上で単射なので、1 から 1 つ目が従う。$Y^\perp,X^\perp$ への直交射影は $I-Q,I-P$ で、$\|(I-Q)-(I-P)\|=\|P-Q\|$ なので、1 を $Y^\perp,X^\perp$ に使えば 2 つ目が従う。
3:1 により $\theta_n=0$ は $P=Q$ と同値で、$X=\operatorname{Im}P$ なのでこれは $X=Y$ と同値である。prop-pa-extremal の証明により、$\theta_n=\pi/2$、つまり $c_n=0$ は、$Qx=0$ となる $X$ の単位ベクトル $x$ があること、つまり $X\cap Y^\perp\ne0$ と同値である。$\square$

prop-pa-extremal の 2 の最大値は、$X$ から見た「$Y$ から最も遠い方向」の角で、定義の上では $X$ と $Y$ について対称でない。1 により、この角は射影の差という対称な量で表され、対称性が従う。次元が違う部分空間では対称でない(ex-pa-counterexamples)。

射影の差の Frobenius ノルム

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ について
$$ \operatorname{tr}(PQ)=\sum_{i=1}^n\cos^2\theta_i,\qquad\|P-Q\|_F^2=\operatorname{tr}\bigl((P-Q)^2\bigr)=2\sum_{i=1}^n\sin^2\theta_i $$
である($\|\cdot\|_F$ は Frobenius ノルム)。

thm-pa-canonical の分解で跡を成分ごとに計算する。$PQ$ は $\mathbb{R}x_i$($c_i=1$)の上で恒等写像、$\Pi_i$ の上で行列 $\begin{pmatrix}c_i^2&c_is_i\\0&0\end{pmatrix}$、$(X+Y)^\perp$ の上で $0$ なので、$\operatorname{tr}(PQ)=\sum_ic_i^2$ である。$(P-Q)^2$ は $\Pi_i$ の上で $s_i^2I$(跡 $2s_i^2$)、ほかの成分の上で $0$ である。$\square$

2 つの部分空間を入れ替える直交変換

部分空間を入れ替える対合

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ について、直交行列 $R$ で
$$ R^2=I,\qquad R^{\mathsf T}=R,\qquad RX=Y,\qquad RY=X $$
となるものがある。$X=Y$ なら $R=I$ にとれる。

thm-pa-canonical の分解を使い、$R$ を $\mathbb{R}x_i$($c_i=1$)と $(X+Y)^\perp$ の上では恒等写像、平面 $\Pi_i$ の上では基底 $(x_i,z_i)$ について
$$ R_i=\begin{pmatrix}c_i&s_i\\s_i&-c_i\end{pmatrix} $$
で定める。$c_i^2+s_i^2=1$ から $R_i^{\mathsf T}=R_i$、$R_i^2=I$ で、$R_ix_i=c_ix_i+s_iz_i=y_i$、$R_iy_i=c_i(c_ix_i+s_iz_i)+s_i(s_ix_i-c_iz_i)=x_i$ である。直交和の上で並べた $R$ は対称な直交行列で $R^2=I$ を満たし、すべての $i$ で $Rx_i=y_i$、$Ry_i=x_i$ なので $RX=Y$、$RY=X$ である。$X=Y$ なら $c_i=1$ がすべての $i$ で成り立つので $R=I$ である。$\square$

$R_i$ は平面 $\Pi_i$ の中で、$x_i$ と $y_i$ の角の二等分線についての鏡映である。$R$ は主ベクトルの選び方に依存し、ここでは $(X,Y)$ について連続に選べるかどうかは問わない。$R$ の行列式は $(-1)^{m}$($m$ は $c_i<1$ の個数)で、一般には $1$ にとれない(ex-pa-counterexamples)。$R$ は $X$ と $Y$ を入れ替えるので、$(X,Y)$ の主角と $(Y,X)$ の主角は一致する。

Grassmann 多様体の距離

最大の主角による距離

$X,Y\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ について $\alpha(X,Y):=\theta_n(X,Y)$ とおく。$\alpha$ は $\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ の上の距離であり、$\alpha$ の定める位相は Grassmann多様体 の記事の位相と一致する。$\|P-Q\|=\sin\alpha(X,Y)$ も同じ位相を定める距離である。

$\alpha\ge0$、「$\alpha=0\iff X=Y$」と対称性は thm-pa-gap の 3 と 2 による。
三角不等式:$X,Y,Z\in\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ とし、$a:=\alpha(X,Y)$、$b:=\alpha(Y,Z)$ とおく。$\alpha\le\pi/2$ なので $a+b\ge\pi/2$ なら明らかである。$a+b<\pi/2$ とし、$X$ の単位ベクトル $x$ をとる。prop-pa-extremal の 2 により $\theta(x,Y)\le a<\pi/2$ なので、lem-pa-vector により $Y$ の単位ベクトル $y$ で $\theta:=\angle(x,y)\le a$ となるものがあり、同様に $Z$ の単位ベクトル $z$ で $\varphi:=\angle(y,z)\le b$ となるものがある。$\angle(x,z)\le\theta+\varphi$ を示す。$\theta=0$ なら $x=y$、$\varphi=0$ なら $z=y$ で明らかなので、$\theta,\varphi>0$ とする。$y$ と直交する単位ベクトル $u,w$ で $x=\cos\theta\,y+\sin\theta\,u$、$z=\cos\varphi\,y+\sin\varphi\,w$ となるものがあり、$\langle u,w\rangle\ge-1$、$\sin\theta,\sin\varphi\ge0$ から
$$ \langle x,z\rangle=\cos\theta\cos\varphi+\sin\theta\sin\varphi\langle u,w\rangle\ge\cos(\theta+\varphi) $$
である。$\theta+\varphi<\pi/2$ で $\arccos$ は減少関数なので $\angle(x,z)\le\theta+\varphi\le a+b$ であり、lem-pa-vector により $\theta(x,Z)\le\angle(x,z)\le a+b$ である。$x$ について最大をとれば、prop-pa-extremal の 2 により $\alpha(X,Z)\le a+b$ である。
位相:$W\mapsto(W$ への直交射影の行列$)$ は $\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ から行列の空間への連続な単射である(Grassmann多様体 の定理「多様体の構造」の証明の 2)。$\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ はコンパクト、行列の空間は Hausdorff なので、この写像は像への同相写像である。行列の空間の位相は作用素ノルムの距離で定まるので、$\operatorname{Gr}(n,\mathbb{R}^d)$ の位相は距離 $\|P-Q\|$ で定まる。$\arcsin\colon[0,1]\to[0,\pi/2]$ は単調増加な同相写像なので、$0<\rho\le\pi/2$ について $\alpha$ の半径 $\rho$ の開球は $\|P-Q\|$ の半径 $\sin\rho$ の開球に等しく、2 つの距離は同じ位相を定める。$\square$

prop-pa-frobenius の $\|P-Q\|_F$ も、ノルムから定まる距離として同じ位相を定める(有限次元の行列の空間のノルムはすべて同値である)。

例

平面の 2 直線

$d=2$、$n=1$ で、$X,Y$ を角 $\varphi\in[0,\pi/2]$ で交わる 2 直線とする。主角は $\theta_1=\varphi$ ただ 1 つで、$\|P-Q\|=\sin\varphi$ である。thm-pa-swap の $R$ は、$\varphi>0$ なら 2 直線の角の二等分線についての鏡映であり、$\varphi=0$ なら $I$ である。$\varphi=\pi/2$ では $\|P-Q\|=1$ で、$X\cap Y^\perp=X\ne0$ である。

空間の 2 平面

$d=3$、$n=2$ とし、$0<\varphi\le\pi/2$ について $X:=\operatorname{span}(e_1,e_2)$、$Y:=\operatorname{span}(e_1,\cos\varphi\,e_2+\sin\varphi\,e_3)$ とする。主ベクトルは $x_1=y_1=e_1$、$x_2=e_2$、$y_2=\cos\varphi\,e_2+\sin\varphi\,e_3$ で、主角は $\theta_1=0$、$\theta_2=\varphi$(二面角)である。相異なる 2 平面は $\dim(X\cap Y)\ge2+2-3=1$ より必ず直線を共有するので、$\mathbb{R}^3$ の 2 平面の $\theta_1$ はいつも $0$ である。thm-pa-gap の 2 により、$\theta_2$ は法線 $X^\perp$、$Y^\perp$ のなす角に等しい。

4 次元空間の 2 平面

$d=4$、$n=2$、$0\le a\le b\le\pi/2$ とし、$X:=\operatorname{span}(e_1,e_2)$、$Y:=\operatorname{span}(\cos a\,e_1+\sin a\,e_3,\ \cos b\,e_2+\sin b\,e_4)$ とする。$U=(e_1\ e_2)$、$V$ を $Y$ の 2 つの基底ベクトルを並べた行列とすると $V^{\mathsf T}U=\operatorname{diag}(\cos a,\cos b)$ なので、主角は $a,b$ である。$0< a$ なら $X\cap Y=0$ で、$\mathbb{R}^3$ と違い、共有する直線はない。$\|P-Q\|=\sin b$、$\|P-Q\|_F^2=2(\sin^2a+\sin^2b)$ である。$a< b$ のとき、$X$ の単位ベクトルと $Y$ のなす角 $\theta(x,Y)$ は $x$ によって $a$ から $b$ まで変わる。

反例:条件を外すと崩れる例

外す条件反例成り立たなくなること
$\dim X=\dim Y$$\mathbb{R}^3$ で $X=\mathbb{R}e_1\subset Y=\operatorname{span}(e_1,e_2)$$\sin\bigl(\max_x\theta(x,Y)\bigr)=\|P-Q\|$、$X$ と $Y$ についての対称性
最大の主角を使う$\mathbb{R}^3$ の相異なる 2 平面と最小の主角 $\theta_1$$\theta_1(X,Y)=0$ なら $X=Y$(距離であること)
$R$ の行列式を指定しない$\mathbb{R}^2$ の相異なる 2 直線$\det R=1$、$R^2=I$、$RX=Y$ を満たす $R$ がある
表の反例の確かめ

1 行目:$P=\operatorname{diag}(1,0,0)$、$Q=\operatorname{diag}(1,1,0)$ で $\|P-Q\|=1$ だが、$X$ の単位ベクトル $\pm e_1$ は $Y$ に入るので $\max_x\theta(x,Y)=0$ である。逆に $Y$ の単位ベクトル $e_2$ は $X$ と直交するので $\max_y\theta(y,X)=\pi/2$ で、2 つの向きの最大の角は一致しない。2 行目:ex-pa-planes のとおり、相異なる 2 平面でも $\theta_1=0$ である。3 行目:$\mathbb{R}^2$ の直交行列で行列式 $1$ のものは回転で、$R^2=I$ なら回転角は $0$ か $\pi$、つまり $R=\pm I$ である。$\pm I$ はどの直線も自分自身に写すので、$X\ne Y$ なら $RX=Y$ とならない。

補足

  • 次元が違う場合:$\dim X=p\le\dim Y=q$ のときも、$Q|_X$ の特異値 $c_1\ge\dots\ge c_p$ によって $p$ 個の主角 $\arccos c_i$ を定める流儀がある。この場合は表の 1 行目のように、射影の差のノルムは主角を表さない。
  • 複素の場合:$\mathbb{C}^d$ と Hermite 内積でも、$PQ|_X$ は自己随伴で固有値は $[0,1]$ に入り、同じ定義と同じ証明が通る($R$ はユニタリ行列になる)。
  • 滑らかな構造との関係:thm-pa-gap の 3 の「$\|P-Q\|<1$ なら $X\cap Y^\perp=0$」により、$Q$ は $X$ から $Y$ への同型を与える。これは ベクトル束の滑らかな構造の一意性 で、近い射影の像の束を同型で結ぶのに使われる。
  • 文献:入れ替える直交変換の存在、最大の角が距離であること、$\alpha(X,Y)=\alpha(Y^\perp,X^\perp)$ は MS74 §5 の Problem 5-D(p. 71)で問題として述べられている(そこでは最大の角は $X$ の単位ベクトルと $Y$ のなす角の最大値として定義される)。この記事の証明は thm-pa-canonical の分解による。

関連項目

参考文献

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