矩形波・のこぎり波のFourier級数(Fourier series of square and sawtooth waves)とは、周期 $2\pi$ の矩形波($0\le x<\pi$ で $1$、$-\pi\le x<0$ で $-1$)とのこぎり波($-\pi\le x<\pi$ で $x$)を表す正弦波の級数である。係数は矩形波が $n$ 奇数で $b_n=\frac4{\pi n}$、偶数で $0$、のこぎり波が $b_n=\frac{2(-1)^{n+1}}n$ である。部分和は跳びのない点で元の関数に近づき、跳びの点では $0$(左右の平均)をとる。矩形波の部分和の $0<x<\pi$ での最大値は、項を増やすと $\frac2\pi\int_0^\pi\frac{\sin t}t\,dt=1.1789\ldots$ に近づき、$1$ に近づかない。
前提知識: Fourier係数と最良近似, 部分積分の使い方, 区分求積と積分の定義
$\sin x$ に、周期も高さも $\sin x$ の $\dfrac13$ である $\dfrac{\sin3x}3$ を足し、さらに $\dfrac{\sin5x}5$ を足していく。なめらかな正弦波ばかりを足しているのに、グラフはだんだん角ばった形に近づいていく。
$N$ を正の奇数として
$$
S_N(x)=\frac4\pi\left(\sin x+\frac{\sin3x}3+\frac{\sin5x}5+\cdots+\frac{\sin Nx}N\right)
$$
とおく(最初の $\dfrac4\pi$ は、後で高さを $1$ にそろえるための係数である)。
(1) $x=\dfrac\pi2$ での値。$\sin\dfrac\pi2=1$、$\sin\dfrac{3\pi}2=-1$、$\sin\dfrac{5\pi}2=1$ なので
$$
S_1\left(\frac\pi2\right)=\frac4\pi=1.273\ldots,\qquad S_3\left(\frac\pi2\right)=\frac4\pi\left(1-\frac13\right)=0.848\ldots,\qquad S_5\left(\frac\pi2\right)=\frac4\pi\left(1-\frac13+\frac15\right)=\frac4\pi\cdot\frac{13}{15}=1.103\ldots
$$
である。$1$ の上と下を行き来しながら、$1$ に近づいていくように見える($S_{15}\left(\dfrac\pi2\right)=0.960\ldots$)。
(2) $x=0$ と $x=\pi$ での値。$\sin0=\sin k\pi=0$ なので、どの $N$ でも $S_N(0)=S_N(\pi)=0$ である。
(3) 対称性。$\sin(-kx)=-\sin kx$ から $S_N(-x)=-S_N(x)$ である。$k$ が奇数なら $\sin k(\pi-x)=\sin kx$ なので、$S_N(\pi-x)=S_N(x)$ である。
図 1 のように、$N$ を大きくすると $S_N$ は、$0< x<\pi$ で $1$、$-\pi< x<0$ で $-1$ をとる角ばった関数に近づいていく。ただし、跳びのある $x=0$ の近くでは、どの $N$ でも $1$ を少し超える山ができる。
矩形波(黒)と、部分和 S₁、S₃、S₅、S₁₅。項を増やすと矩形波に近づくが、跳びの近くに山が残る
x=0 の近くを拡大した図。S₁₅、S₅₁、S₂₀₁ の最初の山は幅が狭くなるが、高さは破線の 1.17898 に近いまま下がらない
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 正弦波を足したグラフ | 部分和 $S_N$ | Fourier 級数の部分和 |
| $\displaystyle\int_0^\pi\sin nx\,dx$、部分積分 | Fourier 係数 | 正規直交系への射影の成分 |
| 区分求積法 | 跳びの近くの山の高さの極限 | Gibbs の現象 |
| $1-\dfrac13+\dfrac15-\cdots$ | 部分和の $x=\dfrac\pi2$ での値 | 各点収束 |
矩形波 $f$ と のこぎり波 $g$ を、$-\pi\le x<\pi$ で
$$
f(x)=\begin{cases}1&(0\le x<\pi)\\-1&(-\pi\le x<0)\end{cases},\qquad g(x)=x
$$
と定め、すべての実数 $x$ で $f(x+2\pi)=f(x)$、$g(x+2\pi)=g(x)$ となるように、実数全体に広げた関数とする(周期 $2\pi$ の関数)。
$f$ は $x=k\pi$($k$ は整数)で $-1$ と $1$ の間を跳び、$g$ は $x=(2k+1)\pi$ で $\pi$ から $-\pi$ へ跳ぶ(図 1、図 3)。跳びの点での値は、上の式で決めた値($f(0)=1$、$g(\pi)=g(-\pi)=-\pi$)である。
Fourier係数と最良近似 では連続関数の Fourier 係数を定めた。$f$ や $g$ は跳びがあって連続でないが、$[-\pi,\pi]$ を有限個の区間に分けると各区間では連続で、区間の端で左右の極限をもつ(区分的に連続 という)。そのような関数の積分は、区間ごとの積分の和とする(有限個の点での値を変えても積分は変わらない)。そのうえで、同じ式で係数を定める。
周期 $2\pi$ の区分的に連続な関数 $h$ に対し
$$
a_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}h(x)\cos nx\,dx\quad(n\ge0),\qquad b_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}h(x)\sin nx\,dx\quad(n\ge1)
$$
を $h$ の Fourier 係数 といい、正の整数 $N$ について
$$
S_N(x)=\frac{a_0}2+\sum_{n=1}^N\bigl(a_n\cos nx+b_n\sin nx\bigr)
$$
を第 $N$ 部分和 という。
$f$ は $(-\pi,0)$ で $-1$、$(0,\pi)$ で $1$ なので、区間に分けて
$$
b_1=\frac1\pi\left(\int_{-\pi}^0(-\sin x)\,dx+\int_0^\pi\sin x\,dx\right)=\frac1\pi\Bigl(\bigl[\cos x\bigr]_{-\pi}^0+\bigl[-\cos x\bigr]_0^\pi\Bigr)=\frac1\pi\bigl((1-(-1))+(1-(-1))\bigr)=\frac4\pi
$$
である。$b_2$ では $\displaystyle\int_0^\pi\sin2x\,dx=\left[-\frac{\cos2x}2\right]_0^\pi=-\frac12+\frac12=0$ で、$\displaystyle\int_{-\pi}^0\sin2x\,dx=0$ も同じなので、$b_2=0$ である。ex-fsq-start の $S_N$ の最初の係数 $\dfrac4\pi$ は、この $b_1$ である。
段 1($a_n=0$)。$(-\pi,\pi)$ の $0$ 以外の点で $f(-x)=-f(x)$、$g(-x)=-g(x)$ であり、$\cos nx$ は $\cos n(-x)=\cos nx$ を満たす。よって $f(x)\cos nx$ と $g(x)\cos nx$ は、$x$ と $-x$ で値の符号が逆になる。$x=-y$ と置き換えると $\displaystyle\int_{-\pi}^0f(x)\cos nx\,dx=\int_0^\pi f(-y)\cos ny\,dy=-\int_0^\pi f(y)\cos ny\,dy$ なので、$[-\pi,0]$ と $[0,\pi]$ の積分が打ち消し合って $a_n=0$ である($n=0$ も含む)。$g$ も同じである。
段 2(矩形波の $b_n$)。同じ置き換えで、今度は $f(x)\sin nx$ が $x$ と $-x$ で同じ値になるので、$\displaystyle\int_{-\pi}^0f(x)\sin nx\,dx=\int_0^\pi f(y)\sin ny\,dy$ である。よって
$$
b_n=\frac2\pi\int_0^\pi\sin nx\,dx=\frac2\pi\left[-\frac{\cos nx}n\right]_0^\pi=\frac2\pi\cdot\frac{1-\cos n\pi}n=\frac{2\bigl(1-(-1)^n\bigr)}{\pi n}
$$
である。$n$ が奇数なら $1-(-1)^n=2$ で $b_n=\dfrac4{\pi n}$、偶数なら $0$ である。
段 3(のこぎり波の $b_n$)。段 2 と同じく $b_n=\dfrac2\pi\displaystyle\int_0^\pi x\sin nx\,dx$ で、部分積分により
$$
\int_0^\pi x\sin nx\,dx=\left[-\frac{x\cos nx}n\right]_0^\pi+\frac1n\int_0^\pi\cos nx\,dx=-\frac{\pi\cos n\pi}n+\frac1n\left[\frac{\sin nx}n\right]_0^\pi=\frac{(-1)^{n+1}\pi}n
$$
である。よって $b_n=\dfrac2\pi\cdot\dfrac{(-1)^{n+1}\pi}n=\dfrac{2(-1)^{n+1}}n$ である。$\square$
のこぎり波の係数は、Fourier係数と最良近似 の例「$f(x)=x$ の Fourier 係数」と同じ計算である($[-\pi,\pi]$ の外での値を変えても、$[-\pi,\pi]$ での積分は変わらない)。部分積分の手順は 部分積分の使い方 で扱った。
thm-fsq-coeff の (2) から
$$
S_1(x)=2\sin x,\qquad S_2(x)=2\sin x-\sin2x,\qquad S_3(x)=2\sin x-\sin2x+\frac23\sin3x
$$
である。$x=\dfrac\pi2$ では $S_1=2$、$S_2=2$、$S_3=2-\dfrac23=\dfrac43$ で、$g\left(\dfrac\pi2\right)=\dfrac\pi2=1.570\ldots$ の上下を行き来する。$x=\pi$ では $\sin n\pi=0$ から $S_N(\pi)=0$ で、跳びの左右の値 $\pi$ と $-\pi$ のちょうど平均である(図 3)。
のこぎり波 g(x)=x(黒)と部分和 S₁、S₃、S₅、S₁₅。跳びのある x=±π の近くに山が残る
跳びの点では、部分和の値を直接求められる。跳びのない点で部分和が元の関数に近づくことは、大学の解析学の定理を引用する。
跳びの点:$x=k\pi$($k$ は整数)なら $\sin nx=\sin nk\pi=0$ なので、thm-fsq-coeff の部分和はどれも $0$ である。
跳びのない点:この部分は、この記事では証明せず、次の定理を引用する(Leb26b の Theorem 11.8.10)。
周期 $2\pi$ の関数 $h$ が $[-\pi,\pi]$ で積分可能で、ある点 $x$ について、正の数 $\delta$ と $M$ があって $\lvert t\rvert<\delta$ のすべての $t$ で $\lvert h(x+t)-h(x)\rvert\le M\lvert t\rvert$ が成り立つならば、$\displaystyle\lim_{N\to\infty}S_N(x)=h(x)$ である。
$x$ が $\pi$ の整数倍でないとき、$\delta$ を $x$ から最も近い $\pi$ の整数倍までの距離とすると、$\lvert t\rvert<\delta$ で $f(x+t)=f(x)$ なので、$M=0$ で条件が成り立つ。$-\pi< x<\pi$ のときは、$\delta=\pi-\lvert x\rvert$ とすると、$\lvert t\rvert<\delta$ で $g(x+t)-g(x)=t$ なので、$M=1$ で条件が成り立つ。$\square$
Leb26b の部分和は $e^{inx}$($-N\le n\le N$)の和で書かれているが、$e^{inx}=\cos nx+i\sin nx$ で書き直すとこの記事の $S_N$ と同じものである。跳びの点での極限 $0$ は、どちらの関数でも跳びの左右の値($-1$ と $1$、$\pi$ と $-\pi$)の平均になっている。
$$
\lim_{m\to\infty}\left(1-\frac13+\frac15-\cdots+\frac{(-1)^{m-1}}{2m-1}\right)=\frac\pi4
$$
である。
prop-fsq-converge の (1) で $x=\dfrac\pi2$ とする。奇数 $n=2j-1$ について $\sin\dfrac{(2j-1)\pi}2=(-1)^{j-1}$ なので、$N=2m-1$ のとき
$$
S_N\left(\frac\pi2\right)=\frac4\pi\left(1-\frac13+\frac15-\cdots+\frac{(-1)^{m-1}}{2m-1}\right)
$$
である。$f\left(\dfrac\pi2\right)=1$ なので、$m\to\infty$ で右辺のかっこの中は $\dfrac\pi4$ に近づく。$\square$
かっこの中の和は $m=1,2,3$ で $1$、$0.666\ldots$、$0.866\ldots$ で、ex-fsq-start の (1) の値を $\dfrac\pi4$ 倍したものである。$\dfrac\pi4=0.785\ldots$ に近づくが、近づき方は遅い。のこぎり波の (2) で $x=\dfrac\pi2$ としても、$\sin\dfrac{n\pi}2$ は $n$ が偶数なら $0$ なので、$2\left(1-\dfrac13+\dfrac15-\cdots\right)\to\dfrac\pi2$ と同じ級数が出る。
prop-fsq-converge により、$0< x<\pi$ の各点で $S_N(x)\to1$ である。それでも図 2 では、$x=0$ のすぐ右の最初の山の高さは、$N$ を大きくしても $1.18$ ほどのまま下がらない。山の位置が $0$ に近づくので、決まった点で見れば値は $1$ に近づくが、山そのものは消えない。これを式で確かめる。以下、矩形波の部分和を $N=2m-1$($m$ は正の整数)として考える。
$0< x<\pi$ で
$$
S_{2m-1}'(x)=\frac4\pi\sum_{k=1}^m\cos(2k-1)x=\frac2\pi\cdot\frac{\sin2mx}{\sin x}
$$
である。
1 つ目の等号は、$\left(\dfrac{\sin(2k-1)x}{2k-1}\right)'=\cos(2k-1)x$ による。2 つ目は、積和の公式 $2\sin\alpha\cos\beta=\sin(\alpha+\beta)-\sin(\beta-\alpha)$(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く の命題「積和の公式」)で $\alpha=x$、$\beta=(2k-1)x$ とすると
$$
2\sin x\cos(2k-1)x=\sin2kx-\sin(2k-2)x
$$
となることから出る。$k=1$ から $m$ まで足すと、右辺は隣どうしが打ち消し合って $\sin2mx-\sin0=\sin2mx$ が残る。$0< x<\pi$ で $\sin x>0$ なので、両辺を $2\sin x$ で割ってよい。$\square$
lem-fsq-derivative から、$S_{2m-1}'(x)$ の符号は $\sin2mx$ の符号と同じである。$0< x<\dfrac\pi{2m}$ では $0<2mx<\pi$ なので $S_{2m-1}$ は増加し、$x=\dfrac\pi{2m}$ で最初の山になる。
$0< x<\pi$ での $S_{2m-1}(x)$ の最大値は、$x=\dfrac\pi{2m}$ でとる値 $S_{2m-1}\left(\dfrac\pi{2m}\right)$ である。
要点:ex-fsq-start の (3) により $S_{2m-1}(\pi-x)=S_{2m-1}(x)$ なので、$0< x\le\dfrac\pi2$ で考えればよい。$\dfrac\pi{2m}$ ずつの区間で $S_{2m-1}$ は増加と減少を繰り返し、各区間での増減の量は、$\dfrac1{\sin x}$ が $0< x\le\dfrac\pi2$ で減少することから、右の区間ほど小さい。したがって、山の高さは右へ行くほど低くなる。
$h=\dfrac\pi{2m}$、$\psi(t)=\dfrac2\pi\cdot\dfrac{\sin2mt}{\sin t}$ とし、$j=1,2,\ldots,m$ について $I_j=\displaystyle\int_{(j-1)h}^{jh}\psi(t)\,dt$ とおく($S_{2m-1}(0)=0$ なので、$S_{2m-1}(jh)=I_1+\cdots+I_j$ である。$\psi$ は $t\to0$ で $\dfrac{4m}\pi$ に近づくので、$t=0$ での値をそう定めれば $[0,\pi]$ で連続である)。区間 $((j-1)h,jh)$ では $\sin2mt$ の符号は $(-1)^{j-1}$ なので、$I_j$ の符号も $(-1)^{j-1}$ である。
段 1($\lvert I_j\rvert$ は減少)。$j\le m-1$ とする。$t=s+h$ と置き換えると $\sin2mt=\sin(2ms+\pi)=-\sin2ms$ なので $\lvert I_{j+1}\rvert=\dfrac2\pi\displaystyle\int_{(j-1)h}^{jh}\frac{\lvert\sin2ms\rvert}{\sin(s+h)}\,ds$ である。$0< s< s+h\le\dfrac\pi2$ で $\sin$ は増加するので $\sin(s+h)>\sin s$ で、$\lvert I_{j+1}\rvert<\lvert I_j\rvert$ である。
段 2(山の高さの比較)。$0< x\le\dfrac\pi2$ で $S_{2m-1}$ の増減が変わる点は $jh$ で、山(増加から減少に変わる点)は $j$ が奇数の点である。$j$ が奇数で $j+2\le m$ なら、$S_{2m-1}((j+2)h)-S_{2m-1}(jh)=I_{j+1}+I_{j+2}$ で、$I_{j+1}<0< I_{j+2}$、$\lvert I_{j+2}\rvert<\lvert I_{j+1}\rvert$ なので、この差は負である。よって山の高さは $j=1$ のときが最大である。$x=\dfrac\pi2=mh$ は、$m$ が奇数なら山の 1 つで、$m$ が偶数なら谷なので、どちらの場合も $S_{2m-1}\left(\dfrac\pi2\right)\le S_{2m-1}(h)$ である。
段 3(まとめ)。$[0,\dfrac\pi2]$ での最大値は、端の点 $0$(値 $0$)、$\dfrac\pi2$、山のどれかでとるので、$x=h$ でとる。$\left[\dfrac\pi2,\pi\right)$ の値は $S_{2m-1}(\pi-x)=S_{2m-1}(x)$ により $\left(0,\dfrac\pi2\right]$ の値のくり返しである。$\square$
$0< x<\pi$ での $S_{2m-1}(x)$ の最大値を $M_m$ とすると
$$
\lim_{m\to\infty}M_m=\frac2\pi\int_0^\pi\frac{\sin t}t\,dt
$$
である(被積分関数は $t=0$ で $1$ と定める)。右辺の値は $1.17897\ldots$ で、$1$ より大きい。したがって、項を増やしても部分和の最大値は $1$ に近づかず、$m$ が大きいとき、部分和は跳びの近くで矩形波の値 $1$ をおよそ $0.179$ 行き過ぎる。
方針:lem-fsq-peak により $M_m=S_{2m-1}\left(\dfrac\pi{2m}\right)$ である。この値を区分求積の和の形に書きかえる。
段 1(区分求積の和に書く)。$h=\dfrac\pi m$、$t_k=\left(k-\dfrac12\right)h=\dfrac{(2k-1)\pi}{2m}$ とおくと、$\dfrac1{2k-1}=\dfrac\pi{2mt_k}=\dfrac h{2t_k}$ なので
$$
M_m=\frac4\pi\sum_{k=1}^m\frac{\sin\frac{(2k-1)\pi}{2m}}{2k-1}=\frac4\pi\sum_{k=1}^m\frac h2\cdot\frac{\sin t_k}{t_k}=\frac2\pi\cdot h\sum_{k=1}^m\varphi(t_k),\qquad\varphi(t)=\frac{\sin t}t
$$
である。$t_k$ は、$[0,\pi]$ を $m$ 等分した $k$ 番目の小区間 $[(k-1)h,kh]$ の中点である。
段 2($\varphi$ は連続で減少)。$\varphi(0)=1$ と定めると、$\displaystyle\lim_{t\to0}\frac{\sin t}t=1$(sin x/xの極限)により $\varphi$ は $[0,\pi]$ で連続である。$0< t\le\pi$ で $\varphi'(t)=\dfrac{t\cos t-\sin t}{t^2}$ で、分子 $u(t)=t\cos t-\sin t$ は $u(0)=0$、$u'(t)=\cos t-t\sin t-\cos t=-t\sin t<0$($0< t<\pi$)なので $u(t)<0$ である。よって $\varphi$ は $[0,\pi]$ で減少する。
段 3(極限)。区分求積と積分の定義 の系「区分求積の公式」により、連続関数 $\varphi$ について、各小区間から選んだ点での値の和は、$m\to\infty$ で積分に近づく。中点 $t_k$ を選ぶと
$$
\lim_{m\to\infty}h\sum_{k=1}^m\varphi(t_k)=\int_0^\pi\varphi(t)\,dt
$$
である($\varphi$ が減少するので、中点の和は右端の和 $h\sum\varphi(kh)$ と左端の和 $h\sum\varphi((k-1)h)$ の間にあり、この 2 つが積分に近づくことからも分かる)。段 1 とあわせて主張の極限を得る。
段 4(値)。$\displaystyle\int_0^\pi\frac{\sin t}t\,dt$ は初等関数で書けない。数値計算(中点の和や Taylor 展開による)で $1.85193\ldots$ で、$\dfrac2\pi$ 倍すると $1.17897\ldots$ である。これは Wei26 に載っている値 $1.851937052\ldots$、$1.178979744\ldots$ と一致する。$\square$
thm-fsq-gibbs の $M_m$ を計算すると次のとおりである($N=2m-1$)。
| $N$ | $1$ | $3$ | $5$ | $11$ | $15$ | $51$ | $201$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 山の位置 $\dfrac\pi{2m}$ | $1.5707\ldots$ | $0.7853\ldots$ | $0.5235\ldots$ | $0.2617\ldots$ | $0.1963\ldots$ | $0.0604\ldots$ | $0.0155\ldots$ |
| 高さ $M_m$ | $1.2732\ldots$ | $1.2004\ldots$ | $1.1883\ldots$ | $1.1813\ldots$ | $1.1802\ldots$ | $1.1791\ldots$ | $1.17898\ldots$ |
$N=1$ では $M_1=S_1\left(\dfrac\pi2\right)=\dfrac4\pi$ である。$N=3$ では $M_2=\dfrac4\pi\left(\sin\dfrac\pi4+\dfrac13\sin\dfrac{3\pi}4\right)=\dfrac4\pi\cdot\dfrac{\sqrt2}2\cdot\dfrac43=\dfrac{8\sqrt2}{3\pi}=1.2004\ldots$ である。山の位置は $0$ に近づくが、高さは $1.17897\ldots$ に近づいて、$1$ には近づかない。行き過ぎの量 $0.17897\ldots$ は、跳びの大きさ $2$($-1$ から $1$)のおよそ $9\%$ である。
Fourier係数と最良近似 の例「$f(x)=\lvert x\rvert$ の Fourier 係数」で求めた三角波 $\lvert x\rvert$($-\pi\le x\le\pi$ の値を周期 $2\pi$ で広げたもの)は、跳びのない連続な関数で、係数は $a_0=\pi$、$n$ が奇数なら $a_n=-\dfrac4{\pi n^2}$、偶数なら $a_n=0$、$b_n=0$ である。3 つの波をくらべる。
| 矩形波 $f$ | のこぎり波 $g$ | 三角波 $\lvert x\rvert$ | |
|---|---|---|---|
| 係数 | $b_n=\dfrac4{\pi n}$($n$ 奇数) | $b_n=\dfrac{2(-1)^{n+1}}n$ | $a_n=-\dfrac4{\pi n^2}$($n$ 奇数) |
| 係数の減り方 | $\dfrac1n$ に比例 | $\dfrac1n$ に比例 | $\dfrac1{n^2}$ に比例 |
| 跳び | $x=k\pi$ で大きさ $2$ | $x=(2k+1)\pi$ で大きさ $2\pi$ | なし(連続) |
| 跳びの点での部分和 | $0$(左右の平均) | $0$(左右の平均) | — |
| 部分和の最大のずれ | $0$ に近づかない(thm-fsq-gibbs) | $0$ に近づかない($x\to\pi-0$ で $g(x)-S_N(x)\to\pi$。図 3) | $0$ に近づく(ex-fsq-triangle) |
係数の大きさを対数目盛りで描いた図。矩形波とのこぎり波は 1/n の速さで、三角波は 1/n² の速さで小さくなる
跳びのある波の係数は $\dfrac1n$ の速さでしか小さくならず、連続な三角波の係数は $\dfrac1{n^2}$ の速さで小さくなる(図 4)。三角波では、部分和と元の関数のずれの最大値が $0$ に近づくことを確かめられる。
三角波を $T$ と書く($-\pi\le x\le\pi$ で $T(x)=\lvert x\rvert$)。$T$ のグラフは傾き $1$ と $-1$ の線分をつないだ折れ線なので、どの $x$、$t$ でも $\lvert T(x+t)-T(x)\rvert\le\lvert t\rvert$ である。よって prop-fsq-converge の証明で引用した定理($M=1$)により、すべての $x$ で $S_N(x)\to T(x)$、とくに $-\pi\le x\le\pi$ で $S_N(x)\to\lvert x\rvert$ である。したがって $-\pi\le x\le\pi$ で $\lvert x\rvert-S_N(x)$ は、$N$ より大きい番号の項の和(の極限)で、$\lvert\cos nx\rvert\le1$ から
$$
\bigl\lvert\lvert x\rvert-S_N(x)\bigr\rvert\le\sum_{n>N,\ n\text{ 奇数}}\frac4{\pi n^2}\qquad(-\pi\le x\le\pi)
$$
である。右辺は $x$ によらず、$N\to\infty$ で $0$ に近づく($\sum\dfrac1{n^2}$ が収束するので、その先の部分の和は $0$ に近づく)。たとえば $N=15$ では右辺は $0.0397\ldots$ で、$x=0$ でちょうどこのずれになる。矩形波の $\dfrac4{\pi n}$ では、同じ評価の右辺 $\displaystyle\sum_{n>N}\frac4{\pi n}$ が発散して使えない。
$N$ より大きい番号 $n\le K$ の項について、三角不等式から $\lvert S_K(x)-S_N(x)\rvert\le\displaystyle\sum_{N< n\le K,\ n\text{ 奇数}}\frac4{\pi n^2}\le\sum_{n>N,\ n\text{ 奇数}}\frac4{\pi n^2}$ である。$-\pi\le x\le\pi$ では、$K\to\infty$ とすると $S_K(x)\to\lvert x\rvert$ なので、主張の不等式を得る。右辺の級数は、$\dfrac1{n^2}\le\dfrac1{n-1}-\dfrac1n$($n\ge2$)から $\displaystyle\sum_{n>N}\frac1{n^2}\le\frac1N$ で抑えられる。$x=0$ では $\cos n\cdot0=1$ なので、すべての項が同じ符号になり、等号が成り立つ。
prop-fsq-converge と thm-fsq-gibbs の条件・結論の範囲を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 周期 $2\pi$ の関数 | 実数全体での $y=x$ に、のこぎり波の級数を使う | 部分和が元の関数に近づく |
| 跳びのない点 | 矩形波の $x=0$($f(0)=1$) | 部分和が $f(x)$ に近づく |
| 各点ごとに見る | 矩形波の、$0< x<\pi$ でのずれの最大値 | 部分和と元の関数のずれの最大値が $0$ に近づく |
$y=x$ を実数全体で考える。$-\pi< x<\pi$ では $x=g(x)$ なので、prop-fsq-converge の (2) により、のこぎり波の部分和は $x$ に近づく。しかし部分和は周期 $2\pi$ の関数なので、区間の外では $x$ ではなく $g(x)$ に近づく。たとえば $x=4$ では、$4-2\pi=-2.283\ldots$ が $(-\pi,\pi)$ にあり $g(4)=g(4-2\pi)=4-2\pi$ なので、部分和は $-2.283\ldots$ に近づき、$4$ には近づかない(図 5)。Fourier 級数で表せるのは周期関数であり、周期関数でない関数は、1 周期の区間の中でだけ表せる。
y=x(黒)と、のこぎり波の部分和 S₄₀(赤)。−π から π の間では重なるが、外では部分和が同じ形をくり返し、x=4 では 4−2π に近い値をとる
矩形波は $f(0)=1$ と定めたが、prop-fsq-converge の (1) により $S_N(0)=0$ がすべての $N$ で成り立ち、部分和は $0$ に近づく。$f(0)$ を $-1$ と定めても $0$ と定めても、Fourier 係数は積分で決まるので変わらず、部分和も変わらない。跳びの点で部分和が近づくのは、そこでの値ではなく、左右の値 $-1$ と $1$ の平均 $0$ である。
$0< x<\pi$ の各点で $S_N(x)\to f(x)=1$ だが、thm-fsq-gibbs により、$0< x<\pi$ での $S_{2m-1}(x)-1$ の最大値 $M_m-1$ は $0.17897\ldots$ に近づき、$0$ には近づかない。「どの点でも近づく」ことと「区間全体で一斉に近づく(ずれの最大値が $0$ に近づく)」ことは違う。後者を 一様収束 という。ex-fsq-triangle の三角波は一様に収束し、矩形波は一様には収束しない。
thm-fsq-gibbs の山は、矩形波に限らず、跳びのある区分的になめらかな関数の Fourier 級数に一般に現れ、Gibbs の現象 と呼ばれる。Wei26 は、跳びでの部分和の行き過ぎの極限を決める定数として $\displaystyle\int_0^\pi\frac{\sin t}t\,dt=1.851937052\ldots$ と、その $\dfrac2\pi$ 倍 $1.178979744\ldots$ を挙げている。一般の関数での証明は、この記事ではしない。
prop-fsq-converge で引用した定理は、Leb26b では、点 $x$ の近くで「$\lvert h(x+t)-h(x)\rvert\le M\lvert t\rvert$」(Lipschitz 条件)が成り立てば、その点で部分和が $h(x)$ に近づく、という形で述べられている。系として、$x$ の近くで連続で、区分的に導関数が連続な関数でも収束する(Leb26b の Corollary 11.8.11)。
係数の減り方は、関数のなめらかさを映している。跳びのある関数の係数は $\dfrac1n$ 程度にしか小さくならず、連続で折れ目のある三角波では $\dfrac1{n^2}$、さらになめらかな関数ではもっと速く小さくなる。ex-fsq-triangle と同じ評価により、係数の絶対値の和が収束すれば、部分和は一様に収束する。
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