曲線の変分論

同義語:calculus of variations for curves

概要

曲線の変分論(calculus of variations for curves)とは、リーマン多様体上の曲線を滑らかな族の中で動かし、長さやエネルギーの変化を調べる理論である。第1変分公式により、両端点固定のエネルギーの停留曲線は測地線方程式を満たし、正則な長さの停留曲線は弧長再パラメータ化によって測地線になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 多様体、リーマン幾何学、内積、積分

曲線を動かす

曲線の変分論(calculus of variations for curves)は、一本の曲線を滑らかな族の中で動かし、長さやエネルギーが1次にどう変化するかを調べる理論である。有限次元の関数 $f(x)$ では微分 $df_x$ が停留点を検出する。曲線の変分論では、変数 $x$ の代わりに曲線 $\gamma$ 自身を動かし、汎関数の微分に相当する第1変分を考える。
本記事では、リーマン多様体上のエネルギーと長さの第1変分を導き、その停留曲線が測地線であることを示す。第2変分、Jacobi場、共役点の理論は、この第1段階を土台とする。標準的な定式化は Lee18 と doCarmo92 に従う。

変分と変分ベクトル場

曲線の変分

$(M,g)$ をリーマン多様体、$a< b$ とし、$\gamma:[a,b]\to M$ を滑らかな曲線とする。$\varepsilon>0$ に対する滑らかな写像
$$ F:(-\varepsilon,\varepsilon)\times[a,b]\to M $$
が $F(0,t)=\gamma(t)$ を満たすとき、$F$ を $\gamma$ の変分という。各 $s$ に対する曲線を $\gamma_s(t):=F(s,t)$ と書く。
変分が両端点を固定するとは、すべての $s$ に対して
$$ F(s,a)=\gamma(a),\qquad F(s,b)=\gamma(b) $$
が成り立つことである。
$F$ から得られる $\gamma$ に沿うベクトル場
$$ V(t):=\left.\frac{\partial F}{\partial s}\right|_{(0,t)} $$
を変分ベクトル場という。両端点を固定する変分では $V(a)=V(b)=0$ である。

写像 $F$ は、曲線 $\gamma_s$ を $s$ の方向に並べた小さな曲面とみなせる。その曲面上に
$$ T:=\frac{\partial F}{\partial t},\qquad S:=\frac{\partial F}{\partial s} $$
を定める。$\nabla$ を リーマン接続 とすると、接続が捩れをもたず $[\partial_s,\partial_t]=0$ であることから
$$ \nabla_S T=\nabla_T S $$
が成り立つ。この微分の交換が第1変分公式の要点である。

沿うベクトル場の変分としての実現

$\gamma:[a,b]\to M$ に沿う滑らかなベクトル場 $V$ は、ある変分の変分ベクトル場として実現できる。$V(a)=V(b)=0$ ならば、その変分を両端点固定に選べる。

$\exp$ をリーマン指数写像とする。零断面の近傍で $\exp$ は定義され、$[a,b]$ はコンパクトであるから、十分小さい一定の $\varepsilon>0$ に対して
$$ F(s,t):=\exp_{\gamma(t)}(sV(t)) $$
が $|s|<\varepsilon$ とすべての $t\in[a,b]$ で定義される。$F(0,t)=\gamma(t)$ なので $F$ は変分である。また指数写像の定義から
$$ \left.\frac{\partial}{\partial s}\right|_{s=0} \exp_{\gamma(t)}(sV(t))=V(t) $$
である。$V(a)=V(b)=0$ なら
$F(s,a)=\exp_{\gamma(a)}(0)=\gamma(a)$ および $F(s,b)=\gamma(b)$ となり、両端点も固定される。$\blacksquare$

エネルギーと長さ

エネルギー汎関数と長さ汎関数

滑らかな曲線 $\gamma:[a,b]\to M$ のエネルギーと長さをそれぞれ
$$ E(\gamma):=\frac12\int_a^b\|\dot\gamma(t)\|^2\,dt, \qquad L(\gamma):=\int_a^b\|\dot\gamma(t)\|\,dt $$
と定める。長さの変分を微分するときは $\dot\gamma(t)\ne0$ をすべての $t$ で仮定し、このような曲線を正則曲線という。

長さは向きを保つ再パラメータ化で変わらないが、エネルギーは速度の選び方に依存する。この違いは停留曲線の特徴に現れる。エネルギーはアフィン・パラメータ付きの測地線を、長さは再パラメータ化を除いた測地線の軌跡を検出する。

エネルギーと長さの不等式

任意の滑らかな曲線 $\gamma:[a,b]\to M$ に対して
$$ E(\gamma)\ge \frac{L(\gamma)^2}{2(b-a)} $$
が成り立つ。等号は速度 $\|\dot\gamma(t)\|$ が定数であるとき、またそのときに限り成り立つ。

$[a,b]$ 上の関数 $1$ と $\|\dot\gamma\|$ にCauchy--Schwarzの不等式を適用すると
$$ L(\gamma)^2 =\left(\int_a^b 1\cdot\|\dot\gamma(t)\|\,dt\right)^2 \le (b-a)\int_a^b\|\dot\gamma(t)\|^2\,dt =2(b-a)E(\gamma) $$
を得る。これを変形すれば所望の不等式になる。Cauchy--Schwarzの等号条件は $\|\dot\gamma(t)\|$ が関数 $1$ の定数倍であること、すなわち速度が定数であることである。$\blacksquare$

第1変分公式

エネルギーの第1変分

$F$ を $\gamma$ の変分、$V$ をその変分ベクトル場とする。$D_tV:=\nabla_{\dot\gamma}V$ と書くと
$$ \left.\frac{d}{ds}\right|_{s=0}E(\gamma_s) =\bigl[g(V,\dot\gamma)\bigr]_a^b -\int_a^b g(V,D_t\dot\gamma)\,dt $$
が成り立つ。特に両端点固定の変分では
$$ \left.\frac{d}{ds}\right|_{s=0}E(\gamma_s) =-\int_a^b g(V,D_t\dot\gamma)\,dt $$
である。

リーマン接続 の計量両立性と $\nabla_S T=\nabla_T S$ を用いると
$$ \begin{aligned} \left.\frac{d}{ds}\right|_{s=0}E(\gamma_s) &=\frac12\int_a^b \left.\frac{\partial}{\partial s}\right|_{s=0}g(T,T)\,dt\\ &=\int_a^b g(\nabla_S T,T)|_{s=0}\,dt\\ &=\int_a^b g(D_tV,\dot\gamma)\,dt \end{aligned} $$
となる。一方、再び計量両立性から
$$ \frac{d}{dt}g(V,\dot\gamma) =g(D_tV,\dot\gamma)+g(V,D_t\dot\gamma) $$
である。これを積分して項を移せば最初の公式を得る。両端点固定なら $V(a)=V(b)=0$ なので境界項が消える。$\blacksquare$

エネルギーの停留曲線

両端点を固定したすべての変分に対してエネルギーの第1変分が $0$ であることと、
$$ D_t\dot\gamma=0 $$
が成り立つことは同値である。すなわちエネルギーの停留曲線は、アフィン・パラメータをもつ測地線に他ならない。

$D_t\dot\gamma=0$ なら、thm-first-variation-energy の両端点固定公式からすべての第1変分が $0$ になる。
逆にすべての両端点固定変分に対して第1変分が $0$ と仮定する。prop-variation-field-realization により、端点で消える任意の滑らかな $V$ を試験できるから
$$ \int_a^b g(V,D_t\dot\gamma)\,dt=0 $$
がすべてのそのような $V$ に対して成り立つ。もし $D_t\dot\gamma(t_0)\ne0$ となる内点 $t_0$ があれば、$t_0$ の近傍ではそのノルムは正である。その近傍に台をもつ非負の滑らかな関数 $\chi$ で $\chi(t_0)>0$ を満たすものを取り、$V=\chi D_t\dot\gamma$ と置けば
$$ \int_a^b g(V,D_t\dot\gamma)\,dt =\int_a^b\chi\|D_t\dot\gamma\|^2\,dt>0 $$
となって矛盾する。よって $D_t\dot\gamma=0$ である。$\blacksquare$

長さの第1変分

$\gamma$ を正則曲線、$F$ を $\gamma$ の変分、$V$ を変分ベクトル場とし、
$$ U:=\frac{\dot\gamma}{\|\dot\gamma\|} $$
を単位接ベクトル場とする。このとき
$$ \left.\frac{d}{ds}\right|_{s=0}L(\gamma_s) =\bigl[g(V,U)\bigr]_a^b-\int_a^b g(V,D_tU)\,dt $$
が成り立つ。従って両端点固定の変分で長さが停留することと $D_tU=0$ は同値である。これは、$\gamma$ が弧長で再パラメータ化すると測地線になることを意味する。

$T=\partial_tF$ とする。正則性により $s=0$ で $\|T\|>0$ であるから、積分の微分を計算すると
$$ \begin{aligned} \left.\frac{d}{ds}\right|_{s=0}L(\gamma_s) &=\int_a^b \left.\frac{1}{2\|T\|}\frac{\partial}{\partial s}g(T,T)\right|_{s=0}dt\\ &=\int_a^b g(D_tV,U)\,dt. \end{aligned} $$
ここで
$$ \frac{d}{dt}g(V,U)=g(D_tV,U)+g(V,D_tU) $$
を積分すれば主張の公式を得る。両端点固定なら境界項は消える。さらに prop-variation-field-realization と cor-energy-critical-geodesic と同じ台関数の論法を用いると、すべての両端点固定変分に対する消失は $D_tU=0$ と同値である。
弧長パラメータ $r$ において $d\gamma/dr=U$ であるから、$D_tU=0$ と $D_r(d\gamma/dr)=0$ は同値である。後者が測地線方程式である。$\blacksquare$

例と反例

Euclid空間の線分

$M=\mathbb R^n$ に標準計量を入れ、$p,q\in\mathbb R^n$ に対して
$$ \gamma(t)=(1-t)p+tq\qquad(0\le t\le1) $$
と置く。$\dot\gamma=q-p$ は定ベクトルなので $D_t\dot\gamma=0$ である。従ってこの線分は両端点固定のエネルギーと長さの双方に対する停留曲線である。さらに
$$ E(\gamma)=\frac12\|q-p\|^2, \qquad L(\gamma)=\|q-p\| $$
であり、prop-energy-length-inequality の等号が成り立つ。

半円は平面では停留しない

$\gamma(t)=(\cos t,\sin t)$($0\le t\le\pi$)をEuclid平面上の半円とする。両端点を固定する変分
$$ F(s,t)=(1+s\sin t)\gamma(t) $$
の変分ベクトル場は $V(t)=\sin t\,\gamma(t)$ である。$D_t\dot\gamma=-\gamma$ なので
$$ \left.\frac{d}{ds}\right|_{s=0}E(\gamma_s) =-\int_0^\pi\langle\sin t\,\gamma(t),-\gamma(t)\rangle\,dt =\int_0^\pi\sin t\,dt=2. $$
よって半円は平面のエネルギーの停留曲線ではない。円弧が「まっすぐ」ではないことが、第1変分の非消失として定量的に現れている。

反例:長さの停留性からアフィン・パラメータは従わない

$\gamma:[1,2]\to\mathbb R^2$ を $\gamma(t)=(t^2,0)$ とする。この曲線の単位接ベクトルは $U=(1,0)$ であり $D_tU=0$ なので、両端点固定の長さの第1変分はすべて消える。しかし
$$ D_t\dot\gamma=(2,0)\ne0 $$
なので、エネルギーの停留曲線ではない。この反例は、長さの停留性が測地線の軌跡を特徴づけるだけで、与えられたパラメータがアフィンであることまでは保証しないことを示す。

区分的に滑らかな曲線

曲線が折点
$$ a=t_0< t_1<\cdots< t_m=b $$
をもち、各開区間で滑らかな場合は、thm-first-variation-energy を各区間に適用して足し合わせればよい。このとき内部の境界項が打ち消し合わず、
$$ \sum_{i=1}^{m-1} g\!\left(V(t_i),\dot\gamma(t_i^-)-\dot\gamma(t_i^+)\right) $$
という折点項が残る。したがって、折点を動かせるすべての変分に対してエネルギーが停留するなら、各区間で測地線方程式が成り立つだけでなく、折点で左右の速度が一致しなければならない。真の停留曲線に角は残らない。
正則な区分的に滑らかな曲線に長さの第1変分公式を各区間で適用すると、内部の折点から
$$ \sum_{i=1}^{m-1} g\!\left(V(t_i),U(t_i^-)-U(t_i^+)\right) $$
が生じる。したがって、折点を動かせるすべての変分に対して長さが停留するなら、左右の単位接ベクトルが一致しなければならない。これにより、2本の直線を折れ曲がって繋いだ道は、各部分では直線であっても全体として長さの停留曲線ではない。

第2変分への入口

第1変分は停留曲線を検出するが、その曲線が長さを最小にするかどうかはそれだけでは判定できない。通常の1変数関数で $f'(x)=0$ が極小を保証しないのと同じである。測地線に沿うエネルギーの第2変分には曲率テンソルが現れ、その零化方程式がJacobi方程式である。共役点が現れると局所最短性が失われうる。
この先の理論では、リーマン計量の正定値性が重要である。擬リーマン多様体では、時間的・空間的・光的曲線を分ける必要があり、特に光的曲線では $g(\dot\gamma,\dot\gamma)=0$ となる。正定値計量から定まるノルムと長さの公式は、そのままでは使えない。その場合はエネルギーと因果構造を用いた別の定式化が必要である。

関連項目

参考文献

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