Brocard点(Brocard points)とは、三角形 $ABC$ の内部の点で $\angle\Omega AB=\angle\Omega BC=\angle\Omega CA$ を満たす点 $\Omega$ と、向きを逆にした $\angle\Omega'BA=\angle\Omega'CB=\angle\Omega'AC$ を満たす点 $\Omega'$ である。どの三角形にもそれぞれただ 1 つあり、共通の角 $\omega$(Brocard 角)は 2 点で同じで、$\cot\omega=\cot A+\cot B+\cot C=\frac{a^2+b^2+c^2}{4S}$($a,b,c$ は 3 辺の長さ、$S$ は面積)を満たす。$\omega\le30^\circ$ で、等号は正三角形のときに限る。$\Omega$ と $\Omega'$ は等角共役点の組である。
前提知識: 三角関数形のCevaの定理, 正弦定理(高校数学), 余弦定理(高校数学), 接弦定理
Vivianiの定理 と Erdős–Mordellの不等式 では、三角形の中の点 $P$ から辺や頂点までの「距離」を調べた。この記事では「角」を調べる。$P$ と 3 つの頂点を結ぶと、各頂点の角が 2 つに分かれる。そのうち、頂点を $A\to B\to C\to A$ の順にたどるとき、各頂点で「次の頂点へ向かう辺」から測った角
$$
\angle PAB,\qquad\angle PBC,\qquad\angle PCA
$$
がすべて等しくなる点はあるだろうか。
$A(0,4)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ とし、点 $\Omega\left(\dfrac85,\dfrac45\right)$ をとる。3 つの角の正接を求める。
(1) $\angle\Omega BC$。辺 $BC$ は $x$ 軸の正の向きで、$\overrightarrow{B\Omega}=\left(\dfrac85,\dfrac45\right)$ なので、$\tan\angle\Omega BC=\dfrac{4/5}{8/5}=\dfrac12$ である。
(2) $\angle\Omega AB$。辺 $AB$ は $A$ から真下($y$ 軸の負の向き)で、$\overrightarrow{A\Omega}=\left(\dfrac85,-\dfrac{16}5\right)$ は、下へ $\dfrac{16}5$ 進む間に横へ $\dfrac85$ ずれる。よって $\tan\angle\Omega AB=\dfrac{8/5}{16/5}=\dfrac12$ である。
(3) $\angle\Omega CA$。$\overrightarrow{CA}=(-4,4)$、$\overrightarrow{C\Omega}=\left(-\dfrac{12}5,\dfrac45\right)$ である。2 つのベクトル $(p,q)$、$(r,s)$ のなす角 $\theta$ について、$\cos\theta$ は内積 $pr+qs$ に、$\sin\theta$ は $\lvert ps-qr\rvert$ に比例する(比例定数はどちらも長さの積の逆数)ので、$\tan\theta=\dfrac{\lvert ps-qr\rvert}{pr+qs}$ である($pr+qs>0$ のとき)。ここでは
$$
pr+qs=(-4)\left(-\frac{12}5\right)+4\cdot\frac45=\frac{64}5,\qquad\lvert ps-qr\rvert=\left\lvert(-4)\cdot\frac45-4\cdot\left(-\frac{12}5\right)\right\rvert=\frac{32}5
$$
なので $\tan\angle\Omega CA=\dfrac{32/5}{64/5}=\dfrac12$ である。
3 つの角はどれも $\tan\theta=\dfrac12$ を満たす鋭角で、等しい。その大きさは $26.56\ldots^\circ$ である。
三角形の中の点 Ω で、角 ΩAB、ΩBC、ΩCA の 3 つが等しい角 ω になる
向きを逆にした角 Ω'BA、Ω'CB、Ω'AC の 3 つが等しくなる点 Ω'。等しい角は左の図と同じ ω である
正三角形なら、中心で 3 つの角はどれも $30^\circ$ になる(中心と頂点を結ぶ直線は角の二等分線)。一般の三角形でも、このような点がいつもあるのだろうか。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の道具 | この記事での役目 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 正弦定理 | 角 $\omega$ の余接 $\cot\omega$ の式を導く | 三角形の不変量 |
| 三角関数形の Ceva の定理 | 点があること・ただ 1 つであること | Ceva 線の共点条件 |
| 接弦定理 | 3 つの円による作図 | 円の束 |
| 余弦定理(Weitzenböck の不等式) | $\omega\le30^\circ$ | 等周型の不等式 |
以下、三角形 $ABC$ の辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、面積を $S$ とし、頂点の角の大きさを $A$、$B$、$C$ で表す。角の余接を $\cot\theta=\dfrac{\cos\theta}{\sin\theta}=\dfrac1{\tan\theta}$ と書く($0^\circ<\theta<180^\circ$)。$\cot\theta$ は $0^\circ<\theta<180^\circ$ で狭義に減少し、$\theta=90^\circ$ で $0$ になる($\cot\theta=\tan(90^\circ-\theta)$)。
三角形 $ABC$ の内部の点 $\Omega$ で
$$
\angle\Omega AB=\angle\Omega BC=\angle\Omega CA
$$
を満たすものを、三角形 $ABC$ の 第 1 Brocard 点 という。内部の点 $\Omega'$ で
$$
\angle\Omega'BA=\angle\Omega'CB=\angle\Omega'AC
$$
を満たすものを 第 2 Brocard 点 という。2 つをまとめて Brocard 点 という。第 1 Brocard 点での共通の角を Brocard 角 といい、$\omega$ で表す。
第 1 Brocard 点では、各頂点で「次の頂点へ向かう辺」から角を測る($A$ では辺 $AB$、$B$ では辺 $BC$、$C$ では辺 $CA$)。第 2 Brocard 点では「前の頂点へ向かう辺」から測る。ex-broc-start の $\Omega$ は直角二等辺三角形の第 1 Brocard 点である。この三角形の第 2 Brocard 点は、直線 $y=x$ に関して $\Omega$ を折り返した点 $\Omega'\left(\dfrac45,\dfrac85\right)$ である(この折り返しは $A$ と $C$ を入れかえ、$B$ を動かさないので、角の測り方の向きが逆になる)。
まず、Brocard 点があると仮定して、角の大きさを求める。
三角形 $ABC$ の内部の点 $P$ について、$\angle PAB=\angle PBC=\angle PCA=\theta$ ならば
$$
\cot\theta=\cot A+\cot B+\cot C
$$
である。
要点:三角形 $ABP$ では $\angle PBA=B-\theta$、$\angle APB=180^\circ-B$ なので、正弦定理から $AP=\dfrac{c\sin(B-\theta)}{\sin B}$ である。三角形 $CAP$ では $\angle APC=180^\circ-A$ なので $AP=\dfrac{b\sin\theta}{\sin A}$ である。2 つを等しいとおき、$c=\dfrac{b\sin C}{\sin B}$ と加法定理を使って整理すると $\cot\theta-\cot B=\dfrac{\sin B}{\sin A\sin C}$ となり、$\sin B=\sin(A+C)$ を展開すると右辺は $\cot A+\cot C$ になる。
段 1(三角形 $ABP$)。$\angle PAB=\theta$、$\angle PBA=\angle ABC-\angle PBC=B-\theta$ なので、$\angle APB=180^\circ-\theta-(B-\theta)=180^\circ-B$ である。正弦定理により $\dfrac{AP}{\sin(B-\theta)}=\dfrac{AB}{\sin(180^\circ-B)}=\dfrac c{\sin B}$ で、
$$AP=\frac{c\sin(B-\theta)}{\sin B}$$
である。
段 2(三角形 $CAP$)。$\angle PCA=\theta$、$\angle PAC=A-\theta$ なので、$\angle APC=180^\circ-A$ である。正弦定理により $\dfrac{AP}{\sin\theta}=\dfrac b{\sin A}$ で、
$$AP=\frac{b\sin\theta}{\sin A}$$
である。
段 3(等しいとおく)。三角形 $ABC$ の正弦定理から $c=\dfrac{b\sin C}{\sin B}$ である(正弦定理(高校数学))。段 1 に代入して段 2 と等しいとおくと
$$\frac{b\sin C\sin(B-\theta)}{\sin^2B}=\frac{b\sin\theta}{\sin A},\qquad\text{つまり}\qquad\sin A\sin C\sin(B-\theta)=\sin^2B\sin\theta$$
である。
段 4(整理する)。加法定理 $\sin(B-\theta)=\sin B\cos\theta-\cos B\sin\theta$ を代入し、両辺を $\sin A\sin B\sin C\sin\theta$(正)で割ると
$$\cot\theta-\cot B=\frac{\sin B}{\sin A\sin C}$$
となる。
段 5(右辺を余接で書く)。$A+B+C=180^\circ$ から $\sin B=\sin(180^\circ-(A+C))=\sin(A+C)=\sin A\cos C+\cos A\sin C$ なので
$$\frac{\sin B}{\sin A\sin C}=\frac{\sin A\cos C+\cos A\sin C}{\sin A\sin C}=\cot C+\cot A$$
である。段 4 と合わせて $\cot\theta=\cot A+\cot B+\cot C$ を得る。$\square$
右辺は辺の長さでも書ける。
$$
\cot A+\cot B+\cot C=\frac{a^2+b^2+c^2}{4S}
$$
である。特に右辺は正である。
余弦定理から $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$、面積の公式 $S=\dfrac12bc\sin A$ から $\sin A=\dfrac{2S}{bc}$ なので
$$
\cot A=\frac{\cos A}{\sin A}=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\cdot\frac{bc}{2S}=\frac{b^2+c^2-a^2}{4S}
$$
である。同じく $\cot B=\dfrac{c^2+a^2-b^2}{4S}$、$\cot C=\dfrac{a^2+b^2-c^2}{4S}$ で、3 つを足すと分子は $a^2+b^2+c^2$ になる。$\square$
lem-broc-cot は「Brocard 点があれば、角はこの値しかない」ことを言っている。次に、Brocard 点が実際にあり、ただ 1 つであることを示す。三角関数形のCevaの定理 と、その記事の補題「角の比は角を 1 つに決める」($0^\circ<\theta< C$ で $\dfrac{\sin\theta}{\sin(C-\theta)}$ は狭義に増加する)を使う。
どの三角形 $ABC$ にも、第 1 Brocard 点 $\Omega$ と第 2 Brocard 点 $\Omega'$ がそれぞれただ 1 つある。2 つの点での共通の角は同じ角 $\omega$($0^\circ<\omega<90^\circ$)で、
$$
\cot\omega=\cot A+\cot B+\cot C=\frac{a^2+b^2+c^2}{4S}
$$
を満たす。
方針:式を満たす角 $\omega$ を先に決め、頂点 $A$、$B$ から角 $\omega$ の Ceva 線を引いて交点 $P$ をとる。三角関数形の Ceva の定理で、$C$ での角も $\omega$ になることを示す。
段 1($\omega$ を決める)。lem-broc-cotsum により $k=\cot A+\cot B+\cot C$ は正である。$\cot$ は $0^\circ<\theta<90^\circ$ で $+\infty$ に近い値から $0$ に近い値まで連続に狭義減少するので、$\cot\omega=k$ となる $\omega$($0^\circ<\omega<90^\circ$)がただ 1 つある($\omega$ は $\tan\omega=\dfrac1k$ で決まる)。
段 2($\omega$ はどの角よりも小さい)。$\sin(B+C)=\sin A$ を使うと
$$
\cot\omega-\cot A=\cot B+\cot C=\frac{\cos B\sin C+\sin B\cos C}{\sin B\sin C}=\frac{\sin A}{\sin B\sin C}>0
$$
なので $\cot\omega>\cot A$ で、$\cot$ は減少するから $\omega< A$ である。同じく $\omega< B$、$\omega< C$ である。
段 3(3 つの比)。段 2 と同じ変形で
$$
\frac{\sin(A-\omega)}{\sin\omega}=\sin A\cot\omega-\cos A=\sin A\,(\cot\omega-\cot A)=\frac{\sin^2A}{\sin B\sin C}
$$
である(1 つ目の等号は加法定理 $\sin(A-\omega)=\sin A\cos\omega-\cos A\sin\omega$ を $\sin\omega$ で割ったもの)。同じく $\dfrac{\sin(B-\omega)}{\sin\omega}=\dfrac{\sin^2B}{\sin C\sin A}$、$\dfrac{\sin(C-\omega)}{\sin\omega}=\dfrac{\sin^2C}{\sin A\sin B}$ で、3 つを掛けると
$$
\frac{\sin(A-\omega)}{\sin\omega}\cdot\frac{\sin(B-\omega)}{\sin\omega}\cdot\frac{\sin(C-\omega)}{\sin\omega}=\frac{\sin^2A\sin^2B\sin^2C}{(\sin B\sin C)(\sin C\sin A)(\sin A\sin B)}=1
$$
である。
段 4(2 本の Ceva 線の交点)。段 2 から $\omega< A$ なので、$A$ から、辺 $AB$ と角 $\omega$ をなして角 $\angle BAC$ の内部を通る半直線は、辺 $BC$ と頂点以外の点で交わる。$B$ から、辺 $BC$ と角 $\omega$ をなす半直線も同じである。2 本の Ceva 線は三角形の内部の点 $P$ で交わる(Cevaの定理(高校数学))。$\angle PAB=\omega$、$\angle PBC=\omega$ で、$\varphi=\angle PCA$ とおく。
段 5($C$ での角)。直線 $AP$、$BP$、$CP$ は $P$ で交わるので、三角関数形のCevaの定理 により
$$
\frac{\sin\omega}{\sin(A-\omega)}\cdot\frac{\sin\omega}{\sin(B-\omega)}\cdot\frac{\sin\varphi}{\sin(C-\varphi)}=1
$$
である($\angle PAC=A-\omega$、$\angle PBA=B-\omega$、$\angle PCB=C-\varphi$)。段 3 の式と比べると $\dfrac{\sin\varphi}{\sin(C-\varphi)}=\dfrac{\sin\omega}{\sin(C-\omega)}$ である。$\dfrac{\sin\theta}{\sin(C-\theta)}$ は $0^\circ<\theta< C$ で狭義に増加する(三角関数形のCevaの定理 の補題)ので、$\varphi=\omega$ である。よって $P$ は第 1 Brocard 点である。
段 6(ただ 1 つ)。$Q$ も第 1 Brocard 点で、共通の角を $\theta$ とすると、lem-broc-cot により $\cot\theta=k=\cot\omega$ で、$\theta=\omega$ である。すると $Q$ は段 4 の 2 本の半直線の上にあるので、$Q=P$ である。
段 7(第 2 Brocard 点)。三角形の頂点の名前を $B$ と $C$ で入れかえて三角形 $ACB$ と見ると、第 1 Brocard 点の条件は「$\angle PAC=\angle PCB=\angle PBA$」となり、これは三角形 $ABC$ の第 2 Brocard 点の条件である。段 1〜段 6 を三角形 $ACB$ に使うと、第 2 Brocard 点がただ 1 つあり、共通の角 $\theta'$ は $\cot\theta'=\cot A+\cot C+\cot B=\cot\omega$ を満たす。よって $\theta'=\omega$ である。最後の等式は lem-broc-cotsum である。$\square$
$\tan\omega=\dfrac{4S}{a^2+b^2+c^2}$ で計算した値である。
| 三角形 | $a^2+b^2+c^2$ | $S$ | $\cot\omega$ | $\omega$ |
|---|---|---|---|---|
| 正三角形(1 辺 $2$) | $12$ | $\sqrt3$ | $\sqrt3$ | $30^\circ$ |
| 辺 $13,14,15$ | $590$ | $84$ | $\frac{295}{168}$ | $29.66\ldots^\circ$ |
| 直角二等辺三角形(等辺 $4$) | $64$ | $8$ | $2$ | $26.56\ldots^\circ$ |
| 辺 $3,4,5$ | $50$ | $6$ | $\frac{25}{12}$ | $25.64\ldots^\circ$ |
| 辺 $3,5,7$($120^\circ$ の角をもつ) | $83$ | $\frac{15\sqrt3}4$ | $\frac{83\sqrt3}{45}$ | $17.38\ldots^\circ$ |
$120^\circ$ の角をはさむ 2 辺 $3$、$5$ から $S=\dfrac12\cdot3\cdot5\sin120^\circ=\dfrac{15\sqrt3}4$ である。
細長い三角形や鈍角の大きい三角形ほど $\omega$ は小さく、正三角形で最も大きい。これが次の thm-broc-30 である。
2 つの Brocard 点は、等角共役 で結ばれている。
第 1 Brocard 点 $\Omega$ の等角共役点は、第 2 Brocard 点 $\Omega'$ である。
$\Omega$ の等角共役点を $Q$ とする(等角共役。三角形の内部の点には等角共役点があり、それも内部の点である)。$AQ$ は $A\Omega$ を角 $A$ の二等分線で折り返した直線なので、$A\Omega$ が辺 $AB$ となす角 $\omega$ と、$AQ$ が辺 $AC$ となす角は等しい。つまり $\angle QAC=\omega$ である。同じく $\angle\Omega BC=\omega$ から $\angle QBA=\omega$、$\angle\Omega CA=\omega$ から $\angle QCB=\omega$ である。よって $Q$ は第 2 Brocard 点の条件を満たし、thm-broc-main のただ 1 つであることから $Q=\Omega'$ である。$\square$
ex-broc-start の直角二等辺三角形では、$\Omega\left(\dfrac85,\dfrac45\right)$ と $\Omega'\left(\dfrac45,\dfrac85\right)$ が等角共役点の組である。$\Omega=\Omega'$ となるのは正三角形のときだけである。実際、$\Omega=\Omega'$ なら頂点 $A$ で $\angle\Omega AB=\angle\Omega AC=\omega$ なので $A=2\omega$、同じく $B=C=2\omega$ で、3 つの角が等しい。
thm-broc-main の証明は角の計算による。Brocard 点は、円を使って作図することもできる。鍵は 接弦定理 である。
三角形 $ABC$ について、次の 3 つの円はどれも第 1 Brocard 点 $\Omega$ を通る。
(R1) $A$ と $B$ を通り、直線 $BC$ に $B$ で接する円
(R2) $B$ と $C$ を通り、直線 $CA$ に $C$ で接する円
(R3) $C$ と $A$ を通り、直線 $AB$ に $A$ で接する円
したがって $\Omega$ は、(i) と (ii) の円の $B$ 以外の交点として作図できる。
要点:(i) の条件を満たす円はただ 1 つである(中心は $B$ で $BC$ に立てた垂線と $AB$ の垂直二等分線の交点)。一方、3 点 $A$、$B$、$\Omega$ を通る円では、弦 $B\Omega$ と直線 $BC$ のなす角 $\angle CB\Omega=\omega$ が、弦 $B\Omega$ に対する円周角 $\angle BA\Omega=\omega$ に等しいので、接弦定理 の「接弦定理の逆」により直線 $BC$ は $B$ で接する。よって円 $AB\Omega$ が (i) の円である。(ii)、(iii) は頂点の名前を回せばよい。
段 1(条件を満たす円は 1 つ)。直線 $BC$ に $B$ で接する円の中心は、$B$ を通り $BC$ に垂直な直線の上にある。$A$ と $B$ を通る円の中心は、線分 $AB$ の垂直二等分線の上にある。2 本の直線は平行でない(平行なら $AB$ が $BC$ に平行になり、三角形にならない)ので、交点はただ 1 つで、(i) の円はただ 1 つである。
段 2(円 $AB\Omega$ は接する)。3 点 $A$、$B$、$\Omega$ は一直線上にないので、これらを通る円がある。この円の弦 $B\Omega$ と直線 $BC$ のなす角は $\angle CB\Omega=\omega$、弦 $B\Omega$ に対する円周角は $\angle BA\Omega=\omega$ で、等しい。$\Omega$ は内部の点なので、直線 $B\Omega$ について $A$ と $C$ は反対側にある。接弦定理 の定理「接弦定理の逆」(接点を $B$、弦を $B\Omega$、円周上の点を $A$、接線の上の点を $C$ とする)により、直線 $BC$ はこの円に $B$ で接する。
段 3(まとめ)。段 1 により、円 $AB\Omega$ は (i) の円そのものである。よって (i) の円は $\Omega$ を通る。頂点の名前を $A\to B\to C\to A$ と回すと、(ii)、(iii) についても同じである。$\square$
ex-broc-start の $A(0,4)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ で、$\Omega\left(\dfrac85,\dfrac45\right)$ である。
prop-broc-circles の (i) の円の中心は、$B$ を通り $BC$($x$ 軸)に垂直な直線 $x=0$ と、$AB$ の垂直二等分線 $y=2$ の交点 $(0,2)$ で、半径は $2$ である。$\Omega$ までの距離の 2 乗は $\left(\dfrac85\right)^2+\left(\dfrac45-2\right)^2=\dfrac{64+36}{25}=4$ で、$\Omega$ は円の上にある。
同じく (ii) の円は中心 $(2,-2)$、半径 $2\sqrt2$、(iii) の円は中心 $(4,4)$、半径 $4$ で、どちらも $\Omega$ を通る。
(ii) の円の中心は、$C$ を通り $CA$ に垂直な直線 $y=x-4$ と、$BC$ の垂直二等分線 $x=2$ の交点 $(2,-2)$ で、半径の 2 乗は $2^2+2^2=8$ である。$\left(\dfrac85-2\right)^2+\left(\dfrac45+2\right)^2=\dfrac{4+196}{25}=8$ で、$\Omega$ は円の上にある。
(iii) の円の中心は、$A$ を通り $AB$ に垂直な直線 $y=4$ と、$CA$ の垂直二等分線 $y=x$ の交点 $(4,4)$ で、半径は $4$ である。$\left(\dfrac85-4\right)^2+\left(\dfrac45-4\right)^2=\dfrac{144+256}{25}=16$ で、$\Omega$ は円の上にある。
直角二等辺三角形で、B で BC に接する円(赤)、C で CA に接する円(青)、A で AB に接する円(緑)の 3 つが Brocard 点 Ω で交わる
ex-broc-table では、正三角形の $30^\circ$ が最も大きかった。これはいつも成り立つ。
どの三角形でも $\omega\le30^\circ$ である。等号は正三角形のときに限る。
段 1(引く不等式)。三角形の 3 辺 $a,b,c$ と面積 $S$ について
$$
a^2+b^2+c^2\ge4\sqrt3\,S
$$
が成り立ち、等号は正三角形のときに限る(Weitzenböck の不等式。証明は 余弦定理(高校数学) の数学オリンピックの節にある)。
段 2(余接に直す)。thm-broc-main により $\cot\omega=\dfrac{a^2+b^2+c^2}{4S}$ なので、段 1 は $\cot\omega\ge\sqrt3=\cot30^\circ$ と同じである。
段 3(角に直す)。$\cot$ は $0^\circ<\theta<90^\circ$ で狭義に減少するので、$\cot\omega\ge\cot30^\circ$ は $\omega\le30^\circ$ と同じで、等号 $\omega=30^\circ$ は $\cot\omega=\sqrt3$、つまり段 1 の等号のとき、正三角形のときに限る。$\square$
逆に読むと、$\omega\le30^\circ$ と Weitzenböck の不等式は同じ主張である。thm-broc-main の式が、辺の長さの不等式を角の不等式に訳している。
Brocard 点では 3 つの角 $\angle PAB$、$\angle PBC$、$\angle PCA$ がそろって $\omega\le30^\circ$ になる。ほかの点ではどうか。
Let $ABC$ be a triangle and $P$ an interior point of $ABC$. Show that at least one of the angles $\angle PAB$, $\angle PBC$, $\angle PCA$ is less than or equal to $30^\circ$.
和訳:三角形 $ABC$ と、その内部の点 $P$ がある。角 $\angle PAB$、$\angle PBC$、$\angle PCA$ の少なくとも 1 つは $30^\circ$ 以下であることを示せ。
出典:第 32 回国際数学オリンピック(1991 年)第 5 問(第 2 日の第 2 問、Oly91)。
方針:3 つの角がすべて Brocard 角 $\omega$ より大きいと仮定して、三角関数形の Ceva の定理の式と矛盾させる。すると最も小さい角は $\omega$ 以下で、thm-broc-30 から $30^\circ$ 以下である。
段 1(記号)。$\alpha=\angle PAB$、$\beta=\angle PBC$、$\gamma=\angle PCA$ とおく。$P$ は内部の点なので $0^\circ<\alpha< A$、$0^\circ<\beta< B$、$0^\circ<\gamma< C$ で、$\angle PAC=A-\alpha$、$\angle PBA=B-\beta$、$\angle PCB=C-\gamma$ である。
段 2(Ceva の式)。直線 $AP$、$BP$、$CP$ は $P$ で交わるので、三角関数形のCevaの定理 により
$$
\frac{\sin\alpha}{\sin(A-\alpha)}\cdot\frac{\sin\beta}{\sin(B-\beta)}\cdot\frac{\sin\gamma}{\sin(C-\gamma)}=1
$$
である。
段 3(すべて $\omega$ より大きいとする)。$\alpha>\omega$、$\beta>\omega$、$\gamma>\omega$ と仮定する。$\dfrac{\sin\theta}{\sin(A-\theta)}$ は $0^\circ<\theta< A$ で狭義に増加し、prf-broc-main の段 2 から $\omega< A$ なので、$\dfrac{\sin\alpha}{\sin(A-\alpha)}>\dfrac{\sin\omega}{\sin(A-\omega)}$ である。$\beta$、$\gamma$ でも同じである。3 つの不等式の両辺はどれも正なので、辺々掛けると、段 2 の左辺は
$$
\frac{\sin\omega}{\sin(A-\omega)}\cdot\frac{\sin\omega}{\sin(B-\omega)}\cdot\frac{\sin\omega}{\sin(C-\omega)}
$$
より大きい。prf-broc-main の段 3 により、これは $1$ である。すると段 2 の左辺は $1$ より大きくなり、段 2 と矛盾する。
段 4(結論)。よって $\alpha$、$\beta$、$\gamma$ の少なくとも 1 つは $\omega$ 以下で、thm-broc-30 により $30^\circ$ 以下である。$\square$
prf-broc-oly91 は、実は次のことを示している。内部の点 $P$ に対して、3 つの角のうち最も小さいものを $m(P)=\min(\angle PAB,\angle PBC,\angle PCA)$ とすると、$m(P)\le\omega$ で、等号は $P=\Omega$ のときに限る(段 3 の議論で「3 つとも $\omega$ 以上で、どれか 1 つが $\omega$ より大きい」としても、同じく積が $1$ より大きくなって矛盾する)。つまり Brocard 点は「最も小さい角をできるだけ大きくする点」で、その最大値が Brocard 角である。このような「最小値の最大化」(マックスミン)は、最適化やゲーム理論でよく現れる形である。図 4 は、辺 $3,4,5$ の三角形で $m(P)$ の等高線を描いたもので、山の頂上が $\Omega$、高さは $\omega=25.64\ldots^\circ$ である。問題の $30^\circ$ は、どの三角形でも使える $\omega$ の上限(thm-broc-30)である。
辺 3, 4, 5 の三角形で、3 つの角 PAB、PBC、PCA のうち最小のものの等高線。最小の角が最も大きくなる点が Brocard 点 Ω である
def-broc・thm-broc-main・thm-broc-30 と 1991 年の問題の条件を外すと、何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 3 つの角が等しい(2 つだけにする) | 直角二等辺三角形の点 $P\left(1,2-\sqrt3\right)$ | 点がただ 1 つであること |
| 三角形が正三角形 | 辺 $3,4,5$ の三角形 | $\omega=30^\circ$、$\Omega=\Omega'$ |
| $P$ が三角形の内部にある(1991 年の問題) | 正三角形の外の点 $P(3,3)$ | 3 つの角のどれかが $30^\circ$ 以下 |
2 行目は ex-broc-cot (2) で確かめた($\omega=25.64\ldots^\circ<30^\circ$。$\Omega\ne\Omega'$ は prop-broc-isogonal の後の説明による)。
ex-broc-start の三角形 $A(0,4)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$ と、ex-broc-circles の (i) の円(中心 $(0,2)$、半径 $2$)の上の点 $P\left(1,2-\sqrt3\right)$ をとる。$1^2+\left(2-\sqrt3-2\right)^2=1+3=4$ なので円の上にあり、$x+y=3-\sqrt3<4$、$x>0$、$y>0$ なので三角形の内部にある。
この点では $\angle PAB=\angle PBC=15^\circ$ だが、$\angle PCA=39.89\ldots^\circ$ である。
$\tan\angle PBC=\dfrac{2-\sqrt3}1=2-\sqrt3$、$\overrightarrow{AP}=\left(1,-2-\sqrt3\right)$ から $\tan\angle PAB=\dfrac1{2+\sqrt3}=2-\sqrt3$ で、$\tan15^\circ=2-\sqrt3$ なので $\angle PAB=\angle PBC=15^\circ$ である。ex-broc-start (3) と同じ計算で、$\overrightarrow{CP}=\left(-3,2-\sqrt3\right)$、$\overrightarrow{CA}=(-4,4)$ から $\tan\angle PCA=\dfrac{4+4\sqrt3}{20-4\sqrt3}=\dfrac{1+\sqrt3}{5-\sqrt3}$ で、$\angle PCA=39.89\ldots^\circ$ である。
正三角形 $A(0,3)$、$B(-\sqrt3,0)$、$C(\sqrt3,0)$ と、外の点 $P(3,3)$ をとる。
3 つの角は $\angle PAB=120^\circ$、$\angle PBC=32.37\ldots^\circ$、$\angle PCA=52.91\ldots^\circ$ で、3 つとも $30^\circ$ より大きい。
$\angle PAB$:$\overrightarrow{AP}=(3,0)$、$\overrightarrow{AB}=(-\sqrt3,-3)$ で、$\cos\angle PAB=\dfrac{-3\sqrt3}{3\cdot2\sqrt3}=-\dfrac12$ なので $120^\circ$。
$\angle PBC$:$\overrightarrow{BP}=\left(3+\sqrt3,3\right)$、$\overrightarrow{BC}$ は $x$ 軸の正の向きなので、$\tan\angle PBC=\dfrac3{3+\sqrt3}=0.63\ldots>\tan30^\circ=0.57\ldots$ で、$32.37\ldots^\circ$。
$\angle PCA$:$\overrightarrow{CP}=\left(3-\sqrt3,3\right)$ の向きは $67.08\ldots^\circ$、$\overrightarrow{CA}=\left(-\sqrt3,3\right)$ の向きは $120^\circ$ なので、差は $52.91\ldots^\circ$。
三角形の内部の点 $P$ を $P=\alpha A+\beta B+\gamma C$($\alpha+\beta+\gamma=1$)と表したときの比 $(\alpha:\beta:\gamma)$ を重心座標という(重心座標)。第 1 Brocard 点の重心座標は
$$
\Omega=\left(\frac1{b^2}:\frac1{c^2}:\frac1{a^2}\right),\qquad\Omega'=\left(\frac1{c^2}:\frac1{a^2}:\frac1{b^2}\right)
$$
であることが知られている(この記事では証明しない)。
辺 $3,4,5$ の三角形 $A(0,3)$、$B(0,0)$、$C(4,0)$($a^2=16$、$b^2=25$、$c^2=9$)では、$\Omega=\dfrac{\frac1{25}A+\frac19B+\frac1{16}C}{\frac1{25}+\frac19+\frac1{16}}=\left(\dfrac{900}{769},\dfrac{432}{769}\right)$ で、3 つの角がどれも $\omega=25.64\ldots^\circ$ になることを数値で確かめられる。
2 つの式は prop-broc-isogonal と合っている。等角共役点の重心座標は $(\alpha:\beta:\gamma)\mapsto\left(\dfrac{a^2}\alpha:\dfrac{b^2}\beta:\dfrac{c^2}\gamma\right)$ なので(等角共役)、$\Omega$ の像は $(a^2b^2:b^2c^2:c^2a^2)$ で、各成分を $a^2b^2c^2$ で割ると $\left(\dfrac1{c^2}:\dfrac1{a^2}:\dfrac1{b^2}\right)=\Omega'$ である。
外心 $O$ と、重心の等角共役点である類似重心 $K$(類似重心)を直径の両端とする円を Brocard 円 という。2 つの Brocard 点は Brocard 円の上にあることが知られている(この記事では証明しない)。
外心は斜辺 $CA$ の中点 $O\left(2,\dfrac32\right)$、類似重心は重心座標 $(a^2:b^2:c^2)=(16:25:9)$ の点 $K=\dfrac{16A+25B+9C}{50}=\left(\dfrac{18}{25},\dfrac{24}{25}\right)$ である。点 $X$ が $OK$ を直径とする円の上にあることは、$\overrightarrow{XO}\cdot\overrightarrow{XK}=0$ と同じである。$\Omega\left(\dfrac{900}{769},\dfrac{432}{769}\right)$、$\Omega'\left(\dfrac{576}{769},\dfrac{1200}{769}\right)$ のどちらでもこの内積は $0$ になる(sympy で確認)。
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