アフィン代数的集合

同義語:affine algebraic set

概要

アフィン代数的集合(affine algebraic set)とは、体 $k$ 上のアフィン空間 $\mathbb{A}^n(k)$ の部分集合で、多項式族の共通零点集合として表されるものである。多項式イデアル $I$ から零点集合 $V(I)$ を作る操作と、点集合 $X$ から消滅イデアル $I(X)$ を作る操作は包含関係を逆転させる。代数的集合はZariski位相の閉集合をなし、その座標環は $k[x_1,\ldots,x_n]/I(X)$ である。代数閉体上ではHilbertの零点定理により、代数的集合と根基イデアルが対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体, 多項式環, イデアル

定義

$k$ を体、$n$ を正の整数とし、$k$ 上の $n$ 次元アフィン空間を集合として
$$ \mathbb{A}^n(k):=k^n $$
と書く。多項式環 $k[x_1,\ldots,x_n]$ の元は、各点 $a=(a_1,\ldots,a_n)\in\mathbb{A}^n(k)$ で値 $f(a)$ を持つ。

零点集合

多項式の集合 $S\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$ に対し、その零点集合を
$$ V_k(S):=\{a\in k^n\mid f(a)=0\text{ がすべての }f\in S\text{ に対して成り立つ}\} $$
と定める。体が明らかなときは $V(S)$ と略記する。一つの多項式 $f$ に対する $V(f):=V(\{f\})$ をアフィン超曲面という。

アフィン代数的集合

$\mathbb{A}^n(k)$ の部分集合 $X$ がアフィン代数的集合(affine algebraic set)であるとは、ある集合 $S\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$ により
$$ X=V_k(S) $$
と書けることをいう。

有限個の多項式を同時に零とする条件だけで定義しても同じ概念になる。実際、$S$ が生成するイデアルを $(S)$ とすると $V(S)=V((S))$ であり、Hilbertの基底定理により $k[x_1,\ldots,x_n]$ の各イデアルは有限生成である。したがって $(S)=(f_1,\ldots,f_r)$ と書けて、$V(S)=V(f_1,\ldots,f_r)=V(f_1)\cap\cdots\cap V(f_r)$ となる。どのアフィン代数的集合も有限個のアフィン超曲面の共通部分である(Ful08 §1.4, Theorem 1)。

消滅イデアル

部分集合 $Y\subseteq\mathbb{A}^n(k)$ に対し、$Y$ 上で恒等的に消える多項式全体
$$ I(Y):=\{f\in k[x_1,\ldots,x_n]\mid f(a)=0\text{ がすべての }a\in Y\text{ に対して成り立つ}\} $$
を $Y$ の消滅イデアルという。アフィン代数的集合 $X$ の座標環を
$$ k[X]:=k[x_1,\ldots,x_n]/I(X) $$
と定める。

$I(Y)$ は実際にイデアルである。二つの多項式が $Y$ 上で消えればその和も消え、$f$ が $Y$ 上で消えれば任意の多項式 $h$ に対して $hf$ も $Y$ 上で消えるからである。さらに $I(Y)$ は根基イデアルである。$f^m$ が $Y$ の各点で消えれば、体の中で $f(a)^m=0$ から $f(a)=0$ が従うからである。座標環 $k[X]$ の元は、$X$ 上の関数として同じものを同一視した多項式関数と考えられる。

零点集合とイデアルの対応

$V$ は多項式の条件を点の集合へ移し、$I$ は点の集合をその上で消えるすべての方程式へ移す。どちらも包含関係の向きを逆にする。

零点集合の基本公式

$R:=k[x_1,\ldots,x_n]$ とし、$I,J$ を $R$ のイデアル、$(I_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ をイデアルの族とする。このとき次が成り立つ。

  1. $I\subseteq J$ ならば $V(J)\subseteq V(I)$。
  2. $V(0)=\mathbb{A}^n(k)$、$V(R)=\emptyset$。
  3. $V\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}I_\lambda\right)=\bigcap_{\lambda\in\Lambda}V(I_\lambda)$。
  4. $V(IJ)=V(I\cap J)=V(I)\cup V(J)$。
  5. $V(I)=V(\sqrt I)$。

包含 $I\subseteq J$ のもとで $a\in V(J)$ なら、特に $I$ の全要素が $a$ で消えるので $a\in V(I)$ である。零多項式は全点で消え、$1$ はどの点でも消えないため、2も従う。
点 $a$ が $V(\sum_\lambda I_\lambda)$ に属することは、すべての $I_\lambda$ の全要素が $a$ で消えることと同値なので、3が成り立つ。
$IJ\subseteq I\cap J$ より $V(I\cap J)\subseteq V(IJ)$ である。一方、$a\in V(IJ)$ とする。$a\notin V(I)$ ならば $f(a)\ne0$ となる $f\in I$ が存在する。任意の $g\in J$ に対し $fg\in IJ$ だから $f(a)g(a)=0$ であり、$f(a)\ne0$ より $g(a)=0$ を得る。従って $a\in V(J)$ である。よって $V(IJ)\subseteq V(I)\cup V(J)$ である。逆包含は、$a\in V(I)$ または $a\in V(J)$ ならば $IJ$ の各積が $a$ で消えることから従う。また $I\cap J\subseteq I,J$ より $V(I)\cup V(J)\subseteq V(I\cap J)$ なので、4を得る。
$I\subseteq\sqrt I$ より $V(\sqrt I)\subseteq V(I)$ である。逆に $a\in V(I)$、$f\in\sqrt I$ とする。ある正の整数 $m$ について $f^m\in I$ なので $f(a)^m=0$、従って体 $k$ では $f(a)=0$ である。よって $a\in V(\sqrt I)$ となり、5を得る。

零点と方程式のGalois対応

$S\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$、$Y\subseteq\mathbb{A}^n(k)$ とする。このとき
$$ S\subseteq I(Y)\quad\Longleftrightarrow\quad Y\subseteq V(S) $$
が成り立つ。その結果、
$$ V(I(V(S)))=V(S),\qquad I(V(I(Y)))=I(Y) $$
が成り立つ。

$S\subseteq I(Y)$ であることは、各 $f\in S$ がすべての $a\in Y$ で消えること、すなわち各 $a\in Y$ が $V(S)$ に属することと同値である。これが最初の同値である。
$S\subseteq I(V(S))$ なので、零点集合の包含反転性から
$$ V(I(V(S)))\subseteq V(S) $$
を得る。反対に、消滅イデアルの定義から $V(S)$ の各点では $I(V(S))$ の全要素が消えるので $V(S)\subseteq V(I(V(S)))$ である。従って最初の等式が成り立つ。
$Y\subseteq V(I(Y))$ なので、消滅イデアルの包含反転性から
$$ I(V(I(Y)))\subseteq I(Y) $$
を得る。逆包含 $I(Y)\subseteq I(V(I(Y)))$ は、最初の同値に $S=I(Y)$ を適用すれば従う。従って二つ目の等式も成り立つ。

特に、アフィン代数的集合 $X$ は $I(X)$ から完全に復元できる。すなわち $X=V(I(X))$ である。従って二つのアフィン代数的集合 $X,Y\subseteq\mathbb{A}^n(k)$ について
$$ X=Y\quad\Longleftrightarrow\quad I(X)=I(Y) $$
が成り立つ(Ful08 §1.3, (9))。ただし、任意のイデアル $I$ が $I(V(I))$ と等しいとは限らない。

Zariski位相

アフィン空間のZariski位相

$\mathbb{A}^n(k)$ のアフィン代数的集合を閉集合とする位相をZariski位相という。

この定義が位相を与えることは、上の基本公式から分かる。空集合と全空間は代数的集合であり、代数的集合の任意交叉と有限和は再び代数的集合である(Har77 I, Proposition 1.1)。Euclid位相とは違って、Zariski位相は方程式で閉じる操作に合わせて設計されている。アフィン代数的集合 $X$ には、$\mathbb{A}^n(k)$ のZariski位相からの相対位相を入れる。$X$ の閉集合は、$X$ に含まれるアフィン代数的集合である。

Zariski閉包

部分集合 $Y\subseteq\mathbb{A}^n(k)$ のZariski閉包は
$$ \overline{Y}^{\mathrm{Zar}}=V(I(Y)) $$
である。

$Y\subseteq V(I(Y))$ であり、右辺はアフィン代数的集合だから、$V(I(Y))$ は $Y$ を含むZariski閉集合である。
$X$ を $Y$ を含む任意のZariski閉集合とする。ある $S\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$ により $X=V(S)$ と書ける。$Y\subseteq V(S)$ なので、Galois対応から $S\subseteq I(Y)$ である。包含反転性により
$$ V(I(Y))\subseteq V(S)=X $$
となる。従って $V(I(Y))$ は $Y$ を含むすべてのZariski閉集合に含まれ、まさに $Y$ の閉包である。

アフィン直線では、閉集合をすべて書き出せる。ここから、Zariski位相が見慣れた位相とかなり違うことが分かる。

アフィン直線の閉集合

$k$ を無限体とする。$\mathbb{A}^1(k)$ のアフィン代数的集合は、有限部分集合と $\mathbb{A}^1(k)$ 全体だけである。特に、$\mathbb{A}^1(k)$ の空でない二つの開集合は必ず交わり、Zariski位相は Hausdorff でない。

有限集合 $\{a_1,\ldots,a_m\}$ は $V((x-a_1)\cdots(x-a_m))$ であり、空集合は $V(1)$、全体は $V(0)$ である。逆に $X=V(S)$ とする。$k[x]$ は単項イデアル整域なので $(S)=(g)$ となる $g$ があり、$X=V((S))=V(g)$ である。$g=0$ なら $X=\mathbb{A}^1(k)$ である。$g\ne0$ なら、$g$ の根は高々 $\deg g$ 個なので $X$ は有限集合である。
空でない開集合 $U_1,U_2$ の補集合は真部分の閉集合、すなわち有限集合 $F_1,F_2$ である。$k$ は無限だから $k\setminus(F_1\cup F_2)$ は空でなく、$U_1\cap U_2\ne\emptyset$ である。相異なる二点 $a,b$ を交わらない開近傍で分けられないので、Hausdorff でない。

$k$ が代数閉体の場合のこの記述は Har77 I, Example 1.1.1 にある。上の証明は代数閉性を使わず、$k$ が無限であることだけを使っている。
平面 $\mathbb{A}^2(k)=\mathbb{A}^1(k)\times\mathbb{A}^1(k)$ には、二つの位相が考えられる。$\mathbb{A}^2(k)$ 自身のZariski位相と、$\mathbb{A}^1(k)$ のZariski位相の積位相である。両者は一致しない。

Zariski位相は積位相ではない

$k$ を無限体とする。対角線 $\Delta=V(x-y)\subseteq\mathbb{A}^2(k)$ はZariski閉集合だが、$\mathbb{A}^1(k)\times\mathbb{A}^1(k)$ の積位相では閉集合でない。

$\Delta$ は多項式 $x-y$ の零点集合なので、$\mathbb{A}^2(k)$ のZariski閉集合である。積位相で $\Delta$ が閉だとすると、その補集合は開集合である。点 $(a,b)$($a\ne b$)は補集合に属するので、積位相の基本開集合 $U\times W$ で $(a,b)\in U\times W$ かつ $(U\times W)\cap\Delta=\emptyset$ となるものがある。後者は $U\cap W=\emptyset$ ということである。しかし prop-affine-algebraic-set-line により $U$ と $W$ は空でない $\mathbb{A}^1(k)$ の開集合なので交わる。これは矛盾である。

既約性と既約成分

座標軸の和 $V(xy)=V(x)\cup V(y)$ のように、代数的集合はより小さい代数的集合の和に分かれることがある。これ以上分かれないものを基本の部品と考える。

既約なアフィン代数的集合

空でないアフィン代数的集合 $X$ が既約であるとは、$X=X_1\cup X_2$ をアフィン代数的集合 $X_1,X_2$ の和に書くと、必ず $X=X_1$ または $X=X_2$ となることをいう。既約でない空でない代数的集合を可約という。

既約性と素イデアル

$k$ を任意の体とする。空でないアフィン代数的集合 $X$ が既約であることと、$I(X)$ が素イデアルであることは同値である。

$X$ は空でないので $1\notin I(X)$ であり、$I(X)$ は真のイデアルである。
$X$ が既約だとし、$fg\in I(X)$ とする。$X$ の各点で $f$ か $g$ のどちらかが消えるので
$$ X=(X\cap V(f))\cup(X\cap V(g)) $$
となる。右辺の二つは代数的集合 $X$ と $V(f)$、$X$ と $V(g)$ の共通部分なので代数的集合である。既約性より、例えば $X=X\cap V(f)$ であり、これは $f$ が $X$ 上で消えること、すなわち $f\in I(X)$ を意味する。もう一方の場合は $g\in I(X)$ である。したがって $I(X)$ は素イデアルである。
逆に $I(X)$ が素イデアルだとし、$X=X_1\cup X_2$ とする。消滅イデアルの定義から $I(X)=I(X_1)\cap I(X_2)\supseteq I(X_1)I(X_2)$ である。素イデアルが二つのイデアルの積を含めば、どちらか一方を含むので、例えば $I(X_1)\subseteq I(X)$ である。$X_1\subseteq X$ から逆の包含 $I(X)\subseteq I(X_1)$ も成り立つので $I(X_1)=I(X)$ となる。アフィン代数的集合は消滅イデアルから復元できるので、$X_1=V(I(X_1))=V(I(X))=X$ である。

この命題は Ful08 §1.5, Proposition 1 と同じ主張である。Har77 I, Corollary 1.4 も同じことを述べるが、そこでは $k$ を代数閉体とし、素イデアル $\mathfrak p$ に対して $I(V(\mathfrak p))=\mathfrak p$ を使っている。上の証明は $X$ が代数的集合であることだけを使うので、代数閉性は要らない。

代数的集合の降鎖条件

アフィン代数的集合の減少列 $X_1\supseteq X_2\supseteq\cdots$ は、ある番号から先で一定になる。

消滅イデアルを取ると増加列 $I(X_1)\subseteq I(X_2)\subseteq\cdots$ を得る。Hilbertの基底定理により $k[x_1,\ldots,x_n]$ はNoether環なので、この列はある $N$ から先で一定になる。$m\ge N$ なら $I(X_m)=I(X_N)$ であり、代数的集合は消滅イデアルから復元できるから $X_m=V(I(X_m))=V(I(X_N))=X_N$ である。

この降鎖条件から、どのアフィン代数的集合も有限個の既約な代数的集合の和 $X=X_1\cup\cdots\cup X_m$ に書け、$i\ne j$ で $X_i\not\subseteq X_j$ と要求すれば $X_i$ は並べ方を除いて一意に定まる。$X_i$ を $X$ の既約成分という(Ful08 §1.5, Theorem 2、Har77 I, Proposition 1.5)。

既約成分への分解の証明を開く

存在:有限個の既約な代数的集合の和に書けない空でない代数的集合の全体 $\mathcal S$ が空でないとする。prop-affine-algebraic-set-dcc により $\mathcal S$ には極小元 $X$ がある(極小元がなければ、真に減少する無限列が作れてしまう)。$X$ は既約でないので $X=X'\cup X''$、$X',X''\subsetneq X$ と書ける。極小性から $X'$ と $X''$ は $\mathcal S$ に属さず、それぞれ既約な集合の有限和である。すると $X$ もそうなり、矛盾する。得られた和から、ほかの成分に含まれる成分を除けば $X_i\not\subseteq X_j$ にできる。

一意性:$X=X_1\cup\cdots\cup X_m=Y_1\cup\cdots\cup Y_l$ を二つのそのような表示とする。各 $i$ について $X_i=\bigcup_j(X_i\cap Y_j)$ で、右辺の各項は代数的集合、$X_i$ は既約だから、ある $j$ で $X_i\subseteq Y_j$ となる。同じ理由で $Y_j\subseteq X_{i'}$ となる $i'$ がある。$X_i\subseteq X_{i'}$ と $X_i\not\subseteq X_{i'}$($i\ne i'$)から $i'=i$ であり、$X_i=Y_j$ となる。よって $\{X_1,\ldots,X_m\}\subseteq\{Y_1,\ldots,Y_l\}$ であり、役割を入れ替えて逆の包含も成り立つ。

無限体の上での消滅イデアル

有限体の上では、零でない多項式がすべての点で消えることがある。例えば $k=\mathbb F_q$ なら $x^q-x$ は $\mathbb{A}^1(\mathbb F_q)$ の全点で消える。無限体ではそうならない。

無限体上の全空間の消滅イデアル

$k$ を無限体とする。$f\in k[x_1,\ldots,x_n]$ がすべての $a\in k^n$ で $f(a)=0$ を満たせば、$f=0$ である。すなわち $I(\mathbb{A}^n(k))=0$ である。

$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では、零でない一変数多項式の根は高々次数の個数しかないので、無限個の点で消える $f$ は $0$ である。
$n\ge2$ とし、$f=\sum_{i=0}^d g_i(x_1,\ldots,x_{n-1})\,x_n^i$ と書く。$(a_1,\ldots,a_{n-1})\in k^{n-1}$ を固定すると、一変数多項式 $f(a_1,\ldots,a_{n-1},x_n)$ はすべての $x_n\in k$ で消えるので、$n=1$ の場合から係数 $g_i(a_1,\ldots,a_{n-1})$ はすべて $0$ である。$(a_1,\ldots,a_{n-1})$ は任意なので、帰納法の仮定から各 $g_i=0$ であり、$f=0$ となる。

この事実は Ful08 §1.3, (7) に述べられ、その検証は同書 §1.1 の問題 1.4 に委ねられている。上の証明はその問題の解答である。

座標軸の和の消滅イデアル

$k$ を無限体とすると、$I(V(xy))=(xy)$ である。

$(xy)\subseteq I(V(xy))$ は明らかである。逆に $f\in k[x,y]$ が $V(xy)=V(x)\cup V(y)$ で消えるとする。$f$ の単項式を、$x$ だけを含むもの、$y$ だけを含むもの、両方を含むもの、定数項に分けて
$$ f=c+x\,a(x)+y\,b(y)+xy\,h(x,y) $$
と書ける。$y$ 軸 $x=0$ 上で消えることから、一変数多項式 $c+y\,b(y)$ は $k$ の全点で消え、prop-affine-algebraic-set-infinite-field により $c=0$、$b=0$ である。$x$ 軸 $y=0$ 上で同様に $a=0$ を得る。したがって $f=xy\,h\in(xy)$ である。

例

アフィン空間・空集合・一点

基本的な例は
$$ \mathbb{A}^n(k)=V(0),\qquad \emptyset=V(1) $$
である。また $a=(a_1,\ldots,a_n)\in k^n$ に対して
$$ \{a\}=V(x_1-a_1,\ldots,x_n-a_n) $$
である。従って有限個の点の集合もアフィン代数的集合である。$k$ が無限体なら $I(\mathbb{A}^n(k))=0$ なので、$\mathbb{A}^n(k)$ は既約であり、座標環は多項式環 $k[x_1,\ldots,x_n]$ そのものである。

座標軸の和

$\mathbb{A}^2(k)$ で
$$ V(xy)=V(x)\cup V(y) $$
である。右辺は $y$ 軸と $x$ 軸の和である。$k$ が無限体なら prop-affine-algebraic-set-axes-ideal により $I(V(xy))=(xy)$ であり、これは素イデアルでない($xy\in(xy)$ だが $x,y\notin(xy)$)。実際 $V(xy)$ は二本の軸に分かれて可約であり、二本の軸 $V(x)$、$V(y)$ がその既約成分である。

放物線

$k$ を無限体とし、$X=V(y-x^2)\subseteq\mathbb{A}^2(k)$ を放物線とする。写像
$$ k\to X,\qquad t\mapsto(t,t^2) $$
は点集合として全単射であり、座標環は
$$ k[X]=k[x,y]/(y-x^2)\cong k[x] $$
である。この同型は $y$ の類を $x^2$ へ送ることによって得られる。等式 $I(X)=(y-x^2)$ は次のように確かめる。$f\in I(X)$ を $y-x^2$ で割ると $f=(y-x^2)q+r(x)$ と書け、$r(t)=f(t,t^2)=0$ がすべての $t\in k$ で成り立つので $r=0$ となるからである。$k[x]$ は整域なので $I(X)$ は素イデアルであり、放物線は既約である。

実数体上の代数的集合は超曲面

$k=\mathbb R$ では、実数の平方和が $0$ になるのは各項が $0$ のときだけなので
$$ V(f_1,\ldots,f_r)=V(f_1^2+\cdots+f_r^2) $$
である。したがって $\mathbb{A}^n(\mathbb R)$ のアフィン代数的集合はすべて一つの多項式の零点集合である。例えば原点は $V(x,y)=V(x^2+y^2)\subseteq\mathbb{A}^2(\mathbb R)$ と書ける。複素数体上では $x^2+y^2=(x+iy)(x-iy)$ の零点は二本の直線になり、同じ式が違う集合を表す。

反例と注意

次の表は、この記事の主張から条件を一つ外したときに何が起こるかをまとめたものである。各行の確認は表の下のボックスと本文の命題にある。

外す条件反例成り立たなくなること
根基イデアルに限ること$(x)$ と $(x^2)$$V(I)=V(J)$ ならば $I=J$
$k$ が代数閉体$\mathbb R[x]$ の $(x^2+1)$$I(V(I))=\sqrt I$(Hilbertの零点定理)
$k$ が無限体$k=\mathbb F_q$、$f=x^q-x$$I(\mathbb{A}^n(k))=0$
方程式で定まる集合$[0,1]\subseteq\mathbb{A}^1(\mathbb R)$Euclid位相の閉集合はZariski閉
閉集合の射影$V(xy-1)$ を $x$ 軸へ射影代数的集合の像は代数的集合
積位相対角線 $V(x-y)$$\mathbb{A}^2$ のZariski位相は $\mathbb{A}^1\times\mathbb{A}^1$ の積位相
同じ零点集合を持つ異なるイデアル

$k[x]$ の異なるイデアル $(x)$ と $(x^2)$ は
$$ V(x)=V(x^2)=\{0\} $$
を満たす。従って「$V(I)=V(J)$ ならば $I=J$」という含意は成り立たない。零点集合は冪零的な重複度を忘れ、常に $V(I)=V(\sqrt I)$ となる。$(x^2)$ は根基イデアルでなく、$\sqrt{(x^2)}=(x)$ である。

代数閉性を外した零点定理の失敗

$\mathbb{R}[x]$ の真のイデアル $I=(x^2+1)$ を考える。実数解がないので
$$ V_{\mathbb{R}}(I)=\emptyset, \qquad I(V_{\mathbb{R}}(I))=I(\emptyset)=\mathbb{R}[x] $$
であり、$I(V(I))\ne\sqrt I=I$ である。これは「任意の真のイデアルが零点を持つ」という主張が代数閉でない体では偽であり、強い形のHilbertの零点定理 $I(V(I))=\sqrt I$ に代数閉性が必要であることを示す(Har77 I, Example 1.4.5)。$(x^2+1)$ は既約多項式が生成するので素イデアル、特に根基イデアルだが、どんな点集合の消滅イデアルにもならない。

有限体では全体の消滅イデアルが零でない

$k=\mathbb F_q$ を $q$ 元体とする。乗法群 $\mathbb F_q^\times$ の位数は $q-1$ なので、$a\ne0$ なら $a^{q-1}=1$、よって $a^q=a$ である。$a=0$ でも成り立つ。したがって零でない多項式 $x^q-x$ は $\mathbb{A}^1(\mathbb F_q)$ の全点で消え、$I(\mathbb{A}^1(\mathbb F_q))\ne0$ となる。無限体の仮定を外すと prop-affine-algebraic-set-infinite-field は成り立たない。さらに $\mathbb{A}^n(\mathbb F_q)$ は有限集合なので、その任意の部分集合は有限個の点の和として代数的集合になる。

Euclid位相の閉集合は代数的とは限らない

閉区間 $[0,1]\subseteq\mathbb{A}^1(\mathbb R)$ は通常の位相では閉集合だが、無限集合で $\mathbb{A}^1(\mathbb R)$ 全体でもない。prop-affine-algebraic-set-line により、これはアフィン代数的集合でない。Zariski閉集合は Euclid 位相でも閉だが(多項式は連続なので)、逆は成り立たない。

射影の像は代数的とは限らない

$k$ を無限体とし、双曲線 $X=V(xy-1)\subseteq\mathbb{A}^2(k)$ を第一座標への射影 $(x,y)\mapsto x$ で写す。$(x,y)\in X$ なら $x\ne0$ であり、逆に $x\ne0$ なら $(x,x^{-1})\in X$ なので、像は $k\setminus\{0\}$ である。これは無限集合で全体でもないので、prop-affine-algebraic-set-line により代数的集合でない。代数的集合の多項式写像による像は、一般にはZariski閉ではない。

代数閉体 $k$ 上では、Hilbertの零点定理によりすべてのイデアル $I\subseteq k[x_1,\ldots,x_n]$ に対して
$$ I(V(I))=\sqrt I $$
が成り立つ(Har77 I, Theorem 1.3A)。この記事ではこの定理を証明しない。これを認めると、代数閉体上では、アフィン代数的集合と根基イデアルが包含を逆にして一対一に対応し、既約な代数的集合は素イデアルに、点は極大イデアルに対応する(Har77 I, Corollary 1.4 と Example 1.4.4)。
「アフィン代数多様体」という語には流儀の差がある。古典的には既約なアフィン代数的集合だけを多様体と呼ぶことがある一方、既約性を課さず有限型の被約アフィンスキームを指すこともある。単に「多様体」と書かず、採用する規約を明示する必要がある。

関連項目

参考文献

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