平方剰余の相互法則(law of quadratic reciprocity)とは、相異なる奇素数 $p,q$ について Legendre 記号が $\left(\frac pq\right)\left(\frac qp\right)=(-1)^{\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2}$ を満たすという定理である。$p,q$ の一方が $4$ で割って $1$ 余れば「$p$ が法 $q$ の平方剰余か」と「$q$ が法 $p$ の平方剰余か」の答は一致し、両方が $4$ で割って $3$ 余れば逆になる。たとえば $\left(\frac3{101}\right)=\left(\frac{101}3\right)=-1$ である。$-1$ と $2$ の補充法則と合わせて、平方剰余の判定を小さな法に移せる。Gauss が 1801 年に最初の証明を与えた。
前提知識: 合同式, 素数, 平方剰余, Legendre記号
$3$ は $101$ を法として平方数と合同になるか、すなわち $x^2\equiv3\pmod{101}$ となる整数 $x$ はあるか。直接確かめるには $1^2,2^2,\dots,50^2$ を $101$ で割った余りをすべて調べる必要がある。ところが、平方剰余の相互法則を使うと問題は小さな法に移る。$101$ は $4$ で割って $1$ 余る素数なので、「$3$ が $101$ を法とする平方剰余か」と「$101$ が $3$ を法とする平方剰余か」の答は一致する。$101\equiv2\pmod3$ であり、$3$ を法とする平方は $0^2\equiv0$、$1^2\equiv2^2\equiv1$ だけなので $2$ は平方と合同にならない。したがって $3$ も $101$ を法とする平方剰余ではない。同じように、$29\equiv1\pmod4$ なので $7$ が $29$ を法とする平方剰余かどうかは $29\equiv1\pmod7$ が平方剰余かどうかと同じで、$1=1^2$ なので答は「なる」である。実際 $6^2=36\equiv7\pmod{29}$ である。
このように、相異なる奇素数 $p,q$ について「$p$ が $q$ を法とする平方剰余か」と「$q$ が $p$ を法とする平方剰余か」という一見無関係な 2 つの問いを結びつけるのが 平方剰余の相互法則 である。2 つの答は、$p,q$ の少なくとも一方が $4$ で割って $1$ 余れば一致し、両方が $4$ で割って $3$ 余れば食い違う。Euler が多くの例から規則性を見いだし、Legendre が定式化して証明を試み、Gauss が 1801 年の『整数論研究』で初めて完全な証明を与えた(rem-qr-history)。本記事では主張を述べ、Gauss の補題と格子点の数え上げによる Eisenstein の証明を完全に書き、補充法則、Jacobi 記号への拡張、平方剰余の判定への応用を扱う。平方剰余そのものの定義と基本性質(Euler の規準など)は 平方剰余 の記事で扱う。
以下、$p$ は奇素数($2$ でない素数)とし、整数 $a,b$ について $a\equiv b\pmod p$ は $p\mid a-b$ を表す(合同式)。$p$ で割り切れない整数 $a$ が $p$ を法とする 平方剰余 であるとは、$x^2\equiv a\pmod p$ を満たす整数 $x$ が存在することであり、存在しないとき 平方非剰余 であるという(平方剰余 の記事の定義「平方剰余と平方非剰余」)。
奇素数 $p$ と整数 $a$ に対し
$$
\left(\frac{a}{p}\right):=\begin{cases}1&(p\nmid a\text{ で、}a\text{ は }p\text{ を法とする平方剰余}),\\-1&(p\nmid a\text{ で、}a\text{ は }p\text{ を法とする平方非剰余}),\\0&(p\mid a)\end{cases}
$$
と定め、Legendre 記号という(Legendre記号)。
$\left(\frac ap\right)$ は $a$ の法 $p$ の剰余類だけで決まる。以下の証明では、平方剰余 の記事で証明されている次の事実を使う。
$p,q$ を相異なる奇素数とすると
$$
\left(\frac pq\right)\left(\frac qp\right)=(-1)^{\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2}
$$
である。すなわち、$p\equiv1\pmod4$ または $q\equiv1\pmod4$ ならば $\left(\frac pq\right)=\left(\frac qp\right)$ であり、$p\equiv q\equiv3\pmod4$ ならば $\left(\frac pq\right)=-\left(\frac qp\right)$ である。
$p,q$ は相異なる素数なので $\left(\frac pq\right),\left(\frac qp\right)$ はどちらも $\pm1$ であり、左辺は $\pm1$ である。右辺の指数 $\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2$ が奇数になるのは、$\frac{p-1}2$ と $\frac{q-1}2$ がともに奇数、すなわち $p\equiv q\equiv3\pmod4$ のときに限る。これが言い換えの部分である。証明は節「証明」で、lem-qr-gauss、lem-qr-eisenstein、lem-qr-lattice を準備してから prf-qr-main で与える。
相互法則は $\pm1$ と $2$ について述べる次の補充法則と組み合わせて使う。
$p$ を奇素数とする。
1 は Euler の規準から従い、平方剰余 の記事の系「−1 が平方剰余となる素数」で証明されている。2 は lem-qr-gauss から prf-qr-second-supplementary で証明する。
$q$ を固定して、「$q$ が $p$ を法とする平方剰余になる素数 $p$」を集めると、その判定は $p$ を $4q$ で割った余りだけで決まる。たとえば $3$ が平方剰余になる素数は $11,13,23,37,47,59,61,71,73,83,97,\dots$ で、どれも $12$ で割って $1$ か $11$ 余る(cor-qr-three)。法 $p$ ごとに平方を計算して決まるはずの性質が、$p$ の簡単な合同条件で決まるというのは自明なことではない。相互法則は、この規則性の正体が「$q$ を法とする $p$ の性質」への読み替えであることを述べている。
Eisenstein の証明の要点は、$\left(\frac qp\right)$ の符号を「長方形の中の格子点のうち対角線の下にあるものの個数の偶奇」で表すことにある。$\left(\frac pq\right)$ は同じ長方形の対角線の上にある格子点の個数の偶奇で表されるので、2 つを掛けると長方形の中の格子点の総数 $\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2$ の偶奇が残る(lem-qr-lattice)。
$p=3$、$q=11$ はどちらも $4$ で割って $3$ 余る。法 $11$ の平方剰余は $1,3,4,5,9$ なので $\left(\frac3{11}\right)=1$($5^2=25\equiv3$)であるが、$11\equiv2\pmod3$ なので $\left(\frac{11}3\right)=\left(\frac23\right)=-1$ である。この例は「$p$ か $q$ が $4$ で割って $1$ 余る」という条件を破っており、「つねに $\left(\frac pq\right)=\left(\frac qp\right)$」という素朴な対称性の含意を破る。thm-qr-main の右辺の符号 $(-1)^{\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2}$ は省けない。
以下 $h:=\frac{p-1}2$ とおく。整数 $b$ に対し、$b$ と $p$ を法として合同な整数のうち $-h\le r\le h$ を満たすものがただ 1 つある。これを $b$ の 絶対値最小剰余 という(除法の原理 の記事の命題「絶対値最小の余り」)。
$p$ を奇素数、$a$ を $p$ で割り切れない整数とし、$a,2a,\dots,ha$ の絶対値最小剰余のうち負のものの個数を $\nu$ とする。このとき次が成り立つ。
$1\le k\le h$ について $ka$ の絶対値最小剰余を $\rho_k$ とおく。$p\nmid k$、$p\nmid a$ なので Euclidの補題 により $p\nmid ka$ であり、$\rho_k\neq0$、$1\le|\rho_k|\le h$ である。
たとえば $p=7$、$a=3$ では $h=3$ で、$3,6,9$ の絶対値最小剰余は $3,-1,2$ である。負のものは 1 個なので $\left(\frac37\right)=-1$ であり、確かに法 $7$ の平方剰余 $1,2,4$ に $3$ は含まれない。絶対値 $3,1,2$ には $1,2,3$ がちょうど 1 回ずつ現れている。
thm-qr-supplementary の 2 を示す。lem-qr-gauss を $a=2$ に使う。$2k$($1\le k\le h$)は $2\le2k\le p-1$ なので、その絶対値最小剰余は $2k\le h$ なら $2k$、$2k>h$ なら $2k-p<0$ である。$2k>h$ は $2k>\frac{p-1}2$、すなわち $k>\frac{p-1}4$ と同値であり、そのような $k\le h$ の個数は $\nu=h-\lfloor\frac{p-1}4\rfloor$ である($\lfloor\cdot\rfloor$ は床関数)。$p$ を $8$ で割った余りで場合分けすると、$p=8m+r$ として
$$
\begin{array}{c|cccc}
r&1&3&5&7\\\hline
h&4m&4m+1&4m+2&4m+3\\
\lfloor\frac{p-1}4\rfloor&2m&2m&2m+1&2m+1\\
\nu&2m&2m+1&2m+1&2m+2
\end{array}
$$
である。よって $\nu$ が偶数、すなわち $\left(\frac2p\right)=1$ となるのは $p\equiv\pm1\pmod8$ のときに限る。一方 $\frac{p^2-1}8$ は、$p=8m\pm1$ なら $8m^2\pm2m$ で偶数、$p=8m\pm3$ なら $8m^2\pm6m+1$ で奇数であり、$(-1)^{(p^2-1)/8}$ も同じ規則に従う。$\square$
たとえば $2$ は法 $7$ で平方剰余($3^2\equiv2$)、法 $17$ で平方剰余($6^2=36\equiv2$)、法 $3,5,11,13$ では平方非剰余である。
$p$ を奇素数、$a$ を $p$ で割り切れない 奇数 とすると
$$
\left(\frac ap\right)=(-1)^{S(a,p)},\qquad S(a,p):=\sum_{x=1}^{h}\left\lfloor\frac{ax}p\right\rfloor
$$
である。
$1\le x\le h$ について $ax=p\lfloor ax/p\rfloor+r_x$、$0< r_x< p$ とする($p\nmid ax$)。$ax$ の絶対値最小剰余は、$r_x\le h$ なら $r_x$、$r_x>h$ なら $r_x-p$ である。前者の $r_x$ を $u_1,\dots,u_{h-\nu}$、後者について $v_j:=p-r_x$ とおいたものを $v_1,\dots,v_\nu$ とすると、$\nu$ は lem-qr-gauss の $\nu$ であり、同補題の 1 により $\{u_i\}\cup\{v_j\}=\{1,\dots,h\}$(重複なし)である。
$T:=\sum_{x=1}^hx=\sum_iu_i+\sum_jv_j$ とおく。$ax=p\lfloor ax/p\rfloor+r_x$ を $x=1,\dots,h$ について足すと
$$
aT=pS(a,p)+\sum_iu_i+\sum_j(p-v_j)=pS(a,p)+\nu p+\sum_iu_i-\sum_jv_j
$$
である。$a$ と $p$ は奇数なので、両辺を $2$ を法として見ると $aT\equiv T$、$pS\equiv S$、$\nu p\equiv\nu$、$-\sum v_j\equiv\sum v_j$ であり
$$
T\equiv S(a,p)+\nu+\sum_iu_i+\sum_jv_j=S(a,p)+\nu+T\pmod2
$$
となる。よって $S(a,p)\equiv\nu\pmod2$ であり、lem-qr-gauss の 2 から $\left(\frac ap\right)=(-1)^\nu=(-1)^{S(a,p)}$ を得る。$\square$
$a$ が奇数という仮定は $aT\equiv T\pmod2$ で使った。$a=2$ では $S(2,p)=\sum_{x\le h}\lfloor2x/p\rfloor=0$($2x\le p-1$)であり、$(-1)^{S(2,p)}=1$ は $p\equiv\pm3\pmod8$ のとき $\left(\frac2p\right)=-1$ と一致しない。したがって偶数の $a$ にはこの補題を使えず、$2$ は第 2 補充法則で別に扱う。
$p,q$ を相異なる奇素数とし、$h=\frac{p-1}2$、$k=\frac{q-1}2$ とおくと
$$
\sum_{x=1}^{h}\left\lfloor\frac{qx}p\right\rfloor+\sum_{y=1}^{k}\left\lfloor\frac{py}q\right\rfloor=hk
$$
である。
平面の格子点 $(x,y)$($x,y$ は整数)で $1\le x\le h$、$1\le y\le k$ を満たすものの集合を $R$ とすると、$R$ はちょうど $hk$ 個の点からなる。$R$ の点で $py=qx$ となるものはない。実際 $py=qx$ なら $p\mid qx$ で、$p\nmid q$ なので $p\mid x$ となるが、$1\le x\le h< p$ である。したがって $R$ の点は $qx>py$(直線 $y=\frac qpx$ の下)か $qx< py$(上)のどちらか一方を満たす。
$x$ を固定すると、$qx>py$ を満たす $R$ の点 $(x,y)$ は $1\le y<\frac{qx}p$ かつ $y\le k$ のものである。$x\le h$ なら $\frac{qx}p\le\frac{q(p-1)}{2p}<\frac q2$ であり、$q$ は奇数なので $\frac q2$ より小さい整数は $k=\frac{q-1}2$ 以下である。よって条件 $y\le k$ は自動的に満たされ、そのような $y$ は $\lfloor qx/p\rfloor$ 個ある($qx/p$ は整数でない)。$x=1,\dots,h$ について足すと、直線の下にある点は $\sum_{x=1}^h\lfloor qx/p\rfloor$ 個である。$p$ と $q$、$x$ と $y$ の役割を入れ替えた同じ議論で、直線の上にある点は $\sum_{y=1}^k\lfloor py/q\rfloor$ 個である。両者の和が $R$ の点の総数 $hk$ に等しい。$\square$
$p=5$、$q=7$ では $h=2$、$k=3$ で、$\lfloor7/5\rfloor+\lfloor14/5\rfloor=1+2=3$、$\lfloor5/7\rfloor+\lfloor10/7\rfloor+\lfloor15/7\rfloor=0+1+2=3$ であり、和 $6=2\cdot3$ が長方形の中の格子点の個数である。lem-qr-eisenstein によれば $\left(\frac75\right)=(-1)^3=-1$、$\left(\frac57\right)=(-1)^3=-1$ であり、ex-qr-computation の 2 と一致する。
thm-qr-main を示す。$h=\frac{p-1}2$、$k=\frac{q-1}2$ とおく。$p,q$ は相異なる奇素数なので、$q$ は $p$ で割り切れない奇数であり、$p$ も $q$ で割り切れない奇数である。lem-qr-eisenstein を 2 回使うと
$$
\left(\frac qp\right)=(-1)^{\sum_{x=1}^h\lfloor qx/p\rfloor},\qquad\left(\frac pq\right)=(-1)^{\sum_{y=1}^k\lfloor py/q\rfloor}
$$
であり、掛け合わせて lem-qr-lattice を使うと
$$
\left(\frac pq\right)\left(\frac qp\right)=(-1)^{hk}=(-1)^{\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2}
$$
を得る。$\square$
この証明は Eisenstein によるもので、Gauss の補題を格子点の偶奇に読み替える点が要である(Cla Chapter 5 §1.5、PDF pp. 80–81)。Ste17 の PDF 版 §4.3 は Gauss の補題から出発して別の数え方で証明し(Lemma 4.3.1、PDF pp. 82–83、第 2 補充法則は Proposition 4.3.5、PDF p. 87)、§4.4 は Gauss 和(Gauss和)を使う証明を与えている(PDF p. 88 から)。Sho08 の PDF 版 §12.1 も Gauss の補題(Theorem 12.2、PDF p. 362)、Eisenstein の補題と第 2 補充法則(Theorem 12.3、PDF p. 362)、相互法則(Theorem 12.4、PDF p. 363)の順に証明している。
$p\ge5$ を素数とすると、$3$ が $p$ を法とする平方剰余であることと $p\equiv\pm1\pmod{12}$ であることは同値である。
thm-qr-main を $q=3$ に使うと、符号は $(-1)^{\frac{p-1}2\cdot\frac{3-1}2}=(-1)^{(p-1)/2}$ なので $\left(\frac3p\right)=(-1)^{(p-1)/2}\left(\frac p3\right)$ である。$\left(\frac p3\right)$ は $p\equiv1\pmod3$ なら $1$、$p\equiv2\pmod3$ なら $-1$ であり、$(-1)^{(p-1)/2}$ は $p\equiv1\pmod4$ なら $1$、$p\equiv3\pmod4$ なら $-1$ である。$p\ge5$ は $2$ でも $3$ でも割り切れないので、$p$ を $12$ で割った余りは $1,5,7,11$ のどれかであり、それぞれ $(p\bmod3,\ p\bmod4)=(1,1),(2,1),(1,3),(2,3)$ に対応する。したがって $\left(\frac3p\right)$ は順に $1,-1,-1,1$ であり、主張を得る。$\square$
たとえば $p=11\equiv-1$ では $5^2=25\equiv3\pmod{11}$、$p=13\equiv1$ では $4^2=16\equiv3\pmod{13}$ であり、$p=7$ や $p=17$($\equiv5$)では $3$ は平方非剰余である。同じ方法で、$5\equiv1\pmod4$ なので $\left(\frac5p\right)=\left(\frac p5\right)$ となり、$p\neq5$ の奇素数について「$5$ が平方剰余 $\iff$ $p\equiv\pm1\pmod5$」が得られる(法 $5$ の平方剰余は $1,4$)。
一般に $q$ を奇素数とし、$p\neq q$ を奇素数とすると $\left(\frac qp\right)=(-1)^{\frac{p-1}2\cdot\frac{q-1}2}\left(\frac pq\right)$ である。右辺の $\left(\frac pq\right)$ は $p$ の法 $q$ の剰余類だけで、符号は $p$ の法 $4$ の剰余類だけで決まるので、$\left(\frac qp\right)$ は $p$ を $4q$ で割った余りだけで決まる。Euler はこの形の規則性を多くの例で見いだしていた。Gauss は『整数論研究』で、Euler が $x^2-A$ の素因数の形についてこの種の規則を帰納的に得ていたが証明できなかったこと、Legendre の証明の試みは証明されていない仮定に依っていたので自分の証明を最初のものとみなすべきことを述べている(Gau01 Art. 151)。
Legendre 記号は法が素数のときだけ定義される。計算の途中で素因数分解を避けるために、法を奇数に広げた記号を使う。
$n$ を正の奇数、$a$ を整数とする。$n=p_1p_2\cdots p_r$($p_i$ は奇素数、重複を許す。$n=1$ なら $r=0$)と素因数分解して
$$
\left(\frac an\right):=\prod_{i=1}^r\left(\frac a{p_i}\right)
$$
と定め、Jacobi 記号という(Jacobi記号)。右辺の各因子は Legendre 記号で、$n=1$ では空積 $1$ である。
$n$ が素数なら Legendre 記号と一致する。定義と Legendre 記号の乗法性から、$\left(\frac{ab}n\right)=\left(\frac an\right)\left(\frac bn\right)$、$\left(\frac a{mn}\right)=\left(\frac am\right)\left(\frac an\right)$ であり、$\left(\frac an\right)$ は $a$ の法 $n$ の剰余類だけで決まる。$\left(\frac an\right)=-1$ なら、ある $p_i$ で $\left(\frac a{p_i}\right)=-1$ なので、$a$ は $p_i$ を法として、したがって $n$ を法としても平方と合同にならない。しかし逆は成り立たない。
$n=21=3\cdot7$、$a=5$ とすると、$\left(\frac5{21}\right)=\left(\frac53\right)\left(\frac57\right)=\left(\frac23\right)\left(\frac57\right)=(-1)\cdot(-1)=1$ である。しかし法 $21$ の平方の余りは $0,1,4,7,9,15,16,18$ であり、$5$ は含まれない($5\equiv2\pmod3$ が法 $3$ の平方でないことからも分かる)。この例は法が素数であるという Legendre 記号の仮定を破っており、「記号の値が $1$ なら平方剰余」という含意は Jacobi 記号では成り立たない。
$m,n$ を正の奇数とする。
正の奇数 $m,n$ について
$$
\frac{mn-1}2-\frac{m-1}2-\frac{n-1}2=\frac{(m-1)(n-1)}2,\qquad\frac{m^2n^2-1}8-\frac{m^2-1}8-\frac{n^2-1}8=\frac{(m^2-1)(n^2-1)}8
$$
である。$m-1,n-1$ は偶数なので最初の右辺は偶数であり、$m^2-1=(m-1)(m+1)$ は $8$ で割り切れる(連続する 2 つの偶数の積)ので 2 番目の右辺も偶数である。したがって $\chi_1(n):=(-1)^{(n-1)/2}$、$\chi_2(n):=(-1)^{(n^2-1)/8}$ は正の奇数全体で乗法的($\chi(mn)=\chi(m)\chi(n)$)である。同じ理由で $\epsilon(m,n):=(-1)^{\frac{m-1}2\cdot\frac{n-1}2}$ は各変数について乗法的である。実際 $\frac{m-1}2\cdot\frac{nn'-1}2\equiv\frac{m-1}2\bigl(\frac{n-1}2+\frac{n'-1}2\bigr)\pmod2$ である。
ex-qr-computation の 3 の $\left(\frac{365}{1009}\right)$ を、素因数分解せずに thm-qr-jacobi だけで計算する。各段で分子を分母で割った余りに置き換え(Euclidの互除法と同じ操作)、相互法則で分子と分母を入れ替える。
$$
\left(\frac{365}{1009}\right)=\left(\frac{1009}{365}\right)=\left(\frac{279}{365}\right)=\left(\frac{365}{279}\right)=\left(\frac{86}{279}\right)=\left(\frac2{279}\right)\left(\frac{43}{279}\right)
$$
ここで $365\equiv1\pmod4$ なので 1 つ目と 3 つ目の入れ替えで符号は変わらない。$279\equiv7\pmod8$ なので $\left(\frac2{279}\right)=1$ であり、$43\equiv279\equiv3\pmod4$ なので
$$
\left(\frac{43}{279}\right)=-\left(\frac{279}{43}\right)=-\left(\frac{21}{43}\right)=-\left(\frac{43}{21}\right)=-\left(\frac1{21}\right)=-1
$$
である($21\equiv1\pmod4$)。よって $\left(\frac{365}{1009}\right)=-1$ であり、ex-qr-computation と一致する。$1009$ は素数なので、これは $365$ が $1009$ を法とする平方非剰余であることを意味する。途中の $279=3^2\cdot31$ や $21$ が素数でなくても計算は正しく進む。
Gauss は『整数論研究』(1801 年)第 4 章で、この定理を帰納によって見いだしたうえで「基本定理」(theorema fundamentale)と名づけ(Gau01 Art. 131)、最初の厳密な証明を与えた(Gau01 Art. 135 以下)。Gauss はその後も別の証明を発表し、現在では 200 を超える証明が知られている(Mos11 Chapter 5、p. 49 の出版者注。頁は 2011-07-31 版 PDF の印刷頁)。本記事の証明は Gauss の補題と Eisenstein による格子点の読み替えによるもので、Cla Chapter 5 §1.4–1.5(PDF pp. 79–81)、Sho08 の PDF 版 §12.1(PDF pp. 360–363)、Cri24 Chapter 17(Eisenstein の判定法は Theorem 17.2.8、PDF p. 321。偶数にわたる和の形で書かれており($a$ が奇数のとき)本記事の $S(a,p)$ と偶奇は一致する、証明は §17.6、PDF pp. 332–338)にある。Jacobi 記号は Sho08 §12.2–12.3(Theorem 12.5、PDF pp. 364–366)を参照。Gauss 和による証明の考え方は、3 次・4 次の剰余の相互法則へ一般化され、それらは Eisenstein らによって得られた(Cla PDF p. 72)。
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