Sobolev空間の基本事項(fundamentals of Sobolev spaces)とは、関数とその弱微分を同時に $L^p$ ノルムで制御する空間 $W^{k,p}$ の定義、完備性、滑らかな近似、Poincaré不等式、埋め込みとコンパクト性を、成立する領域と指数の条件とともに整理する理論である。古典微分できない関数を含みつつ、偏微分方程式の極限・境界値・弱解を関数解析の枠内で扱える。
前提知識: Lebesgue積分, Lp空間, 超関数, Hölderの不等式
古典微分は各点での差商を調べるが、偏微分方程式の極限過程では点ごとの微分可能性が失われやすい。Sobolev空間は、微分をテスト関数側へ移して定義する弱微分を使い、関数とその微分を同じ $L^p$ ノルムで制御する。これにより、折れ曲がりをもつ関数を含みながら、完備性、滑らかな近似、積分不等式、連続性への埋め込みを利用できる。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を開集合とする。多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)\in\mathbb{Z}_{\geq0}^n$ に対して $|\alpha|=\alpha_1+\cdots+\alpha_n$、$D^\alpha=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$ と書く。
$u,v\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ とする。任意の $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ に対して
$$
\int_\Omega uD^\alpha\varphi\,dx
=(-1)^{|\alpha|}\int_\Omega v\varphi\,dx
$$
が成り立つとき、$v$ を $u$ の $\alpha$ 階弱微分といい、$D^\alpha u=v$ と書く。弱微分は存在すればほとんど至るところ一意である。
$v$ と $w$ がともに $D^\alpha u$ ならば、$h:=v-w\in L^1_{\mathrm{loc}}(\Omega)$ は
$$
\int_\Omega h\varphi\,dx=0
$$
をすべての $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ について満たす。非負の標準軟化子 $\rho$ を取り、$\rho_\varepsilon(x)=\varepsilon^{-n}\rho(x/\varepsilon)$ とする。$x$ が境界から $\varepsilon$ より遠ければ、$y\mapsto\rho_\varepsilon(x-y)$ はテスト関数なので $(h*\rho_\varepsilon)(x)=0$ である。一方、軟化子近似により $h*\rho_\varepsilon\to h$ が任意の相対コンパクトな部分集合上で $L^1$ 収束する。したがって $h=0$ ほとんど至るところ、すなわち $v=w$ ほとんど至るところである。
$k\in\mathbb{Z}_{\geq0}$、$1\leq p\leq\infty$ とする。
$$
W^{k,p}(\Omega)
:=\{u\in L^p(\Omega)\mid D^\alpha u\in L^p(\Omega)\ \text{for every }|\alpha|\leq k\}
$$
を $\Omega$ 上のSobolev空間という。$1\leq p<\infty$ では
$$
\|u\|_{W^{k,p}(\Omega)}
:=\left(\sum_{|\alpha|\leq k}\|D^\alpha u\|_{L^p(\Omega)}^p\right)^{1/p},
$$
$p=\infty$ では
$$
\|u\|_{W^{k,\infty}(\Omega)}
:=\max_{|\alpha|\leq k}\|D^\alpha u\|_{L^\infty(\Omega)}
$$
とする。$H^k(\Omega):=W^{k,2}(\Omega)$ と書く。
$1\leq p<\infty$ に対し
$$
W_0^{k,p}(\Omega)
:=\overline{C_c^\infty(\Omega)}^{\,W^{k,p}(\Omega)}
$$
と定める。これは定義上、コンパクト台をもつ滑らかな関数でSobolevノルム近似できる元の空間である。一般の $W^{k,p}(\Omega)$ と同じとは限らない。
$I=(-1,1)$ 上の $u(x)=|x|$ は $x=0$ で古典微分可能でないが、
$$
v(x)=
\begin{cases}
-1,&x<0,\\
1,&x>0
\end{cases}
$$
を弱微分にもつ。実際、$\varphi\in C_c^\infty(I)$ に対して区間 $(-1,0)$ と $(0,1)$ で部分積分すると
$$
\int_{-1}^1|x|\varphi'(x)\,dx
=\int_{-1}^0(-x)\varphi'(x)\,dx+\int_0^1x\varphi'(x)\,dx
=-\int_{-1}^1v(x)\varphi(x)\,dx.
$$
原点で生じる境界項は左右で打ち消し合う。ゆえに $u\in W^{1,p}(I)$ がすべての $1\leq p\leq\infty$ について成り立つ。
$I=(-1,1)$ 上で $H(x)=0$ $(x<0)$、$H(x)=1$ $(x>0)$ とする。$H\in L^p(I)$ はすべての $1\leq p\leq\infty$ について成り立つが、部分積分により
$$
-\int_IH(x)\varphi'(x)\,dx=\varphi(0)
$$
である。右辺はDirac測度であり、$L^p$ 関数では表せない。実際、もし $v\in L^p(I)$ が $\int_Iv\varphi=\varphi(0)$ を満たすなら、$\varphi_r(x)=\varphi(x/r)$、$\varphi(0)=1$、$\operatorname{supp}\varphi\subset(-1,1)$ として $r\downarrow0$ とすれば、絶対連続性またはHölderの不等式により $\int v\varphi_r\to0$ となる一方、右辺は常に $1$ で矛盾する。したがって $H\notin W^{1,p}(I)$ である。この反例は「$L^p$ 関数なら弱微分も $L^p$ 関数である」という含意を破る。
$u\in W^{1,p}(\Omega)$、$1\leq p\leq\infty$ とし、$\eta\in C^\infty(\Omega)$ が $\eta$ と各 $\partial_j\eta$ について有界であるとする。このとき $\eta u\in W^{1,p}(\Omega)$ であり、
$$
\partial_j(\eta u)=\eta\,\partial_ju+u\,\partial_j\eta
$$
がほとんど至るところ成り立つ。
有界性から $\eta u$ と右辺は $L^p(\Omega)$ に属する。任意の $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ に対して $\eta\varphi$ もテスト関数なので、弱微分の定義から
$$
\begin{aligned}
\int_\Omega\eta u\,\partial_j\varphi\,dx
&=\int_\Omega u\bigl(\partial_j(\eta\varphi)-(\partial_j\eta)\varphi\bigr)\,dx\\
&=-\int_\Omega(\partial_ju)\eta\varphi\,dx
-\int_\Omega u(\partial_j\eta)\varphi\,dx.
\end{aligned}
$$
これは右辺の関数が $\eta u$ の $j$ 番目の弱偏微分であることを示す。
任意の開集合 $\Omega\subset\mathbb{R}^n$、$k\in\mathbb{Z}_{\geq0}$、$1\leq p\leq\infty$ に対して $W^{k,p}(\Omega)$ はBanach空間である。特に $H^k(\Omega)$ は
$$
\langle u,v\rangle_{H^k}
=\sum_{|\alpha|\leq k}\langle D^\alpha u,D^\alpha v\rangle_{L^2}
$$
によりHilbert空間になる。
$(u_j)_j$ を $W^{k,p}(\Omega)$ のCauchy列とする。多重指数は有限個なので、各 $|\alpha|\leq k$ について $(D^\alpha u_j)_j$ は $L^p(\Omega)$ のCauchy列である。$L^p$ の完備性から、ある $v_\alpha\in L^p(\Omega)$ が存在して
$$
D^\alpha u_j\longrightarrow v_\alpha\quad\text{in }L^p(\Omega)
$$
となる。特に $u_j\to v_0=:u$ が $L^p$ で成り立つ。
任意の $\varphi\in C_c^\infty(\Omega)$ に対し、$L^p$ 収束は $\operatorname{supp}\varphi$ 上の $L^1$ 収束を含意する。$p<\infty$ ではHölderの不等式を、$p=\infty$ では台の有限測度を使えばよい。したがって極限を積分の中へ移して
$$
\int_\Omega uD^\alpha\varphi\,dx
=\lim_{j\to\infty}\int_\Omega u_jD^\alpha\varphi\,dx
=(-1)^{|\alpha|}\lim_{j\to\infty}\int_\Omega D^\alpha u_j\varphi\,dx
=(-1)^{|\alpha|}\int_\Omega v_\alpha\varphi\,dx.
$$
ゆえに $D^\alpha u=v_\alpha\in L^p$ であり、$u\in W^{k,p}(\Omega)$ である。各成分の $L^p$ 収束を有限和または有限個の最大値にまとめれば $u_j\to u$ がSobolevノルムで成り立つ。$p=2$ では表示した内積がこのノルムを与えるため、Hilbert空間である。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を任意の開集合、$k\in\mathbb{Z}_{\geq0}$、$1\leq p<\infty$ とする。このとき
$$
C^\infty(\Omega)\cap W^{k,p}(\Omega)
$$
は $W^{k,p}(\Omega)$ において稠密である。さらに $\Omega$ が有界Lipschitz領域なら、$\overline\Omega$ の近傍で滑らかな関数の $\Omega$ への制限も $W^{k,p}(\Omega)$ で稠密である。
局所有限な1の分割と、境界からの距離に応じて半径を変える軟化を用いる証明、およびLipschitz領域の拡張定理を用いる後半は EG15 Chapter 4 を参照。本記事では完全証明を省略する。$p=\infty$ では同じ密度主張は一般に成り立たない。
滑らかな関数が稠密であることと、コンパクト台をもつ滑らかな関数が稠密であることは別である。後者の閉包が $W_0^{k,p}(\Omega)$ であり、境界値を消す条件を含む。
$1\leq p<\infty$ とする。定数関数 $1$ は $W^{1,p}(0,1)$ に属するが、$C_c^\infty(0,1)$ の列では $W^{1,p}$ 近似できない。実際、そのような列 $\varphi_j$ が存在すると仮定すると、有限測度上のHölderの不等式により
$$
\|\varphi_j-1\|_{L^1}\to0,\qquad
\|\varphi_j'\|_{L^1}\to0
$$
となる。第一の収束から、ある $x_j\in(0,1)$ で $|\varphi_j(x_j)-1|\to0$ となる。各 $\varphi_j$ は左端近くで $0$ なので、微積分学の基本定理から
$$
|\varphi_j(x_j)|\leq\int_0^1|\varphi_j'(x)|\,dx\to0
$$
であり矛盾する。したがって $1\notin W_0^{1,p}(0,1)$ である。この反例は「滑らかな関数による密度から、コンパクト台をもつ滑らかな関数による密度も従う」という含意を破る。
集合 $\Omega$ のLebesgue測度が有限のとき、$u_\Omega:=|\Omega|^{-1}\int_\Omega u\,dx$ と書く。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を有界で連結なLipschitz領域、$1\leq p<\infty$ とする。このとき $\Omega$ と $p$ だけに依存する定数 $C>0$ が存在し、任意の $u\in W^{1,p}(\Omega)$ に対して
$$
\|u-u_\Omega\|_{L^p(\Omega)}
\leq C\|\nabla u\|_{L^p(\Omega)}
$$
が成り立つ。また任意の $u\in W_0^{1,p}(\Omega)$ に対して
$$
\|u\|_{L^p(\Omega)}\leq C\|\nabla u\|_{L^p(\Omega)}
$$
が成り立つ。
Lipschitz領域上のPoincaré不等式、および零境界値版は EG15 Chapter 4 を参照。本記事では証明を省略する。第一の形では定数関数を除くため平均値を引く必要があり、連結性を外すと次の反例が生じる。
$\Omega=(-2,-1)\cup(1,2)$ 上で、左成分では $u=0$、右成分では $u=1$ とする。すると $u\in W^{1,p}(\Omega)$ で弱微分は $0$ だが、$u_\Omega=1/2$ なので $\|u-u_\Omega\|_{L^p}>0$ である。したがって平均値版Poincaré不等式は、非連結な領域へ同じ形のまま拡張できない。
$1\leq p< n$ のとき $p^*:=np/(n-p)$ と置く。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を有界Lipschitz領域とする。
臨界指数 $p^*$ はスケーリングで決まる。$p< n$ の場合に $L^q$ への連続埋め込みを $q>p^*$ まで一般に延ばすことはできない。また $p=n$ の場合も、上の定理だけから $L^\infty$ 埋め込みは得られない。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を有界Lipschitz領域とする。$1\leq p< n$ かつ $1\leq q< p^*$ なら
$$
W^{1,p}(\Omega)\hookrightarrow L^q(\Omega)
$$
はコンパクト埋め込みである。$p\geq n$ なら、任意の有限な $q\geq1$ に対して同じ埋め込みはコンパクトである。
| 主張 | 領域の仮定 | 指数の範囲 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 完備性 | 任意の開集合 | $1\leq p\leq\infty$ | 境界正則性は不要 |
| 内部の滑らかな密度 | 任意の開集合 | $1\leq p<\infty$ | $C_c^\infty$ の密度とは別 |
| 平均値版Poincaré | 有界・連結・Lipschitz | $1\leq p<\infty$ | 定数成分を平均で除く |
| 一階Sobolev埋め込み | 有界Lipschitz | 指数で三分岐 | $p< n$ では臨界指数 $p^*$ |
| Rellich--Kondrachov | 有界Lipschitz | 臨界未満 | 臨界埋め込みは一般に非コンパクト |
境界の滑らかさは完備性や弱微分の定義には不要である。一方、領域上の拡張作用素、境界までのHölder代表、トレース、標準形の埋め込みには領域の幾何が影響する。したがって「任意の開集合」と「有界Lipschitz領域」を交換してはならない。
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