完全交叉局所環

同義語:complete intersection local ring完全交差局所環CI局所環

概要

完全交叉局所環(complete intersection local ring)とは、極大イデアル進完備化が正則局所環を正則列で割った商として表されるネーター局所環である。正則列は各方程式が先行する方程式で割った商でも非零因子になることを要求し、その長さだけ次元が下がる。完全交叉局所環はGorensteinかつCohen–Macaulayであり、定義に現れるKoszul複体は商環の有限自由分解を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 局所環, 正則環, Cohen–Macaulay環

定義:独立な方程式で切り出す

局所環は単位元をもつ非零可換環とする。ネーター局所環 $(A,\mathfrak m,k)$ の極大イデアル進完備化を
$$ \widehat A=\varprojlim_n A/\mathfrak m^n $$
と書く。
局所環 $(Q,\mathfrak n)$ の元 $f_1,\ldots,f_c\in\mathfrak n$ が $Q$-正則列であるとは、各 $i$ について $f_i$ の像が
$$ Q/(f_1,\ldots,f_{i-1}) $$
の非零因子であることをいう。条件は「方程式が $c$ 個ある」だけではなく、前の方程式で割るたびに次の方程式が零因子にならないことを要求している。

完全交叉局所環

ネーター局所環 $(A,\mathfrak m,k)$ が 完全交叉局所環(complete intersection local ring)であるとは、ある正則局所環 $Q$ と全射準同型
$$ Q\twoheadrightarrow\widehat A $$
が存在し、その核が $Q$-正則列 $f_1,\ldots,f_c$ で生成されることをいう。すなわち
$$ \widehat A\cong Q/(f_1,\ldots,f_c) $$
と表せることをいう。

Cohenの構造定理により、完備ネーター局所環は正則完備局所環の商として表せる。完全交叉条件が追加で要求するのは、その核を正則列で生成できることである。さらに、この条件は選んだ全射に依存せず、「ある正則局所環からの全射」で成り立つことと「すべてのそのような全射」で成り立つことは同値である。

根拠となる一般定理(The Stacks Project):局所完全交叉環の定義と提示からの独立性(StacksCI)、Cohen構造定理(StacksCohenStructure)。

方程式数と次元

$\widehat A\cong Q/(f_1,\ldots,f_c)$ が完全交叉提示なら
$$ \dim A=\dim\widehat A=\dim Q-c $$
である。従って正則列の長さは $c=\dim Q-\dim A$ で決まり、同じ提示で勝手に増減できない。

正則局所環はCohen–Macaulayであり、正則列の各元で割ると次元が1ずつ下がる。完備化はKrull次元を保つので上式を得る。

根拠となる一般定理(The Stacks Project):Cohen–Macaulay環と正則列による次元降下(StacksCM)、完備化の性質(StacksCompletion)。

例と反例を同じ提示で比べる

以下では $k$ を体、$Q=k[\![x,y]\!]$、$\mathfrak n=(x,y)$ とする。

環核次元判定
$Q$$(0)$2完全交叉
$Q/(xy)$$(xy)$1完全交叉(超曲面)
$Q/(x^2,y^2)$$(x^2,y^2)$0完全交叉
$Q/(x,y)^2$$(x^2,xy,y^2)$0完全交叉でない

空列も正則列とみなすので、正則局所環 $Q$ 自身は完全交叉である。

一つの方程式:節点型の環

$Q$ は整域で $xy\neq0$ だから、$xy$ は非零因子である。従って
$$ A_1=k[\![x,y]\!]/(xy) $$
は完全交叉局所環である。$xy\in\mathfrak n^2$ なので $x,y$ の一次の像は極大イデアルの最小生成系のまま残り、$\operatorname{edim}A_1=2$。一方 $\dim A_1=1$ であり、$A_1$ は完全交叉だが正則ではない。

二つの方程式:零次元の例

$$ A_2=k[\![x,y]\!]/(x^2,y^2) $$
では $x^2$ は $Q$ の非零因子である。また
$$ Q/(x^2)\cong k[\![y]\!]\oplus xk[\![y]\!] $$
を $k[\![y]\!]$-加群として見れば、$y^2$ 倍写像は単射である。従って $x^2,y^2$ は正則列で、$A_2$ は余次元2の完全交叉である。$A_2$ は $1,x,y,xy$ を $k$-基底とする零次元局所環である。

方程式が多すぎる反例

$$ B=k[\![x,y]\!]/(x,y)^2 $$
とする。$B$ は $1,x,y$ を $k$-基底とし、極大イデアル $(x,y)$ の二乗が0なので次元0である。従って $Q$ からの提示の次元差は2であり、核が正則列で生成されるなら、その長さは2でなければならない。
しかし $(x,y)^2=(x^2,xy,y^2)$ の最小生成元数は3である。実際、これら三つの二次形式の像は
$$ (x,y)^2/(x,y)^3 $$
の $k$-基底になる。従ってこの核は長さ2の正則列では生成できず、提示からの独立性により $B$ は完全交叉局所環ではない。

$B$ は零次元ネーター局所環なのでCohen–Macaulayである。この例は、Cohen–Macaulay性だけでは完全交叉性が従わないことも示す。

Koszul複体が与える有限自由分解

完全交叉性のホモロジー的な意味は、定義に現れる正則列のKoszul複体が商環を解消することにある。

Koszul自由分解

$\widehat A=Q/(f_1,\ldots,f_c)$ を完全交叉提示とする。このときKoszul複体
$$ K_\bullet(f_1,\ldots,f_c;Q) $$
は $\widehat A$ の有限階数自由 $Q$-分解で、長さは $c$ である。特に
$$ \operatorname{pd}_Q\widehat A=c. $$
さらに $k=Q/\mathfrak n$ とすれば
$$ \operatorname{Tor}_i^Q(\widehat A,k)\cong\bigwedge^i k^c $$
であり、$0\leq i\leq c$ では次元が $\binom ci$、$i>c$ では0となる。

正則列に対するKoszul複体の完全性から自由分解が得られる。各微分の成分は $f_j\in\mathfrak n$ なので $k$ とテンソルすると微分はすべて0になり、外積代数がそのままTorとして残る。最高次の $\bigwedge^c k^c\cong k$ が非零だから射影次元はちょうど $c$ である。

根拠となる一般定理(The Stacks Project):正則列に付随するKoszul複体の完全性(StacksKoszul)。

二方程式の自由分解

$A_2=Q/(x^2,y^2)$ には
$$ 0\longrightarrow Q\xrightarrow{a\mapsto(-y^2a,x^2a)}Q^2 \xrightarrow{(b,c)\mapsto x^2b+y^2c}Q\longrightarrow A_2\longrightarrow0 $$
という自由分解がある。$k$ とテンソルすると微分は0なので
$$ \dim_k\operatorname{Tor}_i^Q(A_2,k)= \begin{cases} 1&i=0,2,\\ 2&i=1,\\ 0&i>2 \end{cases} $$
となる。

余接複体による特徴

正則埋め込みの余接複体

全射 $Q\twoheadrightarrow\widehat A$ の核 $I$ が正則列で生成されるとき、相対余接複体は
$$ L_{\widehat A/Q}\simeq (I/I^2)[1] $$
であり、$I/I^2$ は階数 $c$ の自由 $\widehat A$-加群である。従って相対余接複体は一つのホモロジー次数だけに集中する。

これは「方程式が独立である」ことを変形理論の言葉に移したものと読める。より一般に局所完全交叉準同型の余接複体は完全複体で、Tor振幅は $[-1,0]$ に入る。

根拠となる一般定理(The Stacks Project):局所完全交叉の余接複体(StacksCICotangent)。

完全交叉性から従う性質

Gorenstein性とCohen–Macaulay性

完全交叉局所環はGorenstein局所環であり、従ってCohen–Macaulay局所環である。特に
$$ \operatorname{depth}A=\dim A $$
が成り立つ。

完備化 $\widehat A$ は正則局所環 $Q$ を正則列で割った商である。正則局所環はGorensteinで、Gorenstein性は非零因子による商に受け継がれるため、$\widehat A$ はGorensteinとなる。さらに完備化に沿ってGorenstein性を降ろせるので $A$ もGorensteinであり、Gorenstein局所環はCohen–Macaulayである。
含意関係は
$$ \text{正則局所環}\Longrightarrow\text{完全交叉局所環} \Longrightarrow\text{Gorenstein局所環} \Longrightarrow\text{Cohen–Macaulay局所環} $$
である。最初の含意は空の正則列による。$A_1$ は完全交叉だが正則でない例であり、$B$ はCohen–Macaulayだが完全交叉でない例である。これらの名前を同義語として扱ってはいけない。

根拠となる一般定理(The Stacks Project):完全交叉からGorenstein性への含意(StacksCIGor)、完備化に沿うGorenstein性の移行(StacksGorCompletion)、Gorenstein環のCohen–Macaulay性(StacksGor)。

局所化・完備化と用語の範囲

  • 完備化:定義から、$A$ が完全交叉局所環であることと $\widehat A$ が完全交叉局所環であることは同値である。
  • 局所化:完全交叉局所環 $A$ の任意の素イデアル $\mathfrak p$ に対し、$A_{\mathfrak p}$ も完全交叉局所環である。完備化を介する定義からの自明な帰結ではなく、平坦局所写像に関する定理を使う。
  • 一般の環:ネーター環 $R$ のすべての素イデアルでの局所環 $R_{\mathfrak p}$ が完全交叉局所環であるとき、$R$ を 局所完全交叉環(local complete intersection ring)という。極大イデアルだけを調べても同値である。
  • 超曲面との違い:一つの非零因子で割った提示は余次元1の完全交叉である。完全交叉では正則列の長さが2以上でもよいので、超曲面は完全交叉の一部にすぎない。

根拠となる一般定理(The Stacks Project):完全交叉性の局所化(StacksCI)、一般の局所完全交叉環の定義(StacksCIDef)、極大イデアルによる判定(StacksCIMax)。

適用時の区別

非完備な局所環では、環自身の一つの商表示ではなく、極大イデアル進完備化に対して定義する。核の生成元数だけでなく、生成元が順に非零因子となることを確認する。本文のKoszul分解と $\operatorname{Tor}^Q$ は正則局所環 $Q$ 上の計算であり、商環 $A$ 上の剰余体の自由分解とは異なる。
Gorenstein性とCohen–Macaulay性は完全交叉性から従うが、逆は一般には成り立たない。また、各点で完全交叉局所環となる「局所完全交叉環」と、一つの局所環である「完全交叉局所環」を区別する。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する