五色定理(five color theorem)とは、すべての平面グラフは隣接する頂点が異なる色になるように $5$ 色で塗り分けられる、すなわち彩色数が $5$ 以下である、という定理である。次数 $5$ の頂点の隣接頂点のうち隣り合わない 2 つをその頂点ごと 1 点につぶし、平面性がマイナーをとっても保たれることを使う帰納法で示せる。Thomassen は、各頂点に $5$ 色のリストが与えられればリストの色だけで塗り分けられること($5$-選択可能性)を示し、五色定理をこの形に強めた。色の数を $4$ にした主張が四色定理であるが、リストの形では $4$ 色にできない。
前提知識: 平面グラフ, 彩色, 彩色数, Kuratowskiの定理
平面グラフの頂点を、隣り合う頂点が異なる色になるように塗るには何色あれば足りるか。答えは 4 色であり(四色定理)、その証明は計算機による膨大な場合分けを要する。一方、5 色で足りることは短い議論で示せる。これが 五色定理 である。
この記事では、五色定理を 2 通りに証明する。1 つは、次数 $5$ の頂点の隣接頂点のうち隣り合わない 2 つを 1 点につぶす縮約による証明である。もう 1 つは、各頂点に使ってよい色の候補(リスト)が与えられた状況まで主張を強めた Thomassen の定理で、平面グラフはどんな 5 色のリストからも塗れる。Kempe 鎖による Heawood の証明は 四色定理 の記事の定理「平面グラフの 5 色彩色」にある。
グラフ $G$ の $k$-頂点彩色 とは、写像 $c\colon V(G)\to\{1,\dots,k\}$ で、隣接する 2 頂点にはつねに異なる値を与えるものである(彩色)。$k$-頂点彩色をもつ最小の $k$ が 彩色数 $\chi(G)$ である。以下、グラフは有限な単純グラフとする。
すべての平面グラフ $G$ について $\chi(G)\le5$ である。すなわち、$G$ は 5-頂点彩色をもつ。
地図の国を、境界線を共有する国どうしが異なる色になるように塗る問題は、各国に頂点を置き、境界線を共有する国どうしを辺で結んだ平面グラフの頂点彩色の問題になる(四色定理 の記事の定義「地図とその塗り分け」)。したがって五色定理から、そのような地図は 5 色で塗り分けられる。定理の証明は、下の節「縮約による証明」と、リスト彩色の形に強めた thm-fct-thomassen の 2 通りで与える。
平面グラフには次数 $5$ 以下の頂点 $v$ が必ずある(平面グラフ の記事の系「次数が5以下の頂点」)。$v$ を除いたグラフを帰納法で 5 色に塗れば、$v$ の隣接頂点が 4 色以下しか使っていない限り $v$ に残りの色を塗れる。困るのは $v$ の 5 つの隣接頂点が 5 色すべてを使うときである。そこで、隣接頂点のうち 2 つ $u,w$ が同じ色になるように最初から仕組む。$u,w$ が隣り合っていなければ、$u,v,w$ を 1 点につぶしたグラフを塗れば $u$ と $w$ は同じ色になる。つぶしても平面グラフのままであることを保証するのが Kuratowskiの定理 である。
平面グラフ $G$ の頂点 $v$ の次数が $5$ なら、$v$ の隣接頂点の中に互いに隣接しない 2 頂点がある。
$v$ の隣接頂点 $w_1,\dots,w_5$ がどの 2 つも隣接するなら、$w_1,\dots,w_5$ は完全グラフ $K_5$ を部分グラフとして含む。$K_5$ は平面グラフでなく(平面グラフ の記事の命題「$K_5$ は平面グラフでない」)、平面グラフの部分グラフは平面グラフなので、矛盾する。$\square$
頂点数 $n$ についての帰納法で示す。$n\le5$ なら各頂点に異なる色を与えればよい。$n\ge6$ とし、頂点数が $n$ より少ない平面グラフは 5-頂点彩色をもつとする。$G$ には次数 $5$ 以下の頂点 $v$ がある。
$v$ の次数が $4$ 以下のとき:$G-v$ は平面グラフなので帰納法の仮定により 5-頂点彩色 $c$ をもつ。$v$ の隣接頂点が使う色は 4 色以下なので、残る色を $v$ に与えれば $G$ の 5-頂点彩色になる。
$v$ の次数が $5$ のとき:lem-fct-nonadjacent により、隣接しない $v$ の隣接頂点 $u,w$ がある。$U:=\{u,v,w\}$ は道 $u\,v\,w$ により連結である。$G$ から $U$ を 1 つの新しい頂点 $z$ につぶしたグラフ $G/U$($U$ のどれかに隣接していた $U$ の外の頂点を $z$ に隣接させる)は、$\{U\}$ と残りの各頂点の 1 点集合を分岐集合として $G$ のマイナーであり、Kuratowskiの定理 の記事の系「マイナーをとる操作と平面性」により平面グラフである。$G/U$ の頂点数は $n-2$ なので、帰納法の仮定により 5-頂点彩色 $c'$ をもつ。
$G-v$ の頂点に色 $c(u):=c(w):=c'(z)$、それ以外の $x$ に $c(x):=c'(x)$ を与える。これは $G-v$ の 5-頂点彩色である。実際、$G-v$ の辺 $xy$ について、$x,y$ がともに $u,w$ 以外なら $xy$ は $G/U$ の辺である。$x=u$ なら $y\ne w$($u,w$ は隣接しない)で、$y$ は $G/U$ で $z$ に隣接するので $c(y)=c'(y)\ne c'(z)=c(u)$ である。$x=w$ のときも同じである。
$v$ の 5 つの隣接頂点のうち $u,w$ は同じ色なので、隣接頂点が使う色は 4 色以下であり、残る色を $v$ に与えれば $G$ の 5-頂点彩色が得られる。$\square$
この証明は Die25 Proposition 5.1.2 の第 2 の証明(pp. 125–126)に従った。同書の第 5 章の注(p. 152)によれば、Woodall が 1972 年に講義で用いた証明である。
正二十面体の頂点と辺からなるグラフ $I$ は、頂点 $12$ 個、辺 $30$ 本の平面グラフで、すべての頂点の次数が $5$ である。したがって prf-fct-main-contraction で $v$ を除くだけの場合は起こらず、毎回つぶす操作が要る。頂点 $v$ の 5 つの隣接頂点は $v$ のまわりに長さ $5$ の閉路をなし、その閉路で 1 つおきの 2 頂点 $u,w$ は隣接しない。$u,v,w$ をつぶすと頂点 $10$ 個の平面グラフになる。
$I$ の彩色数は $4$ である。$v$ と 5 つの隣接頂点の閉路(奇閉路)だけで、閉路に 3 色、$v$ にさらに 1 色が要るので $\chi(I)\ge4$ である。4 色で塗るには、$I$ の頂点を北極 $t$、上の環 $a_0,\dots,a_4$、下の環 $b_0,\dots,b_4$、南極 $s$ とし、辺を $ta_i$、$a_ia_{i+1}$、$a_ib_i$、$a_ib_{i+1}$、$b_ib_{i+1}$、$sb_i$(添字は $5$ を法とする)としたうえで
$$
c(t)=1,\quad c(a_0,\dots,a_4)=(2,3,4,2,3),\quad c(b_0,\dots,b_4)=(1,4,1,3,4),\quad c(s)=2
$$
とすればよい(30 本の辺の両端の色が異なることは直接確かめられる)。五色定理の証明が与えるのは $5$ 色以下の彩色で、最小の色数とは限らない。
なお、6 色でよければ、次数 $5$ 以下の頂点を除く議論だけで足り、つぶす操作も要らない(彩色数 の記事の系「平面グラフの 6 色彩色」)。
グラフ $G$ の各頂点 $v$ に色の有限集合 $L(v)$(リスト)が与えられたとき、頂点彩色 $c$ で各 $v$ について $c(v)\in L(v)$ となるものを、リスト $L$ からの彩色という。大きさ $k$ のどんなリストの族 $(L(v))_{v\in V(G)}$ に対してもリストからの彩色があるとき、$G$ は $k$-選択可能($k$-choosable)であるという。$k$-選択可能となる最小の $k$ を $G$ の 選択数(choice number)$\operatorname{ch}(G)$ という。
すべての頂点に同じリスト $\{1,\dots,k\}$ を与えた場合がふつうの $k$-頂点彩色なので、$\chi(G)\le\operatorname{ch}(G)$ である。不等号は真になりうる。
完全二部グラフ $K_{2,4}$ の 2 頂点の側を $a_1,a_2$、4 頂点の側を $b_1,\dots,b_4$ とし、リストを
$$
L(a_1)=\{1,2\},\ L(a_2)=\{3,4\},\ L(b_1)=\{1,3\},\ L(b_2)=\{1,4\},\ L(b_3)=\{2,3\},\ L(b_4)=\{2,4\}
$$
とする。$a_1,a_2$ にどの色 $(i,j)\in\{1,2\}\times\{3,4\}$ を与えても、$L(b)=\{i,j\}$ となる $b$ があり、その $b$ は両方の色に隣接するので塗れない。よって $\operatorname{ch}(K_{2,4})\ge3>2=\chi(K_{2,4})$ である。
次の主張は、外側の面の境界の頂点のリストを小さくしてよいという形に強めることで、帰納法が回るようにしたものである。平面グラフ図について、次の事実を証明せずに用いる(Die25 Proposition 4.2.8(p. 100)と Theorem 5.4.2 の証明(pp. 135–136))。
$G$ を頂点が 3 個以上の平面グラフ図とし、内側の面の境界はすべて三角形で、外側の面の境界は閉路 $C=v_1v_2\cdots v_kv_1$ であるとする。$v_1,v_2$ には異なる色が塗られており、$C$ のほかの頂点には 3 色以上のリスト、$C$ の上にない頂点には 5 色以上のリストが与えられているとする。このとき、$v_1,v_2$ の色はリストからの $G$ の彩色に延長できる。
$\lvert G\rvert$ についての帰納法で示す。$v_1,v_2$ の色を $c(v_1),c(v_2)$ とする。
$\lvert G\rvert=3$ のとき、$G$ は三角形 $v_1v_2v_3$ で、$L(v_3)$ は 3 色以上なので $c(v_1),c(v_2)$ 以外の色を $v_3$ に塗ればよい。
$\lvert G\rvert\ge4$ で $C$ に弦 $vw$ があるとき:(T2) の $C_1,C_2$ を、$C_1$ が辺 $v_1v_2$ を含み $C_2$ が含まないようにとる。$C_2$ は $C$ の頂点で $C_1$ にないものを含むので $\lvert G_1\rvert<\lvert G\rvert$ であり、$G_1$ は仮定を満たす($C_1$ の $v_1,v_2$ 以外の頂点は $C$ の頂点か $v,w$ で、リストは 3 色以上)。帰納法の仮定により $G_1$ をリストから塗る。$v,w$ は隣接するので異なる色をもつ。次に $G_2$ に、$C_2$ で隣り合う $v,w$ を $v_1,v_2$ の役として帰納法の仮定を使う。$C_2$ の $v,w$ 以外の頂点は、$C$ を $v,w$ で切った 2 つの弧のうち $v_1v_2$ を含まない方の内部にあるので $v_1,v_2$ とは異なり、リストは 3 色以上である。$\lvert G_2\rvert<\lvert G\rvert$ なので $G_2$ も $v,w$ の色を延長して塗れる。$G$ の辺は $G_1$ か $G_2$ の辺なので、2 つの彩色を合わせたものは $G$ の彩色である。
$\lvert G\rvert\ge4$ で $C$ に弦がないとき:(T3) の記号を使う。$L(v_k)$ は 3 色以上なので、$c(v_1)$ と異なる 2 色 $j,\ell\in L(v_k)$ がとれる。各 $u_i$ のリストから $j,\ell$ を除く。$u_i$ は $C$ の上にないのでリストは 5 色以上あり、除いたあとも 3 色以上残る。$G-v_k$ は外周 $C'$ に沿って $v_1,v_2$ が隣り合い($C-v_k$ は道 $v_1v_2\cdots v_{k-1}$)、$C'$ の $v_1,v_2$ 以外の頂点のリストは 3 色以上、$C'$ の上にない頂点のリストは 5 色以上なので、帰納法の仮定により $v_1,v_2$ の色を $G-v_k$ の彩色に延長できる。$v_k$ の隣接頂点は $v_1$(色は $j,\ell$ でない)、$u_i$(色は $j,\ell$ でない)、$v_{k-1}$ だけなので、$j,\ell$ のうち $v_{k-1}$ の色でない方を $v_k$ に塗れば $G$ の彩色になる。$\square$
すべての平面グラフは 5-選択可能である。すなわち $\operatorname{ch}(G)\le5$ である。
平面グラフ $G$ と、各頂点の 5 色のリスト $L$ をとる。$\lvert G\rvert\le2$ なら、隣接頂点の色を避けて順に塗ればよい。$\lvert G\rvert\ge3$ なら、$G$ の平面グラフ図に辺を加えられるだけ加えたもの $G^\ast$ を作る。(T1) により $G^\ast$ のすべての面の境界は三角形であり、外側の面の境界を $v_1v_2v_3v_1$ とする。$v_1$ に $L(v_1)$ の色を、$v_2$ に $L(v_2)$ の色で $v_1$ と異なるものを塗り、lem-fct-thomassen-strong を $G^\ast$ に使えば、$G^\ast$ のリストからの彩色が得られる。$G$ は $G^\ast$ の部分グラフなので、これは $G$ のリストからの彩色でもある。$\square$
この定理は Thomassen による(Die25 Theorem 5.4.2、pp. 135–136。証明もこれに従った)。すべてのリストを $\{1,\dots,5\}$ にとれば、五色定理の 2 つめの証明が得られる。この証明は Euler の公式も次数 $5$ 以下の頂点の存在も使わず、主張を強めたことで帰納法がそのまま回る。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 平面グラフ | 完全グラフ $K_6$ | $\chi\le5$ |
| 平面(トーラスに替える) | トーラスに描いた $K_7$ | $\chi\le5$ |
| 色の数 $5$($3$ にする) | 完全グラフ $K_4$ | $\chi\le3$ |
| thm-fct-thomassen の $5$($4$ にする) | Voigt の平面グラフ(頂点 $238$ 個) | 4-選択可能であること |
| lem-fct-thomassen-strong の外周のリストの大きさ $3$($2$ にする) | 三角形 $v_1v_2v_3$、$L(v_3)=\{c(v_1),c(v_2)\}$ | $v_1,v_2$ の色の延長 |
1 行目:$K_6$ の頂点はどの 2 つも隣接するので、$6$ 頂点すべてに異なる色が要り、$\chi(K_6)=6$ である。$K_6$ は $K_5$ を含むので平面グラフでない。
2 行目:$K_7$ はトーラスに辺を交差させずに描ける(位相的グラフ理論 の記事の例「トーラス上の $K_7$」)が、$\chi(K_7)=7$ である。曲面の上では、五色定理の証明で使った「次数 $5$ 以下の頂点がある」ことが成り立たない($K_7$ の頂点の次数はすべて $6$)。
3 行目:$K_4$ は平面グラフで(平面グラフ の記事の例「完全グラフ$K_4$」)、$\chi(K_4)=4$ である。したがって五色定理の $5$ を $3$ にはできない。$4$ にできることが 四色定理 である。
4 行目:Voigt は 1993 年に、4-選択可能でない頂点 $238$ 個の平面グラフを作った(Die25 第 5 章の注、pp. 153–154。この記事では証明しない)。したがって thm-fct-thomassen の $5$ は $4$ にできず、四色定理をリスト彩色の形に強めることはできない。
5 行目:$v_3$ のリストの色はどちらも $v_3$ の隣接頂点 $v_1$ か $v_2$ の色なので、$v_3$ を塗れない。
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