代数拡大

同義語:algebraic extension

概要

代数拡大(algebraic extension)とは、拡大体のすべての元が基礎体係数の非零多項式を満たす体拡大である。全体の拡大次数は無限でもよいが、有限個の元で生成した部分拡大は有限次となり、代数拡大はそれらの有向合併である。$M/L$ と $L/K$ が代数拡大なら $M/K$ も代数拡大で、代数拡大の中間環は体になり、代数拡大 $L/K$ の $K$ 上の自己準同型は全射である。例えば $\mathbb{Q}$ の代数閉包は $\mathbb{Q}$ 上無限次の代数拡大である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体の拡大, 多項式, 拡大次数

代数拡大とは

体 $K$ を含む体 $L$ のすべての元が、$K$ 係数の何らかの非零多項式の根になるとき、$L/K$ を代数拡大(algebraic extension)という。例えば $\mathbb C/\mathbb R$ は代数拡大である。一方、$\mathbb Q(t)/\mathbb Q$ で不定元 $t$ はどの非零有理係数多項式も満たさないので、この拡大は代数的でない。代数拡大の条件は元ごとに判定するものであり、体全体の拡大次数が有限だという条件とは異なる(Stacks09GB Definition 9.8.1, Lemma 9.8.5)。
この違いは無限拡大で重要になる。$\overline{\mathbb Q}$ の各元は有理数上の多項式を一つ満たすが、$\overline{\mathbb Q}/\mathbb Q$ 全体は無限次である。それでも有限個の元を一度に選べば、それらが生成する部分体は有限次になる。代数拡大はこの意味で「局所的には有限次」であり、有限次拡大を有向的に集めたものとして理解できる。この記事はその構造に焦点を当てる。一般の体拡大の定義、単純拡大と塔の法則は体の拡大、有限次拡大そのものの性質は有限次拡大、代数閉じた最終的な拡大の存在は代数閉包で扱う。

元の代数性と定義

$K\subset L$ を体の拡大とする。$\alpha\in L$ が $K$ 上代数的であるとは、$0\ne f(X)\in K[X]$ で $f(\alpha)=0$ となるものが存在することをいう。$\alpha$ を消す非零多項式が一つもなければ、$\alpha$ は $K$ 上超越的である。零元は $X$、$K$ の元 $a$ は $X-a$ の根なので、$K$ の元はすべて $K$ 上代数的である。

代数拡大

体拡大 $L/K$ が代数拡大であるとは、各 $\alpha\in L$ について、$f(\alpha)=0$ となる非零多項式 $f(X)\in K[X]$ が存在することである。一つでも $K$ 上超越的な元が $L$ にあれば、$L/K$ は代数拡大でない。

代数的な $\alpha$ に対して、それを根にもつ最高次係数 $1$ の既約多項式を $m_{\alpha,K}$ と呼ぶ。この最小多項式は一意で、$K(\alpha)$ は $K[X]/(m_{\alpha,K})$ と同型になる。従って $[K(\alpha):K]=\deg m_{\alpha,K}$ である。ここで $K(\alpha)$ は $K$ と $\alpha$ を含む最小の部分体である。元の多項式関係が、生成した部分体の有限次元線形代数に変換される。

一元部分拡大の有限性

$\alpha\in L$ が $K$ 上代数的であることと、$[K(\alpha):K]$ が有限であることは同値である。

最小多項式と線形従属性

$\alpha$ が代数的なら、最小多項式 $m$ の次数を $d$ として、$1,\alpha,\ldots,\alpha^{d-1}$ が $K(\alpha)$ の基底になる。従って次数は $d$ で有限である。逆に $[K(\alpha):K]=n<\infty$ なら、$n+1$ 個の元 $1,\alpha,\ldots,\alpha^n$ は $K$ 上線形従属である。よって全ては零でない係数 $c_i\in K$ を用いた $\sum_{i=0}^n c_i\alpha^i=0$ があり、非零多項式 $\sum c_iX^i$ が $\alpha$ を根にもつ。$\square$

この同値性は代数拡大を「すべての一元部分拡大が有限次である拡大」と読み替える。だが $\alpha$ ごとに次数の上限が違ってよい。全体の次数に共通の有限上限があるとまでは述べていない。また、$L$ の元を無限個使って $L$ を生成している場合、各一元部分拡大が有限でも $L/K$ は無限次になりうる。

有限個の元を加える

代数的な元を有限個選べば、その全体で生成される拡大も有限次である。証明には、一元ずつ加えた塔を作り、各段階の次数を掛ける。$\alpha_i$ が $K$ 上代数的なら、中間体 $K(\alpha_1,\ldots,\alpha_{i-1})$ 上でも同じ $K$ 係数多項式を満たすので、次の一元拡大も有限次になる。

有限生成な代数拡大は有限次

$\alpha_1,\ldots,\alpha_n$ がすべて $K$ 上代数的なら、$K(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)/K$ は有限次拡大である。

一元ずつ加える塔を作る

$K_0=K$、$K_i=K(\alpha_1,\ldots,\alpha_i)$ とする。$\alpha_i$ は $K$ 係数の非零多項式を満たすため、係数体を広げた $K_{i-1}$ 上でも代数的である。前命題から各 $[K_i:K_{i-1}]$ は有限である。塔の法則で
$$ [K_n:K]=\prod_{i=1}^{n}[K_i:K_{i-1}]<\infty. $$
$n=0$ なら $K_n=K$ で次数 $1$ だから端の場合も成立する。$\square$

逆に $L/K$ が有限次なら、$K$ 上の有限基底を選べばその基底の元で $L$ を体として生成できる。従って「$L/K$ が代数的かつ体として有限生成」と「$L/K$ が有限次」は同値である。これは$L$ のすべての元が同じ一つの多項式を満たすという意味ではない。各元の多項式は異なってよく、証明で必要なのは有限個の生成元に対する有限個の関係である(Stacks09GB Lemma 9.8.6)。

有限部分拡大の有向合併

代数拡大 $L/K$ に含まれる有限次の中間体をすべて集める。$E_1$ と $E_2$ がそのような中間体なら、その合成体 $E_1E_2$ も有限次である。なぜなら両体の有限個の $K$ 基底の元をまとめて加えれば、前命題を適用できるからである。従ってこの中間体の集まりは包含関係で有向になる。

代数拡大は有限部分拡大の有向合併

$L/K$ が代数拡大なら、$L$ は $K$ 上有限次の中間体全体の合併である。任意の二つの有限次中間体は、さらに一つの有限次中間体に含まれる。逆に、有限次中間体の合併として書ける拡大は代数拡大である。

各元を一元部分拡大に入れる

$\alpha\in L$ なら $K(\alpha)/K$ は有限次なので、$\alpha$ は合併の右辺に入る。右辺は $L$ の部分集合でもあるから等しい。二つの有限次中間体 $E_1,E_2$ について、それぞれ有限基底 $A_1,A_2$ を選ぶ。その合成体 $E_1E_2=K(A_1\cup A_2)$ は有限個の代数的元で生成され、前命題により有限次である。逆向きに、有限次中間体の合併の元 $\alpha$ はどれか一つの有限次中間体に属する。有限次拡大の元は代数的なので $\alpha$ も $K$ 上代数的である。$\square$

「有向」を入れるのは、任意に並べた有限体の単なる和集合が必ず体とは限らないからである。二元 $x,y$ の和や積を同じ段階で扱うには、両方を含むより大きな段階が必要になる。有向性があれば、有限個の元について共通の段階を選べ、加減乗除をそこで計算できる。代数拡大の局所有限性はこの操作を正当化する。

無限次の代数拡大

$\overline{\mathbb Q}/\mathbb Q$ は代数拡大だが有限次でない。任意の正整数 $m$ に対し $X^m-2$ は Eisenstein の判定法で $\mathbb Q[X]$ 上既約である。従ってその実の根 $\alpha_m=\sqrt[m]{2}$ は $[\mathbb Q(\alpha_m):\mathbb Q]=m$ を満たす。もし $[\overline{\mathbb Q}:\mathbb Q]$ が有限の $N$ なら、その部分体 $\mathbb Q(\alpha_m)$ の次数 $m$ は常に $N$ 以下になるが、$m$ を任意に大きくできるので矛盾する。一方、各 $\alpha_m$ 自体は代数的である。

この例は「代数的」と「有限次」を区別する最も直接的なものの一つである。$\overline{\mathbb Q}$ 全体には共通の有限次元基底はないが、計算に登場する有限個の元は必ず有限次の中間体へ収まる。有限個の係数を取り出して有限次に降ろすという議論は、次の推移性の証明でも使う。

塔と推移性

$K\subset E\subset L$ を体の塔とする。$L/K$ が代数的なら $E/K$ と $L/E$ は代数的である。前者は条件を $E$ の元へ制限すればよく、後者は $K$ 係数多項式を $E$ 係数多項式として読み直せばよい。重要なのは逆向きで、$E/K$ と $L/E$ が代数的なら $L/K$ も代数的である。

代数性の推移性

$K\subset E\subset L$ とする。$E/K$ と $L/E$ がともに代数拡大なら、$L/K$ は代数拡大である。

一つの多項式の係数を有限次へ降ろす

$\alpha\in L$ を取る。$\alpha$ は $E$ 上代数的なので、$0\ne f(X)=\sum_{i=0}^d a_iX^i\in E[X]$ で $f(\alpha)=0$ となるものがある。係数 $a_0,\ldots,a_d$ は有限個で、各々 $K$ 上代数的だから、$E_0=K(a_0,\ldots,a_d)$ は $K$ 上有限次である。$f\in E_0[X]$ なので $E_0(\alpha)/E_0$ も有限次である。塔の法則から $E_0(\alpha)/K$ は有限次となり、その元 $\alpha$ は $K$ 上代数的である。$\alpha$ は任意だから $L/K$ は代数拡大である。$\square$

係数を有限個の部分体に降ろす段階を省き、「$E/K$ が代数的だから次数を掛ければよい」と言うのは正確でない。$E/K$ は無限次かもしれず、$[L:E][E:K]$ が有限になるとは限らない。ここでは一つの元 $\alpha$ に必要な有限個の係数だけを取り出した。代数閉包の中にさらに代数的な元を加えても基礎体上代数的である、という頻出の推論はこの命題に基づく(Stacks09GB Lemma 9.8.8)。

中間環がすでに体になる

一般の拡大 $L/K$ では、$K$ と $L$ の間の部分環が体とは限らない。例えば $K(t)$ の中の $K[t]$ は部分環だが、$t^{-1}$ を含まない。代数拡大ではこの現象が起こらない。代数的元の多項式関係を、逆元を表す式へ変形できるからである。

代数拡大の中間環

$L/K$ を代数拡大とし、$K\subset R\subset L$ を単位元を共有する部分環とする。このとき $R$ は体である。

最小多項式から逆元を解く

$0\ne\alpha\in R$ を取る。$\alpha$ の $K$ 上の最小多項式を $m(X)=c_0+c_1X+\cdots+c_dX^d$ とする。$\alpha\ne0$ かつ $m$ が既約なので $c_0\ne0$ である。$m(\alpha)=0$ を $\alpha$ について整理すると
$$ \alpha^{-1}=-c_0^{-1}(c_1+c_2\alpha+\cdots+c_d\alpha^{d-1}). $$
右辺の係数は $K\subset R$ にあり、$\alpha\in R$ なので右辺は $R$ に属する。従って $R$ のすべての非零元は $R$ 内に逆元を持つ。$\square$

特に $K$ と代数的な元 $\alpha_1,\ldots,\alpha_n$ で生成する環 $K[\alpha_1,\ldots,\alpha_n]$ は、その元を体として生成する $K(\alpha_1,\ldots,\alpha_n)$ に一致する。この等式は有限生成に限らず、代数拡大 $L/K$ 内の任意の元集合 $S$ に対して $K[S]=K(S)$ と読める。$K[S]$ は中間環だから前命題により体であり、$K(S)$ の最小性から一致するためである。

自己準同型は全射になる

体から体への単位元を保つ準同型は単射である。代数拡大 $L/K$ では、$K$ の各元を固定する $L\to L$ の体準同型はさらに全射になる。$L/K$ が無限次でも成り立つ点が特徴的である。一般の体では、例えば $K(t)$ 上の $K$ 準同型 $t\mapsto t^2$ は単射だが $t$ が像に入らず、全射ではない。

代数拡大の自己準同型

$L/K$ が代数拡大で、$\varphi:L\to L$ が $K$ の各元を固定する体準同型なら、$\varphi$ は自己同型である。

有限個の根を置換する

体準同型だから $\varphi$ は単射である。任意の $\alpha\in L$ を取り、$\alpha$ を根に持つ非零 $P(X)\in K[X]$ を選ぶ。$L$ 内にある $P$ の根全体を $S$ とすると、$S$ は非空の有限集合である。$\varphi$ は $K$ を固定するので、$\beta\in S$ なら $P(\varphi(\beta))=\varphi(P(\beta))=0$。従って $\varphi(S)\subseteq S$。有限集合上の単射 $\varphi|_S$ は全射だから $\alpha$ に写る $S$ の元がある。任意の $\alpha$ が像に入るため $\varphi$ は全射である。$\square$

この命題は、代数拡大の自己埋め込みが常に恒等写像という意味ではない。$\mathbb Q(\sqrt2)$ の $\mathbb Q$ 上の自己同型には $\sqrt2\mapsto-\sqrt2$ がある。また、異なる拡大体への埋め込み $L\to M$ が全射になるとも主張していない。根の有限集合が同じ $L$ の内部で保たれることが、上の証明の鍵である(Stacks09GB Lemma 9.8.11)。

例と境界条件

$\mathbb C/\mathbb R$ は二次の代数拡大である。$z=a+bi$($a,b\in\mathbb R$)について $z$ は $X^2-2aX+(a^2+b^2)$ の根である。$b=0$ なら実際の最小多項式は一次だが、代数性の判定には最小多項式を最初から見つける必要はない。どれか一つの非零多項式を示せば十分である(Stacks09GB Example 9.8.2)。
有限体 $\mathbb F_q$ の任意の有限拡大は代数的である。さらに固定した代数閉包 $\overline{\mathbb F}_q$ は無限次の代数拡大であり、各元はある有限体 $\mathbb F_{q^n}$ に入る。二つの有限体 $\mathbb F_{q^m}$ と $\mathbb F_{q^n}$ を同じ閉包の中で見れば、両方を含む $\mathbb F_{q^{\operatorname{lcm}(m,n)}}$ がある。この具体例は前に示した有限部分拡大の有向性を可視化する。有限体の構成と部分体の関係は有限体の記事で扱う。
標数 $p>0$ では、代数拡大であることと分離的であることも区別する。例えば $K=\mathbb F_p(t)$、$L=K(t^{1/p})$ とすると、$t^{1/p}$ は $X^p-t$ の根なので $L/K$ は有限次、従って代数的である。しかし $X^p-t$ の形式微分は $0$ で、根は重複する。この拡大は分離拡大ではない。代数性は多項式関係の存在を要求し、根が相異なることを要求しない。分離性の条件を勝手に付け足してはいけない。
代数幾何では、体 $k$ 上のアフィン直線 $\operatorname{Spec}k[t]$ の点を比べると役割が見える。既約多項式 $P(t)\in k[t]$ に対応する閉点の剰余体は $k[t]/(P)$ で、$k$ 上有限次の代数拡大である。一方、零イデアルに対応する生成点の剰余体は有理関数体 $k(t)$ で、不定元 $t$ が $k$ 上超越的なので代数拡大ではない。どちらも同じスキームの点だが、剰余体の代数性は点によって異なる。一般の有限型スキームの閉点についての主張を使うときは追加の有限型条件を確認する。

大きさとよくある混同

代数拡大は無限次でありうるが、その元の数は基礎体の大きさから制限される。$K[X]$ の非零多項式の数は高々 $\max(|K|,\aleph_0)$ で、各多項式が体 $L$ の中にもつ根は高々次数個である。全ての $\alpha\in L$ はどれかの多項式の根なので、$|L|\leq\max(|K|,\aleph_0)$ となる。特に $K$ が可算なら、任意の代数拡大 $L/K$ も可算である。$\overline{\mathbb Q}$ が無限次でも可算であることと矛盾しない(Stacks09GB Lemma 9.8.9)。
「代数拡大」は「代数閉体への拡大」と同義ではない。$\mathbb Q(\sqrt2)/\mathbb Q$ は代数拡大だが、$\mathbb Q(\sqrt2)$ は代数閉体ではない。「代数拡大」は「有限次拡大」とも同義ではない。有限次なら代数的だが、$\overline{\mathbb Q}/\mathbb Q$ のような無限次の例がある。また「$L/K$ が代数的」は、すべての元が同じ多項式を満たすという意味でもない。各元について別々に非零多項式があればよい。
最後に、塔では基礎体を明示することが重要である。$K\subset E$ なら、$K$ 上代数的な元は $E$ 上でも代数的である。逆に、$E$ 上代数的な元が $K$ 上も代数的になるには $E/K$ の代数性が必要である。$E=K(t)$、$\alpha=t$ なら $\alpha$ は $E$ 上では一次式 $X-t$ を満たすが $K$ 上では超越的である。係数体を変えたとき何が保存されるかを区別すれば、代数閉包、分離閉包、関数体を扱う際の混同を避けられる。

反例:条件を外すと何が崩れるか

この記事の命題の仮定を一つずつ外すと、次のように結論が崩れる。以下 $K$ は任意の体、$t$ は $K$ 上の不定元である。

外す条件反例成り立たなくなること
有限生成(命題「有限生成な代数拡大は有限次」)$\overline{\mathbb Q}/\mathbb Q$代数拡大が有限次であること
生成元が代数的であること(同じ命題)$K(t)/K$体として有限生成な拡大が有限次であること
推移性の命題で、下の段 $E/K$ が代数的であること$K\subset K(t)\subset K(\sqrt t)$$L/E$ が代数的なら $L/K$ も代数的であること
中間環の命題で、$L/K$ が代数的であること$K\subset K[t]\subset K(t)$中間環が体になること
自己準同型の命題で、$L/K$ が代数的であること$K(t)$ の $K$ 準同型 $t\mapsto t^2$$K$ を固定する自己準同型が全射になること
反例:有限生成でない代数拡大と、代数的でない有限生成拡大

例「無限次の代数拡大」で見たように、$\overline{\mathbb Q}/\mathbb Q$ は代数拡大だが有限次でない。命題「有限生成な代数拡大は有限次」から、$\overline{\mathbb Q}$ は $\mathbb Q$ 上体として有限生成でもない。破る仮定は「有限生成」である。
一方 $K(t)/K$ は一つの元 $t$ で体として生成されるが、有限次でない。$1,t,t^2,\ldots$ は $K$ 上一次独立である。実際 $\sum_{i=0}^n c_it^i=0$($c_i\in K$)は多項式環 $K[t]$ での等式なので、係数がすべて $0$ である。破る仮定は「生成元 $t$ が $K$ 上代数的」であり、崩れる結論は「$[K(t):K]<\infty$」である。

反例:下の段が代数的でない塔

$E=K(t)$ とし、$L=E(s)$ を $s^2=t$ となる元 $s$ を加えた拡大とする($L$ は $E[X]/(X^2-t)$ で、$X^2-t$ は $E$ 上既約である。$t$ は $E$ で平方でないからで、$(f/g)^2=t$ なら $f^2=tg^2$ の両辺の $t$ についての次数が偶数と奇数になる)。$L/E$ は $2$ 次なので代数的である。しかし $t=s^2\in L$ は $K$ 上超越的だから、$L/K$ は代数的でない。破る仮定は「$E/K$ が代数的」、崩れる結論は推移性「$L/K$ が代数的」である。推移性の証明で、$f$ の係数 $a_i$ を $K$ 上有限次の $E_0$ に降ろした段が働かなくなる。

反例:代数的でない拡大の中間環と自己準同型

$K[t]$ は $K\subset K[t]\subset K(t)$ を満たす部分環だが体でない。$t^{-1}\in K[t]$ なら $t\,p(t)=1$ となる多項式 $p$ があるが、左辺の次数は $1$ 以上、右辺は $0$ で矛盾する。破る仮定は「$L/K$ が代数的」で、崩れる結論は命題「代数拡大の中間環」の「$R$ は体」である。証明の最小多項式から $\alpha^{-1}$ を解く段で、$t$ には最小多項式がない。
$\varphi:K(t)\to K(t)$ を $K$ 上で $t\mapsto t^2$ と定めると、体準同型である($f(t)/g(t)\mapsto f(t^2)/g(t^2)$。$g\ne0$ なら $g(t^2)\ne0$)。像は $K(t^2)$ である。$t$ が像にあれば $t\,g(t^2)=f(t^2)$ となる多項式 $f,g$($g\ne0$)があるが、左辺は $t$ の奇数次の項だけ、右辺は偶数次の項だけからなるので両辺とも $0$ となり、$g=0$ に反する。よって $\varphi$ は全射でない。破る仮定は「$L/K$ が代数的」、崩れる結論は命題「代数拡大の自己準同型」の「自己同型である」である。証明で使った「$\alpha$ を根にもつ多項式の根の有限集合」が $t$ にはない。

参照箇所

  • Stacks09GB Definition 9.8.1, Examples 9.8.2–9.8.3, Lemmas 9.8.4–9.8.11:代数拡大の定義、有限生成、塔、中間環、自己準同型。
  • Stacks09FA Sections 9.6–9.8:一般の体拡大、単純拡大、拡大次数から代数性への接続。

関連項目

参考文献

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