極大イデアル(maximal ideal)とは、環 $A$ の真イデアル $\mathfrak{m}$ であって、$\mathfrak{m}$ を真に含むイデアルが $A$ しかないもの、すなわち真イデアル全体の中で包含について極大なものである。可換環では、$\mathfrak{m}$ が極大であることと剰余環 $A/\mathfrak{m}$ が体であることが同値であり、極大イデアルは常に素イデアルだが逆は成り立たない($\mathbb{Z}$ の $(0)$、$k[x,y]$ の $(x)$)。Zorn の補題により、零環でない環の真イデアルはある極大イデアルに含まれる(Krull の定理)。$\mathbb{Z}$ の $(p)$、$k[x]$ の既約多項式が生成するイデアル、連続関数環の 1 点で消える関数全体が代表例であり、極大イデアルを 1 つだけ持つ可換環が局所環である。
前提知識: 可換環, イデアル, 剰余環, 体, 素イデアル
極大イデアルは、環のイデアルのうち「これ以上大きくできない真のイデアル」である。可換環では剰余環が体になるイデアルとして特徴づけられ、素イデアルより強い条件である。Zornの補題により零環でない任意の環は極大イデアルを持ち、幾何学的には空間の「点」に対応する。
本記事で環は単位元 $1$ を持つ結合的な環とし、環準同型は $1$ を $1$ に写すものとする。主に可換環を扱い、非可換環に固有の注意は rem-maximal-ideal-noncommutative にまとめる。
環 $A$ のイデアル $I$ が $I\neq A$ を満たすとき、$I$ を 真イデアル(proper ideal)という。イデアル $I$ について、$I=A$ であること、$1\in I$ であること、$I$ が単元(可逆元)を含むことは互いに同値である。実際、$u\in I$ が単元なら任意の $a\in A$ について $a=(au^{-1})u\in I$ となる。可換環 $A$ の元 $a_1,\dots,a_n$ が生成するイデアル、すなわち $a_1,\dots,a_n$ を含む最小のイデアルを
$$
(a_1,\dots,a_n)=\{x_1a_1+\cdots+x_na_n\mid x_1,\dots,x_n\in A\}
$$
と書く。1 つの元が生成するイデアル $(a)=aA$ を単項イデアルという。
環 $A$ のイデアル $\mathfrak{m}$ が 極大イデアル(maximal ideal)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。
条件 2 は「$\mathfrak{m}\subsetneq I$ となるイデアル $I$ は $A$ しかない」と言い換えられる。極大イデアルは、真イデアル全体の中で包含について最大の元であるとは限らない。$\mathbb{Z}$ では $(2)$ と $(3)$ がともに極大イデアルだが、互いに包含関係にない(ex-maximal-ideal-integers)。「極大」と「最大」の区別は Zornの補題 の記事での区別と同じである。
$\mathfrak{m}$ が極大イデアルのとき、剰余環 $A/\mathfrak{m}$ を $\mathfrak{m}$ における剰余体(residue field)という。この呼び名が正当であること、すなわち $A/\mathfrak{m}$ が体であることは prop-maximal-ideal-quotient-field で示す。
非可換環では左イデアル・右イデアル・両側イデアルを区別するので、それぞれについて極大左イデアル・極大右イデアル・極大(両側)イデアルが定義される。def-maximal-ideal は両側イデアルについての定義である。prop-maximal-ideal-quotient-field の「剰余環が体」という特徴づけは可換環に限る。たとえば体 $k$ 上の $n$ 次全行列環 $M_n(k)$($n\ge2$)の両側イデアルは $0$ と $M_n(k)$ だけなので $(0)$ は極大両側イデアルだが、$M_n(k)/(0)=M_n(k)$ は零因子を持ち、体でない。一般に、両側イデアル $\mathfrak{m}$ が極大であることは剰余環 $A/\mathfrak{m}$ が単純環(両側イデアルが $0$ と全体だけの零環でない環)であることと同値であり、左イデアル $\mathfrak{m}$ が極大左イデアルであることは左加群 $A/\mathfrak{m}$ が単純加群であることと同値である。thm-maximal-ideal-krull の証明は可換性を使わないので、左・右・両側のいずれのイデアルについてもそのまま成り立つ。詳しくは Lam01 §1・§4 を参照。
イデアル $I$ で割ることは、$I$ の元をすべて $0$ とみなす操作であり、$I$ が大きいほど剰余環 $A/I$ は小さくなる。極大イデアルは、零環になる直前まで潰した「これ以上簡単にできない」剰余環を与えるイデアルであり、可換環ではその剰余環が体になる。幾何学的には、多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ の点 $(a_1,\dots,a_n)$ での消滅イデアル $(x_1-a_1,\dots,x_n-a_n)$ や、連続関数環の 1 点で消える関数全体のイデアルが極大イデアルであり、極大イデアルは空間の「点」の代数的な対応物である(ex-maximal-ideal-polynomial-point、prop-maximal-ideal-continuous-functions)。素イデアルが「既約な部分空間」に対応するのに対し、極大イデアルはその中で最も小さい部分空間、すなわち点に対応する。
整数環 $\mathbb{Z}$ のイデアルはすべて単項イデアル $(n)=n\mathbb{Z}$($n\ge0$)である。実際、$I\neq(0)$ をイデアルとし、$I$ に属する最小の正整数を $n$ とすると、任意の $a\in I$ を除法の原理で $a=qn+r$($0\le r< n$)と書けば $r=a-qn\in I$ なので $n$ の最小性から $r=0$ となり、$I=(n)$ である。また $m\ge1$ について、$(n)\subset(m)$ であることは $m\mid n$ と同値である。
したがって、$n\ge2$ のとき $(n)$ が極大イデアルであることは、$n$ の正の約数が $1$ と $n$ だけであること、すなわち $n$ が素数であることと同値である。実際、$n$ が素数 $p$ なら $(p)\subset(m)\subset\mathbb{Z}$ から $m\mid p$、よって $m=1$ または $m=p$ であり、$(m)=\mathbb{Z}$ または $(m)=(p)$ である。逆に $n=ab$($1< a< n$)と分解すれば $(n)\subsetneq(a)\subsetneq\mathbb{Z}$ である。$(0)$ と $(1)=\mathbb{Z}$ は極大でない。よって $\mathbb{Z}$ の極大イデアルは素数 $p$ に対する $(p)$ で尽きる。剰余環 $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は $p$ 個の元からなる有限体 $\mathbb{F}_p$ である。
$k$ を体とする。多項式環 $k[x]$ でも、次数についての除法の原理により、任意のイデアルは単項イデアル $(f)$ である($\mathbb{Z}$ の場合と同じ議論で、$I\neq(0)$ に属する次数最小の多項式が $I$ を生成する)。また $g\neq0$ について、$(f)\subset(g)$ であることは $g\mid f$ と同値である。ゆえに $f$ が定数でないとき、$(f)$ が極大イデアルであることは、$f$ の約数が $0$ でない定数と $f$ の定数倍だけであること、すなわち $f$ が既約多項式であることと同値である。たとえば $\mathbb{R}[x]$ では $(x^2+1)$ が極大イデアルであり、剰余環 $\mathbb{R}[x]/(x^2+1)$ は $x$ の類を $i$ とみなすことで複素数体 $\mathbb{C}$ と同型である。一方 $\mathbb{C}[x]$ では既約多項式は 1 次式に限るので、極大イデアルは $(x-a)$($a\in\mathbb{C}$)で尽きる。
$k$ を体、$a=(a_1,\dots,a_n)\in k^n$ とする。多項式環 $A=k[x_1,\dots,x_n]$ のイデアル
$$
\mathfrak{m}_a=(x_1-a_1,\dots,x_n-a_n)
$$
は極大イデアルである。実際、点 $a$ で値をとる写像 $\mathrm{ev}_a\colon A\to k$、$f\mapsto f(a_1,\dots,a_n)$ は全射な環準同型であり(定数多項式が任意の値をとる)、その核は $\mathfrak{m}_a$ に一致する。核が $\mathfrak{m}_a$ を含むことは各生成元が $a$ で消えることから明らかで、逆に $f(a)=0$ なら、各 $x_i$ を $(x_i-a_i)+a_i$ と書いて $f$ を展開すると、$x_i-a_i$ を 1 つも含まない項の和は定数 $f(a)=0$ になるので、$f$ は $x_1-a_1,\dots,x_n-a_n$ の $A$ 係数の線形結合であり、$f\in\mathfrak{m}_a$ である。よって準同型定理から $A/\mathfrak{m}_a\cong k$ は体であり、prop-maximal-ideal-quotient-field により $\mathfrak{m}_a$ は極大イデアルである。$k$ が代数閉体のとき、$k[x_1,\dots,x_n]$ の極大イデアルはこの形のものに限る。これは Hilbertの零点定理(弱形)の内容であり、rem-maximal-ideal-nullstellensatz で述べる。
体 $k$ のイデアルは $(0)$ と $k$ だけである($0$ でない元は単元なので、それを含むイデアルは $k$ 全体になる)。よって $(0)$ が $k$ の唯一の極大イデアルである。逆に、可換環 $A$ において $(0)$ が極大イデアルなら $A\cong A/(0)$ は体である(prop-maximal-ideal-quotient-field)。零環 $\{0\}$ は真イデアルを持たないので極大イデアルを持たない。thm-maximal-ideal-krull で零環を除くのはこのためである。
prop-maximal-ideal-prime の逆「素イデアルならば極大イデアル」は成り立たない。
$\mathbb{Z}$ の $(4)$ は $2\cdot2\in(4)$、$2\notin(4)$ なので素イデアルでなく、したがって prop-maximal-ideal-prime により極大でもない。直接には $(4)\subsetneq(2)\subsetneq\mathbb{Z}$ である。この例が満たす性質は「真イデアルである」、満たさない性質は「素イデアルである」および「極大イデアルである」であり、破る含意は「真イデアル $\Rightarrow$ 素イデアル」と「真イデアル $\Rightarrow$ 極大イデアル」である。
体とは、$1\neq0$ であり、$0$ でない任意の元が単元であるような可換環である。
$A$ を可換環、$\mathfrak{m}$ をそのイデアルとする。$\mathfrak{m}$ が極大イデアルであることと、剰余環 $A/\mathfrak{m}$ が体であることとは同値である。
$a\in A$ の $A/\mathfrak{m}$ における類を $\bar a$ と書く。$\bar a=\bar 0$ であることと $a\in\mathfrak{m}$ であることは同値である。証明の両方向で、$a\in A$ に対する集合
$$
\mathfrak{m}+aA=\{m+ax\mid m\in\mathfrak{m},\ x\in A\}
$$
を用いる。これは $\mathfrak{m}$ と $a$ を含むイデアルである。実際、$0=0+a\cdot0$ であり、$(m+ax)+(m'+ax')=(m+m')+a(x+x')$、$y(m+ax)=ym+a(yx)$ である。
(極大ならば体)$\mathfrak{m}$ を極大イデアルとする。$\mathfrak{m}\neq A$ だから $1\notin\mathfrak{m}$、すなわち $\bar1\neq\bar0$ である。$\bar a\neq\bar0$ とすると $a\notin\mathfrak{m}$ なので、イデアル $\mathfrak{m}+aA$ は $\mathfrak{m}$ を真に含む。極大性により $\mathfrak{m}+aA=A$ であり、特に $1=m+ax$ となる $m\in\mathfrak{m}$、$x\in A$ が存在する。剰余環で見ると $\bar1=\bar m+\bar a\bar x=\bar a\bar x$ なので $\bar a$ は単元である。よって $A/\mathfrak{m}$ は体である。
(体ならば極大)$A/\mathfrak{m}$ を体とする。$\bar1\neq\bar0$ だから $1\notin\mathfrak{m}$、すなわち $\mathfrak{m}\neq A$ である。$\mathfrak{m}\subset I\subset A$ をイデアルとし、$I\neq\mathfrak{m}$ とする。$a\in I\setminus\mathfrak{m}$ をとると $\bar a\neq\bar0$ なので、体の仮定から $\bar a\bar x=\bar1$ となる $x\in A$ がある。これは $ax-1\in\mathfrak{m}\subset I$ を意味し、$ax\in I$ と合わせて $1=ax-(ax-1)\in I$ を得る。よって $I=A$ であり、$\mathfrak{m}$ は極大イデアルである。
この命題により、極大イデアルの判定は「剰余環が体か」という計算に帰着する。ex-maximal-ideal-polynomial-point と prop-maximal-ideal-continuous-functions はこの使い方の典型である。
可換環 $A$ のイデアル $\mathfrak{p}$ が素イデアルであるとは、$\mathfrak{p}\neq A$ であり、$ab\in\mathfrak{p}$ ならば $a\in\mathfrak{p}$ または $b\in\mathfrak{p}$ が成り立つことをいう(素イデアル)。
可換環の極大イデアルは素イデアルである。
$\mathfrak{m}$ を可換環 $A$ の極大イデアルとする。定義から $\mathfrak{m}\neq A$ である。$a,b\in A$ が $ab\in\mathfrak{m}$ かつ $a\notin\mathfrak{m}$ を満たすとする。prf-maximal-ideal-quotient-field と同様に、$\mathfrak{m}+aA$ は $\mathfrak{m}$ を真に含むイデアルなので $\mathfrak{m}+aA=A$ であり、$1=m+ax$($m\in\mathfrak{m}$、$x\in A$)と書ける。両辺に $b$ を掛けると
$$
b=mb+(ab)x
$$
であり、$mb\in\mathfrak{m}$、$(ab)x\in\mathfrak{m}$ だから $b\in\mathfrak{m}$ である。よって $\mathfrak{m}$ は素イデアルである。
別の見方をすれば、prop-maximal-ideal-quotient-field により $A/\mathfrak{m}$ は体であり、体は整域だから、素イデアルの特徴づけ「$\mathfrak{p}$ が素イデアル $\Leftrightarrow$ $A/\mathfrak{p}$ が整域」(素イデアル)を経由しても同じ結論が得られる。逆が成り立たないことは rem-maximal-ideal-prime-not-maximal で見た。整域 $A$ において、$(0)$ が極大であることと $A$ が体であることは同値であり(ex-maximal-ideal-field)、素イデアルと極大イデアルの差は「体でない整域」の存在に由来する。主イデアル整域では $0$ でない素イデアルはすべて極大であり、整域では、この性質はKrull次元が $1$ 以下であることと同値である。
この節で示す主張は Krull の定理と呼ばれ(AM69 Theorem 1.3、DF04 §7.4 Proposition 11)、証明には選択公理と同値な Zornの補題 を用いる。Zorn の補題とは、空でない半順序集合 $P$ の任意の鎖(全順序部分集合)が $P$ の中に上界を持つならば $P$ は極大元を持つ、という主張である(主張と証明は Zornの補題 を参照)。
$A$ を零環でない環(可換でなくてもよい)とする。$A$ の任意の真イデアル $I$ に対し、$I\subset\mathfrak{m}$ を満たす $A$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ が存在する。特に、零環でない環は少なくとも 1 つの極大イデアルを持つ。
$I$ を含む $A$ の真イデアル全体の集合を
$$
\Sigma=\{J\mid J \text{ は } A \text{ のイデアルで } I\subset J\neq A\}
$$
とおき、包含関係で順序づける。$I\in\Sigma$ なので $\Sigma$ は空でない。
$\Sigma$ の任意の鎖 $\mathcal{C}$ が $\Sigma$ の中に上界を持つことを示す。$\mathcal{C}$ が空なら $I$ が上界である。$\mathcal{C}$ が空でないとき、$U=\bigcup_{J\in\mathcal{C}}J$ とおく。$U$ がイデアルであることを確かめる。$0\in I\subset U$ である。$x,y\in U$ とすると $x\in J_1$、$y\in J_2$ となる $J_1,J_2\in\mathcal{C}$ があり、$\mathcal{C}$ が鎖なので $J_1\subset J_2$ または $J_2\subset J_1$ である。大きいほうを $J$ とすれば $x,y\in J$ なので $x+y\in J\subset U$ である。また $x\in J_1$、$r\in A$ なら $rx\in J_1\subset U$ かつ $xr\in J_1\subset U$ である。ゆえに $U$ は $A$ のイデアルであり、$I\subset U$ である。さらに各 $J\in\mathcal{C}$ は真イデアルなので $1\notin J$ であり、したがって $1\notin U$、すなわち $U\neq A$ である。以上から $U\in\Sigma$ であり、$U$ は $\mathcal{C}$ の各元を含むので $\mathcal{C}$ の上界である。
Zorn の補題により $\Sigma$ は極大元 $\mathfrak{m}$ を持つ。$\mathfrak{m}$ が $A$ の極大イデアルであることを示す。$\mathfrak{m}\in\Sigma$ だから $\mathfrak{m}$ は $I$ を含む真イデアルである。$\mathfrak{m}\subset J\subset A$ をイデアルとし、$J\neq A$ とすると、$I\subset\mathfrak{m}\subset J$ から $J\in\Sigma$ であり、$\Sigma$ における $\mathfrak{m}$ の極大性から $J=\mathfrak{m}$ である。よって $\mathfrak{m}$ を含むイデアルは $\mathfrak{m}$ と $A$ だけであり、$\mathfrak{m}$ は極大イデアルである。
最後の主張は、零環でない環では $(0)$ が真イデアルであることから従う。
上の証明で鎖の和集合が真イデアルであることを保証したのは、$A$ が単位元を持ち、真イデアルが「$1$ を含まないイデアル」として特徴づけられることである。単位元を持たない環では同様の主張は成り立つとは限らない。たとえば有理数の加法群 $\mathbb{Q}$ に、積を常に $0$ と定めた環 $R$ を考えると、$R$ のイデアルは $\mathbb{Q}$ の加法部分群と同じものである。$H\subsetneq\mathbb{Q}$ が極大な真部分群だとすると、剰余群 $\mathbb{Q}/H$ は $0$ でなく、$H$ の極大性から $0$ でない真部分群を持たないので、$0$ でない元 1 つで生成される巡回群であり、無限巡回群 $\mathbb{Z}$ は真部分群 $2\mathbb{Z}$ を持つから素数位数 $p$ の巡回群である。しかし $\mathbb{Q}$ の任意の元は $p$ で割れる($q=p\cdot(q/p)$)ので $\mathbb{Q}/H$ の任意の元も $p$ で割れ、$p$ 倍が $0$ になる $\mathbb{Q}/H$ は $0$ でなければならず、矛盾する。よって $R$ は真イデアルを持つ(たとえば $\mathbb{Z}$)が極大イデアルを持たない。
また、Zorn の補題を使わずに済む場合もある。$\mathbb{Z}$ や $k[x]$ では、真イデアル $(n)$ に対して $n$ の素因数 $p$(または既約因子)をとれば $(n)\subset(p)$ であり、$(p)$ は極大イデアルである(ex-maximal-ideal-integers、ex-maximal-ideal-polynomial-one-variable)。逆に、Krull の定理から Zorn の補題(したがって選択公理)が導かれることが Hodges により示されている(Hod79)。したがって Krull の定理の一般形は、ZF 集合論の中で(選択公理を仮定せずに)選択公理と同値である。
$A$ を零環でない可換環とする。$a\in A$ が単元であることと、$a$ がどの極大イデアルにも属さないこととは同値である。特に、単元でない元は必ずある極大イデアルに含まれる。
$a$ が単元なら、$a$ を含むイデアルは $1=a^{-1}a$ を含むので $A$ 全体であり、$a$ は真イデアルに、特に極大イデアルに属さない。逆に $a$ が単元でないとすると $1\notin aA$ なので $(a)=aA$ は真イデアルであり、thm-maximal-ideal-krull により $(a)\subset\mathfrak{m}$ となる極大イデアル $\mathfrak{m}$ が存在する。よって $a\in\mathfrak{m}$ である。
$f\colon A\to B$ を可換環の全射準同型、$\mathfrak{m}$ を $B$ の極大イデアルとすると、$f^{-1}(\mathfrak{m})$ は $A$ の極大イデアルである。
合成 $A\xrightarrow{f}B\to B/\mathfrak{m}$ は全射準同型($f$ と自然な射影がともに全射)であり、その核は $f^{-1}(\mathfrak{m})$ である。準同型定理により $A/f^{-1}(\mathfrak{m})\cong B/\mathfrak{m}$ であり、右辺は prop-maximal-ideal-quotient-field により体である。よって同じ命題により $f^{-1}(\mathfrak{m})$ は極大イデアルである。
$f$ が全射でないと prop-maximal-ideal-pullback は成り立たない。包含写像 $\iota\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{Q}$ について、$(0)$ は体 $\mathbb{Q}$ の極大イデアルだが、$\iota^{-1}((0))=(0)$ は $\mathbb{Z}$ の極大イデアルでない(rem-maximal-ideal-prime-not-maximal)。この例が満たす性質は「$\mathfrak{m}$ が極大イデアルである」、満たさない性質は「$f^{-1}(\mathfrak{m})$ が極大イデアルである」であり、破る含意は「任意の環準同型について極大イデアルの逆像は極大イデアル」である。一方、素イデアルの逆像は任意の準同型について素イデアルになる($A/f^{-1}(\mathfrak{p})$ が整域 $B/\mathfrak{p}$ に単射で埋め込まれるため)。この違いが、代数幾何学で極大イデアルの集合ではなく素イデアルの集合(素スペクトル)を基本の対象にする理由の 1 つである。
閉区間 $[0,1]$ 上の実数値連続関数全体のなす環を $C([0,1])$ とする(和と積は各点ごとに定める)。点 $a\in[0,1]$ に対し
$$
\mathfrak{m}_a=\{f\in C([0,1])\mid f(a)=0\}
$$
は $C([0,1])$ の極大イデアルであり、$a\neq b$ なら $\mathfrak{m}_a\neq\mathfrak{m}_b$ である。逆に、$C([0,1])$ の任意の極大イデアルはある $a\in[0,1]$ に対する $\mathfrak{m}_a$ である。
まず $\mathfrak{m}_a$ が極大イデアルであることを示す。点 $a$ で値をとる写像 $\mathrm{ev}_a\colon C([0,1])\to\mathbb{R}$、$f\mapsto f(a)$ は環準同型であり、定数関数を考えれば全射である。その核はちょうど $\mathfrak{m}_a$ なので、準同型定理により $C([0,1])/\mathfrak{m}_a\cong\mathbb{R}$ は体であり、prop-maximal-ideal-quotient-field により $\mathfrak{m}_a$ は極大イデアルである。$a\neq b$ のとき、関数 $f(x)=x-a$ は $\mathfrak{m}_a$ に属し $\mathfrak{m}_b$ に属さないので $\mathfrak{m}_a\neq\mathfrak{m}_b$ である。
次に、$C([0,1])$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ がある $\mathfrak{m}_a$ に一致することを示す。$\mathfrak{m}$ の元すべてが共通に消える点、すなわち $f(a)=0$ がすべての $f\in\mathfrak{m}$ について成り立つ点 $a$ が存在すれば、$\mathfrak{m}\subset\mathfrak{m}_a\neq C([0,1])$ となり、$\mathfrak{m}$ の極大性から $\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_a$ である。
そこで、そのような共通零点が存在しないと仮定して矛盾を導く。各 $x\in[0,1]$ に対し、$f_x(x)\neq0$ となる $f_x\in\mathfrak{m}$ がとれる。$f_x$ は連続なので、$x$ を含む $[0,1]$ の開集合 $U_x$ で、$U_x$ 上で $f_x$ が $0$ にならないものがある。$\{U_x\}_{x\in[0,1]}$ は $[0,1]$ の開被覆であり、$[0,1]$ はコンパクト空間なので(Heine–Borelの定理、Rud76 Theorem 2.40)、有限個の点 $x_1,\dots,x_n$ について $[0,1]=U_{x_1}\cup\cdots\cup U_{x_n}$ となる。
$$
g=f_{x_1}^2+\cdots+f_{x_n}^2
$$
とおくと、$\mathfrak{m}$ がイデアルなので $g\in\mathfrak{m}$ である。任意の $x\in[0,1]$ はある $U_{x_i}$ に属し、そこで $f_{x_i}(x)\neq0$ だから $g(x)\ge f_{x_i}(x)^2>0$ である。よって $g$ は $[0,1]$ 上で正の値をとる連続関数であり、$1/g$ も連続なので $g$ は $C([0,1])$ の単元である。単元を含むイデアルは環全体だから $\mathfrak{m}=C([0,1])$ となり、$\mathfrak{m}$ が真イデアルであることに矛盾する。
以上から $\mathfrak{m}$ の共通零点 $a$ が存在し、$\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_a$ である。
上の証明で $[0,1]$ について使ったのは、コンパクト性と、異なる 2 点を区別する連続関数の存在だけである。したがって任意のコンパクト Hausdorff空間 $X$ について、$C(X)$ の極大イデアルは点 $x\in X$ での消滅イデアル $\mathfrak{m}_x$ で尽き、Urysohnの補題により $x\mapsto\mathfrak{m}_x$ は単射になる。すなわち $X$ の点と $C(X)$ の極大イデアルは一対一に対応し、空間 $X$ は環 $C(X)$ から復元される(Gelfand–Kolmogorov の定理、GJ60 第 4 章・第 7 章)。コンパクトでない空間、たとえば $X=\mathbb{R}$ では、台がコンパクトな連続関数全体は真イデアルをなし(単元は至るところ $0$ でない関数だから、この集合は単元を含まない)、それを含む極大イデアルが thm-maximal-ideal-krull により存在するが、台がコンパクトで $x$ で消えない関数がどの $x$ についてもあるので、その極大イデアルはどの $\mathfrak{m}_x$ とも一致しない。これが点に対応しない極大イデアルの例である。
可換環 $A$ が極大イデアルをただ 1 つ持つとき、$A$ を局所環(local ring)といい、その唯一の極大イデアルを $\mathfrak{m}$ として $(A,\mathfrak{m})$ と書く。
零環でない可換環 $A$ について、次の 3 条件は同値である。
$A$ の単元でない元全体を $N$ とおく。cor-maximal-ideal-unit により、$N$ は $A$ の極大イデアルすべての和集合に等しい。
(1 $\Rightarrow$ 2)極大イデアルが $\mathfrak{m}$ だけなら $N=\mathfrak{m}$ はイデアルである。
(2 $\Rightarrow$ 3)$N$ がイデアルなら、$1\notin N$ だから $N$ は真イデアルであり、$N$ に属さない元は定義により単元である。よって $\mathfrak{m}=N$ が条件 3 を満たす。
(3 $\Rightarrow$ 1)条件 3 の $\mathfrak{m}$ をとる。任意の真イデアル $I$ は単元を含まないので、$I$ の元はすべて $\mathfrak{m}$ に属し、$I\subset\mathfrak{m}$ である。したがって $\mathfrak{m}$ は $A$ の真イデアルの中で最大の元であり、特に極大イデアルである。また任意の極大イデアル $\mathfrak{m}'$ は真イデアルなので $\mathfrak{m}'\subset\mathfrak{m}$ であり、$\mathfrak{m}'$ の極大性から $\mathfrak{m}'=\mathfrak{m}$ である。よって極大イデアルは $\mathfrak{m}$ だけである。
体は $(0)$ を唯一の極大イデアルとする局所環である。素数 $p$ に対し、分母が $p$ で割り切れない有理数全体
$$
\mathbb{Z}_{(p)}=\{a/b\in\mathbb{Q}\mid a,b\in\mathbb{Z},\ p\nmid b\}
$$
は $\mathbb{Q}$ の部分環であり、局所環である。実際、$a/b\in\mathbb{Z}_{(p)}$($p\nmid b$)は、$p\nmid a$ のとき $b/a\in\mathbb{Z}_{(p)}$ を逆元に持ち、$p\mid a$ のとき $p\mathbb{Z}_{(p)}$ に属する。逆に $p\mathbb{Z}_{(p)}$ の元 $a/b$($p\mid a$、$p\nmid b$)は単元でない($(a/b)(e/f)=1$、$p\nmid f$ となる $e/f$ があれば $ae=bf$ から $p\mid bf$ となり矛盾する)。よって単元でない元全体は $p\mathbb{Z}_{(p)}$ に一致し、これはイデアルなので prop-maximal-ideal-local-ring により $\mathbb{Z}_{(p)}$ は局所環であり、極大イデアルは $p\mathbb{Z}_{(p)}$ である。剰余体は $\mathbb{Z}_{(p)}/p\mathbb{Z}_{(p)}\cong\mathbb{F}_p$ である。実際、$p\nmid b$ なら $bb'\equiv1\pmod p$ となる整数 $b'$ があり $a/b-ab'=a(1-bb')/b\in p\mathbb{Z}_{(p)}$ なので、合成 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_{(p)}\to\mathbb{Z}_{(p)}/p\mathbb{Z}_{(p)}$ は全射であり、その核は $p\mathbb{Z}_{(p)}\cap\mathbb{Z}=p\mathbb{Z}$ である。体 $k$ 上の形式的冪級数環 $k[\![x]\!]$ も、定数項が $0$ でない冪級数が単元であることから、$(x)$ を唯一の極大イデアルとする局所環である。一般に、可換環 $A$ とその素イデアル $\mathfrak{p}$ に対する局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ は $\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}$ を唯一の極大イデアルとする局所環であり、$\mathbb{Z}_{(p)}$ は $A=\mathbb{Z}$、$\mathfrak{p}=(p)$ の場合である(AM69 Chapter 3)。一方 $\mathbb{Z}$ や $k[x]$ は極大イデアルを無限個持つので局所環でない。
$k$ を代数閉体とすると、$k[x_1,\dots,x_n]$ の極大イデアルは ex-maximal-ideal-polynomial-point の $\mathfrak{m}_a$($a\in k^n$)で尽き、$a\mapsto\mathfrak{m}_a$ は $k^n$ から極大イデアル全体への全単射である。これが Hilbertの零点定理 の弱形であり、証明は AM69 Corollary 7.10(体上有限生成な多元環の極大イデアルによる剰余体は基礎体の有限次拡大である)に譲る。$k$ が代数閉でないときは点に対応しない極大イデアルがある。たとえば $\mathbb{R}[x]$ の $(x^2+1)$ は $\mathbb{R}$ の点に対応せず、剰余体は $\mathbb{C}$ である(ex-maximal-ideal-polynomial-one-variable)。
可換環 $A$ の素イデアル全体 $\operatorname{Spec}A$ に Zariski位相 を入れると、素イデアル $\mathfrak{p}$ の閉包は $\mathfrak{p}$ を含む素イデアル全体 $V(\mathfrak{p})$ である。$\mathfrak{p}$ が極大イデアルであることは $\mathfrak{p}$ が $\operatorname{Spec}A$ の閉点であることと同値であり、証明は 閉点 の記事の命題「スペクトルの閉点と極大イデアル」に譲る。極大イデアル全体を $\operatorname{Max}A$ と書き、極大スペクトルという。
すべての極大イデアルの共通部分を $A$ の Jacobson根基 $J(A)$ という。$a\in J(A)$ であることは、任意の $x\in A$ について $1-ax$ が単元であることと同値である。実際、$1-ax$ が単元でなければ cor-maximal-ideal-unit によりある極大イデアル $\mathfrak{m}$ に属し、$a\in\mathfrak{m}$ なら $1=(1-ax)+ax\in\mathfrak{m}$ となって矛盾する。逆に $a\notin\mathfrak{m}$ となる極大イデアル $\mathfrak{m}$ があれば、$\mathfrak{m}+aA=A$ から $1-ax\in\mathfrak{m}$ となる $x$ がとれ、$1-ax$ は単元でない。局所環では $J(A)$ は唯一の極大イデアルであり、これが Nakayamaの補題 の出発点である(Mat86 §1・§2)。Boole環では任意の素イデアルが極大であり(剰余環が $\mathbb{F}_2$ になる)、その極大イデアルの存在定理は Boole素イデアル定理 と呼ばれる。
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