実直線束の群

同義語:実直線束の同型類の群group of real line bundles

概要

実直線束の群(group of real line bundles)とは、位相空間 $B$ 上の実直線束の同型類の集合に、テンソル積を演算として入れた可換群で、単位元は自明束、逆元は双対束である。直線束が計量をもつことは $L\otimes L$ が自明であることと同値なので、パラコンパクト Hausdorff 空間の上ではどの元も位数が $2$ 以下になる。このとき第 1 Stiefel–Whitney 類 $w_1$ は $H^1(B;\mathbb Z/2)$ への群準同型であり、$B$ が局所弧状連結なら単射、さらに半局所単連結なら同型であり、$w_1(L)$ は各ループに沿って $L$ を引き戻した束が円周上の自明束か Möbius 束かによって決まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, ベクトル束の直和・テンソル積, Stiefel–Whitney類, 被覆空間, 普遍係数定理, Hurewiczの定理

位相空間 $B$ の上の実直線束(階数 $1$ の実ベクトル束)の同型類は、テンソル積を演算として可換群をなす。単位元は自明束で、逆元は双対束である。底空間がパラコンパクト Hausdorff なら、直線束はいつも計量をもち、計量は $L\otimes L$ の自明化を与えるので、この群のどの元も位数が $2$ 以下になる。
パラコンパクト Hausdorff 空間の上では、この群は第 1 Stiefel–Whitney 類 $w_1$ によってコホモロジー群 $H^1(B;\mathbb Z/2)$ と比べられる。$w_1$ は群準同型であり、底空間が局所弧状連結なら単射、さらに半局所単連結(滑らかな多様体や CW 複体など)なら同型である。$w_1(L)$ は、$B$ の各ループに沿って $L$ を引き戻したとき、それが円周上の自明束か Möbius 束か、という情報だけで決まる。この記事では、群の構造、計量の存在とテンソル平方の自明性の同値、$w_1$ が準同型で単射であることを証明し、半局所単連結な場合の全射性を 2 重被覆から直線束を作って示す。

定義と記号

ベクトル束・束写像・切断の定義は ベクトル束 の記事に、テンソル積・双対束は ベクトル束の直和・テンソル積 の記事に従う。この記事の直線束は連続な実直線束であり、$B$ 上の自明な直線束を $\varepsilon:=B\times\mathbb R$ と書く。直線束が自明であることは、至るところ $0$ でない連続な切断をもつことと同値である(ベクトル束 の命題「自明性の判定」)。$S^1=\mathbb R/\mathbb Z$、$p\colon\mathbb R\to S^1$ を商写像とし、$M\to S^1$ を Möbius 束(ベクトル束 の例「Möbius 束」)とする。

実直線束の群

位相空間 $B$ 上の実直線束の同型類の集合を $\operatorname{Vect}_1(B)$ と書き、演算を $[L]\cdot[L']:=[L\otimes L']$ で定める。これを $B$ 上の実直線束の群という。

群の構造

任意の位相空間 $B$ について、$\operatorname{Vect}_1(B)$ は可換群であり、単位元は $[\varepsilon]$、$[L]$ の逆元は双対束の類 $[L^*]$ である。連続写像 $f\colon B'\to B$ について、引き戻し $[L]\mapsto[f^*L]$ は群準同型 $f^*\colon\operatorname{Vect}_1(B)\to\operatorname{Vect}_1(B')$ である。

ベクトル束の直和・テンソル積 の命題「標準同型」の 5 により、演算は同型類の上で矛盾なく定まり、同命題の 2 により結合的・可換で $[\varepsilon]$ を単位元にもつ。同命題の 4 により $L^*\otimes L\cong\operatorname{Hom}(L,L)$ である。各ファイバーの恒等写像 $b\mapsto\mathrm{id}_{L_b}$ は、同じ記事の命題「準同型束の切断と束写像」により恒等写像 $L\to L$ に対応する連続な切断で、どこでも $0$ でない。よって $\operatorname{Hom}(L,L)$ は自明であり、$[L^*]$ は $[L]$ の逆元である。引き戻しがテンソル積と両立することは同じ記事の命題「引き戻しとの両立性」である。$\square$

計量とテンソル平方

直線束 $L$ の計量とは、各ファイバーの内積の族で、$L\times_BL$ 上で連続なものである(ベクトル束の計量)。

計量とテンソル平方

任意の位相空間 $B$ と $B$ 上の実直線束 $L$ について、$L$ が計量をもつための必要十分条件は $L\otimes L$ が自明であること、すなわち $[L]^2=1$ である。

計量 $\mu$ があるとする。各ファイバーで $v\otimes w\mapsto\mu(v,w)$ は線形写像 $L_b\otimes L_b\to\mathbb R$ で、$v\ne0$ なら $v\otimes v\mapsto\mu(v,v)>0$ なので $0$ でない。局所枠 $e$ をとると、この写像は $L\otimes L$ の局所枠 $e\otimes e$ を連続関数 $\mu(e,e)$ に写すので、$L\otimes L\to\varepsilon$ は連続な束写像で、各ファイバーで線形同型($1$ 次元の間の $0$ でない線形写像)である。ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」により $L\otimes L\cong\varepsilon$ である。
逆に束同型 $\theta\colon L\otimes L\to\varepsilon$ があるとし、$\theta(v\otimes w)=(b,\beta_b(v,w))$ と書く。$\beta_b$ は $L_b$ 上の対称な双線形形式で($L_b$ は $1$ 次元なので $v\otimes w=w\otimes v$ の像は等しい)、$v\ne0$ なら $v\otimes v\ne0$ なので $\beta_b(v,v)\ne0$ である。$v$ を $cv$($c\ne0$)に替えると $\beta_b(cv,cv)=c^2\beta_b(v,v)$ なので、符号 $\sigma(b):=\operatorname{sign}\beta_b(v,v)$ は $v\ne0$ の選び方によらない。局所枠 $e$ の上で $\sigma=\operatorname{sign}\beta(e,e)$ であり、$\beta(e,e)$ は連続でどこでも $0$ でないので、$\sigma$ は局所定数、したがって連続である。$\mu_b:=\sigma(b)\beta_b$ とおくと、$\mu_b(v,v)>0$($v\ne0$)で、局所枠の上で $\mu(e,e)=\lvert\beta(e,e)\rvert$ は連続なので、$\mu$ は $L$ の計量である。$\square$

この定理は MS74 Problem 3-E(pp. 35–36)の主張である。$B$ の連結性は使っていない。

位数 2

$B$ がパラコンパクト Hausdorff 空間なら、$\operatorname{Vect}_1(B)$ のどの元も位数が $2$ 以下であり、任意の直線束について $L\cong L^*$ である。

部分束・商束・双対束 の補題「計量の存在」により $L$ は計量をもち、thm-lbg-metric-square により $[L]^2=1$ である。よって $[L^*]=[L]^{-1}=[L]$ である。$\square$

ループに沿った符号

円周上のベクトル束の分類 により、$S^1$ 上の直線束は $\varepsilon$ か $M$ のどちらか一方と同型である。連続写像 $\alpha\colon S^1\to B$(ループ)と $B$ 上の直線束 $L$ について、
$$ \nu_L(\alpha):=\begin{cases}0&(\alpha^*L\cong\varepsilon)\\1&(\alpha^*L\cong M)\end{cases}\in\mathbb Z/2 $$
とおき、$L$ の $\alpha$ に沿った符号とよぶ。$\alpha^*L$ を作る代わりに、$L$ の枠を $\alpha$ に沿って 1 周運んだとき向きが反転するかどうかと考えてもよい。
ホモロジーは整数係数の特異ホモロジーとし、$\iota\in H_1(S^1;\mathbb Z)$ を、ループ $p|_{[0,1]}$ を特異 1 単体とみた 1 輪体の類とする(Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」と $\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z$ により $\iota$ は生成元である)。$\mathbb Z/2$ 係数のコホモロジー類 $x$ と 1 輪体の類 $c$ の値を $\langle x,c\rangle\in\mathbb Z/2$ と書く。

円周上の直線束の $w_1$

$S^1$ 上の直線束 $\ell$ について、$\langle w_1(\ell),\iota\rangle=0$ であるための必要十分条件は $\ell$ が自明であることである。したがって、$B$ 上の直線束 $L$ とループ $\alpha\colon S^1\to B$ について
$$ \langle w_1(L),\alpha_*\iota\rangle=\nu_L(\alpha) $$
が成り立つ。

$H_0(S^1)$ は自由なので、普遍係数定理 の定理「コホモロジーの普遍係数定理」($\operatorname{Ext}$ は自由な群について $0$。同記事の命題「Ext の計算」)により、$x\mapsto\langle x,\cdot\rangle$ は同型 $H^1(S^1;\mathbb Z/2)\to\operatorname{Hom}(H_1(S^1;\mathbb Z),\mathbb Z/2)$ を与える。$H_1(S^1;\mathbb Z)$ は $\iota$ で生成されるので、$\langle w_1(\ell),\iota\rangle=0$ は $w_1(\ell)=0$ と同値である。
$\ell$ が自明なら、$\ell$ は 1 点の上の束の引き戻しなので $w_1(\ell)=0$ である(Stiefel–Whitney類 の命題「基本性質」の 1)。$\ell$ が自明でないとき、$\ell\cong M$ であり、円周上のベクトル束の分類 の例「円周の接束と Möbius 束の和」の 4 により、同相写像 $h\colon S^1\to\mathbb{RP}^1$ でトートロジー直線束 $\gamma_1$ について $M\cong h^*\gamma_1$ となるものがある。Stiefel–Whitney類 の公理の自然性と正規化 $w_1(\gamma_1)\ne0$ により、$w_1(\ell)=h^*w_1(\gamma_1)$ は $h^*$ が同型なので $0$ でない。
後半:$\langle w_1(L),\alpha_*\iota\rangle=\langle\alpha^*w_1(L),\iota\rangle=\langle w_1(\alpha^*L),\iota\rangle$ であり(2 つ目の等号は自然性)、前半によりこれは $\nu_L(\alpha)$ に等しい。$\square$

$H_1(B;\mathbb Z)$ はループの類 $\alpha_*\iota$ で生成される。実際、特異ホモロジーは弧状連結成分ごとの直和に分かれ(Hat02 Proposition 2.6、p. 109)、弧状連結な空間では Hurewicz 準同型 $\pi_1\to H_1$ は全射で(Hurewiczの定理 の定理「1 次元の Hurewicz の定理」)、ループ $\alpha$ の類の像は $\alpha_*\iota$ である。さらに $H_0(B)$ は自由なので、普遍係数定理により
$$ H^1(B;\mathbb Z/2)\xrightarrow{\ \cong\ }\operatorname{Hom}(H_1(B;\mathbb Z),\mathbb Z/2),\qquad x\mapsto\langle x,\cdot\rangle $$
は同型である。したがって、$H^1(B;\mathbb Z/2)$ の元はループの類での値で決まり、lem-lbg-circle により $w_1(L)$ はループに沿った符号 $\nu_L$ だけで決まる。

主定理

実直線束の群と第 1 Stiefel–Whitney 類

$B$ をパラコンパクト Hausdorff 空間とする。

  1. $w_1\colon\operatorname{Vect}_1(B)\to H^1(B;\mathbb Z/2)$、$[L]\mapsto w_1(L)$ は群準同型である。すなわち $w_1(L\otimes L')=w_1(L)+w_1(L')$ が成り立つ。
  2. $B$ が局所弧状連結なら $w_1$ は単射である。すなわち、直線束 $L$ が自明であるための必要十分条件は $w_1(L)=0$ である。

1.$x:=w_1(L\otimes L')-w_1(L)-w_1(L')$ とおく。上の注意により、任意のループ $\alpha\colon S^1\to B$ について $\langle x,\alpha_*\iota\rangle=0$ を示せばよく、lem-lbg-circle によりこれは
$$ \nu_{L\otimes L'}(\alpha)=\nu_L(\alpha)+\nu_{L'}(\alpha) $$
と同値である。ベクトル束の直和・テンソル積 の命題「引き戻しとの両立性」により $\alpha^*(L\otimes L')\cong\alpha^*L\otimes\alpha^*L'$ であり、$\alpha^*L$ と $\alpha^*L'$ はそれぞれ $\varepsilon$ か $M$ に同型である。同じ記事の命題「標準同型」の 2・5 により $\varepsilon\otimes\varepsilon\cong\varepsilon$、$\varepsilon\otimes M\cong M\otimes\varepsilon\cong M$、命題「Möbius 束のテンソル平方は自明」により $M\otimes M\cong\varepsilon$ である。4 通りすべてで上の等式が成り立つ。
2.$L$ が自明なら $w_1(L)=0$ である(Stiefel–Whitney類 の命題「基本性質」の 1)。逆に $w_1(L)=0$ とする。部分束・商束・双対束 の補題「計量の存在」により $L$ は計量 $\mu$ をもつ。単位ベクトルの全体
$$ S(L):=\{v\in L\mid\mu(v,v)=1\} $$
を考える。$U$ 上の局所枠 $e$ について $\hat e:=e/\sqrt{\mu(e,e)}$ とおくと、$S(L)\cap\pi^{-1}(U)=\hat e(U)\sqcup(-\hat e)(U)$ で、$(u,\pm1)\mapsto\pm\hat e(u)$ は $U\times\{\pm1\}$ からの同相写像である。よって $\pi\colon S(L)\to B$ は各ファイバーが 2 点の被覆空間であり、その連続な切断は $L$ の至るところ $0$ でない切断である。
ループ $\alpha\colon S^1\to B$ をとる。lem-lbg-circle により $\nu_L(\alpha)=\langle w_1(L),\alpha_*\iota\rangle=0$ なので $\alpha^*L$ は自明であり、至るところ $0$ でない切断を正規化して、連続写像 $\sigma\colon S^1\to S(L)$ で $\pi\circ\sigma=\alpha$ となるものが得られる。道 $t\mapsto\sigma(p(t))$ と $t\mapsto-\sigma(p(t))$($t\in[0,1]$)はループ $\alpha\circ p|_{[0,1]}$ の持ち上げで、どちらも閉じている。ファイバーの 2 点のどちらから始まる持ち上げも、被覆空間 の定理「持ち上げの一意性」によりこのどちらかなので、$B$ のどのループも、どの点から持ち上げても閉じた道に持ち上がる。
$C$ を $B$ の弧状連結成分とする。$B$ は局所弧状連結なので $C$ は $B$ の開集合で、$C$ 自身も弧状連結かつ局所弧状連結である。$b_0\in C$、$e_0\in S(L)_{b_0}$ をとり、被覆 $\pi_C\colon S(L)|_C:=\pi^{-1}(C)\to C$ を考える。被覆空間 の定理「基本群との関係」の 1 により、$(\pi_C)_*\pi_1(S(L)|_C,e_0)$ は「$e_0$ からの持ち上げが閉じるループ」の類の全体なので、$\pi_1(C,b_0)$ 全体に等しい。持ち上げの判定法(Hat02 Proposition 1.33、p. 61)を恒等写像 $(C,b_0)\to(C,b_0)$ に当てると、連続写像 $\sigma_C\colon C\to S(L)|_C$ で $\pi\circ\sigma_C=\mathrm{id}_C$ となるものがある。弧状連結成分は互いに交わらない開集合なので、$\sigma_C$ を並べた写像 $B\to S(L)$ は連続な切断である。よって $L$ は至るところ $0$ でない切断をもち、自明である。
1 により $w_1$ は準同型で、その核は 2 の前半により $\{[\varepsilon]\}$ だけなので、$w_1$ は単射である。$\square$

単射性の証明では、$w_1$ を「ループに沿った符号」として読み替え、符号がすべて $0$ なら単位ベクトルの 2 重被覆 $S(L)$ が切断をもつことを使った。$S(L)$ の各ファイバーの 2 点は直線 $L_b$ の 2 つの向きにあたるので、$w_1(L)=0$ は「$L$ の向きを底空間全体で連続に選べる」ことを意味している。
全射性には、基本群の部分群に対応する被覆空間の存在が必要になる。

全射性

$B$ をパラコンパクト Hausdorff、局所弧状連結かつ半局所単連結な空間とする。このとき $w_1\colon\operatorname{Vect}_1(B)\to H^1(B;\mathbb Z/2)$ は群の同型である。

要点:$x\in H^1(B;\mathbb Z/2)$ を基本群から $\mathbb Z/2$ への準同型と見て、その核に対応する 2 重被覆 $P$ を作り、$P\times\mathbb R$ を「$P$ のファイバーの入れ替えと符号の反転」で割った直線束 $L_P$ を作ると、ループに沿った $L_P$ の符号が $x$ の値になる。

詳細

thm-lbg-main により全射性を示せばよい。$x\in H^1(B;\mathbb Z/2)$ をとる。$B$ の各弧状連結成分 $C$ に点 $b_C$ を選び、$\theta_C\colon\pi_1(C,b_C)\to\mathbb Z/2$ を、ループ $\alpha$ の類を $\langle x,\alpha_*\iota\rangle$ に写す写像とする(Hurewicz 準同型と $\langle x,\cdot\rangle$ の合成なので準同型である)。$K_C:=\ker\theta_C$ の指数は $1$ か $2$ である。$C$ は開集合なので弧状連結・局所弧状連結・半局所単連結であり、指数が $2$ なら 被覆空間 の定理「普遍被覆の存在と被覆空間の分類」の 2 により、弧状連結な被覆 $P_C\to C$ で $\pi_1$ の像が $K_C$ のものがあり、同記事の定理「基本群との関係」の 2 によりファイバーは 2 点である。指数が $1$ なら $P_C:=C\times\{\pm1\}$ とする。$P:=\bigsqcup_CP_C\to B$ は各ファイバーが 2 点の被覆である。

$\tau\colon P\to P$ を各ファイバーの 2 点を入れ替える写像とする。弧状連結で均等に覆われた開集合 $U$ の上では $P|_U$ は 2 枚のシート $U^+\sqcup U^-$ で、$\tau$ はシートを入れ替えるので連続である(局所弧状連結なので、このような $U$ で $B$ は覆われる)。$L_P:=(P\times\mathbb R)/((y,t)\sim(\tau y,-t))$、$[y,t]\mapsto\pi(y)$ とおく。$U^+$ への切断を $s^+$ とすると $(u,t)\mapsto[s^+(u),t]$ は $U\times\mathbb R$ から $L_P|_U$ への同相写像で(各類は第 1 成分が $U^+$ に入る代表をちょうど 1 つもち、商写像は位数 $2$ の群の作用による商なので開写像である)、変換関数は $\pm1$ なので、$L_P$ は直線束である。

$\alpha$ を $b_C$ を基点とするループ($[0,1]\to C$)とし、$\tilde\alpha$ を $y_0\in P_{b_C}$ からの持ち上げとする。$g(t):=[\tilde\alpha(t),1]$ は $\alpha$ に沿った $L_P$ の $0$ でない元の連続な族である。$\theta_C([\alpha])=0$ なら、被覆空間 の定理「基本群との関係」の 1 により $\tilde\alpha$ は閉じていて $g(1)=g(0)$ なので、$g$ は $\bar\alpha^*L_P$($\bar\alpha\colon S^1\to B$ は $\alpha$ が定めるループ)の至るところ $0$ でない切断を与え、$\nu_{L_P}(\bar\alpha)=0$ である。$\theta_C([\alpha])=1$ なら $\tilde\alpha(1)=\tau y_0$ で $g(1)=[\tau y_0,1]=[y_0,-1]=-g(0)$ である。$\bar\alpha^*L_P$ に至るところ $0$ でない切断 $s$ があれば、$s(p(t))=\lambda(t)g(t)$ となる連続関数 $\lambda\colon[0,1]\to\mathbb R\setminus\{0\}$ があり、$s(p(1))=s(p(0))$ から $\lambda(1)=-\lambda(0)$ となって 中間値の定理 に反する。よって $\nu_{L_P}(\bar\alpha)=1$ である。

以上と lem-lbg-circle により、各 $b_C$ を基点とするループ $\alpha$ について $\langle w_1(L_P),\bar\alpha_*\iota\rangle=\theta_C([\alpha])=\langle x,\bar\alpha_*\iota\rangle$ である。これらの類は $H_1(B;\mathbb Z)$ を生成するので、普遍係数定理による同型から $w_1(L_P)=x$ である。$\square$

$B$ が滑らかな多様体なら、滑らかな 1 の分割をもつのでパラコンパクトであり(1の分割 の定理「滑らかな 1 の分割の存在」と命題「1 の分割があればパラコンパクト」)、局所可縮なので(局所可縮空間 の定理「凸集合と多様体」)、thm-lbg-surjective の仮定を満たす。CW複体 もパラコンパクト Hausdorff であり(パラコンパクト空間 の定理「CW 複体のパラコンパクト性」)、局所可縮なので(Hat02 Proposition A.4、p. 522)同じく仮定を満たす。

例

群の計算
  1. 円周:$H^1(S^1;\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$ なので $\operatorname{Vect}_1(S^1)=\{[\varepsilon],[M]\}\cong\mathbb Z/2$ であり、$M\otimes M\cong\varepsilon$ である。これは 円周上のベクトル束の分類 の $k=1$ の場合と一致する。
  2. 実射影空間:$n\ge1$ について $H^1(\mathbb{RP}^n;\mathbb Z/2)\cong\mathbb Z/2$(実射影空間 の定理「$\mathbb{Z}/2$ 係数のコホモロジー環」)なので、$\mathbb{RP}^n$ 上の直線束は自明束とトートロジー直線束 $\gamma_n$ の 2 つだけである($w_1(\gamma_n)\ne0$ は Stiefel–Whitney類 の補題「トートロジー直線束」)。
  3. 単連結な多様体:$\pi_1=1$ なら $H_1=0$ なので $H^1(B;\mathbb Z/2)=0$ であり、直線束はすべて自明である。たとえば $n\ge2$ の球面 $S^n$(単連結空間 の命題「球面の単連結性」)。
  4. トーラス:$T^2=S^1\times S^1$ では $\pi_1(T^2)\cong\mathbb Z^2$(トーラス の例「トーラスの基本群」)なので $H^1(T^2;\mathbb Z/2)\cong(\mathbb Z/2)^2$ であり、直線束はちょうど 4 つある。射影を $\mathrm{pr}_1,\mathrm{pr}_2$ とすると、$\varepsilon$、$\mathrm{pr}_1^*M$、$\mathrm{pr}_2^*M$、$\mathrm{pr}_1^*M\otimes\mathrm{pr}_2^*M$ がその代表である。実際、2 つの座標の円周 $\delta_1(z)=(z,1)$、$\delta_2(z)=(1,z)$ に沿った符号の組は順に $(0,0)$、$(1,0)$、$(0,1)$、$(1,1)$ で($\mathrm{pr}_i\circ\delta_j$ は $i=j$ なら恒等写像、$i\ne j$ なら定値写像)、$\delta_{1*}\iota,\delta_{2*}\iota$ は $H_1(T^2;\mathbb Z)$ の基底なので、lem-lbg-circle により $w_1$ の値はすべて異なる。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
階数が $1$$S^2$ 上の $TS^2$ と $\varepsilon^2$$w_1(E)=0$ なら $E$ は自明である
底空間がパラコンパクト Hausdorff原点を 2 つもつ直線の上の直線束 $L$$L\otimes L$ は自明である
係数が実数$\mathbb{CP}^1$ 上の複素直線束 $\mathcal O(1)$群の各元の位数が $2$ 以下である
表の反例の確かめ

1 行目:$H^1(S^2;\mathbb Z/2)=0$ なので $w_1(TS^2)=0$ だが、$TS^2$ は至るところ $0$ でない接ベクトル場をもたない(毛玉の定理)ので自明でない。$S^2$ はパラコンパクト Hausdorff で局所弧状連結であり、外れているのは階数の条件だけである。
2 行目:$\mathbb R$ を 2 枚用意し、$0$ 以外の点どうしを同一視した空間 $X$ を考える。2 枚の $\mathbb R$ の像 $U_1,U_2$ は $X$ の開集合で $\mathbb R$ と同相、$U_1\cap U_2$ は $\mathbb R\setminus\{0\}$ にあたる。$X$ は局所弧状連結だが、2 つの原点は交わらない近傍で分けられないので Hausdorff でない。$U_1\times\mathbb R$ と $U_2\times\mathbb R$ を、$x\ne0$ の上で $(x,v)_1\leftrightarrow(x,\lvert x\rvert v)_2$ により貼り合わせた直線束を $L$ とする(2 枚の貼り合わせなのでコサイクル条件は自明であり、ベクトル束 の命題「変換関数の連続性・コサイクル条件と束の再構成」によりベクトル束になる)。$L$ に計量があったとすると、各 $U_i$ の上で $\mu((x,v)_i,(x,v)_i)=a_i(x)v^2$ となる連続関数 $a_i\colon\mathbb R\to(0,\infty)$ があり、$x\ne0$ で $a_1(x)=x^2a_2(x)$ である。$x\to0$ とすると $a_1(0)=0$ となり矛盾する。よって $L$ は計量をもたず、thm-lbg-metric-square により $L\otimes L$ は自明でない。
3 行目:Chern類 の正規化により $c_1(\mathcal O(1))=h$ は $H^2(\mathbb{CP}^1;\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ の生成元であり、同記事の命題「直線束のテンソル積」により $c_1(\mathcal O(1)^{\otimes n})=nh\ne0$($n\ge1$)である。よって複素直線束の同型類のテンソル積による群で $[\mathcal O(1)]$ の位数は無限である。複素直線束は Hermite 計量をもつが、Hermite 計量は $L\otimes L$ ではなく $L\otimes\bar L$ を自明にする。

補足

  • 分類空間による見方:ベクトル束 の定理「ホモトピー不変性と分類」により、パラコンパクト Hausdorff 空間 $B$ 上の直線束の同型類は $B$ から $\mathbb{RP}^\infty=\mathrm{Gr}_1(\mathbb R^\infty)$ への写像のホモトピー類と対応し、Stiefel–Whitney類 の補題「直線束の Stiefel–Whitney 類」により $w_1(L)$ は分類写像による生成元 $a$ の引き戻しである。$\mathbb{RP}^\infty$ は Eilenberg–MacLane 空間 $K(\mathbb Z/2,1)$ であり、CW 複体からの写像のホモトピー類と 1 次のコホモロジーを結ぶ Hat02 Theorem 4.57(p. 393)を使って、連結な CW 複体の場合の thm-lbg-surjective を導く道筋もある。この記事の証明はその道筋を使わず、ループと 2 重被覆だけを使う。
  • 2 重被覆との対応:計量をもつ直線束 $L$ から単位ベクトルの 2 重被覆 $S(L)$ が、2 重被覆 $P$ から直線束 $L_P$ が作られる。thm-lbg-main の 2 と thm-lbg-surjective の証明が示すのは、どちらもループに沿った符号(2 重被覆では持ち上げが閉じるかどうか)を保つことである。
  • 複素直線束:複素直線束の同型類のテンソル積による群について、パラコンパクト Hausdorff 空間 $B$ の上では第 1 Chern 類がこの群から $H^2(B;\mathbb Z)$ への準同型を与え(Chern類 の命題「直線束のテンソル積」)、$B$ が CW 複体(またはそのホモトピー型をもつ空間)ならこれは同型である(Chern類 の定理「直線束の分類」)。実の場合の $\mathbb Z/2$ と 1 次が、複素の場合の $\mathbb Z$ と 2 次に替わる。
  • 代数幾何との比較:スキームの上の直線束の同型類も同じくテンソル積で群をなし、Picard群 とよばれる(直線束 の命題「直線束の同型類は群をなす」)。
  • 文献:計量とテンソル平方の同値は MS74 Problem 3-E(pp. 35–36)、テンソル積の $w_1$ が和になることは同書 Problem 7-C(p. 87)の $m=n=1$ の場合である。

関連項目

参考文献

[1]
John W. Milnor, James D. Stasheff, Characteristic Classes, Annals of Mathematics Studies 76, Princeton University Press, 1974, §3 Problem 3-E(直線束の群と計量、pp. 35–36);§7 Problem 7-C(テンソル積の Stiefel–Whitney 類、p. 87)
[2]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.3:Proposition 1.33(持ち上げの判定法、p. 61)。§2.1:Proposition 2.6(弧状連結成分への分解、p. 109)。§4.3:Theorem 4.57(Eilenberg–MacLane 空間とコホモロジー、p. 393)。Appendix:Proposition A.4(CW 複体の局所可縮性、p. 522)

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