無限降下法

同義語:method of infinite descentinfinite descent

概要

無限降下法(method of infinite descent)とは、条件を満たす対象があれば、自然数で測った「高さ」が真に小さい同じ種類の対象を作れることを示し、自然数の整列性から対象が存在しないと結論する証明法である。高さを写像 $h\colon S\to\mathbb{N}$ として定式化すると、どの元からも降下できる集合 $S$ は空であり、高さが真に減り続ける無限列はない。主張を強めて降下させると $x^2+y^2+z^2=2xyz$ の整数解は $(0,0,0)$ だけと分かる。降下は解の分類にも使え、Markov 方程式 $x^2+y^2+z^2=3xyz$ の正の整数解はすべて $(1,1,1)$ から Vieta 移動で得られ、$x^2+y^2+z^2=kxyz$ が正の整数解をもつのは $k=1,3$ のときに限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 自然数, 数学的帰納法, 整列順序

無限降下法(method of infinite descent)は、ある条件を満たす対象が存在しないことを示す証明の方法である。条件を満たす対象があると仮定し、そこから同じ条件を満たし、しかもある自然数で測った「大きさ」が真に小さい対象を作る。自然数は限りなく小さくなることはできないので、これは矛盾であり、はじめの仮定が誤っていたことになる。Fermat が考え出して多くの問題に用いた方法として知られている(HW60 §13.3、p. 192)。
この記事では、まず方法の原理を「高さ」の言葉で述べて証明する(thm-desc-principle)。次に 2 つの不定方程式に当てはめる。1 つは、主張を強めてから降下させる例で、$x^2+y^2+z^2=2xyz$ の整数解が $(0,0,0)$ だけであることを示す(prop-desc-two-power)。もう 1 つは、降下を「解がない」ことだけでなく「解をすべて求める」ことに使う例で、Markov 方程式 $x^2+y^2+z^2=3xyz$ の正の整数解がすべて $(1,1,1)$ から作られること、さらに $x^2+y^2+z^2=kxyz$ が正の整数解をもつのは $k=1,3$ のときに限ることを示す(thm-desc-markov)。

定義

無限降下法

集合 $S$ が空であることを示したいとする。写像 $h\colon S\to\mathbb{N}$ を選び($h(s)$ を $s$ の 高さ と呼ぶ)、
(降下)任意の $s\in S$ に対し、$h(t)< h(s)$ を満たす $t\in S$ がある
ことを示して、$S=\emptyset$ と結論する証明の方法を 無限降下法 という。$s$ から $t$ を作る手順を 降下 と呼ぶ。

方程式の解が存在しないことを示すときは、$S$ を解全体、高さを解の成分の大きさ(ある成分の絶対値、成分の和、分母など)にとる。$\mathbb{N}$ は $0$ を含むが、高さが $0$ になる元がなければ、値を正の整数に限っても同じである。

無限降下法の原理

$S$ を集合、$h\colon S\to\mathbb{N}$ を写像とする。

  1. 任意の $s\in S$ に対して $h(t)< h(s)$ を満たす $t\in S$ があるならば、$S=\emptyset$ である。
  2. $S$ の元の列 $s_0,s_1,s_2,\dots$ で $h(s_0)>h(s_1)>h(s_2)>\cdots$ となるものは存在しない。
高さの最小値をとる

1:$S\neq\emptyset$ と仮定する。像 $h(S)$ は $\mathbb{N}$ の空でない部分集合なので最小元 $m$ をもつ($\mathbb{N}$ の整列性。数学的帰納法と整列性 の定理「帰納法・強い帰納法・整列性の同値性」)。$m=h(s)$ となる $s\in S$ をとると、仮定から $h(t)< h(s)=m$ を満たす $t\in S$ がある。$h(t)$ は $h(S)$ の元で $m$ より小さいので、$m$ の最小性に反する。よって $S=\emptyset$ である。
2:そのような列があったとすると、$\{h(s_n)\mid n\in\mathbb{N}\}$ は $\mathbb{N}$ の空でない部分集合なので最小元 $h(s_k)$ をもつ。ところが $h(s_{k+1})< h(s_k)$ なので、これは最小元であることに反する。$\square$

2 は 数学的帰納法と整列性 の系「無限降下の不可能性」と同じ内容である。1 は、各 $n\in\mathbb{N}$ について「高さ $n$ の元は $S$ にない」という主張を強い帰納法で示すことの対偶にあたる。高さ $n$ の元 $s$ があれば、高さが $n$ より小さい元 $t$ があるので、「$n$ より小さい高さの元はない」という帰納の仮定に反するからである。
高さを $\mathbb{N}$ に限らず、一般の順序に値をとらせることもできる。集合 $X$ 上の関係 $\prec$ について「空でない部分集合はつねに極小元をもつ」ことを整礎性という。整礎な順序に値をとる高さについても、1 と 2 はまったく同じ証明で成り立つ。逆に「$\prec$ について無限に下がり続ける列がない」ことから整礎性を導くには、元を次々に選んで列を作る必要があり、従属選択公理を使う(従属選択公理 の定理「整礎性の下降列による判定」)。高さが $\mathbb{N}$ の値をとる場合は、上の証明のように最小値をとればよく、選択公理は要らない。

直感

無限降下法は「最小の反例をとる」議論を、反例を作る向きに言い換えたものである。最小の解を 1 つとって、そこからさらに小さい解を作れば矛盾が出る。降下の手順そのものが分かっていれば、最小の解を意識せずに「解があれば、より小さい解がある」と述べてよい。難しいのは、もとの対象から同じ種類の対象を作る構成を見つけることであり、その構成が問題の算術的な構造を映していることが多い。平方根の無理性では分母が、Pythagoras の方程式では斜辺が、Markov 方程式では座標の和が、降下のたびに小さくなる。

降下の型と例

Mathpedia のいくつかの記事が、無限降下法で次の主張を証明している。

主張高さ降下の作り方証明のある記事
$\sqrt2$ は無理数分母$\sqrt2=p/q$ から分母の小さい表示を作る数学的帰納法と整列性 の例「$\sqrt{2}$ の無理数性を無限降下で示す」
黄金比は無理数分母同上黄金比 の定理「黄金比の無理性」
$x^2+y^2=3z^2$ の整数解は $(0,0,0)$ だけ成分$3$ で割る不定方程式の解法 の命題「$x^2+y^2=3z^2$ の整数解」
$x^4+y^4=z^2$ は正の整数解をもたない$z$ピタゴラス数の分類を 2 回使うピタゴラス数 の定理「4乗数の和は平方数にならない」
$x^4-y^4=z^2$ は正の整数解をもたない$x$同上合同数(高校数学) の補題「4 乗の差は平方数にならない」
直方体は大きさがすべて違う立方体に分けられないある立方体以下の大きさの立方体の個数底面に立つ最小の立方体の上の面に立つ、より小さい立方体を見つける直方体を異なる立方体に分ける

最後から 2 番目の主張から、3 辺が有理数の直角三角形の面積は平方数にならない(合同数(高校数学) の定理「$1$ は合同数でない」)。どの例でも、降下は「解がある」という仮定のもとで、同じ方程式の解を作っている。次の例は、分母を高さとする降下を、素因数分解を使わずに行う。

平方数でない整数の平方根

$n$ を平方数でない正の整数とし、$a:=\lfloor\sqrt n\rfloor$ とおくと $a<\sqrt n< a+1$ である。$S:=\{q\in\mathbb{Z}\mid q\ge1,\ q\sqrt n\in\mathbb{Z}\}$、$h(q):=q$ とする。$q\in S$ とし、$p:=q\sqrt n$ とおくと、$q':=p-aq=q(\sqrt n-a)$ は整数で $0< q'< q$ であり、$p\sqrt n=qn$ を使うと
$$ q'\sqrt n=p\sqrt n-aq\sqrt n=qn-ap\in\mathbb{Z} $$
なので $q'\in S$ である。thm-desc-principle の 1 により $S=\emptyset$ である。$\sqrt n=p/q$($q\ge1$)と書けたとすると $q\in S$ となるので、$\sqrt n$ は無理数である。結論そのものは 無理数 の記事の系「平方数でない整数の平方根」と同じであるが、ここでの降下は $\sqrt n$ と $a$ の大小だけを使っている。

主張を強めてから降下する

降下した先が、もとと同じ形の対象になるとは限らない。そのときは、もとの主張を含むより強い主張の族を考え、族全体の上で降下させる。

$x^2+y^2+z^2=2^mxyz$ の整数解

$m\ge1$ を整数とする。整数 $x,y,z$ が $x^2+y^2+z^2=2^mxyz$ を満たすならば、$x=y=z=0$ である。とくに $x^2+y^2+z^2=2xyz$ の整数解は $(0,0,0)$ だけである。

2 で割り続ける

$m\ge1$ と $(0,0,0)$ でない整数の組 $(x,y,z)$ で $x^2+y^2+z^2=2^mxyz$ を満たすものについて、組 $(m,x,y,z)$ 全体を $S$ とし、高さを $h(m,x,y,z):=|x|+|y|+|z|$ とする($S$ の元では $h\ge1$)。
$(m,x,y,z)\in S$ とする。整数の平方は、偶数の平方なら $4$ の倍数、奇数の平方なら $4$ で割って $1$ 余る。右辺は偶数なので左辺も偶数であり、$x,y,z$ のうち奇数は $0$ 個か $2$ 個である。$2$ 個だとすると、左辺は $4$ で割って $2$ 余る。一方、残りの 1 つは偶数なので右辺 $2^mxyz$ は $2^{m+1}$ で割り切れ、$m\ge1$ より $4$ の倍数である。これは矛盾なので、$x,y,z$ はすべて偶数である。$x=2a$、$y=2b$、$z=2c$ とおくと $4(a^2+b^2+c^2)=2^{m+3}abc$、すなわち
$$ a^2+b^2+c^2=2^{m+1}abc $$
である。$(a,b,c)\neq(0,0,0)$ なので $(m+1,a,b,c)\in S$ であり、その高さは $h(m,x,y,z)/2$ で、もとの高さより真に小さい。thm-desc-principle の 1 により $S=\emptyset$ である。$\square$

$m=1$ の場合だけを考えていると、降下した先の $(a,b,c)$ は $a^2+b^2+c^2=4abc$ の解であって、もとの方程式の解ではない。したがって $m=1$ の方程式の解全体を $S$ にとっても降下は閉じない。指数 $m$ を動かした族へ主張を強めたことで、降下が族の中に収まった。数学的帰納法で、帰納の仮定を使えるように主張を強めるのと同じ工夫である。

Markov 方程式

降下は「解がない」ことを示すだけでなく、すべての解を小さい解に帰着させて分類するのにも使える。

Markov 方程式と Vieta 移動

$k$ を正の整数とし、方程式
$$ x^2+y^2+z^2=kxyz $$
を $(\mathrm{M}_k)$ と書く。$k=3$ の場合 $x^2+y^2+z^2=3xyz$ を Markov 方程式、その正の整数解を Markov の三つ組、Markov の三つ組に現れる数を Markov 数 という。$(\mathrm{M}_k)$ の正の整数解 $(x,y,z)$ に対し、
$$ (x,y,z)\longmapsto(x,y,kxy-z) $$
と、$x$ や $y$ を同じように取り替える写像を Vieta 移動 という。

Markov 方程式のすべての正の整数解を与える式は A. Markoff が 1880 年に与え、のちに Hurwitz が $x_1^2+\cdots+x_n^2=kx_1\cdots x_n$ に一般化して、すべての解が「基本解」から移動で得られることを示した(Dic05 Chapter XXIII、pp. 694、697)。以下の thm-desc-markov は $n=3$ の場合である。

Vieta 移動

$(x,y,z)$ を $(\mathrm{M}_k)$ の正の整数解とし、$z':=kxy-z$ とおく。

  1. $zz'=x^2+y^2$ であり、$(x,y,z')$ も $(\mathrm{M}_k)$ の正の整数解である。$(x,y,z')$ に同じ座標の移動を施すと $(x,y,z)$ に戻る。
  2. $z^2>x^2+y^2$ ならば $z'< z$ である。
2 次方程式のもう一つの根

1:$f(t):=t^2-kxy\,t+(x^2+y^2)$ とおくと、$(x,y,z)$ が解であることは $f(z)=0$ と同じである。$f(kxy-t)=(kxy-t)^2-kxy(kxy-t)+x^2+y^2=t^2-kxy\,t+x^2+y^2=f(t)$ なので $f(z')=f(z)=0$ であり、$(x,y,z')$ も $(\mathrm{M}_k)$ を満たす。また $f(z)=0$ から $z(kxy-z)=x^2+y^2$、すなわち $zz'=x^2+y^2$ である。$x^2+y^2>0$、$z>0$ なので $z'>0$ であり、$z'=kxy-z$ は整数である。最後に $kxy-z'=z$ である。2:$zz'=x^2+y^2< z^2$ を $z>0$ で割ればよい。$\square$

2 次方程式のもう一つの根に取り替えて解を小さくするこの降下は、数学的帰納法と整列性 の節「最小の解をとる(国際数学オリンピック(1988 年)第 6 問)」でも使われている。

$x^2+y^2+z^2=kxyz$ の正の整数解

$k$ を正の整数とする。

  1. $(\mathrm{M}_k)$ が正の整数解をもつのは、$k=1$ または $k=3$ のときに限る。
  2. Markov 方程式($k=3$)のすべての正の整数解は、$(1,1,1)$ から Vieta 移動と座標の並べ替えを有限回施して得られる。
  3. $(x,y,z)$ が $(\mathrm{M}_1)$ の正の整数解であることと、$x,y,z$ がすべて $3$ の倍数で $(x/3,y/3,z/3)$ が Markov 方程式の正の整数解であることは同値である。
移動で座標の和を減らし、止まった解を調べる

段 1(降下)。正の整数解 $(x,y,z)$ を $x\le y\le z$ と並べたとき、$z^2\le x^2+y^2$ となるものを 基本解 と呼ぶ。基本解でない解に、最大の座標 $z$ を取り替える Vieta 移動を施すと、lem-desc-vieta により正の整数解が得られ、座標の和は真に減る。並べ替えて同じことを繰り返すと、座標の和は真に減り続けるので、thm-desc-principle の 2 により無限には続かない。続けられなくなった解は基本解なので、どの正の整数解からも、並べ替えと Vieta 移動を有限回施して基本解に達する。
段 2(基本解)。$(x,y,z)$ を基本解とする。$z^2\le x^2+y^2$ と $x\le y\le z$ から
$$ kxyz=x^2+y^2+z^2\le2(x^2+y^2)\le4y^2\le4yz $$
なので、両辺を $yz$ で割って $kx\le4$ である。

  • $k\ge5$ のとき:$kx\ge5$ となるので基本解はない。
  • $k=4$ のとき:$x=1$ であり、$4y^2\le4yz\le2(1+y^2)$ から $y=1$ である。すると方程式は $z^2-4z+2=0$ となるが、その根 $2\pm\sqrt2$ は整数でない。基本解はない。
  • $k=3$ のとき:$x=1$ であり、$3y^2\le3yz\le2(1+y^2)$ から $y=1$ である。方程式 $z^2-3z+2=0$ から $z=1$ または $z=2$ で、$z^2\le x^2+y^2=2$ から $z=1$ である。基本解は $(1,1,1)$ だけである。
  • $k=2$ のとき:prop-desc-two-power($m=1$)により、正の整数解そのものがない。
    段 3($k\neq1$ の場合の結論)。$k\ne1$ とし、正の整数解があるとする。段 1 によりそこから基本解に達するので、段 2 により $k=3$ であり、達する基本解は $(1,1,1)$ である。並べ替えは逆にたどれ、Vieta 移動は同じ座標にもう一度施すと元に戻る(lem-desc-vieta の 1)。したがって段 1 の手順を逆にたどれば、$(1,1,1)$ からもとの解が得られる。これで 2 と、1 のうち $k\ne1$ の部分が示された。
    段 4($k=1$)。$x^2+y^2+z^2=xyz$ とする。平方数を $3$ で割った余りは $0$ か $1$ で、$0$ になるのは $3$ の倍数の平方のときに限る。$x,y,z$ のうち $3$ の倍数でないものの個数を $j$ とすると、左辺を $3$ で割った余りは $j$ を $3$ で割った余りに等しい。$j=3$ なら右辺は $3$ の倍数でないのに左辺は $3$ の倍数であり、$j=1,2$ なら右辺は $3$ の倍数なのに左辺は $3$ の倍数でない。どちらも矛盾なので $j=0$ である。$x=3a$、$y=3b$、$z=3c$ とおくと $9(a^2+b^2+c^2)=27abc$、すなわち $a^2+b^2+c^2=3abc$ である。逆に $(a,b,c)$ が Markov 方程式の正の整数解なら、同じ計算を逆にたどって $(3a,3b,3c)$ は $(\mathrm{M}_1)$ の正の整数解である。これで 3 が示され、$(3,3,3)$ が $(\mathrm{M}_1)$ の解なので 1 も示された。$\square$
Markov の三つ組の性質

Markov 方程式の正の整数解は無限個あり、どの解でも 3 つの座標は 2 つずつ互いに素である。

移動で大きくする・小さくする

無限個あること:解 $(x,y,z)$ を $x\le y\le z$ と並べ、最小の座標 $x$ を取り替える移動を施すと、新しい座標 $3yz-x$ は $y\ge1$、$x\le z$ から $3yz-x\ge3z-z=2z>z$ を満たす。よって新しい解の最大の座標はもとの解の最大の座標より真に大きい。$(1,1,1)$ から始めてこれを繰り返せば、最大の座標が互いに異なる解が無限に得られる。
互いに素であること:素数 $p$ がある解の 2 つの座標、たとえば $x,y$ を割るとすると、$z^2=3xyz-x^2-y^2$ は $p$ で割り切れ、$p\mid z$ となる。「$p$ が 3 つの座標をすべて割る」という性質は、並べ替えでも Vieta 移動でも保たれる($p\mid x,y,z$ なら $p\mid 3xy-z$)。thm-desc-markov の 2 の手順でこの解から $(1,1,1)$ に達するので、$p$ は $1$ を割ることになり矛盾する。$\square$

小さい Markov の三つ組

$(1,1,1)$ から始めて、最大でない座標を取り替える移動を続けると、次々に解が得られる(矢印の右は左の組の 1 つの座標を $3\cdot(\text{残り 2 つの積})-(\text{その座標})$ に取り替えたもの)。

  • $(1,1,1)\to(1,1,2)\to(1,2,5)$
  • $(1,2,5)\to(1,5,13)$($2$ を $3\cdot1\cdot5-2$ に)、$(1,2,5)\to(2,5,29)$($1$ を $3\cdot2\cdot5-1$ に)
  • $(1,5,13)\to(1,13,34)$、$(5,13,194)$;$(2,5,29)\to(2,29,169)$、$(5,29,433)$
    たとえば $(5,29,433)$ では $25+841+187489=188355=3\cdot5\cdot29\cdot433$ である。逆に最大の座標を取り替えると $433\mapsto3\cdot5\cdot29-433=2$ で $(2,5,29)$ に戻り、さらに $29\mapsto1$ で $(1,2,5)$、$5\mapsto1$ で $(1,1,2)$、$2\mapsto1$ で $(1,1,1)$ と降りていく。$500$ 以下の Markov 数は $1,2,5,13,29,34,89,169,194,233,433$ である。HW60 は §24.6 の注(p. 412)で、最初の $1,2,5,13,29$ を「Markoff 数」として挙げ、2 元 2 次形式の最小値についての一連の定理に現れることを述べている。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
高さが $\mathbb{N}$ の値をとる$S=\{r\in\mathbb{Q}\mid r>0\}$、$h(r)=r$降下 $r\mapsto r/2$ があるのに $S\neq\emptyset$
高さが真に小さくなる$S=\mathbb{N}$、$h(n)=n$、$t=s$$h(t)\le h(s)$ を満たす $t$ はいつもあるのに $S\neq\emptyset$
すべての元から降下できる$S=\{0,1\}$、$h(n)=n$、$1$ から $0$ へだけ降下$S\neq\emptyset$
解が正の整数(thm-desc-markov の 2)$(0,0,0)$、$(-1,-1,1)$$(1,1,1)$ から移動と並べ替えで得られる
反例の確認

1 行目:高さの値は正の有理数で、$r/2< r$ なので降下の条件を満たすが、$S$ は空でない。正の有理数には最小元がないので、thm-desc-principle の証明の「最小値をとる」段が使えない。$\mathbb{N}$ の代わりに整礎でない順序に値をとらせると原理は成り立たない。
2 行目:降下として $s$ 自身をとれば $h(t)\le h(s)$ は満たされるが、$S$ は空でない。高さが「真に」小さくなることが本質的である。
3 行目:$1\in S$ からは高さ $0$ の元 $0$ へ降下できるが、$0$ からはできない。降下の条件はすべての元について示す必要がある。実際の証明でも、降下の作り方が使えない小さい場合(Markov 方程式の基本解 $(1,1,1)$ のように)は別に調べなければならない。
4 行目:$(0,0,0)$ と $(-1,-1,1)$ は Markov 方程式を満たす($1+1+1=3=3\cdot(-1)(-1)\cdot1$)。$(1,1,1)$ から移動と並べ替えで得られる組の座標はすべて正(lem-desc-vieta の 1)なので、これらは得られない。lem-desc-vieta で $z'>0$ を示すのに $x^2+y^2>0$ と $z>0$ を使っており、正の整数解に限ることで降下が正の解の中に収まっている。

補足

無限降下法が使われるほかの場面
  • 4 で割って 1 余る素数 $p$ が 2 つの平方数の和であることは、「$p$ のある倍数が 2 つの平方数の和で表せる」ことと「そのような倍数のうち最小のものは $p$ 自身である」ことを示す降下で証明できる(HW60 §20.4、p. 300)。Fermatの二平方定理 の記事は、これとは別の 2 通りの証明を与えている。
  • $x^3+y^3=z^3$ が、どれも $0$ でない整数の解をもたないこと(指数 $3$ の Fermatの最終定理)は、HW60 では Eisenstein 整数 $\mathbb{Z}[\rho]$($\rho$ は 1 の原始 3 乗根)の中での降下によって証明されている(§13.4、Theorem 227、pp. 193–194)。
  • 楕円曲線の有理点のなす群が有限生成であることの証明(Mordell–Weilの定理)の最後の段は、点の「高さ」を使った降下である(Mordell–Weilの定理 の補題「降下の補題」、Sil09 Theorem VIII.3.1、p. 218)。そこでは高さが実数値をとるが、高さが一定以下の点は有限個しかないという性質で、自然数の場合の最小値の議論を置き換えている。
  • 帰納的に定義された述語についての循環証明が正しいことは、順序数に値をとる階数が無限に減り続けないことに基づいている(循環証明体系(帰納的定義付き一階述語論理) の命題「階数が非増加で無限回減少する列はない」)。

関連項目

参考文献

[1]
G. H. Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, 4th ed., Oxford, Clarendon Press, 1960, §13.3(Theorem 226 の証明と「method of descent」の説明)p. 192、§13.4 Theorem 227・Theorem 231 pp. 193–194、§20.4 p. 300、§24.6 の注(Markoff 数)p. 412
[2]
Leonard Eugene Dickson, History of the Theory of Numbers, Vol. II: Diophantine Analysis, Dover ed., Dover Publications, 2005, Chapter XXIII, p. 694(Markoff による $x^2+y^2+z^2=3xyz$ の正の整数解), p. 697(Hurwitz による一般化)

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