可換微分次数付き代数(commutative differential graded algebra)とは、次数付き可換な代数に、次数を $1$ 上げ Leibniz 則をみたし $d^2=0$ となる微分 $d$ を備えたものである。多様体の微分形式と外微分が典型例で、コホモロジーは次数付き可換な代数になる。標数 $0$ の体の上では、変数を自由に添加した代数 $\Lambda V$ に微分を入れた Sullivan 代数が基本の対象で、$H^0=k$、$H^1=0$ の cdga は極小模型をもつ。コホモロジー環と擬同型で結ばれるものを形式的といい、3 重 Massey 積が $0$ を含まないことが形式的でないことの判定に使える。
可換微分次数付き代数(commutative differential graded algebra、略して cdga)は、次数付きの可換な代数に、次数を $1$ 上げて Leibniz 則をみたし $2$ 回施すと $0$ になる写像(微分)を備えたものである。典型例は多様体の微分形式の全体と外微分 $d$ の組で、そのコホモロジーは de Rham コホモロジー環になる。微分を $0$ にしたコホモロジー環そのもの、変数を自由に添加した代数 $\Lambda V$ も cdga である。
cdga は、コホモロジー環より細かい情報を持ちながら、代数として計算できる対象である。とくに標数 $0$ の体の上では、単連結な空間の有理ホモトピー型が cdga の「極小モデル」で記述される(有理ホモトピー論)。この記事では、cdga の定義と基本例を述べ、コホモロジーが次数付き可換代数になること、球面と複素射影空間の極小モデルの計算、コホモロジー的に単連結な cdga が極小 Sullivan 模型をもつことを証明する。最後に形式性を定義し、形式的な cdga では 3 重 Massey 積が $0$ を含むことを示し、そうでない例を挙げる。
以下、$k$ を標数 $0$ の体とする。$k$ 上の次数付き代数 $A=\bigoplus_{p\ge0}A^p$ は、結合的で単位元 $1\in A^0$ をもち、$A^pA^q\subset A^{p+q}$ となる $k$ 代数である。$x\in A^p$ を次数 $|x|=p$ の斉次元という。
$k$ 上の次数付き代数 $A$ と $k$ 線形写像 $d\colon A\to A$ の組 $(A,d)$ が 可換微分次数付き代数(cdga)であるとは、次をみたすことをいう。
次数が奇数の元 $x$ については $x^2=-x^2$ なので、標数が $2$ でなければ $x^2=0$ である。Leibniz 則から $d1=d(1\cdot1)=2\,d1$ なので $d1=0$ である。$A$ は余鎖複体(鎖複体)でもあり、cdga の射は余鎖写像である。
$(A,d)$ を cdga とする。$Z:=\ker d$ は部分代数、$B:=\operatorname{im}d$ は $Z$ のイデアルであり、積 $[x][y]:=[xy]$ によって $H(A)=Z/B$ は次数付き可換な次数付き代数になる。cdga の射 $f$ について $H(f)$ は代数準同型である。
$x,y\in Z$ が斉次なら、Leibniz 則により $d(xy)=(dx)y\pm x(dy)=0$ なので $xy\in Z$ であり、$1\in Z$ である。$x\in Z$、$y=dw$ なら $d(xw)=(dx)w+(-1)^{|x|}x\,dw=(-1)^{|x|}xy$ なので $xy\in B$ であり、同様に $yx=(-1)^{|x||y|}xy\in B$ である。よって $B$ は $Z$ の両側イデアルで、$Z/B$ は次数付き代数になる。次数付き可換性は $Z$ での等式 $xy=(-1)^{|x||y|}yx$ をそのまま落としたものである。$f$ は $Z$ を $Z$ に、$B$ を $B$ に写す代数準同型なので、$H(f)$ は代数準同型である。$\square$
3 の導分 $D$ について、$D^2:=D\circ D$ は次数 $2$ の導分($D^2(xy)=(D^2x)y+x(D^2y)$)である。実際 $D(Dx\cdot y+(-1)^{|x|}x\,Dy)=D^2x\cdot y+(-1)^{|x|+1}Dx\,Dy+(-1)^{|x|}Dx\,Dy+x\,D^2y$ である。よって $D^2$ が生成元 $V$ の上で $0$ なら $D^2=0$ であり、$(\Lambda V,D)$ は cdga になる。微分を生成元の上だけで決めればよいのは、この性質による。
係数と次数付き可換性。 位相空間 $X$ の特異余鎖のなす代数 $C^*(X;k)$ はカップ積で微分次数付き代数になるが、余鎖のレベルでは次数付き可換でない(カップ積の可換性はコホモロジーでだけ成り立つ)。係数が $\mathbb Z/2$ のときは、可換性からのずれが cup-i積 と Steenrod 平方を生み(Steenrod平方 の節「cup-$i$ 積による構成と存在」)、$C^*(X;\mathbb Z/2)$ を cdga で置き換えることはできない。係数が $\mathbb Q$ のときは、Sullivan が単体上の有理係数の多項式微分形式から cdga $A_{\mathrm{PL}}(X)$ を作り、$H(A_{\mathrm{PL}}(X))\cong H^*(X;\mathbb Q)$ を示した(Sul77 §7 の Theorem 7.1 と多項式微分形式・半単体的集合の例, pp. 297–298。この記事では証明しない)。
正の次数の次数付きベクトル空間 $V$ と、$\Lambda V$ の微分 $d$ からなる cdga $(\Lambda V,d)$ が Sullivan 代数であるとは、$V$ の部分空間の増大列 $0=V(-1)\subset V(0)\subset V(1)\subset\cdots$ で $V=\bigcup_iV(i)$、$d(V(i))\subset\Lambda V(i-1)$ となるものがあることをいう。さらに $d(V)\subset\Lambda^{\ge2}V$($\Lambda^{\ge2}V$ は $V$ の元の $2$ 個以上の積で張られる部分空間)のとき、極小であるという。cdga $A$ への擬同型 $(\Lambda V,d)\to A$ を $A$ の Sullivan 模型、$(\Lambda V,d)$ が極小のとき 極小模型という。
$V=V^{\ge2}$ で $d(V)\subset\Lambda^{\ge2}V$ のときは、$V(i):=V^{\le i+1}$ とおけば条件 $d(V(i))\subset\Lambda V(i-1)$ は自動的にみたされる。実際、$v\in V^j$($j\le i+1$)の $dv$ は次数 $j+1$ で $\Lambda^{\ge2}V$ に入り、生成元の次数は $2$ 以上なので、2 個以上の積に現れる生成元の次数は $j-1\le i$ 以下である。よって $dv\in\Lambda V^{\le i}=\Lambda V(i-1)$ である。極小性を外すとこれは自動的でない($\lvert v\rvert=2$、$\lvert w\rvert=3$、$dv=w$ の $\Lambda(v,w)$ では $dv\notin\Lambda V(0)=k$ である。この例は $V(0):=kw$、$V(1):=V$ とおけば Sullivan 代数である)。
1 は $d=0$ による。2 と 3 をまとめて、$|x|$ が偶数、$|y|$ が奇数、$dx=0$、$dy=x^{m}$($m\ge2$)の場合に示す(2 は $m=2$、3 は $m=N+1$)。$y^2=0$ なので $\Lambda(x,y)=k[x]\oplus k[x]y$ で、元は $p(x)+q(x)y$ と一意に書ける。$p(x)$、$q(x)$ は $x$ の多項式で次数が偶数なので、Leibniz 則により $d(p+qy)=q\,dy=q\,x^m$ である。よって余輪体は $k[x]$ の元 $p(x)$ に限り、余境界は $x^mk[x]$ である。$H=k[x]/(x^m)$ であり、$m=2$ では $k\oplus k[x]$ となる。$dV\subset\Lambda^{\ge2}V$ は $dy=x^m$($m\ge2$)からわかり、$V=V^{\ge2}$ なので Sullivan 代数である。$\square$
cdga $A$ が $H^0(A)=k$、$H^1(A)=0$ をみたすとする。このとき、$V=V^{\ge2}$ の極小 Sullivan 代数 $(\Lambda V,d)$ と擬同型 $m\colon(\Lambda V,d)\to A$ が存在する。
要点:$n=1,2,\dots$ の順に、次数 $n$ 以下の生成元をもつ極小 Sullivan 代数 $\Lambda V_{\le n}$ と、コホモロジーに次数 $n$ 以下で同型、次数 $n+1$ で単射を誘導する射 $m_n$ を作る。次数 $n+1$ の新しい生成元は、足りないコホモロジー類を加える余輪体と、余分な類を殺す元の 2 種類である。
帰納法の主張。 $n\ge1$ について、次数 $2,\dots,n$ の生成元の空間 $V_{\le n}$ をもつ極小 Sullivan 代数 $B_n:=(\Lambda V_{\le n},d)$ と cdga の射 $m_n\colon B_n\to A$ で、$H^p(m_n)$ が $p\le n$ で同型、$p=n+1$ で単射であり、$m_{n+1}$ が $m_n$ を延ばすものを作る。$n=1$ では $V_{\le1}=0$、$B_1=k$、$m_1$ は単位写像とする。$H^0(A)=k$、$H^1(A)=0$、$H^2(k)=0$ なので条件をみたす。
生成元の追加。 $B_n$、$m_n$ があるとする。$H^{n+1}(A)$ の中で $H^{n+1}(m_n)$ の像の補空間の基底を余輪体 $a_i\in A^{n+1}$ で代表させる。$K:=\ker H^{n+2}(m_n)$ の基底を $B_n$ の余輪体 $z_j\in B_n^{n+2}$ で代表させ、$m_n(z_j)=db_j$ となる $b_j\in A^{n+1}$ を選ぶ。次数 $n+1$ の生成元 $v_i,w_j$ を加えて $V^{n+1}:=\operatorname{span}\{v_i,w_j\}$、$B_{n+1}:=\Lambda(V_{\le n}\oplus V^{n+1})$ とし、$dv_i:=0$、$dw_j:=z_j$ と定める。$dz_j=0$ なので $d^2$ は生成元の上で $0$ であり、$B_{n+1}$ は cdga である(cdga-ex-basic の 3 の後の段落)。$z_j$ は次数 $n+2$ で、次数 $n$ 以下の生成元 1 個では次数が足りないので $z_j\in\Lambda^{\ge2}V_{\le n}$ であり、$B_{n+1}$ は極小である。$m_{n+1}$ を $v_i\mapsto a_i$、$w_j\mapsto b_j$ で代数準同型として延ばすと、$m_{n+1}(dw_j)=m_n(z_j)=db_j=d\,m_{n+1}(w_j)$、$m_{n+1}(dv_i)=0=da_i$ なので、$m_{n+1}$ は微分と可換である(両辺とも導分に沿う写像で、生成元の上で一致する)。
低い次数の比較。 生成元の次数は $2$ 以上なので、$V^{n+1}$ の元と正の次数の元の積は次数 $n+3$ 以上である。よって $B_{n+1}^p=B_n^p$($p\le n$)、$B_{n+1}^{n+1}=B_n^{n+1}\oplus V^{n+1}$、$B_{n+1}^{n+2}=B_n^{n+2}$ である。$p\le n$ では $H^p$ は変わらない。次数 $n+1$ の元 $c+\sum\lambda_iv_i+\sum\mu_jw_j$($c\in B_n^{n+1}$)の微分は $dc+\sum\mu_jz_j$ で、$z_j$ の類は $H^{n+2}(B_n)$ で一次独立なので、これが $0$ なら $\mu_j=0$、$dc=0$ である。次数 $n+1$ の余境界は $d(B_n^n)$ のままなので、$H^{n+1}(B_{n+1})=H^{n+1}(B_n)\oplus\operatorname{span}\{[v_i]\}$ で、$H^{n+1}(m_{n+1})$ は前者を単射に像へ、後者を補空間の基底 $[a_i]$ へ写すので同型である。次数 $n+2$ では余輪体は変わらず、余境界に $z_j$ が加わるので $H^{n+2}(B_{n+1})=H^{n+2}(B_n)/K$ であり、$K$ は $H^{n+2}(m_n)$ の核なので $H^{n+2}(m_{n+1})$ は単射である。
極限。 $V:=\bigcup_nV_{\le n}$、$m:=\bigcup_nm_n$ とする。$(\Lambda V)^p$ と $(\Lambda V)^{p+1}$ は $B_{p+1}$ のものと一致するので $H^p(\Lambda V)=H^p(B_{p+1})$ であり、$H^p(m)=H^p(m_{p+1})$ は同型である。$\square$
極小模型は同型を除いて一意である。2 つの極小 Sullivan 代数の間の擬同型は同型であり(Sul77 Corollary 4.2, p. 287)、擬同型 $(\Lambda V,d)\to A$ と $(\Lambda V',d)\to A$ があれば、ホモトピーを除いて一意な擬同型 $(\Lambda V,d)\to(\Lambda V',d)$ がある(Sul77 Theorem 5.1, p. 290 と §3。この記事では証明しない)。極小性 $dV\subset\Lambda^{\ge2}V$ により、生成元の空間 $V$ は $\Lambda^+V/(\Lambda^+V)^2$($\Lambda^+V$ は正の次数の部分)と同一視でき、「生成元の個数」は模型によらない不変量になる。
cdga $A$ が形式的であるとは、cdga と擬同型の列 $A\leftarrow C_1\to C_2\leftarrow\cdots\to(H(A),0)$(向きは任意)で $A$ と $(H(A),0)$ が結ばれることをいう。
$A$ が形式的なら、$A$ の擬同型による類はコホモロジー環 $H(A)$ だけで決まる。cdga-ex-spheres の 3 つはどれも形式的である。実際、$x\mapsto[x]$、$y\mapsto0$ で定まる射 $(\Lambda(x,y),d)\to(H,0)$ は、$d(y)=x^m\mapsto[x]^m=0$ なので微分と可換であり、コホモロジーで恒等写像を誘導する擬同型である。単連結なコンパクト Kähler 多様体の有理係数の極小模型は形式的である(Sul77 Theorem 12.1, p. 316。この記事では証明しない)。
cdga $A$ のコホモロジー類 $a\in H^p(A)$、$b\in H^q(A)$、$c\in H^r(A)$ が $ab=0$、$bc=0$ をみたすとする。代表元の余輪体 $\alpha,\beta,\gamma$ と、$\alpha\beta=d\eta$、$\beta\gamma=d\theta$ をみたす $\eta,\theta$ をとると、
$$
\eta\gamma-(-1)^{p}\alpha\theta
$$
は次数 $p+q+r-1$ の余輪体である。そのコホモロジー類を、あらゆる $\alpha,\beta,\gamma,\eta,\theta$ の選び方について集めた $H^{p+q+r-1}(A)$ の部分集合を $\langle a,b,c\rangle$ と書き、3 重 Massey 積という。
余輪体であることは $d(\eta\gamma)=\alpha\beta\gamma$、$d(\alpha\theta)=(-1)^p\alpha\beta\gamma$ からわかる。
上の状況で、$I:=a\,H^{q+r-1}(A)+H^{p+q-1}(A)\,c$ とおく。
要点:$\eta,\theta$ の取り替えは $I$ の元だけ類を動かし、代表元の取り替えは類を変えない。擬同型は剰余類を剰余類に写すので $0$ を含むかどうかを保ち、$(H,0)$ では $\eta=\theta=0$ ととれる。
1:代表元を固定すると、$\eta$ は $\eta_0+(\text{次数 }p+q-1\text{ の余輪体})$、$\theta$ は $\theta_0+(\text{次数 }q+r-1\text{ の余輪体})$ の形のものをすべて動く。$\eta$ に余輪体 $\zeta$ を足すと類は $[\zeta]c$ だけ、$\theta$ に余輪体 $\xi$ を足すと $-(-1)^pa[\xi]$ だけ変わるので、代表元を固定したときの類の集合は $x_0+I$ である。代表元を取り替えても $x_0+I$ が変わらないことを示す。$\alpha'=\alpha+d\sigma$ とすると $\alpha'\beta=d(\eta+\sigma\beta)$ なので $\eta'=\eta+\sigma\beta$ ととれ、差は $\sigma\beta\gamma-(-1)^pd\sigma\,\theta$ である。$\sigma\beta\gamma=\sigma\,d\theta$ と $d(\sigma\theta)=d\sigma\,\theta+(-1)^{p-1}\sigma\,d\theta$ から、差は $(-1)^{p-1}d(\sigma\theta)$ で余境界である。$\beta'=\beta+d\tau$ では $\eta'=\eta+(-1)^p\alpha\tau$、$\theta'=\theta+\tau\gamma$ ととれ、差は $(-1)^p\alpha\tau\gamma-(-1)^p\alpha\tau\gamma=0$ である。$\gamma'=\gamma+d\kappa$ では $\theta'=\theta+(-1)^q\beta\kappa$ ととれ、差は $\eta\,d\kappa-(-1)^{p+q}\alpha\beta\kappa=\eta\,d\kappa-(-1)^{p+q}d\eta\,\kappa$ で、$|\eta|=p+q-1$ なので $d(\eta\kappa)=d\eta\,\kappa-(-1)^{p+q}\eta\,d\kappa$ から差は $-(-1)^{p+q}d(\eta\kappa)$ で余境界である。
2:$f$ は余輪体・余境界・積を保つので、$A$ での選び方を $f$ で写すと $B$ での選び方になり、前半が従う。$f$ が擬同型なら $H(f)$ は代数の同型なので、$H(f)(I_A)=I_B$($I_B$ は $B$ での $I$)である。前半により $H(f)\langle a,b,c\rangle$ は $I_B$ の剰余類で、$I_B$ の剰余類 $\langle H(f)a,H(f)b,H(f)c\rangle$ に含まれるので、両者は等しい。よって後者が $0$ を含めば、$H(f)x=0$ となる $x\in\langle a,b,c\rangle$ があり、$H(f)$ の単射性から $x=0$ である。逆は前半による。
3:$(H(A),0)$ では余輪体はすべての元で、$ab=0$ なら $\alpha\beta=0$ なので $\eta=\theta=0$ ととれ、Massey 積は $0$ を含む。形式性の擬同型の列に沿って 2 を順に使えば、$A$ の Massey 積も $0$ を含む(列の各段で $ab=0$、$bc=0$ はコホモロジーの同型で保たれる)。$\square$
$|x|=|y|=|z|=1$、$dx=dy=0$、$dz=xy$ の $(\Lambda(x,y,z),d)$ を考える。これは 3 次元 Heisenberg 群の左不変な 1 形式 $dx$、$dy$、$dz-x\,dy$ のなす cdga と同じ形をしている($d(dz-x\,dy)=-dx\wedge dy$ で、符号は生成元の取り替えで直せる)。$\Lambda(x,y,z)$ は $1;\ x,y,z;\ xy,xz,yz;\ xyz$ を基底とする $8$ 次元の空間で、$d(x)=d(y)=0$、$d(z)=xy$、$d(xz)=-x\,xy=0$、$d(yz)=-y\,xy=0$ である。よって $H^1=\operatorname{span}\{[x],[y]\}$、$H^2=\operatorname{span}\{[xz],[yz]\}$($xy$ は余境界)である。$[x][x]=0$、$[x][y]=[xy]=0$ なので $\langle[x],[x],[y]\rangle$ が定義され、$\alpha=\beta=x$、$\gamma=y$、$\eta=0$、$\theta=z$ ととると、類は $0\cdot y+x\,z$ の類 $[xz]$ である。不定性 $I=[x]H^1+H^1[y]$ は $[x][x]=[x][y]=[y][y]=0$ から $0$ なので、$\langle[x],[x],[y]\rangle=\{[xz]\}$ は $0$ を含まない。cdga-prop-massey の 3 により、この cdga は形式的でない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A$ が次数付き可換(cdga-prop-cohomology) | $\lvert u\rvert=\lvert v\rvert=2$ のテンソル代数 $k\langle u,v\rangle$ に $d=0$ を入れたもの | $H(A)$ が次数付き可換($uv\neq vu$) |
| $H^1(A)=0$(cdga-thm-existence) | $\lvert x\rvert=1$ の $(\Lambda(x),0)$ | $V=V^{\ge2}$ の極小模型の存在 |
| $H^0(A)=k$(cdga-thm-existence) | $A^0=k\times k$、$A^p=0$($p>0$)、$d=0$ | $V=V^{\ge2}$ の極小模型の存在 |
| $A$ が形式的(cdga-prop-massey の 3) | cdga-ex-heisenberg | Massey 積が $0$ を含む |
1 行目の $A$ は Leibniz 則をみたす微分 $d=0$ をもつ微分次数付き代数だが、次数付き可換でない。2 行目と 3 行目では、$V=V^{\ge2}$ の Sullivan 代数 $\Lambda V$ は $(\Lambda V)^0=k$、$(\Lambda V)^1=0$ なので $H^0=k$、$H^1=0$ であり、$H^1(A)\neq0$ や $\dim H^0(A)=2$ の $A$ とは擬同型になれない。2 行目の $A$ 自身は $V=V^1$ の極小 Sullivan 代数である。
位相空間との対応。 単連結で整数係数のホモロジーが各次数で有限生成の空間 $X$ について、$A_{\mathrm{PL}}(X)$ の極小模型 $(\Lambda V,d)$ の生成元の空間 $V^p$ は $\pi_p(X)\otimes\mathbb Q$ の双対と同型である(Sul77 Theorem 10.1, p. 307。この記事では証明しない)。Sullivan は、微分の 2 次の部分が定める双対の次数付き Lie 代数を、ホモトピー群の Whitehead 積に対応させている(Sul77 §2 の対応の表, p. 281)。cdga-ex-spheres の 2 の生成元 $y$(次数 $2n-1$)は、偶数次元の球面の $\pi_{2n-1}(S^n)\otimes\mathbb Q$ を表す(Whitehead積 の定理「恒等写像の Whitehead 積」の 2)。詳しくは 有理ホモトピー論 で扱う。
Lie 代数との関係。 有限次元の Lie 代数 $\mathfrak g$ の双対空間 $\mathfrak g^*$ を次数 $1$ に置いた $\Lambda(\mathfrak g^*)$ に、括弧積の双対で微分を入れた cdga(Chevalley–Eilenberg の複体)のコホモロジーが、Lie 代数のコホモロジーである。cdga-ex-heisenberg は 3 次元 Heisenberg Lie 代数の場合で、$dz=xy$ が括弧積 $[e_x,e_y]=e_z$ の双対にあたる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する