数列の平均の極限(limit of averages of a sequence)とは、数列 $(a_n)$ の最初の $n$ 項の平均 $\sigma_n=\frac{a_1+\cdots+a_n}{n}$ の極限である。$a_n$ が実数 $\alpha$ に収束すれば $\sigma_n$ も $\alpha$ に収束し、$a_n\to+\infty$ なら $\sigma_n\to+\infty$ である。逆は成り立たず、$a_n=(-1)^n$ は収束しないが平均は $0$ に収束する。項がすべて正で $a_n\to\alpha>0$ なら相乗平均 $\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}$ も $\alpha$ に収束する。さらに $c_n>0$ で $\frac{c_{n+1}}{c_n}\to L>0$ なら $\sqrt[n]{c_n}\to L$ である。
前提知識: 極限とε-δ, はさみうちと評価の技法, 無限級数の和と収束判定
テストの点数を毎回記録していくと、1 回ごとの点数は上がったり下がったりしても、それまでの平均点はだんだん落ち着いてくる。数列でも同じことを考えられる。数列 $a_1,a_2,a_3,\dots$ に対して、最初の $n$ 項の平均
$$
\sigma_n=\frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}
$$
を並べた数列 $\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3,\dots$ を考える。まず小さな例で計算してみる。
$a_n=\dfrac1n$ は $0$ に近づく数列である。平均は
$$
\sigma_1=1,\qquad \sigma_2=\frac{1+\frac12}{2}=\frac34,\qquad \sigma_3=\frac{1+\frac12+\frac13}{3}=\frac{11}{18}=0.611\ldots,\qquad \sigma_4=\frac{1+\frac12+\frac13+\frac14}{4}=\frac{25}{48}=0.520\ldots
$$
である。分子の $1+\dfrac12+\cdots+\dfrac1n$ を $H_n$ と書くと $\sigma_n=\dfrac{H_n}{n}$ で、計算機で求めると
$$
\sigma_{10}=0.2928\ldots,\qquad \sigma_{100}=0.05187\ldots,\qquad \sigma_{1000}=0.007485\ldots
$$
となる。$a_n$ と同じく $0$ に近づいているように見えるが、$a_{1000}=0.001$ と比べると $\sigma_{1000}$ はずっと大きく、近づき方は遅い。
$a_n=(-1)^n$ は $-1,1,-1,1,\dots$ と振動し、収束しない。平均の分子は $-1,0,-1,0,\dots$ をくり返すので
$$
\sigma_1=-1,\quad \sigma_2=0,\quad \sigma_3=-\frac13,\quad \sigma_4=0,\quad \sigma_5=-\frac15,\quad\ldots
$$
である。$n$ が偶数なら $\sigma_n=0$、奇数なら $\sigma_n=-\dfrac1n$ なので、どちらの場合も $\lvert\sigma_n\rvert\le\dfrac1n$ である。はさみうちの原理(はさみうちと評価の技法)により $\sigma_n\to0$ となる。数列そのものは収束しないのに、平均は収束する。
$a_n=1+\dfrac{(-1)^n}{\sqrt n}$ は、$1$ の上と下を交互にとりながら $1$ に近づく($\lvert a_n-1\rvert=\dfrac1{\sqrt n}\to0$)。項と平均の値は次のとおりである(小数第 4 位で丸めた)。
| $n$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ | $10$ | $20$ | $60$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $a_n$ | $0$ | $1.7071$ | $0.4226$ | $1.5$ | $0.5528$ | $1.3162$ | $1.2236$ | $1.1291$ |
| $\sigma_n$ | $0$ | $0.8536$ | $0.7099$ | $0.9074$ | $0.8365$ | $0.9549$ | $0.9753$ | $0.9910$ |
平均は $a_n$ よりなめらかに $1$ に近づいている。$n=10^4$ では $\lvert a_n-1\rvert=0.01$ に対して $\lvert\sigma_n-1\rvert=0.00006$ ほどで、この例では平均の方がずっと速く $1$ に近づく。
赤い点は数列 a_n、青い線はその平均 σ_n で、平均の方がなめらかに 1 に近づく
3 つの例から、次の問いが浮かぶ。この記事ではこれらに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 最初の $n$ 項の平均 | 平均の数列 $\sigma_n$ | Cesàro 平均 |
| 最初の何項かを別に扱う評価 | 「最初の $N$ 項の分」と「残りの分」 | $\varepsilon$–$N$ 論法 |
| $\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}$ | 相乗平均 $g_n$ | 対数をとって相加平均に直す |
| 級数の部分和の平均 | 部分和を平均してから極限をとる | Cesàro 総和 |
実数の数列 $(a_n)_{n\ge1}$ に対し、
$$
\sigma_n=\frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n}\qquad(n=1,2,3,\dots)
$$
で定める数列 $(\sigma_n)$ を、$(a_n)$ の 平均の数列 という。すべての項が正($a_n>0$)のときは、
$$
g_n=\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}\qquad(n=1,2,3,\dots)
$$
で定める数列 $(g_n)$ を、$(a_n)$ の 相乗平均の数列 という。
収束の定義は 極限とε-δ の定義「数列の収束と極限」を使う。記号 $\lvert x\rvert$ は絶対値である。
一般の証明の前に、証明の考え方がそのまま見える例を計算する。
$a_1=a_2=\cdots=a_{10}=5$、$a_{11}=a_{12}=\cdots=1$ とする。$a_n\to1$ である。$n\ge10$ のとき
$$
a_1+\cdots+a_n=\underbrace{5\times10}_{\text{最初の 10 項}}+\underbrace{1\times(n-10)}_{\text{残りの項}}=n+40
$$
なので
$$
\sigma_n=\frac{n+40}{n}=1+\frac{40}{n}
$$
である。$\sigma_{20}=3$、$\sigma_{100}=1.4$、$\sigma_{400}=1.1$、$\sigma_{4000}=1.01$ となり、$\sigma_n\to1$ である。
$40$ は「最初の 10 項が極限 $1$ からはみ出した分の合計」$(5-1)\times10$ である。この量は $n$ によらない一定の数なので、$n$ で割ると $0$ に近づく。
最初の 10 項が 5、その後が 1 の数列の平均は、1 + 40/n の形でゆっくり 1 に近づく
ex-avg-head では、11 項目から先の項はちょうど極限に等しかった。一般の数列では、ある番号から先の項は「極限にちょうど等しい」のではなく「極限に近い」。その違いを $\varepsilon$ で見積もるのが次の証明である。
数列 $(a_n)$ の平均の数列を $(\sigma_n)$ とする。
(1) $a_n\to\alpha$($\alpha$ は実数)ならば、$\sigma_n\to\alpha$ である。
(2) $a_n\to+\infty$ ならば $\sigma_n\to+\infty$ であり、$a_n\to-\infty$ ならば $\sigma_n\to-\infty$ である。
方針:(1) は、極限との差 $a_n-\alpha$ の平均が $0$ に近づくことを示す。差の和を「最初の $N-1$ 項の分」と「残りの分」に分け、残りの分は $\varepsilon$ の小ささで、最初の分は $n$ で割ることで小さくする(ex-avg-head と同じ考え方)。
(1) 段 1(極限を $0$ に直す)。$b_n=a_n-\alpha$ とおく。$\lvert b_n-0\rvert=\lvert a_n-\alpha\rvert$ なので、$a_n\to\alpha$ は $b_n\to0$ と同じことである。また
$$
\frac{b_1+b_2+\cdots+b_n}{n}=\frac{(a_1+\cdots+a_n)-n\alpha}{n}=\sigma_n-\alpha
$$
である。そこで $\tau_n=\dfrac{b_1+\cdots+b_n}{n}$ とおき、$\tau_n\to0$ を示せばよい。
段 2(残りの項を小さくする番号 $N$)。正の数 $\varepsilon$ を任意にとる。$b_n\to0$ なので、収束の定義(rem-avg-premises (1))を正の数 $\dfrac\varepsilon2$ に使うと、ある番号 $N$ があって
$$
n\ge N\ \text{ならば}\ \lvert b_n\rvert<\frac\varepsilon2
$$
となる。
段 3(和を 2 つに分ける)。$C=\lvert b_1\rvert+\lvert b_2\rvert+\cdots+\lvert b_{N-1}\rvert$ とおく($N=1$ なら $C=0$)。$C$ は $N$ だけで決まる一定の数で、$n$ によらない。$n\ge N$ のとき、三角不等式 $\lvert x+y\rvert\le\lvert x\rvert+\lvert y\rvert$ をくり返し使うと
$$
\lvert\tau_n\rvert=\frac{\lvert(b_1+\cdots+b_{N-1})+(b_N+\cdots+b_n)\rvert}{n}\le\frac{C}{n}+\frac{\lvert b_N\rvert+\cdots+\lvert b_n\rvert}{n}
$$
である。右辺の第 2 項の分子は $n-N+1$ 個の数の和で、段 2 よりどれも $\dfrac\varepsilon2$ より小さいので
$$
\frac{\lvert b_N\rvert+\cdots+\lvert b_n\rvert}{n}<\frac{(n-N+1)\cdot\frac\varepsilon2}{n}\le\frac\varepsilon2
$$
となる($n-N+1\le n$ を使った)。よって $n\ge N$ で
$$
\lvert\tau_n\rvert<\frac Cn+\frac\varepsilon2
$$
である。
段 4(最初の分を小さくする番号 $N'$)。Archimedes の性質(rem-avg-premises (3))により、$N$ 以上で $\dfrac{2C}{\varepsilon}$ より大きい自然数 $N'$ がとれる。$n\ge N'$ なら $\dfrac Cn\le\dfrac C{N'}<\dfrac\varepsilon2$ である($C=0$ のときも成り立つ)。段 3 と合わせると、$n\ge N'$ で
$$
\lvert\tau_n\rvert<\frac\varepsilon2+\frac\varepsilon2=\varepsilon
$$
となる。$\varepsilon$ は任意だったので $\tau_n\to0$、段 1 により $\sigma_n\to\alpha$ である。
(2) 要点:(1) と同じく和を「最初の $N-1$ 項の分」と「残りの分」に分ける。正の数 $M$ に対し、$n\ge N$ で $a_n>3M$ となる $N$ をとると、$n$ が十分大きいとき、残りの分の平均は $2M$ より大きく、最初の分を $n$ で割ったものは $-M$ より大きいので、$\sigma_n>M$ となる。$a_n\to-\infty$ のときは $-a_n$ に使う。$\square$
段 1(大きな項が続く番号 $N$)。正の数 $M$ を任意にとる。$a_n\to+\infty$ なので、定義(rem-avg-premises (2))を正の数 $3M$ に使うと、ある番号 $N$ があって、$n\ge N$ で $a_n>3M$ となる。
段 2(和を 2 つに分ける)。$S=a_1+\cdots+a_{N-1}$ とおく($N=1$ なら $S=0$)。$n\ge N$ のとき
$$\sigma_n=\frac Sn+\frac{a_N+\cdots+a_n}{n}>\frac Sn+\frac{(n-N+1)\cdot3M}{n}$$
である。
段 3(それぞれの項を見積もる)。$n\ge3N$ なら $N\le\dfrac n3$ なので $n-N+1>n-N\ge\dfrac{2n}3$ であり、第 2 項は $\dfrac{2n}{3}\cdot\dfrac{3M}{n}=2M$ より大きい。また、Archimedes の性質で $\dfrac{\lvert S\rvert}M$ より大きい自然数 $N''$ をとると、$n\ge N''$ で $\dfrac Sn\ge-\dfrac{\lvert S\rvert}n>-M$ である。よって $n$ が $3N$ 以上かつ $N''$ 以上なら $\sigma_n>-M+2M=M$ となる。$M$ は任意だったので $\sigma_n\to+\infty$ である。
段 4($-\infty$ の場合)。$a_n\to-\infty$ のときは、$-a_n\to+\infty$ に今示したことを使うと、$-a_n$ の平均 $-\sigma_n$ が $+\infty$ に発散するので $\sigma_n\to-\infty$ である。
証明の番号 $N'$ が具体的にどうなるかを、ex-avg-harmonic の数列で見る。
$a_n=\dfrac1n$、$\alpha=0$ とする。$b_n=a_n$ である。$\varepsilon=0.1$ として、証明の段 2〜4 をたどる。
段 2:$\lvert b_n\rvert=\dfrac1n<\dfrac\varepsilon2=0.05$ となるのは $n>20$ のときなので、$N=21$ でよい。
段 3:$C=1+\dfrac12+\cdots+\dfrac1{20}=H_{20}=3.5977\ldots$ である。
段 4:$\dfrac{2C}\varepsilon=71.95\ldots$ より、$N'=72$ でよい。実際、$\sigma_{72}=\dfrac{H_{72}}{72}=0.0675\ldots<0.1$ である。
計算機で調べると、$\sigma_n<0.1$ が初めて成り立つのは $n=44$ のとき($\sigma_{43}=0.1011\ldots$、$\sigma_{44}=0.0993\ldots$)である。証明で作った $N'=72$ は一番小さい番号ではないが、定義が求めているのは「ある番号から先で $\varepsilon$ 未満」ということだけなので、それで十分である。
主定理 1 (1) の証明の段 3 からは、$\sigma_n$ と $\alpha$ の差には $\dfrac Cn$ の程度の部分が残りうることも分かる。ex-avg-harmonic で $\sigma_n$ が $a_n$ よりゆっくり $0$ に近づいたのはこのためで、平均をとると収束が速くなるとは限らない。
thm-avg-main は「$a_n$ が収束すれば平均も収束する」と言っている。逆向きの主張や、仮定を弱めた主張は成り立たない。この記事の定理の仮定を外したときに崩れることをまとめる(相乗平均と cor-avg-ratio-root の行は、後の節の主張についてのものである)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $a_n$ が収束する(仮定を「$\sigma_n$ が収束する」に替える) | $a_n=(-1)^n$ | $a_n$ が収束する |
| 数列全体が $\alpha$ に近づく(偶数番目の項だけが近づく) | 奇数番目が $1$、偶数番目が $0$ | $\sigma_n\to0$ |
| すべての項が正(相乗平均) | $a_1=0$、$a_n=1$($n\ge2$) | $\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}\to1$ |
| $\dfrac{c_{n+1}}{c_n}$ が収束する(仮定を「$\sqrt[n]{c_n}$ が収束する」に替える) | $c_n=2^n\bigl(2+(-1)^n\bigr)$ | $\dfrac{c_{n+1}}{c_n}$ が収束する |
1 行目は ex-avg-alternating で見た。$\sigma_n\to0$ だが、$a_n$ は $-1$ と $1$ をくり返して収束しない。2 行目を確かめる。
$a_n$ を、$n$ が奇数なら $1$、偶数なら $0$ と定める。偶数番目の項 $a_2,a_4,a_6,\dots$ はどれも $0$ なので、偶数番目だけを取り出した数列は $0$ に収束する。しかし平均は、$n=2m$(偶数)のとき
$$
\sigma_{2m}=\frac{m}{2m}=\frac12
$$
であり、$n=2m-1$(奇数)のとき
$$
\sigma_{2m-1}=\frac{m}{2m-1}=\frac12+\frac1{2(2m-1)}
$$
である。どちらの場合も $\left\lvert\sigma_n-\dfrac12\right\rvert\le\dfrac1{2n}$ なので $\sigma_n\to\dfrac12$ で、$0$ には近づかない。thm-avg-main (1) を使うには、偶数番目だけでなく、数列全体が $\alpha$ に近づく必要がある。
a_n = (-1)^n は収束しないが、平均は 0 に近づく
偶数番目の項だけが 0 の数列の平均は、0 ではなく 1/2 に近づく
図 3 と図 4 は、どちらも数列そのものは収束しないが、平均は収束する例である。図 3 では平均が $0$ に、図 4 では $\dfrac12$ に近づく。3 行目と 4 行目は、次の節の ex-avg-cx-zero と ex-avg-cx-root で確かめる。
逆向きの主張は一般には成り立たないが、数列が単調なら成り立つ。
数列 $(a_n)$ が単調増加(すべての $n$ で $a_n\le a_{n+1}$)で、平均の数列が実数 $\alpha$ に収束するならば、$a_n\to\alpha$ である。単調減少の場合も同じである。
要点:単調増加なら、$a_n$ は平均の数列で
$$
\sigma_n\le a_n\le2\sigma_{2n}-\sigma_n
$$
とはさめる。両端は $\alpha$ に収束するので、はさみうちの原理により $a_n\to\alpha$ である。単調減少なら $-a_n$ に使う。$\square$
段 1(下からの評価)。単調増加なので、$k\le n$ なら $a_k\le a_n$ である。$k=1,\dots,n$ について足すと $a_1+\cdots+a_n\le na_n$ なので、$\sigma_n\le a_n$ である。
段 2(上からの評価)。$a_{n+1},a_{n+2},\dots,a_{2n}$ の $n$ 個はどれも $a_n$ 以上なので
$$2n\,\sigma_{2n}=(a_1+\cdots+a_n)+(a_{n+1}+\cdots+a_{2n})\ge n\sigma_n+na_n$$
である。両辺を $n$ で割って移項すると $a_n\le2\sigma_{2n}-\sigma_n$ となる。
段 3(両端の極限)。$\sigma_n\to\alpha$ だから、$\varepsilon>0$ に対して $n\ge N$ で $\lvert\sigma_n-\alpha\rvert<\varepsilon$ となる $N$ がある。$n\ge N$ なら $2n\ge N$ でもあるので $\lvert\sigma_{2n}-\alpha\rvert<\varepsilon$ となり、$\sigma_{2n}\to\alpha$ である。よって $2\sigma_{2n}-\sigma_n\to2\alpha-\alpha=\alpha$ である。
$a_n=1-\dfrac1n$ は単調増加で、$\sigma_n=1-\dfrac{H_n}{n}$ である($H_n=1+\dfrac12+\cdots+\dfrac1n$)。ex-avg-harmonic より $\dfrac{H_n}n\to0$ なので $\sigma_n\to1$ で、prop-avg-monotone から $a_n\to1$ が出る。$n=10$ で確かめると、$\sigma_{10}=0.7071\ldots$、$a_{10}=0.9$、$2\sigma_{20}-\sigma_{10}=0.9331\ldots$ で、たしかに $\sigma_{10}\le a_{10}\le2\sigma_{20}-\sigma_{10}$ である。
掛け算の平均は、対数をとると足し算の平均になる。$a_n>0$ のとき、対数の性質 $\log(xy)=\log x+\log y$ から
$$
\log g_n=\log\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}=\frac{\log a_1+\log a_2+\cdots+\log a_n}{n}
$$
である。右辺は数列 $(\log a_n)$ の平均の数列なので、thm-avg-main が使える。
すべての項が正の数列 $(a_n)$ が正の数 $\alpha$ に収束するならば、相乗平均の数列も $\alpha$ に収束する:
$$
\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}\to\alpha .
$$
段 1(対数の数列)。$\log x$ は $x=\alpha>0$ で連続なので、rem-avg-premises (4) により $\log a_n\to\log\alpha$ である。
段 2(平均の極限)。数列 $(\log a_n)$ に thm-avg-main (1) を使うと、その平均の数列 $\log g_n=\dfrac{\log a_1+\cdots+\log a_n}n$ は $\log\alpha$ に収束する。
段 3(指数にもどす)。$e^x$ は $x=\log\alpha$ で連続なので、rem-avg-premises (4) により $g_n=e^{\log g_n}\to e^{\log\alpha}=\alpha$ である。$\square$
すべての項が正で $a_n\to0$ のときも $g_n\to0$ である。正の数 $M$ に対して、$a_n\to0$ から $n\ge N$ で $a_n< e^{-M}$、すなわち $\log a_n<-M$ となるので、$\log a_n\to-\infty$ である。thm-avg-main (2) により $\log g_n\to-\infty$ で、正の数 $\varepsilon$ に対して、ある番号から先で $\log g_n<\log\varepsilon$、すなわち $0< g_n<\varepsilon$ となる。よって $g_n\to0$ である。同じように、$a_n\to+\infty$ なら $\log a_n\to+\infty$ なので $g_n\to+\infty$ である。たとえば $a_n=\dfrac1n$ では $g_n=\dfrac1{\sqrt[n]{n!}}$ で、$n=10,100,1000$ のとき $0.2208\ldots$、$0.02632\ldots$、$0.002706\ldots$ と $0$ に近づく。
すべての項が正の数列 $(c_n)$ について、$\dfrac{c_{n+1}}{c_n}$ が正の数 $L$ に収束するならば、$\sqrt[n]{c_n}\to L$ である。
$a_1=c_1$、$a_k=\dfrac{c_k}{c_{k-1}}$($k\ge2$)とおく。すべて正の数で、
$$
a_1a_2\cdots a_n=c_1\cdot\frac{c_2}{c_1}\cdot\frac{c_3}{c_2}\cdots\frac{c_n}{c_{n-1}}=c_n
$$
である(分子と分母が次々に消える)。仮定 $\dfrac{c_{n+1}}{c_n}\to L$ は $a_{n+1}\to L$ ということなので、$a_n\to L$ である(番号を 1 つずらしても収束するかどうかと極限は変わらない)。thm-avg-geometric により $\sqrt[n]{c_n}=\sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}\to L$ である。$\square$
$c_n=\dfrac{n^n}{n!}$ とする。
$$
\frac{c_{n+1}}{c_n}=\frac{(n+1)^{n+1}}{(n+1)!}\cdot\frac{n!}{n^n}=\frac{(n+1)^{n+1}}{(n+1)\,n^n}=\left(\frac{n+1}{n}\right)^n=\left(1+\frac1n\right)^n\to e
$$
なので、cor-avg-ratio-root により
$$
\sqrt[n]{c_n}=\frac{n}{\sqrt[n]{n!}}\to e
$$
である。値は次のとおりで、近づき方はゆっくりしている。
| $n$ | $1$ | $2$ | $10$ | $100$ | $1000$ | $10000$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| $\dfrac{n}{\sqrt[n]{n!}}$ | $1$ | $1.4142$ | $2.2081$ | $2.6321$ | $2.7064$ | $2.7168$ |
比の極限 $\left(1+\dfrac1n\right)^n\to e$ は、底が $1$ に近づき指数が大きくなる「$1^\infty$ の形」の極限である(1の∞乗型の極限)。ex-avg-geometric-small (2) の結果に $\dfrac{n}{n+1}\to1$ を掛けても同じ結論が出る。
n を n! の n 乗根で割った値は、ゆっくり e = 2.718… に近づく
$n!$ の大きさは 階乗の大きさの見積もり の Stirling の公式 $n!\sim\sqrt{2\pi n}\left(\dfrac ne\right)^n$ でもっと詳しく分かり、そこから $\dfrac n{\sqrt[n]{n!}}$ が $e$ より少し小さい値をとりながら近づく様子も読み取れる。積分の評価 の例 4 では、同じ極限を $\log n!$ を積分ではさんで求めている。cor-avg-ratio-root の方法は、比 $\dfrac{c_{n+1}}{c_n}$ さえ計算できれば使えるのが利点である。
$c_n=\dbinom{2n}{n}$ とする($c_1=2$、$c_2=6$、$c_3=20$)。比は $\dfrac{c_{n+1}}{c_n}=\dfrac{2(2n+1)}{n+1}\to4$ なので、cor-avg-ratio-root により $\sqrt[n]{\dbinom{2n}n}\to4$ である。$n=10,100,1000$ で $3.362\ldots$、$3.886\ldots$、$3.983\ldots$ となる。
$$\frac{c_{n+1}}{c_n}=\frac{(2n+2)!}{(n+1)!\,(n+1)!}\cdot\frac{n!\,n!}{(2n)!}=\frac{(2n+2)(2n+1)}{(n+1)^2}=\frac{2(2n+1)}{n+1}$$
である。$n=1$ で $3=\dfrac{6}{2}$、$n=2$ で $\dfrac{10}3=\dfrac{20}6$ となり、値と合っている。分子と分母を $n$ で割ると $\dfrac{2\left(2+\frac1n\right)}{1+\frac1n}\to4$ である。
節「逆は成り立たない」の表の 3 行目と 4 行目を確かめる。
$a_1=0$、$a_n=1$($n\ge2$)とすると $a_n\to1$ である。しかし積 $a_1a_2\cdots a_n$ はいつも $0$ なので、$\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}=0$ がすべての $n$ で成り立ち、$1$ には近づかない。thm-avg-geometric の証明は $\log a_n$ を使うので、$\log0$ が定まらない $0$ の項を許すと使えない。
$c_n=2^n\bigl(2+(-1)^n\bigr)$ とする。$n$ が偶数なら $c_n=3\cdot2^n$、奇数なら $c_n=2^n$ である。比は
$$
\frac{c_{n+1}}{c_n}=\begin{cases}\dfrac{3\cdot2^{n+1}}{2^n}=6 & (n\text{ が奇数})\\[2mm]\dfrac{2^{n+1}}{3\cdot2^n}=\dfrac23 & (n\text{ が偶数})\end{cases}
$$
で、$6$ と $\dfrac23$ をくり返し、収束しない。一方、$\sqrt[n]{c_n}\to2$ である($n=10,100,1000$ で $2.232\ldots$、$2.022\ldots$、$2.002\ldots$)。cor-avg-ratio-root の逆は成り立たない。
$1\le2+(-1)^n\le3$ から $2\le\sqrt[n]{c_n}\le2\sqrt[n]3$ である。$\sqrt[n]3\to1$ は、thm-avg-geometric を $a_1=3$、$a_n=1$($n\ge2$)に使えば出る(積は $3$ で、$a_n\to1$)。はさみうちの原理により $\sqrt[n]{c_n}\to2$ である。
$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{1+\sqrt2+\sqrt[3]3+\cdots+\sqrt[n]n}{n}$ を求めよ。
$c_n=n$ とすると $\dfrac{c_{n+1}}{c_n}=\dfrac{n+1}n\to1$ なので、cor-avg-ratio-root により $\sqrt[n]n\to1$ である(はさみうちと評価の技法 では二項定理による評価で同じ極限を求めている)。数列 $a_n=\sqrt[n]n$ に thm-avg-main (1) を使うと、求める極限は $1$ である。$n=10,100,1000,10000$ で値は $1.315\ldots$、$1.114\ldots$、$1.024\ldots$、$1.004\ldots$ となる。
$a_n\to\alpha$($\alpha$ は実数)のとき、$\dfrac{a_1+2a_2+3a_3+\cdots+na_n}{n^2}\to\dfrac\alpha2$ を示せ。
$b_k=a_k-\alpha$ とおくと $b_k\to0$ で、
$$\frac{a_1+2a_2+\cdots+na_n}{n^2}=\frac{\alpha(1+2+\cdots+n)}{n^2}+\frac{b_1+2b_2+\cdots+nb_n}{n^2}=\frac{\alpha(n+1)}{2n}+\frac{b_1+2b_2+\cdots+nb_n}{n^2}$$
である。第 1 項は $\dfrac\alpha2$ に収束する。第 2 項は、$k\le n$ から $\lvert kb_k\rvert\le n\lvert b_k\rvert$ なので
$$\left\lvert\frac{b_1+2b_2+\cdots+nb_n}{n^2}\right\rvert\le\frac{n(\lvert b_1\rvert+\cdots+\lvert b_n\rvert)}{n^2}=\frac{\lvert b_1\rvert+\cdots+\lvert b_n\rvert}{n}$$
で、右辺は $\lvert b_n\rvert\to0$ の平均なので thm-avg-main (1) により $0$ に収束する。はさみうちの原理により第 2 項は $0$ に収束し、全体は $\dfrac\alpha2$ に収束する。$a_n=1+\dfrac1n$ なら値は $n=10,100,1000$ で $0.65$、$0.515$、$0.5015$ である。次の記事 Stolz–Cesàroの定理(高校数学) の定理を使うと、もっと短く示せる。
無限級数 $\displaystyle\sum_{n=1}^\infty a_n$ が収束するとは、部分和 $s_n=a_1+\cdots+a_n$ の数列が収束することだった(無限級数の和と収束判定)。部分和がそのままでは収束しなくても、部分和の平均
$$
\frac{s_1+s_2+\cdots+s_n}{n}
$$
が収束することがある。Lebl の教科書 Leb26a の練習問題 2.6.11 では、この平均が $a$ に収束するとき、級数は $a$ に Cesàro 総和可能 であるという。
$a_n=(-1)^n$ とすると、部分和は $s_1=-1$、$s_2=0$、$s_3=-1$、$s_4=0,\dots$ と振動し、級数 $\displaystyle\sum_{n=1}^\infty(-1)^n$ は収束しない。部分和の平均は
$$
-1,\quad -\frac12,\quad -\frac23,\quad -\frac12,\quad -\frac35,\quad -\frac12,\quad\ldots
$$
で、$n=2m$ のとき $-\dfrac m{2m}=-\dfrac12$、$n=2m-1$ のとき $-\dfrac m{2m-1}$ である。どちらも $-\dfrac12$ との差は $\dfrac1{2n}$ 以下なので、平均は $-\dfrac12$ に収束する。級数 $\displaystyle\sum(-1)^n$ は $-\dfrac12$ に Cesàro 総和可能である。これは ex-avg-cx-parity の数列の符号を変えたものと同じ計算である。
thm-avg-main (1) を部分和の数列 $(s_n)$ に使うと、次のことが分かる:級数がふつうの意味で $a$ に収束すれば、$a$ に Cesàro 総和可能である。つまり Cesàro 総和は、収束する級数には同じ値を与え、収束しない級数の一部にも値を与える「和の広げ方」である。Leb26a の同じ練習問題は、この 2 つの事実を示すことを問い、さらに、項も部分和も有界でない(ふつうの意味では収束しない)のに $0$ に Cesàro 総和可能な級数の例も挙げている。
部分和の平均をとる考え方は、周期関数を三角関数の和で表す Fourier 級数(Fourier級数)でも使われる。連続な周期関数の Fourier 級数の部分和の平均は、元の関数に一様に近づくことが知られている(Fejér の定理。この記事では扱わない)。高校数学の範囲では、sin kxとcos kxの和 の「大学数学で見る」で、平均をとった和の式(Fejér 核)を計算している。
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