射影加群

同義語:射影的加群projective module

概要

射影加群(projective module)とは、環 $R$ 上の加群 $P$ で、任意の全射 $M\to N$ と準同型 $P\to N$ に対し、それを $P\to M$ に持ち上げられるものである。これは、$P$ への全射がすべて分裂すること、および $P$ が自由加群の直和因子であることと同値であり、双対基底の補題による特徴づけももつ。自由加群は射影的だが、$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ 上の $\{0,3\}$ や $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ のイデアル $(2,1+\sqrt{-5})$ のように自由でない射影加群がある。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($n\ge2$)や $\mathbb{Q}$ は射影的な $\mathbb{Z}$ 加群でない。可換環上の有限生成射影加群はベクトル束の代数的な対応物である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 加群, 自由加群, 短完全列, 直和

自由加群 $F$ から加群 $N$ への準同型 $f$ と、全射 $g\colon M\to N$ があるとき、$F$ の基底の各元 $e_i$ について $g(y_i)=f(e_i)$ となる $y_i\in M$ を選び、$e_i\mapsto y_i$ で準同型 $h\colon F\to M$ を定めれば、$g\circ h=f$ となる。つまり、自由加群からの準同型は全射に沿っていつでも持ち上げられる。この性質だけを取り出したものが射影加群である。射影加群はちょうど自由加群の直和因子であり(thm-proj-module-equivalent)、自由でない射影加群は、環 $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の中の $\{0,3\}$ のように環の直積への分解から生じるもの、行列環の列ベクトルの空間、Dedekind 整域の単項でないイデアルなどがある。射影加群はホモロジー代数で加群を近似する道具(射影分解)となり、代数幾何学ではベクトル束(局所自由層)に対応する。

定義

以下、$R$ は単位元 $1$ をもつ環(可換とは限らない)とし、加群は左 $R$ 加群、準同型は $R$ 線形写像を指す。$\operatorname{Hom}_R(P,M)$ は $P$ から $M$ への準同型の全体である。

射影加群

左 $R$ 加群 $P$ が 射影的(projective)であるとは、任意の全射準同型 $g\colon M\to N$ と任意の準同型 $f\colon P\to N$ に対し、$g\circ h=f$ を満たす準同型 $h\colon P\to M$($f$ の 持ち上げ)が存在することをいう。射影的な加群を 射影加群(projective module)という。
$$ \xymatrix{ & P \ar@{.>}[dl]_{h} \ar[d]^{f} \\ M \ar@{->>}[r]_{g} & N } $$
図式が可換であるとは、$g\circ h=f$ ということである。

持ち上げ $h$ は一般に一意ではない(点線は存在だけを表す)。言い換えると、$P$ が射影的であるとは、任意の全射 $g\colon M\to N$ について、合成で定まる写像 $\operatorname{Hom}_R(P,M)\to\operatorname{Hom}_R(P,N)$、$h\mapsto g\circ h$ が全射であることである。これは、左 $R$ 加群のなすアーベル圏での射影対象(入射対象・射影対象 の記事の定義「射影対象」)にほかならない。この記事では、加群に固有の性質(自由加群との関係、双対基底、具体例)を扱う。

直感

自由加群の元は基底の係数で自由に指定でき、基底の行き先さえ決めれば準同型が作れる。射影加群はこの「行き先を自由に選べる」性質を保ったまま、基底をもつことだけを諦めた加群である。自由加群 $F=P\oplus Q$ の直和因子 $P$ は、$F$ からの持ち上げを $P$ に制限すれば持ち上げが得られるので射影的になる。逆に射影加群は、自由加群からの全射 $F\to P$ が必ず分裂するので、自由加群の直和因子として現れる(thm-proj-module-equivalent)。
射影的でない典型は、捩れのある $\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。全射 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ に沿って恒等写像を持ち上げようとしても、$\mathbb{Z}$ には位数 $n$ の元がないので持ち上がらない(ex-proj-module-torsion)。

例と反例

自由加群

$R^n$、より一般に自由加群 $R^{(I)}$ は射影的である(prop-proj-module-free-sum)。体 $K$ 上のベクトル空間はすべて基底をもつので自由であり、したがって射影的である。

冪等元による直和因子

環 $R$ の冪等元 $e$($e^2=e$)について、左イデアル $Re$ は射影的である。実際、右から $e$ を掛ける写像 $x\mapsto xe$ は ${}_RR$ の冪等な自己準同型なので、直和 の記事の命題「直和分解と冪等な自己準同型」により ${}_RR=Re\oplus R(1-e)$ であり、$Re$ は自由加群 $R$ の直和因子である(thm-proj-module-equivalent)。
$R=\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$、$e=\bar3$ とすると $\bar3^2=\bar9=\bar3$ で、$Re=\{\bar0,\bar3\}$、$R(1-e)=R\cdot\bar4=\{\bar0,\bar2,\bar4\}$ である。$P:=\{\bar0,\bar3\}$($\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ と同型)は射影的な $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ 加群だが、自由でない。自由な $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ 加群 $(\mathbb{Z}/6\mathbb{Z})^{(I)}$ の元の個数は $1$($I=\emptyset$)か $6$ 以上であるのに、$P$ は $2$ 個の元しかもたないからである(自由加群 の記事の例「反例:射影的だが自由でない加群」と同じ例)。

行列環の列ベクトル

体 $K$ 上の $n$ 次行列環 $R=M_n(K)$($n\ge2$)は、列ベクトルの空間 $K^n$ に左から掛け算で作用し、$K^n$ は左 $R$ 加群になる。$R$ を左 $R$ 加群と見ると、行列を $n$ 本の列に分けることで $R\cong K^n\oplus\cdots\oplus K^n$($n$ 個)と直和に分かれる(左から行列を掛けると各列に同じ行列が掛かるので、この分解は左 $R$ 加群の同型である)。よって $K^n$ は自由加群 $R$ の直和因子で、射影的である。しかし $K^n$ は自由な $R$ 加群でない。$K$ 上の次元を比べると、$R^{(I)}$ の次元は $I$ が有限なら $n^2\lvert I\rvert$、無限なら無限であり、どれも $n$ に等しくない($n^2\lvert I\rvert=n$ は $\lvert I\rvert=1/n$ を意味する)。

Dedekind 整域の単項でないイデアル

$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ のイデアル $\mathfrak{p}=(2,\,1+\sqrt{-5})$ は射影的な $A$ 加群だが、自由でない。

射影的であることの確認を開く

$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ の元 $a_1=\frac{-1+\sqrt{-5}}2$、$a_2=-\frac{1+\sqrt{-5}}2$ について、$a_1\cdot2=-1+\sqrt{-5}$、$a_1(1+\sqrt{-5})=-3$、$a_2\cdot2=-1-\sqrt{-5}$、$a_2(1+\sqrt{-5})=2-\sqrt{-5}$ はすべて $A$ の元なので、$\mathfrak{p}$ の生成元に掛けると $A$ に入り、$f_i(x):=a_ix$ は $A$ 線形写像 $f_i\colon\mathfrak{p}\to A$ を定める($i=1,2$)。さらに $2a_1+(1+\sqrt{-5})a_2=(-1+\sqrt{-5})+(2-\sqrt{-5})=1$ なので、$x\in\mathfrak{p}$ について $f_1(x)\cdot2+f_2(x)\cdot(1+\sqrt{-5})=x$ である。thm-proj-module-dual-basis により $\mathfrak{p}$ は射影的である。


自由でないことは次のように分かる。$A$ は整域なので、$\mathfrak{p}$ の 2 元 $u,v$ はつねに $v\cdot u+(-u)\cdot v=0$ という関係式を満たし、$u,v\ne0$ なら一次独立でない。よって $\mathfrak{p}$ が自由なら基底は 1 元 $\alpha$ からなり、$\mathfrak{p}=A\alpha$ は単項イデアルである。ところが $\mathfrak{p}$ は単項でない。
単項でないことの確認を開く

ノルム $N(a+b\sqrt{-5}):=a^2+5b^2=\lvert a+b\sqrt{-5}\rvert^2$ は乗法的である。$\mathfrak{p}=A\alpha$ なら $\alpha$ は $2$ と $1+\sqrt{-5}$ を割り切るので、$N(\alpha)$ は $N(2)=4$ と $N(1+\sqrt{-5})=6$ を割り切り、$N(\alpha)\in\{1,2\}$ である。$a^2+5b^2=2$ となる整数はないので $N(\alpha)=1$、$\alpha=\pm1$、$\mathfrak{p}=A$ となる。しかし $a+b\sqrt{-5}\mapsto a+b\bmod2$ は環準同型 $A\to\mathbb{F}_2$ であり($A\cong\mathbb{Z}[X]/(X^2+5)$ で $X\mapsto1$ とすると $1+5\equiv0$)、$2$ と $1+\sqrt{-5}$ を $0$ に送るので $\mathfrak{p}$ を $0$ に送るが、$1$ は $1$ に送る。よって $1\notin\mathfrak{p}$ であり、矛盾する。


一般に Dedekind 整域の $0$ でないイデアルはすべて射影的であり、単項イデアル整域でない Dedekind 整域には自由でない射影加群がある(Dedekind整域 の記事の定理「Dedekind整域上の加群」)。

次の表は、射影性についての「成り立ちそうで成り立たない」主張を、何を外したために崩れるかで並べたものである。

外す条件反例成り立たなくなること
捩れをもたない$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$($\mathbb{Z}$ 加群、$n\ge2$)有限生成 $\mathbb{Z}$ 加群は射影的
有限生成$\mathbb{Q}$($\mathbb{Z}$ 加群)捩れのない $\mathbb{Z}$ 加群は射影的
環が局所環か単項イデアル整域$\{\bar0,\bar3\}$($\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ 加群)射影的なら自由
環が単項イデアル整域$(2,1+\sqrt{-5})$($\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ 加群)射影的なら自由

表の 1 行目・2 行目で外した条件を戻すと主張は成り立つ。有限生成で捩れのない $\mathbb{Z}$ 加群は自由であり(自由アーベル群 の記事の命題「有限生成で捩れのないアーベル群は自由」)、したがって射影的である。3 行目・4 行目の条件のもとでは射影的なら自由である(rem-proj-module-free)。

反例:捩れのある加群

$n\ge2$ について、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は射影的な $\mathbb{Z}$ 加群でない。商写像 $g\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は全射であり、恒等写像 $f=\mathrm{id}$ の持ち上げ $h\colon\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ があったとする。$a:=h(\bar1)$ とおくと $na=h(n\cdot\bar1)=h(\bar0)=0$ なので $a=0$、すなわち $h=0$ となり、$g\circ h=0\ne\mathrm{id}$($\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\ne0$)に矛盾する。この例は「有限生成」を満たすが「射影的」を満たさない。短完全列 $0\to\mathbb{Z}\xrightarrow{n}\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to0$ が分裂しないことの言い換えでもある(短完全列 の記事の例「反例:分裂しない短完全列」は $n=2$ の場合)。

反例:有理数の加法群

$\mathbb{Q}$ は射影的な $\mathbb{Z}$ 加群でない。自由アーベル群の $0$ でない元は $2$ で何回でも割れることはない、ということから分かる。

詳しい確認を開く

$\mathbb{Q}$ が射影的なら、thm-proj-module-equivalent により単射準同型 $j\colon\mathbb{Q}\to F$ で $F$ が基底 $(e_i)_{i\in I}$ をもつ自由 $\mathbb{Z}$ 加群であるものがある。$j(1)\ne0$ なので、$j(1)$ を基底で表したときの係数のうち $0$ でないもの $c$(第 $i$ 係数とする)がある。第 $i$ 係数を取り出す写像 $\lambda_i\colon F\to\mathbb{Z}$ は準同型であり、任意の $k\ge0$ について $1=2^k\cdot\frac1{2^k}$ なので $c=\lambda_i(j(1))=2^k\lambda_i\bigl(j(\tfrac1{2^k})\bigr)$ は $2^k$ で割り切れる。すべての $2^k$ で割り切れる $0$ でない整数はないので矛盾する。


$\mathbb{Q}$ は捩れをもたず平坦加群でもあるので、この例は「平坦なら射影的」という含意も破る(平坦加群 の記事の例「反例:平坦だが射影的でない加群」は $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(\mathbb{Q},\mathbb{Z})=0$ による別の証明を与えている)。

性質

自由加群・直和との関係

自由加群と直和
  1. 自由加群は射影的である。
  2. 射影加群の族 $(P_i)_{i\in I}$ の直和 $\bigoplus_iP_i$ は射影的である。
  3. $P\oplus Q$ が射影的なら、$P$ と $Q$ は射影的である。

$g\colon M\to N$ を全射とする。
1:自由加群 $F$ の基底を $(e_i)_{i\in I}$ とし、$f\colon F\to N$ を準同型とする。$g$ は全射なので、各 $i$ について $g(y_i)=f(e_i)$ となる $y_i\in M$ を選べる($I$ が無限なら選択公理を使う)。加群 の記事の命題「自由加群の普遍性」により $h(e_i)=y_i$ となる準同型 $h\colon F\to M$ がある。$g\circ h$ と $f$ はどちらも $e_i$ を $f(e_i)$ に送るので、同じ命題の一意性により $g\circ h=f$ である。
2:$\iota_i$ を標準入射とし、$f\colon\bigoplus_iP_i\to N$ を準同型とする。各 $P_i$ は射影的なので、$f\circ\iota_i$ の持ち上げ $h_i\colon P_i\to M$($g\circ h_i=f\circ\iota_i$)がある。直和 の記事の定理「直和の普遍性」により $h\circ\iota_i=h_i$(すべての $i$)となる $h\colon\bigoplus_iP_i\to M$ がある。$g\circ h$ と $f$ はどちらも $\iota_i$ との合成が $f\circ\iota_i$ になるので、同じ定理の一意性により $g\circ h=f$ である。
3:$\iota_P\colon P\to P\oplus Q$ を入射、$\pi_P\colon P\oplus Q\to P$ を射影とする($\pi_P\circ\iota_P=\mathrm{id}_P$)。$f\colon P\to N$ に対し、$f\circ\pi_P$ の持ち上げ $h'\colon P\oplus Q\to M$ をとり、$h:=h'\circ\iota_P$ とおくと $g\circ h=f\circ\pi_P\circ\iota_P=f$ である。$Q$ についても同じである。$\square$

3 は一般のアーベル圏でも同じ議論で成り立つ(入射対象・射影対象 の記事の命題「射影対象の直和因子は射影対象である」)。

同値な言い換え

射影加群の特徴づけ

左 $R$ 加群 $P$ について、次の 3 条件は同値である。

  1. $P$ は射影的である。
  2. $P$ への全射はすべて切断をもつ。すなわち、全射 $g\colon M\to P$ に対し $g\circ s=\mathrm{id}_P$ となる準同型 $s\colon P\to M$ があり、$P$ で終わる短完全列 $0\to K\to M\to P\to0$ はすべて分裂する。
  3. $P$ は自由加群の直和因子である。すなわち、ある加群 $Q$ について $P\oplus Q$ が自由加群と同型になる。
    さらに $P$ が有限生成なら、3 の自由加群を有限生成な $R^n$ にとれる。

1 ⇒ 2:全射 $g\colon M\to P$ と恒等写像 $\mathrm{id}_P$ に定義を当てると、$g\circ s=\mathrm{id}_P$ となる $s$ が得られる。切断があれば短完全列が分裂することは、直和 の記事の系「分裂する短完全列」である。
2 ⇒ 3:加群 の記事の系「任意の加群は自由加群の商である」により、自由加群 $F$ からの全射 $\varphi\colon F\to P$ がある($P$ が有限生成なら $F=R^n$ にとれる)。2 により $\varphi$ は切断をもち、直和 の記事の系「分裂する短完全列」を短完全列 $0\to\ker\varphi\to F\xrightarrow{\varphi}P\to0$ に当てると $F\cong\ker\varphi\oplus P$ である。$Q:=\ker\varphi$ とおけばよい。
3 ⇒ 1:$P\oplus Q\cong F$($F$ は自由)とする。prop-proj-module-free-sum の 1 により $F$ は射影的であり、定義は同型で保たれるので $P\oplus Q$ も射影的である。同じ命題の 3 により $P$ は射影的である。$\square$

この定理により、射影加群の直和因子は射影的であり、有限生成射影加群は $R^n$ の直和因子にほかならない。$P\oplus Q\cong R^n$ の分解は、直和 の記事の命題「直和分解と冪等な自己準同型」により、$R^n$ の冪等な自己準同型 $e$($e\circ e=e$)で $P\cong\operatorname{im}e$ となるものを与えることと同じである。$R$ が可換なら $e$ は $n$ 次正方行列で $e^2=e$ を満たすものであり、有限生成射影加群は冪等行列の像として具体的に与えられる。

双対基底の補題

双対基底の補題

左 $R$ 加群 $P$ について、次の 2 条件は同値である。

  1. $P$ は射影的である。
  2. $P$ の元の族 $(x_i)_{i\in I}$ と準同型の族 $(f_i\colon P\to R)_{i\in I}$ で、各 $x\in P$ について $f_i(x)=0$ が有限個の $i$ を除いて成り立ち、
    $$ x=\sum_{i\in I}f_i(x)\,x_i $$
    となるものがある。
    $P$ が有限生成なら、2 の添字集合 $I$ を有限集合にとれる。逆に 2 が有限集合 $I$ で成り立てば、$P$ は $(x_i)_{i\in I}$ で生成される有限生成射影加群である。

1 ⇒ 2:$P$ の生成系 $(x_i)_{i\in I}$ をとる(たとえば $P$ のすべての元。$P$ が有限生成なら有限個の生成系)。自由加群 $R^{(I)}$ の基底 $e_i$ を $x_i$ に送る準同型 $\varphi\colon R^{(I)}\to P$ は全射である。thm-proj-module-equivalent の 2 により切断 $s\colon P\to R^{(I)}$($\varphi\circ s=\mathrm{id}_P$)がある。第 $i$ 成分を取り出す準同型 $\pi_i\colon R^{(I)}\to R$ を使って $f_i:=\pi_i\circ s$ とおく。$s(x)$ は $R^{(I)}$ の元なので $f_i(x)=0$ が有限個を除いて成り立ち、$s(x)=\sum_if_i(x)e_i$ である。両辺に $\varphi$ を施すと $x=\varphi(s(x))=\sum_if_i(x)x_i$ を得る。
2 ⇒ 1:$s\colon P\to R^{(I)}$ を $s(x):=(f_i(x))_{i\in I}$ で定める(有限個を除いて $0$ なので $R^{(I)}$ の元である)。各 $f_i$ が準同型なので $s$ も準同型である。$e_i\mapsto x_i$ で定まる準同型を $\varphi\colon R^{(I)}\to P$ とすると、$\varphi(s(x))=\sum_if_i(x)x_i=x$ なので $\varphi\circ s=\mathrm{id}_P$ である。直和 の記事の命題「補加群・切断・引き込みの対応」を部分加群 $\ker\varphi\subset R^{(I)}$ に当てる($\varphi$ は全射なので $R^{(I)}/\ker\varphi\cong P$)と、$R^{(I)}=\ker\varphi\oplus s(P)$ であり、$s$ は単射なので $s(P)\cong P$ である。よって $P$ は自由加群の直和因子であり、thm-proj-module-equivalent により射影的である。
最後の主張:$I$ が有限なら、2 の式により $x_i$ たちが $P$ を生成する。$\square$

名前の由来は、$P=R^n$ で $x_i=e_i$、$f_i=\pi_i$(第 $i$ 座標)とした場合である。このとき $f_i(x_j)$ は $i=j$ なら $1$、そうでなければ $0$ であり、$(f_i)$ は基底 $(e_i)$ の双対基底である。一般の射影加群では $x_i$ たちは一次独立とは限らず、$f_i(x_j)$ もこの形にならないが、「座標を取り出す写像」と「座標から元を組み立てる元」の組が残る。ex-proj-module-dedekind では、イデアル $\mathfrak{p}$ に対し 2 元の組 $(2,1+\sqrt{-5})$ と $(f_1,f_2)$ を具体的に与えて射影性を示した。

補足

射影的なら自由になる環

次の環の上では、射影加群は自由加群に限る。

  • 体、より一般に単項イデアル整域:自由加群の部分加群は自由なので、自由加群の直和因子である射影加群は自由である(単項イデアル整域 の記事の定理「単項イデアル整域上の加群」の 1)。
  • 可換な局所環:有限生成射影加群が自由であることは Nakayamaの補題 の記事の系「局所環上の有限生成射影加群」で証明されている。有限生成でない射影加群も自由である(Kaplansky の定理。Stacks26 Theorem 10.85.4(Tag 0593)。この記事では証明しない)。
    ex-proj-module-idempotent の $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ は局所環でも整域でもなく、ex-proj-module-dedekind の $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ は整域だが単項イデアル整域でない。
平坦加群との関係

可換環 $R$ 上の射影加群は平坦加群である(平坦加群 の記事の系「射影加群は平坦」)。逆は成り立たず、$\mathbb{Q}$ は平坦だが射影的でない(ex-proj-module-rationals)。ただし、有限表示の加群については、平坦であることと射影的であることは同値である(Stacks26 Lemma 10.78.2(Tag 00NX)。この記事では証明しない)。有限生成加群 で Noether 環上のものは有限表示なので、Noether 環上の有限生成加群については平坦と射影的が一致する。

幾何学・K 理論での現れ方

可換環 $A$ 上の有限生成射影加群は、アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ 上の有限階数の局所自由層(ベクトル束)に対応する(局所自由層 の記事の定理「アフィンスキーム上の局所自由層と射影加群」)。自由加群は自明なベクトル束にあたり、自由でない射影加群はひねられたベクトル束にあたる。有限生成射影加群の同型類を直和で足し合わせたモノイドを群にしたものが環の $K_0$ 群であり(Grothendieck群 の記事の命題「射影加群の圏では群化と一致する」)、射影加群が自由加群からどれだけずれているかを測る。

文献

持ち上げによる定義と、分裂・自由加群の直和因子との同値は AK13 Definition (5.21)、Exercise (5.22)、Theorem (5.23) にある(同書の環は可換環であるが、この記事の議論は可換性を使わない)。$\operatorname{Hom}_R(P,-)$ の完全性による定義、自由加群の直和因子との同値、直和の射影性は Stacks26 Section 10.77(Tag 05CD)の Definition 10.77.1、Lemma 10.77.2、Lemma 10.77.4 にある(Stacks Project の環も可換環)。

関連項目

参考文献

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