素因数分解の一意性(算術の基本定理)は、2 以上の整数が素数の積に書け、その書き方が順序を除いて 1 通りであるという定理である。一意性の要は Euclid の補題「素数 $p$ が $ab$ を割り切るなら $a$ か $b$ を割り切る」であり、これは割り算の定理から従う。素数の定義である「分けられない」性質だけでは一意性は出ない。実際、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では $6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$ が同伴でない既約元への 2 通りの分解であり、ノルム $a^2+5b^2$ で検証できる。Gauss 整数 $\mathbb{Z}[i]$ ではノルムを小さくする割り算ができるので、既約元への分解は順序と単元倍を除いて一意になる。素数が無限に多いことも分解の存在から従う。
$1260$ を小さい数の積に分けていく。$1260=12\cdot105=(2\cdot2\cdot3)\cdot(3\cdot5\cdot7)$ と分けても、$1260=35\cdot36=(5\cdot7)\cdot(2\cdot2\cdot3\cdot3)$ と分けても、最後に現れる素数は同じ $2,2,3,3,5,7$ であり、
$$
1260=2^2\cdot3^2\cdot5\cdot7
$$
と書ける。高校では、この素因数分解を使って次のような計算をする。
$1260$ の正の約数は $2^a3^b5^c7^d$($0\le a\le2$、$0\le b\le2$、$0\le c\le1$、$0\le d\le1$)の形の数に限られるので、その個数は $(2+1)(2+1)(1+1)(1+1)=36$ である。
$1050=2\cdot3\cdot5^2\cdot7$ なので、指数の小さいほうをとって $\gcd(1260,1050)=2\cdot3\cdot5\cdot7=210$、大きいほうをとって $\operatorname{lcm}(1260,1050)=2^2\cdot3^2\cdot5^2\cdot7=6300$ である。
$\sqrt2=a/b$($a,b$ は正の整数)とすると $2b^2=a^2$ である。右辺の素因数分解では $2$ が偶数個、左辺では奇数個現れるので矛盾し、$\sqrt2$ は無理数である。
どの計算も、「素因数分解は分け方によらず 1 通りに決まる」ことを使っている。これは当たり前に見えるが、証明が必要な定理である(算術の基本定理)。そこで次の問いを考える。
| 高校の計算 | 大学の概念 | ボックス |
|---|---|---|
| 素因数分解が 1 通りに決まる | 算術の基本定理(Euclid の補題から) | thm-upf-uniqueness |
| 指数($2$ の個数など)を数える・比べる | $p$ 進付値 $v_p$、$v_p(ab)=v_p(a)+v_p(b)$ | ex-upf-divisor-count、ex-upf-gcd-lcm、ex-upf-sqrt-n |
| 素数は「分けられない」 | 既約元と素元の違い | def-upf-irreducible、ex-upf-irreducible-not-prime |
| 割り算の余り | 割り算の定理(Euclid 整域) | thm-upf-gauss-division |
以下、文字は特に断らない限り整数を表す。$b\ne0$ について $a=bk$ となる整数 $k$ があるとき、$b$ は $a$ を割り切るといい $b\mid a$ と書く。
$2$ 以上の整数 $p$ の正の約数が $1$ と $p$ だけのとき、$p$ を素数という。$2$ 以上で素数でない整数を合成数という。$2$ 以上の整数 $n$ を素数の積 $n=p_1p_2\cdots p_r$($r\ge1$、同じ素数が繰り返し現れてもよい)として表すことを、$n$ の素因数分解という。素因数分解が順序を除いて一意であるとは、$n=p_1\cdots p_r=q_1\cdots q_s$ と 2 通りに表したとき、$r=s$ であり、$q_j$ を並べ替えると $p_j=q_j$($j=1,\dots,r$)となることをいう。
$1$ は素数に含めない(ex-upf-one)。$1$ は $0$ 個の素数の積(空の積)と考えると、以下の定理は $n=1$ でも($r=0$ として)成り立つ。
$97$ は素数、$91=7\cdot13$ は合成数である。$84=2\cdot2\cdot3\cdot7$ と $7\cdot3\cdot2\cdot2$ は順序だけが違う同じ分解である。
素数の定義は「$p$ は $1$ より大きい 2 つの数の積に分けられない」という性質である。ところが一意性の証明で本当に使うのは、「$p\mid ab$ ならば $p\mid a$ または $p\mid b$」という別の性質である。これを Euclid の性質と呼ぶ。
「分けられない」と「Euclid の性質」は、$\mathbb{Z}$ では同じ数(素数)を特徴づける(thm-upf-euclid-lemma)。しかし一般の数の世界ではこの 2 つは別物であり、その差が一意性の成否を分ける。これが本記事の中心となる構造である。
以下の証明では、次の 2 つを前提とする。
$2$ 以上のすべての整数は、素数の積として表せる。
素数の積として表せない $2$ 以上の整数があると仮定し、そのうち最小のものを $n$ とする(整列性)。$n$ 自身は素数ではない(素数は 1 個の素数の積である)ので、$n$ は $1< a< n$ である約数 $a$ をもち、$n=ab$、$1< b< n$ と書ける。$a,b$ は $n$ より小さい $2$ 以上の整数なので、$n$ の最小性により素数の積として表せる。それらを並べると $n$ も素数の積になり、矛盾する。$\square$
最小の反例をとる議論が正しい理由(自然数の整列性)は 数学的帰納法と整列性 で扱う。
$p$ を素数とする。$p\mid ab$ ならば、$p\mid a$ または $p\mid b$ である。
$p\mid ab$ とし、集合
$$
I:=\{x\in\mathbb{Z}\mid p\mid xb\}
$$
を考える。$I$ は次の性質をもつ:$x,y\in I$ なら $x+y\in I$、$x\in I$ なら任意の整数 $k$ について $kx\in I$($p\mid xb$、$p\mid yb$ なら $p\mid(x+y)b$、$p\mid kxb$)。また $p\in I$($p\mid pb$)、$a\in I$(仮定 $p\mid ab$)である。
$p\in I$ なので $I$ は正の整数を含み、整列性により $I$ に属する最小の正の整数 $d$ がある。$x\in I$ を割り算の定理で $x=dq+r$($0\le r< d$)と割ると、$r=x+(-q)d\in I$ であり、$r>0$ なら $d$ の最小性に反するので $r=0$ である。つまり $d$ は $I$ のすべての元を割り切る。特に $d\mid p$ かつ $d\mid a$ である。
$p$ は素数なので $d=1$ または $d=p$ である。$d=p$ なら $p\mid a$ である。$d=1$ なら $1\in I$、すなわち $p\mid b$ である。$\square$
証明の中の集合 $I$ は $\mathbb{Z}$ のイデアルであり、議論の後半は「$\mathbb{Z}$ のイデアルはすべて 1 つの数の倍数全体である」($\mathbb{Z}$ が単項イデアル整域である)ことの証明そのものである。同じ議論から Bézoutの等式 $\gcd(a,b)=ax+by$ も得られる(整数の割り算と互除法)。
$3\mid4\cdot6$、$3\nmid4$ から $3\mid6$ である。素数でない $4$ では、$4\mid2\cdot6$ でも $4\nmid2$、$4\nmid6$ である。
素数 $p$ が $a_1a_2\cdots a_k$ を割り切るならば、ある $j$ について $p\mid a_j$ である。特に $a_1,\dots,a_k$ がすべて素数なら、$p$ はそのどれかに等しい。
$k=1$ は明らか。$p\mid(a_1\cdots a_{k-1})\,a_k$ に thm-upf-euclid-lemma を使うと、$p\mid a_k$ か $p\mid a_1\cdots a_{k-1}$ であり、後者なら帰納法の仮定により $p\mid a_j$($j< k$)である。$a_j$ が素数なら、その正の約数は $1$ と $a_j$ だけで、$p\ge2$ なので $p=a_j$ である。$\square$
$2$ 以上の整数の素因数分解は、順序を除いて一意である。すなわち、素数 $p_1,\dots,p_r$、$q_1,\dots,q_s$ について $p_1\cdots p_r=q_1\cdots q_s$ ならば、$r=s$ であり、$q_j$ を並べ替えると $p_j=q_j$($j=1,\dots,r$)となる。
$r$ についての帰納法で示す。$r=0$(左辺が空の積 $1$)なら、素数は $2$ 以上なので右辺も空の積で $s=0$ である。$r\ge1$ とする。右辺は $p_r\ge2$ で割り切れるので $s\ge1$ であり、cor-upf-product により $p_r=q_j$ となる $j$ がある。$q_j$ を最後に並べ替えて $p_r=q_s$ とし、両辺を $p_r$ で割ると $p_1\cdots p_{r-1}=q_1\cdots q_{s-1}$ である。帰納法の仮定により $r-1=s-1$ であり、並べ替えると $p_j=q_j$($j< r$)となる。$\square$
同じ素数をまとめると、$2$ 以上の整数 $n$ は
$$
n=\prod_{p}p^{v_p(n)}
$$
と書ける。ここで積はすべての素数 $p$ にわたり、$v_p(n)$ は $n$ の分解に $p$ が現れる個数である(有限個の $p$ を除いて $v_p(n)=0$、$v_p(1)=0$ とする)。thm-upf-uniqueness により $v_p(n)$ は分解の仕方によらず定まる。$a,b$ の分解を並べると $ab$ の分解になるので
$$
v_p(ab)=v_p(a)+v_p(b)
$$
である。また正の整数 $d,n$ について、$d\mid n$ なら $n=de$ から $v_p(d)\le v_p(n)$ がすべての $p$ で成り立ち、逆にそうなら $e:=\prod_pp^{v_p(n)-v_p(d)}$ が $n=de$ を満たす。すなわち
$$
d\mid n\iff \text{すべての素数 }p\text{ について }v_p(d)\le v_p(n)
$$
である。$v_p$ を $p$ 進付値という。
$d\mid n$ は「すべての $p$ で $v_p(d)\le v_p(n)$」と同値なので、$n$ の正の約数は指数の組 $(v_p(d))_p$ と 1 対 1 に対応する。「1 対 1」が一意性の使いどころで、異なる指数の組は $v_p$ の値が異なるので異なる数を表す。ex-upf-start-divisors の $36$ はこうして正当化される。
同じ理由で、$\gcd(a,b)$ の指数は $\min(v_p(a),v_p(b))$、$\operatorname{lcm}(a,b)$ の指数は $\max(v_p(a),v_p(b))$ である。$\min+\max$ は 2 数の和なので、$\gcd(a,b)\operatorname{lcm}(a,b)=ab$ も従う(ex-upf-start-gcd-lcm では $210\cdot6300=1260\cdot1050=1323000$)。
ex-upf-start-sqrt2 は $v_2(2b^2)=1+2v_2(b)$(奇数)と $v_2(a^2)=2v_2(a)$(偶数)が等しくなれないことである。同じ議論で、正の整数 $n$ が平方数でなければ $\sqrt n$ は無理数である(ある $p$ で $v_p(n)$ が奇数になるから)。
素因数分解の指数の偶奇を使う $\sqrt2$ の無理数性の証明は 実数とは何か:無理数の証明 で扱う。
正の偶数全体 $E=\{2,4,6,\dots\}$ は掛け算について閉じている。$E$ の中だけで考え、$E$ の 2 つの元の積に書けない $E$ の元を $E$ 素数 と呼ぶ。偶数 $n$ が $E$ の 2 元の積 $(2a)(2b)=4ab$ に書けるのは $4\mid n$ のときに限るので、$E$ 素数は $4$ で割り切れない偶数 $2,6,10,14,18,\dots$ である。
$E$ のどの元も $E$ 素数の積に書ける(thm-upf-existence と同じ最小反例の議論)。しかし
$$
60=2\cdot30=6\cdot10
$$
であり、$2,30,6,10$ はすべて $E$ 素数なので、$60$ は $E$ 素数への分解を 2 通りもつ。$E$ 素数 $6$ は $2\cdot30$ を($E$ の中で)割り切るが、$2$ も $30$ も割り切らない($30=6\cdot5$ の $5$ は $E$ に属さない)。つまり $E$ 素数は「分けられない」が「Euclid の性質」をもたず、その結果、一意性が破れる。$E$ には $1$ がなく、割り算の定理も $E$ の中では成り立たないので、thm-upf-euclid-lemma の証明が $E$ では働かない。
$\sqrt{-5}:=\sqrt5\,i$ とし、
$$
\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]:=\{a+b\sqrt{-5}\mid a,b\in\mathbb{Z}\}
$$
とおく。これは複素数の集合で、足し算・引き算・掛け算について閉じている($(a+b\sqrt{-5})(c+d\sqrt{-5})=(ac-5bd)+(ad+bc)\sqrt{-5}$)。この節と次の節では、このような「整数を含み、足し算・引き算・掛け算で閉じた複素数の集合」$R$ で、整数と同じ言葉を使う。$R$ の元 $\beta\ne0$ について、$\alpha=\beta\gamma$ となる $\gamma\in R$ があるとき $\beta\mid\alpha$ と書く。
$R$ を上のような複素数の集合とする。
$\mathbb{Z}$ では既約元は $\pm p$($p$ は素数)であり、thm-upf-euclid-lemma により既約元はすべて素元である。$R$ での「素因数分解の一意性」は、「$0$ でも単元でもない元は既約元の積に書け、その書き方は順序と単元倍を除いて一意」という形で述べる(単元倍を除くのは、$\mathbb{Z}$ でも $6=2\cdot3=(-2)(-3)$ となるからである)。
$\alpha=a+b\sqrt{-5}$ のノルムを $N(\alpha):=a^2+5b^2$ と定める。これは複素数としての絶対値の 2 乗 $|\alpha|^2$ に等しい。
$\alpha,\beta\in\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ について次が成り立つ。
1:$N(\alpha\beta)=|\alpha\beta|^2=|\alpha|^2|\beta|^2=N(\alpha)N(\beta)$ である。後半は $a^2+5b^2$ の形から明らか。
2:$\alpha\eta=1$ なら $N(\alpha)N(\eta)=N(1)=1$ で、どちらも正の整数なので $N(\alpha)=1$ である。$a^2+5b^2=1$ なら $b=0$、$a=\pm1$ であり、$\pm1$ は実際に単元である。
3:$b\ne0$ なら $a^2+5b^2\ge5$、$b=0$ なら $a^2$ は平方数で $2,3$ にならない。$\square$
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で
$$
6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})
$$
であり、次が成り立つ。
$(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})=1-(\sqrt{-5})^2=1+5=6$ である。
1:ノルムは $N(2)=4$、$N(3)=9$、$N(1\pm\sqrt{-5})=1+5=6$ である。これらのどれか $\pi$ が $\pi=\beta\gamma$ で $\beta,\gamma$ とも単元でないとすると、lem-upf-norm5 の 1・2 により $N(\beta),N(\gamma)\ge2$ かつ $N(\beta)N(\gamma)=N(\pi)\in\{4,9,6\}$ なので、$N(\beta)$ は $2$ か $3$ である。これは lem-upf-norm5 の 3 に反する。
2:単元は $\pm1$ だけなので、同伴な元はノルムが等しい。$N(2)=4$、$N(3)=9$ は $N(1\pm\sqrt{-5})=6$ と異なるので同伴でない。
3:$2\mid1+\sqrt{-5}$ なら $1+\sqrt{-5}=2(c+d\sqrt{-5})$ となる整数 $c,d$ があり、実部を比べて $2c=1$ となって矛盾する。$1-\sqrt{-5}$ も同様である。$\square$
一方、分解の存在は $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ でも成り立つ。$0$ でも単元でもない元 $\alpha$ が既約元でなければ、$\alpha=\beta\gamma$($\beta,\gamma$ は単元でない)と書けて $N(\beta),N(\gamma)< N(\alpha)$ となるので、ノルムについての帰納法(thm-upf-existence と同じ議論)で既約元の積に書ける。崩れるのは一意性だけである。
$\mathbb{Z}$ で Euclid の補題を支えた割り算の定理が、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では成り立たない。
1:$q=x+y\sqrt{-5}$ とすると $r=(1-2x)+(1-2y)\sqrt{-5}$ で、$1-2x$、$1-2y$ は奇数なので $N(r)=(1-2x)^2+5(1-2y)^2\ge1+5=6$ である。
2:$\xi=a+b\sqrt{-5}$、$\eta=c+d\sqrt{-5}$ とすると
$$
2\xi+(1+\sqrt{-5})\eta=(2a+c-5d)+(2b+c+d)\sqrt{-5}
$$
であり、実部と $\sqrt{-5}$ の係数の差 $2a-2b-6d$ はつねに偶数である。$1=1+0\sqrt{-5}$ では差が $1$ で奇数なので、$1\notin I$ である。$I$ がある $\delta$ の倍数全体だとすると、$2\in I$ と $1+\sqrt{-5}\in I$ から $\delta\mid2$、$\delta\mid1+\sqrt{-5}$ であり、ノルムをとると $N(\delta)$ は $4$ と $6$ を割り切るので $N(\delta)\in\{1,2\}$ である。lem-upf-norm5 により $N(\delta)=1$、$\delta=\pm1$ となり、$I$ が $1$ を含むことになって矛盾する。$\square$
thm-upf-euclid-lemma の証明では、集合 $I$ の最小の元がすべての元を割り切ることを割り算の定理で示した。$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ ではこの一歩が失敗し、prop-upf-no-division の $I$ のように 1 つの元の倍数全体にならない集合が現れる。
$\mathbb{Z}[i]:=\{a+bi\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ の元を Gauss 整数 という(Gauss整数)。足し算・引き算・掛け算で閉じており、単元・既約元・素元・同伴は def-upf-irreducible の意味で使う。ノルムを $N(a+bi):=a^2+b^2=|a+bi|^2$ と定めると、lem-upf-norm5 と同じ証明で $N(\alpha\beta)=N(\alpha)N(\beta)$ であり、単元はノルム $1$ の元 $\pm1,\pm i$ の 4 つである。
この節では、$\mathbb{Z}[i]$ での一意性を $\mathbb{Z}$ と同じ筋道(割り算の定理 → Euclid の補題 → 一意性)で完全に証明する。証明しないのは既約元の分類(rem-upf-gaussian-primes)だけである。
$\alpha,\beta\in\mathbb{Z}[i]$、$\beta\ne0$ について、
$$
\alpha=\beta q+r,\qquad N(r)< N(\beta)
$$
を満たす $q,r\in\mathbb{Z}[i]$ が存在する。
複素数 $\alpha/\beta$ を $x+yi$($x,y$ は実数)と書き、$x,y$ に最も近い整数を $m,n$ とすると $|x-m|\le\frac12$、$|y-n|\le\frac12$ である。$q:=m+ni$、$r:=\alpha-\beta q$ とおくと $q,r\in\mathbb{Z}[i]$ であり、
$$
N(r)=|\beta|^2\Bigl|\frac\alpha\beta-q\Bigr|^2=N(\beta)\bigl((x-m)^2+(y-n)^2\bigr)\le N(\beta)\Bigl(\frac14+\frac14\Bigr)< N(\beta)
$$
である。$\square$
$\alpha=11+3i$、$\beta=1+2i$ では $\alpha/\beta=\frac{17}5-\frac{19}5i=3.4-3.8i$ なので $q=3-4i$ とし、$r=\alpha-\beta q=(11+3i)-(11+2i)=i$、$N(r)=1<5=N(\beta)$ である。
同じ丸めを $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で行うと、誤差のノルムは最大で $\frac14+5\cdot\frac14=\frac32$ となって $1$ を超えうる。格子点 $a+b\sqrt{-5}$ の並ぶ長方形が縦に長すぎて、最も近い格子点までの距離が十分小さくならない。これが prop-upf-no-division の幾何学的な理由である。
$\pi\in\mathbb{Z}[i]$ を既約元とする。$\pi\mid\alpha\beta$ ならば $\pi\mid\alpha$ または $\pi\mid\beta$ である。すなわち、$\mathbb{Z}[i]$ の既約元はすべて素元である。
$I:=\{\xi\in\mathbb{Z}[i]\mid \pi\mid\xi\beta\}$ とおく。thm-upf-euclid-lemma の証明と同様に、$I$ は足し算と $\mathbb{Z}[i]$ の元を掛けることで閉じており、$\pi\in I$、$\alpha\in I$ である。$I$ の $0$ でない元のうちノルムが最小のもの $\delta$ をとる(ノルムは正の整数なので整列性が使える)。$\xi\in I$ を thm-upf-gauss-division で $\xi=\delta q+r$、$N(r)< N(\delta)$ と割ると $r=\xi-q\delta\in I$ であり、最小性から $r=0$ である。よって $\delta$ は $I$ のすべての元を割り切り、特に $\delta\mid\pi$、$\delta\mid\alpha$ である。
$\pi=\delta\gamma$ と書くと、$\pi$ は既約元なので $\delta$ か $\gamma$ が単元である。$\gamma$ が単元なら $\delta=\gamma^{-1}\pi$ なので、$\delta\mid\alpha$ から $\pi\mid\alpha$ である。$\delta$ が単元なら $1=\delta^{-1}\delta\in I$ なので $\pi\mid\beta$ である。$\square$
$0$ でも単元でもない $\alpha\in\mathbb{Z}[i]$ は既約元の積に書ける。さらに、既約元 $\pi_1,\dots,\pi_r$、$\rho_1,\dots,\rho_s$ について $\pi_1\cdots\pi_r=\rho_1\cdots\rho_s$ ならば、$r=s$ であり、$\rho_j$ を並べ替えると各 $j$ について $\pi_j$ と $\rho_j$ は同伴である。
存在:$N(\alpha)$ についての帰納法で示す。$\alpha$ が既約元ならよい。そうでなければ $\alpha=\beta\gamma$($\beta,\gamma$ は単元でない)と書け、$N(\beta),N(\gamma)\ge2$ なので $N(\beta),N(\gamma)< N(\alpha)$ である。帰納法の仮定により $\beta,\gamma$ は既約元の積に書け、並べると $\alpha$ も既約元の積になる。
一意性:$r$ についての帰納法で示す。$r=0$ なら左辺は $1$ であり、既約元はノルムが $2$ 以上なので右辺も空の積で $s=0$ である。$r\ge1$ なら、$\pi_r\mid\rho_1\cdots\rho_s$ なので $s\ge1$ であり、thm-upf-gauss-euclid を繰り返し使うと(cor-upf-product の証明と同じ)$\pi_r\mid\rho_j$ となる $j$ がある。$\rho_j=\pi_r\gamma$ と書くと、$\rho_j$ は既約元で $\pi_r$ は単元でないので $\gamma$ は単元であり、$\pi_r$ と $\rho_j$ は同伴である。$\rho_j$ を最後に並べ替え、両辺を $\pi_r$ で割ると $\pi_1\cdots\pi_{r-1}=(\gamma\rho_1)\rho_2\cdots\rho_{s-1}$ となる($\gamma\rho_1$ は $\rho_1$ と同伴な既約元。$s=1$ なら右辺は単元 $\gamma$ で、$r-1=0$ でなければ左辺のノルムが $2$ 以上になって矛盾する)。帰納法の仮定により $r-1=s-1$ であり、並べ替えると残りも同伴どうしで対応する。$\square$
$5=(2+i)(2-i)=(1+2i)(1-2i)$ は一見 2 通りの分解だが、$1+2i=i(2-i)$、$1-2i=-i(2+i)$ なので、順序と単元倍を除いて同じ分解である。$2\pm i$ はノルム $5$(素数)なので既約元である(ノルムの積が $5$ なら一方のノルムは $1$)。同様に $65=(4+7i)(4-7i)=(1+8i)(1-8i)$ も、既約元まで分けると
$$
4+7i=(2+i)(3+2i),\qquad 1+8i=i(2+i)(3-2i)
$$
などとなり、どちらも $(2+i)(2-i)(3+2i)(3-2i)$ に単元を掛けたものである。
$\mathbb{Z}[i]$ の既約元は、単元倍を除いて次の 3 種類で尽くされることが知られている(本記事では証明しない。Cri24 Fact 14.1.5)。(a) $1+i$($2=-i(1+i)^2$)、(b) $4$ で割って $3$ 余る素数 $p$(たとえば $3$。実際 $a^2+b^2=3$ は解がないので $3$ は既約元である)、(c) $4$ で割って $1$ 余る素数 $p=a^2+b^2$ を割る $a\pm bi$(たとえば $5=(2+i)(2-i)$、$13=(3+2i)(3-2i)$)。(c) の「$p\equiv1\pmod4$ なら $p$ は 2 つの平方の和」は Fermatの二平方定理 であり、その証明の 1 つは thm-upf-gauss-ufd を使う。
ピタゴラス数の分類を Gauss 整数の素因数分解で見直す話は ピタゴラス数と円の有理点 で扱う。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 素数は $2$ 以上($1$ を除く) | 分解の個数 $r$ が決まる | ex-upf-one |
| Euclid の性質(素元であること) | 分解の一意性 | ex-upf-irreducible-not-prime、ex-upf-even |
| 割り算の定理 | イデアルは単項 | prop-upf-no-division |
$1$ を素数に含めると、$6=2\cdot3=1\cdot2\cdot3=1\cdot1\cdot2\cdot3=\cdots$ となり、thm-upf-uniqueness の結論「$r=s$」が破れる。定義で $p\ge2$ を要求するのはこのためである。$\mathbb{Z}[i]$ や $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で既約元の定義から単元を除くのも同じ理由である。
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の $2$ は既約元だが素元でない(prop-upf-six の 1・3)。偶数だけの世界の $6$ も同様である(ex-upf-even)。どちらも「分けられない」は満たすが「Euclid の性質」を満たさず、「既約元ならば素元」という含意が破れている。$\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}[i]$ でこの含意が成り立つのは、割り算の定理があるからである(thm-upf-euclid-lemma、thm-upf-gauss-euclid)。
thm-upf-uniqueness と thm-upf-gauss-ufd の一意性の証明で使ったのは、「既約元はすべて素元である」ことと、因数の個数についての帰納法だけである。逆に、既約元の積への分解が一意なら既約元は素元になる。実際、既約元 $\pi$ が $\beta\gamma$ を割り切り $\beta\gamma=\pi\delta$ とすると($\beta,\gamma,\delta$ のどれかが $0$ や単元の場合は直接確かめられる)、両辺を既約元に分解して比べれば、$\pi$ と同伴な既約元が $\beta$ か $\gamma$ の分解に現れ、$\pi\mid\beta$ または $\pi\mid\gamma$ となる。したがって分解が存在する世界では、「一意性」と「既約元がすべて素元」は同値である。
素数は無限に多く存在する。
有限個の素数 $p_1,\dots,p_k$ が与えられたとき、それ以外の素数があることを示せばよい。$M:=p_1p_2\cdots p_k+1\ge2$ とおくと、thm-upf-existence により $M$ はある素数 $q$ で割り切れる。$q=p_j$ とすると、$q$ は $M$ と $p_1\cdots p_k$ を割り切るので差の $1$ を割り切り、$q\ge2$ に反する。よって $q$ は $p_1,\dots,p_k$ のどれとも異なる。$\square$
$2\cdot3\cdot5\cdot7\cdot11\cdot13+1=30031=59\cdot509$ である。
この証明は分解の存在しか使っていない。一意性まで使うと、等式(Euler 積)
$$
\sum_{n=1}^{\infty}\frac1{n^s}=\prod_p\frac1{1-p^{-s}}\qquad(s>1)
$$
が得られ(右辺の各因子を等比級数 $1+p^{-s}+p^{-2s}+\cdots$ に展開して掛けると、一意性により各 $n^{-s}$ がちょうど 1 回ずつ現れる。収束の議論は省く)、ここから素数の逆数の和 $\sum_p1/p$ が発散することが導かれる(本記事では証明しない)。
集合 $\{n,n+1,\dots,n+5\}$ を、一方の数の積と他方の数の積が等しくなるように 2 つの組に分けられる正の整数 $n$ をすべて求めよ。
出典:国際数学オリンピック(1970 年)第 4 問 Oly70。筆者による和訳。答は「そのような $n$ はない」である。
そのような分け方 $A,B$ があり、$A$ の数の積と $B$ の数の積が等しいとする。
積が等しいことは、thm-upf-uniqueness により「すべての素数 $p$ について $v_p$ が等しい」ことと同値であり、$v_p$ は積を和に変える。したがって問題は、6 つの数の指数ベクトル $(v_2(x),v_3(x),v_5(x),v_7(x),\dots)$ を、和が等しい 2 組に分けられるか、という足し算の問題になる。ある素数 $p$ で $v_p(x)>0$ となる $x$ がちょうど 1 つなら、その座標で和が等しくなりえない。上の解法は、この「ちょうど 1 つ」を $p\ge7$ と $p=5$ について示したものである。偶数だけの世界のように一意性がない世界では、指数ベクトル自体が定まらず、この翻訳ができない。
Euclid『原論』第 VII 巻 命題 30 は Euclid の補題を、第 IX 巻 命題 20 は素数が無限にあることを述べている(Hea08)。一意性をはっきり定理として述べて証明したのは Gauss『Disquisitiones Arithmeticae』(1801)の第 16 条である(Gau01)。現代的な扱いは Ste17 §1.1–1.2($\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の $6$ の分解を含む)と Sho08 第 1 章にある。$\mathbb{Z}[i]$ の割り算の定理(ノルムが Euclid 的であること)は Cla25 Chapter 3 §4 による。
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