Leray–Hirschの定理

同義語:Leray-Hirschの定理Leray–Hirsch theoremルレイ・ハーシュの定理

概要

Leray–Hirschの定理(Leray–Hirsch theorem)とは、ファイバー束 $\pi\colon E\to M$ の全空間上の大域的なコホモロジー類 $e_1,\dots,e_r$ が、どのファイバーに制限してもファイバーのコホモロジーの基底になるなら、$\sum_j a_j\otimes e_j\mapsto\sum_j\pi^*a_j\wedge e_j$ が同型 $H^\bullet(M)\otimes\mathbb R\{e_1,\dots,e_r\}\cong H^\bullet(E)$ を与える、すなわち $H^\bullet(E)$ が $H^\bullet(M)$ 上の自由加群になるという定理である。積束では Künneth の公式になり、射影束では Chern 類の定義の土台になる。同型は加群としてのもので、環構造は積と異なりうる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ファイバー束, de Rhamコホモロジー, Mayer–Vietoris完全列, Künnethの公式

Leray–Hirsch の定理(Leray–Hirsch theorem)とは、ファイバー $F$ をもつファイバー束 $\pi\colon E\to M$ について、全空間 $E$ 上の大域的なコホモロジー類 $e_1,\dots,e_r$ で、どのファイバーに制限してもファイバーのコホモロジーの基底になるものがあれば、
$$ H^\bullet(E)\cong H^\bullet(M)\otimes\mathbb R\{e_1,\dots,e_r\}\cong H^\bullet(M)\otimes H^\bullet(F) $$
が成り立つ、すなわち $H^\bullet(E)$ は $H^\bullet(M)$ 上の自由加群で $e_1,\dots,e_r$ がその基底になる、という定理である。
積 $M\times F$ では、ファイバー $F$ への射影で $F$ の類を引き戻せば大域的な類が得られ、定理は Künnethの公式 になる。束がねじれていると大域的な類があるとは限らないが、あればコホモロジーは積と同じ大きさになる。複素ベクトル束の射影束では、トートロジー直線束の双対の第 1 Chern 類 $x$ の冪 $1,x,\dots,x^{n-1}$ が大域的な類を与え、$x^n$ を基底で展開した係数として Chern 類が定まる(Chern類 の定理「射影束のコホモロジー」)。
定理が与えるのは $H^\bullet(M)$ 加群としての同型であり、環の同型ではない。この記事では de Rham コホモロジーの場合に、良い被覆についての帰納法と 五項補題 による証明を完全に与え、射影空間の例で環構造が積と異なること、Hopf 束で大域的な類の仮定が外せないことを示す。

設定

多様体はすべて $C^\infty$ 級で、$H^\bullet$ は実係数の de Rham コホモロジー $H^\bullet_{dR}$ を表す。$C^\infty$ 級ファイバー束 $\pi\colon E\to M$ とは、多様体の間の $C^\infty$ 級写像で、$M$ の各点に開近傍 $U$ と微分同相 $\varphi\colon\pi^{-1}(U)\to U\times F$($\pi$ を第 1 成分への射影に写すもの、局所自明化)があるものである(位相的な定義は ファイバー束)。開集合 $U\subset M$ について $E_U:=\pi^{-1}(U)$、点 $x$ のファイバーを $E_x:=\pi^{-1}(x)$ と書く。
$H^\bullet(E)$ は、$a\cdot c:=\pi^*a\wedge c$($a\in H^\bullet(M)$、$c\in H^\bullet(E)$)によって次数付き $H^\bullet(M)$ 加群になる。

ファイバーの基底を与える大域的な類

$E$ 上の閉形式 $e_1,\dots,e_r$($e_j$ は $k_j$ 次)がファイバーの基底を与えるとは、どの点 $x\in M$ についても、制限した類 $[e_1|_{E_x}],\dots,[e_r|_{E_x}]$ が $H^\bullet(E_x)$ の基底であることをいう。このとき $V:=\mathbb R\{\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_r\}$ を $\varepsilon_j$ の次数が $k_j$ の次数付きベクトル空間とし、開集合 $U\subset M$ について
$$ \psi_U\colon H^\bullet(U)\otimes V\to H^\bullet(E_U),\qquad[a]\otimes\varepsilon_j\mapsto[\pi^*a\wedge e_j|_{E_U}] $$
と定める。次数 $n$ の部分は $\bigoplus_jH^{n-k_j}(U)\to H^n(E_U)$ である。

$\psi_U$ は矛盾なく定まる:$a$ が閉なら $\pi^*a\wedge e_j$ は閉で、$a=db$ なら $e_j$ が閉なので $\pi^*a\wedge e_j=d(\pi^*b\wedge e_j)$ である。$H^\bullet(E_x)\cong H^\bullet(F)$ なので、とくに $H^\bullet(F)$ は有限次元でなければならない。局所自明化 $E_U\cong U\times F$ の上では、連結な $U$ の 2 点 $x,y$ について $F\to U\times F$、$f\mapsto(x,f)$ と $f\mapsto(y,f)$ がホモトピックなので、基底であるという性質は $M$ の連結成分の上で一定である。したがって $M$ が連結なら 1 つのファイバーで確かめれば十分である。

束を自明化する有限の良い被覆

$M$ の有限の開被覆 $\mathfrak U=\{U_1,\dots,U_N\}$ が $\pi$ を自明化する有限の良い被覆であるとは、$\mathfrak U$ が良い被覆(空でない有限個の交わりがすべて $\mathbb R^{\dim M}$ と微分同相)で、各 $U_i$ の上に局所自明化 $E_{U_i}\cong U_i\times F$ があることをいう。

コンパクトな底空間

$M$ がコンパクトなら、$\pi$ を自明化する有限の良い被覆がある。

要点:局所自明化の開被覆を細分する良い被覆をとり、有限個を選ぶ。

証明を開く

局所自明化をもつ開集合の全体は $M$ の開被覆である。良い被覆はどの開被覆をも細分できる(BT82 Corollary 5.2、p. 43)ので、各元がある局所自明化の定義域に含まれる良い被覆 $\mathfrak U$ がある。局所自明化は小さい開集合へ制限しても局所自明化なので、$\mathfrak U$ の各元の上に局所自明化がある。$M$ はコンパクトなので $\mathfrak U$ から有限個を選んで覆え、良い被覆の部分族の交わりはもとの被覆の交わりなので、有限の部分族も良い被覆である。$\square$

定理と証明

Leray–Hirsch の定理

$\pi\colon E\to M$ をファイバー $F$ の $C^\infty$ 級ファイバー束とし、$M$ は $\pi$ を自明化する有限の良い被覆をもつ(たとえば $M$ がコンパクト)とする。$E$ 上の閉形式 $e_1,\dots,e_r$ がファイバーの基底を与えるなら、
$$ \psi_M\colon H^\bullet(M)\otimes V\to H^\bullet(E),\qquad\sum_j[a_j]\otimes\varepsilon_j\mapsto\sum_j[\pi^*a_j\wedge e_j] $$
は次数付きベクトル空間の同型である。言いかえると、$H^\bullet(E)$ は $H^\bullet(M)$ 上の自由加群で、$[e_1],\dots,[e_r]$ がその基底であり、$H^n(E)\cong\bigoplus_{j}H^{n-k_j}(M)$ である。

良い被覆についての帰納法

$\mathfrak U=\{U_1,\dots,U_N\}$ を $\pi$ を自明化する有限の良い被覆とする。$U=\emptyset$ なら $H^\bullet(\emptyset)=0$ なので $\psi_\emptyset$ は同型である。
第 1 段:1 つの交わり.$W$ を $\mathfrak U$ の元の空でない有限個の交わりとする。$W$ は $\mathbb R^m$($m=\dim M$)と微分同相であり、$W\subset U_i$ となる $U_i$ の局所自明化を制限して微分同相 $\varphi\colon E_W\to W\times F$ を得る。点 $x\in W$ を 1 つ固定し、$j\colon F\to W\times F$、$f\mapsto(x,f)$ と $p\colon W\times F\to F$ を射影とする。$p\circ j=\mathrm{id}_F$ であり、$W$ を $\mathbb R^m$ と同一視して $H_t(y,f):=((1-t)x+ty,f)$ とおくと、$j\circ p$ は $\mathrm{id}_{W\times F}$ に $C^\infty$ 級ホモトピックである。de Rham コホモロジーのホモトピー不変性(de Rhamコホモロジー の系「ホモトピー不変性と Poincaré の補題」)により $j^*$ と $p^*$ は互いに逆な同型であり、ファイバーの包含 $i_x=\varphi^{-1}\circ j\colon F\cong E_x\hookrightarrow E_W$ は同型 $i_x^*\colon H^\bullet(E_W)\to H^\bullet(E_x)$ を誘導する。一方 Poincaré の補題(同じ系の 2)により $H^\bullet(W)$ は $0$ 次の $\mathbb R$(定数関数)だけなので、$\psi_W$ は $\varepsilon_j\mapsto[e_j|_{E_W}]$ で与えられ、
$$ i_x^*\circ\psi_W\colon V\to H^\bullet(E_x),\qquad\varepsilon_j\mapsto[e_j|_{E_x}] $$
は仮定により同型である。$i_x^*$ が同型なので $\psi_W$ も同型である。
第 2 段:Mayer–Vietoris の梯子.$U,U'\subset M$ を開集合とする。$E_{U\cup U'}=E_U\cup E_{U'}$、$E_U\cap E_{U'}=E_{U\cap U'}$ なので、$U\cup U'$ の Mayer–Vietoris 完全列に $V$ をテンソルした列(ベクトル空間とのテンソル積は完全性を保つ)と、$E_{U\cup U'}$ の Mayer–Vietoris 完全列が、$\psi$ を縦の写像として並ぶ:
$$ \xymatrix{ H^{\bullet}(U\cup U')\otimes V \ar[r] \ar[d]^{\psi} & (H^{\bullet}(U)\oplus H^{\bullet}(U'))\otimes V \ar[r] \ar[d]^{\psi\oplus\psi} & H^{\bullet}(U\cap U')\otimes V \ar[r]^{d^*} \ar[d]^{\psi} & H^{\bullet+1}(U\cup U')\otimes V \ar[d]^{\psi} \\ H^{\bullet}(E_{U\cup U'}) \ar[r] & H^{\bullet}(E_U)\oplus H^{\bullet}(E_{U'}) \ar[r] & H^{\bullet}(E_{U\cap U'}) \ar[r]^{d^*} & H^{\bullet+1}(E_{U\cup U'}) } $$
制限写像の四角形は、$\pi^*$ と外積が制限と可換なので可換である。連結準同型 $d^*$ の四角形を確かめる。$U\cup U'$ 上で $U,U'$ に従属する 1 の分割 $\{\rho,\rho'\}$ をとると、$U\cap U'$ 上の閉形式 $\omega$ について $d^*[\omega]$ は、$U$ 上で $-d(\rho'\omega)$、$U'$ 上で $d(\rho\omega)$ となる大域的な閉形式 $\xi$ の類である($\rho'\omega$ は $U$ 上へ、$\rho\omega$ は $U'$ 上へ $0$ で延ばす)。$E_{U\cup U'}$ の側では $\{\pi^*\rho,\pi^*\rho'\}$ が $E_U,E_{U'}$ に従属する 1 の分割なので、$d^*[\pi^*\omega\wedge e_j]$ は $E_U$ 上で
$$ -d\bigl(\pi^*(\rho'\omega)\wedge e_j\bigr)=-\pi^*d(\rho'\omega)\wedge e_j=\pi^*\xi\wedge e_j $$
($e_j$ が閉なので)となり、$E_{U'}$ 上でも同様に $\pi^*\xi\wedge e_j$ である。よって $d^*\psi([\omega]\otimes\varepsilon_j)=\psi(d^*[\omega]\otimes\varepsilon_j)$ で、梯子は可換である。したがって $\psi_U$、$\psi_{U'}$、$\psi_{U\cap U'}$ が同型なら、五項補題(五項補題)により $\psi_{U\cup U'}$ も同型である。
第 3 段:帰納法.$k\ge1$ について、次の主張 $P(k)$ を示す:$\mathfrak U$ の元の空でない有限個の交わり $W_1,\dots,W_l$($l\le k$)について、$\psi_{W_1\cup\cdots\cup W_l}$ は同型である。$P(1)$ は第 1 段である。$P(k)$ を仮定し、$A:=W_1\cup\cdots\cup W_k$、$B:=W_{k+1}$ とする。$A\cap B=\bigcup_{i\le k}(W_i\cap W_{k+1})$ であり、各 $W_i\cap W_{k+1}$ は空であるか、$\mathfrak U$ の元の空でない有限個の交わりである。空のものを除くと $A\cap B$ は高々 $k$ 個の交わりの和(または空集合)なので、$P(k)$ と第 1 段から $\psi_A$、$\psi_B$、$\psi_{A\cap B}$ は同型であり、第 2 段により $\psi_{A\cup B}$ も同型である。よって $P(k+1)$ が成り立つ。$M=U_1\cup\cdots\cup U_N$ に $P(N)$ を当てはめて、$\psi_M$ は同型である。$\square$

これは BT82 Theorem 5.11(p. 50)である。同書は Mayer–Vietoris の議論で Künneth の公式 (5.9) を示し(pp. 47–50)、Leray–Hirsch の定理は同じ議論で得られるとしている。上の証明はその議論を束の場合に書き下したものである。

de Rham コホモロジーの Künneth の公式

$M$ が有限の良い被覆をもち、$F$ の de Rham コホモロジーが有限次元なら、$[a]\otimes[b]\mapsto[\mathrm{pr}_M^*a\wedge\mathrm{pr}_F^*b]$ は同型
$$ H^\bullet(M)\otimes H^\bullet(F)\xrightarrow{\ \cong\ }H^\bullet(M\times F) $$
を与える。

$\mathrm{pr}_M\colon M\times F\to M$ はどの開集合の上でも自明な束なので、$M$ の有限の良い被覆はこの束を自明化する。$H^\bullet(F)$ の基底を代表する閉形式 $b_1,\dots,b_r$ をとり、$e_j:=\mathrm{pr}_F^*b_j$ とおくと、ファイバー $\{x\}\times F$ への制限は $b_j$ そのものなので、$e_1,\dots,e_r$ はファイバーの基底を与える。thm-lh-main の $\psi_M$ は $V\cong H^\bullet(F)$ のもとで主張の写像に一致する。$\square$

Künnethの公式 の記事は特異コホモロジーの Künneth の公式を体係数で扱っており、de Rhamの定理 によりこの系はその実係数の場合と一致する。

特異コホモロジーと一般の係数

特異コホモロジーでは、底空間に有限性の仮定を置かずに同じ形の定理が成り立つ:可換環 $R$ について、各 $H^n(F;R)$ が有限生成の自由 $R$ 加群で、全空間の類 $c_j$ のファイバーへの制限が各ファイバーで $H^\bullet(F;R)$ の基底になるなら、$\sum b_i\otimes i^*(c_j)\mapsto\sum p^*(b_i)\smile c_j$ は $R$ 加群の同型 $H^\bullet(B;R)\otimes_RH^\bullet(F;R)\to H^\bullet(E;R)$ である(Hat02 Theorem 4D.1、p. 432。この記事では証明しない)。整数係数の Künneth の公式は$H^\bullet(M)\otimes H^\bullet(F)$ の形では一般に成り立たない($H^\bullet(F)$ にねじれがあるとき)が、Leray–Hirsch の定理はファイバーのコホモロジーが自由加群であることを仮定しているので、この記事の Mayer–Vietoris の議論がそのまま通る(BT82 p. 193 の注意)。

例

積

自明な束 $M\times F\to M$ では $e_j=\mathrm{pr}_F^*b_j$ がつねにファイバーの基底を与え、cor-lh-kunneth になる。たとえば $M=S^2$、$F=S^1$ なら $H^\bullet(S^2\times S^1)$ は次数 $0,1,2,3$ でどれも $\mathbb R$ であり、基底は $1$、$\mathrm{pr}_F^*[d\theta/2\pi]$、$\mathrm{pr}_M^*[\sigma]$、$\mathrm{pr}_M^*[\sigma]\wedge\mathrm{pr}_F^*[d\theta/2\pi]$($\sigma$ は $\int_{S^2}\sigma=1$ の 2 形式)である。

射影束

$\rho\colon E\to M$ を階数 $n$ の複素ベクトル束、$\pi\colon P(E)\to M$ をファイバーが $E_x$ の中の直線の全体 $P(E_x)\cong\mathbb{CP}^{n-1}$ である射影束(射影束)、$S\subset\pi^{-1}E$ をトートロジー直線束とし、$x:=c_1(S^*)\in H^2(P(E))$ とおく。$S$ のファイバー $P(E_x)$ への制限は $\mathbb{CP}^{n-1}$ のトートロジー直線束なので、$x$ の制限は $H^\bullet(\mathbb{CP}^{n-1})=\mathbb R[h]/(h^n)$ の生成元 $h$ であり、$1,x,\dots,x^{n-1}$ はファイバーの基底を与える。thm-lh-main により $H^\bullet(P(E))$ は $H^\bullet(M)$ 上 $1,x,\dots,x^{n-1}$ を基底とする自由加群であり、$x^n$ を基底で一意に展開した関係式
$$ x^n+c_1(E)\,x^{n-1}+\cdots+c_n(E)=0,\qquad c_i(E)\in H^{2i}(M) $$
の係数を $E$ の Chern 類と定める。このとき $H^\bullet(P(E))=H^\bullet(M)[x]/(x^n+c_1(E)x^{n-1}+\cdots+c_n(E))$ である(BT82 (20.6)・(20.7)、p. 270。整数係数の特異コホモロジーでの同じ議論は Chern類 の定理「射影束のコホモロジー」と定義「射影束公式によるChern類」)。この例では $x$ の定義に第 1 Chern 類の理論を使うので、ここでは結論だけを述べる。

次の例は、Leray–Hirsch の定理が加群の同型しか与えないことを、証明付きで示す。

複素射影空間 $\mathbb{CP}^3$ を $S^4$ 上の束とみる

$\mathbb C^4$ を四元数の空間 $\mathbb H^2$ と同一視し、複素数のスカラー倍を $\mathbb H$ の右からの掛け算で与える。複素直線 $\ell\subset\mathbb C^4$ に四元数直線 $\ell\mathbb H$ を対応させる写像 $\pi\colon\mathbb{CP}^3\to\mathbb{HP}^1\cong S^4$ は、ファイバーが四元数直線 $L\cong\mathbb C^2$ の中の複素直線の全体 $P(L)\cong\mathbb{CP}^1$ である $C^\infty$ 級ファイバー束である(第 1 成分が $0$ でない四元数直線 $(1,q)\mathbb H$ の全体 $U\cong\mathbb H$ の上では、$U\times\mathbb{CP}^1\to\pi^{-1}(U)$、$(q,h\mathbb C)\mapsto(h,qh)\mathbb C$ が微分同相で局所自明化を与え、第 2 成分の側も同様である。Hat02 §4.2 Exercise 35、p. 392 は一般に $S^2\to\mathbb{CP}^{2n+1}\to\mathbb{HP}^n$ を束として与える)。各ファイバーは $\mathbb{CP}^3$ の中の射影直線である。
$\omega_{\mathrm{FS}}$ を Fubini–Study 形式とし、$x:=[\omega_{\mathrm{FS}}/\pi]\in H^2(\mathbb{CP}^3)$ とおく(Fubini–Study計量)。ユニタリ変換で射影直線は $\{x_2=x_3=0\}$ に移り、$\omega_{\mathrm{FS}}$ はユニタリ変換で不変(同記事の命題「ユニタリ群による不変性と一意性」)で、$\{x_2=x_3=0\}\cong\mathbb{CP}^1$ への制限は $\mathbb{CP}^1$ の Fubini–Study 形式である。同記事の命題「体積」により $\int_{\mathbb{CP}^1}\omega_{\mathrm{FS}}/\pi=1$ なので、$1,x$ はファイバーの基底を与える。$S^4$ はコンパクトなので thm-lh-main が当てはまり、
$$ H^\bullet(\mathbb{CP}^3)\cong H^\bullet(S^4)\otimes\mathbb R\{1,x\} $$
である。とくに $H^k(\mathbb{CP}^3)$ は $k=0,2,4,6$ で $\mathbb R$、ほかで $0$ である。
一方、同じ命題により $\int_{\mathbb{CP}^3}(\omega_{\mathrm{FS}}/\pi)^3=1$ なので $x^3\ne0$、とくに $x^2\ne0$ である。$H^4(\mathbb{CP}^3)=\pi^*H^4(S^4)\cdot1\oplus\pi^*H^2(S^4)\cdot x=\pi^*H^4(S^4)$ なので、$x^2=\pi^*u$ となる $0$ でない $u\in H^4(S^4)$ がある。ところが積 $S^4\times\mathbb{CP}^1$ のコホモロジー環 $H^\bullet(S^4)\otimes H^\bullet(\mathbb{CP}^1)$ では、2 次の類は $1\otimes h$ の実数倍で、その 2 乗は $1\otimes h^2=0$ である。したがって $H^\bullet(\mathbb{CP}^3)$ と $H^\bullet(S^4)\otimes H^\bullet(\mathbb{CP}^1)$ は次数付きベクトル空間(さらに $H^\bullet(S^4)$ 加群)として同型だが、環として同型でない。関係式 $x^2=\pi^*u$ が、射影束の例の Chern 類の関係式にあたる「ねじれ」である(Hat02 p. 251 は同じ加法構造をもつ $S^2\times S^4$ と $\mathbb{CP}^3$ を比べ、§4.D Exercise 1、p. 447 はこの束の引き戻しで 2 次の生成元の 2 乗が任意の倍数になる例を与えている)。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
大域的な類がファイバーの基底を与えるHopf 束 $S^1\to S^3\to S^2$$H^\bullet(E)\cong H^\bullet(M)\otimes H^\bullet(F)$(次数 1)
(結論を環の同型まで強める)$\mathbb{CP}^3\to S^4$(ex-lh-twistor)環としての同型
ファイバーのコホモロジーが有限次元(基底が有限個)と、底空間の有限の良い被覆(両方を同時に外す)$M=F=\mathbb Z$(可算個の点)の積 $M\times F\to M$$\psi_M$ の全射性

Hopf 束.$S^3\subset\mathbb C^2$ から $\mathbb{CP}^1\cong S^2$ への写像 $z\mapsto[z]$ は、ファイバーが円周 $S^1$ の $C^\infty$ 級ファイバー束である($[w:1]$ の近くでは $([w:1],\lambda)\mapsto\lambda(w,1)/\sqrt{1+|w|^2}$($|\lambda|=1$)が局所自明化を与え、$[1:w]$ の側も同様。Hat02 Example 4.45、p. 377)。$n\ge2$ なら $H^1(S^n)=0$ である:北極と南極を除いた 2 つの開集合 $U,U'$ はどちらも $\mathbb R^n$ と微分同相で、$U\cap U'\cong S^{n-1}\times\mathbb R$ は連結なので、Mayer–Vietoris 完全列 $H^0(U)\oplus H^0(U')\to H^0(U\cap U')\to H^1(S^n)\to H^1(U)\oplus H^1(U')=0$ の最初の写像は全射で、$H^1(S^n)=0$ となる。したがって $S^3$ 上の閉 1 形式は完全で、ファイバー $S^1$ への制限も完全であり、$H^1(S^1)=\mathbb R$ の基底を与える大域的な類は存在しない。実際、結論も成り立たない:$H^1(S^3)=0$ だが、$H^\bullet(S^2)\otimes H^\bullet(S^1)$ の次数 1 の部分は $H^0(S^2)\otimes H^1(S^1)=\mathbb R$ である。束がねじれていることが、ファイバーの 1 次の類を全空間へ延ばせないことに現れている。
有限性.$\mathbb Z$ を 0 次元の多様体とみると、$H^0(\mathbb Z)$ は $\mathbb Z$ 上の実数値関数全体 $\mathbb R^{\mathbb Z}$ で、$\psi_M\colon\mathbb R^{\mathbb Z}\otimes\mathbb R^{\mathbb Z}\to\mathbb R^{\mathbb Z\times\mathbb Z}$ は $a\otimes b\mapsto((i,j)\mapsto a(i)b(j))$ である。$N$ 個の項の和 $\sum_{k=1}^Na_k\otimes b_k$ の像は、階数が $N$ 以下の「行列」$(i,j)\mapsto\sum_ka_k(i)b_k(j)$ なので、対角成分だけが $1$ の関数 $(i,j)\mapsto\delta_{ij}$(階数が無限)は像に入らない。基底が有限個という仮定と、底空間の有限の良い被覆の仮定の両方が外れている。片方だけを外しても結論は崩れない:底空間が有限の良い被覆をもてば thm-lh-main の証明は $e_j$ が無限個でもそのまま通り、ファイバーのコホモロジーが有限次元なら(たとえば $F$ を有限集合に替えると $\mathbb R^{\mathbb Z}\otimes\mathbb R^F=\mathbb R^{\mathbb Z\times F}$)同型になる。
基底の取り方.同型 $\psi_M$ は $e_1,\dots,e_r$ の選び方による。正の次数の $a\in H^\bullet(M)$ について $\pi^*a$ のファイバーへの制限は $0$ なので($\pi\circ i_x$ は定値写像)、$e_j$ に $\pi^*a$ の形の項を足してもファイバーの基底を与える。射影束の例で $x$ を $x+\pi^*a$($a\in H^2(M)$)に替えると、$1,x,\dots,x^{n-1}$ の代わりの基底が得られ、関係式の係数も変わる。Chern 類の定義で $x=c_1(S^*)$ と決めているのはこのためである。
スペクトル系列.大域的な類がない束のコホモロジーは、一般には Lerayスペクトル系列 で調べる。底空間が単連結で良い被覆をもち、ファイバーのコホモロジーが有限生成の自由加群なら、その $E_2$ 項は $H^\bullet(M)\otimes H^\bullet(F)$ である(BT82 Theorem 15.11、p. 192)。Hopf 束はこの形の $E_2$ 項をもつが、$E_2$ から先の微分が $0$ でない例になっている。

関連項目

参考文献

[1]
Raoul Bott, Loring W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Springer, 1982, §5 Corollary 5.2(p. 43、良い被覆の共終性)、Künneth の公式 (5.9)(pp. 47–50)、Theorem 5.11(p. 50、Leray–Hirsch の定理);§15 Theorem 15.11(p. 192)・整数係数についての注意(p. 193);§20 (20.6)・(20.7)(p. 270、射影束のコホモロジーと Chern 類)

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