Stokesの定理(Stokes' theorem)とは、向き付けられた $n$ 次元の境界付き多様体 $M$ と、コンパクトな台をもつ $(n-1)$ 次の微分形式 $\omega$ について $\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega$ が成り立つという定理である。境界 $\partial M$ には外向きの法線を先頭に置く規約で向きを入れる。$n=1$ では微分積分学の基本定理、平面では Green の定理、空間では発散定理と回転の定理になる。境界のないコンパクトな多様体では完全形式の積分が $0$ になるので、積分が $0$ でない閉形式は完全形式でないと分かり、de Rham コホモロジーを積分で調べる出発点になる。
閉区間 $[a,b]$ 上の滑らかな関数 $f$ について、微分積分学の基本定理は
$$
\int_a^bf'(x)\,dx=f(b)-f(a)
$$
を主張する。左辺は区間の内部全体にわたる積分であるのに、右辺は区間の境界である 2 点 $a,b$ での値だけで決まっている。平面でも同じことが起こる。単位円板 $D=\{x^2+y^2\le1\}$ の周を反時計回りに $(\cos t,\sin t)$($0\le t\le2\pi$)とたどると
$$
\oint_{\partial D}x\,dy=\int_0^{2\pi}\cos t\cdot\cos t\,dt=\pi
$$
であり、これは $D$ の面積 $\iint_D dx\,dy$ に等しい。空間の領域についての発散定理、曲面についての回転の定理も「内部での微分の積分は境界での積分に等しい」という同じ形をしている。
Stokesの定理(Stokes' theorem)は、これらを微分形式と外微分の言葉で 1 つの式
$$
\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega
$$
にまとめた定理である。ここで $M$ は向き付けられた境界付き多様体、$\partial M$ はその境界、$\omega$ はコンパクトな台をもつ $(\dim M-1)$ 次の微分形式である。外微分 $d$ と境界をとる操作 $\partial$ が積分を通じて互いの双対になっていることを述べており、de Rhamコホモロジーを位相の不変量として使うための出発点になる。この記事では、境界付き多様体・境界の向き・微分形式の積分を定義したうえで定理を証明し、古典的な積分定理を系として導く。
$n\ge1$ とし、$\mathbb{R}^n$ の座標を $x=(x^1,\dots,x^n)$ と書く。下半空間
$$
\mathbb{H}^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^1\le0\},\qquad\partial\mathbb{H}^n:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x^1=0\}
$$
を境界付き多様体の局所的なモデルにする。$x^1$ が境界から外へ向かって増えるように下半空間を選んだ(Nic26 §3.4.3 と同じ選び方)。
$\widetilde M$ を $n$ 次元の滑らかな多様体(可微分多様体。Hausdorff かつ第 2 可算)とする。閉集合 $M\subset\widetilde M$ が $n$ 次元の境界付き多様体(manifold with boundary)であるとは、$\widetilde M$ における $M$ の内点の全体 $M^\circ$ が空でなく、$M\setminus M^\circ$ の各点 $p$ に、$\widetilde M$ の局所座標 $(N;x^1,\dots,x^n)$(局所座標)で
$$
M\cap N=\{q\in N\mid x^1(q)\le0\}
$$
をみたすものがあることをいう。$\partial M:=M\setminus M^\circ$ を $M$ の 境界(boundary)、このような局所座標を $p$ のまわりの 境界座標 という。
$M$ 上の滑らかな $k$ 形式とは、$M$ を含む $\widetilde M$ のある開集合 $W$ の上の滑らかな $k$ 形式 $\widetilde\omega\in\Omega^k(W)$ を $M$ に制限したものをいい、その全体を $\Omega^k(M)$ と書く。$\omega\in\Omega^k(M)$ の 台 $\operatorname{supp}\omega$ は $\{p\in M\mid\omega_p\ne0\}$ の $M$ における閉包である。
境界座標 $(N;x)$ の中では $M^\circ\cap N=\{x^1<0\}$、$\partial M\cap N=\{x^1=0\}$ である。とくに $\partial M$ は、境界座標の残りの成分 $(x^2,\dots,x^n)$ を局所座標とする $(n-1)$ 次元の滑らかな多様体であり($n=1$ なら離散集合)、$\omega\in\Omega^k(M)$ に対し $d\omega:=(d\widetilde\omega)|_M$ は拡張 $\widetilde\omega$ の取り方によらない。
$x^1<0$ の点は開集合 $\{x^1<0\}\subset M$ に含まれるので $M^\circ$ に属し、$x^1=0$ の点はどの近傍も $x^1>0$ の点($M$ に属さない点)を含むので $M^\circ$ に属さない。これで 2 つの等式が分かる。とくに $M^\circ$ は $M$ の中で稠密であり、$d\widetilde\omega$ は $M^\circ$ の上では $\omega$ だけで決まり、$\partial M$ の上ではその極限として決まる。
外側の多様体 $\widetilde M$ を使わず、$\mathbb{H}^n$ の開集合への座標近傍だけで境界付き多様体を定義する流儀も多い。以下の議論は局所座標と 1 の分割しか使わないので、その流儀でも同じである。モデルを上半空間にとる流儀もある。
上半空間 $\{x^n\ge0\}$ をモデルにとる文献では、次の節の境界の向きを局所座標で書いたときに符号 $(-1)^n$ が現れる(Nic26 Exercise 3.4.23 は超平面 $x^i=0$ を $\{x^i\ge0\}$ の境界とみたときの向きが $(-1)^idx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n$ で与えられることを述べる)。どの流儀でも、次に述べる「外向きの法線を先頭に置く」という規約は同じである。
$n$ 次元の多様体 $X$ の 向き付け とは、座標変換の Jacobi行列の行列式がすべて正になる局所座標の族で $X$ を覆い、その族のどの局所座標とも正の行列式で結ばれる局所座標を「正の向き」と呼ぶことをいう(Nic26 Lemma 3.4.8 は、向き付け可能性がこのような被覆の存在と同値であることを述べる)。$\mathbb{R}^n$ には $(x^1,\dots,x^n)$ を正の向きとする標準の向きを入れる。
境界付き多様体 $M$ の内部 $M^\circ$ に向き付けを 1 つ固定したものを 向き付けられた境界付き多様体 という。境界座標 $(N;x)$ で $x(N)$ が立方体 $(-c,c)^n$ であるもの(境界座標は、$p$ の像が原点になるように $x^2,\dots,x^n$ を平行移動して縮めればこの形にできる)について、$M^\circ\cap N$ の上の $(x^1,\dots,x^n)$ が正の向きのとき、この境界座標は 正の向き であるという。
$n\ge2$ で正の向きでない境界座標があれば、$x^2$ を $-x^2$ に取り替えると正の向きになり、しかも $M\cap N=\{x^1\le0\}$ は保たれる。$x(N)$ が立方体なら $M^\circ\cap N$ は連結なので、境界座標は正の向きか、そうでないか(すべての点で行列式が負)のどちらかである。
$(N;x)$、$(N';y)$ を $p\in\partial M$ のまわりの正の向きの境界座標とし、$F:=y\circ x^{-1}$ を座標変換とする。$n\ge2$ のとき、$\partial M\cap N\cap N'$ の上で $(x^2,\dots,x^n)$ から $(y^2,\dots,y^n)$ への座標変換の Jacobi 行列式は正である。$n=1$ のとき、$\varepsilon_p$ は境界座標の取り方によらない。
要点:座標変換 $F:=y\circ x^{-1}$ は内部を内部へ、境界を境界へ写すので、境界上で Jacobi 行列はブロック三角 $DF=\begin{pmatrix}\partial_1F^1&0\\\ast&D'F'\end{pmatrix}$ になり、しかも $\partial_1F^1>0$ である。$D'F'$ は $(x^2,\dots,x^n)$ から $(y^2,\dots,y^n)$ への座標変換の Jacobi 行列なので、$\det DF>0$ から $\det D'F'>0$ が従う。
$F=(F^1,\dots,F^n)$ は $\widetilde M$ の座標変換なので、定義域の各点で $DF$ は正則である。境界座標の中で $M^\circ$ と $\partial M$ はそれぞれ $\{x^1<0\}$、$\{x^1=0\}$ と表されるから、$F$ は $\{x^1<0\}$ を $\{y^1<0\}$ に、$\{x^1=0\}$ を $\{y^1=0\}$ に写す。$x'=(x^2,\dots,x^n)$ と書くと、$F^1(0,x')=0$ がすべての $x'$ で成り立つので $\partial F^1/\partial x^j(0,x')=0$($j\ge2$)である。$t<0$ で $F^1(t,x')<0$ なので、差分商 $F^1(t,x')/t$ は分子も分母も負で正であり、$t\to-0$ の極限 $\partial_1F^1(0,x')$ は $0$ 以上である。したがって境界上の点で $DF$ は上のブロック三角の形で、$\det DF=\partial_1F^1\cdot\det D'F'$、$D'F'=(\partial F^i/\partial x^j)_{2\le i,j\le n}$ である。$\det DF\ne0$ なので $\partial_1F^1\ne0$、よって $\partial_1F^1>0$ である。両方の境界座標が正の向きなので $M^\circ$ 側で $\det DF>0$、連続性により境界上でも $\det DF\ge0$、正則性から $\det DF>0$ である。ゆえに $\det D'F'=\det DF/\partial_1F^1>0$ となる。
$n=1$ のときは $DF=\partial_1F^1$ で、上と同じ議論から境界点で $\partial_1F^1>0$ である。$x^1$ と $y^1$ の一方だけが正の向きなら $M^\circ$ 側で $\partial_1F^1<0$ となり、連続性から境界点で $\partial_1F^1\le0$ となって矛盾する。よって $x^1$ と $y^1$ は同時に正の向きか同時にそうでなく、$\varepsilon_p$ は一致する。$\square$
境界座標で $\partial/\partial x^1$ は $M$ の外へ向かう接ベクトルである。したがって誘導された向きは、「$T_p\partial M$ の基底 $(v_2,\dots,v_n)$ が正の向きであるのは、外向きの接ベクトル $\nu$ を先頭に置いた $(\nu,v_2,\dots,v_n)$ が $T_pM$ の正の向きの基底であるとき」と言い換えられる(Nic26 は "outer normal first" と呼ぶ)。たとえば平面の閉円板 $D$ の境界 $S^1$ では、点 $(1,0)$ で外向きの $\nu=(1,0)$ に対して $(\nu,v)$ が正の向きになるのは $v$ が $(0,1)$ の正の倍数のときなので、誘導された向きは反時計回りである。$\mathbb{R}^{n+1}$ の閉球体の境界としての $S^n$ の誘導された向きは $S^n$ の標準の向きと一致する(Nic26 Example 3.4.22)。閉区間 $[a,b]$ では $\varepsilon_b=+1$、$\varepsilon_a=-1$ である($b$ のまわりの境界座標 $x-b$ は正の向き、$a$ のまわりの $a-x$ は正の向きでない)。
円環の境界の誘導された向き
円環 $A=\{1\le x^2+y^2\le4\}$ では、外側の円周の外向きの法線は原点から遠ざかる向き、内側の円周の外向きの法線は原点へ向かう向きである。外向きの法線を先頭に置く規約から、外側の円周は反時計回り、内側の円周は時計回りに向き付けられる。どちらの円周でも、向きの方向に進むと $A$ は左側にある。
$M$ を向き付けられた $n$ 次元境界付き多様体、$\eta$ を $M$ 上の連続な係数をもつ $n$ 形式で台がコンパクトなものとする。
定義の値は局所座標と 1 の分割の選び方によらず、積分は $\eta$ について線形である。この記事ではこれを認めて使う。
1 の値が局所座標によらないのは、2 つの正の向きの局所座標 $x,y$ について $dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n=\det\bigl(\partial y^i/\partial x^j\bigr)\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$(微分形式 の命題「Riemann 体積形式は well-defined」の証明の中の式)であり、行列式が正なので、重積分の変数変換公式 $\int_{F(K)}g(y)\,dy=\int_Kg(F(x))\lvert\det DF(x)\rvert\,dx$($K$ はジョルダン可測なコンパクト集合、$F$ は $K$ を含む開集合上の単射な $C^1$ 級写像で $\det DF\ne0$。Leb26b Theorem 10.7.2。$K$ には、定義域に収まる有限個の直方体を台のまわりにとり、それぞれと半空間の共通部分をとる)の右辺の絶対値を外せるからである。2 の値が局所座標と 1 の分割の選び方によらないことは、2 組の選び方の積 $\rho_j\rho'_k$ を使って両方を同じ和に書き直す標準的な議論による(Nic26 §3.4.1–§3.4.2)。
$M$ を向き付けられた $n$ 次元($n\ge1$)の境界付き多様体とし、$\partial M$ に誘導された向きを入れる。$\omega\in\Omega^{n-1}(M)$ の台がコンパクトなら
$$
\int_Md\omega=\int_{\partial M}\iota^*\omega
$$
が成り立つ。ここで $\iota\colon\partial M\hookrightarrow M$ は包含写像で、$\iota^*\omega$ は $\omega$ の $\partial M$ への引き戻し(右辺は $\int_{\partial M}\omega$ と略記することが多い)である。$\partial M=\emptyset$ なら右辺は $0$ と約束する。$n=1$ のとき右辺は $\sum_{p\in\partial M}\varepsilon_p\,\omega(p)$ である。
証明は、下半空間の場合 lem-stokes-half-space を示したあと、1 の分割で一般の場合へ帰着する prf-stokes-main で与える。
この定理は 微分形式 の定理「Stokes の定理」、外微分 の定理「積分との関係(Stokes の定理)」と同じ主張であり(Nic26 Theorem 3.4.24 も同じ下半空間の規約で述べ、同じ筋で証明する)、この記事では境界の向きと積分を上のように定めて証明する。証明の核心は下半空間の場合で、そこでは Fubini の定理と 1 変数の微分積分学の基本定理しか使わない。
$f_1,\dots,f_n$ を $\mathbb{R}^n$ 上の台がコンパクトな $C^\infty$ 級関数とし、
$$
\omega=\sum_{i=1}^nf_i\,dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n
$$
とおく($\widehat{dx^i}$ はその因子を除くことを表す。$n=1$ では $\omega=f_1$ は関数)。このとき
外微分 の局所座標による定義から $d(f_i\,dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n)=\sum_m\partial_mf_i\,dx^m\wedge dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n$ であり、$m\ne i$ の項は $dx^m$ が 2 回現れるので $0$、$m=i$ の項は $dx^i$ を $i-1$ 個の因子の後ろへ移すと符号 $(-1)^{i-1}$ がつく。よって
$$
d\omega=\Bigl(\sum_{i=1}^n(-1)^{i-1}\frac{\partial f_i}{\partial x^i}\Bigr)dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n
$$
である。$R>0$ を、すべての $f_i$ の台が立方体 $(-R,R)^n$ に含まれるようにとる。
2 を示す。$\mathbb{H}^n$ 上の積分は直方体 $[-R,0]\times[-R,R]^{n-1}$ 上の積分であり、連続関数なので Fubini の定理(Leb26b Theorem 10.2.2)により好きな順に累次積分できる。$i\ge2$ の項は $x^i$ について先に積分すると、1 変数の微分積分学の基本定理により
$$
\int_{-R}^R\frac{\partial f_i}{\partial x^i}\,dx^i=f_i(\dots,R,\dots)-f_i(\dots,-R,\dots)=0
$$
となって消える。$i=1$ の項は $x^1$ について先に積分すると
$$
\int_{-R}^0\frac{\partial f_1}{\partial x^1}(x^1,x')\,dx^1=f_1(0,x')-f_1(-R,x')=f_1(0,x')\qquad(x'=(x^2,\dots,x^n))
$$
となる。よって $\int_{\mathbb{H}^n}d\omega=\int_{\mathbb{R}^{n-1}}f_1(0,x')\,dx'$ である。一方、$\partial\mathbb{H}^n$ の上では $x^1$ が定数なので $\iota^*dx^1=0$ であり、$i\ge2$ の項は $dx^1$ を含むから引き戻すと消えて
$$
\iota^*\omega=f_1(0,x')\,dx^2\wedge\cdots\wedge dx^n
$$
となる。$(x^2,\dots,x^n)$ は正の向きなので、定義により $\int_{\partial\mathbb{H}^n}\iota^*\omega=\int_{\mathbb{R}^{n-1}}f_1(0,x')\,dx'$ である。$n=1$ では $d\omega=f_1'\,dx^1$ で、$\int_{-R}^0f_1'=f_1(0)$、境界点 $0$ の符号は $x^1$ が正の向きなので $+1$ である。
1 は、$i=1$ の項も $x^1$ について $[-R,R]$ で積分すると $f_1(R,x')-f_1(-R,x')=0$ になることから、同じ計算で従う。$\square$
$K:=\operatorname{supp}\omega$ の各点に局所座標をとる。$M^\circ$ の点には $N\subset M^\circ$ である正の向きの局所座標をとり、$\partial M$ の点には境界座標をとる($n\ge2$ なら正の向きのものがとれる。$n=1$ で正の向きでない境界座標の場合は最後に扱う)。1 の分割により、$M$ の上で
$$
\omega=\sum_{k=1}^m\omega_k
$$
と、台がコンパクトでこれらの局所座標のどれか 1 つ $N_k$ に含まれる有限個の形式 $\omega_k\in\Omega^{n-1}(\widetilde M)$ の和に書ける。積分も $d$ も線形なので、両辺を各 $\omega_k$ について示せば足りる。
$\omega$ を $M$ を含む開集合 $W$ 上の $\widetilde\omega$ の制限とする。1の分割 の定理「滑らかな 1 の分割の存在」の後半により、$\widetilde M$ の滑らかな 1 の分割 $(\sigma_k)_k$ で、各 $\operatorname{supp}\sigma_k$ がコンパクトで、$\widetilde M\setminus K$ か、上の局所座標のどれか 1 つと $W$ との共通部分に含まれるものがある。台の族は局所有限で $K$ はコンパクトなので、$K$ と交わる $\operatorname{supp}\sigma_k$ は有限個 $k=1,\dots,m$ であり、これらは $\widetilde M\setminus K$ に含まれないので、それぞれ局所座標 $N_k$ と $W$ の共通部分に台をもつ。$K$ の上で $\sum_{k=1}^m\sigma_k=1$、$K$ の外で $\omega=0$ なので、$\omega_k:=\sigma_k\widetilde\omega$($0$ で延長して $\widetilde M$ 上の形式とみなす)とおけば $M$ の上で $\omega=\sum_{k=1}^m\omega_k$ である。
境界点 $p$ のまわりの境界座標 $(N;x^1)$($x(N)=(-c,c)$、$x^1(p)=0$)が正の向きでないとき、$u:=-x^1$ は $M^\circ\cap N$ の上で正の向きの座標で、$M\cap N$ は $0\le u< c$ にあたる。$\omega$ を $u$ の関数 $h(u)$ と書くと $d\omega=h'(u)\,du$ であり、$h$ は $u=c$ の近くで $0$ なので $\int_Md\omega=\int_0^ch'(u)\,du=-h(0)=-\omega(p)$ である。一方 $\varepsilon_p=-1$ なので右辺も $-\omega(p)$ である。
境界がなければ右辺は $0$ である。このことから、積分が「閉形式の中で完全形式を見分ける」道具になる。
$M$ を向き付けられた $n$ 次元の閉多様体(コンパクトで境界のない多様体)とする。
1 は $\partial M=\emptyset$ の場合の thm-stokes-main である。$\omega'=\omega+d\eta$ なら $\int_M\omega'=\int_M\omega$ なので、積分は de Rham コホモロジー類(de Rhamコホモロジー)だけで決まる。2 は局所座標ごとの $dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ を 1 の分割で貼り合わせて $\nu$ を作る。3 は $\gamma^*dg=d(g\circ\gamma)$ と 1 による。
2:$M$ はコンパクトなので正の向きの有限個の局所座標 $(N_j;x_j)$ で覆え、これに従属する滑らかな 1 の分割 $(\rho_j)$ がある。$\nu:=\sum_j\rho_j\,dx_j^1\wedge\cdots\wedge dx_j^n$(各項は $N_j$ の外で $0$ と延長する)とおく。正の向きの局所座標 $y$ で書くと、各項は $\rho_j\det(\partial x_j/\partial y)\,dy^1\wedge\cdots\wedge dy^n$ で係数は $0$ 以上、$\sum_j\rho_j=1$ なのでどこかの項の係数は正であり、$\nu$ の係数は正である。積分の定義の各項 $\int_M\rho_j\nu$ は $0$ 以上の連続関数の積分で、少なくとも 1 つは正なので $\int_M\nu>0$ である。1 により $\nu$ は完全形式でなく、$[\nu]\ne0$ である。
3:微分形式 の命題「引き戻しと外微分の可換性」により $\gamma^*dg=d(g\circ\gamma)$ であり、$S^1$ は閉多様体なので 1 から $0$ である。$\square$
3 から、$\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ 上の閉 1 形式 $\theta:=(-y\,dx+x\,dy)/(x^2+y^2)$(外微分 の例「原点を除いた平面の角度形式」)は完全形式でない。単位円周に沿う積分が $\int_0^{2\pi}(\sin^2t+\cos^2t)\,dt=2\pi\ne0$ だからである。2 により、$S^n$ やトーラスのような向き付けられた閉多様体の最高次の de Rham コホモロジーは $0$ でない。この考え方を鎖(特異単体の 1 次結合)に広げたものが de Rhamの定理 の定理「鎖に対する Stokes の定理」で、de Rham 準同型が余鎖写像になる理由である。
$\mathbb{R}^2$、$\mathbb{R}^3$ の中の境界付き多様体に thm-stokes-main を当てはめると、ベクトル解析の積分定理が得られる。以下、$\mathbb{R}^2$、$\mathbb{R}^3$ には標準の向きを、境界には誘導された向きを入れる。1 形式・2 形式とベクトル場の対応は 微分形式 の例「ベクトル解析の grad・rot・div」と注意「Stokes の定理の出典と古典的な形」にある。
いずれも thm-stokes-main に $d\omega$ の計算を代入したものである。1 は $M=[a,b]$、$\omega=f$ で、$d\omega=f'\,dx$、$\varepsilon_b=+1$、$\varepsilon_a=-1$ による。2 は $\omega=P\,dx+Q\,dy$ で $d\omega=(Q_x-P_y)\,dx\wedge dy$ であり、誘導された向きが「$D$ を左に見る向き」であることを使う。3 は $\omega=a\,dy\wedge dz+b\,dz\wedge dx+c\,dx\wedge dy$ で $d\omega=(a_x+b_y+c_z)\,dx\wedge dy\wedge dz$、4 は $d\omega$ を外微分の局所座標の式で計算し、$S$ への引き戻しが外微分と可換であることを使う。$\square$
境界の点で外向きの単位法線を $\nu$、誘導された向きの単位接ベクトルを $\tau$ とすると、$(\nu,\tau)$ は標準の向きの正規直交基底なので、$\tau$ は $\nu$ を $90^\circ$ 左に回したものである($\nu=(1,0)$ なら $\tau=(0,1)$)。$\tau$ の左側は $\tau$ をさらに $90^\circ$ 左に回した $-\nu$ の側、すなわち内側なので、$\tau$ の向きに進むと $D$ は左にある。
Green の定理は、Leb26b Theorem 10.6.4 では境界が区分的に滑らかな有界領域と $C^1$ 級の $P,Q$ について述べられており、多角形のように角がある領域にも使える。$P=-y/2$、$Q=x/2$ とすると $D$ の面積が $\frac12\oint_{\partial D}(x\,dy-y\,dx)$ と表され、多角形ではこれが 靴ひも公式 になる(同記事の注意「多角形では Green の定理=靴ひも公式」)。3・4 の左辺がそれぞれ法線方向の流束 $\iint_{\partial V}X\cdot n\,dS$、境界に沿う循環 $\oint_{\partial S}X\cdot d\boldsymbol{r}$ にあたることは 微分形式 の注意「Stokes の定理の出典と古典的な形」による。
単位球面 $S^2$ を閉球体 $B^3$ の境界として向き付けると、系の 3 で $a=x$、$b=c=0$ として
$$
\int_{S^2}x\,dy\wedge dz=\iiint_{B^3}dx\,dy\,dz=\frac{4\pi}{3}
$$
である(Nic26 Example 3.4.26)。球面座標で直接計算しても同じ値になる。
$x=\sin\varphi\cos\vartheta$、$y=\sin\varphi\sin\vartheta$、$z=\cos\varphi$($0<\varphi<\pi$、$0<\vartheta<2\pi$)とおくと、$dy\wedge dz=\sin^2\varphi\cos\vartheta\,d\varphi\wedge d\vartheta$ で、$x\,dy\wedge dz=\sin^3\varphi\cos^2\vartheta\,d\varphi\wedge d\vartheta$ である。点 $(1,0,0)$($\varphi=\pi/2$、$\vartheta=0$)で外向きの法線 $(1,0,0)$ と $\partial_\varphi=(0,0,-1)$、$\partial_\vartheta=(0,1,0)$ を並べた行列式は $1>0$ なので、$(\varphi,\vartheta)$ は誘導された向きについて正の向きである。この座標は $S^2$ から測度 $0$ の半円を除いた部分を覆うので、積分は $\int_0^{2\pi}\cos^2\vartheta\,d\vartheta\int_0^\pi\sin^3\varphi\,d\varphi=\pi\cdot\frac43=\frac{4\pi}{3}$ となる(Nic26 Example 3.4.14 と同じ計算)。
$\omega=-y\,dx+x\,dy+z\,dz$ とし、$C$ を平面 $z=3$ 上の半径 $a$ の円周を上から見て反時計回りにたどったものとする。$C$ に沿って $(a\cos t,a\sin t,3)$ とおくと $\int_C\omega=\int_0^{2\pi}a^2(\sin^2t+\cos^2t)\,dt=2\pi a^2$ である。一方 $d\omega=2\,dx\wedge dy$ なので、$C$ を境界にもつ水平な円板 $S_1$ では $\int_{S_1}d\omega=2\cdot\pi a^2$ と一致する。$C$ を同じ向きの境界にもつ別の曲面 $S_2$(たとえば上に膨らんだ半球面)でも、系の 4 から $\int_{S_2}d\omega=\int_C\omega=\int_{S_1}d\omega$ である。$d\omega$ の曲面上の積分は境界だけで決まる。
$U\subset\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ を開集合、$f$ を $U$ 上の正則関数で導関数が連続なものとし、$D\subset U$ をコンパクトな 2 次元境界付き多様体とする。複素数値の 1 形式 $f\,dz=f\,dx+if\,dy$ について、実部と虚部に系の 2 を使うと
$$
\oint_{\partial D}f\,dz=\iint_D\Bigl(i\frac{\partial f}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}\Bigr)dx\,dy=0
$$
である(Cauchy–Riemann の方程式 $\partial f/\partial y=i\,\partial f/\partial x$ による)。導関数の連続性を仮定しない形(Goursat の定理)と一般の閉曲線についての形は Cauchyの積分定理 にある。
円環 $A=\{1\le\lvert z\rvert\le2\}$ と $f(z)=1/z$ では、$\partial A$ は反時計回りの $\lvert z\rvert=2$ と時計回りの $\lvert z\rvert=1$ からなり(図の円環と同じ)、反時計回りの円周 $\lvert z\rvert=r$ に沿って $\oint dz/z=\int_0^{2\pi}i\,dt=2\pi i$ なので、$\oint_{\partial A}dz/z=2\pi i-2\pi i=0$ である。
thm-stokes-main の仮定を 1 つずつ外すと、次のように等式が崩れるか、意味をもたなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\omega$ が $M$ 全体で滑らか | 閉円板 $D$ と角度形式 $\theta=(-y\,dx+x\,dy)/(x^2+y^2)$ | $\int_Dd\theta=\int_{\partial D}\theta$(右辺は $2\pi$) |
| 台がコンパクト | $M=[0,\infty)$ と定数関数 $\omega=1$ | $\int_Md\omega=\int_{\partial M}\omega$(左辺 $0$、右辺 $-1$) |
| 境界の向きの規約 | $[a,b]$ に「内向きを先頭」の向きを入れる | 右辺の符号($f(a)-f(b)$ になる) |
| $M$ が向き付け可能 | Möbius の帯 | 両辺の積分がそもそも定義されない |
1 行目と 2 行目は両辺を計算すると食い違う例で、どちらも $\omega$ が閉形式($d\omega=0$)なのに境界上の積分が $0$ でない。3 行目は規約の、4 行目は積分の定義の問題である。
1. $\theta$ は原点で定義されず、係数 $-y/(x^2+y^2)$ は原点の近くで有界でないので、原点まで連続にすら延長できない。$D\setminus\{0\}$ の上では $d\theta=0$(外微分 の例「原点を除いた平面の角度形式」)なので「$\int_Dd\theta$」を $D\setminus\{0\}$ 上の積分と解釈すれば $0$ であり、反時計回りの $\partial D$ に沿う $\int_{\partial D}\theta=2\pi$ と一致しない。$M'=D\setminus\{0\}$ を $\widetilde M=\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ の中の境界付き多様体とみれば $\theta$ は $M'$ 上で滑らかだが、台 $M'$ がコンパクトでない。満たす性質は「$\theta$ は閉形式、$D$ はコンパクトで境界が滑らか」、満たさない性質は「$\theta\in\Omega^1(D)$」(あるいは「台がコンパクト」)であり、破れるのは定理の等式である。
2. $M=[0,\infty)\subset\mathbb{R}$ で、$0$ のまわりの境界座標は $x^1=-x$ であり、これは標準の向きについて正の向きでないので $\varepsilon_0=-1$ である。$\omega=1$ なら $d\omega=0$ で左辺は $0$、右辺は $\varepsilon_0\cdot1=-1$ である。台 $[0,\infty)$ がコンパクトでないことだけが破れている。実際、$0$ の近くで $1$ に等しく台がコンパクトな関数 $\psi$ に取り替えると $\int_0^\infty\psi'(x)\,dx=-\psi(0)=-1$ となって等式は成り立つ。
3. 境界の向きの規約を逆にすると $\varepsilon_a=+1$、$\varepsilon_b=-1$ となり、右辺は $f(a)-f(b)=-\int_a^bf'$ になる。等式が成り立つかどうかは規約に依存するので、規約(外向きの法線を先頭に置く)を定理の一部として明記する必要がある。
4. $n$ 形式の積分は向きを使って定義した(def-stokes-integral)。Möbius の帯のような向き付け不可能な曲面(Nic26 §3.4.2 の冒頭)では、局所座標ごとの積分が座標変換で符号を変えるので貼り合わせられず、左辺も右辺も定義されない。
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