コンパクト性定理(命題論理)(compactness theorem for propositional logic)とは、命題論理の論理式の集合 $\Sigma$ について、$\Sigma$ のどの有限部分集合も充足可能(同時に真にする付値がある)ならば $\Sigma$ 全体も充足可能である、という定理である。命題変数はいくつあってもよい。同値な形として、$\Sigma\models\varphi$ ならある有限部分集合 $\Sigma_0$ で $\Sigma_0\models\varphi$ となる。証明は、有限充足可能な集合を極大なものに広げ、そこに属する命題変数を真とする付値が全体を充足することによる。無限の対象の問題を有限の場合に帰着させる道具であり、無限の木の枝についての König の補題や、有限集合の無限族の結婚定理が従う。
無限に多くの条件を同時に満たせるかどうかは、一般には有限の手間では調べ尽くせない。ところが命題論理では、次の意味で「無限の問題が有限の問題に帰着する」。命題論理の論理式の集合 $\Sigma$ があって、そのどの有限部分集合も同時に真にできる(充足可能である)ならば、$\Sigma$ 全体も同時に真にできる。これが命題論理の コンパクト性定理 である。対偶をとれば、$\Sigma$ 全体を真にする付値がないとき、その原因はすでに有限個の論理式の中にある。
たとえば、無限に多くの頂点をもつ地図を $4$ 色で塗り分けたいとする。頂点 $a$ に色 $c$ を塗ることを命題変数 $p_{a,c}$ で表せば、「各頂点にちょうど 1 色」「隣り合う頂点は別の色」は論理式の集合で書ける。有限個の論理式は有限個の頂点しか話題にしないので、有限の部分地図がすべて塗り分けられれば、コンパクト性定理によって全体が塗り分けられる(グラフの彩色についてのこの主張と証明は コンパクト性定理(一階論理) の記事の命題「de Bruijn–Erdős の定理」にある)。本記事では、この定理を任意の個数の命題変数について証明し、その応用として、無限の木に無限に続く枝があること(König の補題)と、無限個の有限集合からなる族の結婚定理を証明する。
論理式・付値の定め方は 命題論理 の記事の定義「論理式」「付値と真理値」による。ただしここでは、命題変数の集合を任意の集合 $\mathrm{Var}$ とする(可算とは限らない)。論理式は、$\mathrm{Var}$ の元と記号 $\lnot,\land,\lor,\to,(,)$ から同じ規則で作る有限の記号列であり、写像 $v\colon\mathrm{Var}\to\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ を 付値 という。付値は同じ規則で論理式全体に一意に拡張される。論理式 $\varphi$ の値 $v(\varphi)$ は $\varphi$ に現れる有限個の命題変数での $v$ の値だけで決まる(命題論理 の記事の補題「現れる変数だけで値が決まる」。証明は $\mathrm{Var}$ の濃度によらない)。
$\Sigma$ を論理式の集合とする。
空集合はどの付値でも充足されるので、有限充足可能性の条件に意味があるのは空でない有限部分集合である。3 は 命題論理 の記事の定義「恒真式・充足可能性・論理的帰結」を $\mathrm{Var}$ が任意の場合に述べたものである。定義から直ちに、$\Sigma\models\varphi$ であることと、$\Sigma\cup\{\lnot\varphi\}$ が充足可能でないことは同値である($\Sigma$ を充足して $\varphi$ を $\mathrm{F}$ にする付値は、ちょうど $\Sigma\cup\{\lnot\varphi\}$ を充足する付値である)。
命題変数の集合 $\mathrm{Var}$ を任意にとる。論理式の集合 $\Sigma$ について、次は同値である。
この定理は、無限個の条件からなる問題を、有限個の条件についての問題に帰着させる道具である。有限個ずつならどれも矛盾なく満たせることが分かれば、全体も同時に満たせると結論できる。命題変数が可算個とは限らない場合にも成り立ち、2 から 1 の証明は有限充足可能な集合を極大なものまで広げる議論(選択公理を使う Zorn の補題)に基づく。$\Sigma$ が有限集合なら 2 と 1 は自明に同値なので、内容があるのは $\Sigma$ が無限集合の場合である。
1 から 2 は明らかである。$\Sigma$ を充足する付値は、$\Sigma$ のどの部分集合も充足する。内容があるのは 2 から 1 であり、証明は次の節で与える。論理的帰結について言い換えると次の形になる。
論理式の集合 $\Sigma$ と論理式 $\varphi$ について、$\Sigma\models\varphi$ であるための必要十分条件は、ある有限部分集合 $\Sigma_0\subset\Sigma$ で $\Sigma_0\models\varphi$ となることである。
$\Sigma_0\subset\Sigma$ で $\Sigma_0\models\varphi$ なら、$\Sigma$ を充足する付値は $\Sigma_0$ も充足するので $\varphi$ を $\mathrm{T}$ にし、$\Sigma\models\varphi$ である。
逆に $\Sigma\models\varphi$ とする。定義の直後に述べたことから $\Sigma\cup\{\lnot\varphi\}$ は充足可能でない。thm-propositional-compactness により、充足可能でない有限部分集合 $F\subset\Sigma\cup\{\lnot\varphi\}$ がある。$\Sigma_0:=F\cap\Sigma$ は $\Sigma$ の有限部分集合で、$F\subset\Sigma_0\cup\{\lnot\varphi\}$ なので $\Sigma_0\cup\{\lnot\varphi\}$ も充足可能でない。よって $\Sigma_0\models\varphi$ である。$\square$
有限充足可能性は「どの有限個の条件も両立する」という局所的な情報であり、充足可能性は「すべての条件を一度に満たす付値がある」という大域的な情報である。1 つの論理式は有限個の命題変数しか使わないので、局所的な両立をうまく貼り合わせれば大域的な付値が作れる。貼り合わせの方法は、論理式を 1 つずつ「真とする側」と「偽とする側」に振り分けていき、振り分けを最後まで(無限の場合は Zorn の補題で)押し通すことである。名前の「コンパクト」は位相空間のコンパクト性と同じ仕組みを指している。付値全体を積空間 $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^{\mathrm{Var}}$ とみると、有限充足可能性は閉集合族の有限交叉性にあたり、定理はこの空間のコンパクト性にあたる(rem-propositional-compactness-topology)。
命題変数 $p_0,p_1,p_2,\dots$ について
$$
\Sigma:=\{p_0\}\cup\{p_n\to p_{n+1}\mid n\ge0\}
$$
とおく。すべての $p_n$ を $\mathrm{T}$ にする付値が $\Sigma$ を充足する。各 $n$ について $\Sigma\models p_n$ であり、cor-propositional-compactness-consequence の有限部分集合として $\Sigma_0=\{p_0,\ p_0\to p_1,\dots,p_{n-1}\to p_n\}$ がとれる($\Sigma_0$ を充足する付値では $p_0,p_1,\dots,p_n$ が順に $\mathrm{T}$ になる)。必要な前提の個数は $n$ とともに増え、上限はない。帰結の有限性は「有限個で足りる」ことを保証するが、その個数を $\varphi$ によらずに抑えるものではない。
$\Sigma:=\{p_0\lor p_1\}\cup\{\lnot p_n\mid n\ge0\}$ は充足可能でない。$\Sigma$ を充足する付値では $v(p_0)=v(p_1)=\mathrm{F}$ なので $p_0\lor p_1$ が $\mathrm{F}$ になるからである。thm-propositional-compactness が保証する有限の証拠は $\Sigma_0=\{p_0\lor p_1,\lnot p_0,\lnot p_1\}$ で、実際この 3 つを同時に真にする付値はない。一方、$\Sigma$ から $\lnot p_0$ か $\lnot p_1$ を 1 つでも除いた有限部分集合は、除いた側の変数を $\mathrm{T}$ にすれば充足される。
定理の仮定と結論のどれを外すと崩れるかを表にまとめる。各行の確認は表の下の例で行う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| すべての有限部分集合が充足可能 | $\Sigma_k=\{p_1,\dots,p_k,\ \lnot(p_1\land\cdots\land p_k)\}$ | $k$ 元以下の部分集合がすべて充足可能なら全体も充足可能 |
| 論理式は有限の長さ | 無限の連言 $\bigwedge_{n}p_n$ を許した $\{p_n\mid n\ge0\}\cup\{\lnot\bigwedge_n p_n\}$ | 有限充足可能なら充足可能 |
| 選択原理($\mathsf{ZF}$ だけで考える) | $\omega$ 上に非主超フィルターがない $\mathsf{ZF}$ のモデル | 命題変数の個数を任意にしたコンパクト性定理 |
| 木が有限分岐(König の補題) | 根が無限個の子をもつ木 ex-propositional-compactness-infinite-branching | 無限の木に無限の枝がある |
| 各集合が有限(無限族の結婚定理) | Hallの結婚定理 の記事の例「反例:無限族では十分性が破れる」 | 有限部分族の Hall の条件から相異なる代表系 |
$k\ge1$ とし、$\Sigma_k:=\{p_1,\dots,p_k,\ \lnot(p_1\land\cdots\land p_k)\}$ とおく($k+1$ 個の論理式)。$\Sigma_k$ から 1 つ除いた $k$ 元の部分集合は充足可能である。$\lnot(p_1\land\cdots\land p_k)$ を除いたものはすべての $p_i$ を $\mathrm{T}$ にすれば充足され、$p_j$ を除いたものは $p_j$ だけを $\mathrm{F}$、ほかを $\mathrm{T}$ にすれば充足される。したがって $k$ 元以下の部分集合はすべて充足可能である。しかし $\Sigma_k$ 全体は、$p_1,\dots,p_k$ がすべて $\mathrm{T}$ なら最後の論理式が $\mathrm{F}$ になるので充足可能でない。満たす性質は「$k$ 元以下の部分集合がすべて充足可能」、満たさない性質は「充足可能」であり、定理の仮定の「すべての有限部分集合」を「大きさ $k$ 以下の部分集合」に弱めることはできない。
可算無限個の論理式の連言 $\bigwedge_{n\ge0}\varphi_n$ も論理式として認め、その値を「すべての $n$ で $v(\varphi_n)=\mathrm{T}$ のとき $\mathrm{T}$」と定める体系を考える。$\Sigma:=\{p_n\mid n\ge0\}\cup\{\lnot\bigwedge_{n\ge0}p_n\}$ とおく。$\Sigma$ の有限部分集合 $F$ に現れる $p_n$ は有限個なので、それらに現れない $p_N$ を 1 つとり、$p_N$ だけを $\mathrm{F}$、ほかの変数を $\mathrm{T}$ にする付値は $F$ を充足する($\bigwedge_n p_n$ は $\mathrm{F}$、その否定は $\mathrm{T}$ になる)。しかし $\Sigma$ 全体を充足するにはすべての $p_n$ が $\mathrm{T}$ でなければならず、そのとき $\lnot\bigwedge_n p_n$ は $\mathrm{F}$ である。満たす性質は「有限充足可能」、満たさない性質は「充足可能」である。通常の論理式が有限の記号列であることは、証明の中の lem-propositional-compactness-maximal-properties で本質的に使われる(同補題の証明の後の注意)。
表の 3 行目について。命題変数の個数を任意にしたコンパクト性定理は、$\mathsf{ZF}$ 上で Boole 素イデアル定理と同値である(Boole素イデアル定理 の記事の定理「Boole 素イデアル定理の同値な形」)。同じ記事の「反例:条件を外すと崩れること」の表の 5 行目にあるとおり、$\omega$ 上に非主超フィルターが存在しない $\mathsf{ZF}$ のモデルがあり、そこでは Boole 素イデアル定理が成り立たないので、この形のコンパクト性定理も成り立たない。したがって次節の証明で Zornの補題 を使うことは、単に便利だからではない。一方、命題変数が可算個なら選択公理はいらない(rem-propositional-compactness-countable)。4 行目と 5 行目は「応用」の節で扱う。
証明の筋は次のとおりである。有限充足可能な $\Sigma$ を、有限充足可能性を保ったまま、どの論理式 $\psi$ についても $\psi$ か $\lnot\psi$ の一方を含む集合 $\Delta$ まで大きくする。そのうえで「命題変数 $p$ を $\mathrm{T}$ にするのは $p\in\Delta$ のとき」と付値を決めると、その付値が $\Delta$ の元をちょうどすべて真にする。
$\Delta$ が有限充足可能で $\psi$ が論理式ならば、$\Delta\cup\{\psi\}$ と $\Delta\cup\{\lnot\psi\}$ の少なくとも一方は有限充足可能である。
どちらも有限充足可能でないと仮定する。$\Delta$ 自身は有限充足可能なので、$\Delta\cup\{\psi\}$ の充足可能でない有限部分集合は $\psi$ を含み、$F\cup\{\psi\}$($F\subset\Delta$ は有限)の形に書ける。同様に、有限集合 $G\subset\Delta$ で $G\cup\{\lnot\psi\}$ が充足可能でないものがある。$F\cup G$ は $\Delta$ の有限部分集合なので、これを充足する付値 $v$ がある。$v(\psi)=\mathrm{T}$ なら $v$ は $F\cup\{\psi\}$ を充足し、$v(\psi)=\mathrm{F}$ なら $v(\lnot\psi)=\mathrm{T}$ なので $v$ は $G\cup\{\lnot\psi\}$ を充足する。どちらも仮定に反する。$\square$
包含について極大な有限充足可能集合、すなわち有限充足可能で、真に大きいどの集合も有限充足可能でない集合 $\Delta$ を 極大有限充足可能集合 という。
有限充足可能な集合 $\Sigma$ は、ある極大有限充足可能集合 $\Delta$ に含まれる。
$\Sigma$ を含む有限充足可能な論理式の集合全体を $\mathcal P$ とし、包含関係で順序づける。$\Sigma\in\mathcal P$ なので $\mathcal P$ は空でない。
$\mathcal C\subset\mathcal P$ を鎖(どの 2 元も包含で比べられる部分集合)とする。$\mathcal C$ が空なら $\Sigma$ が上界である。$\mathcal C$ が空でないとき $U:=\bigcup\mathcal C$ とおく。$U$ の有限部分集合 $F=\{\theta_1,\dots,\theta_m\}$ をとると、各 $\theta_i$ はある $\Delta_i\in\mathcal C$ に属する。$\Delta_1,\dots,\Delta_m$ は包含で比べられるので、その中に最大のもの $\Delta_j$ があり、$F\subset\Delta_j$ である($m=0$ なら $F=\emptyset$ は充足可能)。$\Delta_j$ は有限充足可能なので $F$ は充足可能である。よって $U$ は有限充足可能で $\Sigma\subset U$ を満たし、$U\in\mathcal P$ は $\mathcal C$ の上界である。
Zornの補題 により $\mathcal P$ は極大元 $\Delta$ をもつ。$\Delta$ より真に大きい有限充足可能集合 $\Delta'$ があれば、$\Delta'\supset\Sigma$ なので $\Delta'\in\mathcal P$ となり、$\Delta$ の極大性に反する。よって $\Delta$ は極大有限充足可能集合である。$\square$
$\mathrm{Var}$ が可算なら、論理式は可算個の記号からなる有限列なので、論理式全体も可算であり、$\psi_0,\psi_1,\psi_2,\dots$ と番号を付けられる。$\Delta_0:=\Sigma$ とし、$\Delta_n\cup\{\psi_n\}$ が有限充足可能なら $\Delta_{n+1}:=\Delta_n\cup\{\psi_n\}$、そうでなければ $\Delta_{n+1}:=\Delta_n\cup\{\lnot\psi_n\}$ とおく。lem-propositional-compactness-dichotomy により、$\Delta_n$ が有限充足可能なら $\Delta_{n+1}$ も有限充足可能である。和集合 $\Delta:=\bigcup_n\Delta_n$ の有限部分集合はある $\Delta_n$ に含まれるので、$\Delta$ は有限充足可能であり、どの $\psi_n$ についても $\psi_n$ か $\lnot\psi_n$ を含む。$\Delta$ より真に大きい集合 $\Delta'$ は、$\Delta$ に属さない $\theta$ を含むが、そのとき $\lnot\theta\in\Delta\subset\Delta'$ なので $\{\theta,\lnot\theta\}\subset\Delta'$ となり、$\Delta'$ は有限充足可能でない。よって $\Delta$ は極大有限充足可能集合である。この構成は論理式の番号付けを 1 つ固定するだけで、選択公理を使わない。OLT26 §13.8 は、可算個の論理式を順に振り分けるこの形で命題論理のコンパクト性を直接示す方針を述べ(Lemma 13.11・Theorem 13.12、p. 193)、Lemma 13.11 の証明を演習としている(Problem 13.7、p. 194。無矛盾性についての同じ構成が Lemma 13.3 の証明、p. 190 にある)。
$\Delta$ を極大有限充足可能集合とし、$\psi,\chi$ を論理式とする。
1:両方が属すると、有限部分集合 $\{\psi,\lnot\psi\}$ が充足可能でない。lem-propositional-compactness-dichotomy により $\Delta\cup\{\psi\}$ か $\Delta\cup\{\lnot\psi\}$ は有限充足可能であり、$\Delta$ の極大性からその集合は $\Delta$ に等しいので、$\psi\in\Delta$ または $\lnot\psi\in\Delta$ である。
2:$\theta\notin\Delta$ なら 1 により $\lnot\theta\in\Delta$ である。$F\cup\{\lnot\theta\}$ は $\Delta$ の有限部分集合なので、これを充足する付値 $v$ がある。$v$ は $F$ を充足するので仮定から $v(\theta)=\mathrm{T}$ だが、$v(\lnot\theta)=\mathrm{T}$ と両立しない。
3:$\psi\land\chi\in\Delta$ なら、$F=\{\psi\land\chi\}$ を充足する付値は $\psi$ も $\chi$ も $\mathrm{T}$ にするので、2 により $\psi,\chi\in\Delta$ である。逆に $\psi,\chi\in\Delta$ なら $F=\{\psi,\chi\}$ に 2 を使えばよい。
4:$\psi\in\Delta$ なら $F=\{\psi\}$、$\chi\in\Delta$ なら $F=\{\chi\}$ に 2 を使えば $\psi\lor\chi\in\Delta$ である。逆に $\psi\lor\chi\in\Delta$ で $\psi,\chi$ がともに $\Delta$ に属さないとすると、1 により $\lnot\psi,\lnot\chi\in\Delta$ となり、有限部分集合 $\{\psi\lor\chi,\lnot\psi,\lnot\chi\}$ は充足可能でないので矛盾する。
5:$\psi\notin\Delta$ なら 1 により $\lnot\psi\in\Delta$ で、$F=\{\lnot\psi\}$ を充足する付値は $\psi\to\chi$ を $\mathrm{T}$ にする。$\chi\in\Delta$ なら $F=\{\chi\}$ で同様である。いずれも 2 により $\psi\to\chi\in\Delta$ である。逆に $\psi\to\chi\in\Delta$ かつ $\psi\in\Delta$ なら、$F=\{\psi,\psi\to\chi\}$ を充足する付値は $\chi$ を $\mathrm{T}$ にするので、2 により $\chi\in\Delta$ である。$\square$
3 の「$\psi,\chi\in\Delta$ なら $\psi\land\chi\in\Delta$」では、2 つの論理式からなる有限集合 $\{\psi,\chi\}$ を使った。無限の連言 $\bigwedge_n p_n$ に同じことをするには無限集合 $\{p_n\mid n\ge0\}$ が要り、2 が使えない。ex-propositional-compactness-infinitary で定理が崩れるのはこの箇所である。
2 から 1 を示す。$\Sigma$ を有限充足可能とし、lem-propositional-compactness-extension により $\Sigma\subset\Delta$ となる極大有限充足可能集合 $\Delta$ をとる。付値 $v_\Delta$ を
$$
v_\Delta(p)=\mathrm{T}\iff p\in\Delta\qquad(p\in\mathrm{Var})
$$
で定める。すべての論理式 $\varphi$ について
$$
v_\Delta(\varphi)=\mathrm{T}\iff\varphi\in\Delta
$$
であることを、論理式の組み立てに沿った帰納法で示す。命題変数では $v_\Delta$ の定義そのものである。$\varphi=\lnot\psi$ なら、$v_\Delta(\lnot\psi)=\mathrm{T}\iff v_\Delta(\psi)=\mathrm{F}\iff\psi\notin\Delta\iff\lnot\psi\in\Delta$ である(2 つ目は帰納法の仮定、3 つ目は lem-propositional-compactness-maximal-properties の 1)。$\varphi=\psi\land\chi$ なら
$$
v_\Delta(\psi\land\chi)=\mathrm{T}\iff v_\Delta(\psi)=v_\Delta(\chi)=\mathrm{T}\iff\psi\in\Delta\text{ かつ }\chi\in\Delta\iff\psi\land\chi\in\Delta
$$
であり、最後は同じ補題の 3 による。$\lor$ と $\to$ も、付値の規則と補題の 4・5 から同様である。
$\Sigma\subset\Delta$ なので、$\Sigma$ の元はすべて $v_\Delta$ で $\mathrm{T}$ になる。よって $\Sigma$ は充足可能である。1 から 2 は定理の直後に述べた。最後の主張は 2 から 1 の対偶である。$\square$
付値 $v_\Delta$ は $\Delta$ から一意に決まるが、$\Delta$ は一般に $\Sigma$ から一意には決まらない。ex-propositional-compactness-chain の $\Sigma$ は $p_0,p_1,\dots$ の値をすべて決めるが、$\Sigma$ に現れない変数 $q$ があれば、$q$ を含む極大集合と $\lnot q$ を含む極大集合の両方がある。
付値全体の集合 $V=\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^{\mathrm{Var}}$ に、2 点の離散空間の積位相を入れる。論理式 $\varphi$ を真にする付値の集合 $\mathrm{Mod}(\varphi)\subset V$ は、$\varphi$ に現れる有限個の変数の値の条件だけで決まるので、有限個の座標で決まる基本開集合の有限和であり、その補集合 $\mathrm{Mod}(\lnot\varphi)$ も同じ形なので閉集合でもある。$\Sigma$ が有限充足可能であることは、閉集合族 $\{\mathrm{Mod}(\varphi)\mid\varphi\in\Sigma\}$ が有限交叉性をもつことであり、充足可能であることはその共通部分が空でないことである。したがって、コンパクト性定理は $V$ のコンパクト性から従う。$V$ がコンパクトであることは Tychonoffの定理 の記事の系「立方体と Cantor 空間のコンパクト性」の形の主張である。
別の証明として、Boole素イデアル定理 の記事の定理「Boole 素イデアル定理の同値な形」の証明(3 ⇒ 4)は、$V$ 上の超フィルターによる「多数決」で付値を決める。また、各命題変数 $p$ を 1 項の関係記号 $P_p$ と 1 つの定数記号 $c$ による原子論理式 $P_p(c)$ に置き換えれば、付値と構造が対応し、この定理は コンパクト性定理(一階論理) の特別な場合である(命題論理 の記事の注意「他の証明体系とコンパクト性」)。
コンパクト性定理の使い方は決まった形をしている。無限の対象についての問題を、命題変数を「どれを選ぶか」の記録に使って論理式の集合 $\Sigma$ に書き直す。$\Sigma$ の有限部分集合は対象の有限部分しか話題にしないので、有限の場合の定理から充足可能であることが分かる。定理により $\Sigma$ 全体を充足する付値があり、それが無限の対象についての答えになる。書き直しでは、各論理式が有限個の命題変数しか使わないように注意する。以下の 2 つの応用では、そのために「有限分岐」「各集合が有限」という仮定が使われる。
集合 $A$ の元の有限列 $\sigma=(a_0,\dots,a_{n-1})$ の全体を $A^{<\omega}$ と書き、$n$ を $\sigma$ の長さ $\lvert\sigma\rvert$ という(長さ $0$ の空列 $()$ も含める)。$m\le\lvert\sigma\rvert$ について、$\sigma$ の最初の $m$ 項からなる列 $(a_0,\dots,a_{m-1})$ を $\sigma|m$ と書き、$\sigma$ の 始切片 という。
$A^{<\omega}$ の空でない部分集合 $T$ が始切片で閉じている($\sigma\in T$、$m\le\lvert\sigma\rvert$ なら $\sigma|m\in T$)とき、$T$ を 木 という。$T_n:=\{\sigma\in T\mid\lvert\sigma\rvert=n\}$ を第 $n$ 層という。$\sigma\in T_n$ について、$\tau|n=\sigma$ となる $\tau\in T_{n+1}$ を $\sigma$ の 子 という。どの $\sigma\in T$ も有限個の子しかもたないとき、$T$ は 有限分岐 であるという。無限列 $(a_0,a_1,a_2,\dots)$ で、すべての $n$ について $(a_0,\dots,a_{n-1})\in T$ となるものを $T$ の 無限の枝 という。
空列 $()$ を根とし、各 $\sigma$ をその子と辺で結べば、根付きの木(グラフ)が得られる。無限の枝は、根から出て終わりなく続く道にあたる。
無限集合である有限分岐の木 $T$ は、無限の枝をもつ。
段 1(各層は空でない有限集合)。$T_0=\{()\}$ であり、$T_{n+1}$ は $T_n$ の各元の子の集合の和集合なので、$T_n$ が有限なら有限分岐の仮定から $T_{n+1}$ も有限である。よって帰納法ですべての $T_n$ は有限である。ある $N$ で $T_N=\emptyset$ なら、$m\ge N$ の $\sigma\in T_m$ について $\sigma|N\in T_N$ となるので $T_m=\emptyset$ であり、$T=T_0\cup\cdots\cup T_{N-1}$ は有限集合になって仮定に反する。よってすべての $T_n$ は空でない。
段 2(論理式の集合)。$\sigma\in T$ ごとに命題変数 $q_\sigma$ を用意する(「$\sigma$ が求める枝の上にある」と読む)。$\Sigma$ を次の論理式全体とする。
$A=\mathbb N$ とし、$T$ を空列 $()$ と、長さ $k+1$ の列 $(n,0,\dots,0)$($n\in\mathbb N$、$0\le k\le n$、$0$ が $k$ 個)の全体とする。始切片で閉じているので木であり、無限集合で、どの層 $T_m$($m\ge1$)も空でない。しかし無限の枝 $(a_0,a_1,\dots)$ があれば、$a_0=n$ として長さ $n+2$ の列 $(a_0,\dots,a_{n+1})$ が $T$ に属さなければならないが、$n$ で始まる $T$ の列の長さは $n+1$ 以下なので矛盾する。よって無限の枝はない。満たす性質は「無限集合である木」、満たさない性質は「有限分岐」(根が無限個の子 $(n)$ をもつ)であり、破れるのは König の補題の結論である。証明の段 1 で $T_1$ が無限集合になり、段 2 の 1 が有限の論理式として書けなくなる。
有限個の集合からなる族については、Hallの結婚定理 の記事の定理「Hall の結婚定理」が、相異なる代表系(各集合から 1 つずつ、互いに異なる元を選んだもの)が存在するための必要十分条件を与える。コンパクト性定理を使うと、これを無限個の集合からなる族に広げられる。
$\Lambda$ を任意の集合、$(U_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を集合 $Y$ の有限部分集合の族とする。$\Lambda$ のすべての有限部分集合 $I$ について
$$
\Bigl\lvert\bigcup_{\lambda\in I}U_\lambda\Bigr\rvert\ge\lvert I\rvert
$$
が成り立つならば、単射 $f\colon\Lambda\to Y$ で、すべての $\lambda$ について $f(\lambda)\in U_\lambda$ となるものがある。
$\lambda\in\Lambda$ と $u\in U_\lambda$ の組ごとに命題変数 $r_{\lambda,u}$ を用意する(「$f(\lambda)=u$」と読む)。$I=\{\lambda\}$ に仮定を使えば $U_\lambda\ne\emptyset$ である。$\Sigma$ を次の論理式全体とする。
逆に、そのような単射 $f$ があれば、有限の $I$ について $f$ は $I$ を $\bigcup_{\lambda\in I}U_\lambda$ の中に単射で写すので、不等式が成り立つ。したがって、各 $U_\lambda$ が有限なら、有限部分族の Hall の条件と相異なる代表系の存在は同値である。これは Hallの結婚定理 の記事の注意「無限族の場合」が証明なしで述べている主張であり、上の証明はその 1 つの証明を与える。$\Lambda$ は非可算でもよいので、ここでは命題変数の個数を任意にしたコンパクト性定理を使っている。各 $U_\lambda$ が有限という仮定を外すと結論は成り立たない(Hallの結婚定理 の記事の例「反例:無限族では十分性が破れる」)。そのとき証明の 1 が無限の選言になり、論理式として書けない。
命題論理には、導出できる論理式と恒真式が一致する証明体系がある(命題論理 の記事の定理「健全性と完全性」)。証明は有限個の前提しか使わないので、完全な証明体系があれば、「$\Sigma\models\varphi$ なら、証明に使われた有限個の前提 $\Sigma_0$ について $\Sigma_0\models\varphi$」という形でコンパクト性が従う。ただし 命題論理 の記事の完全性定理は、前提が有限集合のシーケントについてのものである。無限の前提集合 $\Sigma$ について $\Sigma\models\varphi$ から導出を得る強い形の完全性は、それ自体がコンパクト性を含む主張である。Bil03 は可算個の命題変数の体系で、この強い形の完全性定理(Theorem 4.12)を述べたあとにコンパクト性定理(Theorem 4.13)を系として述べている(p. 16。証明の多くは演習として読者に委ねられている)。本記事の証明は、証明体系を経由せずに直接付値を作るものである。
コンパクト性定理(一階論理) は、有限部分集合がどれもモデルをもつ文の集合は全体としてもモデルをもつ、と述べる。一階論理ではモデルが付値ではなく構造なので、極大な集合から付値を読み取る代わりに、量化記号の証人を加えて項から構造を作るか、超積を使う必要がある。命題論理の場合は、変数ごとに真偽を決めるだけで済む。同じ「局所的な両立から大域的な対象へ」という原理が、一階論理では無限モデルや超準モデルの存在を導く(コンパクト性定理(一階論理) の記事の命題「任意に大きい有限モデルから無限モデルへ」)。
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