反復試行の確率

同義語:反復試行repeated trials

概要

反復試行の確率(repeated trials)とは、成功の確率が $p$($0<p<1$)の試行を、各回の結果が互いに独立になるように $n$ 回くり返すとき、成功がちょうど $k$ 回である確率が $\binom{n}{k}p^k(1-p)^{n-k}$ になることである。成功を $k$ 個、失敗を $n-k$ 個含む並び 1 つの確率は独立性により $p^k(1-p)^{n-k}$ で、そのような並びは $\binom{n}{k}$ 個あるので、確率は両者の積になる。$k=0,1,\dots,n$ についての和は二項定理により $1$ である。袋から戻さずに取り出すなど各回が独立でない場合や、各回の成功の確率が違う場合には、この式は成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 確率の定義と条件付き確率, 二項定理と組合せの恒等式

高校での出発点:同じ試行をくり返す

硬貨を何回か投げる、さいころを何回か投げる、同じ条件でシュートを何本か打つ。このように、同じ試行を、前の結果に影響されない形で何回もくり返すことを 反復試行 という。高校では、反復試行で「ちょうど $k$ 回起こる確率」を
$$ {}_n\mathrm{C}_k\,p^k(1-p)^{n-k} $$
で計算する。${}_n\mathrm{C}_k$ はこの記事では $\dbinom nk$ と書く(どちらも「$n$ 個から $k$ 個を選ぶ組合せの数」である)。まず、公式を使わずに数えてみる。

硬貨を 3 回投げて表がちょうど 2 回

硬貨を 3 回投げる。表を H、裏を T と書くと、結果の並びは
$$ HHH,\ HHT,\ HTH,\ HTT,\ THH,\ THT,\ TTH,\ TTT $$
の $2^3=8$ 通りで、どれも同じ確からしさで起こる。表がちょうど 2 回なのは $HHT$、$HTH$、$THH$ の 3 通りなので、確率は $\dfrac38$ である。
公式で計算すると、$n=3$、$k=2$、$p=\dfrac12$ として
$$ \binom32\left(\frac12\right)^2\left(\frac12\right)^1=3\cdot\frac18=\frac38 $$
となり、一致する。

さいころを 4 回投げて 6 がちょうど 1 回

さいころを 4 回投げて、6 の目がちょうど 1 回出る確率を求める。6 が出ることを「成功」、6 以外が出ることを「失敗」と呼ぶ。1 回ごとの成功の確率は $\dfrac16$、失敗の確率は $\dfrac56$ である。
6 が 1 回目だけに出る並び(成功・失敗・失敗・失敗)の確率は $\dfrac16\cdot\dfrac56\cdot\dfrac56\cdot\dfrac56=\dfrac{125}{1296}$ である。6 が 2 回目だけ、3 回目だけ、4 回目だけに出る並びも、掛ける順番が変わるだけで確率は同じ $\dfrac{125}{1296}$ である。6 が何回目に出るかの 4 通りは同時には起こらないので、足して
$$ 4\cdot\frac{125}{1296}=\frac{500}{1296}=\frac{125}{324}\approx0.386 $$
である。これは $\dbinom41\left(\dfrac16\right)^1\left(\dfrac56\right)^3$ に等しい。

ex-rt-die4 の計算は 2 つの部分からなる。「並び 1 つの確率」(掛け算)と「並びの個数」(組合せ)である。この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. 公式の $p^k(1-p)^{n-k}$ と $\dbinom nk$ は、それぞれ何を数えているのか。→ thm-rt-main
  2. $k=0,1,\dots,n$ の確率を全部足すと $1$ になるのはなぜか。→ prop-rt-sum
  3. 公式が使えるのはどんなときで、使えないのはどんなときか。→ ex-rt-without-replacement、ex-rt-varying-p
  4. 大学の確率論では、反復試行をどう定式化するのか。→ rem-rt-product-space
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    「独立な試行」の確率は掛ける並び 1 つの確率は $p^k(1-p)^{n-k}$直積の確率空間、独立性(確率論)
    何回目に成功するかを ${}_n\mathrm{C}_k$ 通り選ぶ並びの個数は $\dbinom nk$部分集合の個数、二項係数
    確率を足す同時に起こらない事象の和確率の加法性
    ${}_n\mathrm{C}_k\,p^k(1-p)^{n-k}$反復試行の確率二項分布 $B(n,p)$
    右と上だけで進む道順成功を右、失敗を上に対応させた経路最短経路の数え上げと鏡像原理

反復試行を定義する

1 回の試行の結果を「成功」と「失敗」の 2 つに分けて考える。成功を S、失敗を F と書く。さいころの例なら、6 の目を成功、それ以外を失敗とする。成功の確率を $p$ とし、失敗の確率を $q:=1-p$ とおく。以下、$0< p<1$ とする($p=0$ や $p=1$ の場合は rem-rt-endpoints で扱う)。
この試行を $n$ 回くり返した結果は、S と F を $n$ 個並べた列(並び)で表せる。たとえば $n=3$ で「成功、失敗、成功」なら $SFS$ である。並びは全部で $2^n$ 個ある。

反復試行

成功の確率が $p$、失敗の確率が $q=1-p$ の試行を、各回の結果が他の回の結果に影響しないように $n$ 回くり返すことを、この試行の 反復試行 という。その確率は、並び 1 つ 1 つに次の確率を割り当てることで定める:S を $k$ 個、F を $n-k$ 個含む並びの確率は、並びの各文字について S なら $p$、F なら $q$ を掛けた
$$ \underbrace{p\cdot p\cdots p}_{k\text{ 個}}\cdot\underbrace{q\cdot q\cdots q}_{n-k\text{ 個}}=p^kq^{n-k} $$
である。事象(並びの集まり)の確率は、その事象に入る並びの確率の和とする。

「影響しない」ことを確率の言葉で言うと、各回の試行が 独立 であるということである。高校では、独立な試行について「1 回目に $A$、2 回目に $B$ が起こる確率は $P(A)P(B)$」と掛け算で計算する(確率の定義と条件付き確率 の節「独立性」)。def-rt-repeated は、この掛け算を $n$ 回分くり返したものである。
成功 S の確率 p、失敗 F の確率 q の試行を 3 回くり返す樹形図。右端の並びの確率は枝の確率の積で、赤い枝は成功がちょうど 2 回の並び SSF、SFS、FSS に至る 成功 S の確率 p、失敗 F の確率 q の試行を 3 回くり返す樹形図。右端の並びの確率は枝の確率の積で、赤い枝は成功がちょうど 2 回の並び SSF、SFS、FSS に至る
図 1 は $n=3$ の樹形図である。1 本の枝をたどると並びが 1 つ決まり、その確率は通った枝の確率の積になる。

3 回の反復試行の並びの確率

$n=3$ とする。def-rt-repeated により
(1) $SFS$ の確率は $p\cdot q\cdot p=p^2q$。
(2) $SSF$ の確率は $p\cdot p\cdot q=p^2q$、$FSS$ の確率は $q\cdot p\cdot p=p^2q$。
(3) $FFF$ の確率は $q^3$。
(1) と (2) のように、S の個数が同じ並びは、S の位置が違っても確率が等しい。掛け算の順番を入れかえても積は変わらないからである。
$p=\dfrac16$(さいころで 6 が出る)なら、$SFS$ の確率は $\dfrac1{36}\cdot\dfrac56=\dfrac5{216}$、$FFF$ の確率は $\dfrac{125}{216}$ である。

def-rt-repeated で決めた確率が、「各回の成功の確率が $p$」という元の約束と合っていることを確かめておく。

各回の成功の確率は $p$

def-rt-repeated の確率で、「$i$ 回目が成功である」という事象の確率は $p$ である($i=1,2,\dots,n$)。

残りの回を $(p+q)$ の積にまとめる

方針:$i$ 回目が S の並びの確率を全部足し、$i$ 回目以外の回について和をまとめる。
段 1($n=2$、$i=1$ で試す)。1 回目が S の並びは $SS$、$SF$ で、確率の和は $p\cdot p+p\cdot q=p(p+q)=p\cdot1=p$ である。
段 2(一般の場合)。$i$ 回目が S の並びは、$i$ 回目以外の $n-1$ か所に S か F を自由に入れたものである。その確率は「$i$ 回目の $p$」と「残りの $n-1$ か所の各文字の確率($p$ か $q$)」の積である。これらを全部足した和は、展開すると
$$ p\cdot\underbrace{(p+q)(p+q)\cdots(p+q)}_{n-1\text{ 個}} $$
になる。$n-1$ 個の $(p+q)$ の積を展開すると、各かっこから $p$ か $q$ を 1 つずつ選んで掛けた項が、選び方(残りの $n-1$ か所への S・F の入れ方)ごとに 1 つずつ現れるからである。
段 3(計算)。$p+q=1$ なので、和は $p\cdot1^{n-1}=p$ である。$\square$

同じ計算で、「$i$ 回目が $A$、$j$ 回目が $B$」の確率が「$i$ 回目が $A$ の確率」と「$j$ 回目が $B$ の確率」の積になることも分かる。つまり def-rt-repeated のもとで、異なる回の結果についての事象は独立である。

主定理:ちょうど $k$ 回成功する確率

反復試行の確率

成功の確率が $p$($0< p<1$)の試行を $n$ 回くり返す反復試行で、成功がちょうど $k$ 回である確率は
$$ P_k=\binom nk p^k(1-p)^{n-k}\qquad(k=0,1,\dots,n) $$
である。

証明の前に、$n=3$、$k=2$ で同じ計算をしておく。

$n=3$、$k=2$ の場合

成功がちょうど 2 回の並びは、図 1 の赤い枝の先の $SSF$、$SFS$、$FSS$ の 3 つである。ex-rt-sequences により、どれも確率は $p^2q$ である。3 つの並びは同時には起こらないので、確率は
$$ p^2q+p^2q+p^2q=3p^2q $$
である。並びの個数 $3$ は、3 回のうち成功する 2 回を選ぶ方法の数 $\dbinom32=3$ である。$p=\dfrac12$ なら $3\cdot\dfrac18=\dfrac38$ で、ex-rt-coin3 と一致する。

並び 1 つの確率と並びの個数

方針:「成功がちょうど $k$ 回」という事象を、それに入る並びに分ける。並び 1 つの確率がすべて等しいことと、並びの個数を数えることの 2 段で計算する。
段 1(並び 1 つの確率)。成功がちょうど $k$ 回の並びは、S を $k$ 個、F を $n-k$ 個含む。def-rt-repeated により、その確率は S の位置によらず $p^kq^{n-k}$ である。
段 2(並びの個数)。S を $k$ 個、F を $n-k$ 個含む長さ $n$ の並びは、$n$ か所のうち S を置く $k$ か所を選べば決まる(残りの $n-k$ か所は F で埋まる)。異なる選び方からは異なる並びができ、どの並びもある選び方から得られる。よって並びの個数は、$n$ 個から $k$ 個を選ぶ組合せの数 $\dbinom nk$ である。
段 3(足し合わせる)。異なる並びは同時には起こらない(1 回の反復試行の結果は 1 つの並びである)。def-rt-repeated により、事象の確率はそれに入る並びの確率の和なので、
$$ P_k=\underbrace{p^kq^{n-k}+p^kq^{n-k}+\cdots+p^kq^{n-k}}_{\binom nk\text{ 個}}=\binom nk p^kq^{n-k} $$
である。$q=1-p$ なので、これは主張の式である。$\square$

証明の段 1 は「独立だから掛ける」、段 2 は「組合せの数」、段 3 は「同時に起こらないから足す」である。高校の公式の 2 つの因子 $\dbinom nk$ と $p^k(1-p)^{n-k}$ は、それぞれ段 2 と段 1 に対応している。

公式を使う
  1. 硬貨を 6 回投げて表がちょうど 3 回:$\dbinom63\left(\dfrac12\right)^3\left(\dfrac12\right)^3=\dfrac{20}{64}=\dfrac5{16}=0.3125$。
  2. 成功の確率 $0.4$ の試行を 5 回くり返して、ちょうど 2 回成功:
    $$ \binom52(0.4)^2(0.6)^3=10\cdot0.16\cdot0.216=0.3456 $$
  3. 同じ試行で成功が 0 回:$\dbinom50(0.4)^0(0.6)^5=1\cdot1\cdot0.07776=0.07776$。$\dbinom n0=1$、$p^0=1$ なので、$P_0=q^n$(全部失敗する確率)である。

成功の確率 0.4 の試行を 5 回くり返したとき、成功の回数 k = 0, 1, …, 5 の確率。6 本の棒の高さの和は 1 成功の確率 0.4 の試行を 5 回くり返したとき、成功の回数 k = 0, 1, …, 5 の確率。6 本の棒の高さの和は 1
図 2 は、(2)・(3) と同じ試行($n=5$、$p=0.4$)で、$k=0,1,\dots,5$ の確率を全部描いたものである。値は順に $0.07776$、$0.2592$、$0.3456$、$0.2304$、$0.0768$、$0.01024$ で、和はちょうど $1$ になる。確率が最大になるのは $k=2$ である。どの $k$ で最大になるかを一般に決める方法は、確率の最大 で扱う。

確率の和は $1$

確率の和

thm-rt-main の $P_0,P_1,\dots,P_n$ について
$$ P_0+P_1+\cdots+P_n=\sum_{k=0}^{n}\binom nk p^k(1-p)^{n-k}=1 $$
である。

二項定理

方針:和を二項定理の展開とみる。
段 1(二項定理)。二項定理により、実数 $a,b$ と正の整数 $n$ について
$$ (a+b)^n=\sum_{k=0}^{n}\binom nk a^kb^{n-k} $$
である(証明は 二項定理と組合せの恒等式)。
段 2(代入)。$a=p$、$b=1-p$ とおくと、右辺は求める和になり、左辺は $\bigl(p+(1-p)\bigr)^n=1^n=1$ である。$\square$

確率の側から見ると、成功の回数は $0,1,\dots,n$ のどれか 1 つに必ずなり、2 つの値を同時にとることはない。だから確率の和は $1$ でなければならない。prop-rt-sum はこのことを式で確かめたものであり、逆に読めば、二項定理の $a+b=1$ の場合の確率による説明にもなっている。

和が $1$ になることを数値で
  1. $n=3$:$P_0+P_1+P_2+P_3=q^3+3pq^2+3p^2q+p^3=(p+q)^3=1$。$p=\dfrac12$ なら $\dfrac18+\dfrac38+\dfrac38+\dfrac18=1$ である。
  2. $n=5$、$p=0.4$:図 2 の値を足すと $0.07776+0.2592+0.3456+0.2304+0.0768+0.01024=1$ である。

「少なくとも」「以上」は足すか引く

「ちょうど $k$ 回」の確率が分かれば、「$k$ 回以上」「少なくとも 1 回」の確率は、同時に起こらない事象の和として計算できる。

少なくとも 1 回

さいころを 4 回投げて、6 の目が少なくとも 1 回出る確率を求める。「少なくとも 1 回」の反対(余事象)は「1 回も出ない」で、その確率は thm-rt-main で $k=0$ として $\left(\dfrac56\right)^4=\dfrac{625}{1296}$ である。よって
$$ 1-\frac{625}{1296}=\frac{671}{1296}\approx0.518 $$
である。$P_1+P_2+P_3+P_4$ を 4 つ計算して足しても同じ値になるが、余事象を使えば 1 つの計算で済む。

以上

硬貨を 4 回投げて、表が 2 回以上出る確率は
$$ P_2+P_3+P_4=\binom42\frac1{16}+\binom43\frac1{16}+\binom44\frac1{16}=\frac{6+4+1}{16}=\frac{11}{16} $$
である。余事象(表が 0 回か 1 回)を使うと $1-\dfrac{1+4}{16}=\dfrac{11}{16}$ で、同じ値になる。

「$k$ 回以上」の確率は、偶然でどのくらい起こりやすいかを判断するときにも使う。仮説検定の考え方 では、硬貨を何回も投げて表が多く出たときに、この計算で「公平な硬貨でもそのくらい起こるか」を調べる。

並びを経路とみる

並びは、格子の上の道順とみることもできる。原点 $(0,0)$ から出発し、S なら右へ 1、F なら上へ 1 進む。$n$ 回の試行のあと、成功が $k$ 回なら点 $(k,\,n-k)$ に着く。
成功がちょうど 2 回の 3 つの並び SSF、SFS、FSS を、成功なら右へ、失敗なら上へ 1 進む経路で表したもの。どれも (2, 1) に着き、点線は 3 回の試行のあとに着く点を結んだ直線 x + y = 3 成功がちょうど 2 回の 3 つの並び SSF、SFS、FSS を、成功なら右へ、失敗なら上へ 1 進む経路で表したもの。どれも (2, 1) に着き、点線は 3 回の試行のあとに着く点を結んだ直線 x + y = 3
図 3 の 3 本の経路は、図 1 の赤い枝の 3 つの並びに対応している。この対応で、thm-rt-main の証明の段 2(並びの個数)は、「$(0,0)$ から $(k,\,n-k)$ へ右と上だけで進む経路の数は $\dbinom nk$」という事実と同じものになる。この事実と、経路に条件がつく場合の数え方は 最短経路の数え上げと鏡像原理 で扱う。同じ「並びと経路の対応」は、Catalan数(高校数学) でも使う。
経路で考えると、「途中の回までの結果」に条件がつく確率が計算しやすくなる。経路 1 本の確率は、右へ進む回数 $k$ と上へ進む回数 $n-k$ だけで決まり、$p^kq^{n-k}$ である。だから、条件をみたす経路の数を数えて $p^kq^{n-k}$ を掛ければよい。

3 回目の成功がちょうど 5 回目に起こる

成功の確率 $p$ の試行をくり返すとき、3 回目の成功がちょうど 5 回目の試行で起こる確率を求める。
これは「最初の 4 回で成功がちょうど 2 回」かつ「5 回目が成功」ということである。経路で言えば、$(0,0)$ から $(2,2)$ へ行き、最後に右へ 1 進んで $(3,2)$ に着く経路である。$(0,0)$ から $(2,2)$ への経路は $\dbinom42=6$ 本あり、どれも最後の 1 歩を加えると確率 $p^3q^2$ の経路になる。よって確率は
$$ \binom42p^3q^2=6p^3q^2 $$
である。$\dbinom52p^3q^2=10p^3q^2$(5 回で成功がちょうど 3 回)とは違う。$10-6=4$ 本の差は、5 回目が失敗の経路($SSSFF$ など、5 回目より前に 3 回目の成功が起こるもの)である。
$p=0.6$ なら $6\cdot0.216\cdot0.16=0.20736$ である。

先に 3 勝した方が勝つ

A と B が試合をくり返し、先に 3 勝した方を優勝とする。各試合で A が勝つ確率は $0.6$ で、引き分けはなく、試合の結果は互いに独立とする。A が優勝する確率を求める。
A が優勝するのは、A の 3 勝目が起こる試合で決まる。そのときまでの B の勝ち数を $j$ とすると $j=0,1,2$ で、A の 3 勝目は $3+j$ 試合目である。ex-rt-third-success と同じ考え方で、最初の $2+j$ 試合で A がちょうど 2 勝し、$3+j$ 試合目に A が勝つ確率は $\dbinom{2+j}{2}(0.6)^3(0.4)^j$ である。$j$ の違う場合は同時には起こらないので、
$$ (0.6)^3\left\{\binom22+\binom32(0.4)+\binom42(0.4)^2\right\}=0.216\,(1+1.2+0.96)=0.216\cdot3.16=0.68256 $$
である。1 試合の勝率 $0.6$ より、優勝の確率の方が大きい。

ex-rt-series の答えは、試合を最後まで 5 試合行ったと考えて、「5 試合で A が 3 勝以上」の確率 $P_3+P_4+P_5$($n=5$、$p=0.6$)としても求まる。優勝が決まったあとの試合の結果は、優勝者を変えないからである。実際、$P_3+P_4+P_5=0.3456+0.2592+0.07776=0.68256$ で一致する。

公式が使えるとき・使えないとき

thm-rt-main は、def-rt-repeated の 2 つの条件、(i) 各回の成功の確率が同じ $p$ であること、(ii) 各回の結果が独立であること、の上に成り立つ。この 2 つが成り立つかどうかで、よく出てくる場面を比べる。

場面各回の成功の確率独立かthm-rt-main が使えるか
硬貨・さいころを $n$ 回投げる同じ独立使える
袋から 1 個取り出して色を見て 戻す(復元抽出)を $n$ 回同じ独立使える
袋から 1 個ずつ 戻さずに 取り出す(非復元抽出)1 回目の結果で変わる独立でない使えない(ex-rt-without-replacement)
1 本目・2 本目・3 本目で成功の確率が違う違う独立そのままでは使えない(ex-rt-varying-p)
大きな母集団から少数を戻さずに選ぶほぼ同じほぼ独立近似として使える(ex-rt-large-population)

最後の行の「近似」は、正確な等式ではない。どのくらい近いかは ex-rt-large-population で数値で確かめる。標本の取り出し方と母集団の関係は 母集団と標本 で扱う。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
独立(戻さずに取り出す)赤 3 個・白 2 個から 3 個確率が $\dbinom nk p^kq^{n-k}$ になる
各回の $p$ が同じ成功の確率 $\frac12,\frac13,\frac14$ の 3 本並び 1 つの確率が S の個数だけで決まる
「ちょうど」と「以上」の区別硬貨 4 回で表 2 回「2 回以上」の確率が $P_2$ になる
反例:戻さずに取り出す

赤玉 3 個と白玉 2 個が入った袋から 1 個ずつ 3 個取り出す。赤玉を成功とする。
(1) 戻さずに取り出す場合。5 個から 3 個を選ぶ $\dbinom53=10$ 通りは同じ確からしさで起こり、赤がちょうど 2 個になるのは、赤 3 個から 2 個、白 2 個から 1 個を選ぶ $\dbinom32\dbinom21=6$ 通りである。確率は $\dfrac6{10}=\dfrac35=0.6$ である。
(2) thm-rt-main に $n=3$、$k=2$、$p=\dfrac35$ を入れると $\dbinom32\left(\dfrac35\right)^2\dfrac25=\dfrac{54}{125}=0.432$ で、(1) と違う。
(1) では、1 回目に赤が出ると袋の赤が減り、2 回目に赤が出る確率が $\dfrac24$ に下がる。1 回目に白が出ると $\dfrac34$ に上がる。2 回目の確率が 1 回目の結果で変わるので、独立ではない。このため thm-rt-main の証明の段 1(並び 1 つの確率が $p^kq^{n-k}$)が成り立たない。実際、赤・赤・白の順に出る確率は $\dfrac35\cdot\dfrac24\cdot\dfrac23=\dfrac15$ であり、$p^2q=\dfrac{18}{125}$ ではない。
(3) 戻してから次を取り出す場合は、毎回の袋の中身が同じなので def-rt-repeated の反復試行になり、確率は (2) の $0.432$ である。

反例:各回の成功の確率が違う

3 本のシュートを打ち、成功の確率が 1 本目 $\dfrac12$、2 本目 $\dfrac13$、3 本目 $\dfrac14$ で、結果は互いに独立とする。成功がちょうど 1 本の確率は、どれが成功かの 3 通りを足して
$$ \frac12\cdot\frac23\cdot\frac34+\frac12\cdot\frac13\cdot\frac34+\frac12\cdot\frac23\cdot\frac14=\frac{6}{24}+\frac{3}{24}+\frac{2}{24}=\frac{11}{24}\approx0.458 $$
である。3 つの項の値が違うのは、成功の確率が回ごとに違うので、並び 1 つの確率が S の位置で変わるからである。thm-rt-main の証明の段 1 が成り立たず、「並び 1 つの確率 $\times$ 並びの個数」の形にまとめられない。
成功の確率の平均 $\dfrac13\left(\dfrac12+\dfrac13+\dfrac14\right)=\dfrac{13}{36}$ を $p$ として公式に入れると $3\cdot\dfrac{13}{36}\left(\dfrac{23}{36}\right)^2=\dfrac{6877}{15552}\approx0.442$ で、正しい値 $\dfrac{11}{24}$ と違う。各回の確率が違うときは、並びごとに確率を掛けて足す。

反例:「ちょうど」と「以上」を取り違える

硬貨を 4 回投げて「表が 2 回以上」の確率は ex-rt-at-least-two により $\dfrac{11}{16}$ である。これを $\dbinom42\left(\dfrac12\right)^4=\dfrac6{16}$ と計算するのは誤りで、これは「ちょうど 2 回」の確率である。「以上」「少なくとも」は、ちょうどの確率の和か、余事象で計算する。

大きな母集団からの非復元抽出

赤玉 300 個と白玉 200 個(赤の割合 $\dfrac35$)の袋から、戻さずに 3 個取り出す。赤がちょうど 2 個の確率は
$$ \frac{\dbinom{300}{2}\dbinom{200}{1}}{\dbinom{500}{3}}=\frac{44850\cdot200}{20708500}\approx0.4332 $$
である。ex-rt-without-replacement の (2) の $0.432$ にかなり近い。取り出す個数に比べて袋の玉が十分多ければ、1 個取り出しても残りの赤の割合はほとんど変わらないので、thm-rt-main は近似として使える。ただし等式ではない。

$p=0$ と $p=1$ の場合

$p=0$(成功が決して起こらない)なら、成功の回数は必ず $0$ である。thm-rt-main の式でも、$0^0=1$ と約束すれば $P_0=\dbinom n0 0^0\,1^n=1$、$k\ge1$ なら $p^k=0$ で $P_k=0$ となり、正しい値を与える。$p=1$ も同じで、$P_n=1$、それ以外は $0$ である。$0^0=1$ の約束は、二項定理を $a=0$ や $b=0$ で使うときと同じものである。

演習

3 の倍数の目

さいころを 5 回投げて、3 の倍数の目(3 か 6)がちょうど 2 回出る確率を求めよ。

解答を開く

3 の倍数の目を成功とすると、成功の確率は $p=\dfrac26=\dfrac13$ である。さいころを投げる各回は独立で、成功の確率はいつも $\dfrac13$ なので、thm-rt-main が使える。$n=5$、$k=2$ として

$$\binom52\left(\frac13\right)^2\left(\frac23\right)^3=10\cdot\frac19\cdot\frac8{27}=\frac{80}{243}\approx0.329$$

である。

表が裏より多い

硬貨を 6 回投げて、表の回数が裏の回数より多くなる確率を求めよ。

解答を開く

表の回数を $k$ とすると裏の回数は $6-k$ で、表が多いのは $k>6-k$、つまり $k\ge4$ のときである。thm-rt-main で $p=\dfrac12$ とすると $P_k=\dbinom6k\dfrac1{64}$ なので、求める確率は

$$P_4+P_5+P_6=\frac{15+6+1}{64}=\frac{22}{64}=\frac{11}{32}$$

である。別の見方:表と裏を入れかえると「表が多い」と「裏が多い」が入れかわり、硬貨では両者の確率が等しい。「同数」($k=3$)の確率は $\dfrac{20}{64}$ なので、$\dfrac12\left(1-\dfrac{20}{64}\right)=\dfrac{22}{64}$ と求めることもできる。

大学数学で見る

直積の確率空間とBernoulli試行

大学の確率論では、1 回の試行を集合 $\Omega_1=\{S,F\}$ と確率 $P_1(\{S\})=p$、$P_1(\{F\})=q$ の組で表す。$n$ 回の反復試行は、直積集合
$$ \Omega=\Omega_1\times\Omega_1\times\cdots\times\Omega_1=\{S,F\}^n $$
(長さ $n$ の並び全体)の上の確率で、並び $(\omega_1,\dots,\omega_n)$ の確率を $P_1(\{\omega_1\})\cdots P_1(\{\omega_n\})$ と定めたものである。これを 直積の確率空間 という。def-rt-repeated はその具体的な形であり、prop-rt-marginal の計算は、直積の確率空間で各回の結果が独立になることの証明の一部である。成功の確率が一定の試行を独立にくり返すことを、Bernoulli 試行 という。
$i$ 回目が成功なら $1$、失敗なら $0$ をとる量を $X_i$ とすると、成功の回数は $X=X_1+X_2+\cdots+X_n$ と和で書ける。thm-rt-main は、$X$ の分布が 二項分布 $B(n,p)$ であることを述べている。和で書けることから、平均が $E[X]=E[X_1]+\cdots+E[X_n]=np$ となることがすぐに分かる(期待値の線形性と数え上げ)。分散 $np(1-p)$ と、$n$ が大きいときに分布が正規分布に近づくことは、二項分布から正規分布へ で扱う。

各回の確率が違うとき

ex-rt-varying-p のように、各回の成功の確率 $p_1,\dots,p_n$ が違っても、独立なら、成功の回数が $k$ である確率は、多項式
$$ (q_1+p_1t)(q_2+p_2t)\cdots(q_n+p_nt)\qquad(q_i=1-p_i) $$
を展開したときの $t^k$ の係数である。ex-rt-varying-p の数値では $\left(\frac12+\frac12t\right)\left(\frac23+\frac13t\right)\left(\frac34+\frac14t\right)$ の $t$ の係数が $\dfrac{11}{24}$ になる。すべての $p_i$ が等しい $p$ なら、この多項式は $(q+pt)^n$ で、二項定理により $t^k$ の係数は $\dbinom nk p^kq^{n-k}$ になる。確率を係数にもつ多項式(母関数)の考え方は 母関数:数列を関数として扱う で扱う。

さらに先へ

  • 成功の確率 $p$ の Bernoulli 試行の定義と、ちょうど $j$ 回成功する確率 $\dbinom nj p^jq^{n-j}$ の証明(樹形図の経路の確率を掛けて、経路の数を数える)は、GrS06 §3.2 の Definition 3.5 と Theorem 3.6(pp. 96–98)にある。
  • $n$ を大きくしたときの形は 二項分布から正規分布へ、$p$ が小さく $np$ が一定のときの極限は Poisson分布(高校数学) で扱う。確率を最大にする回数は 確率の最大 で扱う。
  • 結果が成功・失敗の 2 つではなく 3 つ以上ある試行(さいころの目を「1」「2 か 3」「4 以上」の 3 つに分けるなど)をくり返すときは、並びの個数が多項係数になり、二項係数の代わりに多項定理が現れる(同じものを含む順列と多項定理)。
  • 無限回くり返す試行(硬貨を限りなく投げ続ける)を扱うには、無限個の並びの集合の上の 確率空間 が必要になり、測度論の道具を使う。

関連項目

参考文献

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