三角形の合同条件

同義語:合同条件congruence criteria for triangles

概要

三角形の合同条件(congruence criteria for triangles)とは、2 つの三角形が合同である(対応する 3 辺と 3 つの角がすべて等しい)ことを、一部の量で判定する条件である:3 辺がそれぞれ等しい、2 辺とその間の角がそれぞれ等しい、1 辺とその両端の角がそれぞれ等しい。直角三角形では、斜辺と 1 つの鋭角、または斜辺と他の 1 辺が等しければ合同である。2 辺とその間の角の条件を出発点として認めると、二等辺三角形の底角が等しいこと(三角形を、頂点の順を入れかえた自分自身と比べる)を経て、3 辺の条件と 1 辺とその両端の角の条件は平行線公準を使わずに証明できる。2 辺とその間にない角や、3 つの角だけでは合同にならない。Hilbert の公理系では、2 辺とその間の角の条件(の弱い形)は合同の公理として置かれ、ほかの公理からは導けない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の内角の和, 余弦定理(高校数学)

高校での出発点:3 つの量で三角形が決まる

2 つの図形が、ずらしたり回したり裏返したりしてぴったり重なるとき、合同 であるという。中学校では、2 つの三角形は「3 組の辺がそれぞれ等しいとき」「2 組の辺とその間の角がそれぞれ等しいとき」「1 組の辺とその両端の角がそれぞれ等しいとき」合同になると習う。これが 三角形の合同条件 である。三角形には辺が 3 つ、角が 3 つあるが、合同条件は、そのうちの 3 つが等しければ残りの 3 つも自動的に等しくなる、と言っている。まず具体的な三角形で、それを確かめる。

3 辺から角が決まる

$A(0,0)$、$B(4,0)$、$C(1,3)$ を頂点とする三角形と、$A'(6,1)$、$B'(6,5)$、$C'(3,2)$ を頂点とする三角形を比べる。2 点間の距離の 2 乗を計算すると
$$ AB^2=16,\qquad BC^2=3^2+3^2=18,\qquad CA^2=1^2+3^2=10, $$
$$ A'B'^2=0^2+4^2=16,\qquad B'C'^2=3^2+3^2=18,\qquad C'A'^2=3^2+1^2=10 $$
で、3 組の辺がそれぞれ等しい($AB=4$、$BC=3\sqrt2$、$CA=\sqrt{10}$)。
角は辺だけから求められる。余弦定理(高校数学) により、長さ $a=BC$ の辺の向かいの角 $A$ は $\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$($b=CA$、$c=AB$)で、
$$ \cos A=\frac{10+16-18}{2\cdot\sqrt{10}\cdot4}=\frac{8}{8\sqrt{10}}=\frac1{\sqrt{10}},\qquad \cos B=\frac{18+16-10}{2\cdot3\sqrt2\cdot4}=\frac{24}{24\sqrt2}=\frac1{\sqrt2},\qquad \cos C=\frac{18+10-16}{2\cdot3\sqrt2\cdot\sqrt{10}}=\frac{12}{12\sqrt5}=\frac1{\sqrt5} $$
である。三角形 $A'B'C'$ でも、使う辺の長さが同じなので、同じ式から $\cos A'=\dfrac1{\sqrt{10}}$、$\cos B'=\dfrac1{\sqrt2}$、$\cos C'=\dfrac1{\sqrt5}$ になる。$0^\circ$ と $180^\circ$ の間の角は余弦の値で決まるので、$\angle A=\angle A'\approx71.57^\circ$、$\angle B=\angle B'=45^\circ$、$\angle C=\angle C'\approx63.43^\circ$ である。辺だけを確かめたのに、角まで等しくなった。

2 辺とその間の角から残りが決まる

2 辺が $5$ と $3$、その間の角が $60^\circ$ の三角形を考える。残りの辺の長さを $x$ とすると、余弦定理により
$$ x^2=5^2+3^2-2\cdot5\cdot3\cos60^\circ=25+9-15=19,\qquad x=\sqrt{19} $$
である。3 辺が分かったので、ex-tcc-start-sss と同じように残りの角も決まる。長さ $5$ の辺の向かいの角は $\cos=\dfrac{9+19-25}{2\cdot3\sqrt{19}}=\dfrac{3}{6\sqrt{19}}=\dfrac1{2\sqrt{19}}$ から約 $83.41^\circ$、長さ $3$ の辺の向かいの角は $\cos=\dfrac{25+19-9}{2\cdot5\sqrt{19}}=\dfrac{35}{10\sqrt{19}}=\dfrac{7}{2\sqrt{19}}$ から約 $36.59^\circ$ である($60^\circ+83.41^\circ+36.59^\circ=180^\circ$)。この 3 つの値をもつ三角形は、どこにどう置いても、残りの辺と角が同じになる。

2 つの例では、余弦定理という計算の道具を使った。しかし余弦定理の証明には、三平方の定理や座標が必要である。合同条件は、それよりもっと手前にある、図形の最も基本的な事実である。この記事では、どの事実を出発点として認め、そこから合同条件をどう導くかを見る。
この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. 3 つの合同条件は、どれを認めれば残りを証明できるか。→ rem-tcc-facts、thm-tcc-main
  2. 二等辺三角形の底角が等しいことは、合同条件とどう関係するか。→ lem-tcc-isosceles
  3. 直角三角形だけに使える合同条件は、なぜ成り立つか。→ cor-tcc-right
  4. 条件をほかの 3 つの量に替えると、何が崩れるか。→ ex-tcc-cx-ssa、ex-tcc-cx-aaa、ex-tcc-cx-quad
    高校・中学の言葉この記事の言葉大学の言葉
    ぴったり重なる6 つの量がすべて等しい(def-tcc-congruent)合同変換で移り合う
    2 辺とその間の角認める事実 (i)(rem-tcc-facts)Hilbert の公理系の合同の公理
    3 辺、1 辺とその両端の角定理(thm-tcc-main)公理からの定理
    二等辺三角形の底角補題(lem-tcc-isosceles)裏返しの対称性
    余弦定理で 3 辺から角を求める3 辺の条件の計量版(ex-tcc-start-sss)距離から形が決まる

合同の定義

合同条件を証明するには、合同とは何かを先に決めておく必要がある。三角形の合同では、どの頂点がどの頂点に対応するかが大切である。

合同な三角形

三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ が、頂点の対応 $A\leftrightarrow A'$、$B\leftrightarrow B'$、$C\leftrightarrow C'$ のもとで 合同 であるとは、次の 6 つの等式がすべて成り立つことをいう。
$$ AB=A'B',\qquad BC=B'C',\qquad CA=C'A',\qquad \angle A=\angle A',\qquad \angle B=\angle B',\qquad \angle C=\angle C' $$
このとき $\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ と書く。記号の中で頂点を書く順番が、対応を表す。

「ぴったり重なる」という言い方は、図形を動かす操作(ずらす・回す・裏返す)を前提にしている。操作を正確に定めるのは 平面の合同変換の分類 で行い、この記事では上の 6 つの等式を合同の定義とする。

対応の付け方で結論が変わる
  1. $A(0,0)$、$B(3,0)$、$C(0,4)$ の三角形($AB=3$、$CA=4$、$BC=5$)と、$P(10,0)$、$Q(10,3)$、$R(6,0)$ の三角形($PQ=3$、$PR=4$、$QR=5$、$P$ の角が直角)は、対応 $A\leftrightarrow P$、$B\leftrightarrow Q$、$C\leftrightarrow R$ で合同である。辺は $AB=PQ=3$、$CA=RP=4$、$BC=QR=5$ で、角は $\angle A=\angle P=90^\circ$ であり、残りの 2 つの角もそれぞれ等しい($\cos B=\cos Q=\dfrac35$、$\cos C=\cos R=\dfrac45$)。
  2. 同じ 2 つの三角形を、対応 $A\leftrightarrow P$、$B\leftrightarrow R$、$C\leftrightarrow Q$ で比べると、$AB=3$ に対して $PR=4$ で、等しくない。この対応のもとでは合同ではない。
  3. 1 つの三角形を自分自身と比べることもできる。$AB=AC$ の三角形 $ABC$ では、対応 $A\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow C$、$C\leftrightarrow B$(三角形 $ABC$ と三角形 $ACB$)で辺が $AB=AC$、$AC=AB$、$BC=CB$ と等しくなる。この見方が、次の節の二等辺三角形の証明の鍵になる。

出発点として認める事実

認めて使う事実

図形の議論は、何かを認めないと始まらない。この記事では、次の事実を証明せずに使う。

この記事で認めて使う事実
  1. 2 辺とその間の角:三角形 $ABC$、$A'B'C'$ で $AB=A'B'$、$AC=A'C'$、$\angle A=\angle A'$ ならば、$\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。
  2. 写し取り:半直線 $OX$ と、直線 $OX$ のどちらの側かを指定すると、その側に $\angle XOY$ が与えられた大きさになる半直線 $OY$ がただ 1 本ある。また、半直線の上に、始点から与えられた長さの点がただ 1 つある。
  3. 角の和:角 $\angle XOY$ の内部を通る半直線 $OZ$ があれば $\angle XOY=\angle XOZ+\angle ZOY$ である。一直線をなす 2 つの角の和は $180^\circ$ である。
  4. 直線の両側:直線 $\ell$ の上にない 2 点を結ぶ線分が $\ell$ と交わらなければ、2 点は $\ell$ の同じ側にあり、交われば反対側にある。

(i) は Euclid『原論』第 I 巻の命題 4 にあたり、Hilbert の公理系では(弱い形で)合同の公理 として置かれている。この記事では、(i) を出発点とし、残りの合同条件を (i)〜(iv) から導く。

(i) の扱いの歴史を開く

Euclid は命題 4 を、一方の三角形をもう一方に「重ね合わせる」ことで示した(Hea56 pp. 247–248)。しかし重ね合わせは図形を動かす操作であり、その操作が長さや角を変えないことは、何も証明していない。Heath はこの命題への注で、重ね合わせの方法への古くからの批判をまとめている(Hea56 pp. 249–250)。Hilbert は 1899 年の『幾何学の基礎』で、(i) の弱い形(2 辺とその間の角が等しければ残りの 2 つの角も等しい)を公理として置き、(i) を公理から証明した(Hil02 §6 の公理 IV, 6、§7 の定理 10)。


(ii)〜(iv) は、中学校で作図や角の計算に使っている事実である。どれも平行線公準を使わない(平行線公準(高校数学))。平行線公準を使う事実(三角形の内角の和が $180^\circ$)は、使う箇所で明示する。

補題:二等辺三角形の底角

2 辺が等しい三角形を 二等辺三角形 といい、等しい 2 辺の間の角を 頂角、残りの 2 つの角を 底角 という。

二等辺三角形の底角は等しい

三角形 $ABC$ で $AB=AC$ ならば、$\angle B=\angle C$ である。

裏返した自分自身と比べる

方針:三角形 $ABC$ を、頂点の順番を入れかえた三角形 $ACB$ と比べる(図 1)。2 つは同じ三角形だが、対応 $A\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow C$、$C\leftrightarrow B$ で比べると、(i) が使える。
段 1(辺と角をそろえる)。三角形 $ABC$ と三角形 $ACB$ を、対応 $A\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow C$、$C\leftrightarrow B$ で比べる。仮定から、三角形 $ABC$ の辺 $AB$ と三角形 $ACB$ の辺 $AC$ は等しい。三角形 $ABC$ の辺 $AC$ と三角形 $ACB$ の辺 $AB$ も等しい(同じ仮定 $AB=AC$ を逆から読んだもの)。2 辺の間の角は、どちらも同じ角 $\angle BAC$ である。
段 2(合同)。段 1 から、2 辺とその間の角がそれぞれ等しいので、rem-tcc-facts の (i) により $\triangle ABC\equiv\triangle ACB$ である。
段 3(底角)。合同な三角形では対応する角が等しい(def-tcc-congruent)。対応で $B$ は $C$ に移るので、三角形 $ABC$ の角 $B$ と三角形 $ACB$ の角 $C$ が等しい。つまり $\angle ABC=\angle ACB$ である。$\square$

二等辺三角形 ABC(AB = AC)を、頂点を ACB の順に読んだ同じ三角形と比べる。2 辺とその間の角が等しいので、底角 B と C が対応する 二等辺三角形 ABC(AB = AC)を、頂点を ACB の順に読んだ同じ三角形と比べる。2 辺とその間の角が等しいので、底角 B と C が対応する
この証明は、紀元 4 世紀の Pappus によるものと伝えられている。

Euclid の証明と Pappus の証明について開く

Euclid 自身の証明(『原論』第 I 巻の命題 5)は、辺を延ばして補助の三角形を 2 組作る、もっと長いものである。Heath は注で Pappus の証明を紹介し、三角形を取り上げて裏返し、もとの場所に置くと考えるのではなく、1 つの三角形を 2 通りに見ればよいと述べている(Hea56 pp. 251–254)。Hilbert も底角の定理を、公理 IV, 6 を三角形 $ABC$ と三角形 $BAC$ に当てはめて、同じやり方で出している(Hil02 §7 の定理 16 の直前)。

底角を座標で確かめる
  1. $A(0,4)$、$B(-3,0)$、$C(3,0)$。$AB=AC=5$ である。$\overrightarrow{BA}=(3,4)$、$\overrightarrow{BC}=(6,0)$ で $\cos B=\dfrac{18}{5\cdot6}=\dfrac35$、$\overrightarrow{CA}=(-3,4)$、$\overrightarrow{CB}=(-6,0)$ で $\cos C=\dfrac{18}{5\cdot6}=\dfrac35$ である。$y$ 軸について左右対称な三角形なので、これは予想どおりである。
  2. 対称軸が座標軸に沿っていない例。$A(1,1)$、$B(4,5)$、$C(6,1)$ では
    $$ AB^2=3^2+4^2=25,\qquad AC^2=5^2+0^2=25,\qquad BC^2=2^2+4^2=20 $$
    で、$AB=AC=5$ である。$\overrightarrow{BA}=(-3,-4)$、$\overrightarrow{BC}=(2,-4)$ から
    $$ \cos B=\frac{(-3)\cdot2+(-4)\cdot(-4)}{5\cdot2\sqrt5}=\frac{10}{10\sqrt5}=\frac1{\sqrt5} $$
    であり、$\overrightarrow{CA}=(-5,0)$、$\overrightarrow{CB}=(-2,4)$ から $\cos C=\dfrac{10}{5\cdot2\sqrt5}=\dfrac1{\sqrt5}$ である。底角はどちらも約 $63.43^\circ$ で等しい。

主定理:3 つの合同条件

三角形の合同条件

三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'C'$ について、次の 3 つのどれか 1 つが成り立てば、$\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。

  1. 2 辺とその間の角:$AB=A'B'$、$AC=A'C'$、$\angle A=\angle A'$。
  2. 1 辺とその両端の角:$AB=A'B'$、$\angle A=\angle A'$、$\angle B=\angle B'$。
  3. 3 辺:$AB=A'B'$、$BC=B'C'$、$CA=C'A'$。

1 は rem-tcc-facts の (i) そのものである。2 と 3 を順に証明する。

1 辺とその両端の角

1 辺とその両端の角の証明

方針:辺 $A'C'$ の上に、$A'$ から長さ $AC$ の点 $D$ をとり、(i) で三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'D$ が合同であることを示す。すると角 $B$ の写し取りが 2 通りあることになるので、(ii) の「ただ 1 本」から $D=C'$ が出る。
段 1(点 $D$)。半直線 $A'C'$ の上に、$A'D=AC$ となる点 $D$ をとる((ii))。
段 2(合同)。三角形 $ABC$ と三角形 $A'B'D$ で、$AB=A'B'$(仮定)、$AC=A'D$(段 1)であり、間の角は $\angle BAC=\angle B'A'C'=\angle B'A'D$ である(前の等号は仮定、後の等号は $D$ が半直線 $A'C'$ の上にあるので半直線 $A'D$ と半直線 $A'C'$ が同じであることによる)。(i) により $\triangle ABC\equiv\triangle A'B'D$ で、特に $\angle ABC=\angle A'B'D$ である。
段 3(同じ半直線)。仮定から $\angle A'B'C'=\angle ABC$ なので、段 2 と合わせて $\angle A'B'D=\angle A'B'C'$ である。$D$ も $C'$ も半直線 $A'C'$ の上の点で、$A'$ とは異なるので、直線 $A'B'$ について同じ側にある。半直線 $B'A'$ から同じ側に同じ大きさの角をつくる半直線はただ 1 本なので((ii))、半直線 $B'D$ と半直線 $B'C'$ は同じである。
段 4($D=C'$)。$D$ は直線 $A'C'$ の上にも、段 3 により直線 $B'C'$ の上にもある。2 直線 $A'C'$ と $B'C'$ は異なる直線なので($A',B',C'$ は一直線上にない)、交わる点は $C'$ ただ 1 つである。よって $D=C'$ である。
段 5(まとめ)。段 2 の $\triangle ABC\equiv\triangle A'B'D$ で $D=C'$ なので、$\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。$\square$

2 から、二等辺三角形の補題の逆が出る。

底角が等しい三角形は二等辺三角形

三角形 $ABC$ で $\angle B=\angle C$ ならば、$AB=AC$ である。

1 辺とその両端の角を自分自身に使う

三角形 $ABC$ と三角形 $ACB$ を、対応 $A\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow C$、$C\leftrightarrow B$ で比べる。辺 $BC$ と辺 $CB$ は同じ長さで、その両端の角は、$\angle ABC=\angle ACB$(仮定)と $\angle ACB=\angle ABC$(同じ仮定を逆から読んだもの)である。thm-tcc-main の 2 により $\triangle ABC\equiv\triangle ACB$ で、対応する辺 $AB$ と $AC$ は等しい。$\square$

3 辺

3 辺の条件の証明では、三角形 $A'B'C'$ と合同な三角形を、辺 $AB$ の反対側に作ってくっつける(図 2)。くっつけた 2 つの三角形のあいだに二等辺三角形が現れるので、lem-tcc-isosceles が使える。
辺 AB の反対側に三角形 ABD を作り、C と D を結ぶ。線分 CD と直線 AB の交点 E の位置で、(a) A と B の間、(b) E = A、(c) 線分 AB の外、の 3 つの場合に分ける 辺 AB の反対側に三角形 ABD を作り、C と D を結ぶ。線分 CD と直線 AB の交点 E の位置で、(a) A と B の間、(b) E = A、(c) 線分 AB の外、の 3 つの場合に分ける

3 辺の証明

方針:直線 $AB$ の $C$ と反対の側に、三角形 $A'B'C'$ と合同な三角形 $ABD$ を作る。$AC=AD$、$BC=BD$ なので、$C$ と $D$ を結ぶと二等辺三角形が現れ、底角から $\angle ACB=\angle ADB$ が出る。最後に (i) を使う。
段 1(三角形 $ABD$ を作る)。直線 $AB$ の $C$ と反対の側に、$\angle BAD=\angle B'A'C'$ となる半直線 $AD$ を引き、その上に $AD=A'C'$ となる点 $D$ をとる((ii))。三角形 $ABD$ と三角形 $A'B'C'$ で、$AB=A'B'$、$AD=A'C'$、間の角 $\angle BAD=\angle B'A'C'$ なので、(i) により $\triangle ABD\equiv\triangle A'B'C'$ である。特に $BD=B'C'$ である。仮定と合わせて
$$ AD=A'C'=AC,\qquad BD=B'C'=BC $$
である。
段 2(線分 $CD$)。$C$ と $D$ は直線 $AB$ の反対側にあるので、線分 $CD$ は直線 $AB$ と 1 点 $E$ で交わる((iv))。$E$ は $C$ とも $D$ とも異なる($C$、$D$ は直線 $AB$ の上にない)。したがって、半直線 $CE$ は半直線 $CD$ と同じであり、半直線 $DE$ は半直線 $DC$ と同じである。$E$ の位置で 3 つの場合に分ける。
段 3(場合 (a):$E$ が $A$ と $B$ の間)。$E$ が辺 $AB$ の内部にあるので、半直線 $CE$($=$ 半直線 $CD$)は角 $\angle ACB$ の内部を通り、(iii) により $\angle ACB=\angle ACD+\angle DCB$ である。同じく $\angle ADB=\angle ADC+\angle CDB$ である。三角形 $ACD$ は $AC=AD$ の二等辺三角形なので $\angle ACD=\angle ADC$、三角形 $BCD$ は $BC=BD$ の二等辺三角形なので $\angle DCB=\angle CDB$ である(lem-tcc-isosceles)。足し合わせて
$$ \angle ACB=\underbrace{\angle ACD}_{=\angle ADC}+\underbrace{\angle DCB}_{=\angle CDB}=\angle ADB $$
である。
段 4(場合 (b):$E=A$、または $E=B$)。$E=A$ とする。$A$ は線分 $CD$ の上にあるので、半直線 $CA$ は半直線 $CD$ と同じで、半直線 $DA$ は半直線 $DC$ と同じである。三角形 $BCD$ は $BC=BD$ の二等辺三角形なので、lem-tcc-isosceles により $\angle BCD=\angle BDC$、つまり $\angle ACB=\angle ADB$ である。$E=B$ のときは、半直線 $CB$ が半直線 $CD$ と、半直線 $DB$ が半直線 $DC$ と同じになり、二等辺三角形 $ACD$ の底角 $\angle ACD=\angle ADC$ から、同じく $\angle ACB=\angle ADB$ が出る。
段 5(場合 (c):$E$ が線分 $AB$ の外)。$A$ が $E$ と $B$ の間にあるとする($B$ が $E$ と $A$ の間にあるときは、$A$ と $B$ の役を入れかえる)。$A$ が線分 $EB$ の内部にあるので、半直線 $CA$ は角 $\angle ECB$ の内部を通り、(iii) により $\angle ECB=\angle ECA+\angle ACB$ である。半直線 $CE$ は半直線 $CD$ と同じなので、
$$ \angle ACB=\angle DCB-\angle DCA $$
である。同じく $\angle ADB=\angle CDB-\angle CDA$ である。二等辺三角形 $BCD$、$ACD$ の底角から $\angle DCB=\angle CDB$、$\angle DCA=\angle CDA$ なので、$\angle ACB=\angle ADB$ である。
段 6(まとめ)。どの場合も、三角形 $ACB$ と三角形 $ADB$ で $CA=DA$、$CB=DB$(段 1)、間の角 $\angle ACB=\angle ADB$(段 3〜5)である。(i) により $\triangle ACB\equiv\triangle ADB$、つまり対応 $A\leftrightarrow A$、$B\leftrightarrow B$、$C\leftrightarrow D$ で $\triangle ABC\equiv\triangle ABD$ である。段 1 の $\triangle ABD\equiv\triangle A'B'C'$ と合わせると、6 つの等式がつながって $\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。$\square$

この証明は、Heath が『原論』第 I 巻の命題 8(pp. 261–262)の注で紹介している Philo の証明の形で、3 つの場合分けもそこにある(Hea56 pp. 263–264)。Euclid 自身は、命題 7(同じ辺の上の同じ側に、2 辺がそれぞれ等しい 2 つの三角形は作れない)を先に示し、重ね合わせで命題 8 を導いた。Hilbert は、二等辺三角形の底角の定理と、角の和についての定理 14 を使えば、3 辺の条件(定理 16)は容易に示せると述べている(証明は書いていない。Hil02 §7 の定理 16 の直前)。

3 辺の条件で角の等しさを出す

四角形 $ABCD$ で $AB=AD$、$CB=CD$ とする(凧形)。三角形 $ABC$ と三角形 $ADC$ は、$AB=AD$、$BC=DC$、$CA=CA$(共通)なので、thm-tcc-main の 3 により合同である。対応する角から $\angle BAC=\angle DAC$、つまり対角線 $AC$ は角 $A$ を 2 等分する。
座標で確かめる。$A(0,0)$、$B(3,4)$、$C(10,5)$、$D(5,0)$ とすると
$$ AB^2=3^2+4^2=25=AD^2,\qquad CB^2=7^2+1^2=50,\qquad CD^2=5^2+5^2=50 $$
で、$AB=AD=5$、$CB=CD=5\sqrt2$ である。$\overrightarrow{AC}=(10,5)$(長さ $5\sqrt5$)と $\overrightarrow{AB}=(3,4)$、$\overrightarrow{AD}=(5,0)$ のなす角の余弦は
$$ \frac{30+20}{5\sqrt5\cdot5}=\frac{50}{25\sqrt5}=\frac{2}{\sqrt5},\qquad \frac{50+0}{5\sqrt5\cdot5}=\frac{2}{\sqrt5} $$
で等しい。

1 辺と 2 つの角、直角三角形の合同条件

等しい角の一方が辺の両端にない場合

thm-tcc-main の 2 では、等しい 2 つの角が、等しい辺の両端にあった。等しい角の一方がその辺の向かいにあっても、合同になる。

1 辺と 2 つの角

三角形 $ABC$、$A'B'C'$ で $BC=B'C'$、$\angle B=\angle B'$、$\angle A=\angle A'$ ならば、$\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。

内角の和で残りの角を出す

方針:内角の和から $\angle C=\angle C'$ を出し、辺 $BC$ とその両端の角の条件に帰着させる。
三角形の内角の和は $180^\circ$ なので(三角形の内角の和)、
$$ \angle C=180^\circ-\angle A-\angle B=180^\circ-\angle A'-\angle B'=\angle C' $$
である。辺 $BC=B'C'$ と、その両端の角 $\angle B=\angle B'$、$\angle C=\angle C'$ がそれぞれ等しいので、thm-tcc-main の 2 により $\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。$\square$

この証明は内角の和を使うので、平行線公準に頼っている。平行線公準を使わない証明もある。

平行線公準を使わない証明(Euclid の方法)を開く

Euclid は『原論』第 I 巻の命題 26 の後半で、cor-tcc-aas を外角の定理から示した(Hea56 p. 303。命題 26 は pp. 301–303)。外角の定理の弱い形「三角形の外角は、隣り合わない内角のどちらよりも大きい」は、平行線公準を使わずに示せる(平行線公準(高校数学) の定理「外角の定理(中立幾何の形)」)。

$AB=A'B'$ を示せば、2 辺 $AB$、$BC$ とその間の角 $B$ が等しいので (i) から合同が出る。$AB\ne A'B'$ と仮定し、たとえば $AB>A'B'$ とする。辺 $BA$ の上に $BH=B'A'$ となる点 $H$ をとると、$H$ は $B$ と $A$ の間にある。三角形 $HBC$ と三角形 $A'B'C'$ は、$BH=B'A'$、$BC=B'C'$、間の角 $\angle B=\angle B'$ なので (i) により合同で、$\angle BHC=\angle B'A'C'=\angle BAC$ である。ところが、三角形 $AHC$ で $\angle BHC$ は頂点 $H$ の外角なので、外角の定理により $\angle BHC>\angle HAC=\angle BAC$ である。これは矛盾である。$AB< A'B'$ のときは 2 つの三角形の役を入れかえればよい。

直角三角形の合同条件

直角三角形の直角の向かいの辺を 斜辺 という。直角三角形には、ほかの三角形にはない合同条件が 2 つある。

直角三角形の合同条件

$\angle C=\angle C'=90^\circ$ の 2 つの直角三角形 $ABC$、$A'B'C'$ について、次のどちらかが成り立てば、$\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。

  1. 斜辺と 1 つの鋭角:$AB=A'B'$ かつ $\angle B=\angle B'$。
  2. 斜辺と他の 1 辺:$AB=A'B'$ かつ $AC=A'C'$。

1 は cor-tcc-aas の特別な場合である。辺 $AB$ について、$\angle B=\angle B'$ は端の角、$\angle C=\angle C'=90^\circ$ は向かいの角なので、そのまま使える。2 は、角が 1 つ(直角)と辺が 2 つなので、一見「2 辺と、その間にない角」の形をしている。この形は一般には合同条件にならない(ex-tcc-cx-ssa)。直角のときに成り立つ理由を、二等辺三角形で示す。
直角三角形 ABC の辺 BC を C の先へ延ばし、CD = C'B' となる点 D をとると、AD = AB の二等辺三角形 ABD ができる(図は AB = 5、AC = 3 の場合) 直角三角形 ABC の辺 BC を C の先へ延ばし、CD = C'B' となる点 D をとると、AD = AB の二等辺三角形 ABD ができる(図は AB = 5、AC = 3 の場合)

斜辺と他の 1 辺の証明

要点:辺 $BC$ を $C$ の先へ延ばして $CD=C'B'$ となる点 $D$ をとると(図 3)、2 辺とその間の角(直角)から三角形 $ACD$ は三角形 $A'C'B'$ と合同で、$AD=A'B'=AB$ となる。二等辺三角形 $ABD$ の底角から $\angle B=\angle B'$ が出るので、1(斜辺と 1 つの鋭角)に帰着する。

詳しい証明を開く

段 1(点 $D$)。辺 $BC$ を $C$ の先へ延ばした半直線の上に、$CD=C'B'$ となる点 $D$ をとる((ii))。$B$、$C$、$D$ は一直線上にあり、$C$ は $B$ と $D$ の間にある。一直線をなす 2 つの角の和は $180^\circ$ なので((iii))、$\angle ACD=180^\circ-\angle ACB=90^\circ$ である。

段 2(三角形 $ACD$ と三角形 $A'C'B'$)。$AC=A'C'$(仮定)、$CD=C'B'$(段 1)、間の角 $\angle ACD=90^\circ=\angle A'C'B'$ なので、(i) により $\triangle ACD\equiv\triangle A'C'B'$ である。特に $AD=A'B'$、$\angle ADC=\angle A'B'C'$ である。

段 3(二等辺三角形)。段 2 と仮定から $AD=A'B'=AB$ なので、三角形 $ABD$ は $AB=AD$ の二等辺三角形である。lem-tcc-isosceles により $\angle ABD=\angle ADB$ である。$C$ は線分 $BD$ の上にあるので、これは $\angle ABC=\angle ADC$ ということである。

段 4(角 $B$)。段 2・段 3 から $\angle ABC=\angle ADC=\angle A'B'C'$ である。

段 5(まとめ)。2 つの直角三角形は、斜辺 $AB=A'B'$ と鋭角 $\angle B=\angle B'$(段 4)が等しいので、1 により $\triangle ABC\equiv\triangle A'B'C'$ である。$\square$

直角三角形の条件を使う
  1. 斜辺が $13$、他の 1 辺が $5$ の直角三角形は、cor-tcc-right の 2 により、どれも合同である。残りの辺は三平方の定理から $\sqrt{13^2-5^2}=\sqrt{144}=12$ で、どの三角形でも同じである。
  2. 角の二等分線の上の点は、角の 2 辺から等しい距離にある。$O$ を頂点とする角の二等分線の上の点 $P$ から 2 辺に垂線 $PH$、$PK$ を下ろすと、三角形 $OPH$ と三角形 $OPK$ は、斜辺 $OP$ が共通で、$\angle POH=\angle POK$ なので、cor-tcc-right の 1 により合同で、$PH=PK$ である。数値で確かめると、$x$ 軸の正の部分と直線 $y=\sqrt3x$($x\ge0$)がつくる $60^\circ$ の角の二等分線は $y=\dfrac{x}{\sqrt3}$ で、その上の点 $P(3,\sqrt3)$ から $x$ 軸までの距離は $\sqrt3$、直線 $\sqrt3x-y=0$ までの距離は $\dfrac{\lvert3\sqrt3-\sqrt3\rvert}{\sqrt{3+1}}=\dfrac{2\sqrt3}{2}=\sqrt3$ で等しい。
条件等しい 3 つの量証明に使ったもの平行線公準
2 辺とその間の角辺・角・辺認める((i))使わない
1 辺とその両端の角角・辺・角(i)・(ii)使わない
3 辺辺・辺・辺(i)〜(iv)、二等辺三角形の底角使わない
1 辺と 2 つの角(一方は向かい)辺・角・角内角の和と 1 辺とその両端の角使う(使わない証明もある)
直角三角形:斜辺と 1 つの鋭角斜辺・鋭角(と直角)1 辺と 2 つの角同上
直角三角形:斜辺と他の 1 辺斜辺・辺(と直角)二等辺三角形の底角と斜辺と 1 つの鋭角同上

使い方:等しい距離の点を見つける

合同条件は、図形の中に合同な三角形を見つけて、長さや角の等しさを導くために使う。後の 平面の合同変換の分類 で使う性質を 1 つ示す。
線分 $AB$ の中点 $M$ を通り、$AB$ に垂直な直線を、線分 $AB$ の 垂直二等分線 という。

垂直二等分線は 2 点から等距離の点の集まり

相異なる 2 点 $A$、$B$ について、点 $P$ が $PA=PB$ を満たすことと、$P$ が線分 $AB$ の垂直二等分線の上にあることは同値である。

2 辺とその間の角と、3 辺

要点:$P$ と中点 $M$ を結び、三角形 $PMA$ と三角形 $PMB$ を比べる。垂直二等分線の上の点なら (i) で $PA=PB$、逆に $PA=PB$ なら 3 辺の条件で $\angle PMA=\angle PMB$ となり、和が $180^\circ$ なのでどちらも直角である。

詳しい証明を開く

段 1(垂直二等分線の上なら等距離)。$P=M$ なら $PA=MA=MB=PB$ である。$P\ne M$ で $P$ が垂直二等分線の上にあれば $\angle PMA=\angle PMB=90^\circ$ である。三角形 $PMA$ と三角形 $PMB$ で、$PM$ は共通、$MA=MB$、間の角が等しいので、(i) により合同で、$PA=PB$ である。

段 2(等距離なら垂直二等分線の上:$P$ が直線 $AB$ の上にない場合)。$PA=PB$ とする。三角形 $PMA$ と三角形 $PMB$ で、$PM$ は共通、$MA=MB$、$PA=PB$ なので、thm-tcc-main の 3 により合同で、$\angle PMA=\angle PMB$ である。2 つの角は一直線をなすので和が $180^\circ$ であり((iii))、どちらも $90^\circ$ である。よって直線 $PM$ は $AB$ に垂直で、$P$ は垂直二等分線の上にある。

段 3($P$ が直線 $AB$ の上にある場合)。$P$ が直線 $AB$ の上にあって $PA=PB$ なら、$P$ は $A$ と $B$ の間にある(たとえば $A$ が $P$ と $B$ の間にあれば $PB=PA+AB>PA$ となる)。$A$ と $B$ の間で両端から等距離の点は中点 $M$ だけなので、$P=M$ である。$\square$

等距離の点を座標で確かめる

$A(1,2)$、$B(5,4)$ とする。中点は $M(3,3)$、$\overrightarrow{AB}=(4,2)$ に垂直な向きは $(-1,2)$ なので、垂直二等分線は $(3,3)+t(-1,2)$ と表せる。$t=1,-1,2$ として点 $(2,5)$、$(4,1)$、$(1,7)$ をとると、
$$ (2,5):\ PA^2=1+9=10=PB^2=9+1,\qquad (4,1):\ PA^2=9+1=10=PB^2=1+9,\qquad (1,7):\ PA^2=0+25=25=PB^2=16+9 $$
で、どれも $PA=PB$ である。垂直二等分線の上にない点 $(4,5)$ では $PA^2=9+9=18$、$PB^2=1+1=2$ で、等しくない。

例と反例:3 つの量を別の組に替えると

三角形の 6 つの量から 3 つを選ぶ選び方のうち、合同条件になるのは thm-tcc-main と cor-tcc-aas の形だけである。ほかの選び方や、三角形でない図形では、同じ形の主張は成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
等しい角が 2 辺の「間」にある(間にない角にする)$AB=4$、$AC=3$、$\angle B=30^\circ$ の 2 つの三角形(ex-tcc-cx-ssa)2 辺と 1 つの角が等しい三角形は合同
少なくとも 1 つの辺が等しい(角だけにする)3 辺 $3,4,5$ と $6,8,10$ の三角形(ex-tcc-cx-aaa)3 つの角が等しい三角形は合同
図形が三角形である(四角形にする)1 辺 $2$ の正方形とひし形(ex-tcc-cx-quad)辺がすべて等しい図形は合同
角 B = 30°、AB = 4、AC = 3 を満たす三角形のうち、BC が約 5.700 のもの 角 B = 30°、AB = 4、AC = 3 を満たす三角形のうち、BC が約 5.700 のもの
同じ条件を満たす三角形のうち、BC が約 1.228 のもの。A を中心とする半径 3 の円が直線 BC と 2 点で交わる 同じ条件を満たす三角形のうち、BC が約 1.228 のもの。A を中心とする半径 3 の円が直線 BC と 2 点で交わる
反例:2 辺と、その間にない角

$AB=4$、$AC=3$、$\angle B=30^\circ$ を満たす三角形 $ABC$ を作る(図 4・図 5)。$B$ を原点、直線 $BC$ を $x$ 軸にとると $A(2\sqrt3,2)$ である。$C(x,0)$($x>0$)が $AC=3$ を満たす条件は、余弦定理 $AC^2=AB^2+BC^2-2\cdot AB\cdot BC\cos30^\circ$ から
$$ 9=16+x^2-2\cdot4\cdot x\cdot\frac{\sqrt3}2,\qquad x^2-4\sqrt3\,x+7=0,\qquad x=2\sqrt3\pm\sqrt{12-7}=2\sqrt3\pm\sqrt5 $$
である。2 つの解 $x\approx5.700$、$x\approx1.228$ はどちらも正なので、条件を満たす三角形が 2 つできる。
2 つの三角形は $AB$、$AC$、$\angle B$ が等しいが、$BC$ が違うので合同でない。角 $C$ も、前者で約 $41.81^\circ$、後者で約 $138.19^\circ$ と違う(和は $180^\circ$)。等しい角 $B$ は辺 $AB$ と辺 $BC$ の間の角で、等しい 2 辺 $AB$、$AC$ の間の角ではない。
この形でも、等しい角の向かいの辺が、もう一方の辺以上の長さなら合同になる(三角形の決定と解の個数 の系「2 辺と挟まない角による合同条件」)。上の例では角 $B$ の向かいの辺 $AC=3$ が $AB=4$ より短いので、2 つできた。直角三角形の「斜辺と他の 1 辺」(cor-tcc-right の 2)は、直角の向かいの斜辺がいちばん長いので、合同になる場合にあたる。

反例:3 つの角だけ

3 辺が $3,4,5$ の三角形と、3 辺が $6,8,10$ の三角形は、$3^2+4^2=5^2$、$6^2+8^2=10^2$ なので、どちらも直角三角形である(三平方の定理 の逆)。直角以外の角の余弦は、どちらも $\dfrac45$ と $\dfrac35$ で、3 つの角がそれぞれ等しい。しかし辺は 2 倍で、合同でない。3 つの角が等しいのは 相似 の条件で、形は同じでも大きさが決まらない(三角形の相似条件)。

反例:四角形は辺だけでは決まらない

1 辺 $2$ の正方形と、1 辺 $2$ で 1 つの角が $60^\circ$ のひし形は、4 辺がすべて $2$ で等しい。しかし正方形の対角線は 2 本とも $2\sqrt2$、ひし形の対角線は $2$ と $2\sqrt3$ で、合同でない(角も $90^\circ$ と $60^\circ$ で違う)。
四角形は、辺の長さを変えずに押しつぶせる。三角形は、thm-tcc-main の 3 によって辺の長さだけで形が決まり、押しつぶせない。Heath は第 I 巻の命題 7 の注で、棒を蝶番でつないで作った平面図形のうち、形が変わらない(固い)のは三角形だけだという Dodgson の言い方を紹介している(Hea56 p. 261)。橋や鉄塔の骨組みに三角形が使われるのは、このためである。

大学数学で見る:合同の公理

2 辺とその間の角は、ほかの公理からは証明できない

Hilbert の公理系では、合同についての公理が 6 つあり、そのうち 5 つは「線分や角を写し取れる」「線分や角の合同は推移的」「線分の足し算」についてのものである(Hil02 §6)。最後の公理 IV, 6 が、2 辺とその間の角が等しい三角形の残りの角が等しいことを述べる。Hilbert は、この公理がほかの公理からは導けないことを、長さの測り方を変えた「幾何」を作って示した(Hil02 §11、pp. 20–21)。

Hilbert の例を開く

平面の 2 点 $(x_1,y_1)$、$(x_2,y_2)$ の「長さ」を $\sqrt{(x_1-x_2+y_1-y_2)^2+(y_1-y_2)^2}$ で測り、角は普通のとおりに測る。この測り方でも、写し取りや線分の足し算についての公理は成り立つ。しかし $O(0,0)$、$A(1,0)$、$B(0,1)$、$C\left(\dfrac12,\dfrac12\right)$ で、三角形 $OAC$ と三角形 $OBC$ を比べると、辺 $OC$ は共通で、新しい長さでは $AC$ も $BC$ も $\dfrac12$ である(どちらも $x_1-x_2+y_1-y_2=0$、$\lvert y_1-y_2\rvert=\dfrac12$)。間の角 $\angle OCA$ と $\angle OCB$ は普通の角でどちらも $90^\circ$ である。2 辺とその間の角が等しいのに、残りの辺は $OA=\sqrt{1^2+0^2}=1$、$OB=\sqrt{(-1)^2+(-1)^2}=\sqrt2$ で等しくない。


この記事で (i) を認めて出発したのは、このためである。(i) は「図形を動かしても長さと角が変わらない」ことの、三角形についての表れであり、どこかで認めるしかない。

合同変換で移り合うこと

def-tcc-congruent では、合同を 6 つの量の等しさで定めた。「ぴったり重なる」ことを写像で言うと、平面のすべての 2 点の距離を変えない写像(合同変換)で一方が他方に移ることである。2 つの三角形が合同なら、そのような写像があり、しかも一直線上にない 3 点の行き先を決めると写像はただ 1 つに決まる(Hil02 §7 の定理 17 は、合同な図形に点を 1 つずつ付け加えても合同な図形に延ばせ、3 点が一直線上にないなら付け加える点はただ 1 つに決まる、と述べる)。合同変換がどんな写像なのかは、平面の合同変換の分類 で調べる。
球面の上では事情が違う。球面三角形では、3 つの角がそれぞれ等しければ合同になる(ex-tcc-cx-aaa のような大きさの違う相似な三角形がない)。この記事では証明しない(球面三角形の面積)。

さらに先へ

  • 合同条件の「長さ」を「長さの比」に替えると、相似条件になる。相似条件の証明は、相似拡大で合同条件に帰着させる(三角形の相似条件)。
  • 合同条件は、余弦定理・正弦定理で 3 つの量から残りを計算できることと表裏の関係にある。解がいくつあるかの数え方は 三角形の決定と解の個数 で扱う。
  • 合同な三角形を重ねる写像の全体(平行移動・回転・鏡映・すべり鏡映)は 平面の合同変換の分類 で分類する。公理系の全体像は Hilbertの公理系 で扱う。

関連項目

参考文献

[1]
Euclid, translated with introduction and commentary by Thomas L. Heath, The Thirteen Books of Euclid's Elements, translated with introduction and commentary by T. L. Heath, Vol. I (Introduction and Books I, II), Dover Publications, 1956, Vol. I:『原論』第 I 巻 命題 4(pp. 247–248)と重ね合わせについての注(pp. 249–250)、命題 5 と Pappus の証明(pp. 251–254)、命題 7 の注(p. 261)、命題 8(pp. 261–262)と Philo の証明(pp. 263–264)、命題 26(pp. 301–303)

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