線形写像

同義語:線型写像linear map

概要

線形写像(linear map)とは、体 $K$ 上のベクトル空間の間の写像 $T\colon V\to W$ であって、加法とスカラー倍を保つ($T(x+y)=T(x)+T(y)$、$T(ax)=aT(x)$)もののことである。核 $\ker T$ と像 $\operatorname{im}T$ はそれぞれ部分空間であり、$T$ が単射であることと $\ker T=\{0\}$ は同値である。合成と全単射線形写像の逆写像は線形で、線形写像全体はベクトル空間をなす。線形写像は基底の行き先だけで定まり、有限次元では表現行列で表され、$K^n$ から $K^m$ への線形写像は行列による写像 $x\mapsto Ax$ にほかならない。行列、微分、評価写像、射影、跡が代表例で、平行移動や 2 乗は線形でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 写像, 部分空間

定義

線形写像と線形変換

$K$ を体、$V,W$ を $K$ 上のベクトル空間とする。写像 $T\colon V\to W$ が次の 2 条件を満たすとき、$T$ を $V$ から $W$ への線形写像(linear map)という。

  1. (加法性)任意の $x,y\in V$ について $T(x+y)=T(x)+T(y)$。
  2. (斉次性)任意の $a\in K$、$x\in V$ について $T(ax)=aT(x)$。
    $V$ から $W$ への線形写像全体の集合を $\operatorname{Hom}_K(V,W)$(または $\mathcal{L}(V,W)$)と書く。$V$ から $V$ 自身への線形写像を $V$ の線形変換(線形変換、自己準同型)といい、その全体を $\operatorname{End}_K(V)$ と書く。全単射な線形写像を線形同型(線形同型、同型写像)といい、$V$ から $W$ への線形同型が存在するとき $V$ と $W$ は同型であるといって $V\cong W$ と書く。線形写像 $T$ の値 $T(x)$ はしばしば $Tx$ と略記する。Axl15
線形作用素という語

「線形作用素」はしばし自己写像、または位相を備えた空間の間の有界線形写像を指す。そのため、本記事では一般の $V\to W$ の線形写像の同義語とはしない。

核と像

線形写像 $T\colon V\to W$ に対し、
$$ \ker T:=\{x\in V\mid T(x)=0\}\subset V,\qquad \operatorname{im}T:=T(V)=\{T(x)\mid x\in V\}\subset W $$
をそれぞれ $T$ の核(kernel、零空間)と像(image、値域)という。核と像はそれぞれ $V$、$W$ の部分空間である(prop-linear-map-kernel-image-subspace)。$\operatorname{im}T$ が有限次元であるとき、その次元(ベクトル空間)を $T$ の階数(線形写像)といい $\operatorname{rank}T$ と書く。Axl15

線形写像の表現行列

$V,W$ を有限次元のベクトル空間、$v_1,\ldots,v_n$ を $V$ の基底、$w_1,\ldots,w_m$ を $W$ の基底とする。線形写像 $T\colon V\to W$ に対し、各 $T(v_j)$ を $W$ の基底で
$$ T(v_j)=\sum_{i=1}^{m}a_{ij}w_i\qquad(j=1,\ldots,n) $$
と(一意に)表したとき、$m\times n$ 型の行列 $A=(a_{ij})$ を、これらの基底に関する $T$ の表現行列という。すなわち $A$ の第 $j$ 列は $T(v_j)$ の座標である。$V=K^n$、$W=K^m$ をそれぞれ標準基底でみたときは、$A$ の第 $j$ 列は $T(e_j)$ であり、$T(x)=Ax$($x$ は列ベクトル)が成り立つ。表現行列の基本性質($T\mapsto A$ が全単射であること、合成が積に対応すること、基底の取り替えで $Q^{-1}AP$ に変わること)は 線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」が、$K^n$ から $K^m$ への線形写像と行列の対応は 行列 の記事の定理「行列と線形写像の対応」が扱う。

直感

線形写像とは、ベクトル空間の 2 つの演算(加法とスカラー倍)を保つ写像である。「和を写してから足しても、足してから写しても同じ」「定数倍してから写しても、写してから定数倍しても同じ」という条件は、写像が線形結合と両立すること $T(\sum a_iv_i)=\sum a_iT(v_i)$ と同じである(prop-linear-map-basic)。この性質のため、線形写像は基底の行き先だけで完全に決まり(prop-linear-map-determined-by-basis)、有限次元では行列の計算に置き換えられる。
線形写像を調べる 2 つの基本的な部分空間が核と像である。核は「つぶされてしまう方向」、像は「到達できる範囲」を表す。核が零であることは単射性と同値であり(prop-linear-map-injective)、写像 $x\mapsto Ax$ については「連立1次方程式 $Ax=0$ が自明な解しかもたない」ことにあたる。核と像の大きさは次元定理 $\dim V=\dim\ker T+\dim\operatorname{im}T$(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)で結ばれる。

例

行列の定める線形写像

$A\in M_{m,n}(K)$ に対し、$T_A\colon K^n\to K^m$、$T_A(x):=Ax$ は線形写像である。実際、行列の積の分配律とスカラー倍との両立(行列 の記事の命題「行列演算の基本法則」)により $A(x+y)=Ax+Ay$、$A(cx)=c(Ax)$ が成り立つ。$\ker T_A$ は斉次連立1次方程式 $Ax=0$ の解全体、$\operatorname{im}T_A$ は $A$ の列ベクトルの線形包(列空間)である。たとえば
$$ A=\begin{pmatrix}1 & 2 & 1\\ 2 & 4 & 3\end{pmatrix} $$
のとき、$Ax=0$ を解くと $\ker T_A=\{(-2t,t,0)\mid t\in K\}$ であり、$\operatorname{im}T_A$ は列ベクトル $(1,2)^{\top}$、$(1,3)^{\top}$ で生成される $K^2$ 全体である。

微分と積分

実数係数の多項式全体 $\mathbb{R}[x]$ 上で、微分 $D\colon\mathbb{R}[x]\to\mathbb{R}[x]$、$D(f):=f'$ は線形変換である($(f+g)'=f'+g'$、$(af)'=af'$)。$\ker D$ は定数多項式全体、$\operatorname{im}D=\mathbb{R}[x]$ である(任意の多項式は多項式の導関数として書ける)。したがって $D$ は全射だが単射でない。一方、$J\colon\mathbb{R}[x]\to\mathbb{R}[x]$、$J(f)(x):=\int_0^xf(t)\,dt$ は線形で、$D\circ J=\mathrm{id}$ であるから $J$ は単射だが、$\operatorname{im}J$ は定数項が $0$ の多項式全体であり全射でない。無限次元では「単射 $\Leftrightarrow$ 全射」が成り立たないことを示す例である(rem-linear-map-counterexamples)。

評価写像

閉区間 $[a,b]$ 上の連続関数全体 $C([a,b])$ と点 $c\in[a,b]$ に対し、$\operatorname{ev}_c\colon C([a,b])\to\mathbb{R}$、$\operatorname{ev}_c(f):=f(c)$ は線形写像である。核は $c$ で零になる連続関数全体で、像は $\mathbb{R}$ 全体(定数関数を考えればよい)である。同様に $f\mapsto\int_a^bf(t)\,dt$ も $C([a,b])$ から $\mathbb{R}$ への線形写像である。値域が係数体である線形写像を線形汎関数という。

射影と包含

$P\colon K^3\to K^2$、$P(x,y,z):=(x,y)$ は線形写像で、$\ker P=\{(0,0,z)\}$、$\operatorname{im}P=K^2$ である。逆向きの $\iota\colon K^2\to K^3$、$\iota(x,y):=(x,y,0)$ も線形で、$\ker\iota=\{0\}$、$\operatorname{im}\iota=\{(x,y,0)\}$ である。$P\circ\iota=\mathrm{id}_{K^2}$ だが $\iota\circ P\ne\mathrm{id}_{K^3}$ である。一般に、$V=W_1\oplus W_2$ と直和に分解されているとき、$x=x_1+x_2$($x_i\in W_i$)に $x_1$ を対応させる写像は $V$ の線形変換であり、$W_2$ に沿った $W_1$ への射影という。

跡と転置

$n$ 次正方行列の跡 $\operatorname{tr}\colon M_n(K)\to K$、$\operatorname{tr}(A):=\sum_{i=1}^{n}a_{ii}$ は線形写像である。転置行列をとる写像 $M_{m,n}(K)\to M_{n,m}(K)$、$A\mapsto A^{\top}$ は線形同型である(線形性は 行列 の記事の命題「転置と演算の関係」、全単射性は $(A^{\top})^{\top}=A$ による)。したがって $M_{m,n}(K)\cong M_{n,m}(K)$ である。

数列のずらし

$K$ の元の数列全体 $K^{\mathbb{N}}$ 上で、右ずらし $R(a_0,a_1,a_2,\ldots):=(0,a_0,a_1,\ldots)$ と左ずらし $L(a_0,a_1,a_2,\ldots):=(a_1,a_2,a_3,\ldots)$ はいずれも線形変換である。$R$ は単射($\ker R=\{0\}$)だが全射でなく(像は第 0 項が $0$ の数列全体)、$L$ は全射だが単射でない($\ker L$ は第 0 項以外が $0$ の数列全体)。$L\circ R=\mathrm{id}$ であるが $R\circ L\ne\mathrm{id}$ である。

反例
  • 平行移動 $f\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2$、$f(x):=x+b$($b\ne0$)は線形でない。$f(0)=b\ne0$ であり、線形写像が必ず満たす $T(0)=0$(prop-linear-map-basic)を破る。
  • $g\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$g(x):=x^2$ は $g(1+1)=4\ne2=g(1)+g(1)$ なので加法性を破り、線形でない。$\mathbb{R}$ から $\mathbb{R}$ への線形写像は $x\mapsto cx$ の形のものに限る($T(x)=T(x\cdot1)=xT(1)$)。
  • 複素共役 $\mathbb{C}\to\mathbb{C}$、$z\mapsto\bar z$ は、$\mathbb{C}$ を $\mathbb{R}$ 上のベクトル空間とみれば線形写像だが($\overline{z+w}=\bar z+\bar w$ であり、$a\in\mathbb{R}$ について $\overline{az}=a\bar z$ である)、$\mathbb{C}$ 上のベクトル空間とみれば $\overline{iz}=-i\bar z\ne i\bar z$ なので斉次性を破り、線形でない。線形性は係数体に依存する。
  • 行列式 $\det\colon M_n(K)\to K$ は $n\ge2$ のとき線形でない。$A=\operatorname{diag}(1,\ldots,1,0)$、$B=\operatorname{diag}(0,\ldots,0,1)$ とおくと、$\det A=\det B=0$ だが $A+B=I_n$ なので $\det(A+B)=1$ であり、加法性を破る($K$ の標数によらない)。
  • 有限次元では単射と全射が同値になる($\dim V=\dim W$ のとき、線形代数学 の記事の定理「次元定理」)が、無限次元では ex-linear-map-differentiation と ex-linear-map-shift のように一方だけが成り立つことがある。破れるのは「$\dim\operatorname{im}T=\dim V$ ならば $\operatorname{im}T=W$」という有限次元特有の推論である。

性質

線形写像の基本性質

$T\colon V\to W$ を線形写像とする。

  1. $T(0)=0$、$T(-x)=-T(x)$、$T(x-y)=T(x)-T(y)$。
  2. 任意の $v_1,\ldots,v_n\in V$、$a_1,\ldots,a_n\in K$ について $T(a_1v_1+\cdots+a_nv_n)=a_1T(v_1)+\cdots+a_nT(v_n)$。
  3. 写像 $T\colon V\to W$ が線形であることと、任意の $x,y\in V$、$a,b\in K$ について $T(ax+by)=aT(x)+bT(y)$ が成り立つことは同値である。
基本性質の証明

1 を示す。斉次性とベクトル空間の記事の命題「スカラー倍の基本規則」により $T(0)=T(0\cdot0)=0\cdot T(0)=0$ である。同じ命題により $-x=(-1)x$ であるから $T(-x)=T((-1)x)=(-1)T(x)=-T(x)$ であり、$T(x-y)=T(x+(-y))=T(x)+T(-y)=T(x)-T(y)$ である。
2 を示す。$n$ についての帰納法による。$n=1$ のときは斉次性そのものである。$n\ge2$ のとき、加法性と帰納法の仮定により
$$ T\Bigl(\sum_{i=1}^{n}a_iv_i\Bigr)=T\Bigl(\sum_{i=1}^{n-1}a_iv_i\Bigr)+T(a_nv_n)=\sum_{i=1}^{n-1}a_iT(v_i)+a_nT(v_n) $$
である。
3 を示す。線形なら 2 により $T(ax+by)=aT(x)+bT(y)$ である。逆にこの等式が成り立つなら、$a=b=1$ として加法性、$b=0$ として($T(0\cdot y)$ の項は $0\cdot T(y)=0$)斉次性を得る。$\square$

核と像は部分空間

線形写像 $T\colon V\to W$ について、$\ker T$ は $V$ の部分空間、$\operatorname{im}T$ は $W$ の部分空間である。さらに、$V$ の部分空間 $U$ の像 $T(U)$ は $W$ の部分空間、$W$ の部分空間 $U'$ の逆像 $T^{-1}(U')$ は $V$ の部分空間である。Axl15

核と像が部分空間であることの証明

$\ker T=T^{-1}(\{0\})$、$\operatorname{im}T=T(V)$ であるから、後半を示せばよい。ベクトル空間の記事の命題「部分空間の判定」の 2 を使う。
$T(U)$ について。$0=T(0)\in T(U)$ である(prop-linear-map-basicの 1、$0\in U$)。$T(u),T(u')\in T(U)$($u,u'\in U$)と $a,b\in K$ に対し、$aT(u)+bT(u')=T(au+bu')$ であり、$U$ が部分空間なので $au+bu'\in U$ であるから、$aT(u)+bT(u')\in T(U)$ である。
$T^{-1}(U')$ について。$T(0)=0\in U'$ より $0\in T^{-1}(U')$ である。$x,y\in T^{-1}(U')$、$a,b\in K$ に対し、$T(ax+by)=aT(x)+bT(y)$ は $U'$ の元の線形結合であるから $U'$ に属し、$ax+by\in T^{-1}(U')$ である。$\square$

単射性と核

線形写像 $T\colon V\to W$ について、$T$ が単射であることと $\ker T=\{0\}$ は同値である。Axl15

単射性と核の証明

$T$ が単射とする。$x\in\ker T$ なら $T(x)=0=T(0)$ であり、単射性から $x=0$ である。よって $\ker T=\{0\}$ である。
逆に $\ker T=\{0\}$ とする。$T(x)=T(y)$ ならprop-linear-map-basicの 1 により $T(x-y)=T(x)-T(y)=0$、すなわち $x-y\in\ker T=\{0\}$ であるから $x=y$ である。よって $T$ は単射である。$\square$

合成と逆写像
  1. 線形写像 $T\colon V\to W$、$S\colon W\to U$ の合成 $S\circ T\colon V\to U$ は線形写像である。
  2. 線形同型 $T\colon V\to W$ の逆写像 $T^{-1}\colon W\to V$ は線形写像であり、したがって線形同型である。
  3. 同型 $\cong$ はベクトル空間の間の同値関係である(反射律・対称律・推移律を満たす)。
    Axl15
合成と逆写像の証明

1 を示す。$x,y\in V$、$a,b\in K$ に対し、$T$ と $S$ の線形性(prop-linear-map-basicの 3 の形)により
$$ (S\circ T)(ax+by)=S(aT(x)+bT(y))=aS(T(x))+bS(T(y))=a(S\circ T)(x)+b(S\circ T)(y) $$
である。
2 を示す。$w,w'\in W$、$a,b\in K$ とし、$x:=T^{-1}(w)$、$x':=T^{-1}(w')$ とおく。$T$ の線形性により $T(ax+bx')=aT(x)+bT(x')=aw+bw'$ であるから、$T^{-1}$ の定義により $T^{-1}(aw+bw')=ax+bx'=aT^{-1}(w)+bT^{-1}(w')$ である。$T^{-1}$ は全単射であるから線形同型である。
3 を示す。恒等写像 $\mathrm{id}_V$ は線形同型であるから $V\cong V$ である。$V\cong W$ なら 2 により $W\cong V$ である。$V\cong W$ かつ $W\cong U$ なら、同型の合成は 1 により線形で、全単射の合成は全単射であるから $V\cong U$ である。$\square$

線形写像のなすベクトル空間

$V,W$ を $K$ 上のベクトル空間とする。$S,T\in\operatorname{Hom}_K(V,W)$、$a\in K$ に対し
$$ (S+T)(x):=S(x)+T(x),\qquad (aT)(x):=a\,T(x)\qquad(x\in V) $$
と定めると、$S+T$、$aT$ は線形写像であり、$\operatorname{Hom}_K(V,W)$ はこの演算によって $K$ 上のベクトル空間になる。また、合成は加法とスカラー倍と両立する。すなわち $S,S'\in\operatorname{Hom}_K(W,U)$、$T,T'\in\operatorname{Hom}_K(V,W)$、$a\in K$ について
$$ (S+S')\circ T=S\circ T+S'\circ T,\qquad S\circ(T+T')=S\circ T+S\circ T',\qquad (aS)\circ T=S\circ(aT)=a(S\circ T) $$
が成り立つ。Axl15

線形写像のなすベクトル空間の証明

$V$ から $W$ への写像全体 $W^V$ は、値ごとの演算によって $K$ 上のベクトル空間である(ベクトル空間の記事の例「関数の空間」)。$\operatorname{Hom}_K(V,W)$ がその部分空間であることを示せばよい。零写像 $x\mapsto0$ は線形である。$S,T$ が線形で $a,b\in K$ なら、$x,y\in V$、$c,d\in K$ に対し
$$ (aS+bT)(cx+dy)=a\bigl(cS(x)+dS(y)\bigr)+b\bigl(cT(x)+dT(y)\bigr)=c(aS+bT)(x)+d(aS+bT)(y) $$
であるから $aS+bT$ は線形である。よってベクトル空間の記事の命題「部分空間の判定」により $\operatorname{Hom}_K(V,W)$ は $W^V$ の部分空間、したがってベクトル空間である。
合成との両立は、各 $x\in V$ で値を比べればよい。たとえば $S\circ(T+T')(x)=S(T(x)+T'(x))=S(T(x))+S(T'(x))$ は $S$ の加法性であり、$(aS)\circ T(x)=aS(T(x))=S(aT(x))$ は $S$ の斉次性である。他も同様である。$\square$

線形写像の像と線形包

$T\colon V\to W$ を線形写像、$S\subset V$ を部分集合とする。

  1. $T(\operatorname{span}(S))=\operatorname{span}(T(S))$。
  2. $S$ が $V$ を生成するなら $\operatorname{im}T=\operatorname{span}(T(S))$ である。とくに $T$ が全射であることと $T(S)$ が $W$ を生成することは同値である。
  3. $T$ が線形同型で $B$ が $V$ の基底なら、$T(B)$ は $W$ の基底である。
像と線形包の証明

1 を示す。$x\in\operatorname{span}(S)$ は $x=\sum_{i}a_is_i$($s_i\in S$)と書け、prop-linear-map-basicの 2 により $T(x)=\sum_ia_iT(s_i)\in\operatorname{span}(T(S))$ である。逆に $\operatorname{span}(T(S))$ の元 $\sum_ia_iT(s_i)$ は $T(\sum_ia_is_i)$ に等しく、$\sum_ia_is_i\in\operatorname{span}(S)$ であるから $T(\operatorname{span}(S))$ に属する。$S=\emptyset$ のときは両辺とも $\{0\}$ である。
2 は 1 で $\operatorname{span}(S)=V$ とおけばよい。$T$ が全射であることは $\operatorname{im}T=W$、すなわち $\operatorname{span}(T(S))=W$ と同値である。
3 を示す。$T$ は単射であるから、線形独立の記事の命題「単射線形写像による保存」により $T(B)$ は線形独立である($T$ が単射なので、$B$ の相異なる元は相異なる元に写り、$T(B)$ を族とみても集合とみても同じである)。$T$ は全射であるから 2 により $T(B)$ は $W$ を生成する。よって $T(B)$ は $W$ の基底である。$\square$

座標写像による同型

$V$ を $K$ 上のベクトル空間、$v_1,\ldots,v_n$ を $V$ の基底とする。写像
$$ \Phi\colon K^n\to V,\qquad \Phi(a_1,\ldots,a_n):=a_1v_1+\cdots+a_nv_n $$
は線形同型である。したがって $n$ 次元のベクトル空間はすべて $K^n$ と同型であり、有限次元のベクトル空間 $V,W$ について $V\cong W$ と $\dim V=\dim W$ は同値である。Axl15

座標写像による同型の証明

$\Phi$ の線形性は、$a=(a_i)$、$b=(b_i)\in K^n$、$c,d\in K$ に対し
$$ \Phi(ca+db)=\sum_{i}(ca_i+db_i)v_i=c\sum_ia_iv_i+d\sum_ib_iv_i=c\Phi(a)+d\Phi(b) $$
となることから従う(ベクトル空間の分配律)。$\Phi$ が単射であることは、線形独立の記事の定理「線形独立性の同値条件」の 4($v_1,\ldots,v_n$ が線形独立であることと $\Phi$ が単射であることの同値)による。$\Phi$ が全射であることは、$v_1,\ldots,v_n$ が $V$ を生成すること、すなわち $\operatorname{im}\Phi=\operatorname{span}\{v_1,\ldots,v_n\}=V$ による。
後半について。$\dim V=\dim W=n$ なら $V\cong K^n\cong W$ であり、prop-linear-map-composition-inverseの 3 により $V\cong W$ である。逆に $T\colon V\to W$ が線形同型なら、$V$ の基底 $B$ の像 $T(B)$ は $W$ の基底であり(prop-linear-map-span-imageの 3)、$T$ が単射なので $T(B)$ の元の個数は $B$ の元の個数に等しい。基底の元の個数は基底の取り方によらない(基底と次元の記事の定理「次元の一意性」)から $\dim V=\dim W$ である。$\square$

基底上の値による決定

$V$ を有限次元のベクトル空間、$v_1,\ldots,v_n$ をその基底、$W$ を任意のベクトル空間とする。任意の $w_1,\ldots,w_n\in W$ に対し、$T(v_j)=w_j$($j=1,\ldots,n$)を満たす線形写像 $T\colon V\to W$ がただ 1 つ存在する。とくに、2 つの線形写像 $S,T\colon V\to W$ がすべての $j$ で $S(v_j)=T(v_j)$ を満たせば $S=T$ である。

基底上の値による決定の証明の所在

証明は 線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」の 1 の証明に含まれる($W$ が有限次元でなくても、$T(\sum_jc_jv_j):=\sum_jc_jw_j$ と定める同じ議論が通用する)。出典は Axl15 Chapter 3 である。この命題により、線形写像は「基底のベクトルをどこへ送るか」という有限個のデータで指定でき、そのデータを並べたものが表現行列である。

次元定理の言明

$V$ を有限次元のベクトル空間、$T\colon V\to W$ を線形写像とすると、$\ker T$ と $\operatorname{im}T$ は有限次元であり
$$ \dim V=\dim\ker T+\dim\operatorname{im}T $$
が成り立つ。とくに $\dim V=\dim W<\infty$ のとき、$T$ について単射・全射・全単射は互いに同値である。

次元定理の証明の所在

証明は 線形代数学 の記事の定理「次元定理」に譲る(出典 Axl15 Chapter 3)。証明の要点は、$\ker T$ の基底を $V$ の基底に延長し、付け加えたベクトルの像が $\operatorname{im}T$ の基底になることを確かめることである。$\dim V=\dim W$ のときの同値性は、行列の言葉では「正方行列 $A$ について、$Ax=0$ が自明な解しかもたないこと、$Ax=b$ が任意の $b$ について解をもつこと、$A$ が正則行列であることの同値」であり、行列式による判定 $\det A\ne0$ と結びつく。

補足

線形写像は圏の言葉では $K$ 上のベクトル空間のなす圏の射であり、$\operatorname{Hom}_K(V,W)$ という記法はこれに由来する。係数を環に広げた加群の間の構造を保つ写像は加群の準同型といい、定義は線形写像と同じである。無限次元のベクトル空間に位相を入れたノルム空間・Hilbert空間の間では、線形写像のうち連続写像であるもの(有界線形作用素)を主に扱い、これが関数解析の対象である。線形写像の一般論は Axl15 Chapter 3、行列との対応を含む扱いは Lan02 Chapter XIII による。

関連項目

参考文献

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