C^r多様体

同義語:C^r級多様体C^r構造C^r manifoldC^r structure

概要

$C^r$ 多様体($C^r$ manifold)とは、座標変換が $r$ 回連続微分可能な同相写像であるアトラスの極大なもの($C^r$ 構造)を指定した位相多様体である($0\le r\le\infty$)。$r=0$ では構造はただ 1 つで位相多様体そのもの、$r=\infty$ では滑らかな多様体である。$s\le r$ なら $C^r$ 構造は $C^s$ 構造を 1 つ定めるが、$C^r$ 多様体の上では $C^k$ 級関数は $k\le r$ でしか意味をもたず、接束は $C^{r-1}$ 多様体になる。$r\ge1$ なら $C^r$ 構造は $C^\infty$ 構造を含み、それは微分同相を除いて一意なので、本質的な差は $r=0$ と $r=1$ の間にある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相多様体, 可微分多様体, 逆関数定理, 連鎖律

多様体の座標変換にどれだけの滑らかさを要求するかで、多様体の「種類」が変わる。座標変換が $r$ 回連続微分可能であるアトラスを指定したものが $C^r$ 多様体($C^r$ manifold)であり、$r=0$ なら座標変換は同相写像であればよいので位相多様体そのもの、$r=\infty$ なら滑らかな多様体(可微分多様体)である。この記事は $r$ を動かす変数として扱い、$r$ を変えると何が変わり何が変わらないかを調べる。
$r$ を下げる向きは簡単である:$C^r$ 構造は $s\le r$ なる $C^s$ 構造を 1 つ定める。一方で、$C^r$ 多様体の上では $C^k$ 級関数という概念は $k\le r$ でしか意味をもたず、接束の自然なアトラスは $C^{r-1}$ 級にしかならない。$r$ を上げる向きについては、$r\ge1$ なら $C^r$ 構造は $C^\infty$ 構造を含み、それは $C^\infty$ 微分同相を除いて一意である(C^r構造の平滑化)。したがって本質的な差は $r=0$ と $r=1$ の間にだけあり、そこには三角形分割や PL 構造が入る(多様体の構造の階層)。

定義

以下、$r$ は $0,1,2,\dots$ または $\infty$ を表し、$\infty-1=\infty$、$k\le\infty$ はすべての $k$ について成り立つと約束する。$\mathbb{R}^n$ の開集合 $U$ から $\mathbb{R}^m$ への写像 $f$ が $C^r$ 級であるとは、$r=0$ なら連続であること、$1\le r<\infty$ なら $r$ 階までのすべての偏微分が存在して連続であること、$r=\infty$ ならすべての有限の $k$ について $C^k$ 級であることをいう(逆関数定理の記事の定義「微分と $C^k$ 級」)。$s\le r$ なら $C^r$ 級は $C^s$ 級であり、$C^r$ 級写像の合成は $C^r$ 級である(連鎖律)。開集合の間の全単射 $f$ で $f$ と $f^{-1}$ がともに $C^r$ 級であるものを $C^r$ 微分同相写像という($r=0$ では同相写像のこと)。

$C^r$ アトラスと $C^r$ 構造

$M$ を $n$ 次元位相多様体とする。

  1. $M$ のアトラス $\mathcal{A}=\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}$ が $C^r$ アトラスであるとは、すべての $\alpha,\beta$ について座標変換 $\varphi_\beta\circ\varphi_\alpha^{-1}\colon\varphi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)\to\varphi_\beta(U_\alpha\cap U_\beta)$ が $C^r$ 級であることをいう($\alpha,\beta$ を入れ替えれば、座標変換は $C^r$ 微分同相写像である)。
  2. 座標近傍 $(U,\varphi)$ が $C^r$ アトラス $\mathcal{A}$ と $C^r$ 級で両立するとは、$\mathcal{A}\cup\{(U,\varphi)\}$ が $C^r$ アトラスであることをいう。$\mathcal{A}$ と $C^r$ 級で両立する座標近傍の全体を $\mathcal{M}_r(\mathcal{A})$ と書く。
  3. $\mathcal{M}_r(\mathcal{A})$ の形の $C^r$ アトラスを $M$ の $C^r$ 構造($C^r$ structure、$C^r$ 級微分構造)といい、位相多様体と $C^r$ 構造の組を $C^r$ 多様体という。$C^r$ 構造に属する座標近傍を $C^r$ 座標近傍という。

$\mathcal{M}_r(\mathcal{A})$ は $\mathcal{A}$ を含むただ 1 つの極大な $C^r$ アトラスであり、2 つの $C^r$ アトラス $\mathcal{A},\mathcal{B}$ について $\mathcal{M}_r(\mathcal{A})=\mathcal{M}_r(\mathcal{B})$ となるのは $\mathcal{A}\cup\mathcal{B}$ が $C^r$ アトラスであるとき、かつそのときに限る。これは可微分多様体の記事の命題「極大アトラスの存在と一意性」であり、そこでは $1\le r$ としているが、証明は「$C^r$ 級写像の合成は $C^r$ 級」「$C^r$ 級であることは局所的な性質」しか使わないので $r=0$ でもそのまま成り立つ。したがって $C^r$ 構造は 1 つの $C^r$ アトラスを与えれば決まる。

$C^k$ 級写像と $C^r$ 微分同相写像の定義

$M$ を $C^r$ 多様体、$N$ を $C^{r'}$ 多様体とし、$k\le\min\{r,r'\}$ とする。連続写像 $f\colon M\to N$ が $C^k$ 級であるとは、$M$ の任意の $C^r$ 座標近傍 $(U,\varphi)$ と $N$ の任意の $C^{r'}$ 座標近傍 $(V,\psi)$ について、局所表示
$$ \psi\circ f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U\cap f^{-1}(V))\to\psi(V) $$
が $C^k$ 級であることをいう。$M,N$ がともに $C^r$ 多様体で、$f$ が全単射、$f$ と $f^{-1}$ がともに $C^r$ 級であるとき、$f$ を $C^r$ 微分同相写像($C^r$ diffeomorphism)といい、$M$ と $N$ は $C^r$ 微分同相であるという。

$C^k$ 級であることは各点のまわりの一組の座標近傍で確かめれば十分であり、$C^k$ 級写像の合成は $C^k$ 級である。証明は可微分多様体の記事の命題「可微分性は座標の取り方によらない」と同じで、そこで使う座標変換が $C^r$ 級・$C^{r'}$ 級であり、$k\le\min\{r,r'\}$ なので合成が $C^k$ 級になる。$k>r$ の $C^k$ 級は、下の prop-crm-ck-functions のとおり、一般には定義できない。

流儀と記事の分担

位相多様体は Hausdorff かつ第 2 可算とする(位相多様体の記事の定義「位相多様体」)。$C^r$ 構造の定義はHir76 Ch. 1 §1(pp. 11–12)、Kos93 Ch. I (1.1)(pp. 1–2)と同じである。Lee13 Ch. 1(p. 15)は $C^k$ 多様体を定義し、$C^0$ 多様体は位相多様体にほかならないと注意している。Hir76 は $r\ge1$ の $C^r$ 多様体を「滑らか」(smooth)と呼ぶ(p. 12)が、この記事では「滑らか」は $C^\infty$ 級だけを指す。
$1\le r\le\infty$ の場合の例(球面・射影空間・直積)、1 の分割、埋め込みなどは可微分多様体の記事が扱う。この記事は $r$ の値の比較を主題とする。座標変換を実解析的とする $C^\omega$ 構造もあるが、この記事では扱わない。

$r=0$ は位相多様体

$C^0$ 構造は位相だけで決まる

$M$ を $n$ 次元位相多様体とする。

  1. $M$ の任意のアトラスは $C^0$ アトラスである。したがって $M$ の $C^0$ 構造はただ 1 つあり、それは $M$ のすべての座標近傍の集合である。
  2. $M,N$ を位相多様体(その唯一の $C^0$ 構造をもつ $C^0$ 多様体)とすると、写像 $f\colon M\to N$ が $C^0$ 級であることと連続であることは同値であり、$C^0$ 微分同相写像とは同相写像のことである。
  1. 座標近傍 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$ について、$\varphi(U\cap V)$ と $\psi(U\cap V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合で、$\psi\circ\varphi^{-1}$ は同相写像の合成なので連続、すなわち $C^0$ 級である。よって任意のアトラスは $C^0$ アトラスであり、任意の座標近傍は任意のアトラスと $C^0$ 級で両立する。ゆえにどのアトラス $\mathcal{A}$ についても $\mathcal{M}_0(\mathcal{A})$ はすべての座標近傍の集合であり、$C^0$ 構造はこれ 1 つである。
  2. def-crm-maps は $f$ の連続性を前提にしているので、$C^0$ 級なら連続である。逆に $f$ が連続なら、任意の座標近傍について局所表示 $\psi\circ f\circ\varphi^{-1}$ は開集合 $\varphi(U\cap f^{-1}(V))$ 上の連続写像の合成なので $C^0$ 級である。後半は、$C^0$ 微分同相写像が「$f$ と $f^{-1}$ がともに連続な全単射」であることからわかる。$\square$

つまり $C^0$ 多様体という言い方は、位相多様体に何も付け加えない。$r\ge1$ では事情が変わり、1 つの位相多様体の上に $C^r$ 構造が複数ありうる(可微分多様体の記事の注意「反例:両立しない滑らかなアトラス」。$t\mapsto t^3$ を座標にする $\mathbb{R}$ の構造)し、1 つもないこともある(多様体の構造の階層)。

$r$ を下げる:下にある $C^s$ 構造

下にある $C^s$ 構造

$s\le r$ とし、$M$ を位相多様体とする。

  1. $M$ の $C^r$ アトラス $\mathcal{A}$ は $C^s$ アトラスであり、$\mathcal{M}_r(\mathcal{A})\subset\mathcal{M}_s(\mathcal{A})$ である。
  2. $C^r$ アトラス $\mathcal{A},\mathcal{B}$ が同じ $C^r$ 構造を定めるなら、同じ $C^s$ 構造を定める。したがって $C^r$ 構造 $\mathcal{S}$ に対し、$\mathcal{S}$ を含む $C^s$ 構造 $\mathcal{S}^{(s)}:=\mathcal{M}_s(\mathcal{S})$ がただ 1 つ定まる。これを $\mathcal{S}$ の下にある $C^s$ 構造という。$\mathcal{S}^{(0)}$ は $M$ の唯一の $C^0$ 構造である。
  3. $M,N$ を $C^r$ 多様体とし、下にある $C^s$ 構造で $C^s$ 多様体とみなす。$k\le s$ について、$f\colon M\to N$ が $C^r$ 多様体の間の写像として $C^k$ 級であることと、$C^s$ 多様体の間の写像として $C^k$ 級であることは同値である。とくに $C^r$ 微分同相写像は $C^s$ 微分同相写像である。
  1. 座標変換は $C^r$ 級なので $C^s$ 級である。$(U,\varphi)\in\mathcal{M}_r(\mathcal{A})$ なら $\mathcal{A}\cup\{(U,\varphi)\}$ は $C^r$ アトラス、したがって $C^s$ アトラスなので $(U,\varphi)\in\mathcal{M}_s(\mathcal{A})$ である。
  2. $\mathcal{M}_r(\mathcal{A})=\mathcal{M}_r(\mathcal{B})$ なら、可微分多様体の記事の命題「極大アトラスの存在と一意性」の 3 により $\mathcal{A}\cup\mathcal{B}$ は $C^r$ アトラスであり、1 により $C^s$ アトラスである。同じ命題を $C^s$ について使えば $\mathcal{M}_s(\mathcal{A})=\mathcal{M}_s(\mathcal{B})$ である。$\mathcal{S}=\mathcal{M}_r(\mathcal{A})$ なら 1 により $\mathcal{S}\subset\mathcal{M}_s(\mathcal{A})$ で、$\mathcal{S}$ は $\mathcal{A}$ を含む $C^s$ アトラスなので $\mathcal{M}_s(\mathcal{S})=\mathcal{M}_s(\mathcal{A})$ である。$\mathcal{S}$ を含む $C^s$ 構造は $\mathcal{S}$ を含む極大な $C^s$ アトラスなので、極大アトラスの一意性によりこれに限る。$s=0$ の主張は prop-crm-c0 による。
  3. $C^r$ 多様体としての $C^k$ 級は $C^r$ 座標近傍($\mathcal{S}$ の元)での局所表示で、$C^s$ 多様体としての $C^k$ 級は $C^s$ 座標近傍($\mathcal{S}^{(s)}$ の元)での局所表示で定義される。$\mathcal{S}\subset\mathcal{S}^{(s)}$ なので、後者なら前者である。前者を仮定し、$(U',\varphi')\in\mathcal{S}^{(s)}$、$(V',\psi')\in\mathcal{S}_N^{(s)}$ とする。各点 $x\in\varphi'(U'\cap f^{-1}(V'))$ で、$p=\varphi'^{-1}(x)$ を含む $(U,\varphi)\in\mathcal{S}$ と $f(p)$ を含む $(V,\psi)\in\mathcal{S}_N$ をとると、$x$ の近傍で
    $$ \psi'\circ f\circ\varphi'^{-1}=(\psi'\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ f\circ\varphi^{-1})\circ(\varphi\circ\varphi'^{-1}) $$
    であり、両端は $C^s$ 構造の中の座標変換なので $C^s$ 級、中央は仮定により $C^k$ 級である。$k\le s$ なので合成は $C^k$ 級である。$\square$

こうして、$C^\infty$ 多様体 → $C^r$ 多様体 → $C^s$ 多様体 → 位相多様体($\infty\ge r\ge s\ge0$)という「忘れる」向きの対応が得られる。位相多様体 $M$ の $C^r$ 構造の集合を $\mathrm{Str}_r(M)$ と書くと、写像 $\mathrm{Str}_r(M)\to\mathrm{Str}_s(M)$、$\mathcal{S}\mapsto\mathcal{S}^{(s)}$ がある。これは単射でも全射でもないが、その「ずれ」は次のとおりである。

  • 単射でない:次の例のとおり、異なる $C^\infty$ 構造が同じ $C^1$ 構造を定めることがある。ただし、同じ $C^s$ 構造($s\ge1$)の下にある 2 つの $C^\infty$ 構造は、恒等写像ではなくても $C^\infty$ 微分同相である(C^r構造の平滑化の定理「平滑化の一意性」)。
  • 全射かどうか:$s\ge1$ なら、任意の $C^s$ 構造はある $C^\infty$ 構造の下にある(C^r構造の平滑化の定理「平滑化の存在」)。$s=0$ では全射でなく、$C^1$ 構造をもたない位相多様体がある(多様体の構造の階層)。
同じ $C^1$ 構造の下にある 2 つの $C^\infty$ 構造

$\psi\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $\psi(t):=t+t\lvert t\rvert$ で定める。$t\ge0$ で $\psi(t)=t+t^2$、$t\le0$ で $\psi(t)=t-t^2$ なので、$\psi$ は微分可能で $\psi'(t)=1+2\lvert t\rvert\ge1$ は連続、すなわち $\psi$ は $C^1$ 級である。しかし $\psi'$ は $t=0$ で微分可能でない(右微分係数 $2$、左微分係数 $-2$)ので、$\psi$ は $C^2$ 級でない。$\psi$ は狭義単調増加で $\psi(t)\to\pm\infty$($t\to\pm\infty$)なので全単射であり、$\psi'$ が消えないので逆関数定理の記事の系「微分がいたるところ正則な写像」により $\psi$ は $C^1$ 微分同相写像である。
$\mathcal{A}:=\{(\mathbb{R},\mathrm{id})\}$ と $\mathcal{B}:=\{(\mathbb{R},\psi)\}$ はどちらも座標近傍 1 つのアトラスなので $C^\infty$ アトラスである。座標変換 $\psi\circ\mathrm{id}^{-1}=\psi$ とその逆 $\psi^{-1}$ は $C^1$ 級なので $\mathcal{A}\cup\mathcal{B}$ は $C^1$ アトラスであり、$\mathcal{M}_1(\mathcal{A})=\mathcal{M}_1(\mathcal{B})$ である。一方 $\psi$ は $C^2$ 級でないので $\mathcal{A}\cup\mathcal{B}$ は $C^2$ アトラスでなく、$\mathcal{M}_\infty(\mathcal{A})\ne\mathcal{M}_\infty(\mathcal{B})$ である。
満たす性質は「$\mathcal{M}_\infty(\mathcal{A})$ と $\mathcal{M}_\infty(\mathcal{B})$ の下にある $C^1$ 構造が一致する」こと、満たさない性質は「$\mathcal{M}_\infty(\mathcal{A})=\mathcal{M}_\infty(\mathcal{B})$」であり、破る含意は「下にある $C^1$ 構造が一致する $C^\infty$ 構造は一致する」、すなわち $\mathrm{Str}_\infty(\mathbb{R})\to\mathrm{Str}_1(\mathbb{R})$ の単射性である。なお $\psi\colon(\mathbb{R},\mathcal{M}_\infty(\mathcal{B}))\to(\mathbb{R},\mathcal{M}_\infty(\mathcal{A}))$ は局所表示が恒等写像なので $C^\infty$ 微分同相写像であり、2 つの構造は微分同相である。

$C^k$ 級関数は $k\le r$ でしか定まらない

$C^r$ 多様体 $M$ 上の関数 $f\colon M\to\mathbb{R}$ が $C^k$ 級であることを、$k\le r$ なら def-crm-maps で定義した。$k>r$ でも「ある $C^r$ 座標近傍での局所表示が $C^k$ 級」と定義したくなるが、これは座標近傍の取り方に左右される。

$C^k$ 級関数は $k\le r$ でしか定まらない

$r<\infty$ とし、$\mathbb{R}$ に標準の $C^r$ 構造 $\mathcal{S}:=\mathcal{M}_r(\{(\mathbb{R},\mathrm{id})\})$ を入れる。$k>r$ とすると、$\mathcal{S}$ の 2 つの座標近傍 $(\mathbb{R},\varphi_1)$、$(\mathbb{R},\varphi_2)$ と関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ で、$f\circ\varphi_1^{-1}$ は $C^\infty$ 級だが $f\circ\varphi_2^{-1}$ は $C^{r+1}$ 級でないものがある。したがって「$C^r$ 多様体上の関数が $C^k$ 級である」ことは、$k>r$ では $C^r$ 構造だけからは決まらない。

$r=0$ は最後に別に扱い、まず $r\ge1$ とする。$t_+:=\max\{t,0\}$ とおき、
$$ \psi_r(t):=t+\frac{t_+^{\,r+1}}{r+1} $$
と定める。$g(t):=t_+^{\,r}$ は $j\le r-1$ 階まで微分できて $g^{(j)}(t)=\frac{r!}{(r-j)!}\,t_+^{\,r-j}$ は連続であり、$g^{(r-1)}(t)=r!\,t_+$ は $t=0$ で右微分係数 $r!$、左微分係数 $0$ をもつので微分可能でない。したがって $g$ は $C^{r-1}$ 級だが $C^r$ 級でない。$\psi_r$ は微分可能で $\psi_r'=1+g$ なので、$\psi_r$ は $C^r$ 級だが $C^{r+1}$ 級でない。$\psi_r'(t)=1+t_+^{\,r}\ge1$ なので $\psi_r$ は狭義単調増加で、$\psi_r(t)\to\pm\infty$($t\to\pm\infty$)より全単射であり、逆関数定理の記事の系「微分がいたるところ正則な写像」により $\psi_r$ は $C^r$ 微分同相写像である。
$\varphi_1:=\mathrm{id}$、$\varphi_2:=\psi_r$ とすると、どちらも $\mathrm{id}$ と $C^r$ 級で両立するので $\mathcal{S}$ に属する。$f:=\mathrm{id}_{\mathbb{R}}$ とすると $f\circ\varphi_1^{-1}=\mathrm{id}$ は $C^\infty$ 級である。$f\circ\varphi_2^{-1}=\psi_r^{-1}$ が $C^{r+1}$ 級だとすると、その微分は消えないので、逆関数定理の記事の定理「逆関数定理」の 3 により逆写像 $\psi_r$ も $C^{r+1}$ 級になり矛盾する。
$r=0$ のとき。$\varphi_2(t):=t^3$ は $\mathbb{R}$ の同相写像なので $\mathcal{S}$(すべての座標近傍の集合、prop-crm-c0)に属する。$f\circ\varphi_2^{-1}(s)=s^{1/3}$ は $s=0$ で微分可能でないので $C^1$ 級でない。$\square$

$C^r$ 多様体の上で意味をもつ滑らかさは「$r$ 以下」である。これが、$C^r$ 多様体($1\le r<\infty$)をそのまま使うと不便な理由の 1 つであり、平滑化の定理によって $C^\infty$ 構造に取り替えてから議論するのが普通である。

接束は 1 つ次数が下がる

$C^r$ 多様体($r\ge1$)$M$ の各点 $p$ の接空間 $T_pM$ は、座標近傍ごとの接ベクトルの表示を座標変換の微分で同一視して定義される。すなわち $p$ を含む $C^r$ 座標近傍 $(U,\varphi)$ と $v\in\mathbb{R}^n$ の組 $(\varphi,v)$ に、$(\psi,w)\sim(\varphi,v)\iff w=D(\psi\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))\,v$ という同値関係を入れた同値類の集合が $T_pM$ である(連鎖律によりこれは同値関係である)。$TM:=\bigsqcup_pT_pM$ とし、$TU:=\bigsqcup_{p\in U}T_pM$、$\Phi_\varphi\colon TU\to\varphi(U)\times\mathbb{R}^n$、$[\varphi,v]_p\mapsto(\varphi(p),v)$ とおく。$r=\infty$ の場合は接束の記事の定義「接束」と同じものである。

接束の自然なアトラスは $C^{r-1}$ 級

$1\le r\le\infty$ とし、$M$ を $n$ 次元 $C^r$ 多様体とする。

  1. $\{(TU,\Phi_\varphi)\}$($(U,\varphi)$ は $M$ の $C^r$ 座標近傍を動く)の座標変換は
    $$ \Phi_\psi\circ\Phi_\varphi^{-1}(x,v)=\bigl(\tau(x),\ D\tau(x)\,v\bigr),\qquad\tau:=\psi\circ\varphi^{-1} $$
    であり、$C^{r-1}$ 級である。これにより $TM$ は $2n$ 次元の $C^{r-1}$ 多様体になり、射影 $TM\to M$ は $C^{r-1}$ 級である。
  2. $C^r$ 多様体の間の $C^r$ 級写像 $f\colon M\to N$ の微分 $df\colon TM\to TN$ は $C^{r-1}$ 級である。
  3. 1 の座標変換は一般には $C^r$ 級でない:$\mathbb{R}$ に標準の $C^1$ 構造を入れると、$T\mathbb{R}$ の自然なアトラスは $C^0$ アトラスだが $C^1$ アトラスではない。
  1. $(x,v)\in\varphi(U\cap V)\times\mathbb{R}^n$ に対し $\Phi_\varphi^{-1}(x,v)=[\varphi,v]_p$($p=\varphi^{-1}(x)$)であり、同値関係の定義から $[\varphi,v]_p=[\psi,D\tau(x)v]_p$ なので、式が成り立つ。$\tau$ は $C^r$ 級なので $D\tau$ は $C^{r-1}$ 級の行列値関数であり、$(x,v)\mapsto D\tau(x)v$ は $C^{r-1}$ 級関数と $v$ の成分との積の和なので $C^{r-1}$ 級である。$\Phi_\varphi$ は全単射で像 $\varphi(U)\times\mathbb{R}^n$ は開集合、$\Phi_\varphi(TU\cap TV)=\varphi(U\cap V)\times\mathbb{R}^n$ も開集合である。接束の記事の補題「座標の貼り合わせによる多様体の構成」の証明は、条件 3 のうち「座標変換が開集合の間の同相写像である」ことしか使わない($C^{r-1}$ 級で $r-1\ge0$ なら満たす)。可算個の $C^r$ 座標近傍で $M$ が覆われ(位相多様体の記事の命題「多様体の基本的な位相的性質」の 4)、異なる 2 点の分離の条件も $M$ の Hausdorff 性から従うので、同じ証明により $TM$ は $2n$ 次元位相多様体になり、座標変換が $C^{r-1}$ 級なので上の族は $C^{r-1}$ アトラスである。射影の局所表示は $(x,v)\mapsto x$ で $C^\infty$ 級である。
  2. $p\in U$、$f(p)\in V$ となる座標近傍について、$df$ の局所表示は $(x,v)\mapsto\bigl(F(x),DF(x)v\bigr)$、$F:=\psi\circ f\circ\varphi^{-1}$ であり、$F$ が $C^r$ 級なので $C^{r-1}$ 級である。
  3. ex-crm-psi の $\psi$ と $\mathrm{id}$ は標準の $C^1$ 構造に属する。対応する座標変換は $(x,v)\mapsto(\psi(x),\psi'(x)v)$ であり、第 2 成分の $x$ による偏微分 $\psi''(x)v$ は $x=0$、$v\ne0$ で存在しない($\psi'$ が $0$ で微分可能でない)ので、$C^1$ 級でない。$\square$

$r=\infty$ なら $\infty-1=\infty$ なので、接束は再び $C^\infty$ 多様体である。$1\le r<\infty$ では、自然なアトラスで考えると、接束をとるたびに次数が 1 つ下がり、$r$ 回とると位相多様体しか残らない。Hir76 は $\mathbb{R}^{n+k}$ の $C^r$ 部分多様体の接束が $C^{r-1}$ 部分多様体であることを注意している(Ch. 1 冒頭、p. 11)。$C^\infty$ の圏が「微分をとる操作で閉じている」ことは、$C^\infty$ 構造だけを考える大きな理由である(Hir76 Ch. 2 §2、p. 52)。

$C^r$ 同相写像と $C^r$ 微分同相写像

$C^r$ 級の同相写像は $C^r$ 微分同相写像とは限らない。区別するのは微分が可逆かどうかだけである。

$C^r$ 微分同相写像の判定

$1\le r\le\infty$ とし、$M,N$ を $n$ 次元 $C^r$ 多様体、$f\colon M\to N$ を $C^r$ 級の同相写像とする。$f$ が $C^r$ 微分同相写像であることと、すべての点 $p$ で局所表示の Jacobi 行列 $D(\psi\circ f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))$ が正則であることは同値である。

$f$ が $C^r$ 微分同相写像なら、$f^{-1}\circ f=\mathrm{id}$ の局所表示に連鎖律を使うと $D(\varphi\circ f^{-1}\circ\psi^{-1})\,D(\psi\circ f\circ\varphi^{-1})=I$ なので Jacobi 行列は正則である。逆に正則とする。$f^{-1}$ が $C^r$ 級であることを各点 $q=f(p)$ の近くで示せばよい。$p\in U$、$q\in V$ となる座標近傍をとり、$W:=\varphi(U\cap f^{-1}(V))$、$F:=\psi\circ f\circ\varphi^{-1}\colon W\to\mathbb{R}^n$ とおく。$F$ は $C^r$ 級、単射($f$ が単射)で、$DF$ はいたるところ正則なので、逆関数定理の記事の系「微分がいたるところ正則な写像」の 2 により $F(W)$ は開集合で、$F^{-1}\colon F(W)\to W$ は $C^r$ 級である。$F(W)=\psi(f(U)\cap V)$ であり、$f^{-1}$ の局所表示 $\varphi\circ f^{-1}\circ\psi^{-1}$ はこの開集合の上で $F^{-1}$ に等しいので $C^r$ 級である。$\square$

反例:微分が消える同相写像

$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$、$f(t)=t^3$ は $C^\infty$ 級の同相写像だが、$f'(0)=0$ なので、prop-crm-diffeo-criterion により(どの $r\ge1$ についても)$C^r$ 微分同相写像でない。実際 $f^{-1}(s)=s^{1/3}$ は $s=0$ で微分可能でない。満たす性質は「$C^\infty$ 級の同相写像である」こと、満たさない性質は「$C^1$ 微分同相写像である」ことであり、破る含意は「$C^r$ 級の同相写像は $C^r$ 微分同相写像である」である。

例と反例

$C^0$(位相多様体)$C^r$($1\le r<\infty$)$C^\infty$
座標変換同相写像$C^r$ 微分同相写像$C^\infty$ 微分同相写像
1 つの位相多様体上の構造の数ちょうど 1 つ0 個のことも複数のこともある0 個のことも複数のこともある
意味をもつ関数の滑らかさ連続のみ$C^k$($k\le r$)すべての $C^k$
接束定義しない$C^{r-1}$ 多様体$C^\infty$ 多様体
上の段への持ち上げ一般にはできない$C^\infty$ 構造へ持ち上がり、$C^\infty$ 微分同相を除いて一意―
$C^r$ 多様体の例
  1. $\mathbb{R}^n$ の開集合 $W$ は、包含写像 1 つのアトラスで $C^\infty$ 多様体、したがって prop-crm-underlying により各 $r$ について $C^r$ 多様体である。$W$ の標準の $C^r$ 構造の座標近傍は、$W$ の開集合から $\mathbb{R}^n$ の開集合への $C^r$ 微分同相写像にほかならない。
  2. $C^r$ 級関数 $g\colon\mathbb{R}^{n+1}\to\mathbb{R}$($r\ge1$)について $0$ が正則値なら、$g^{-1}(0)$ は陰関数定理による局所的なグラフ表示を座標近傍として $n$ 次元 $C^r$ 多様体になる(座標変換は $C^r$ 級関数のグラフへの射影の合成なので $C^r$ 級)。
  3. ex-crm-psi の $\mathcal{A}\cup\mathcal{B}=\{(\mathbb{R},\mathrm{id}),(\mathbb{R},\psi)\}$ は $C^1$ アトラスだが $C^2$ アトラスではない。このアトラス自身は $C^\infty$ アトラスでないが、定める $C^1$ 構造は $C^\infty$ アトラス $\{(\mathbb{R},\mathrm{id})\}$ を含む。
外す条件反例成り立たなくなること
$k\le r$標準の $C^1$ 構造の $\mathbb{R}$ と、座標 $\mathrm{id}$・$\psi_1$(prop-crm-ck-functions)関数が $C^k$ 級かどうかが $C^r$ 構造だけで決まる
$r=\infty$(有限の $r$ では)標準の $C^1$ 構造の $\mathbb{R}$ の接束(prop-crm-tangent の 3)接束の自然なアトラスが同じ次数 $C^r$ である
微分の正則性$t\mapsto t^3$(ex-crm-cube)$C^r$ 級の同相写像は $C^r$ 微分同相写像
$r\ge1$滑らかな構造をもたない位相多様体(C^r構造の平滑化の反例の表)$C^r$ 構造は $C^\infty$ 構造を含む
$C^\infty$ 構造の一致ex-crm-psi の $\mathcal{A}$ と $\mathcal{B}$下にある $C^1$ 構造が一致すれば $C^\infty$ 構造が一致する

補足

$r$ を上げる向きの主定理は Whitney(Whi36 §8 Theorem 1、p. 654)による:$r\ge1$ の $C^r$ 多様体は、Euclid 空間の実解析的な部分多様体と $C^r$ 微分同相である。とくに $C^r$ 構造は $C^\infty$ 構造を含む。この記事の定義に合わせた形(存在と一意性)は Hir76 Ch. 2 Theorem 2.9・2.10(pp. 51–52)にあり、Kos93 Ch. I §1 は、これを理由に以後 $C^\infty$ 構造と $C^\infty$ 微分同相だけを扱うと述べている(pp. 2, 5)。記事内での完全な証明はC^r構造の平滑化にある。
$r=0$ と $r\ge1$ の間には、区分線形(PL)構造・三角形分割・Lipschitz 構造といった中間の構造があり、それらの関係は多様体の構造の階層で扱う。

関連項目

参考文献

[1]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 1 の §1 の前(p. 11、R^{n+k} の C^r 部分多様体の接束は C^{r-1})、Ch. 1 §1(pp. 11–12、C^r アトラスと C^r 構造、C^s 構造は C^r 構造を定める(1≤r<s)、r≥1 を smooth と呼ぶ)、Ch. 2 §2 Theorem 2.9・2.10(pp. 51–52、C^r 構造の平滑化と C^∞ 圏の利点)
[2]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. I (1.1)(pp. 1–2、C^r アトラスと C^r 構造、Whitney による C^∞ 構造の存在の注意)、Ch. I §1(p. 5、C^r 微分同相な滑らかな多様体は C^∞ 微分同相という注意、(1.7) の直前)
[3]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2013, Ch. 1(p. 15、C^k 構造と C^k 多様体、C^0 多様体は位相多様体という注意)
[4]
Hassler Whitney, Differentiable manifolds, Annals of Mathematics, Annals of Mathematics (2) 37 (1936), no. 3, 645–680。§8 Theorem 1(r≥1 の C^r 多様体は Euclid 空間の解析的な多様体と C^r 同相、p. 654)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する