Abel–Jacobiの定理(Abel–Jacobi theorem)とは、種数 $g\ge1$ のコンパクトなリーマン面 $X$ について、次数 $0$ の因子 $D$ が主因子であることと、正則 1 形式の積分 $u(D)$ が周期格子を法として $0$ になることが同値であり(Abel)、$u$ が Jacobi 多様体 $\operatorname{Jac}(X)$ への全射である(Jacobi の逆問題)という定理である。したがって次数 $0$ の因子類の群 $\operatorname{Pic}^0(X)$ は $g$ 次元の複素トーラス $\operatorname{Jac}(X)$ と同型である。帰結として曲線は Jacobi 多様体に埋め込まれ、種数 $1$ の曲線は複素トーラスである。
Abel–Jacobiの定理(Abel–Jacobi theorem)は、種数 $g\ge1$ のコンパクトなリーマン面 $X$ の上で、次数 $0$ の因子が主因子であるかどうかを正則 1 形式の積分の値で判定でき(Abel の定理)、その積分の値が Jacobi 多様体 $\operatorname{Jac}(X)$ のすべての点をとる(Jacobi の逆問題)という定理である。合わせると、次数 $0$ の因子類の群 $\operatorname{Pic}^0(X)$ と $g$ 次元の複素トーラス $\operatorname{Jac}(X)$ が積分によって群として同型になる。
種数 $1$ の $X=\mathbb{C}/\Lambda$ では、これは「楕円関数の零点の和と極の和の差は $\Lambda$ に属し、逆にこの条件をみたす配置は楕円関数で実現される」という古典的な事実になる(ex-ajt-genus-one)。この記事では、正則直線束と指数完全列を使って定理全体を証明し、帰結として曲線が自分の Jacobi 多様体に埋め込まれることを示す。高次元の多様体のサイクルを中間 Jacobi 多様体に写す Abel–Jacobi写像(Griffiths)は、この定理の曲線の場合を出発点とする別の対象である。
この記事では $X$ を種数 $g\ge1$ の連結なコンパクトなリーマン面とし、記号は Jacobi多様体 に合わせる。$\Omega(X)$ を正則 1 形式の空間($\dim_{\mathbb{C}}\Omega(X)=g$)、閉曲線 $\gamma$ に $\bigl(\omega\mapsto\int_\gamma\omega\bigr)\in\Omega(X)^\vee$ を対応させた元の全体を周期格子 $\Lambda_X$ とし、
$$
\operatorname{Jac}(X):=\Omega(X)^\vee/\Lambda_X
$$
とおく。$\Lambda_X$ は $\Omega(X)^\vee$ の格子で、$\operatorname{Jac}(X)$ は $g$ 次元のコンパクトな複素トーラスである(Jacobi多様体 の命題「周期格子は格子」)。
基点 $P_0\in X$ を固定し、$P\in X$ に $P_0$ から $P$ への道 $\gamma$ をとって $u(P):=\bigl(\omega\mapsto\int_\gamma\omega\bigr)\bmod\Lambda_X$ とおき、因子 $D=\sum n_PP$ に $u(D):=\sum n_Pu(P)$ を対応させる。$u(P)$ は道によらず、$u\colon X\to\operatorname{Jac}(X)$ は正則であり、次数 $0$ の因子の群 $\operatorname{Div}^0(X)$ の上で $u$ は基点によらない準同型である(Jacobi多様体 の定義「Abel–Jacobi 写像」と命題「Abel–Jacobi 写像は well-defined」)。主因子の群を $\operatorname{Prin}(X)$、$\operatorname{Pic}^0(X):=\operatorname{Div}^0(X)/\operatorname{Prin}(X)$ とする。
$X$ を種数 $g\ge1$ のコンパクトなリーマン面とする。
$D=\sum_{i=1}^m(P_i-Q_i)$ と書けば、1 は「$D$ が主因子であるのは、閉曲線 $\gamma$ があってすべての $\omega\in\Omega(X)$ について $\sum_i\int_{Q_i}^{P_i}\omega=\int_\gamma\omega$ となるとき、かつそのときに限る」と読める。1 の「主因子なら $u(D)=0$」を Abel の定理の易しい向き、逆を難しい向きと呼ぶことがある。2 は cor-ajt-inversion でより精密な形($g$ 個の点の和で書ける)にする。証明は節「証明」で与える(Dem12 Ch. VI §9.1 と §10.2 も同じ筋をとる)。
$X$ 上の正則直線束の同型類の群は $H^1(X,\mathcal{O}^*)$ と同一視される(Picard群 の定理「1次コホモロジーとの同型」。$\mathcal{O}^*$ は零にならない正則関数の乗法群の層で、群の演算を加法で書く)。因子 $D$ に対し、開被覆 $(U_i)$ と $U_i$ 上の有理型関数 $f_i$ で $\operatorname{div}(f_i)=D|_{U_i}$ となるもの(局所方程式)をとると、余輪体 $g_{ij}:=f_i/f_j\in\mathcal{O}^*(U_i\cap U_j)$ の類 $[\mathcal{O}(D)]$ は局所方程式の選び方によらず($f_i$ を $v_if_i$、$v_i\in\mathcal{O}^*(U_i)$ に替えても余境界だけ変わる)、$[\mathcal{O}(D+D')]=[\mathcal{O}(D)]+[\mathcal{O}(D')]$ である。
因子 $D$ について、$[\mathcal{O}(D)]=0$ であることと $D$ が主因子であることは同値である。
$D=\operatorname{div}(F)$ なら局所方程式として $f_i=F|_{U_i}$ がとれ、$g_{ij}=1$ である。逆に $[\mathcal{O}(D)]=0$ なら、被覆を細分して $g_{ij}=h_ih_j^{-1}$($h_i\in\mathcal{O}^*(U_i)$)と書ける。$U_i\cap U_j$ の上で $f_i/h_i=f_j/h_j$ なので、$f_i/h_i$ は $X$ 上の有理型関数 $F$ に貼り合い、$\operatorname{div}(F)|_{U_i}=\operatorname{div}(f_i)=D|_{U_i}$ である。$\square$
$e(f):=\exp(2\pi if)$ により層の完全列 $0\to\mathbb{Z}\to\mathcal{O}\xrightarrow{e}\mathcal{O}^*\to1$ が得られる(零にならない正則関数は円板の上で正則な対数をもつ)。$X$ はコンパクトで連結なので $H^0(X,\mathcal{O})=\mathbb{C}$、$H^0(X,\mathcal{O}^*)=\mathbb{C}^*$ で(複素多様体 の命題「コンパクト複素多様体上の正則関数」)、$e\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}^*$ は全射である。よって層コホモロジーの長完全列は
$$
0\to H^1(X,\mathbb{Z})\to H^1(X,\mathcal{O})\xrightarrow{e}H^1(X,\mathcal{O}^*)\xrightarrow{\delta}H^2(X,\mathbb{Z})
$$
となる。$\mathcal{P}_0(X):=\ker\delta$(第 1 Chern 類が $0$ の直線束の類の群)とおくと、$e$ は同型 $H^1(X,\mathcal{O})/H^1(X,\mathbb{Z})\cong\mathcal{P}_0(X)$ を誘導する。
$H^1(X,\mathcal{O})$ は次のように $\Omega(X)^\vee$ と同一視される。Dolbeaultの定理 の定理「Dolbeault 同型の $q=1$ での具体的な形」により、$\mathcal{O}$ の Čech 1 余輪体 $(c_{ij})$ は、$c_{ij}=\varphi_j-\varphi_i$ となる $U_i$ 上の滑らかな関数 $\varphi_i$ をとったときの $(0,1)$ 形式 $\beta|_{U_i}:=\bar\partial\varphi_i$ の Dolbeault 類に対応し、同型 $H^1(X,\mathcal{O})\cong H^{0,1}_{\bar\partial}(X)$ を与える。Serre双対性 の系「コンパクト Riemann 面」により $[\beta]\mapsto\bigl(\omega\mapsto\int_X\omega\wedge\beta\bigr)$ は同型 $H^{0,1}_{\bar\partial}(X)\cong\Omega(X)^\vee$ である。この合成を $\Theta\colon H^1(X,\mathcal{O})\xrightarrow{\sim}\Omega(X)^\vee$ と書く。
$\Theta$ は $H^1(X,\mathbb{Z})$ の $H^1(X,\mathcal{O})$ における像を $\Lambda_X$ の上へ写す。したがって $\iota(e(c)):=\Theta(c)\bmod\Lambda_X$ により群の同型 $\iota\colon\mathcal{P}_0(X)\xrightarrow{\sim}\operatorname{Jac}(X)$ が定まる。
要点:$H^1(X,\mathbb{Z})$ の像は、周期がすべて整数の実の閉 1 形式 $\eta$ の $(0,1)$ 成分の類であり、$\Theta$ はそれを $\omega\mapsto\int_X\omega\wedge\eta$ に写す。整係数の Poincaré 双対により、この形の汎関数の全体は閉曲線上の積分 $\omega\mapsto\int_\gamma\omega$ の全体に一致する。比べるのは部分群としての像だけで、$\Lambda_X=-\Lambda_X$ なので符号の規約は結論に影響しない。
(1)$L\subset H^1_{dR}(X,\mathbb{R})$ を、すべての $\gamma\in H_1(X,\mathbb{Z})$ で $\int_\gamma\eta\in\mathbb{Z}$ となる類 $[\eta]$ の全体とする。層係数と特異コホモロジーの比較と de Rhamの定理(同記事の注意「境界付き多様体と層論的証明」)により、$H^1(X,\mathbb{Z})\to H^1(X,\mathbb{R})=H^1_{dR}(X,\mathbb{R})$ の像は $L$ である(普遍係数定理により $H^1(X,\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(H_1(X,\mathbb{Z}),\mathbb{Z})$)。$H_1(X,\mathbb{Z})$ の基底 $\gamma_1,\dots,\gamma_{2g}$ について、de Rhamの定理 の系「周期による判定」により $\int_{\gamma_k}\eta_l=\delta_{kl}$ となる実の閉形式 $\eta_l$ があり、$[\eta_1],\dots,[\eta_{2g}]$ は $L$ の $\mathbb{Z}$ 基底で $H^1_{dR}(X,\mathbb{R})$ の $\mathbb{R}$ 基底である。層の写像 $\mathbb{C}\to\mathcal{O}$ は de Rham 分解から Dolbeault 分解への複体の写像 $\alpha\mapsto\alpha^{0,k}$($(0,k)$ 成分)に延び、分解による計算の自然性から $H^1(X,\mathbb{C})\to H^1(X,\mathcal{O})$ は $[\eta]\mapsto[\eta^{0,1}]$ に対応する(Dem12 Ch. VI Lemma (9.4) の証明)。$\omega\wedge\eta^{1,0}=0$ なので、$H^1(X,\mathbb{Z})$ の像の $\Theta$ による像は $\{\omega\mapsto\int_X\omega\wedge\eta\mid[\eta]\in L\}$ である。
(2)$\langle[\alpha],[\eta]\rangle:=\int_X\alpha\wedge\eta$ はカップ積を基本類で評価したものであり(Poincaré双対性 の定理「de Rham コホモロジーの双対」)、Poincaré双対性 の命題「整係数のカップ積の対」により $L\times L$ の上で整数値で、$L\to\operatorname{Hom}(L,\mathbb{Z})$、$[\eta]\mapsto\langle-,[\eta]\rangle$ は同型である。一方 $\gamma\mapsto\bigl([\alpha]\mapsto\int_\gamma\alpha\bigr)|_L$ も同型 $H_1(X,\mathbb{Z})\to\operatorname{Hom}(L,\mathbb{Z})$ である($\gamma_k$ は双対基底の $k$ 番目に写る)。
(3)$\gamma\in H_1(X,\mathbb{Z})$ に対し、(2)の 2 つの同型により $[\eta]\in L$ で、すべての $[\alpha]\in L$ について $\int_\gamma\alpha=\int_X\alpha\wedge\eta$ となるものがある。両辺は $[\alpha]$ について実線形で $L$ は $\mathbb{R}$ 上張るので、複素数値の閉 1 形式、とくに正則 1 形式 $\omega$ についても $\int_\gamma\omega=\int_X\omega\wedge\eta$ である。逆に $[\eta]\in L$ から同じ等式をみたす $\gamma$ が得られる。よって(1)の像は $\Lambda_X$ に等しい。後半は、$e$ と $\Theta$ がそれぞれ $H^1(X,\mathcal{O})/H^1(X,\mathbb{Z})$ から $\mathcal{P}_0(X)$ と $\Omega(X)^\vee/\Lambda_X$ への同型を誘導することによる。$\square$
$z$ を点 $a$ を中心とする座標とし、$x$ を同じ座標円板の点とする。このとき $[\mathcal{O}(x-a)]\in\mathcal{P}_0(X)$ であり、円板の中の道に沿った積分で
$$
\iota\bigl([\mathcal{O}(x-a)]\bigr)=-\Bigl(\omega\mapsto\int_a^x\omega\Bigr)\bmod\Lambda_X=-\bigl(u(x)-u(a)\bigr)
$$
である。
座標 $z$ が $|z|< R$ で定義され、$|x|< r_0< R$ とする。$U_1:=\{|z|< R\}$、$U_2:=X\setminus\{|z|\le r_0\}$ は $X$ を覆い、$U_{12}=\{r_0<|z|< R\}$ である。$D=x-a$ の局所方程式として $f_1=(z-x)/z$、$f_2=1$ がとれ、余輪体は $g_{12}=1-x/z$ である。$|x/z|<1$ なので $c_{12}(z):=\frac{1}{2\pi i}\log(1-x/z)=-\frac{1}{2\pi i}\sum_{m\ge1}\frac{1}{m}(x/z)^m$ は $U_{12}$ 上の正則関数で $e(c_{12})=g_{12}$ である。2 つの開集合の被覆では余輪体の条件は空なので、$[\mathcal{O}(x-a)]=e([c])$ は $\mathcal{P}_0(X)$ に入る。
$r_0< r_1< r_2< R$ をとり、$\{|z|\le r_1\}$ で $1$、$\{|z|< r_2\}$ の外で $0$ となる滑らかな関数 $\rho$ をとる。$\varphi_1:=-(1-\rho)c_{12}$($|z|\le r_1$ では $0$)、$\varphi_2:=\rho c_{12}$($U_1$ の外では $0$)とおくと $\varphi_2-\varphi_1=c_{12}$ なので、$[c]$ の Dolbeault 類は $\{r_1\le|z|\le r_2\}$ に台をもつ $\beta=c_{12}\,\bar\partial\rho$ で表される。
$\omega=U(z)\,dz$ を正則 1 形式とすると $\omega\wedge\beta=c_{12}\,\omega\wedge d\rho$ であり、円環の上で $d(\rho c_{12}\omega)=c_{12}\,d\rho\wedge\omega=-c_{12}\,\omega\wedge d\rho$ である($dc_{12}\wedge\omega$ は型 $(2,0)$ で $0$)。$r_0< r_1'< r_1$、$r_2< r_2'< R$ として円環 $\{r_1'\le|z|\le r_2'\}$ に Stokes の公式を当てると($\rho$ は内側の円周で $1$、外側で $0$)、$\int_X\omega\wedge\beta=\oint_{|z|=r_1'}c_{12}\,\omega$ である。右辺を $x$ の関数 $I(x)$ とみると、項別微分と Cauchy の積分公式により $I'(x)=-\frac{1}{2\pi i}\oint\frac{U(z)}{z-x}\,dz=-U(x)$ であり、$I(0)=0$ だから $I(x)=-\int_0^xU(z)\,dz=-\int_a^x\omega$ である。最後の等号は、$u(x)-u(a)$ が円板の中の道に沿った積分で計算できることによる(Jacobi多様体 の命題「Abel–Jacobi 写像は well-defined」の証明の 2)。$\square$
第 1 段:$\iota([\mathcal{O}(D)])=-u(D)$。 点 $P\in X$ について、$P_0$ から $P$ への道を有限個の座標円板で覆えば、点の列 $P_0=p_0,p_1,\dots,p_m=P$ で、隣り合う $p_{k-1},p_k$ が $p_{k-1}$ を中心とする 1 つの座標円板に入るものがとれ(単位円板の自己同型で中心を動かす)、$P-P_0=\sum_k(p_k-p_{k-1})$ である。次数 $0$ の因子 $D=\sum n_PP$ は $\sum n_P(P-P_0)$ と書けるので、lem-ajt-local の形の因子の整数係数の和である。$D\mapsto[\mathcal{O}(D)]$ と $u$ は加法的、$\iota$ は準同型なので、補題から $D\in\operatorname{Div}^0(X)$ について $[\mathcal{O}(D)]\in\mathcal{P}_0(X)$ と $\iota([\mathcal{O}(D)])=-u(D)$ が従う。
第 2 段:1 の証明。 $D\in\operatorname{Div}^0(X)$ について、第 1 段により $u(D)=0$ は $\iota([\mathcal{O}(D)])=0$ と同値で、$\iota$ は単射(prop-ajt-lattice)なのでこれは $[\mathcal{O}(D)]=0$ と同値であり、lem-ajt-principal により $D$ が主因子であることと同値である。
第 3 段:2 の証明。 点 $P_1,\dots,P_g$ を、$W_k:=\{\omega\in\Omega(X)\mid\omega(P_1)=\dots=\omega(P_k)=0\}$ が $g-k$ 次元になるように順に選ぶ。$\dim W_k=g-k>0$ なら $0$ でない $\omega\in W_k$ と $\omega(P_{k+1})\ne0$ となる点 $P_{k+1}$ をとれば、$P_{k+1}$ での値をとる線形写像は $W_k$ の上で $0$ でないので、核 $W_{k+1}$ は $g-k-1$ 次元である。正則写像 $S\colon X^g\to\operatorname{Jac}(X)$、$S(Q_1,\dots,Q_g):=\sum_iu(Q_i)$ の $(P_1,\dots,P_g)$ での微分は接ベクトル $(v_1,\dots,v_g)$ を $\bigl(\omega\mapsto\sum_i\omega_{P_i}(v_i)\bigr)$ に写す。$W_g=0$、すなわち $\omega\mapsto(\omega_{P_i})_i$ が単射なので、この微分は全射である。よって $S$ は $(P_1,\dots,P_g)$ の近くで沈め込みで、$S(X^g)$ は空でない開集合 $V$ を含む。$H:=u(\operatorname{Div}^0(X))$ は部分群で、$u(Q)=u(Q-P_0)$ なので $S(X^g)\subset H$ である。$v_0\in V$ を固定すると、各 $h\in H$ について $h-v_0+V\subset H$ は $h$ の近傍なので、$H$ は開部分群である。開部分群の補集合は剰余類(開集合)の和なので $H$ は閉でもあり、$\operatorname{Jac}(X)$ は連結なので $H=\operatorname{Jac}(X)$ である。
第 4 段:3 の証明。 2 により $u\colon\operatorname{Div}^0(X)\to\operatorname{Jac}(X)$ は全射準同型で、1 によりその核は $\operatorname{Prin}(X)$ である。$\square$
第 1 段の等式は、Jacobi 多様体の 2 つの見方、すなわち「位相的に自明な直線束の群 $\mathcal{P}_0(X)$」と「周期を法とした積分の値の群」が、因子を通じて符号を除き一致することを示している。
基点 $P_0$ を固定すると、$\operatorname{Jac}(X)$ の任意の点は $g$ 個の点 $P_1,\dots,P_g$(重複を許す)により $\sum_{i=1}^gu(P_i)$ と書ける。
thm-ajt-main の 2 により、点は $u(D)$($D\in\operatorname{Div}^0(X)$)と書ける。$D+gP_0$ は次数 $g$ なので、Riemann–Rochの定理 の系「Riemann の不等式」により有効因子 $E=P_1+\cdots+P_g$ と線形同値である。$D-(E-gP_0)$ は主因子なので、1 により $u(D)=u(E-gP_0)=\sum_iu(P_i)$ である($u(P_0)=0$)。$\square$
$u\colon X\to\operatorname{Jac}(X)$ は正則な埋め込みである。すなわち単射で、各点で微分が $0$ でなく、像は閉な 1 次元複素部分多様体である。$g=1$ なら $u$ は双正則写像であり、種数 $1$ のコンパクトなリーマン面はすべて複素トーラス $\mathbb{C}/\Lambda$ と双正則である。
要点:$u(P)=u(Q)$ なら $P-Q$ は主因子で、$P\ne Q$ なら 1 位の極が 1 つだけの関数ができて $g=0$ になる。$P$ での微分は $\omega\mapsto\omega_P$ で、Riemann–Roch の定理から $P$ で $0$ にならない正則 1 形式がある。
単射性:$u(P)=u(Q)$ なら $u(P-Q)=0$ で、thm-ajt-main の 1 により $P-Q=\operatorname{div}(h)$ となる有理型関数 $h$ がある。$P\ne Q$ なら $h$ は $Q$ にだけ 1 位の極をもち、Riemann–Rochの定理 の定理「射影直線の特徴づけ」により $g=0$ となって矛盾する。
微分:$P$ での $u$ の微分は接ベクトル $v$ を $\bigl(\omega\mapsto\omega_P(v)\bigr)$ に写すので、$P$ で $0$ にならない正則 1 形式があればよい。標準因子 $K$ について $\Omega(X)\cong L(K)$ で、$P$ で $0$ になる正則 1 形式の空間は $L(K-P)$ に対応する。単射性の議論から $\ell(P)=1$ なので、Riemann–Rochの定理 の定理「Riemann–Rochの定理」により $\ell(K-P)=\ell(P)-1-1+g=g-1< g=\ell(K)$ である。
埋め込み:コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な単射なので像への同相写像で、微分が $0$ でないので像は閉な 1 次元複素部分多様体である。$g=1$ なら $\operatorname{Jac}(X)$ も 1 次元で、$u$ は局所双正則なので $u(X)$ は開かつ閉、$\operatorname{Jac}(X)$ は連結なので $u$ は全射で、双正則である。$\square$
$\Lambda\subset\mathbb{C}$ を格子、$X=\mathbb{C}/\Lambda$、$\pi\colon\mathbb{C}\to X$ を射影とする。$\Omega(X)=\mathbb{C}\,dz$ で、$\Omega(X)^\vee$ を $\alpha\mapsto\alpha(dz)$ で $\mathbb{C}$ と同一視すると $\Lambda_X=\Lambda$、$u(\pi(z))=z-z_0\bmod\Lambda$($P_0=\pi(z_0)$)である(Jacobi多様体 の命題「複素トーラスの Jacobi 多様体」)。よって次数 $0$ の因子 $D=\sum_in_i\pi(z_i)$ について $u(D)=\sum_in_iz_i\bmod\Lambda$ であり、thm-ajt-main の 1 は次のことを述べる:$\pi(z_i)$ が相異なる点で、整数 $n_i$ が $\sum_in_i=0$ をみたすとき、$\pi(z_i)$ に位数 $n_i$ の零点($n_i<0$ なら極)をもち他に零点も極もない楕円関数が存在するのは、$\sum_in_iz_i\in\Lambda$ のとき、かつそのときに限る。これは 楕円関数 の定理「零点と極の配置の実現」と同じ内容である。同記事では $\wp$ 関数や $\sigma$ 関数を使って示すが、ここでは指数完全列の一般論からの帰結として得られる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 因子の次数が $0$ | $D=P_0$(基点)。$u(P_0)=0$ だが、次数 $1$ の因子は主因子でない(主因子の次数は $0$) | 1 の「$u(D)=0$ なら主因子」 |
| $g\ge1$ | $X=\mathbb{P}^1$。$\Omega(\mathbb{P}^1)=0$ なので $\operatorname{Jac}(\mathbb{P}^1)=0$ で、$u\colon X\to0$ | cor-ajt-embedding の単射性 |
| $g\le1$ | 種数 $g\ge2$ の $X$ | $u\colon X\to\operatorname{Jac}(X)$ の全射性($g=1$ では cor-ajt-embedding により全射) |
2 行目の $\mathbb{P}^1$ では thm-ajt-main の 1 自体は成り立つ(次数 $0$ の因子はすべて主因子で、$\operatorname{Jac}=0$)。3 行目では、$u(X)$ は実 2 次元のコンパクト多様体の滑らかな像で、$2< 2g$ なので測度 $0$ であり、$\operatorname{Jac}(X)$ 全体にならない。全射にするには cor-ajt-inversion のように $g$ 個の点の和をとる必要がある。
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