Newtonの恒等式(高校数学)

同義語:ニュートンの恒等式(高校数学)

概要

Newtonの恒等式(高校数学)とは、$n$ 文字の冪和 $p_k=x_1^k+\cdots+x_n^k$ と基本対称式 $e_k$ を結ぶ等式 $ke_k=\sum_{j=1}^k(-1)^{j-1}e_{k-j}p_j$($k\ge1$、$k>n$ では $e_k=0$)である。$p_k$ について解くと $p_2=e_1^2-2e_2$、$p_3=e_1^3-3e_1e_2+3e_3$ のように冪和を順に計算でき、$k>n$ では冪和の列が $n$ 項間の線形漸化式を満たす。$1,\dots,n$ で割れる数の範囲(複素数など)では、$p_1,\dots,p_n$ が根の組を並べ替えを除いて決める。2 で割れない世界や、冪和が $n$ 個そろわない場合には、この結論は成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: n次方程式の解と係数の関係, 対称式の基本定理(高校数学), 数学的帰納法, 複素数

高校での出発点:αᵏ+βᵏ を順に求める

$x^2-3x+1=0$ の 2 つの解を $\alpha,\beta$ とすると、$\alpha+\beta=3$、$\alpha\beta=1$ である。$\alpha^2+\beta^2=7$、$\alpha^3+\beta^3=18$ は、対称式を $\alpha+\beta$ と $\alpha\beta$ で表して求めた(対称式の基本定理(高校数学))。$\alpha^{10}+\beta^{10}$ のように次数が大きくなると、毎回工夫するのは大変である。高校では、次のような漸化式を使う。

2 つの解の冪和の漸化式

$k\ge2$ について、$(\alpha+\beta)(\alpha^{k-1}+\beta^{k-1})$ を展開すると
$$ (\alpha+\beta)(\alpha^{k-1}+\beta^{k-1})=\alpha^k+\beta^k+\alpha\beta\,(\alpha^{k-2}+\beta^{k-2}) $$
である($\alpha\cdot\beta^{k-1}+\beta\cdot\alpha^{k-1}=\alpha\beta(\beta^{k-2}+\alpha^{k-2})$)。$p_k:=\alpha^k+\beta^k$ とおくと、$p_k=(\alpha+\beta)p_{k-1}-\alpha\beta\,p_{k-2}=3p_{k-1}-p_{k-2}$ である。$p_0=2$、$p_1=3$ から

  • $p_2=3\cdot3-2=7$、$p_3=3\cdot7-3=18$、$p_4=3\cdot18-7=47$、$p_5=3\cdot47-18=123$。

$p_k=3p_{k-1}-p_{k-2}$ は三項間漸化式で、特性方程式がもとの方程式 $x^2-3x+1=0$ そのものになる。三項間漸化式の解き方は 三項間漸化式と行列の固有値 で扱う。

3 つの解の冪和

$x^3-6x^2+11x-6=(x-1)(x-2)(x-3)$ の解は $1,2,3$ で、直接計算すると

  • $p_1=1+2+3=6$、$p_2=1+4+9=14$、$p_3=1+8+27=36$、$p_4=1+16+81=98$
    である。係数($e_1=6$、$e_2=11$、$e_3=6$)だけから、これらを順に求める規則がほしい。

ここで次の問いが生じる。

  1. 文字が $n$ 個のとき、冪和 $p_k$ を基本対称式から順に計算する一般的な規則はあるか。→ thm-nwi-main
  2. 逆に、冪和 $p_1,p_2,\dots$ がわかれば、解(根)そのものが決まるか。→ cor-nwi-determine
  3. その規則が使えない場合はあるか。→ ex-nwi-f2、ex-nwi-too-few
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    $\alpha^k+\beta^k$冪和 $p_k$冪和対称式
    $\alpha^k+\beta^k$ の三項間漸化式cor-nwi-recurrence線形漸化式、行列の $\mathrm{tr}(A^k)$
    対称式を $\alpha+\beta$、$\alpha\beta$ で表すthm-nwi-main冪和と基本対称式の変換公式
    連立方程式 $x+y+z=\cdots$、$x^2+y^2+z^2=\cdots$cor-nwi-determine冪和による根の決定

冪和と Newton の恒等式

冪和

$n$ 個の文字 $x_1,\dots,x_n$ と $k\ge1$ について、$p_k:=x_1^k+x_2^k+\cdots+x_n^k$ を $k$ 次の冪和という($p_0:=n$ とおく)。基本対称式 $e_k$(相異なる $k$ 個の文字の積の和)については、$e_0:=1$ とし、$k>n$ または $k<0$ では $e_k:=0$ とおく。

冪和と基本対称式の値
  • $(1,2,3)$ では $p_1,p_2,p_3,p_4=6,14,36,98$、$e_1,e_2,e_3=6,11,6$、$e_4=0$(文字が 3 個なので)。
  • $(1,1)$ では $p_k=2$(すべての $k$)、$e_1=2$、$e_2=1$。
Newton の恒等式

$n$ 文字の基本対称式 $e_k$ と冪和 $p_k$ について、すべての $k\ge1$ で
$$ ke_k=\sum_{j=1}^k(-1)^{j-1}e_{k-j}\,p_j=e_{k-1}p_1-e_{k-2}p_2+\cdots+(-1)^{k-1}e_0\,p_k $$
が成り立つ($k>n$ では $e_k=0$)。$p_k$ について解くと
$$ p_k=e_1p_{k-1}-e_2p_{k-2}+\cdots+(-1)^{k-2}e_{k-1}p_1+(-1)^{k-1}ke_k $$
である。

小さい k で書き出す

$p_k$ について解いた式を $k=1,2,3,4$ で書くと

  • $k=1$:$p_1=e_1$。
  • $k=2$:$p_2=e_1p_1-2e_2=e_1^2-2e_2$。
  • $k=3$:$p_3=e_1p_2-e_2p_1+3e_3=e_1^3-3e_1e_2+3e_3$。
  • $k=4$:$p_4=e_1p_3-e_2p_2+e_3p_1-4e_4$。
    $(1,2,3)$ で確かめる($e_1=6$、$e_2=11$、$e_3=6$、$e_4=0$):$p_2=36-22=14$、$p_3=6\cdot14-11\cdot6+3\cdot6=84-66+18=36$、$p_4=6\cdot36-11\cdot14+6\cdot6-0=216-154+36=98$。ex-nwi-three-var の直接計算と一致する。2 文字($e_3=0$)の $k=3$ の式は、高校の $\alpha^3+\beta^3=(\alpha+\beta)^3-3\alpha\beta(\alpha+\beta)$ である。

証明のために、1 つの文字を除いた基本対称式を使う。文字 $x_i$ を除いた $n-1$ 個の文字の基本対称式を $e_m^{(i)}$ と書く($e_0^{(i)}=1$、$m<0$ または $m>n-1$ では $0$)。

1 つの文字を除いた基本対称式

各 $i$ と $m\ge0$ について、次が成り立つ。
(1) $e_m=e_m^{(i)}+x_i\,e_{m-1}^{(i)}$。
(2) $e_m^{(i)}=\sum_{j=0}^m(-1)^jx_i^j\,e_{m-j}=e_m-x_ie_{m-1}+x_i^2e_{m-2}-\cdots+(-1)^mx_i^m$。

積を分ける、m についての帰納法
  1. $m=0$ なら両辺とも $1$ である($e_{-1}^{(i)}=0$)。$m\ge1$ とする。$e_m$ は「相異なる $m$ 個の文字の積」の和である。これらの積を、$x_i$ を含まないものと含むものに分ける。含まないものの和は $e_m^{(i)}$ である。含むものは $x_i$ と「$x_i$ 以外の相異なる $m-1$ 個の文字の積」の積なので、その和は $x_ie_{m-1}^{(i)}$ である。
  2. $m$ についての数学的帰納法で示す。$m=0$ では両辺とも $1$ である。$m\ge1$ とし、$m-1$ で成り立つとする。(1) を $e_m^{(i)}=e_m-x_ie_{m-1}^{(i)}$ と書き直し、$e_{m-1}^{(i)}$ に帰納法の仮定を代入すると
    $$ e_m^{(i)}=e_m-x_i\sum_{j=0}^{m-1}(-1)^jx_i^je_{m-1-j}=e_m+\sum_{j=0}^{m-1}(-1)^{j+1}x_i^{j+1}e_{m-(j+1)} $$
    である。右辺の和で $j+1$ を改めて $j$ と書くと $\sum_{j=1}^m(-1)^jx_i^je_{m-j}$ になり、$j=0$ の項 $e_m$ と合わせて主張の式を得る。$\square$
補題を 3 文字で確かめる

$n=3$、$i=1$ とする。

  • $m=1$:$e_1^{(1)}=x_2+x_3$、右辺は $e_1-x_1=x_2+x_3$。
  • $m=2$:$e_2^{(1)}=x_2x_3$、右辺は $e_2-x_1e_1+x_1^2=(x_1x_2+x_1x_3+x_2x_3)-(x_1^2+x_1x_2+x_1x_3)+x_1^2=x_2x_3$。
  • $m=3$:$e_3^{(1)}=0$(残りは 2 文字)なので、$0=e_3-x_1e_2+x_1^2e_1-x_1^3$、すなわち $x_1^3-e_1x_1^2+e_2x_1-e_3=0$ である。これは「$x_1$ は $(t-x_1)(t-x_2)(t-x_3)=t^3-e_1t^2+e_2t-e_3$ の根である」ことそのものである。
Newton の恒等式の証明

方針:和 $\sum_{i=1}^nx_ie_{k-1}^{(i)}$ を 2 通りに計算する。
段 1(数える)。$x_ie_{k-1}^{(i)}$ は「$x_i$ を含む、相異なる $k$ 個の文字の積」の和である。$i=1,\dots,n$ について足すと、相異なる $k$ 個の文字の積 1 つ 1 つが、それに含まれる文字の数、すなわち $k$ 回ずつ数えられる(図 1)。よって
$$ \sum_{i=1}^nx_ie_{k-1}^{(i)}=ke_k $$
である。$k>n$ のときは、$k-1>n-1$ なので左辺の各項は $0$ で、右辺も $e_k=0$ なので成り立つ。
段 2(補題を使う)。lem-nwi-remove-one の (2) を $m=k-1$ として両辺に $x_i$ を掛け、$i$ について足すと
$$ \sum_{i=1}^nx_ie_{k-1}^{(i)}=\sum_{i=1}^n\sum_{j=0}^{k-1}(-1)^jx_i^{j+1}e_{k-1-j}=\sum_{j=0}^{k-1}(-1)^j\Bigl(\sum_{i=1}^nx_i^{j+1}\Bigr)e_{k-1-j}=\sum_{j=0}^{k-1}(-1)^jp_{j+1}\,e_{k-1-j} $$
である($e_{k-1-j}$ は $i$ によらないので、$i$ についての和を先にとった)。
段 3(まとめる)。段 2 の右辺で $j+1$ を改めて $j$ と書くと $\sum_{j=1}^k(-1)^{j-1}e_{k-j}p_j$ になる。段 1 と合わせて主張の第 1 式を得る。
段 4($p_k$ について解く)。第 1 式の $j=k$ の項 $(-1)^{k-1}e_0p_k=(-1)^{k-1}p_k$ を残して他を移項し、両辺に $(-1)^{k-1}$ を掛けると
$$ p_k=(-1)^{k-1}ke_k-\sum_{j=1}^{k-1}(-1)^{k+j}e_{k-j}p_j $$
である。$i:=k-j$ とおくと $-(-1)^{k+j}=(-1)^{2k-i+1}=(-1)^{i-1}$ なので、右辺の和は $\sum_{i=1}^{k-1}(-1)^{i-1}e_ip_{k-i}$ となり、主張の第 2 式を得る。$\square$

図1:n = 4、k = 2 の場合。行 i は x_i e₁⁽ⁱ⁾ に現れる積、列は 2 文字の積 1 つを表す。各列にちょうど 2 個の印があるので、全体の和は 2e₂ になる。 図1:n = 4、k = 2 の場合。行 i は x_i e₁⁽ⁱ⁾ に現れる積、列は 2 文字の積 1 つを表す。各列にちょうど 2 個の印があるので、全体の和は 2e₂ になる。

k が n より大きいとき:冪和の漸化式

冪和の線形漸化式

$k>n$ のとき
$$ p_k=e_1p_{k-1}-e_2p_{k-2}+\cdots+(-1)^{n-1}e_np_{k-n} $$
が成り立つ。冪和の列は $n$ 項間の線形漸化式を満たす。

Newton の恒等式で e を 0 にする

thm-nwi-main の第 2 式で、$k>n$ なら $e_k=0$ であり、$i>n$ の $e_i$ も $0$ なので、和は $i=1,\dots,n$ の項だけが残る。$\square$

これは、各 $x_i$ が $t^n-e_1t^{n-1}+\cdots+(-1)^ne_n=0$ の根であること(ex-nwi-lemma-check の $m=3$ の式)の両辺に $x_i^{k-n}$ を掛けて、$i$ について足したものと同じである。

漸化式で冪和を求める
  • 2 文字($x^2-3x+1$ の解):$p_k=3p_{k-1}-p_{k-2}$ で、ex-nwi-two-var の漸化式そのものである。$p_0,p_1,\dots=2,3,7,18,47,123,322,\dots$。
  • 3 文字(解 $1,2,3$):$p_k=6p_{k-1}-11p_{k-2}+6p_{k-3}$。$p_5=6\cdot98-11\cdot36+6\cdot14=588-396+84=276$ で、直接の $1+32+243=276$ と一致する。

2 文字の冪和 $p_k=x_1^k+x_2^k$ が満たす三項間漸化式と、その特性方程式の関係は 三項間漸化式の特性方程式 で扱う。

冪和は根を決める

冪和による根の決定

係数が有理数・実数・複素数のとき(一般に $1,2,\dots,n$ で割れる数の体系のとき)、$p_1,\dots,p_n$ から $e_1,\dots,e_n$ が決まる。特に、複素数の組 $(a_1,\dots,a_n)$ と $(b_1,\dots,b_n)$ が、$k=1,\dots,n$ のすべてで $\sum_ia_i^k=\sum_ib_i^k$ を満たすなら、2 つの組は並べ替えを除いて一致する。

順に割る、1 次式で約す

段 1。thm-nwi-main の第 1 式を $k$ で割ると
$$ e_k=\frac1k\sum_{j=1}^k(-1)^{j-1}e_{k-j}p_j $$
である。右辺には $e_0,\dots,e_{k-1}$ と $p_1,\dots,p_k$ しか現れない。$k=1,2,\dots,n$ の順に使えば、$e_1,\dots,e_n$ が $p_1,\dots,p_n$ だけで決まる。
段 2。2 つの組の $p_1,\dots,p_n$ が一致すれば、段 1 により $e_1,\dots,e_n$ も一致する。n次方程式の解と係数の関係 により、$\prod_i(t-a_i)$ と $\prod_i(t-b_i)$ は係数がすべて同じなので、多項式として等しい。
段 3。$t=a_1$ を代入すると、左辺は $0$ なので $\prod_j(a_1-b_j)=0$ である。複素数では、積が $0$ なら因子のどれかが $0$ なので、$a_1=b_j$ となる $j$ がある。両辺から因子 $t-a_1$ を約す($0$ でない多項式で割っても、複素数係数の多項式の等式は保たれる)と、残りの $n-1$ 個どうしの積が等しい。同じ議論をくり返せばよい。$\square$

冪和から数を復元する

3 つの数の冪和が $p_1=3$、$p_2=5$、$p_3=9$ だとする。cor-nwi-determine の証明の段 1 の式で順に求めると

  • $e_1=p_1=3$。
  • $e_2=\frac12(e_1p_1-p_2)=\frac12(9-5)=2$。
  • $e_3=\frac13(e_2p_1-e_1p_2+p_3)=\frac13(6-15+9)=0$。
    よって 3 つの数は $t^3-3t^2+2t=t(t-1)(t-2)$ の根で、$0,1,2$ である。実際 $0+1+2=3$、$0+1+4=5$、$0+1+8=9$ である。

例と反例

外した仮定崩れる主張ボックス
$1,\dots,n$ で割れる冪和が基本対称式を決めるex-nwi-f2
$k=1,\dots,n$ のすべての冪和冪和が根を決めるex-nwi-too-few
反例:2 で割れない世界

$0$ と $1$ だけからなり $1+1=0$ と計算する世界 $\mathbb{F}_2$(2 で割った余りの世界。合同式と余りの世界 で扱う)で、2 文字の組 $(1,1)$ と $(0,0)$ を比べる。冪和は $p_1=1+1=0$、$p_2=1+1=0$ で、どちらの組も $0,0$ である。しかし $e_2$ は $1\cdot1=1$ と $0$ で異なり、対応する多項式も $(t-1)^2=t^2-2t+1=t^2+1$ と $t^2$ で異なる。Newton の恒等式 $2e_2=e_1p_1-p_2$ から $e_2$ を求めるには 2 で割る必要があるが、$\mathbb{F}_2$ では $2=0$ で割れない。cor-nwi-determine の「$1,\dots,n$ で割れる」という仮定を外すと、結論は成り立たない。

反例:冪和が n 個そろわない

$\omega=\frac{-1+\sqrt3\,i}2$ とすると $\omega^3=1$、$1+\omega+\omega^2=0$ である。3 文字の組 $(1,\omega,\omega^2)$ と $(0,0,0)$ を比べる。

  • $p_1=1+\omega+\omega^2=0$。
  • $p_2=1+\omega^2+\omega^4=1+\omega^2+\omega=0$($\omega^4=\omega$)。
  • $p_3=1+\omega^3+\omega^6=1+1+1=3$。
    $p_1,p_2$ は $(0,0,0)$ と一致するが、$p_3$ は $3$ と $0$ で異なる。3 文字では $p_1,p_2,p_3$ の 3 つが必要であり、「$k=1,\dots,n$ のすべてで」という条件を外すと結論は成り立たない。

図2:1 の 3 乗根 1, ω, ω² を k 乗した点と、その和(×)。k = 1, 2 では 3 点が正三角形をなして和は 0、k = 3 では 3 点とも 1 に重なり和は 3 になる。 図2:1 の 3 乗根 1, ω, ω² を k 乗した点と、その和(×)。k = 1, 2 では 3 点が正三角形をなして和は 0、k = 3 では 3 点とも 1 に重なり和は 3 になる。
図 2 は、ex-nwi-too-few の 3 つの冪和 $p_1,p_2,p_3$ を単位円上で見たものである。$k=1,2$ では $1,\omega^k,\omega^{2k}$ が正三角形の頂点になって重心が原点に来るので和は $0$、$k=3$ では 3 点とも $1$ に重なるので和は $3$ である。$1$ の冪根の冪の和がこのように $0$ か $n$ になることは、1の冪根で数を振り分ける で係数を振り分けるのに使う。

数学オリンピックの問題から

1973 年第 4 問:冪和から解を決める

アメリカ数学オリンピック(1973 年)第 4 問

問題の内容は次のとおりである(筆者による要約)。
連立方程式 $x+y+z=3$、$x^2+y^2+z^2=3$、$x^3+y^3+z^3=3$ の、複素数の範囲でのすべての解を求めよ。
出典:アメリカ数学オリンピック(1973 年)第 4 問 Oly73。

高校数学で解く

段 1。$e_1=x+y+z=3$ である。
段 2。$x^2+y^2+z^2=e_1^2-2e_2$(ex-nwi-small-k)から $3=9-2e_2$ なので、$e_2=3$ である。
段 3。$x^3+y^3+z^3=e_1^3-3e_1e_2+3e_3$ から $3=27-27+3e_3$ なので、$e_3=1$ である。
段 4。解と係数の関係により、$x,y,z$ は
$$ t^3-3t^2+3t-1=(t-1)^3=0 $$
の 3 つの根(重複込み)である。この方程式の根は $1$ だけなので、$x=y=z=1$ が唯一の解である。
注意。実数の範囲なら、$(x-1)^2+(y-1)^2+(z-1)^2=(x^2+y^2+z^2)-2(x+y+z)+3=3-6+3=0$ から、すぐに $x=y=z=1$ がわかる(実数の 2 乗の和が $0$ なら各項が $0$)。しかし複素数ではこの論法は使えない。実際 $(x,y,z)=\bigl(\frac12-\frac{\sqrt3}2i,\ \frac12+\frac{\sqrt3}2i,\ 2\bigr)$ は最初の 2 式を満たし、$(x-1)^2+(y-1)^2+(z-1)^2=0$ にもなるが、3 乗の和は $6$ である。第 3 式まで使う上の方法は、複素数でもそのまま通用する。$\square$

大学数学で見ると

これは cor-nwi-determine の $n=3$ の場合である。$(x,y,z)$ と $(1,1,1)$ は冪和 $p_1,p_2,p_3$ が一致するので、並べ替えを除いて一致する。一般に、複素数 $x_1,\dots,x_n$ が $k=1,\dots,n$ で $\sum_ix_i^k=n$ を満たせば、すべての $x_i$ は $1$ である。行列の言葉では、$n\times n$ 行列 $A$ が $\mathrm{tr}(A^k)=n$($k=1,\dots,n$)を満たせば、固有値はすべて $1$ である(トレースと固有値)。

さらに先へ

  • 文字の数を限りなく増やした「対称関数の環」では、基本対称式・完全斉次対称式・Schur 関数は整数係数で、冪和は有理数係数で、それぞれ基底をなす(対称関数)。冪和が整数係数で基底にならないのは、$e_2=\frac12(p_1^2-p_2)$ のように 2 で割る操作が要るからである。Newton の恒等式は、基底の間の変換公式の最初の例である。
  • Newton の恒等式には、$\prod_i(t-x_i)$ の対数微分を形式的冪級数として展開する別証明もある(Sho08 §16.8 の演習 16.28–16.29)。
  • 正方行列の固有値の冪和は $\mathrm{tr}(A^k)$ に等しいので、Newton の恒等式により、$\mathrm{tr}A,\mathrm{tr}(A^2),\dots,\mathrm{tr}(A^n)$ から固有多項式が決まる(トレースと固有値)。
  • この恒等式の大学向けの説明は Newtonの恒等式 に、対称式を基本対称式で表す定理の大学向けの説明は 対称式の基本定理 にある。

関連項目

参考文献

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