商空間の分離公理

同義語:separation axioms for quotient spaces

概要

商空間の分離公理(separation axioms for quotient spaces)とは、位相空間 $X$ を同値関係 $\sim$ で割った商空間 $X/{\sim}$ が $T_0$・$T_1$・Hausdorff・正則・正規などの分離公理を満たすための条件のことである。$T_1$ であることは各同値類が閉集合であることと同値で、Hausdorff であるにはグラフ $R\subset X\times X$ が閉であることが必要だが、十分であるのは商写像が開写像のときや $X$ がコンパクト Hausdorff のときなどに限られる。位相的に区別できない点を同一視した Kolmogorov 商はつねに $T_0$ になり、閉写像による商は正規性を、ファイバーがコンパクトな閉写像による商は Hausdorff 性と正則性を保つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 商空間(位相), 商写像, 分離公理, 閉写像

位相空間を同値関係で割った商空間(位相)は、もとの空間が距離空間のように扱いやすい空間でも、分離公理を失うことがある。$\mathbb{R}$ の有理数全体を一点につぶすと一点集合が閉でなくなり、二本の直線を原点以外で貼り合わせると Hausdorff 性が失われる。商空間がどの分離公理を満たすかは、同値関係の形と商写像の性質(開写像か、閉写像か、ファイバーがコンパクトか)で決まる。この記事では、分離公理ごとに商空間で成り立つための条件をまとめ、位相的に区別できない点を同一視する商(Kolmogorov 商)が $T_0$ になること(thm-qsep-kolmogorov)、閉集合を一点につぶした商が Hausdorff になる条件(thm-qsep-collapse)、コンパクト Hausdorff 空間の商が Hausdorff になる条件(thm-qsep-compact)を証明する。

記号

以下、$X$ は位相空間、$\sim$ は $X$ 上の同値関係、$q\colon X\to X/{\sim}$ は商空間への標準射影、$[x]=q^{-1}(q(x))$ は $x$ の同値類とする。同値関係のグラフを
$$ R:=\{(x,y)\in X\times X\mid x\sim y\} $$
と書き、$X\times X$ に直積位相を入れる。$A\subset X$ について、$A$ と交わる同値類すべての和集合 $q^{-1}(q(A))$ を $A$ の 飽和 といい、$A=q^{-1}(q(A))$ のとき $A$ は 飽和している という。
商位相の定義により、$W\subset X/{\sim}$ が開(閉)であることと $q^{-1}(W)$ が開(閉)であることは同値である。とくに $q(A)$ が開(閉)であることと、$A$ の飽和が開(閉)であることは同値である。したがって、$q$ が開写像であることは「開集合の飽和がつねに開」と、$q$ が閉写像であることは「閉集合の飽和がつねに閉」と同値である。
$A\subset X$ が空でない部分集合のとき、$A$ の点どうしだけを同値とする同値関係($x\sim y\iff x=y$ または $x,y\in A$)による商空間を $X/A$ と書き、「$A$ を一点につぶした空間」という。

分離公理ごとの条件

分離公理の名前は 分離公理 の記事に合わせる。正則性条件・正規性条件は $T_1$ を含まず、$T_3$・$T_4$ はそれらに $T_1$ を加えたものである。

公理商空間 $X/{\sim}$ で成り立つための条件所在
$T_0$位相的に区別できない点を同一視した商はつねに $T_0$thm-qsep-kolmogorov
$T_1$各同値類が $X$ の閉集合であること(必要十分)商空間(位相) の命題「$T_1$ 性の判定」
Hausdorff必要条件:$R$ が閉。十分条件:$q$ が開写像で $R$ が閉、または $X$ がコンパクト Hausdorff で $R$ が閉、または $X$ が Hausdorff で $q$ が完全写像商空間(位相) の命題「Hausdorff性と同値関係のグラフ」、thm-qsep-compact、完全写像 の定理「完全像への遺伝」
正則性条件$X$ が正則で $q$ が完全写像完全写像 の定理「完全像への遺伝」
正規性条件$X$ が正規で $q$ が閉写像正規空間 の命題「閉連続写像による像」

完全写像とは、連続な閉写像で各ファイバー(ここでは各同値類)がコンパクトなもののことである。表の十分条件はどれも、条件を一つ外すと成り立たなくなる(「反例の表」の節)。

$T_0$:Kolmogorov 商

$X$ の 2 点 $x,y$ が 位相的に区別できない とは、$X$ のどの開集合 $U$ についても $x\in U\iff y\in U$ であることをいう。これを $x\equiv y$ と書くと、$\equiv$ は同値関係である。商空間 $X_0:=X/{\equiv}$ を $X$ の Kolmogorov 商($T_0$ 化)という。$X$ が $T_0$ であることは、$\equiv$ が等号であることと同じである。

Kolmogorov 商の分離性

$X$ を位相空間、$q\colon X\to X_0$ を Kolmogorov 商への標準射影とする。
(i) $X$ の開集合と閉集合はすべて飽和している。$q$ は開写像かつ閉写像であり、$U\mapsto q(U)$ は $X$ の開集合全体から $X_0$ の開集合全体への全単射で、逆写像は $W\mapsto q^{-1}(W)$ である。
(ii) $X_0$ は $T_0$ 空間である。
(iii) $X$ が正則性条件を満たすことと $X_0$ が正則性条件を満たすことは同値であり、正規性条件についても同様である。とくに $X$ が正則性条件を満たせば、$X_0$ は $T_3$ 空間(したがって Hausdorff 空間)である。

(i):$U$ を開集合、$x\in U$、$y\equiv x$ とすると、定義から $y\in U$ である。よって $U$ は飽和している。閉集合の補集合は開集合で飽和しており、飽和集合の補集合は飽和しているので、閉集合も飽和している。開集合 $U$ について $q^{-1}(q(U))=U$ は開なので $q(U)$ は開集合であり、$q$ は開写像である。閉写像であることも同様である。$q^{-1}(q(U))=U$ と、$q$ の全射性による $q(q^{-1}(W))=W$ から、$U\mapsto q(U)$ と $W\mapsto q^{-1}(W)$ は互いに逆の全単射である($q^{-1}(W)$ は商位相の定義により開)。
(ii):$q(x)\neq q(y)$ とすると $x\not\equiv y$ なので、$x,y$ の一方だけを含む開集合 $U$ がある。$U$ は飽和しているので、$q(x)\in q(U)\iff x\in U$、$q(y)\in q(U)\iff y\in U$ であり、開集合 $q(U)$ は $q(x),q(y)$ の一方だけを含む。
(iii):$X$ が正則性条件を満たすとし、$X_0$ の閉集合 $F$ と点 $q(x)\notin F$ をとる。$q^{-1}(F)$ は $x$ を含まない閉集合なので、交わらない開集合 $U\ni x$、$V\supset q^{-1}(F)$ がある。$q(U)\ni q(x)$、$q(V)\supset F$ は開集合であり、交わらない。実際 $q(u)=q(v)$($u\in U$、$v\in V$)なら、$U$ が飽和していることから $v\in U$ となり、$U\cap V=\emptyset$ に反する。逆に $X_0$ が正則性条件を満たすとし、$X$ の閉集合 $F$ と $x\notin F$ をとる。(i) により $q(F)$ は閉集合で、$F$ が飽和しているので $q(x)\notin q(F)$ である。交わらない開集合 $W\ni q(x)$、$W'\supset q(F)$ をとれば、$q^{-1}(W)\ni x$、$q^{-1}(W')\supset F$ は交わらない開集合である。正規性条件も、点 $x$ を閉集合に替えて同じ議論で示せる。
最後の主張は、(ii) と、正則性条件を満たす $T_0$ 空間は $T_3$ であること(分離公理 の命題「正則性条件に $T_0$ を加えた場合」)による。$\square$

(i) は、$X$ と $X_0$ が開集合の束として同じものであることを示している。実数値の連続関数・コンパクト性・連結性のように開集合だけで述べられる性質は、$X$ と $X_0$ で変わらない。

擬距離空間の Kolmogorov 商

$d$ を集合 $X$ 上の擬距離($d(x,y)=0$ でも $x=y$ とは限らない距離)とし、開球 $B(x,\varepsilon):=\{y\mid d(x,y)<\varepsilon\}$ を開基とする位相を入れる。$d(x,y)=0$ なら、$x$ を含む開集合は開球 $B(x,\varepsilon)$ を含み、$y\in B(x,\varepsilon)$ なので $y$ も含む($x,y$ を入れ替えても同じ)。$d(x,y)=r>0$ なら、$B(x,r)$ は $x$ を含み $y$ を含まない。よって $x\equiv y\iff d(x,y)=0$ である。
三角不等式から $\bar d(q(x),q(y)):=d(x,y)$ は代表元によらずに定まり、$X_0$ 上の距離になる。$q(B(x,\varepsilon))=B_{\bar d}(q(x),\varepsilon)$ であり、$q$ は開写像なので $\bar d$ の開球は商位相で開である。逆に $W$ が商位相で開なら、$q(x)\in W$ について $B(x,\varepsilon)\subset q^{-1}(W)$ となる $\varepsilon$ があり、$B_{\bar d}(q(x),\varepsilon)\subset W$ である。よって商位相は距離 $\bar d$ の位相と一致する。
たとえば $1\le p<\infty$ とし、測度空間上の $p$ 乗可積分な関数全体 $\mathcal{L}^p(\mu)$ に $d(f,g):=\|f-g\|_p$ を考える。三角不等式は Lp空間 の記事の定理「Minkowskiの不等式」により成り立つので、$d$ は擬距離である。また $\|f-g\|_p=0$ は $f=g$(ほとんど至るところ)と同値である(同じ記事の系「$L^p$ はノルム空間」とその証明)。したがって $d$ の位相の Kolmogorov 商は、ほとんど至るところ等しい関数を同一視した $L^p(\mu)$ にそのノルムの位相を入れたものである。

$T_1$

$X/{\sim}$ が $T_1$ であることと、各同値類が $X$ の閉集合であることは同値である(商空間(位相) の命題「$T_1$ 性の判定」。一点 $q(x)$ の逆像が同値類 $[x]$ だからである)。$X$ が $T_1$ なら、有限個の点からなる同値類は閉集合なので、有限集合だけを同一視した商は $T_1$ である。$\mathbb{R}$ の有理数全体 $\mathbb{Q}$ を一点につぶした $\mathbb{R}/\mathbb{Q}$ は、同値類 $\mathbb{Q}$ が閉でないので $T_1$ でない(商写像 の記事の注意「反例:商空間はHausdorffとは限らない」)。

Hausdorff 性

商空間(位相) の命題「Hausdorff性と同値関係のグラフ」により、$X/{\sim}$ が Hausdorff ならグラフ $R$ は $X\times X$ の閉集合であり、逆は $q$ が開写像なら成り立つ。$q$ が開写像でないときは、$R$ が閉でも Hausdorff とは限らない(ex-qsep-rk)。ここでは、開写像でない商の代表である「閉集合を一点につぶす商」と、コンパクト Hausdorff 空間の商を調べる。

閉集合を一点につぶした空間の Hausdorff 性

$X$ を Hausdorff 空間、$A\subset X$ を空でない閉集合とする。$X/A$ が Hausdorff であるための必要十分条件は、$A$ に属さない各点 $x$ について、交わらない開集合 $U\ni x$、$V\supset A$ が存在することである。

$q\colon X\to X/A$ を標準射影、$\ast:=q(A)$ とおく。$X$ の部分集合が飽和していることは、$A$ を含むか $A$ と交わらないことと同じである。$q$ は $X\setminus A$ 上で単射であり、$X\setminus A$ の点 $x$ について $q(x)\neq\ast$ である。
必要性:$X/A$ が Hausdorff で $x\notin A$ とする。$q(x)\neq\ast$ なので、交わらない開集合 $W\ni q(x)$、$W'\ni\ast$ がある。$U:=q^{-1}(W)$、$V:=q^{-1}(W')$ は交わらない開集合で、$x\in U$、$A=q^{-1}(\ast)\subset V$ である。
十分性:$X/A$ の異なる 2 点は、(a) $q(x),q(y)$($x\neq y$、$x,y\notin A$)、または (b) $q(x)$($x\notin A$)と $\ast$ である。
(a):$X$ は Hausdorff なので、交わらない開集合 $U\ni x$、$U'\ni y$ がある。$A$ は閉なので $U\setminus A$、$U'\setminus A$ は開集合であり、$A$ と交わらないので飽和している。よって $q(U\setminus A)\ni q(x)$、$q(U'\setminus A)\ni q(y)$ は開集合である。これらが共通の点をもてば、$q$ が $X\setminus A$ 上で単射なので $(U\setminus A)\cap(U'\setminus A)\neq\emptyset$ となり矛盾する。
(b):仮定の開集合 $U\ni x$、$V\supset A$ をとる。$U$ は $V$ と交わらないので $A$ と交わらず、$V$ は $A$ を含むので、どちらも飽和している。よって $q(U)\ni q(x)$、$q(V)\ni\ast$ は開集合である。$q(u)=q(v)$($u\in U$、$v\in V$)なら、$u\notin A$ より $q(u)\neq\ast$ なので $v\notin A$ であり、単射性から $u=v\in U\cap V=\emptyset$ となって矛盾する。よって $q(U)\cap q(V)=\emptyset$ である。$\square$

正則な Hausdorff 空間の閉集合をつぶした空間

$X$ が $T_3$ 空間(正則性条件を満たす $T_1$ 空間)で $A\subset X$ が空でない閉集合ならば、$X/A$ は Hausdorff である。

$T_3$ 空間は Hausdorff であり(分離公理 の定理「$T_4$ から $T_0$ までの含意」)、正則性条件により $x\notin A$ と閉集合 $A$ を交わらない開集合で分けられるので、thm-qsep-collapse の条件が成り立つ。$\square$

商写像 の記事の命題「閉集合をつぶした空間のHausdorff性」は、$X$ が正規な場合を述べている。cor-qsep-collapse-regular はそれを正則な場合に広げたものであり、thm-qsep-collapse によれば、Hausdorff 空間 $X$ について「どの閉集合をつぶしても Hausdorff」であることは、$X$ が正則であることと同値である。

反例:K 位相の直線で K をつぶした空間

$K:=\{1/n\mid n\ge1\}$ とし、開区間と、開区間から $K$ を除いた集合を開基とする $\mathbb{R}$ 上の位相を入れた空間を $\mathbb{R}_K$ とする(K位相)。$\mathbb{R}_K$ は通常の位相より細かいので Hausdorff であり、$\mathbb{R}\setminus K$ は開区間から $K$ を除いた集合の和なので $K$ は閉集合である。$Y:=\mathbb{R}_K/K$ と標準射影 $q$ を考える。
満たす性質:

  • $Y$ は $T_1$ である。同値類は一点集合 $\{x\}$($x\notin K$)と $K$ で、どれも閉集合だからである。
  • グラフ $R=\Delta\cup(K\times K)$($\Delta$ は対角線)は閉集合である。$\mathbb{R}_K$ は Hausdorff なので $\Delta$ は閉であり(Hausdorff空間 の命題「対角線の閉性による特徴づけ」)、閉集合の積 $K\times K$ も閉である。
  • $q$ は閉写像である。閉集合 $F$ の飽和は、$F$ が $K$ と交わらなければ $F$、交われば $F\cup K$ であり、どちらも閉集合だからである。
    満たさない性質:$Y$ は Hausdorff でない。$0\notin K$ だが、$0$ を含む開集合と $K$ を含む開集合は必ず交わる(正則空間 の例「反例:Hausdorff だが正則でない空間」。$0$ の開近傍は $(-\varepsilon,\varepsilon)\setminus K$ を含み、$K$ を含む開集合は $1/n<\varepsilon$ となる点 $1/n$ のまわりの開区間を含むので、その中の $K$ に属さない点が共通部分に入る)。thm-qsep-collapse により $Y$ は Hausdorff でない。
    破る含意:「$X$ が Hausdorff で $R$ が閉なら $X/{\sim}$ は Hausdorff」と「Hausdorff 空間の閉な商写像による像は Hausdorff」。$R$ が閉なのに Hausdorff でないので、商空間(位相) の命題「Hausdorff性と同値関係のグラフ」の 2 により、$q$ は開写像でない。また同値類 $K$ は $\mathbb{R}_K$ でコンパクトでない($K$ の各点 $1/n$ は開区間 $\bigl(\frac1{n+1},\frac1{n-1}\bigr)$($n=1$ では $(\frac12,2)$)によって $K$ の中で孤立しているので、$K$ は無限個の点からなる離散空間である)ので、$q$ は完全写像でない。
コンパクト Hausdorff 空間の商

$X$ をコンパクト Hausdorff 空間、$\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。次の 3 条件は同値である。
(i) $X/{\sim}$ は Hausdorff である。
(ii) グラフ $R$ は $X\times X$ の閉集合である。
(iii) 標準射影 $q\colon X\to X/{\sim}$ は閉写像である。
これらが成り立つとき、$X/{\sim}$ はコンパクト Hausdorff 空間である。

(i)⇒(ii):商空間(位相) の命題「Hausdorff性と同値関係のグラフ」の 1 である(コンパクト性は使わない)。
(ii)⇒(iii):$F\subset X$ を閉集合とし、飽和 $q^{-1}(q(F))$ が閉であることを示す。$y\in q^{-1}(q(F))$ は「$y\sim x$ となる $x\in F$ がある」ことなので、
$$ q^{-1}(q(F))=p_1\bigl(R\cap(X\times F)\bigr) $$
である。ここで $p_1\colon X\times X\to X$ は第 1 成分への射影である。$R\cap(X\times F)$ は閉集合の共通部分なので閉であり、第 2 因子 $X$ はコンパクトなので、$p_1$ は閉写像である(閉写像 の記事の例「コンパクトな因子に沿う射影」)。よって飽和は閉であり、$q(F)$ は閉集合である。
(iii)⇒(i):$q$ が完全写像であることを示す。$q$ は連続で、仮定により閉写像である。各同値類 $[x]=q^{-1}(q(\{x\}))$ について、$\{x\}$ は Hausdorff 空間 $X$ の閉集合なので $q(\{x\})$ は閉であり、$[x]$ はその逆像として閉である。コンパクト空間の閉集合はコンパクトなので(コンパクト空間 の記事の命題「保存と閉性」)、$[x]$ はコンパクトである。よって $q$ は全射の完全写像であり、完全写像 の定理「完全像への遺伝」の 1 により $X/{\sim}$ は Hausdorff である。
最後に、$X/{\sim}=q(X)$ はコンパクト空間の連続像なのでコンパクトである。$\square$

条件 (iii) は「閉集合の飽和が閉」ということなので、$X$ の中だけで確かめられる。Engelking の教科書 Eng89 は、(iii) を満たす同値関係を「閉な同値関係」(closed equivalence relation)と呼んでいる(§2.4、p. 92)。これはグラフ $R$ が $X\times X$ の閉集合であることとは別の条件である。たとえば $\mathbb{R}^2$ を「第 1 座標が等しい」という同値関係で割ると、$R=\{((s,t),(s',t'))\mid s=s'\}$ は閉集合だが、標準射影は第 1 成分への射影 $\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ と同一視でき(射影は連続な開全射なので商写像である)、閉写像でない(閉写像 の記事の例「反例:射影は開写像だが閉写像でない」)。また ex-qsep-rk では両方の条件が成り立つのに商は Hausdorff でない。コンパクト Hausdorff 空間では、thm-qsep-compact により 2 つの条件は同値になる。

円周と錐
  1. 閉区間 $[0,1]$ で $0\sim1$ とし、ほかの点は自分自身とだけ同値とする。グラフ $R=\Delta\cup\{(0,1),(1,0)\}$ は、閉集合 $\Delta$($[0,1]$ は Hausdorff)と 2 点の和なので閉集合である。thm-qsep-compact により $[0,1]/{\sim}$ はコンパクト Hausdorff 空間であり、これは円周 $S^1$ と同相である(商写像 の記事の例「閉区間の両端をつぶした円周」)。
  2. $X$ をコンパクト Hausdorff 空間とし、$X\times[0,1]$ の部分集合 $X\times\{1\}$ を一点につぶした空間 $CX$(錐(位相))を考える。$X\times\{1\}$ は閉集合なので、グラフ $\Delta\cup\bigl((X\times\{1\})\times(X\times\{1\})\bigr)$ は閉集合であり、$X\times[0,1]$ はコンパクト Hausdorff なので、thm-qsep-compact により $CX$ はコンパクト Hausdorff である。

正則性と正規性

$q$ が閉写像なら、$X$ の正規性は商に移る(正規空間 の命題「閉連続写像による像」。正規性条件の部分の証明は $q$ の全射性と閉写像性だけを使う)。閉写像であることは閉集合の飽和が閉であることなので、閉集合を一点につぶす商 $X/A$ はいつも閉写像であり、正規空間 $X$ について $X/A$ は正規である。

整数を一点につぶした直線と、整数で割った群
  1. $\mathbb{R}$ の閉集合 $\mathbb{Z}$ を一点につぶした空間 $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ を考える。閉集合 $F$ の飽和は $F$ または $F\cup\mathbb{Z}$ なので標準射影は閉写像であり、$\mathbb{R}$ は正規なので、$\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ は正規であり(同値類は閉集合なので $T_1$ でもあり、$T_4$ 空間である)、とくに Hausdorff である。一方、つぶした点は高々可算な基本近傍系をもたない(第1可算公理 の注意「反例:整数全体を一点につぶした商空間」)。分離公理はよく保たれても、可算性は失われうる。
  2. 同じ記号で書かれることがあるが、「$x\sim y\iff x-y\in\mathbb{Z}$」で割った剰余群 $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ は別の空間である。こちらは加法群 $\mathbb{Z}$ の平行移動による作用の軌道空間なので標準射影は開写像であり(商空間(位相) の命題「軌道空間の開性と有限群の場合の分離性」の 1)、グラフ $R=\{(x,y)\mid x-y\in\mathbb{Z}\}$ は連続写像 $(x,y)\mapsto x-y$ による閉集合 $\mathbb{Z}$ の逆像なので閉である。よって 商空間(位相) の命題「Hausdorff性と同値関係のグラフ」の 2 により Hausdorff である。この空間は円周と同相である(商写像 の記事の例「実数直線の整数による商」)。$\mathbb{Z}$ は無限群なので、同じ命題の有限群の場合の主張は使えないが、グラフの閉性で Hausdorff 性が分かる。

正則性は閉写像による像には移らない。正則だが正規でない空間(たとえば Niemytzki平面)の交わらない閉集合 $A,B$ で、開集合で分けられないものをとり、$A$ を一点につぶすと、その点と閉集合 $q(B)$ を分けられなくなる(正則空間 の例「反例:閉な商写像による像」)。このとき同値類 $A$ はコンパクトとは限らない。同値類がすべてコンパクトなら($q$ が完全写像なら)、正則性は商に移る(完全写像 の定理「完全像への遺伝」の 2)。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
各同値類が閉$\mathbb{R}$ で $\mathbb{Q}$ を一点につぶした空間距離空間の商は $T_1$
$q$ が開写像($R$ は閉のまま)ex-qsep-rk$R$ が閉なら $X/{\sim}$ は Hausdorff
$X$ がコンパクト($X$ は Hausdorff、$q$ は閉写像のまま)ex-qsep-rkthm-qsep-compact の (iii)⇒(i)
$R$ が閉($q$ は開写像のまま)二重原点直線(商空間(位相) の例「反例:二重原点直線」)開な商写像による Hausdorff 空間の商は Hausdorff
$X$ が正規(正則にする。$q$ は閉写像のまま)正則空間 の例「反例:閉な商写像による像」閉な商写像による正則空間の商は正則
$A$ と外の点を分ける開集合があるex-qsep-rk の $0$ と $K$Hausdorff 空間の閉集合をつぶした空間は Hausdorff

補足

文献

商空間が $T_1$ であるための条件と、閉な同値関係による正規空間の商が正規であることは Eng89 §2.4(p. 94)にあり、後者は Theorem 1.5.20(p. 46)から従う。完全写像による Hausdorff 性・正則性の保存は Eng89 Theorem 3.7.20(p. 187)と Mun00 §31 Exercise 7(p. 199)、閉写像による正規性の保存は Mun00 §31 Exercise 6(p. 199)にある。コンパクト空間の閉な同値関係による商がコンパクト Hausdorff になることは Eng89 Theorem 3.2.11(p. 141)であり、ex-qsep-rk は Mun00 §22 Exercise 6(p. 145)で扱われている。

関連項目

参考文献

[1]
James R. Munkres, Topology, 2nd ed., Prentice Hall, 2000, §22 Exercise 6(p. 145)、§31 Exercises 6, 7(p. 199)
[2]
Ryszard Engelking, General Topology, Revised and completed edition, Heldermann Verlag, 1989, Theorem 1.5.20(p. 46)、§2.4(pp. 92, 94)、Theorem 3.2.11(p. 141)、Theorem 3.7.20(p. 187)

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