接錐

同義語:tangent cone

概要

接錐(tangent cone)とは、スキームの点 $x$ の局所環 $A$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ についての随伴次数環 $\bigoplus_d\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}$ のスペクトルで、点の近くを無限に拡大して見た形を表す錐である。アフィン空間の原点では、イデアルの元の最低次の部分が生成するイデアルで定まり、超曲面 $f=0$ では最低次の部分 $f_m$ の零点 $f_m=0$ になる。接錐は Zariski 接空間の閉部分スキームで、等しいのは局所環が正則のときに限る。超曲面の点の重複度は $f_m$ の次数に等しく、射影化した接錐は点のブローアップの例外因子になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, 局所環, 随伴次数環, Zariski接空間

接錐(tangent cone)は、代数多様体やスキームの点の近くを「無限に拡大して見た」ときの形を表す錐である。平面曲線 $y^2=x^2+x^3$ を原点の近くで拡大すると、$x^3$ は $x^2$ に比べて無視できるので、曲線は $2$ 本の直線 $y^2=x^2$、すなわち $y=\pm x$ に近づく。この $2$ 本の直線の和が原点での接錐である。一般に、原点を通る超曲面 $f=0$ の接錐は、$f$ を斉次成分に分けたときの 最低次の部分 $f_m$ が定める錐 $f_m=0$ である。
非特異な点では最低次の部分は $1$ 次式で、接錐は Zariski接空間 に一致する。特異点では、接空間は大きすぎて形の情報を失うのに対し、接錐は「どの方向に何本の枝が伸びているか」を保持する。たとえば結節点 $y^2=x^2+x^3$ と尖点 $y^2=x^3$ の接空間はどちらも平面全体だが、接錐はそれぞれ $2$ 本の直線と $1$ 本の二重直線である。点の Hilbert–Samuel重複度 は接錐の Hilbert 関数から読め(超曲面では最低次の部分の次数に等しい。thm-tangent-cone-multiplicity)、射影化した接錐は点での ブローアップ の例外因子になる。
名前の注意。 最適化 で使う集合の接錐(実ベクトル空間の部分集合の、点での接方向の極限の集合)や、角付き多様体 の角のモデルの接錐は、名前は同じだが別の概念である。この記事の接錐は代数幾何学の概念で、点の局所環の随伴次数環から作られる。

定義

最低次の部分による定義

$k$ を体、$P=k[x_1,\dots,x_n]$、$\mathfrak{m}_0=(x_1,\dots,x_n)$ を原点の極大イデアルとする。$0\ne f\in P$ を斉次成分の和 $f=f_m+f_{m+1}+\cdots+f_N$($f_i$ は $i$ 次斉次、$f_m\ne0$)に分けたとき、$m$ を $f$ の原点での 位数、$f_m$ を 最低次の部分(初項、initial form)といい $\operatorname{in}(f)$ と書く。$f(0)=0$ と $m\ge1$ は同値である。

接錐(アフィンの場合)

$I\subset P$ をイデアルで $I\subset\mathfrak{m}_0$ をみたすもの、$X=V(I)=\operatorname{Spec}P/I$ とする。$I$ の $0$ でない元の最低次の部分全体が生成する斉次イデアルを $I^*$ と書く。
$$ C_0X:=\operatorname{Spec}P/I^*\subset\mathbb{A}^n_k $$
を $X$ の原点における 接錐 という。$I^*$ は斉次イデアルなので、$C_0X$ は原点を頂点とする錐であり、射影空間の閉部分スキーム $\mathbb{P}(C_0X):=\operatorname{Proj}P/I^*\subset\mathbb{P}^{n-1}_k$ を 射影化した接錐 という。$\mathbb{P}(C_0X)$ の点(原点を通る直線)を 接方向 という。

$I=(f)$ が主イデアルなら $I^*=(f_m)$ である(cor-tangent-cone-hypersurface)。しかし一般には、生成元の最低次の部分だけでは $I^*$ は生成されない(随伴次数環 の「商環の核と初項イデアル」の節の例 $I=(x+y^2,x)$、$I^*=(x,y^2)$)。

局所環による定義

上の定義は座標のとり方によらず、点の 局所環 だけで決まる(thm-tangent-cone-affine)。そこで一般のスキームでは次のように定める。

接錐

$X$ を局所 Noether スキーム、$x\in X$ を点、$A=\mathcal{O}_{X,x}$、$\mathfrak{m}$ をその極大イデアル、$\kappa=A/\mathfrak{m}$ を剰余体とする。$\mathfrak{m}$ 進の 随伴次数環
$$ \operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A=\bigoplus_{d\ge0}\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1} $$
は次数 $0$ の部分が $\kappa$ で、次数 $1$ の部分 $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ で生成される有限型の次数付き $\kappa$ 代数である。$\kappa$ 上のスキーム
$$ C_xX:=\operatorname{Spec}\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A,\qquad \mathbb{P}(C_xX):=\operatorname{Proj}\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A $$
を、$X$ の $x$ における 接錐、射影化した接錐 という。

閉点 $x$(極大イデアルが定める被約な $1$ 点の閉部分スキーム)に沿った $X$ の 法錐 は、ちょうど $C_xX$ である。すなわち接錐は法錐の、部分スキームが $1$ 点の場合である(Vak25 §22.3.6、p. 645)。

座標による計算

接錐は最低次の部分で計算できる

$k$ を体、$I\subset P=k[x_1,\dots,x_n]$ を $I\subset\mathfrak{m}_0$ をみたすイデアル、$X=\operatorname{Spec}P/I$、$A=\mathcal{O}_{X,0}$ を原点の局所環とする。$x_i$ を $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ の中の $x_i$ の類に送る写像は、次数付き $k$ 代数の同型
$$ P/I^*\xrightarrow{\ \sim\ }\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A $$
を与える。したがって def-tangent-cone-affine の $C_0X$ と def-tangent-cone の $C_0X$ は一致する。

局所化しても初項は定数倍しか変わらない

$B=P_{\mathfrak{m}_0}$、$\mathfrak{n}=\mathfrak{m}_0B$ とおくと、$A=B/IB$ である。
段 1:$\operatorname{gr}_{\mathfrak{n}}B=P$。 $\mathfrak{m}_0^d/\mathfrak{m}_0^{d+1}$ は $d$ 次斉次多項式の空間 $P_d$ と同一視され、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}_0}P=\bigoplus_dP_d=P$ である。随伴次数環 の命題「任意の局所化」から $\operatorname{gr}_{\mathfrak{n}}B=(\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}_0}P)_{\mathfrak{m}_0}$ であり、$s\notin\mathfrak{m}_0$ は各 $P_d$ に定数 $s(0)\ne0$ 倍として可逆に作用するので、局所化しても変わらない。また $s\notin\mathfrak{m}_0$ は $s=s(0)(1-u)$($u\in\mathfrak{m}_0$)と書け、$u$ は $P/\mathfrak{m}_0^d$ で冪零なので $s$ はそこで可逆である。よって $P/\mathfrak{m}_0^d\to B/\mathfrak{n}^d$ は同型で、$\mathfrak{n}^d\cap P=\mathfrak{m}_0^d$ であり、$f\in P$ の $B$ での位数($f\in\mathfrak{n}^d$ となる最大の $d$)は $P$ での位数に等しい。$h\in B$ の位数が $d$ のとき、$h$ の $\mathfrak{n}^d/\mathfrak{n}^{d+1}=P_d$ での類を $\operatorname{in}(h)$ と書く。$\operatorname{gr}_{\mathfrak{n}}B=P$ は整域なので $\operatorname{in}(hh')=\operatorname{in}(h)\operatorname{in}(h')$ である。
段 2:商の随伴次数環。 随伴次数環 の定理「商の随伴次数環」により
$$ \operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong\operatorname{gr}_{\mathfrak{n}}B/\operatorname{in}_{\mathfrak{n}}(IB),\qquad \operatorname{in}_{\mathfrak{n}}(IB)_d=\frac{(IB\cap\mathfrak{n}^d)+\mathfrak{n}^{d+1}}{\mathfrak{n}^{d+1}}. $$
$IB\cap\mathfrak{n}^d$ の元は $\mathfrak{n}^{d+1}$ に入るか位数がちょうど $d$ なので、$\operatorname{in}_{\mathfrak{n}}(IB)_d=\{\operatorname{in}(h)\mid h\in IB,\ \text{位数 }d\}\cup\{0\}$ である。
段 3:$\operatorname{in}_{\mathfrak{n}}(IB)=I^*$。 $h\in IB$ は $h=f/s$($f\in I$、$s\notin\mathfrak{m}_0$)と書ける。$f=sh$ と段 1 から $\operatorname{in}(f)=\operatorname{in}(s)\operatorname{in}(h)=s(0)\operatorname{in}(h)$ なので、$\operatorname{in}(h)=s(0)^{-1}\operatorname{in}(f)$ は $I$ の元の最低次の部分の定数倍である。逆に $f\in I\subset IB$ の最低次の部分は $\operatorname{in}(f)$ そのものである。よって $d$ 次の部分について
$$ \operatorname{in}_{\mathfrak{n}}(IB)_d=\{\operatorname{in}(f)\mid f\in I,\ \text{位数 }d\}\cup\{0\} $$
となる。右辺の全次数の和は $I^*$ に一致する。実際、$\operatorname{in}(f)+\operatorname{in}(f')$(同じ次数 $d$)は $0$ か $\operatorname{in}(f+f')$ であり、$d'$ 次斉次式 $g$ について $g\operatorname{in}(f)=\operatorname{in}(gf)$ なので、右辺の和はすでに斉次イデアルで、最低次の部分を全部含む最小のものである。以上から $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong P/I^*$ であり、この同型は $x_i$ を $x_i$ の類に送る。$\square$

超曲面の接錐

$0\ne f\in\mathfrak{m}_0$ の位数を $m$、最低次の部分を $f_m$ とし、$X=V(f)\subset\mathbb{A}^n_k$ とする。$(f)^*=(f_m)$ であり、
$$ C_0X=V(f_m)\subset\mathbb{A}^n_k,\qquad \mathbb{P}(C_0X)=V_+(f_m)\subset\mathbb{P}^{n-1}_k . $$
とくに $n=2$、$k$ が 代数閉体 のとき、$f_m=\prod_i(\beta_ix-\alpha_iy)^{r_i}$(相異なる直線の積、$\sum_ir_i=m$)と分解し、接錐は直線 $\beta_ix=\alpha_iy$ に重複度 $r_i$ を付けた和である。これらの直線を原点での 接線 という。

$(f)$ の $0$ でない元は $gf$($g\ne0$)で、$\operatorname{in}(gf)=\operatorname{in}(g)f_m$($P$ は整域で、最低次の部分どうしの積は $0$ でない)。よって $(f)^*$ の生成元はすべて $f_m$ の倍元で、$f_m$ 自身も含まれるので $(f)^*=(f_m)$。$2$ 変数の斉次式が代数閉体上で一次式の積に分解することは、$f_m(x,y)=y^m f_m(x/y,1)$ などの脱斉次化と $1$ 変数多項式の分解から従う。$\square$

$n=2$ の場合は平面曲線の古典的な「重複点と接線」の定義そのものである(Ful08 §3.1、pp. 32–33)。特異点解消 の命題「平面曲線の全変換と狭義変換」は、原点でブローアップすると狭義変換が例外曲線と交わる点がちょうどこれらの接線に対応することを示しており、正規交叉因子 の命題「接錐による必要条件」は、正規交叉の点では $f_m$ が一次独立な一次式の積になることを示している。

重複度と次元

接錐の Hilbert 関数は局所環の Hilbert 関数と同じものである。実際、$\ell_A(A/\mathfrak{m}^{t+1})=\sum_{d=0}^{t}\dim_\kappa\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}$ の右辺は $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ の各次数の次元の和である。したがって点の重複度・次元は接錐から読める。とくに $\dim C_xX=\dim\mathcal{O}_{X,x}$ が成り立つ(Mat89 Theorem 13.9、p. 102。この記事では証明しない)。超曲面では重複度は最低次の部分の次数そのものになる。

超曲面の点の重複度

$n\ge1$、$0\ne f\in\mathfrak{m}_0\subset k[x_1,\dots,x_n]$ の位数を $m$ とし、$A=\mathcal{O}_{V(f),0}$ とする。このとき $\dim A=n-1$ であり、$A$ の $\mathfrak{m}$ に関する Hilbert–Samuel重複度 は $e(A)=m$ である。さらに $A$ が 正則局所環 であるための必要十分条件は $m=1$ である。

接錐の各次数の次元を数える

cor-tangent-cone-hypersurface と thm-tangent-cone-affine から $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong P/(f_m)$ である。$P$ は整域なので $f_m$ 倍 $P_{d-m}\to P_d$ は単射であり、$\dim_kP_d=\binom{d+n-1}{n-1}$ から
$$ \dim_k\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}=\binom{d+n-1}{n-1}-\binom{d-m+n-1}{n-1} $$
($d< m$ では第 2 項を $0$ とする)。$\sum_{d=0}^{t}\binom{d+n-1}{n-1}=\binom{t+n}{n}$(Pascal の三角形の斜めの和)を使うと、$t\ge m-1$ について
$$ H(t):=\ell_A(A/\mathfrak{m}^{t+1})=\binom{t+n}{n}-\binom{t+n-m}{n}. $$
$\binom{t+n}{n}=\frac{1}{n!}\prod_{i=1}^{n}(t+i)$、$\binom{t+n-m}{n}=\frac{1}{n!}\prod_{i=1}^{n}(t+i-m)$ の $t^n$ の係数はともに $\frac1{n!}$、$t^{n-1}$ の係数はそれぞれ $\frac1{n!}\sum_{i=1}^n i$、$\frac1{n!}\sum_{i=1}^n(i-m)$ である。よって $H(t)$ は $t$ の $n-1$ 次多項式で、最高次の係数は $\frac{nm}{n!}=\frac{m}{(n-1)!}$ である。
Hilbert–Samuel多項式 の定理「Hilbert–Samuel 次元定理」から $\dim A=\deg H=n-1$ であり、同記事の重複度の定義($t^{\dim A}$ の係数が $e/(\dim A)!$)から $e(A)=m$ である。
正則性について。$m=1$ なら $f_1$ は $0$ でない一次式で、一次の座標変換で $f_1=x_n$ としてよく、$\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong k[x_1,\dots,x_{n-1}]$ は $n-1=\dim A$ 変数の多項式環である。正則局所環 の定理「随伴次数環が多項式環になること」から $A$ は正則である。$m\ge2$ なら $f\in\mathfrak{m}_0^2$ なので $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=\mathfrak{m}_0/\mathfrak{m}_0^2$ は $n$ 次元であり、$n>\dim A$ なので $A$ は正則でない。$\square$

平面曲線では、$\dim_k\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}=m$($d\ge m-1$)となり、これは $f$ が既約なときの Ful08 §3.2 Theorem 2(p. 35)の式 $m_P(F)=\dim_k\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}$($d$ が十分大きいとき)にあたる。

接空間・ブローアップとの関係

接錐は接空間に含まれる

$X$ を局所 Noether スキーム、$x\in X$、$A=\mathcal{O}_{X,x}$、$\mathfrak{m}$、$\kappa$ を上のとおりとし、$T_xX:=\operatorname{Spec}\operatorname{Sym}_\kappa(\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2)$ を Zariski接空間 を $\kappa$ 上のアフィン空間とみたものとする。自然な全射 $\operatorname{Sym}_\kappa(\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2)\to\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ は閉埋め込み $C_xX\hookrightarrow T_xX$ を与える。これが同型であるための必要十分条件は、$A$ が 正則局所環 であることである。

要点:全射は次数 $1$ での生成から来る。同型なら随伴次数環が多項式環で正則、正則なら各次数の次元が一致して全射が同型になる。

詳しい証明を開く

全射であることは 随伴次数環 の命題「次数一生成と対称代数」であり、環の全射は閉埋め込みを与える。$e=\dim_\kappa\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ とすると、対称代数 の定理「自由加群の対称代数」から $\operatorname{Sym}_\kappa(\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2)\cong\kappa[X_1,\dots,X_e]$ である。全射が同型なら $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ は $e$ 変数の多項式環で、正則局所環 の定理「随伴次数環が多項式環になること」から $A$ は正則である。逆に $A$ が正則なら、同じ定理から $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ は次数付き環として $e$ 変数の多項式環に同型なので、各次数で $\operatorname{Sym}$ 側と同じ有限次元をもつ。次数を保つ全射は各次数で同じ次元の線形空間の間の全射なので単射でもあり、同型である。$\square$

Mat89 Theorem 14.4(p. 106)も正則局所環の随伴次数環が多項式環になることを述べている。接錐は「接空間のうち、実際に $X$ が伸びている部分」であり、特異点では接空間より真に小さくなる。
点のブローアップは接錐を「射影化」する。$x$ を閉点とし、$\mathfrak{m}_x$ が定める被約な $1$ 点に沿う ブローアップ $\pi\colon\operatorname{Bl}_xX\to X$ を考えると、例外因子 $E=\pi^{-1}(x)$ は
$$ E\cong\operatorname{Proj}\bigoplus_{d\ge0}\mathfrak{m}_x^d/\mathfrak{m}_x^{d+1}=\mathbb{P}(C_xX) $$
である。これは 法錐 の定理「ブローアップの例外因子は射影化した法錐」の $1$ 点の場合である(Vak25 §22.3.6、p. 645)。たとえば $X=V(f)\subset\mathbb{A}^n_k$ の原点のブローアップでは $E=V_+(f_m)\subset\mathbb{P}^{n-1}_k$ であり、特異点解消 の命題「平面曲線の全変換と狭義変換」の「狭義変換と例外曲線の交点は接線に対応する」という記述はこの同型の平面曲線の場合である。

例

結節点・尖点・タクノード

$k$ の標数は $2$ でないとし、$\mathbb{A}^2_k$ の原点で考える。

  1. 結節点 $y^2=x^2+x^3$:$f_2=y^2-x^2=(y-x)(y+x)$。接錐は $2$ 本の異なる直線 $y=\pm x$ で、被約である(Vak25 Exercise 22.3.B、p. 645)。
  2. 尖点 $y^2=x^3$:$f_2=y^2$。接錐は二重直線 $y^2=0$ で、$X$ は被約でも接錐は被約でない(尖点(特異点))。
  3. タクノード $y^2=x^4$:$f_2=y^2$ で、接錐は尖点と同じ二重直線である。
    3 つとも重複度は $2$ である(thm-tangent-cone-multiplicity)。2 と 3 は接錐が同じだが、局所環は同型でない。尖点の座標環は $k[x,y]/(y^2-x^3)\cong k[t^2,t^3]$($x\mapsto t^2$、$y\mapsto t^3$)で整域なので局所環も整域であるが、タクノードでは $(y-x^2)(y+x^2)=0$、$y\pm x^2\ne0$ で局所環は整域でない($2$ 本の枝 $y=\pm x^2$ をもつ)。接錐は点の $1$ 次近似にすぎず、特異点の型を決めるとは限らない。
斉次式で定まる錐

$I$ が斉次多項式で生成されるとき $I^*=I$ であり、$X=V(I)$ の原点での接錐は $X$ 自身である。実際、斉次イデアルは各元の斉次成分を含むので最低次の部分も $I$ に入り $I^*\subset I$、また $I$ の斉次な生成元はそれ自身の最低次の部分なので $I\subset I^*$。たとえば $2$ 次錐 $x^2+y^2-z^2=0$(標数 $2$ でない)は原点で自分自身を接錐にもつ(通常2重点、Vak25 Exercise 22.3.C、p. 645)。

空間曲線 $(t^3,t^4,t^5)$

座標 $x,y,z$ の $\mathbb{A}^3_k$ の中の曲線 $X$ を $t\mapsto(t^3,t^4,t^5)$ の像とする。座標環は $S=k[t^3,t^4,t^5]\subset k[t]$ で、$t$ の指数の集合は $\{0,3,4,5,6,\dots\}$($3$ 以上の整数と $0$)である。原点の極大イデアル $\mathfrak{m}=(t^3,t^4,t^5)$ について、接錐は
$$ C_0X\cong\operatorname{Spec}k[U,V,W]/(V^2-UW,\ VW,\ W^2) $$
であり、集合としては $U$ 軸(曲線の原点での接線)、重複度は $3$ である。$X$ は被約な既約曲線だが、接錐は $3$ 重の直線で、$3$ 次元の接空間 $T_0X=\mathbb{A}^3$ の中にある。
確かめる。$3$ 以上の整数 $n$ 個の和は $3n$ 以上で、逆に $a\ge3n$ は $3$ を $n-1$ 個と $a-3(n-1)\ge3$ の和に書けるので、$\mathfrak{m}^n$ は $t^a$($a\ge3n$)で張られる。よって $n\ge1$ で $\mathfrak{m}^n/\mathfrak{m}^{n+1}$ は $t^{3n},t^{3n+1},t^{3n+2}$ を基底とする $3$ 次元の空間である(局所化しても変わらないことは thm-tangent-cone-affine の証明の段 1 と同じ)。$U,V,W$ を $t^3,t^4,t^5$ の $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ での類に送る全射 $k[U,V,W]\to\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}S$ で、$V^2-UW\mapsto t^8-t^8=0$、$VW\mapsto t^9\in\mathfrak{m}^3$、$W^2\mapsto t^{10}\in\mathfrak{m}^3$ なので、全射 $k[U,V,W]/(V^2-UW,VW,W^2)\to\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}S$ を得る。左辺の $n$ 次の部分($n\ge1$)は、$W^2=VW=0$、$V^2=UW$ から $U^n$、$U^{n-1}V$、$U^{n-1}W$ で張られ($V^3=UVW=0$ に注意)、$3$ 次元以下である。右辺は $3$ 次元なので全射は同型である。$V^3=0$、$W^2=0$ から根基は $(V,W)$ で、Hilbert 関数 $1,3,3,\dots$ から重複度は $3$ である。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
cor-tangent-cone-hypersurface の「イデアルが $1$ つの元で生成される」$I=(x+y^2,\ x)\subset k[x,y]$生成元の最低次の部分 $x$、$x$ が生成する $(x)$ は $I^*=(x,y^2)$ より真に小さく、生成元の最低次の部分だけでは接錐が求まらない
prop-tangent-cone-tangent-space の「$A$ は正則」尖点 $y^2=x^3$ の原点接錐 $V(y^2)$ は $1$ 次元だが接空間は $\mathbb{A}^2$ で、閉埋め込みは同型にならない
thm-tangent-cone-multiplicity の「$1$ つの方程式で定まる(超曲面)」ex-tangent-cone-monomial-curve の曲線重複度は $3$ だが、イデアルの元の位数の最小値は $2$(たとえば $y^2-xz$)で、重複度が方程式の位数と一致しない
確かめ

1 行目:$y^2=(x+y^2)-x\in I$ なので $I=(x,y^2)$。$I$ は斉次イデアルなので ex-tangent-cone-homogeneous から $I^*=I=(x,y^2)\ne(x)$。

3 行目:$\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が $3$ 次元なので、曲線のイデアルは $\mathfrak{m}_0^2$ に含まれ、位数 $1$ の元はない。$y^2-xz$ は $t^8-t^8=0$ からイデアルに属し、位数は $2$。重複度は例で計算したとおり $3$。

関連項目

参考文献

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