捩れ(加群)

同義語:ねじれ(加群)torsion (module theory)

概要

捩れ(加群)(torsion of a module)とは、可換環 $R$ 上の加群 $M$ の元のうち、ある非零因子 $a$ について $am=0$ となるもの(捩れ元)と、その全体のなす部分加群 $T(M)$(捩れ部分加群)のことで、アーベル群では有限位数の元の全体にあたる。$T(M)$ は線形写像で保たれ、$M/T(M)$ は捩れをもたず、整域上では商体への係数拡大 $M\to K\otimes_RM$ の核に一致し、局所化と両立する。単項イデアル整域上の有限生成加群は捩れ部分と有限階数の自由加群の直和に分かれ、捩れ加群は素元ごとの準素成分の直和になる。平坦性の判定、整係数コホモロジー、楕円曲線の捩れ点などに現れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 加群, 整域, 零因子, 完全列

ベクトル空間では、$0$ でないスカラー $a$ とベクトル $v$ について $av=0$ なら $v=0$ である。ところが環の上の加群では、この性質がしばしば崩れる。整数環 $\mathbb{Z}$ 上の加群 $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ では $6\cdot[1]=0$ であり、$0$ でない整数 $6$ が $0$ でない元 $[1]$ を消してしまう。このように、何か「割り算できるはずの」スカラーで消えてしまう元を 捩れ元 といい、その全体を 捩れ部分加群 という。アーベル群($\mathbb{Z}$ 加群)の場合、捩れ元とは有限位数の元のことである。
捩れは、加群がベクトル空間からどれだけ離れているかを測る量の 1 つである。整域上の加群を商体へ係数拡大すると捩れ元はちょうど消え、残りはベクトル空間になる。単項イデアル整域上の有限生成加群は、捩れ部分と自由加群の直和にきれいに分かれる。この記事では、可換環上の加群について捩れ元を定義し、捩れ部分加群の基本性質、局所化との関係、単項イデアル整域上での自由部分との分離と準素成分への分解を証明する。有限生成という仮定を外すと分離が成り立たない例も示す。

定義

以下、環はすべて単位元をもつ可換環とする。環 $R$ の元 $a$ が 非零因子(non-zero-divisor)であるとは、$ab=0$($b\in R$)なら $b=0$ となることをいう(零因子)。$1$ は非零因子であり、$a,b$ が非零因子なら $ab$ も非零因子である($abx=0$ なら $bx=0$、よって $x=0$)。$R$ が整域なら、非零因子とは $0$ でない元のことである。

捩れ元と捩れ部分加群

$R$ を可換環、$M$ を $R$ 加群とする。

  1. $m\in M$ が 捩れ元(torsion element)であるとは、ある非零因子 $a\in R$ について $am=0$ となることをいう。
  2. $M$ の捩れ元全体を $T(M)$ と書き、$M$ の 捩れ部分加群(torsion submodule)という。$M_{\mathrm{tors}}$ とも書く。
  3. $T(M)=0$ のとき、$M$ は 捩れをもたない(torsion-free)という。$T(M)=M$ のとき、$M$ は 捩れ加群(torsion module)であるという。

$T(M)$ が実際に部分加群であることは prop-tor-basic で示す。$R$ が整域のとき、この定義は 平坦加群 の記事の定義「捩れをもたない加群」と同じである。$R=\mathbb{Z}$ のとき、$m$ が捩れ元であることは、$0$ でない整数 $n$ で $nm=0$ となること、すなわち $m$ の位数が有限であることにほかならない(元の位数、アーベル群 の記事の定義「捩れ元と捩れ部分」)。
特定の元で消える元を考えることも多い。

$a$ で消える元と $a$ 捩れ

$a\in R$ とする。$M[a]:=\{m\in M\mid am=0\}$ を $M$ の $a$ 捩れ部分 といい、$M[a^\infty]:=\bigcup_{n\ge1}M[a^n]$ とおく。$M[a]=0$、すなわち $a$ 倍写像 $M\to M$ が単射であるとき、$M$ は $a$ 捩れをもたない という。

たとえば $p$ を素数とするとき、アーベル群 $A$ の $A[p^\infty]$ は位数が $p$ の冪である元の全体であり、$A$ の $p$ 捩れ部分群($p$ 準素成分)という。「$\mathbb{Z}_p$ 代数 $A$ が $p$ 捩れをもたない」は、$p$ 倍写像が $A$ 上で単射であることを意味する。$M[a]$ と $M[a^\infty]$ は $a^n$ 倍写像の核とその増大列の和集合なので部分加群である。

直感

$R$ を整域、$K$ をその商体とする。$M$ の元 $m$ に「分数のスカラー」$1/a$ を掛けて $m/a$ を作れる世界、すなわち $K$ 上のベクトル空間 $K\otimes_RM$ へ移ると、$am=0$ となる元 $m$ は $m=(1/a)(am)=0$ として消えてしまう。捩れ元は「分数を許すと $0$ になる元」であり、捩れをもたない加群は、$K$ 上のベクトル空間の中に忠実に収まる加群である。
位相幾何学では、図形の整係数ホモロジー群やコホモロジー群に $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ のような有限巡回群が直和因子として現れることがある。このような捩れの情報は、係数を有理数や実数に取り替えると見えなくなる(節「使われる場所」を参照)。

基本性質

捩れ部分加群の基本性質

$R$ を可換環、$M,N$ を $R$ 加群とする。

  1. $T(M)$ は $M$ の部分加群であり、$M$ の捩れ加群であるような部分加群はすべて $T(M)$ に含まれる。
  2. $R$ 線形写像 $f\colon M\to N$ について $f(T(M))\subset T(N)$ である。また $T(M\oplus N)=T(M)\oplus T(N)$ である。
  3. $M/T(M)$ は捩れをもたない。
  4. $0\to M'\xrightarrow{\iota}M\xrightarrow{\pi}M''$ が完全なら、$0\to T(M')\to T(M)\to T(M'')$ も完全である。
  5. $M$ が捩れ加群で $N$ が捩れをもたないなら、$\operatorname{Hom}_R(M,N)=0$ である。
  1. $1$ は非零因子で $1\cdot0=0$ なので $0\in T(M)$ である。$m,n\in T(M)$ とし、非零因子 $a,b$ で $am=0$、$bn=0$ とする。$ab$ は非零因子であり、$R$ が可換なので $ab(m+n)=b(am)+a(bn)=0$ である。$r\in R$ について $a(rm)=r(am)=0$ である。よって $T(M)$ は部分加群である。部分加群 $L\subset M$ が捩れ加群なら、$L$ の各元は $L$ の中で、したがって $M$ の中でも非零因子で消えるので $L\subset T(M)$ である。
  2. $am=0$ なら $af(m)=f(am)=0$ である。直和については、$(m,n)$ が非零因子 $a$ で消えれば $am=0$ かつ $an=0$ であり、逆に $am=0$、$bn=0$ なら $ab(m,n)=0$ である。
  3. $a$ を非零因子とし、$a(m+T(M))=0$、すなわち $am\in T(M)$ とする。非零因子 $b$ で $bam=0$ となるものがあり、$ba$ は非零因子なので $m\in T(M)$ である。
  4. $\iota$ の制限 $T(M')\to T(M)$ は単射であり、2 によって 2 つの写像は捩れ部分加群の間に定まり、合成は $\pi\circ\iota=0$ の制限なので $0$ である。$m\in T(M)$ が $\pi(m)=0$ を満たすとする。完全性から $m=\iota(m')$ となる $m'\in M'$ がある。非零因子 $a$ で $am=0$ とすると $\iota(am')=0$ であり、$\iota$ は単射なので $am'=0$、すなわち $m'\in T(M')$ である。
  5. $f\colon M\to N$ を線形写像とする。$m\in M$ について非零因子 $a$ で $am=0$ となるものがあり、$af(m)=0$ なので $f(m)\in T(N)=0$ である。

4 で右端に $\to0$ を付けても、$T(M)\to T(M'')$ は全射になるとは限らない。$n\ge2$ について完全列 $0\to\mathbb{Z}\xrightarrow{n}\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to0$ を考えると、$T(\mathbb{Z})=0$ から $T(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\ne0$ への写像は全射でない。$M\mapsto T(M)$ は左完全な関手であるが、完全関手ではない。5 は、射影極限の計算などで $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z},\mathbb{Z}_p)=0$($\mathbb{Z}_p$ は $p$ 進整数環で、整域なので $\mathbb{Z}$ 加群として捩れをもたない)を導くのに使われる(射影極限)。
定義に「非零因子」を使う理由は次の例にある。

反例:零因子で消える元の全体は部分加群とは限らない

$R=\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ を $R$ 自身の上の加群とみる。「$0$ でない何らかの元で消える元」を集めると、$[2]$($[3]\cdot[2]=0$)、$[3]$($[2]\cdot[3]=0$)、$[4]$($[3]\cdot[4]=0$)と $[0]$ になるが、$[2]+[3]=[5]$ は単元なので $0$ でないどの元でも消えない。この集合は和について閉じておらず、部分加群にならない。非零因子を使う def-tor-main では、$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の非零因子は単元 $[1],[5]$ だけなので $T(R)=0$ である。一般に、どの可換環 $R$ についても $R$ 自身は捩れをもたない($am=0$ で $a$ が非零因子なら $m=0$)。

商体と局所化

整域上では、捩れ元は商体への係数拡大の核として捉えられる。整域 の記事の命題「商体への写像の核と階数」により、整域 $R$ の商体を $K$ とすると、$M\to K\otimes_RM$、$m\mapsto1\otimes m$ の核は $T(M)$ である。とくに捩れ加群 $M$ については $K\otimes_RM=0$ である($(x/s)\otimes m$ は、$am=0$ となる $a\ne0$ を使って $(x/(sa))\otimes am=0$ と書ける)。局所化についても、捩れ部分加群は局所化と両立する。

捩れと局所化

$R$ を整域、$S\subset R$ を $0$ を含まない積閉集合、$M$ を $R$ 加群とする。

  1. $S^{-1}M$ の部分加群として $S^{-1}\bigl(T(M)\bigr)=T\bigl(S^{-1}M\bigr)$ である。ここで右辺は $S^{-1}R$ 加群としての捩れ部分加群である。
  2. 次は同値である。(i) $M$ は捩れをもたない。(ii) すべての素イデアル $\mathfrak{p}$ について $M_{\mathfrak{p}}$ は捩れをもたない。(iii) すべての極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $M_{\mathfrak{m}}$ は捩れをもたない。

$R$ は整域で $0\notin S$ なので、$S^{-1}R$ は商体 $K$ の部分環であり整域である。その $0$ でない元は $a\ne0$ である分数 $a/t$ である。包含 $T(M)\to M$ を局所化した $S^{-1}T(M)\to S^{-1}M$ は単射であり(局所化 の記事の命題「局所化の完全性」)、左辺を右辺の部分加群とみる。

  1. $m\in T(M)$、$a\ne0$、$am=0$ とすると、$a/1\ne0$ であり $(a/1)(m/s)=am/s=0$ なので $m/s$ は捩れ元である。逆に $m/s\in S^{-1}M$ が捩れ元であるとし、$a\ne0$、$t\in S$ について $(a/t)(m/s)=am/(ts)=0$ とする。加群の局所化で分数が $0$ になる条件(局所化 の記事の定義「加群の局所化」)から、ある $u\in S$ について $uam=0$ である。$u\ne0$、$a\ne0$ で $R$ は整域なので $ua\ne0$ であり、$m\in T(M)$、よって $m/s\in S^{-1}T(M)$ である。
  2. (i) から (ii):1 により $T(M_{\mathfrak{p}})=T(M)_{\mathfrak{p}}=0$ である。(ii) から (iii) は明らかである。(iii) から (i):$N:=T(M)$ とおくと、1 によりすべての極大イデアル $\mathfrak{m}$ で $N_{\mathfrak{m}}=0$ である。$x\in N$ が $0$ でないとすると、その零化イデアル $\operatorname{Ann}(x)=\{r\in R\mid rx=0\}$ は $1$ を含まない真のイデアルなので、それを含む極大イデアル $\mathfrak{m}$ がある(極大イデアル の記事の定理「真イデアルを含む極大イデアルの存在」)。$N_{\mathfrak{m}}$ で $x/1=0$ なら、ある $u\notin\mathfrak{m}$ で $ux=0$、すなわち $u\in\operatorname{Ann}(x)\subset\mathfrak{m}$ となり矛盾する。よって $N=0$ である。

1 は「捩れであること」が局所的な性質であることを、2 は「捩れをもたないこと」を極大イデアルごとに確かめればよいことを表す。

単項イデアル整域上の有限生成加群

単項イデアル整域の上では、有限生成加群は捩れ部分と自由加群に分かれる。まず、自由加群の部分加群が自由であることを、有限階数の場合に示す。

有限階数の自由加群の部分加群

$R$ を単項イデアル整域、$n\ge0$ とする。$R^n$ の部分加群 $N$ は、$n$ 個以下の元からなる基底をもつ自由加群である。

最後の座標による帰納法

$n$ についての帰納法で示す。$n=0$ なら $N=0$ で、空な族が基底である。$n\ge1$ とし、最後の成分をとる線形写像 $\pi\colon R^n\to R$ を考え、$\ker\pi$ を $R^{n-1}$ と同一視する。$N':=N\cap R^{n-1}$ は帰納法の仮定により基底 $y_1,\dots,y_k$($k\le n-1$)をもつ。$\pi(N)$ は $R$ のイデアルなので $\pi(N)=dR$ となる $d\in R$ がある。
$d=0$ なら $N\subset R^{n-1}$ なので $N=N'$ である。$d\ne0$ なら $\pi(h)=d$ となる $h\in N$ をとり、$y_1,\dots,y_k,h$ が $N$ の基底であることを示す。$x\in N$ について $\pi(x)=cd$($c\in R$)と書くと $\pi(x-ch)=0$ なので $x-ch\in N'$ であり、$x$ は $y_i$ と $h$ の $R$ 係数の和で書ける。$\sum_ia_iy_i+ch=0$ なら、$\pi$ を施して $cd=0$、$R$ は整域で $d\ne0$ なので $c=0$ であり、$y_i$ の一次独立性からすべての $a_i=0$ である。よって $N$ は $k+1\le n$ 個の元からなる基底をもつ。

単項イデアル整域上の有限生成加群の捩れ

$R$ を単項イデアル整域、$M$ を有限生成 $R$ 加群とする。

  1. $M$ が捩れをもたないなら、$M$ は有限個の元からなる基底をもつ自由加群である。
  2. $M$ の部分加群 $F$ で、有限個の元からなる基底をもつ自由加群であり、$M=T(M)\oplus F$ を満たすものが存在する。とくに $F\cong M/T(M)$ であり、$T(M)$ は有限生成である。
一次独立な生成元への押し込みと持ち上げ
  1. $M$ を $g_1,\dots,g_m$ で生成されるとする。$\{g_1,\dots,g_m\}$ の部分集合で $R$ 上一次独立なもののうち、包含について極大なもの $\{x_1,\dots,x_k\}$ をとる(有限集合なので存在する)。$H:=Rx_1+\cdots+Rx_k$ は $x_1,\dots,x_k$ を基底とする自由加群である。各 $j$ について、$0$ でない $c_j\in R$ で $c_jg_j\in H$ となるものがある。実際、$g_j$ が $x_i$ のどれかなら $c_j=1$ とすればよく、そうでなければ極大性から $x_1,\dots,x_k,g_j$ は一次従属であり、すべては $0$ でない $c,a_1,\dots,a_k\in R$ で $cg_j+\sum_ia_ix_i=0$ となる。$c=0$ なら $x_i$ の一次独立性に反するので $c\ne0$ であり、$c_j:=c$ とすればよい。
    $c:=c_1\cdots c_m$ は $0$ でない($R$ は整域)。各 $g_j$ について $cg_j\in H$ なので $cM\subset H$ である。$c$ 倍写像 $M\to M$ は $R$ 線形で、$M$ は捩れをもたないので単射である。よって $M\cong cM$ であり、$cM$ は $H\cong R^k$ の部分加群なので、lem-tor-pid-submodule により $k$ 個以下の元からなる基底をもつ。
  2. $\overline{M}:=M/T(M)$ は $g_j$ の像で生成され、prop-tor-basic の 3 により捩れをもたないので、1 により基底 $\bar e_1,\dots,\bar e_r$ をもつ。$\bar e_i$ の代表元 $e_i\in M$ を選び、$F:=Re_1+\cdots+Re_r$ とおく。$\sum_ia_ie_i\in T(M)$ なら、$\overline{M}$ で $\sum_ia_i\bar e_i=0$ となるので $a_i=0$ である。これにより $e_1,\dots,e_r$ は一次独立で $F$ の基底になり、$F\cap T(M)=0$ である。$m\in M$ の像を $\bar m=\sum_ia_i\bar e_i$ と書くと $m-\sum_ia_ie_i\in T(M)$ なので、$M=T(M)+F$ である。よって $M=T(M)\oplus F$ であり、$T(M)\cong M/F$ は $M$ の剰余加群として有限生成である。

2 の $F$ の基底の個数 $r$ は $M$ の階数である(階数(加群))。捩れ部分 $T(M)$ の構造は、有限生成加群 の記事の定理「有限生成PID加群の構造と一意性」で $R/(d_1)\oplus\cdots\oplus R/(d_k)$ の形に定まる。$R=\mathbb{Z}$ の場合は 有限生成アーベル群 の記事の定理「有限生成アーベル群の基本定理」であり、有限生成アーベル群では捩れ部分は有限群になる(アーベル群 の記事の命題「有限生成な捩れ群は有限」)。
捩れ加群は、素元ごとの成分に分かれる。こちらは有限生成を仮定しない。

準素成分への分解

$R$ を単項イデアル整域、$M$ を捩れ $R$ 加群とする。$R$ の素元を同伴なものを同一視して代表系 $P$ をとると
$$ M=\bigoplus_{p\in P}M[p^\infty] $$
である。

Bézout の等式による分解

単項イデアル整域では、$a,b\in R$ が共通の素因子をもたなければ $xa+yb=1$ となる $x,y\in R$ がある。実際、イデアル $(a,b)$ は単項イデアル $(d)$ であり、$d$ が単元でなければその素因子は $a$ と $b$ の両方を割るからである(単項イデアル整域は一意分解整域である:単項イデアル整域 の記事の定理「単項イデアル整域は一意分解整域」)。
和であること:$m\in M$ とし、$a\ne0$ で $am=0$ とする。$a$ が単元なら $m=0$ である。そうでなければ $a=up_1^{e_1}\cdots p_k^{e_k}$($u$ は単元、$p_i\in P$ は相異なる)と分解し、$q_i:=a/p_i^{e_i}$ とおく。$q_1,\dots,q_k$ のすべてを割る素元はない($p_i$ は $q_i$ を割らず、それ以外の素元は $a$ を割らない)。上と同じ理由で $(q_1,\dots,q_k)=R$ であり、$1=\sum_ic_iq_i$ と書ける。$m=\sum_ic_iq_im$ であり、$p_i^{e_i}c_iq_im=c_iam=0$ なので $c_iq_im\in M[p_i^\infty]$ である。
直和であること:相異なる $p_1,\dots,p_k\in P$ と $m_i\in M[p_i^\infty]$ で $m_1+\cdots+m_k=0$ とし、$p_i^{f_i}m_i=0$ とする。$q:=\prod_{i\ge2}p_i^{f_i}$ とおくと $qm_1=-q(m_2+\cdots+m_k)=0$ である。$p_1^{f_1}$ と $q$ は共通の素因子をもたないので $xp_1^{f_1}+yq=1$ となる $x,y$ があり、$m_1=xp_1^{f_1}m_1+yqm_1=0$ である。同様にすべての $m_i=0$ である。

たとえば $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は捩れ加群であり、その $p$ 準素成分は分母が $p$ の冪である分数の類からなる Prüfer群 $\mathbb{Z}(p^\infty)$ である。この命題は $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}\cong\bigoplus_p\mathbb{Z}(p^\infty)$ を与える(Prüfer群 の記事の例「有理数の剰余群の分解」)。

例と反例

捩れ部分加群の例
  1. $\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の捩れ部分加群は $0\oplus\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である(prop-tor-basic の 2)。
  2. $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は捩れ加群である($a/b$ の類は $b$ 倍で消える)。$\mathbb{Q}$ は捩れをもたないが、有限生成でも自由でもない(自由アーベル群 の記事の例「反例:捩れ元をもつ群と有理数の加法群」)。
  3. 体 $k$ 上の多項式環 $k[t]$ について、$k=k[t]/(t)$ は $t$ 倍で消えるので捩れ $k[t]$ 加群である。平坦加群は捩れをもたない(平坦加群 の記事の命題「平坦加群は捩れをもたない」)ので、$k$ は $k[t]$ 上平坦でない。
  4. $R=k[x,y]$ のイデアル $I=(x,y)$ は $R$ の部分加群なので捩れをもたないが、自由でない。$I$ の任意の 2 元 $f,g$ は $g\cdot f-f\cdot g=0$ を満たすので一次従属であり、基底があるとすれば 1 個の元 $f$ からなり $I=(f)$ となる。$f$ は $x$ と $y$ をともに割るので定数であり、$I=R$ となって矛盾する。$I$ は平坦でもない(平坦加群 の記事の例「反例:捩れをもたないが平坦でないイデアル」)。
  5. $p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$ は整域で $\mathbb{Z}$ を含むので、$\mathbb{Z}$ 加群として捩れをもたない。prop-tor-basic の 5 により $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z},\mathbb{Z}_p)=0$ である。
反例:捩れ部分群が直和因子にならない

すべての素数 $p$ にわたる直積 $M:=\prod_p\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ を考える。
$T(M)$ は、有限個の成分を除いて $0$ である元の全体 $\bigoplus_p\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ である。実際、そのような元は $0$ でない成分の素数の積で消える。逆に $nx=0$($n\ne0$)なら、$n$ を割らない素数 $p$ では $n$ が $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ で可逆なので $x_p=0$ であり、$n$ を割る素数は有限個である。
$T(M)$ は $M$ の直和因子でない。$M=T(M)\oplus C$ となる部分群 $C$ があったとする。まず $M/T(M)$ は可除である。$x\in M$ と $n\ge1$ について、$n$ を割らない $p$ では $y_p:=n^{-1}x_p$、$n$ を割る $p$ では $y_p:=0$ とおくと、$ny-x$ は有限個の成分を除いて $0$ なので $T(M)$ に属する。$C\cong M/T(M)$ なので $C$ も可除であり、$(1,1,1,\dots)$ の像は無限位数なので $C\ne0$ である。$0$ でない $c\in C$ をとり、$c_p\ne0$ となる素数 $p$ を 1 つ選ぶ。可除性から $c=pz$($z\in C\subset M$)と書けるが、$p\cdot\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}=0$ なので $c_p=pz_p=0$ となり矛盾する。
thm-tor-pid の 2 は有限生成の仮定なしには成り立たない。

使われる場所

  • 平坦性:平坦加群は捩れをもたず、単項イデアル整域上では逆も成り立つ(平坦加群 の記事の系「単項イデアル整域上の平坦加群」)。Dedekind 整域上でも同じ判定が使える(平坦加群 の記事の系「単項イデアル整域上の平坦加群」の直後の段落)。
  • コホモロジーの係数:有限生成アーベル群 $A$ について、thm-tor-pid により $A\cong T(A)\oplus\mathbb{Z}^r$ であり、$\mathbb{Q}\otimes_{\mathbb{Z}}A\cong\mathbb{Q}^r$、$\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Z}}A\cong\mathbb{R}^r$ となって捩れ部分は消える。整係数コホモロジーの捩れ部分が実係数のコホモロジー(de Rham コホモロジー)からは読み取れないのはこのためである(de Rhamの定理)。$T(A)$ を割った $A/T(A)$ は $\mathbb{R}\otimes A$ の中の 格子(群) になる。
  • 楕円曲線とアーベル多様体:有理点の群の捩れ部分群(捩れ点の群)は、Mordell–Weilの定理 で有限生成と分かった群の有限な部分である。
  • 圏論:捩れをもたないアーベル群への準同型は捩れ元をすべて $0$ に送る(prop-tor-basic の 5)。このため、捩れをもたないアーベル群のなす圏での射 $f\colon A\to B$ の余核は $(B/f(A))/T(B/f(A))$ になり、この圏はアーベル圏にならない(アーベル圏 の記事の注意「反例:捩れなしアーベル群の圏」)。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
消すスカラーが非零因子$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の $[2]$ と $[3]$(ex-tor-zero-divisor)捩れ元の全体が部分加群になる
有限生成$\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Q}$捩れをもたない加群は自由(thm-tor-pid の 1)
単項イデアル整域$k[x,y]$ のイデアル $(x,y)$捩れをもたない有限生成加群は自由(thm-tor-pid の 1)
有限生成$\prod_p\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$(ex-tor-not-summand)捩れ部分加群は直和因子(thm-tor-pid の 2)
完全列が分裂する$0\to\mathbb{Z}\xrightarrow{n}\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to0$$T(M)\to T(M'')$ が全射

最後の行について、$M=M'\oplus M''$ と分裂していれば、prop-tor-basic の 2 から $T(M)=T(M')\oplus T(M'')$ なので $T(M)\to T(M'')$ は全射である。

補足

文献

整域上の捩れ元・捩れ部分加群の定義は DF04 §12.1(pp. 459–460)、AM69 Chapter 3, Exercise 12(p. 45)にある。prop-tor-basic の 3・4 と商体への写像の核は AM69 Chapter 3, Exercise 12 (i)–(iv)、prop-tor-localization は同 Exercise 13(p. 45)であり、上ではそれらを可換環一般(1–5)と整域(局所化)の場合に証明した。lem-tor-pid-submodule は DF04 §12.1 Theorem 4 (1)(p. 460)の一部、prop-tor-primary は同 Exercise 10(p. 469)である。

関連項目

参考文献

[2]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §12.1(捩れ元・捩れ部分加群の定義と Theorem 4、pp. 459–460)、Exercise 10(p. 469)

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